暖かいふわふわのものに包まれて気持ちよく目覚める
近くでは話し声がしていた
森とか伝説とか何だか規模の大きな話をしているようだ
もう一度、先程開かなかった目を開こうと試みる
途端、飛び込んでくる水色の…
「お!目が覚めたか!」
スライム?!
驚きで固まる
この流線的な形、ぷよぷよもちもちの表面
どこからどう見てもスライムである
聞いたことのある声だと思ったら本当に…
「はじめまして、僕はスライムのリムル!悪いスライムじゃないよ!」
可愛らしい声で言う
間違いない。このスライムはリムル=テンペスト
私が大好きだった転スラの主人公だ
そして隣にいるのは村長のリグルド
私を温めていてくれたのはランガだ
本当に転生してしまったというのか…
にわかには信じ難いが目の前で起こっているのだから現実だろう
私は夢と現実の区別ははっきり出来る方なのだ
そんなことよりも寝ているせいか視点が低い
これでは不便である
いつまでも寝たままでは失礼だろうと思い立ち上がろうとするが足に力が入らずよろけてしまう
「お、おい。無理すんな」
スライム…リムルが支えに入る
推しに支えられるなんて幸せの極みだ…じゃなくて、リムルでも支えられるということはかなり体が小さいということだ
先程の鳴き声、視点の低さ、そして体の小ささ
私、人間じゃなくなった…!?
「お前、喋れないのか?」
リムルが気づいたように言う
まさか、という顔をしている
「リムル様、カーバンクルは喋りませんぞ
ましてや生まれたてです。恐らく理解も出来ないかと」
リグルドの言葉に耳を疑う
カーバンクル?私が?
カーバンクルってあの、伝説の?
きつねとかうさぎとかに似ている?
あの、宝石が額にある…?
この魔物がたくさんいる世界でも伝説になっているのか
手を確認すると目に入るのはふわふわの前足だけ
見慣れた掌ではなかった
本当に魔物になってしまったようだ
(って、信じられるか!!!)
「ん?何がだ?どうした?」
私の心の叫びにリムルが反応した
リグルドたちは驚きの表情を浮かべる
(え、聞こえ…てる…?)
「おー、聞こえてるぞ。何だ、思念伝達ができるのか
言葉、理解出来てるじゃねーか」
「若年のカーバンクルが思念伝達を…!?」
どうやら思念伝達が出来るらしい
世界の声では聞いていないけど何故だろう?
言葉を理解している上に思念伝達ができたことでリグルドたちは吃驚しているようだが、リムルは気楽なものだ。
驚くことなく私に質問を投げかける
「状況はわかるか?」
もちろん全く分からないので首を横に振る
するとリムルは説明をしてくれた
簡単に言うと森の奥でとんでもなく膨大な魔力を感知したから見に行ったら私がいた、弱っていたから保護した、ということらしい
「それで勝手に連れてきてしまった訳だが、なんで森で倒れていたんだ?」
何故と言われても…
私だって訳が分からない
ただ、私が転生者だってことは伝えなければならないのかもしれない
(少し複雑な事情があるんです。リムルさんと2人で話をさせて貰えませんか?)
「…!」
ランガとリグルドが警戒の色を露わにする
流石に得体の知れない魔物と主を2人きりになんて出来ないのだろう
「いいからいいから。お前らは外で待ってろ」
リムルはそんなことお構い無しに2人をテントから追い出した
そして私に向き直り
「さて、話してもらおうか」
私は洗いざらい全てを話した
トラックに轢かれたこと、世界の声をきいたこと、前世はただの中学生だったことなどなど
リムルは飽きることなく最後まで聞いてくれた
そして一言
「お前も大変だったんだな」
(いえ、そんなことは…)
リムルに比べたらこんなの全然大変じゃないと思う
少し畏まっているとリムルが口を開く
「同郷なんだ。気楽に話そう」
(同郷…?)
勿論知っているがここでは知らないふりをする
知っているなんて分かったら怪しまれること間違いなしだからだ
リムルは前世のこと、転生したこと、今までのことなどを色々話してくれた。
(リムルさんも大変だったんだね)
「まあな。ところで、リムルって呼んでくれないか?」
タメ語の次は呼び捨てである。
この人は警戒という言葉を知らないのか
少し心配になったが同郷ということで信頼してくれたのだろう
勿論いいよ、と返した
「ところで、名前は?」
肝心なことを忘れていた。
推しが目の前にいるのに名乗り忘れるなんて…
だが
(魔物は名前を持たないんじゃ…?)
「いや、そうじゃなくて。前世の名前だ。」
(あー、カレンだよ。那月叶恋)
「へえ、カレンか!いい名前だな!」
リムルが私の名を読んだ瞬間、何かが私の中で動いた
なんだか分からない
不思議な感覚である。なんだろう?
《解。名前が授けられたことによる魂の回廊の確立です》
リムルが考え込んでいるのを横目に突然声が頭に響く
え、もしかして、もしかしなくても…
(
《是。究極能力『智慧之王』の効果です》
定着するのに時間がかかると思っていたのだが案外早く返事をしてくれるようになったようだ
これで怖いものはほとんどなくなった!
…待てよ。これって、チートってやつじゃない?!
私の心の声は誰にも届くことなく頭の中で木霊したのだった