マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート   作:スパークリング

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長い(小並感)。

本編のRTAサイドは書くのに時間を使うのにシナリオサイドは時間がかからない不思議。そしてその割に文章量が多いです。

本当は同時に書きたいのに、やろうとするととんでもないことになるので分けてやります。申し訳ない。


Side.常盤ななか 交渉人

「まあ、随分ご機嫌を損ねてしまったみたいですね」

「うるせー! バーカバーカ!」

 

 走り去っていく金色の影が見えなくなるまで、私は静かに見届けました。

 深月フェリシア……非常に強い力を持つ魔法少女なだけに、突き放すには惜しい人材でした。

 報酬さえ支払えばこちらの意向通りに動いてくれる『傭兵』という便利な肩書きも良かったのですが……。

 

「……ななかさん、私、なんだか彼女、心配です……」

 

 チームの最年少の夏目かこさんが元気なく話しかけてきます。

 おそらくこの四人の中で一番優しく穏やかな性格をしているかこさんにとって、先程の私のフェリシアさんへの対応は少し厳しく映ったのかもしれません。

 

「そうですね。危なっかしくて心配なのは確かです。でも、一緒に戦えば危険を呼び込むのも確か。今のフェリシアさんとは組めない。……それが結論です」

 

 ドライだと思われても、冷たいと思われても、それがチームのために必要ならば喜んで私は憎まれ役に徹しましょう。

 それがチームを率いていくリーダーの役目であり、志が同じとはいえ根底は私情で動いている私のわがままに付き合わせている皆さんへの、私なりの感謝と謝罪の気持ちなのですから。

 

 あくまで客観的な論理の元で私の出した結論に納得してくれたかこさんでしたが、その表情は晴れないままです。

 それでも申し訳ございませんが、あの傭兵に手は差し伸べられませんし、向こうもこちらの手を取ろうとはしてくれないでしょう。

 

「それにしてもこれでまた四人に戻っちゃったね。あのフェリシアって子、強いことは間違いなかったのにな……」

 

 彼女が立ち去った後、少し寂しそうに志伸あきらさんが肩を落とします。

 なんだかんだで、あきらさんはフェリシアさんと気が合いそうでした。フェリシアさんはフランクで気の良い性格をしていましたからね。

 魔女との戦い方がアレでなければ、個人的な付き合いにもなれたかもしれなかったでしょう。

 

「そうですね。どうしましょう。また振出しに戻っちゃいました……」

 

 現在私たちのチームは即戦力となる魔法少女を探していました。

 その条件は私たち四人と同じように例の魔女と因縁のありそうな魔法少女、または、誰ともチームを組んでいない強力な魔法少女です。

 フェリシアさんは後者にあたり、条件としてはかなりの優良物件でした。

 

 今のままのチームでも充分機能はしていますが、四人のうちの私も含めて三人がまだ魔法少女になって一年も経っていない新人です。

 対する私たちが追いかけている敵は何年にもわたって神浜に厄災を振りまいている魔女。間違いなく厄介な敵です。

 ですからあとひとり、非常勤でもいいのでいざというときに力になってくれるような魔法少女を私は欲しました。

 

「……それなら、『大鉾(おおほこ)』に頼ってみるカ?」

 

 もう少しで魔法少女歴二年であり、高校二年生とこのチームの最年長でもあるベテラン魔法少女、(チュン)美雨(メイユイ)さんが口を開きました。

 

「『大鉾』……ですか?」

 

 聞いたことのない名前です。あきらさんもかこさんも首を傾げています。

 私たちの反応を見た美雨さんはこの神浜に何人もいる魔法少女の中でも、とりわけ有名な六人の重鎮たちの話をしてくれました。

 

 魔法少女歴六年という神浜の魔法少女の中で最も長い戦いの時を生きた、西の魔法少女のリーダー、七海やちよ。

 最近になって行方を晦ましたものの、七海やちよに次ぐ経歴を誇る西のナンバーツー、梓みふゆ。

 魔法少女歴は二年と短いものの、その強さと人柄から東の魔法少女の長として君臨するカリスマ、和泉十七夜。

 魔法少女歴四年のベテランで、西と東の情勢を常に監視している中央の魔法少女たちの相談役、都ひなの。

 西も東も中央も、市外の魔法少女ですらお構いなしの完全中立の調整屋、八雲みたま。

 

 ……そして、最後のひとり。

 

 『傭兵』『神浜最強』『小さき大星』『七海やちよの切り札』……等の数々のふたつ名を持つ魔法少女歴五年の大ベテラン。

 一振りで使い魔を一掃し、二振りでどんな魔女も殲滅する大剣を操る完全中立の大傭兵、星奈百恵。

 

 美雨さん曰く、彼女の武器であるその規格外な大きさの刃の厚みと長さ、重量を誇る大剣は、どちらかというと鉾に近い武器らしく、その武器から敬意を払って『大鉾』と呼んでいるらしいです。

 

「今言った六人の魔法少女は皆強いネ……。だけどその中でも『大鉾』は他の五人を凌駕する別次元の戦闘能力を持っているヨ」

 

 魔法少女特有の固有魔法を持っていない代わりに、その全てを肉体に還元された超戦闘特化型の魔法少女、それが星奈百恵という傭兵らしいです。

 傭兵……ですか。

 

 先程のフェリシアさんを思い出しますが、美雨さん曰くフェリシアさんは『傭兵』を自称しているだけであり、この神浜の『傭兵』と言ったら間違いなく星奈百恵さんが先に連想されるとのこと。それくらいの有名人らしいです。

 そういえば、傭兵を雇うことにしたと美雨さんに伝えた時かなり驚いているようでしたし、そのあとにフェリシアさんを見た時は?マークが飛び交っているような表情をしていましたね。

 きっと自分が思い浮かべていた人物と違って困惑していたのでしょう。

 

「『大鉾』は誰でも平等に仕事を受け付けてくれるし、力にもなってくれるヨ」

 

 ただし彼女は誰のチームにも入らないし、ひとつのところに留まることもしない。

 攻撃力の高さから単体で魔女を倒すことに長けているため、チーム戦にもあまり向いていないらしいです。

 フェリシアさんと同類かと思いきや、顧客に対する安全性は保障しているらしく、彼女と同行した魔法少女たちに傷ひとつ付けさせることなく仕事を完了させる。相当な腕の持ち主です。

 

 しかも彼女は唯一、神浜全土を縄張りとしている魔法少女で、どこで活動したとしても黙認される存在らしいです。西と東、中央の重鎮三人が公式に認めた完全中立だからこそ出来る芸当ですね。

 この神浜の東西の問題をものともしないとはなるほど、『神浜最強』のふたつ名は伊達ではないということでしょう。

 

「問題なのは、彼女は多忙なことだけだネ」

 

 そしてそんな、最強の存在を欲している魔法少女が私たちだけであるはずがない。

 

 彼女は神浜の魔法少女……その中でも弱い部類に入る魔法少女たちに頼られ、学校が終わった後の放課後はほとんど仕事をしています。

 星奈さんのメイン窓口になっているみたまさんは優先順位をつけて仕事を回しているようですし、他の重鎮三人も緊急時以外は連絡をすることはほとんどないらしいので、普通に仕事を申し込もうとしても待ち続ける羽目になるとのこと。

 

 ……なるほど。美雨さんがこのタイミングまで彼女を頼ろうとしなかった原因がわかりました。

 つまり戦力としても実績としても信頼としても名前通り百点満点な彼女は非常に多忙な身で、仕事を断られる可能性の方が高いということでしょう。しかしながら、上手く行けば一番手っ取り早い方法でもあるので提案してくれた、そういうことでしょう。

 ……一か八かですか。

 

「それでは……その星奈百恵さんに会いに行きましょう」

 

 平日の放課後に会うのは困難ですし、時間も取りづらいでしょう。

 ならば休日……日曜日の午後、傭兵としての仕事が始まる少し前に調整屋で待機しコンタクトを取るとしましょう。多少強引になってしまいますが、そうでもしないと取り次いでもらえなさそうなので致し方なしです。

 今後の方針である仲間の勧誘の話が纏まったところで、今日はお開きになりました。

 

 

 

 

 

 そして迎えた日曜日。

 12時前から私たちは調整屋に訪れていました。

 

「いらっしゃ~い♪ あら、ななかちゃんたちじゃな~い♪」

 

 いつもの調子でみたまさんが出迎えてくれます。

 

「みたまさん、私たちに傭兵を紹介していただけませんか?」

 

 直球で聞いてみます。

 変に回りくどい聞き方をするよりも快く返してくれますし、ダメならダメで次にいつ会えるかを尋ねることができます。こちらも時間は惜しいので手短に用件だけを伝えました。

 

「モモちゃんのこと? いいわよ~」

 

 あっさりと笑顔で了承してくれました。

 今日は偶然にも依頼がない日だったそうで、先着順で私たちが先に案内してくれるとのことです。

 星奈さんは決まって12時半に調整屋に来るということで、少し待っていれば会えます。

 美雨さん曰く、かなり運が良いらしいです。お客が少なくなったのでしょうか?

 

「最近は自立したりチームを組んだりする子が多くなったし、モモちゃんの弟子の子に仕事をお願いしたいっていう子も出てきたからかしらね。そこまで忙しくなくなっちゃったのよ」

 

 ……なるほど。そういえば魔法少女の自立させる活動もしていると言っていましたね。その影響で彼女を必要としている魔法少女が減っているのですね。

 そして……おそらくフェリシアさんでない彼女のお弟子さんも育ってきているから、相対的に彼女への仕事が少なくなっていったと。

 

 これはこちらにとってはチャンスかもしれません。

 ここまで彼女の仕事が減ったのなら、チームに勧誘しても加入していただける可能性があります。ほとんどないとはいえ、可能性を見つけられたのは喜ばしいことです。

 

 それからは星奈さんが来るまで調整屋の奥の控え室で待機することにしました。

 途中でみたまさんがお昼ご飯を御馳走してくれると誘ってくれましたが、なぜか私の固有魔法に反応があったので遠慮しておきました。

 普段のみたまさんには反応しないのに……なんだったのでしょうか。

 

「待たせてすまぬのう。お主らが、私の客かの?」

 

 時間は12時半ぴったり。

 人懐っこそうな笑顔を浮かべた少女が私を見てやってきました。

 

「えっと……」

 

 一瞬困惑してしまいましたが、隣に立つ美雨さんが私の背中を(つつ)き、そして彼女に目を閉じて軽く礼をしていることで思い出しました。

 古風な口調、整っているもののあまりにも小さすぎる容姿、左肩にかかるしっぽヘアーとアホ毛……軽くですが昨日美雨さんが仰っていた通りの、星奈さんの特徴です。

 私としたことが……とんだ失態です。

 

「んんっ、失礼。『傭兵』、星奈百恵さん、で間違いありませんね?」

 

 そしてまた美雨さんに背中を(つつ)かれてしまいました。

 

「うむ、いかにも私が星奈百恵じゃの。して、お主らは誰かの? おそらく初対面じゃったと思うのじゃが……」

 

 ……私としたことが!

 ほんの数秒前の私を殴りに行きたい衝動に駆られます。まさか名乗ることを忘れるとは。しかも最初の彼女の質問に答えることなく、こちらから質問を投げかけてしまっています。

 思った以上に、動揺しているようです。だとしても、とんでもない失態を犯してしまったのは事実。

 

「……失礼。名乗るのが遅れました。――お初にお目にかかります。私は常盤ななか、と申します」

 

 深く頭を下げつつ名乗ります。

 それに続いてあきらさんが、かこさんが、最後に美雨さんが頭を下げて挨拶をします。

 

「よいよい、楽にせい」

 

 そんな朗らかな声を聴いて私たちは頭を上げて再び星奈さんを見ます。

 改めて見ると……不思議な方でした。

 

 見た目は小学生に見えてしまうほど幼くかわいらしいものですが、纏う穏やかな雰囲気が完全に大人のそれです。強者が放つ静かな力、というものを感じます。

 当然ですが私の魔法も一切反応しません。噂通りの善人と見て間違いなさそうです。

 

 そんな星奈さんはなにかを待つように笑顔で私を見ています。

 …………。

 

「神浜最強の傭兵と名高いあなたに相談、そして仕事の依頼を受け付けていただきたく、この場に参らせていただきました」

 

 彼女の最初の質問である、私たちが客であることをお答えします。

 

 正直、この時点でこの人を見た目で判断してはいけないということが理解できました。

 人を見る目があるばかりか、結構頭の回転が速いです。

 思えばここにやってきたときも、彼女が見て最初に話しかけてきたのは私でした。この中で一番年上な美雨さんではなく私がこのチームの代表であるとわかったからこそ出来ることです。

 

「ほう、相談と仕事の依頼か。話を聞く……その前にじゃ。みたまから聞いているが、12時前から待っていてくれたのであろう?」

「ええ」

「ならば場所を変えよう。私が絶賛している洋食屋さんがあるのじゃ。そこでゆっくり話を聞くとするかの」

 

 どうやらこちらを気遣ってくれているらしいです。

 重要な人物と会うということで忘れていましたが、今はお昼時です。私はともかく、他の皆さんのお腹が空いていてもおかしくありません。

 ……と言っていますが、お昼時なのを思い出して私も少しお腹が空いてきました。

 

 星奈さんのご厚意に甘えて、私たちは調整屋を出て北養区に訪れていました。

 その道中で星奈さんはこちらの仕事の話を切り出さず、代わりに自分の話や世間話ばかりを話していました。他の初対面の魔法少女たちにも自分のことを知ってもらうために積極的に話しかけているらしく、もはや癖のようなものになっているのだとか。

 

 やっぱり油断できない人です。

 いきなり本題を切り出さず、こちらの心を開かせて背景を見ようとしていることがわかります。

 あきらさんとかこさんは早々に彼女と仲良く話すようになっていますし、話の流れで私や美雨さんが答えなければいけないこともあります。こうして全員の性格や癖などを見ながら対応しようとしているのでしょう。

 

「着いたぞ、ここじゃ」

 

 そして辿り着いたのは『ウォールナッツ』と看板が立っている立派なお食事処でした。

 ここは食べに来たことはありませんが聞いたことはあります。裕福な人たちの舌を唸らせる名店、そう亡くなった私のお父様が言っていました。

 

「安心するとよい。ここのお値段はリーズナブルなものじゃからの」

 

 主にあきらさんとかこさんに向けての発言だったのでしょう。

 その言葉は、いかにも高級店みたいな外装のレストランに圧倒されていた私たちにとっては嬉しいものでした。なんだかんだで、私の懐事情は少し寂しいものです。

 

「いらっしゃいませ、って星奈さん?」

 

 出迎えてくれたのは料理人の格好をした少女でした。

 彼女、胡桃まなかさんも私たちと同じ魔法少女かつここの料理人です。その年で料理人とは、凄いものです。本人も自信があるらしく誇らしそうにしています。

 

 ふたりはここで開催された料理教室で知り合った仲なんだとか。

 そして早速、太鼓判を押したここの料理を広めるために私たちを連れてきた、と。

 

「ここのオムライスは絶品なのじゃ。苦手な人はいるかの?」

 

 誰ひとりとして挙手しませんでした。

 万人受けする料理と言っても過言ではないオムライスを苦手とする人は稀ですし、それは私たちも例外ではありませんでした。

 確認を取った星奈さんは「特製オムライス五つ」とオーダーを取ります。

 

「わっかりました! すぐにご用意しますので少々お待ちくださいね!」

 

 嬉しそうな顔で胡桃まなかさんは私たちを席に案内し、お水を人数分用意したのち厨房に行ってしまいました。

 なるほど。なにがあったのかはわかりませんが、胡桃まなかさんも星奈さんに心を開ききっているようですね。

 つまり私たちは場所こそ変わったものの、星奈さんのホームに連れてこられてしまったみたいです。さりげなくマウントを取ってくるあたり抜け目のない人です。

 

 席順は私とかこさん、向かいに美雨さんとあきらさんが座り、世間一般に言うお誕生日席に星奈さんが座りました。当然、私と美雨さん側のです。

 打算もあるのでしょうが、話を聞こうとしている気持ちが伝わります。

 

 そして待つこと五分も経たず、私たちの目の前に綺麗なオムライスが運ばれてきました。

 早速頬張りだしたのはあきらさんで、それに続くようにかこさんも食べます。

 

「すっごい! これかなり美味しいよ!?」

「卵がふわふわとろとろしています……!」

 

 そして一口で落とされていました。

 さすが神浜最強の傭兵は他人の料理すらも自らの武器として自在に操れるということでしょうか。

 では私も一口……! こ、これは!

 

「これは……素晴らしいオムライスです」

「うん。これは美味しいヨ」

 

 私に続いてオムライスを食した美雨さんも感嘆の声を出していました。

 少し声のトーンが上がっているので、お世辞抜きで言っていることがわかります。

 

 いや、しかしこの味は素晴らしいです。

 デミグラスソースが卵の香りを殺していませんし、チキンライスもくどくないので飽きることがありません。かかっている卵やソースの量を変えたりしながら味わうと楽しいです。多すぎず、少なすぎずのボリュームも絶妙ですね。ちょうど腹八分で止められる量です。

 

 なるほど。これほどのオムライスが作れるのなら胡桃まなかさんのあの自信にも納得がいきます。尊敬すべき料理の腕の持ち主です。

 

「そうであろうそうであろう! まなか先生のオムライスは最高なのじゃ!」

 

 自分のことのように喜びつつ星奈さんもオムライスを頬張っています。

 先生と呼んでいるあたり、彼女も胡桃まなかさんのことを尊敬しているのでしょう。

 

 そんな楽しくも幸せな時間はあっという間でした。

 十分も経たずに全員がオムライスを完食し、お水を飲んでほっと一息ついたところで星奈さんが口を開きました。

 

「さて、腹も膨れたし用件を聞こうかの。相談と依頼であったな?」

 

 このタイミングで仕掛けてきましたか。なかなか意地の悪いお人です。

 こちらが美味しい料理を味わって丁度良くお腹がいっぱいになった気分のいいところで聞いてくるとは……。

 

 対応は丁寧で、人柄も良く、美味しい料理を紹介してくれた。

 この時点でこちらは星奈さんに対して良い印象しか持っていません。

 

 一方の星奈さんは私たちに施し、さらにこれからも施そうとする側、つまり与える側です。

 元々の立ち位置でも上なのに、心理的印象も上に持っていかれてしまいました。

 

 おそらくこれは無意識ではなく、あの人懐っこい笑顔の裏で計算しながらやっていることなのでしょう。そして、それが本人の性分でもあるのでしょう。

 計算しているくせに演技でなく素でやっているから質が悪いです。おかげで憎むことができません。見た目に見合わないとんでもない策略家です。

 伊達に魔法少女を五年もやっていない、ということでしょう。

 

「詳しく聞かせてもらおうかの。お主らはチームで組んでいるようじゃが、どういう繋がりがあるのかの?」

 

 私たちは現在全員制服で来ています。

 私とあきらさんが同じ参京院ですが、美雨さんとかこさんは学校がバラバラです。しかも決して近い位置にある学校ではありません。加えて、私たちの年齢はまちまちです。

 ですから最初にこの質問をしてきたのでしょう。

 

 ……これは参りました。

 この質問を真っ先にしてくるということは、彼女は私たちの関係こそ本題に繋がっていると見抜いています。

 そして本気で私たちから情報を聞き出して助けになろうとしてくれているのでしょう。それと同時に今後の活動に有効活用するための材料にするためにか、徹底的に情報を絞りつくそうとしています。

 

 ここは正直に話すべきです。

 嘘を吐くのは論外。誤魔化したりぼやかしたりすれば、その時点で見切りをつけてくるでしょう。そうなると困るのはこちらです。

 主導権が向こうにある以上、こちらは今ある情報をすべて開示すべきですし、そうして得られるリターンが星奈さんの獲得ならば安いものです。

 

「私たちはとある魔女を追っています」

 

 彼女の目論見通り観念して洗いざらい、全て話すことにしました。私は実家のことを話します。

 

 『華心流』。

 知る人ぞ知る華道の宗家だった実家が、目先の派手さに目が眩んだ弟子たちによって潰されかけ、病床に伏せていた私の父は失意のままに亡くなったこと。私は父の遺言通り、一門の誇りであった真の『華心流』を取り戻すべく、その原因となった敵に復讐するために魔法少女になったこと。

 

 私が魔法少女になった理由を話し終えると、次に美雨さんが、そしてかこさんが続き、あきらさんがそんな私たち共通の敵を一緒に倒すためにチームに加入している旨を伝えます。

 

「そうか。それでは次の質問じゃ。その復讐すべき、お主らの敵とやらは見つかったのかの?」

 

 二段階目の質問でさらに踏み込んできました。その質問にもしっかり答えます。

 

 一度は見つけ、倒すことに成功しているものの、それは魔女の分離体……成長した使い魔に過ぎず、大本の魔女はまだ見つかっていないということ。

 そしてこの際ですのでその魔女についても話すことにします。

 

 人々の心を喰らい尽くして滅茶苦茶にした上で、魔女に成長間近の使い魔を残して移動する習性があるので、その魔女に居座られた土地は魔法少女が対処しない限り復興することすらできないということ。そして移動した先の場所でも同じことを繰り返し、移動し続けるため被害が尋常ではないこと。

 このひとつの場所を大群で喰らい尽くしながら移動を繰り返し、別の場所も食料のみならず家までも奪う習性が、生物災害の一種である『蝗害』に似ていることから――

 

「――私たちはこの魔女を『飛蝗』と呼称しています」

 

 これが、私たちが倒すべき復讐相手。

 『飛蝗』、この魔女を倒さない限り、私たちの戦いは終わることがありません。

 

「それは……とんでもない魔女がいたものじゃの」

 

 事情が事情なだけに星奈さんも険しい表情になっています。

 今この瞬間にも、その魔女が他の土地で被害を出している可能性がある以上、ベテランとして看過できないのでしょう。

 策士以前に善人である星奈さんに、その魔女が忌むべき相手であることを強調できたではないでしょうか。

 

「それでは最後の質問じゃの。それを私に伝えた上で、お主たちは私になにを願う?」

 

 なにを願う……ですか。

 広い意味の質問が最後に飛んできました。

 

 その魔女を見つけ出して退治してほしいのか、それともその魔女を見つけ出すだけでいいのか、それともこちらの活動を邪魔しないように根回しすればいいのか……色々な質問を短く凝縮させた薄いようで内容の濃い質問です。

 

 そしてそれは文字通り、「そちらの望むことはなんだ?」という用件を聞くものでもあります。

 ここで本音を見せなければ、仮に引き受けてくださったとしてもそれ以上の見返りは期待できないでしょうし、信用されることもなく距離を置かれてしまうでしょう。だからと言って無理な願いを言っても断られてしまいます。

 どこまでも意地悪な方です。

 

 ですが、それはこちらも想定済みです。

 だからこそ『相談と仕事の依頼』という言い回しをしたのですから。

 

 私の取るべき行動は、しっかり本音を言いつつ、次にランクを下げた本題を切り出し、それを星奈さんに受理していただくことです。そして、星奈さんも私がそう動くことを分かった上で聞いているでしょう。あの時に聞き返してきましたからね。

 この最後の質問は、大きな案件を持ち掛けてきた私たちに対する最終試験、と見て間違いないです。

 

 ……ふう。

 私は小さく息を吐いて、相談(・・)します。

 

「ずばりお伺いします。私たちのチームに加わってはいただけませんか?」

 

 ギョッとした目で美雨さんが、あきらさんがかこさんが私を見てきます。

 あまりにも直球かつ無理な相談に驚いたことでしょう。しかしこれが私の本音であり、ギリギリで言える無理な願いなのです。

 要は、それくらいこの魔女に執着している。それくらいの意気込みを見せつけなければこの小さな策略家を動かすことができないと判断しました。

 

「ふむ、申し訳ないがそれはできない相談(・・)じゃの。私は常に中立じゃ。どこのチームに加わるようなことはしないのじゃよ」

 

 その回答はわかりきっていたことです。

 大切なのは、これが依頼内容ではなくただの相談だと伝えられたかどうかです。そして、星奈さんは「できない相談」と返してきました。

 つまりこちらの意図は伝わってくれています。だから次は――。

 

「……なるほど。本当に噂通りの方なのですね。残念です。それでは、連絡先を交換していただけないでしょうか?」

 

 連絡先の交換、これが本題です。

 今日のために星奈さんについて調べた結果、実は彼女の連絡先を知る魔法少女はかなり限定されていることがわかりました。

 仕事で知り合った魔法少女たちは、基本的に星奈さんの連絡先を知りません。

 

 なぜかというと、基本的に星奈さんへの仕事の依頼は調整屋のみたまさんか、西と東、中央の重鎮たちを通す必要があり、本人に直接連絡するのはNGとされているからです。

 よって星奈さんの連絡先を知り、連絡を取り合っているのはプライベートで彼女と親密な関係を持つ者だけ、ということになります。少なくとも、仕事だけの関係で話を進めようとしている私が彼女の連絡先を手に入れることはできません。

 

 ですが、私はそれが欲しいのです。

 都合の良い時に連絡を取り、即座に対応してくれるフットワークの軽い傭兵。それが私の欲するものであり、私が星奈さんに求めるものです。

 

 ……さぁ、どうでしょうか?

 NGの境界線につま先をギリギリまで近づけているような要求です。

 跳ね返される可能性も充分にあり得ますが、これが私が望むことなのです。こちらも後には引けません。ですので攻めます。

 

 私の切り出した本題を聞き、瞑目した星奈さんはすぐににっこりと笑顔になりました。

 ……なぜでしょうか。まだ答えを聞いていないのに、安心感や達成感が胸の中に広がっていきます。

 

 星奈さんはバッグの中から……スマートフォンを取り出しました。取り出していただけました。

 と、いうことは……。

 

「あい、わかった。お主の依頼を受けよう。事態が進展し、どうしても私が必要になるのならば、連絡してくるとよい。すぐに駆けつけて力になってみせるからの」

 

 ……。…………。ふぅ……。

 

「わかりました。こちらの依頼を引き受けていただけたこと、感謝します」

 

 思わず私も微笑みつつ、スマートフォンを取り出します。そしてしっかりと連絡先を交換したのち、握手をしました。

 

 交渉成立です。やりきりました。

 臨時、限定的とはいえ、神浜最強の戦闘能力の持ち主が、私たちの味方になってくれることが確約されました。

 私の、私たちの悲願達成に向けて大きく前進することができました。

 

「あ、あの星奈さん」

 

 と、ここで隣に座っていたかこさんが星奈さんに声をかけます。

 珍しいですね、意外と社交的であることは知っていましたが、こういう緊張した場でかこさんが自分から人に声をかけるのは。

 これには星奈さんも驚いているようです。てっきり私か美雨さんくらいしかこの話し合いで声をかけてこないだろうと思っていたのでしょう。

 

 ですが驚いた顔をしたのは少しだけ。

 すぐに優しそうに目尻を下げた穏やかな表情になります。

 私と交渉している時の策略家の顔はどこにいってしまったのでしょうか。

 

「どうしたのじゃ?」

 

 そして声の質まで変わっています。

 まるで孫の言うことを聞いてあげようとしているおばあちゃんのような、安心感を抱かせる声色です。…………。

 

 このひと、裏の顔と表の顔の差が激しすぎです。

 その、私にももう少し、優しくしていただきたかったのですが……まぁ仕方のないことでしょう。

 

 私はこのチームのリーダーで、かこさんはその一員、来年は中学生とはいえまだ小学生なのですから、対応が違くてもおかしくありません。

 

「実は星奈さんと同じ傭兵の魔法少女の子がいるんですけど……。その、もし彼女と出会うことがあったら……どうか話をしてあげてくれませんか?」

 

 これは……かこさんはフェリシアさんのことを話していますね。

 そしてフェリシアさんのことは星奈さんも知らなかったらしく「ほう」と興味深そうにしていました。

 

「よいぞ。私も興味があるし、優しそうなお主が気にかけているということはきっと訳ありな子なのじゃな。ならば手を差し伸べるまでじゃ」

「よろしいのですか? 一応、あなたの商売敵になるのでは?」

 

 まぁ、アレでは敵になるならない以前の問題だと思いますが。

 

「そんなことは関係なかろう。私は常に中立。商売の敵であろうがなんだろうが関係はないのじゃよ。私はこの神浜の魔法少女たち全員の味方なのじゃ。それに……私の後継者は多いに越したことはないからの」

 

 にっこりと笑う星奈さん。

 ですが、その笑みは今まで見たどの笑顔とも違っていました。

 どこか少し寂しそうな、諦めているような、そんな笑顔のように見えました。

 

「そうですか。……彼女のこと、私からもお願いします」

 

 とりあえず見なかったことにしようと思います。

 踏み込んだとしても間違いなく誤魔化されますし、依頼を取り下げられはしないでしょうが、微妙な関係になっても困ります。よって、この話はこれで終わりにします。

 もっと彼女と、腹を割って話せるような関係になれたのであれば、先程の笑顔について聞いてみるのもいいかもしれませんね。

 そんな日がいつ訪れるのかはわかりませんが。

 

「話はこれで終わりかの?」

 

 かこさんの話を聞き届けた星奈さんはぐるりと私たちを見渡します。そして誰も声を上げることはありません。交渉はすでに成立しているのですから。

 先程のかこさんのような、個人的なお願いがないのかどうかだけを確認しているのでしょう。

 

「それでは私はこれで失礼するかの。報酬は次に呼んでくれた時で結構じゃよ」

 

 特にないことを確認した星奈さんは笑顔で去っていきました。

 多忙な身の彼女です。次の仕事を受けに行ったのか、帰って勉強をしているのか。どうかは知りませんが、どこか急いでいるような様子でした。

 

「……ふぅ、上手く行きましたね。おっとっと」

「な、ななかさん!」

「ななか大丈夫!?」

 

 力が抜けて思わず体勢を崩してしまった私を、かこさんとあきらさんが心配してくれます。

 本当にいい人たちを仲間にできました。

 

「大丈夫です。少し、疲れただけですので」

「ななか……無理しすぎヨ……」

 

 そして、ようやく一息出来た私を正面の席に座る美雨さんが労わってくれます。

 

 本当に……疲れました。

 交渉事が得意と言っても、こちらの動きをすべて読んだ上で試練を与えてくるような相手と相対したことはありませんでした。

 結局私はずっと彼女の掌の上にいたのでしょうが、それでも星奈百恵という切り札を得たのは大きいです。ハイリスクハイリターンの交渉でした。

 

 頭を使ったからでしょうか。

 なにか、甘いものが食べたいですね。それから喉も乾きました。

 

「お待たせしました。ウォールナッツケーキです」

 

 と、そんなことを考えながらゆっくりしていますと、胡桃さんがケーキを持ってやってきました。

 しっかり四つ、人数分です。

 

「失礼、注文していないのですが……」

「星奈さんから皆さんにとのことです。支払いはすませていらっしゃるので結構ですよ。あとそれからこれを常盤ななかさんにと。えっと……」

「私です」

 

 胡桃さんから小さなメモ用紙を受け取ると、そこには「楽しかったからお礼じゃ」と書かれていました。

 こっちは本気だったというのに楽しんでいるとは……本当に人が悪い。それでいて憎めない人ですね、あの人は。

 

「それからドリンク代もいただいているのですが、なにか注文なされますか?」

 

 ケーキだけでなく飲み物まで……私が考えていたことは丸わかりですか。

 悔しいですが、完敗ですね。

 

「ええ……それはなんか、悪いなぁ」

「はい……」

「でも頼まないと無駄になってしまうネ」

「……そうですね。それではご厚意に甘えるとしましょう」

 

 それでもってこちらが断れないことも織り込み済みですか。

 どこまで見越していることやら……。

 

「じゃあ、このイチゴミルクを」

「はい」

「わ、私はオレンジジュースを」

「はい」

「私は紅茶がいいネ。このケーキと合うものを頼むヨ」

「はい」

「私はメロンソーダをいただきましょうか」

「うっ……はい。かしこまりました」

「? どうしましたか?」

「い、いえ、なんでもないんですよ。アハハ……」

「?」

 

 なぜか私の注文を聞いて胡桃さんが顔が引きつっていましたね。

 「メロン……料理教室……不審者……うう、頭が……」と言いながら厨房に行ってしまいました。どうしたのでしょうか?

 

 疑問に感じつつケーキをいただきます。

 ふんわりとしていて口の中にとろけるスポンジ生地に、クルミの上品の香りが広がっていきます。付け合わせのお塩を少しかけると味が引き締まり、シナモンで味がガラリと一新されて面白いです。飽きることがありません。

 

「全く……この街は、私たちを飽きさせてはくれないみたいですね」

 

 きっといろいろな厄介な事件が起こることでしょう。

 私たちの悲願が達成されるのも、もう少し先の出来事になるでしょう。そして、それを解決したとしても、私たちは新たな戦いに身を投じることになるのでしょう。

 でも、そうだとしても、今の私たちなら乗り越える気がします。

 

 だって私たちの背後には……神浜最強の傭兵がついているのですから。

 

 

 

 

 




水属性のキャラには策士の顔をして、火と木属性のキャラにはおばあちゃんになる百恵ちゃん。特に意図してないのに、どうしてこうなったのか。

あと、正解が出ましたので片っぽだけお答えしますと、百恵ちゃんのモデルのひとりは『世話やきキツネの仙狐さん』の仙狐さんです。私はあのアニメに癒されました。
もうひとりはヒントは外見、そして身長ですね。あと本編のRTAサイドで名前が出ています。フルネームじゃないですけどね。

武器にもモデルがあります。ひとつはリリカルなのはのフェイトのインテリジェントデバイスのバルディッシュ。もうひとつは……結構マニアックかもですね。ヒントは大鉾です。

それでは!
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