おおむねサブタイトルのとおりです。
おまけです。蛇足です。本編のイメージがそこなわれるかもしれません。
ご注意を。
虐殺皇女たちのお茶会
そこはこの世ならぬ世界。生と死の境界。と住人たちは思っているが、違うかもしれない。ただ一つ確かなのは、そこには死者が生者として存在していること。
無限に広がるその世界の一角に、離宮があった。手入れの行き届いた庭園に、テーブルを挟んで椅子が二つ。その二つの椅子に、二人の少女が向い合って座っている。目の前に置かれたティーカップからは、湯気がユラユラ。
「結局、お兄様は悪人になってしまわれました。なにも知らない連中から悪し様にいわれるお兄様……。嗚呼、連中を一族郎党フレイヤの炎で焼き払ってやりたい!」
いきどおっているのは、中学生くらいの少女。
ウェーブがかかった茶色の長髪をしている。発育はあまりよくない。
「でも良かったじゃない。ナナリーの願いどおり、今もああして生きてるんだから。それに、CCさんとお幸せそう」
対して、おだやかな笑みを浮かべるのは、高校生くらいの少女。
ピンク色の長髪を左右に結って、うしろに流すという独特の髪型をしている。
先の少女に比べると非常に発育がいい。
「お兄様が生きていてくださったのはうれしいですけれど……。なにが悲しくて他の女性との睦事を見なければならないんですか!」
「まあまあ。愛する男女がいっしょに暮らせば、そうなるのは必然でしょう? もっとも、まだバージンのナナリーには目の毒かもしれないけれど」
「うるさいですよユフィ姉様! もう! つい最近までユフィ姉様だってそうだったくせに!」
「ふふ。スザクも私のために貞操を守っててくれてたそうですよ。ふふふふ……」
「チッ、またノロケだしましたよ……」
桃色空間に突入したユフィを、ナナリーは忌々しげに見つめる。
最近スザクがこっちの世界に来てからというもの、眼の前にいる腹違いの姉ときたら、隙さえあればノロケ出すからたまったもんじゃなかった。
「でも、そんなのほんとうに信じてるんですか? 殿方なんて女性がすこしそれらしい素振りをみせれば、簡単に乗せられてしまう生き物だというのに」
知ったような口を叩くナナリーだが、生娘である。
「まあ、他の殿方ならそうでしょうけど……。私のあいてはスザクですよ? 死ぬまで仮面を着けてゼロを演じきった。あの頑固一徹スザクですよ?」
「……そういわれると」
わずかに気勢をそがれるナナリー。
あのスザクならありえない話でもなかった。本当に生涯童貞を貫いていた可能性が高い。
――ちなみにスザクの死因は老衰。享年118歳の大往生であった。
ゼロレクイエム後、事実上の世界の監視者となったゼロことスザクは多忙を極めた。にも関わらず120年近く生きての大往生である。死の前日まで公務に取り組み。その身体は老体にも関わらず、背骨は真っ直ぐで、発声もしっかりしたもの。その堂々とした立ちふるまいときたら「中の人は20代」といっても通じただろう。
あまりの規格外さに「もしかしてこの人は死なないんじゃないか」とわりと本気で思いつつあっただけに、死んだときは「あ、この方も人間だったんですね」とナナリーは安心したものだった。
「まぁ、たしかにすこし手馴れた感じはしましたけれど……」
「ほらやっぱり!」
ユフィの言葉に、我が意を得たりとばかりに大声をあげるナナリー。
120年近くを俗世で生きて童貞なんてありえるはずがない――ちなみに当のナナリーは120年近く生きてきて未だバージンである。
「でも、そうだとしても最後の最後には私を選んだわけでしょう? ふふ、ほかの女性達には"練習台ご苦労様"とでもいうべきかしら」
ほがらかな笑みを浮かべるユフィだが、その瞳にはスザクを通りすぎていった女達へ対する嘲りの色があった。
「スザクさん! ここに腹黒皇女がいますよ!」
「ナナリーにだけはいわれたくないですわ」
たがいに紅茶を飲み交わす腹黒姉妹。ブレイクタイム。
/虐殺皇女たちのお茶会/
ほとんど同時にソーサーにティーカップを置くと、ユフィが口を開いた。
先ほどとはちがい、にわかに真剣な気配をただよわせる。
「ねぇ、ナナリー」
「なんですか?」
「あまりいいたいくないのだけれど――、いい加減ルルーシュ離れしたらどうかしら?」
100年越しの恋が叶ったユフィは、まさに幸福の絶頂にあった。
世界は色を変え。なんてことのない日々でさえもいまはまぶしく愛しい。
そんなとき、ふと腹違いの妹の姿が目に入った。
薄暗い部屋。地上の様子を覗けるテレビを一日中ニヤニヤしながら見つめる腹違いの妹の姿は、人として、女として色々見るに耐えない有様だった。それも実の兄の姿を一日中眺めているのである。年頃の娘が一日中テレビを見てるだけでも不健康だというのに、よもや近親願望でもあるまいか。胸によぎる不安。
――どげんかせんといかん。
どうして大分弁なのかは本人にもわからないが、とにかくユフィは決意した。腹違いの妹を、ナナリーに真っ当な道を、女としての幸せを掴ませてあげようと――。ナナリーからすれば余計なお世話もいいところだろうが、えてして、自分が幸福な人間とはおせっかいなものである。
すました様子のナナリーに気づかれないよう、"ぎゅっ"とこぶしを握るユフィ。
「いくらここじゃ時間の感覚が希薄だからといっても、いつまでもルルーシュをながめてばかりいるのも……。ねぇ、誰でもいいから気になる人とかいないの? 本当にすこし、気になるだけでもいいから」
「いませんね」
キッパリだった。とりつくしまもない。
しかしユフィもその返答は想定済みだったため。さして困った風もなく話を続ける。
「じゃあ、あの、ロロって子は?」
「ロロ……?」
ぴくりと、ナナリーの眉が動いた。
にわかに思案している表情を浮かべると、ふいに「――あぁ」と声をあげる。
その目がすっと細められたことに、ユフィは気がついた。
「私がいない間、お兄さまの弟を詐称していた不届き者ですね。まだ生きてるんですか? えーっと……ララ? とかいう私のパチモン。こちらに来て早々に因縁をつけられたものですから、どれだけ己が罪深く惨めな存在であるかを懇々と説教してさしあげたんですが。それっきり姿を見せないものですから、てっきり贖罪のために自害でもしたのかと……。まったく――、私に成り代わろうだなんておこがましいにもほどがあります。身のほどを知れといいたいですね」
ナナリーの吐く情け容赦ない毒に、さすがに今度はユフィも引き気味だった。
もう答えは見えていたが、話を続ける。
「そ、そうだったの。あのね、そのロロが『彼女は僕の新しい一面に気づかせてくれました。もし許されるのであれば、またお会いしたいと伝えていただけますか?』ってお願いされてたんだけど……」
「却下です。コーンポタージュで顔を洗ってから出直してこいと伝えてください」
「わ、わかったわ」
頬を引きつらせながら、ユフィは応じる。心の中では、隣人たるロロ――当時どこにも行き場のなかった彼を隣人として迎え入れた――に黙祷を捧げていた。
ふう、とため息をつくナナリー。
「ユフィ姉様のいいたいことはわかります。要は殿方に興味を持て、といいたいのでしょう? 断っておきますが、私だって殿方に対して興味の一つや二つくらいありますよ? これでも年頃の女の子なんですから」
「そうなの?」
わずかに身を乗り出すユフィ――120年近く生きてきて"年頃の女の子"もないだろという感じだが、そこには触れない。女はいつでも乙女。ロロはズタボロだったが、異性そのものには興味を持っていてくれたのか。
「はい。ただ――、お兄様のように知性があって包容力があって時々おっちょこちょいで容姿端麗でスタイル抜群でセクシーな殿方がいないだけで……」
「……あのね、ナナリー」
ユフィは頭痛をこらえるように額を押さえる。
ナナリーはきょとんとした様子で応じた。
「はい、なんですか?」
「理想を持つな……とまではいわないけれどね? その……、もうすこし下げたらどうかしら? それこそルルーシュと付き合うしかないじゃないの」
「兄妹じゃ無理なのよ?」と、ユフィは爆弾を投下した。はっきりと「兄妹で結ばれることはない」と言ったのだ。それはユフィにとってもっとも気になる点であった。単なるドが過ぎたブラコンなのか、本物なのか。
ナナリーのルルーシュ狂いはよく知っている――生かすために自決までした――だけに、これまでは含ませることすらしてこなかった。
果たして、鬼が出るか蛇が出るか。ユフィはゴクリと唾を飲み込む。
「それくらいわかってますよ」
が、ナナリーの反応は実にあっさりとしたものだった。思わず拍子抜けするユフィ。
「そもそも――」
ナナリーは穏やかな微笑みを浮かべた。思わずユフィがハッとするくらいに、愛情深い笑み。瞳はどこか――きっとルルーシュのいるところだろう――遠くを見つめ。慈しむように、言葉を紡ぐ。
「お兄様は――、いつだって私を守ってくださり。いつだって私を想ってくださいました。それこそ自分の人生すら犠牲にして。だからこそ、私はお兄様に対して敬愛の念を抱くことはあれども――。お兄様の迷惑になるような感情は一切ありません。ありえません」
そうして向けられる、透明な瞳。まるでなにもかもを見透かしたような、あまりにも純粋な色を前に、ユフィは胸を突かれたような思いがした。
ナナリーは口元にほほ笑みを浮かべると、ティーカップを掴み、紅茶を口に含む。ゆっくりとソーサーにティーカップ置くと、口を開く。
「ユフィ姉様だって、ネリ姉様とそうなりたいなんておもわないでしょう?」
「いや、たしかにおもわないけれど、そのたとえはどうなのかしら……?」
首をかしげるユフィ。
が、すぐに先の言葉を反芻し、はっとする。――迷惑になるような? じゃあ、仮に迷惑にならないと思えば――とまで考えて、ユフィはやめた。
それは邪推ってものだろう。さっきあんな顔をした少女が、兄好きが高じて、自らの命まで差し出した少女が"ありえません"と言うならば、そういうことだ。
ナナリーは両手の指を絡め、空を見上げながら嘆くようにいう。
「はぁ、どこかに、お兄様くらい知性があって包容力があって時々おっちょこちょいで容姿端麗でスタイル抜群でセクシーかつお兄様な殿方はいないのでしょうか……」
「(こりゃ死ぬまで相手なんて見つかりませんわ。あ、もう死んでましたっけ)」
どうあれ、ナナリーが異性と付き合うことは今しばらくなさそうだ。
髪の毛を右手の指にくるくる巻きながら、ナナリーはぼやく。
「お兄様のことを考えていたら、むしょうにお兄様にお会いしたくなってきました。……うーん。お兄様には会いたいけれど、できればここに来て欲しくない……。ジレンマです」
なにはともあれ。
ナナリー達はそれなりに楽しくやっていた。ルルーシュもCCとよろしくやっているらしい。
そんなこんなで、今日も世界は平和だった。
/終わりったら終わり!/
今度こそ本当の本当におわり。
てなわけで、おまけにして蛇足編でした。