やさしいせかいになりますように【完結】   作:草陰

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3話 急転直下というか

 

 

 

 

 最高評議会はひどい有様でした。

 それまでのブリタニアとの関係を考えれば、多少なりとも厳しい追及が上がる可能性も想定していましたが……。まさか一国の皇帝を事実上の軟禁状態にした上、あんな不躾な態度で臨むとは思いませんでした。

 

 あくまでエリアを開放したのはブリタニア側の善意であり。決して立場が逆転したのでなく対等な関係になっただけですのに、何を勘違いしたのでしょうか?

 ああなるのは当然の結果ですし、仮にあの場で行動に出ずとも、ブリタニアの世論は間違いなく沸騰したことでしょう。

 

 とは言え、各国の代表を軟禁し、日本を再占領までしたのはいささかやりすぎと言いますか。これまでの行動や、ブリタニアの立ち位置から考えると不自然と言いますか……。

 

 やはり、お兄様は……。

 ……。

 

 ともかく、各国の代表が軟禁された以上、超合集国に加盟している国々は動かざるをえない状況になりました。けれど内心では各国共に黒の騎士団へ対して「余計なことをしやがって」と言う気持ちも強そうです。

 本来ならしなくてもいい戦争を引き起こしたのですから。超合集国側は勝っても負けても禍根を残す事になりそうですが……。まぁ、そんなことはどうでもいいですね。

 

 これから起こることに比べれば、超合集国の行末なんて使ったあとのお砂糖のスティック容器くらいどうでもいいです。

 ゴミ箱にポイです、ポイ。

 

 ――これから待っている、お兄様との電話会談を前に興奮が止まらないのです。

 思わずニヤケそうになる口元を必死に堪えます。

 

「それじゃあナナリー、繋げるよ」

「……はい、シュナイゼル兄様」

 

 いよいよその瞬間、私は気を引き締めます。シュナイゼルが何かを押す音と同時に、ブンと目の前から音が鳴りました。モニターの点く音でしょう。

 

「他人を従えるのは気持ちいいかい? ルルーシュ」

「シュナイゼル……」

 

 お兄様……! 懐かしい声が、愛しい声が、耳から脳へと駆け抜けます。

 すぐにでも声をかけたい衝動を必死に堪えつつ、場の音声を、雰囲気を必死に拾います。

 

 開口一番、挑発的なシュナイゼルの物言い。

 返すお兄様の声からは、多少の苛立が感じられつつも冷静なものでした。

 淡々と、けれど緊張感に満ちた短い応酬。ようやくその時がやってきました。

 

「……違うな。間違っているよ、ルルーシュ。ブリタニアの皇帝に相応しいのは……彼女だ」

「な、ナナリー……!?」

 

 画面の向こうから絶句する声が聞こえてきました。

 ――嗚呼! 嗚呼! お兄様が! 私に! ――私に声をかけてくれた!

 圧倒的な歓喜に打ち震えそうになる体を、上擦りそうになる声を自制しつつ、私は何とか口を開きます。

 

「お兄様、スザクさん。私は……お二人の敵です」

「生きていたのか……」

「はい。シュナイゼル兄様のおかげで」

「シュナイゼル……」

 

 声色からお兄さまの動揺した気配がとてもよく伝わってきます。

 死んだと思った最愛の妹が生きていたのです。動揺だってするでしょう。ましてや不倶戴天の敵の手中にいるのですから。嗚呼。お兄様にこんな顔をさせてしまうなんて。私だって本当は、今すぐにでもお兄様の下に戻りたいのに。

 だけれど、私は心を鬼にします。

 

「ナナリー、君はシュナイゼルが何をやったのか分かっているのか?」

 

 と思ったら、私達兄妹水入らずの会話に、横からスザクさんがしゃしゃり出てきやがりました。まさか「テメーはお呼びじゃないんだよ。とっとと失せろ」などと言うわけにもいきません。テンションが上がりすぎて少しおかしくなってる自分を抑えこんで、努めて冷静に応じます。

 

「何のことですか?」

「……! フレイヤ弾頭のことだ……。あれでペンドラゴンは壊滅した。たくさんの人が死んだんだぞ」

 

 怒りを押し殺したような声で、スザクさんは言います。

 責めるような、いえ、正しく私を責める言葉を前に、私は困惑し、言い淀みます。

 

 ――フレイヤって何でしたっけ?

 

 ……あぁ、そう言えば通信を繋げる直前、何か投下してましたね。

 お兄様と会話が出来ると言うチャンスを前に、すっかり忘れてました。

 

 確か東京でも投下され、夥しい数の人々が被害にあわれたとか。

 正直なところ、顔も知らない赤の他人が何万何億死んだところで痛む心を私は持ち合わせてはいません。ですが、それを言えば優しいお兄様はきっと悲しんでしまうことでしょう。

 

 だから、私はこう答えます。

 ニッコリと笑顔を浮かべて。

 

「幼いころ、お兄様はよく私にお花のかんむりをつくってくれましたよね」

「なにを……」

「花を摘んだとき、罪悪感を覚えましたか?」

「「なっ……!?」」

 

 モニターの向こうで、お兄様とスザクさんが絶句する気配が伝わってきます。

 

「これは必要な犠牲なのですよ。世界が平和になるための、通過儀礼なのです」

「……自分たち以外の人々を恐怖で縛り付けることが、平和だとでも言うのか?」

「そうです。自らの頭上に浮かぶダモクレスを恐れ、崇め、人々の心が一つになったその時こそ、この世界に真の平和が訪れるのです」

「……ッ! 神にでもなったつもりか、ナナリー!」

 

 スザクさんが叫びます。

 いいですねそのセリフ。まるで魔王を前にした勇者のセリフみたいでグッドです。

 私も思わずテンションが上がってきました。

 

「いいえ、これからなるのです! 私と! シュナイゼル兄様が! 世界に! 遍く人々に! 永久不変! 揺るがぬ安寧を齎すことによって!」

 

 両手を掲げ、恍惚とした様子で私は言います。気分はアジテーター。

 嗚呼、モニター越しからも伝わる、お兄様の強烈な熱視線。

 お兄様の視線を、感情を、この私が独占しているのかと思うと身の昂ぶりが止まりません。これで一体どんな表情をしているのか分からないことだけが残念です。

 

「と言うわけで、降伏していただけませんか? あっ、欲しければブリタニアは差し上げますよ。たかが一国、要りませんので」

 

 最後通牒です。

 もっとも、お兄様は絶対に降伏なんてしないと思ってますけどね。

 

「一体ナナリーに何をした、シュナイゼル……!」

 

 ……あらら、お兄様に無視されてしまいました。それどころか、さっき感じていたのはどうやら勘違いだったようです。あの強烈な視線は、シュナイゼルに注がれた物のようでした。思わず嫉妬しちゃいます。

 

「僕はな」

「私は何もされてませんよ、お兄様。ただ……童貞のお兄様では到底与えられないようなご寵愛をいただいただけです」

 

 あっ、今、何かが割れる音がしました。

 

「……シュゥウウナァアァァアアイィィィゼルゥゥゥウウゥウゥウウゥウウウウ!!!」

「ちょ、ルルーシュ!? し、C.C! 見てないで取り押さえてくれ!」

 

 モニターの向こうからドスンバタンと音が聞こえてきます。

 

「貴様ナナリーを傷物にしたのかー!」

「落ち着けルルーシュ!」

 

 お兄様は叫び声も素敵です。子宮に響く声と言うのは、こういうことを言うのですね。

 お腹に手を当てうっとりすると、何故だかますます音が激しくなってきました。

 

「と、とにかくだ! こちらは絶対に降伏なんかしない!」

 

 スザクさんの声。私は応じます。

 

「分かりました。つまりはこちらと戦う意思がある、と言うことですね」

「そうだ!」

「では戦場でお会いしましょう、お兄様、スザクさん。それまでごきげんよう」

 

 プツンと言う音と共に、モニターから音が消えました。

 音が消え、私たちの部屋に静寂が落ちます。重々しい雰囲気。ネリ姉様とカノンさん(そういえばいましたね。忘れてました)からは、困惑した雰囲気が漂ってます。

 その場にいる誰も口を開かない中、シュナイゼルが声を上げました。

 

「……どうやら、利用されていたのは私の方だったみたいだね」

 

 その言葉に、私はくすくすと笑みを浮かべながら答えます。

 

「だとすれば、どうなさいます? ここで私を始末しますか?」

 

 そんな私の言葉に、シュナイゼルは朗らかに笑いながら答えます。

 

「ナナリー、君もなかなか意地が悪いね。そんなことをしても意味が無いと分かっているんだろう?」

 

 ――そう、元より、フレイヤを投下した時点で退路は断たれていたのです。どんなに言い繕うとも、何百万と言う命を一瞬にして葬り去ったのは事実なのですから。それをシュナイゼルの手により、さも「正義の一撃」とばかりに演出されつつあっただけなのです。

 

 しかし先の私とお兄様の会話は、まず間違いなく録画されている筈です。

 となれば、あれだけ野心を露にした映像をプロパガンダに利用しない手はありません。直前の帝都への奇襲攻撃と相まり、私たちに対する世間の心象は限りなく最悪の物となるでしょう。

 

 シュナイゼルに至っては、年端もいかぬ、それも盲目の少女を篭絡した鬼畜男と言うレッテルを貼られたことでしょう。総督時代に何の実績を残せず失意のまま軟禁されたと言う事実も、衆目の下世話な想像力を掻き立てる一要素となるハズです。これで私の首を差し出したところで、何一つ事態は解決するどころか、逆にもっと心象を悪くするであろうことは想像に難しくありません。

 

 ならばシュナイゼルが取り得る術はただ一つ。

 このまま私を皇帝に擁立したまま、戦い、勝つのみです。

 

「お兄様は強いですよ。シュナイゼル兄様」

「知ってるよ、ナナリー」

 

 私の挑発的な物言いに、シュナイゼルは涼しげに切り返します。

 

「だけどね。私はそのルルーシュに、一度だって負けたことはないんだよ」

「なら、これが記念すべき初黒星となるのですね」

 

 くすくす、ははは、と室内に笑みがこだまします。

 これで私とシュナイゼルは運命共同体。

 片や破滅。片や世界。望むものは正反対ですけれど。

 

 さぁ、お兄様。早くいらしてください。

 そして願わくば、その手で私を――

 

 

 

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