マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート   作:スパークリング

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かりんちゃんの一人称が『わたし』だったことに気が付いたガバ。そして相変わらず長いです。


Side.御園かりん わたしは『傭兵』

 先生との出会いは、わたしが魔法少女になって一年が経とうとしていたときのことだったの。

 

 あの時のわたし……御園かりんは歪んでいた。

 丁度ハロウィンの夜に魔法少女として契約したわたしは……わたしのバイブルである漫画『怪盗少女マジカルきりん』のようになりたいと考えていた。

 

 『怪盗少女マジカルきりん』の主人公であるきりんちゃんは、誰にも頼らずにひとりで戦い続けるみんなを笑顔にさせる存在。そんな憧れの存在に、わたしは近づけたと思ったの。

 ……でも、いつからこうなっちゃったのだろうか。

 

 今夜もいつものように獲物からグリーフシードを能力で盗み取り、弱い魔法少女に届けようと神浜の街を飛んでいた。

 そんなとき偶然、魔女の結界を見つけた。

 とりあえず遠くから様子見をしていると……小さな人影がその結界のすぐ近くに来たのがわかった。

 

 それはあまりにも小さな女の子だったの。中学一年生のわたしよりも背の低い、女の子。

 一瞬魔女の口づけを受けたのかと思ったけれど、様子からしてそんな気配はない。それなのに魔女の結界に近づいていくということは、彼女が魔法少女だということ。

 

「あれは……ダメそうなの」

 

 すぐにわたしはこのグリーフシードをあの子に渡すべきだと判断した。

 女の子が結界に入る刹那、わたしは彼女の前に現れる。

 

「トリックオアトリート!」

「うにゃあっ!? い、いきなりなんじゃ!?」

「我こそは! ハロウィンが生んだ魔法少女! 怪盗かりん!」

 

 ……決まったのだ。

 我ながらかっこいいエントリーだと思った。

 

「今日は貴様にグリーフシードをやろう。トリックオアトリート!」

「は? い、いやいらんぞ私は!」

「そう言わずに受け取るのだ!」

「いや、じゃから必要ないというておる! 自分のグリーフシード程度自分で調達できるわ!」

 

 む、なかなか受け取ってくれないの。大抵の魔法少女は喜んですぐに受け取ってくれるのに。それになんかおばあちゃんみたいな不思議な喋り方をしているの。

 まぁ、そんなことはどうでもいいの。とりあえず貰ってもらうとするの。

 

「貴様はまだ小学生だろう。ここは先輩であるわたしの施しを受けるといいぞ」

「……お主よ」

 

 頭を撫でつつグリーフシードを手に握らせて飛んでいこうとする。

 すると……

 

「私は来年大学生の高校三年生じゃ! 小学生ではないし、おそらくじゃがお主の後輩でもないわ失敬な!」

「えっ」

 

 怒った様子の彼女の言葉に、すぐに立ち去ろうと思っていたわたしの動きが止まった。

 え? 高校生? 高校三年生?

 つまりわたしよりも年上? この子が?

 

「その様子じゃ信じておらぬの? ほれ、これが目に入らぬか!」

 

 そして学生手帳を突き付けてきた。

 『星奈百恵』『神浜市立大付属高校三年』と確かに書いてあった。本人の顔写真付きで。

 

「理解したかの? まったく、人を見た目で判断してはならんぞ。――ついてくるがよい」

 

 そう言う彼女はまだ理解が追い付いていないわたしの手を掴んで堂々と魔女の結界に入り込み、変身した。

 戦いやすそうで涼しそうな和服を着た彼女は、彼女どころかわたしよりも大きい大剣を片手で担いでいる。

 見た目からしてとんでもない重量物のはずなのに、それを軽々と持ててしまっている彼女の腕力はいったいどんなことになっているのだろう。

 

 そんな彼女はその大剣を一振り。

 すると、あっちにいたはずの使い魔たちのほとんどが消え去っていた。

 

 ……嘘。まだ近づいてもいないのに……直接切り捨てたわけでもないのに、ただの風だけで使い魔を……。

 

 呆けていると、わたしのすぐ近くの柵から武器を持った使い魔が襲い掛かってきた。完全に無防備かつ碌に魔女と戦ってこなかったわたしは反応に遅れた。

 あ、これ避けないと。と理解しつつも体が動かないわたしは使い魔に襲われそうになる。

 

「おっと」

 

 でも、使い魔の攻撃は届かなかった。

 その身を巨大な剣の一閃で両断されたのだから。背後に迫っていた他の使い魔たちも巻き込まれて倒されていく。

 

「呆然とするでないぞお主よ! 来るぞ!」

 

 使い魔が速攻で根こそぎ狩られたことに反応したらしい。結界の魔女が出てきた。

 大きいし、周りに大量の使い魔を従えている。

 

 あんまり魔女と戦ったことのないわたしでもわかるの。

 ここの魔女、結構強いの。

 

「これは随分放っておかれたんじゃのう。安心せい。今から楽にしてやるからの」

 

 でもそれからは……早かったの。

 彼女が大剣を振り回すだけで使い魔は消え、魔女がなにかをするまでもなく横に一振り、そして返しに一振り。たったの二振りで魔女を倒してしまった。

 呆気なく倒されて消えていく魔女から出てきたグリーフシードを手にした途端、結界が消滅した。

 

「あなたは……一体」

「私か? 私はの……」

 

 変身を解除した彼女は身長のわりに大きい胸を張りつつ、ドヤ顔でポーズを決める。

 

「星奈百恵という! 見た目はこんなんじゃが、18歳の高校生! そして魔法少女歴五年のしがない傭兵じゃよ!」

 

 

 

 

 

 見た目に反して異常に強い大ベテラン魔法少女、星奈先輩に連れられてわたしは近くの公園のベンチに座っていた。

 

 ここに来る道中で、星奈先輩は自分のことを話してくれた。

 星奈先輩は三年前から神浜で傭兵として活動している魔法少女で、力のない魔法少女の代行として魔女と戦い、グリーフシードを売る商売をしているらしい。

 なんというか、金銭が発生している違いはあれど、わたしが目指していた憧れの存在と同じような活動をしている人だった。

 

「その……ごめんなさいなの。失礼なこと、言っちゃったの」

「よいよい、私も慣れているからの。怒りはしたが根には持たぬよ」

 

 隣に座る先輩は柔らかく笑ってわたしの謝罪を受け入れてくれた。

 魔法少女歴五年なんていうとんでもない経歴を持つ彼女にとって、さっきのわたしの言動は物凄い侮辱行為だったと思うけれど、本当に気にしていないらしい。あっさりと流してくれた。

 

「して、お主はどうして私にグリーフシードを与えようとしたのかの?」

「え……その。ごめんなさい。先輩が弱い魔法少女に見えて、危ないから助けようと思っただけなの」

「なるほどの。まぁ、認めたくはないがこんな珍竹林(ちんちくりん)な見た目じゃ。そう見えてしまうのも仕方ないのう」

 

 嘆息しつつ「じゃがのう」と言葉を続けた。

 

「言ってはなんじゃが、お主はあまり強い魔法少女ではあるまい? というか新人じゃろう?」

 

 ……やっぱり見抜かれていたの。

 五年も魔法少女をやっていて、色んな魔法少女たちに雇われている大先輩だ。

 少し見ただけで戦える魔法少女かそうでないかを見分けられる目を持っていても不思議じゃなかった。

 

「お主は偉いのう。そのグリーフシードひとつ調達するのにも苦労したじゃろうに、それを自分よりも弱きもののために無償で提供しようとする。とっても頑張り屋さんで優しい子じゃ。じゃが、もう少し自分を大切にせい。それでは体がもたぬぞ」

 

 褒めてくれつつも、わたしを心配してくれている星奈先輩。……違うと叫びたかった。

 

 自分の傭兵としての活動を語る星奈先輩は当たり前みたいな口調だったけど、どこか誇らしそうだった。忙しいとか、問題も多いとか、小言を口にしていたけど決して嫌そうじゃなかった。

 

 星奈先輩は自分の力に絶対の自信を持っていて、そして出来ると確信している。

 だからこそ傭兵なんていう常に危険と隣り合わせで、ハイリスクローリターンで、明らかに星奈先輩の負担が大きい仕事なんてしている。そう思えるの。

 それに比べてわたしは……。

 

「星奈、先輩」

「む? なんじゃ?」

「わたしはそんな、褒められるどころか心配される価値もないの」

 

 確かにわたしは弱い魔法少女のためにグリーフシードを融通している。

 でもその方法は、本当の目的は目の前にいる小さいけれど大きな先輩と比較するのも烏滸がましい。

 

「これは……このグリーフシードは、わたしのじゃないの」

 

 わたしは全てを話した。

 

 本当はこのグリーフシードは自分のものではなく、他の魔法少女から盗み出したものであること。

 そして弱そうな魔法少女たちに配っていたのは、魔女と戦うのが怖くて、盗み出すことでしか生き延びる術がなかった自分の罪の意識から目をそらすためだということを、全部話した。

 いつもわたしの漫画を見てもらっている厳しくも優しい(アリナ・グレイ)先輩にすら言えなかったことを、わたしは話していた。

 

 あまりにも眩しかったから。

 わたしが本当に目指しているものをそのまま体現したかのようなこの先輩が眩しくて、そしてそんな尊敬できる人に嘘を吐きたくないと思ったから、わたしは話した。

 

 星奈先輩は「そうか」と呟くと、右腕を上げる。

 

 ……きっと失望された。殴られる。

 あんな大きな剣を自在に操っていたその腕で殴られたらどれだけ痛いのだろうか。でもそれが今まで、卑怯なわたしがやってきたことに対する贖罪になるのなら受け入れるの。

 でもやっぱり怖いから、思わず目を瞑る。

 

「よく、勇気を出して本当のことを話してくれたのう。お主は偉いのう」

 

 殴られる覚悟を決めていた私の耳に届いたのは、不思議なことに褒め言葉だった。

 そして頭に感じるのは痛みではなく、心地よい快感だった。

 目を開くと、そこにいたのは……優しい青い瞳で笑顔のまま、わたしの頭を撫でる先輩だった。

 

「え、あ……怒らないの?」

「? そのグリーフシードの持ち主が怒るのならわかるが、なぜ私が怒る必要があるのじゃ?」

 

 きょとんと不思議そうな顔で星奈先輩はあっけらかんと答えた。

 そ、それはそうかもだけど……。でもそれでもわたしを褒めるのはおかしい。

 どう考えてもわたしが全部悪いのに、どうして褒めてくれるの?

 

「むしろ私が謝るべきであろう。すまなかったのう。もう少し私が有名であれば、お主にこのようなことをさせずに済んだかもしれぬのにの」

 

 アホ毛を萎らせつつ本当に申し訳なさそうに星奈さんが言う。

 な、なんでこのひとに謝られているのわたしは……! これはいくらなんでもおかしすぎるの!

 

 口を開こうとすると、星奈先輩が左手で制してくる。

 喋るな、という意味であることが分かって口を閉ざした。

 

「本当はの。そのグリーフシードがお主のものでないことは薄々勘付いてはいたのじゃ。どんなに優しい子でも、余裕がなければ他人を優先することなんてできないからの。じゃから、なにか別の手段でそれを手に入れたのではないか。そう思ったのじゃよ」

 

 ……最初から、わたしのことを疑っていたということだった。

 

「じゃがの、話してみて分かった。お主は決して悪い子じゃないとの。やり方は良くないが、そうしなければお主が生きられない以上、仕方のないことであろう? 自分を否定するでない。それに曲がりなりにもお主がやろうとしてきたことは決して悪いことではあるまい?」

 

 そして、紡がれてくる言葉は全部わたしを肯定してくれる言葉だった。

 怒ったり呆れたりするどころか、星奈先輩はわたしを全て受け入れてくれている。全部理解した上で、わたしを認めてくれていた。

 

「そのグリーフシードを本来の持ち主の元へ返しに行こう。私も一緒に謝ろう。一緒に怒られよう。じゃから、もう過去を清算しようではないか。やり直そうではないか。つらかったであろう? お主は優しくていい子なんじゃからの」

 

 ……もう、我慢の限界だった。

 ずっとずっと、口を裂けても言えなかったわたしの心の内を癒してくれた星奈先輩の言葉の力は絶大で、そしてとっても優しかった。

 

「ごめんなさい……なの」

 

 情けなく、わたしの目から熱いものが流れる。

 本当は流しちゃいけないのだろうけど、こらえないといけないのだろうけど、それでもどうしても流れていってしまう。

 

「これこれ、それは私に言う言葉ではないであろう? もっと、他にやるべきことがあるのではないかの?」

 

 ……わかっている。

 でも、どうしても謝りたかった。この人じゃない……今まで自分が盗んだグリーフシードの持ち主たちに。だから最初に、謝罪の言葉が出てきたの。

 そして今、わたしがやるべきことは――

 

「ありがとう……ございます、なの」

「うむ」

 

 感謝と――

 

「わたし……ちゃんと謝るの。迷惑かけちゃった人みんなに謝って、一からやり直すの」

 

 自分がやるべきことをしっかりと言葉にすること、なの。

 

「うむ、よく言えたのじゃ。お主は偉いのう。落ち着くまでこうしていてやるからの。存分に溜め込んでいたものを流すとよい。もっと甘えてもよいのじゃ」

 

 星奈先輩はどこまでも、わたしを受け入れてくれた。

 話し方や雰囲気からして、わたしの大好きなおばあちゃんみたいだったからだろうか。

 わたしは星奈先輩の言葉に甘えて……しばらく胸を借りた。

 

 

 

 

 

 それから少しして、わたしは盗んだグリーフシードを返した。

 

 盗まれた魔法少女は新しいグリーフシードを求めて、別の魔女と交戦している最中だった。魔女と間合いを取りつつ魔法で作った矢を弓で連射している。

 いつもの戦い方をしているけど、動きが鈍くなっていたの。でもソウルジェムが濁ってしまっているせいだった。

 

 慌てて乱入したわたしはすぐにグリーフシードで彼女のソウルジェムを綺麗にさせて回復させ、そのまま一緒に魔女を倒した。

 もしかしたら、このままわたしが来なかったら彼女は死んでしまっていたかもしれないの。

 

 そのあとにしっかり本人と向き合って謝った。

 星奈先輩も一緒に謝ろうとしてくれていたけど、これはあくまでもわたしの問題だったし、星奈先輩を盾にするようなことはしたくなかった。

 だから遠くから見守ってもらうようにだけお願いした。

 

「まーうん。結果的に無事だったし、いいよ」

 

 私も弱っちいときは誰かから盗んでやろうかとか本気で考えたことあるからなぁ、と笑って許してくれた。

 もう少しで命が危なかったのに、なんで笑っていられるのだろうか。

 

「強くなったのう、お主よ」

「あ、百恵さん!」

 

 わたしが謝り、そして許してくれた様子を見てやってきた星奈先輩が相手の魔法少女とにこやかに話をしている。

 知り合いだったみたいなの。

 

「久し振りに会って話せて嬉しかったです、百恵さん」

「私は呼べばいつでも来てやれるぞ?」

「あはは、私はもう大丈夫です。それにもっと百恵さんを必要としている人が他にもいるでしょう?」

「そう言われてしまってはなにも言えぬのう。じゃが困ったことになったらいつでも呼ぶのじゃぞ?」

 

 ……なんというか。

 そんなに年が離れていないはずなのに孫とおばあちゃんみたいな感じの会話をしているの。

 

 そのあと彼女は「気にしてないし、もうやらないならいーよ」と言って去っていった。

 さっきの魔女との戦いでグリーフシードを手に入れていたのにまた次の魔女を探しに行くらしい。

 

「あやつもの、お主と同じ元は魔女に恐怖を抱いて逃げ出し、私を頼りにしていた弱い魔法少女じゃったのじゃ」

 

 信じられないの。

 さっきの戦いは消耗していたから後れを取っていたけど、最初の戦いでは余裕を持って魔女を倒していたし、あんな風に笑いながら人を許すことができるほど強い人が弱かったなんて……。

 

「じゃがの、今は本当に立派になった」

 

 立ち去った彼女が走っていた方向を、星奈先輩は誇らしそうに見つめていた。

 なんでも彼女は三年前、星奈先輩が傭兵として活動を始めた時の最初のお客様みたいだったの。

 でもしばらくして彼女の方から戦い方を教えてほしいと頼み込まれ、バックに付き、フォローを入れつつ一人前の魔法少女になるまで見守り続けたらしい。

 

 そういえば星奈先輩は傭兵として活動しつつも、本人が望むなら自立を促せるように指導もしていると言っていたの。

 

 そっちはあんまり上手く行っていないと言っていたけど……さっきの彼女を見たら嘘なんじゃないかって思う。

 だって昔は弱かったなんて思えないほど強かったし、だからこそグリーフシードを盗む獲物にしようと思ったのだから。

 ……わたしも。

 

「星奈先輩」

「む、なんじゃ?」

「わたしも……強くなれる、かな」

 

 この先輩について行けば……わたしの憧れに近づけるかもしれない。

 直感でそう思えたわたしは、星奈先輩に質問した。

 

 今のわたしは弱い。

 経験も足りていないし、魔女と戦う覚悟もそんなにできていない。

 でも、それでもこの思いは、きりんちゃんのようにいろんな人を笑顔にしたいっていう思いは本当だから。

 弱い魔法少女の力になりたいって思う気持ちは、本物だから。

 

「強くなれるとも、お主は」

 

 そして、わたしの頭を撫でながら返ってきた言葉は、わたしが一番欲しかった、強い『力』を感じさせる言葉だった。

 

 

 

 

 

 あれからわたしはグリーフシードを盗んだすべての魔法少女に謝って、星奈百恵先輩へ弟子入りをした。

 部活動もあって、不定期になっちゃうし、時間も遅くなっちゃうけどそれでも先生……百恵先輩は受け入れてくれた。

 

 最初は魔女との戦いになれるために仕事と関係なく、プライベートでも一緒に魔女と戦ってくれた。

 おかげで一月(ひとつき)でわたしは魔女と戦うことに大きな恐怖を抱くことはなくなったの。

 

 とりあえずまともに戦えるようになったわたしは、今度は余裕を持って戦えるように先生から戦い方についてのレクチャーを受ける。

 全部実戦ありきのスパルタで厳しかったけど、先生が見てくれているからか、不思議とそこまで怖くなかった。

 

 そして最後の試練である魔女退治を経て、わたしは『一人前』と先生から評価された。

 もうひとりで充分に戦えると先生に認められたし、わたし自身も自信をもって魔法少女をやっていける。

 そう思えるほど、濃密な時間だった。

 

 そして今は……わたしも先生に倣って『傭兵』として仕事ができるように、手解きを受けている。

 

 これが思った以上に大変だったの。

 ひとりで戦うだけならまだ楽だった。周りのことを気にせず敵のことだけを考えればよかったから。

 でも、傭兵として他の魔法少女たちを引き連れて戦うとなると……話が全然違ったの。

 

 依頼者の安全性を第一に確認し、それを踏まえた上で立ち回らないといけない。それがかなり難しいことだった。

 

 依頼者は最初のわたし同様、弱くて魔女に怯える魔法少女ばかり。まともに魔女どころか、使い魔とすら戦うことができない。

 そんな彼女たちを庇いながら戦う先生は、本当に格好良かったの。

 

 安定した戦い方にそれを後押しする破壊力、俊敏さを併せ持つ大ベテランは格が違った。

 依頼者から離れたとしても常に依頼者を気遣い、使い魔に襲われたとしてもすぐに対応して一切のケガを依頼者に負わせない。

 

「安心するがよい。私が守り切ってやるからの」

 

 そして歪んでいたわたしを助けてくれた、包み込むように大きくて頼りになる言葉で、先生は依頼者たちを安心させていた。

 恐怖の対象である魔女でさえも、まるで紙きれのようにいとも容易く斬り裂き仕事を完了させてしまう。

 ずっと思っていたことだけど、やっぱりあの力は反則だと思うの。

 

「なるほどの。お主はそれで魔法少女になったのか」

 

 ある日の仕事中の会話。

 魔女を探しながら一見さんと話をしていた先生は、その人の魔法少女になった理由を聞いていたの。

 

 その人はどうしても欲しいものがあって、魔法少女になったことで願いが叶って手に入れることができた。でも、魔女との戦いを代償にしてまで欲しいものではなかったと気が付いて後悔して泣いていたの。

 

 先生曰く、ある程度の覚悟を持った人や、そうしないと生きていけないほどの危機に瀕した人、そして元から強い精神力を持った人の大半は、魔法少女になったその時からひとりで戦っていけるらしいの。

 

 でも、なんでも願いが叶うというキュゥべえの言葉で衝動的に魔法少女になった人は、いきなりひとりで戦うことは難しいらしい。わたしもどちらかというと後者にあたるから気持ちはよくわかるの。

 ただそれでも、おかげでおばあちゃんは元気になったし、願い自体はそこまで後悔していなかった。

 

 でも……この人は違った。

 自分の願い事さえ、後悔してしまっていたの。

 

「魔法少女の知り合いがいたんです。でも、その子も、私の願い事を聞いたらくだらないって……」

 

 ……正直に、素直に言うと、わたしもその人が自分の願い事を語った時に同じことを思ったの。

 なにもそこまでして手に入れることはなかっただろうと、もっと別の願い事があっただろうと、良くないことだと思っていても、そう思っちゃったの。

 でも。

 

「お主の願いはくだらなくなんてないぞ?」

 

 先生は違ったの。

 即座に、その人の願いがくだらなくないと断言したの。

 

「たとえそれがどんなに些細で、小さく、他人から見てどうでもいいことや余計なことであったとしても。

 衝動的で一時凌ぎな願いであったとしても。

 お主にとって、それはとても大切で重要なことであったのであろう?

 ならばなぜ、それをお主が後悔する必要があるのじゃ?」

 

 頭の中が真っ白になるほどの衝撃だったの。

 

 その言葉はわたしに向けられたものじゃない。

 でも、そこに込められた力のある言葉はただ隣で話を聞いていただけにすぎないわたしの胸に深く突き刺さった。

 

 衝動的で一時凌ぎな願い。

 それは、わたしの願いでもあったのだから。

 

 時々考えちゃうことがあるの。

 

 確かにわたしは病気で苦しんでいるおばあちゃんの病気を治した。

 でも、もしおばあちゃんがまた別の病気を患ってしまったらどうなるのか。

 

 もうわたしは魔法少女になってしまっている。もう奇跡は起こせない。

 もっと違う願い事にすべきだったのではないか、そう思ってしまうことは確かにあった。

 

「自分の願いを、願った自分を否定するでない。後悔なんてするでない。

 人の大切な願いを馬鹿にするような、そんなくだらない連中の言葉など真に受けるでない」

 

 歩くのをやめて、立ち止まり、その人を真正面から見つめる先生はただ笑っていた。

 それは嘲るような皮肉めいた笑みでも、同情が含まれているような生暖かい笑みでもない。

 ただただ、全てを肯定して優しく包んでくれるかのような……あの時、間違ったことをしていた歪んだわたしを正してくれた時と同じ穏やかな笑顔だった。

 

「くさい言い回しになってしまうがの。魔法少女は『願い』を力に変えるのじゃ。

 自分が願ったことがそのまま自分の魔法になるのじゃ。

 じゃから、自分の願いに誇りを持つのじゃ。胸を張って言い放つのじゃ。

 それでも馬鹿にされて、自信がなくなってしまうのであれば私を頼るのじゃ。

 少なくとも私はお主を、お主の願いを馬鹿になどせんからの」

 

 改めて大きな人だとわたしは思った。

 

 やっぱりこの人が、わたしの憧れで、目指すべき人だと思った。

 あんまり体力はなかったけど、自分なりのやり方を見つけて、この人のようにわたしのこの手でたくさんの人を、そしてたくさんの魔法少女を助けたいと思うことができたの。

 

 

 

 

 

 そして、そんな出来事から四ヶ月が経ち、10月に差し掛かったある日。

 わたしは先生から呼び出しを受けた。

 

「お主を『傭兵』と正式に認めようと思う」

 

 いきなりだった。

 わたしを正式に傭兵として起用する話は、実は9月の始めあたりから検討されていたらしい。

 でもいきなり起用するわけにもいかず、先生とみたまさんがこの日のために神浜各所に根回しをしてくれていたとのこと。

 

「実は随分前から、かりんちゃんを雇いたいっていう魔法少女の子がいたのよ?」

「うむ。私の目から見ても、お主はもう一人前の魔法少女じゃ。ならばその声にも応えねばなるまいよ」

 

 そこからの展開は早かった。

 

「来たわよ、百恵」

 

 最初に来たのは西のリーダーの七海やちよさん。

 やちよさんは一瞬だけわたしを見て薄く笑って挨拶してくれた後、先生と談笑を始めた。

 同じ学校の同じクラスで長い付き合いになるって聞いていたけど、それ以上に親しそうだったの。

 

「おまえの方から連絡するなんて珍しいと思いきやだ。驚いたぞいきなりで」

 

 次に来たのは中央の相談役の都ひなのさん。

 先生を見るなりとびっきりの笑顔を浮かべていた。そして先生は悔しそうにしつつも胸を張った。すると今度はひなのさんが悔しそうに顔を歪めているの。

 

「?」

「大丈夫よ。いつものやりとりだから」

 

 正直よくわからないけど、やちよさんが言うにはふたりの仲はすこぶる良好らしい。……深く考えないことにしたの。

 ひなのさんはわたしに軽く挨拶した後、調整をするためにみたまさんのところに行っちゃったの。

 

「久しいな星奈。それで、新しい『傭兵』とは君か?」

 

 そして最後に現れたのは東のカリスマ、和泉十七夜さん。

 先生とは手短に挨拶をすませて、すぐにわたしの方に来た。

 

「は、はいなの。今日は頑張ります、なの!」

「うむ、そうか。……期待しているぞ」

 

 それだけ言って椅子に腰かける。

 ……正直、今の今まで冷静でいられたことを褒めてほしいと思ったの。

 先生から独立の話を聞かされて一時間もしないうちにこんな展開になったのに気絶しなかったわたしは多分凄いと思うの。

 

 まさか、神浜の有名な魔法少女六人のうちの五人が一斉にここに来るなんて。

 なんでもみんな、わたしの『傭兵』としての採用試験の試験官として呼ばれたらしいの。先生に。

 わたしのためだけにわざわざ時間を作ってまで来てくれたらしいの。

 

「頑張ってね、かりんちゃん。わたしも応援しているわ~」

 

 調整が終わったひなのさんとみたまさんが来て……私の『傭兵』採用試験が始まったの。

 

 正直、まだ心が落ち着いていないけど、仕事は仕事なの。

 大丈夫、ちゃんと教えられたことを自分のやり方で貫き通せば、認めてもらえるはずなの。

 

「先生……わたし頑張るの!」

「うむ! 大丈夫じゃ、お主ならば合格できると信じておるからの」

 

 試験は、わたしが仕事をして先生は後ろから見てくれるいつも通りの実戦形式だった。

 さすがに有名人全員が固まって街を闊歩するわけにもいかないから、先生がわたしの仕事している姿を録画録音して試験終了後、調整屋でそれを見て判断するらしい。

 

 最初のお仕事。

 お客さんは初めて依頼を申し込んだみたいで、緊張しているの。

 

 とりあえず挨拶して、魔女の結界が見つかるまでお話をするの。

 えっと、こういう時は相手のことを聞かないで自分のことを積極的に話すの。そうしたら自然と向こうも話してくれるようになるから、そうなったら魔法少女としての自分の話をするの。

 それで興味を持ってもらった話題を膨らませていけば……よかった、緊張がいい感じにとけているの。

 

 おっと、魔女の結界、見つけたの。

 

 全員変身して状態を確認するの。

 わたしと先生は問題なし。お客さんは……ちょっと濁っているけど、ほとんど問題ないレベル。だったら予備のグリーフシードは使わなくて大丈夫なの。

 

 わたしが先導して使い魔たちを倒して……お客さんから出来るだけ離れないようにしなきゃなの。不安になっちゃうから。

 向かってくる使い魔たちを全部倒したら……来たの! この結界の魔女が!

 

 とにかく大切なのはお客さんの無事なの。

 この魔女は遠距離攻撃が苦手だから、使い魔に気を付けつつ、ある程度離れながら攻撃していけば安全に倒すことができるの。

 

「大丈夫なの。すぐに終わるの」

 

 不安にさせないように、強い言葉を使う。……うん、出来ていると思うの。

 先生の「大丈夫」ほどじゃないけど、わたしだって強くなっているんだから! 先生に独り立ちをしてもいいって認められているんだから!

 自信を持とう。自分に、自分の魔法に!

 

「ゆくぞ……これが我が全魔力の結晶なり!」

 

 なんて言っているけど、実際は使い魔たちから盗み取った魔力を集約しているだけなの。

 さすがに魔女の魔力を盗むのは大変だけど、使い魔のものなら体に入れない限りは問題なく奪えるの。

 これで使い魔たちを封じ込めて……本命の魔女だけに集中するの!

 

「これが、ハロウィンが生んだ力なのだ!」

 

 トリックアンドトリート。

 直訳で、お菓子をもらうし、いたずらもするっていう意味なの。

 魔力を奪って命まで貰うんだから、これほどぴったりな決めセリフはないの!

 

「……もう、私が……くても大……じゃの」

 

 丁度攻撃が魔女に当たる直前で先生の声が聞こえた。

 

 でも、なんでかな。

 はっきりとは聞こえなかったけど、先生のその声は今まで聞いたことがないトーンだったの。寂しそうな、でも安心しているような……そんな声だったの。

 

 振り返って先生の顔が見たかったけど今は仕事中。しっかり魔女を倒すまでは余所見しちゃいけないの。だから、わたしは魔女から目を離さない。

 

 わたしが作ったお菓子の形をした魔力弾が魔女に一斉に襲い掛かる。

 わたしの奥義のひとつをもろに受けた魔女は……そのまま力尽きて結界ごと消えていったの。

 そして残ったのは魔女の卵――グリーフシードだった。

 

「次はお菓子をくれたら許すのだ」

 

 決まったの!

 さて、あとはこれをお客さんに渡して、代金をもらって仕事完了なの!

 

「あ、あの」

「ん?」

「ありがとうございました! あの、またお願いしていいですか?」

「もちろんなの! 『傭兵』マジカルかりんにお任せなの!」

 

 あとのもう一件も同じようにこなして、試験は終了したの。

 最初は見られてると思って緊張していたけど、不思議とお客さんを見たらスイッチが入っちゃって試験のことを忘れてたの。……あれ!?

 

 それじゃあわたし……。な、なんか変なこと……言っていないよね? 言っていないと信じたいの!

 

「さて、結論は出たかの? 私の弟子は合格か、不合格か、順番に発表してくれるかの?」

 

 調整屋に戻って控え室で頭を抱えていると、試験結果が出たらしく先生たちがやってきたの。

 席の並び順的にやちよさん、ひなのさん、十七夜さん、みたまさん、そして先生の順番らしいの。

 

 合格条件は満場一致であること。

 つまり誰かひとりでも不合格を出したらダメなの。

 

「まずは私からね。ズバリ言うわ……合格よ。ハロウィンが生んだ魔法少女さん?」

 

 合格にしてくれたことは嬉しいけどうわあああなの!

 やっぱり言っているのわたし! いつものノリでやっちゃっているのおぉっ!!

 普段は別に聞かれてもいいし、むしろ聞いてほしいけど、こんな凄い人たちが真剣に見てくれている中でこのセリフを聞かれるのはさすがに恥ずかしいの!

 

「次はアタシだな。合格だよ、さすがは百恵が認めた逸材だ。だがさすがに魔女に菓子を強請るのはどうかと思うぞ? 碌なものをくれなさそうだ」

「うむ、自分も合格を言い渡そう。にしてもハロウィンとは凄い力を秘めているのだな。どれ、今度のハロウィンは自分も気合を入れてみるか」

「十七夜なら吸血鬼なんて似合うんじゃない? あ、わたしも合格よ~マジカルかりんちゃん♪」

 

 次々と合格をくれるけどそれを喜んでいる場合じゃないの!

 あああ……やり直したいの。

 仕事はちゃんとできていたはずなのに……なんか黒歴史なの。

 

かりん(・・・)

 

 聞きなれている声だけど、聞きなれていない言葉が聞こえてきて、偉い人たちの意地悪に悶絶していたわたしは一気に現実に引き戻された。

 

 頭を抱えていたわたしが前を向くと、すぐそこに先生が立っていた。

 初めてなの。先生に『お主』じゃなくて、名前で呼ばれたのは。

 

「初めて出会った時にお主が私に聞いたこと、そして私が答えたこと。覚えておるかの?」

「……はい」

 

 忘れるわけがないの。

 あの言葉があったから、先生が出来るって言ってくれたから、諦めそうになっても励ましてくれる先生がいたからここまでこれたんだから。

 

「強くなったのう」

 

 そう言って、先生はわたしに抱きついてきたの。

 そして……あの時と同じように、優しくわたしの頭を撫でてくれて……。

 

「合格じゃ。おめでとう。かりんよ、お主は私の誇りじゃよ」

 

 一気に顔が熱くなった。呼吸が止まりそうなほど胸が締め付けられた。

 どうしよう。こんなに。こんなに嬉しいと思ったこと……生まれて初めてなの。

 

 最初はただの弱虫の卑怯者だった。

 それを隠すために自分に言い訳をし続けて……でも、そんな自分が嫌で嫌で仕方がなくて、歪み始めていた時に……この人に出会えた。

 

 小さいけれど大きくて、まっすぐで、輝いていて、優しい、わたしの憧れの先生――『大傭兵』星奈百恵さん。

 そんな……そんな人に、認めてもらえた。おめでとうって祝われた。

 そして……こんなわたしを「誇り」って言ってくれた。

 

「……うぅっ。ぐすっ……」

 

 ああ、もうダメだった。嬉しさが溢れて止まらないの。

 不思議なの。嬉しいはずなのに、涙がこみあげてくるんだから。

 

 でも、言わないと。

 泣いてばかりじゃなくて、はっきり声に出して言わないと。

 

「ぐすっ……せ、先生」

「なんじゃ?」

 

 最初に言わないといけない言葉は――。

 

「ありがとうなの……」

「……うむ」

 

 それで次に言うのは――

 

「わたし、もっともっと頑張って、いっぱい人を、魔法少女を助けるの!」

「……うむ! よく、言えたのじゃ! お主は偉いのう!」

 

 まんま、先生はあの時と同じ言葉をかけてくれた。

 

「まったく……こっちまで泣きそうになるからやめてもらえないかしら?」

「冷やかしてやるなよ。だが……確かにこれはくるものがあるな」

「星奈は良い弟子を持ったものだな」

「おめでとうかりんちゃん♪ じゃあこれからはかりんちゃんの仕事の受付も始めるからね~。忙しくなるわよ~」

 

 あの時は、弱かったあの時の私は、こんな日が来るなんて思ってもいなかっただろうな。

 

 でも、もう私はあの時の私じゃないの。

 胸を張って、堂々と自分のやりたいことをやるの。

 そして……今、自分の力を活かしきれていない魔法少女の子たちに、伝えるの。

 

 魔法少女って、こんなにキラキラした人たちがいるんだよって。

 

 

 

 

 

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