「えっと、雨宮くん、雨宮くん・・・あ、あった、ここだ」
私―――空野葵は、ちょっと前に試合の関係で知り合った、雨宮太陽君の病室を訪れていた。私の用事じゃなくて、幼馴染の天馬の用事。
私、天馬のこと、好きだから、天馬の頼みごととか断れなくって、今日も友達との約束を断って、雨宮くんの病室までやってきた。
「失礼します」
ちゃんと丁寧に挨拶をしてから、私は雨宮くんの病室へはいった。そして、目の前の光景を疑った。―――雨宮くんが、いない!?
「えっ、ちょっと・・・あ、雨宮くんっ!?」
困惑する私の横に、1人のナースさんがやってきた。そのナースさんに、私は見覚えがあった。いや、見覚えどころではない。何回も会ったことがある。
「ふ、冬花さん・・・あの・・・」
横にいたナースさん―――久遠冬花さんにあたふたしながら助けを求めた。すると、冬花さんはクスクス笑いながら、私の背中をやさしくなでた。
「大丈夫よ、葵ちゃん。ごめんね、太陽君ったら、すぐに逃げちゃうんだからぁ」
「に、逃げっ・・・!?」
「そう。太陽君、サッカー、サッカー、サッカー!・・・って、いつも逃げちゃうの。ほら、あそこの窓、あいてるでしょ?あそこから逃げちゃうのよ」
そういう冬花さんの言葉に納得したのもつかの間、今度は私の顔から血の気が引くのがわかった。「え・・・確かここって・・・3階・・・です、よね・・・?」
「えぇ、そうね」
相変わらずクスクス笑う冬花さん。私は、なぜ笑えるのかわからなかった。だって、冬花さんの話通りなら、雨宮くんは、3階の窓から飛び降りて・・・!?
「え、え、えぇぇぇぇぇぇ!?」
私は叫んでしまった。隣にいた冬花さんは、なれた手つきで、雨宮くんのベットの布団を整えていた。私が叫ぶと、やっぱり、というように笑いかけながらこちらを向いた。
冬花さんに、雨宮くんの居そうな場所を教えてもらい、私はその場所へと向かった。―――この稲妻総合病院には、ほとんどの人が知らないけど、裏に小さなブランコがある。
雨宮くんは、ほとんど病院の舗装されたアスファルトの道でサッカーをやってるらしいけど、ごくたまにそのブランコに行くらしい。
そのブランコのところへ、私はやってきた。裏にあるから、ちょっとボロかと思ってたけど、意外と奇麗だった。そして、そのブランコのところに、雨宮くんを見つけた。
私はゆっくりと歩みを進めた。ブランコが、だんだん近づいてくる。
―――あれ、私、このブランコ・・・しってる!?
「あれ、空野・・・さん?」
そう言われて、はっとして、雨宮くんのほうを向いた。そして、またはっとする。
「雨宮くん、なんで泣いてるのっ!?」
そこには、静かに涙を流す雨宮くんがいた。雨宮くんは、私が来ても変わらず、笑顔のまま泣いていた。私は、なんだか胸が締め付けられた。
「あのね、僕には双子の妹がいたんだ。その妹は、明るくてやさしくて元気で・・・。でもね、僕は体が弱い。それでも、僕のことを考えたりしてくれる、とってもい妹だった。
楽しかった毎日だったのに、僕たちのお父さんが会社をリストラされて、お母さんとともに蒸発・・・しちゃったんだよ。そして、僕たちは施設行き。3歳くらいまで施設にいたんだけど、元気な妹のほうは、すぐに引き取り手が決まったんだ。それと同じくらいに、僕はとうとう体を壊してしまった。だから病院行き。
僕と妹は、それから会っていないんだ。妹のほうは、もう僕のことなんか忘れちゃったと思うんだ。僕も、正直言うと、妹の顔が浮かばないし。でも、それはしょうがないと思うんだよね。だって、最後に会ったのは3歳だから・・・。
今日はね、僕の誕生日なんだ。だから、妹の誕生日でもあるんだ。それで、ここに来た。ここでは、妹と唯一何回か遊んだことがあるから・・・」
雨宮くんの哀しそうな顔を見ながら、私の心臓がバクバク言うのがわかった。―――今日は、私の誕生日・・・。
ううん、まさか私が・・・そんなことないよね?同じ誕生日の人なんて、この世の中にはたくさんいるだろうし・・・。それなのに、雨宮くんのことを懐かしく思ってしまうのは、なぜだろう。
「ごめんね、こんなこと空野さんに話しちゃって」
「・・・ううん」
手に持っていた紙袋の持ち手をつかむ拳を、私はちょっとだけ強く握りしめた。
「あ、そうだ。これ、天馬から・・・」
すっかり忘れていた紙袋を、私は雨宮くんに渡した。
「!!そうだった、天馬が、誕生日プレゼントくれるって言ってたんだった」
「そっか・・・天馬らしいね。雨宮くん、何もらったの?」
ちょっと慣れ慣れしかったかな・・・?不安になりながら、私は雨宮くんに近寄った。雨宮くんは、袋の中を快く見せてくれた。
「うわぁぁ・・・天馬らしっ」
「だね」
そこに入っていたのは、サッカーボール、サッカー関連の本が2冊、『サッカーボール型のおにぎりの作り方』と『イナズマジャパンが語る!サッカー上達のコツ』だった。さらに、先月出た今年のホーリーロードのDVDだった。
「本当にうれしいけど・・・冬花さんに怒られそうだね」
「確かにぃ・・・」
そういうと、私たちは笑った。―――あぁ、また懐かしいよ。
「それじゃあ、天馬にもよろしく」
「うん、じゃあね、雨宮くん」
あの後、少しだけ私と雨宮くんは話をして、そして別れた。別れてしばらくして、舗装された道に沿うようにして植えてある街路樹の下に、瑠奈と剣城君、そして2人にそっくりな男の人がいた。
「瑠奈ぁ~!剣城く~ん!」
「!葵っ!」
瑠奈は、私を見るなり、驚いた顔をした。そして、隣にいた男の人と剣城くんを一瞥すると、私のほうへと歩みよってきた。
「瑠奈、あの人は・・・?」
「・・・私と京介の・・・
・・・お兄ちゃん」
「えぇぇぇぇぇ!?」
ウソ!瑠奈と剣城君、お兄さんがいたの!?知らなかった!しかも、なんだか車いすに乗ってるような・・・?
「でも、お兄さんって・・・足が・・・?」
恐る恐る尋ねると、瑠奈は俯いた。しばらくしてから、私の手を引いてお兄さんと剣城君のところへと私を連れてきた。