マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート   作:スパークリング

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3回目のやっちゃん。なんというか、動かしやすいんですよね彼女。


Side.七海やちよ 崩壊の足音

 思えば、彼女の雰囲気が変わったのは8月に入った時だったのかもしれない。

 

 7月に魔法少女の真実を知って、チームを解散させた私の拠り所はいつの間にか隣に座る彼女になっていた。

 

 チームを解散させ、広くなったみかづき荘。

 賑やかだった毎日はもはや過去のものになってしまった。

 

 六年間、一緒に過ごしてきたみふゆも出ていってしまい、今は私しかいない静かなみかづき荘。

 でも学校に行けば、必ず彼女がいた。

 

 神浜最強の魔法少女……星奈百恵。

 彼女だけは、いつも私の近くにいてくれた。

 

 どこの組織にも属さない、完全中立の傭兵。

 彼女がこの神浜に来た時に宣言した誓いは変わらなかった。

 どんな時でもこの言葉から逸脱した行動をとらず、この神浜に住む全ての魔法少女たちに手を差し伸べた。

 

 中には百恵を恨むような魔法少女もいた。

 自分の縄張りに新入りの魔法少女が入ることを拒む一部の中堅の魔法少女たちだ。しかもそのほとんどが西の魔法少女。

 でも百恵はそんな魔法少女たちさえも受け入れ、自ら憎まれ役を買って出ることだってあった。新入りや弱い魔法少女たちを守るためとはいえ、誰もが引き受けたくない仕事を彼女は率先して実行していった。

 

 百恵は誰かに頼ろうとはしない。全部その小さな体で受け入れてしまう。

 強靭な精神力と、腕っ節の強さ、柔軟な思考で全てを乗り切ってしまうタフな魔法少女だった。

 

「おはようなのじゃ! お主が出ている雑誌、買ってみたぞ!」

 

 チームを解散させた頃、私に百恵はいつもと変わらない笑顔で話しかけてきた。

 ファッション誌なんて読むような子じゃないのにその話題を出してくれるということは、私を元気づけるためにわざわざ買って見てくれたということでしょう。

 

 百恵はあれが良かったこれが良かった、もっといいポーズはなかったのか、このモデルが綺麗だとか、いろんな話題を持ち掛けてきた。私が載っているページだけじゃなくて、他のページもしっかり見てくれている。

 

 ありがたかった。

 ただ私を元気づけるためだけじゃなくて、真剣に雑誌を読んでくれていることも嬉しかったし、私のページに至っては様々な感想や質問をくれて、上面だけでなく本気で興味を持ってくれていることが伝わってきたから。

 多分そこまで百恵は考えてくれているのだと思う。

 どうすれば私が一番元気になるのか、しっかり計算した上で実行している。百恵はそういう子だった。

 計算しているくせに温かい、どこまでもずるくて優しい人間だった。……でも。

 

 8月に入ってから……百恵の様子が変わった。

 

「私の後継者を見つけたのじゃ」

 

 なんでもない平日、みかづき荘で百恵がそう切り出した。

 

 後継者。

 つまり百恵に次いで『傭兵』として活動を始める魔法少女を見つけたと、百恵は告げてきた。

 

 傭兵の仕事を引退するのかと問うとそうではないらしい。

 現在進行形で上がり続ける戦闘能力はとうとう魔女を一撃で倒せるところまで成長し、今の百恵は絶好調だった。百恵の仕事も完璧で大きな失敗はおろか細やかな失敗すらしていない。

 

 ならばなぜ、と聞いた時、百恵が一瞬遠い目になったのを見た。

 それは、転校してきたときに屋上で見せた、そして7月にみふゆが質問した時に見せた百恵の真顔と同じ雰囲気が出ていた。

 

「別によかろう? ひとりよりもふたりいた方が良いし、私ひとりの時よりも数多くの魔法少女を救えるのじゃからな」

 

 返ってきたのはいつもの百恵らしからぬ適当で建前なのが丸分かりな返事だった。

 あまり語りたくなさそうだからそれで流したけど……でも私は、しっかりと異常を感じ取っていた。

 

 だって百恵は……『後継者』って言ったのよ。

 『同僚』や『仲間』ではなく『後継者』と言った。

 

 つまりそれは……いつか百恵は傭兵をやめると言っているようなものだ。でも、傭兵をやめるつもりはないとも言った。

 本人は傭兵をやめる気がないのに後継者を育て始めた……それが意味するものはつまり。

 

「……バカバカしい」

 

 そこまで考えて、私は考えるのをやめた。

 考えたくないというのも理由のひとつだし、あまりにも信じられないことだったから。

 だから私は、この推測を頭の片隅に追いやることにした。

 

 百恵が死ぬかもしれない。

 

 そんなありえない、ありえてはいけない、バカバカしい推測なんて。

 でも、それから数日と経たず、私は恐ろしい報告を受けることになる。

 

「やちよししょー!」

 

 久しぶりに鶴乃がみかづき荘に来た。

 浮かんでいるのは満面の笑顔。とても嬉しそうに、そして褒めてほしそうな笑顔だった。

 彼女が犬だったのならきっと尻尾をぶんぶん振っていることでしょう。

 

「わたしね、百恵ししょーに勝ったんだよ!」

「……は?」

 

 ほんのり温かくなっていた気分が一気に凍りついた。

 一瞬、鶴乃の言っていることの意味が分からず素で返事をしてしまった。

 

 なんですって?

 鶴乃が、百恵に、勝った?

 

「本当に……?」

 

 鶴乃が決して、そんな嘘を吐くような子ではないことを私はよく理解している。

 

 素直で、嘘が吐くのが苦手な子だ。

 それに「誰かに勝った」だなんて、その『誰か』を蔑むような悪質で軽薄な嘘を吐くような子では決してない。そんなことはわかっている。

 

 でも聞き返せざるを得なかった。

 あまりにも信じられないことだったから。

 

「うん! さすがに武器は使ってくれなかったけどね、わたしの攻撃があたったんだよ百恵ししょーに! でも焦ったよ、まさかモロに受けて気絶しちゃうんだもん」

 

 もう頭がどうにかなりそうだった。

 とりあえず鶴乃を褒めて、そして決して言いふらさないことを言い聞かせて帰らせた後、私はソファに力なく座る。

 武器を使っていないとはいえ百恵が鶴乃に負ける?

 

「ありえない……」

 

 百恵の訓練は実戦形式の本格的なもの。

 つまり百恵も全力で戦っていたということになる。

 

 圧倒的な破壊力が際立っているけれど、百恵は『スピードスター』の異名もあるのだ。

 本人は納得していないけれど、その小さく身軽な体で相手の攻撃を躱し続けて相手を捕らえ、その剛腕で沈める。

 百恵からグリーフシードをふんだくろうとした魔法少女たちは、そうやって成敗され、恐怖を植え付けられて二度と百恵に逆らおうとしなくなる。

 

 私だって、百恵と手合わせしたことは何回かある。

 でも私は百恵に一回たりとも勝てた試しがないし、勝てる気さえ抱くこともなかった。

 そんな本気の私でも勝てないのに、鶴乃が百恵に勝った?

 とても笑えない冗談だった。

 

 鶴乃には悪いけれど、私には鶴乃が百恵に勝てるヴィジョンが見えない。私にすら勝てない鶴乃が百恵に勝てるわけがないもの。

 いくら才能があったとしても、魔法少女歴が一年にも満たない鶴乃が、毎日魔女との戦いに明け暮れている魔法少女歴五年の大ベテランの百恵に勝てるはずがない。それだけ年季と経験が違うのい。

 あらゆる可能性を考慮しても、鶴乃が百恵に勝てる要素なんて皆無のはずだ。

 

 でも、鶴乃は百恵に勝ったと言った。

 しかも一発、攻撃を当てただけで気絶してしまったと言った。

 

 多分鶴乃は私だからこの話をしてきたと思うし、私が言い聞かせなくても絶対に言いふらしたりしないでしょうけど、こんなことが発覚したら……神浜で戦争が起きる。

 

 攻撃を一発受けただけで気絶するだなんて……そんなことが百恵を恨む魔法少女に伝わってしまったら、間違いなく百恵は集団で襲撃を受けることになるでしょう。

 全力を出しても本気を出さない百恵は魔法少女相手に武器を使うことはない。

 自分を憎む魔法少女に対しても手を差し伸べようとする彼女は、切り捨てることなんてできない。

 最悪無抵抗のまま攻撃を受けることになる。

 

 そんな事態が起こった場合、百恵を慕う魔法少女たちが黙っているはずがない。

 そして百恵を嫌う魔法少女の大半は西の中堅魔法少女。ともなれば差別しない百恵を好意的に思っている東の魔法少女たちも黙っていない。おまけに『中立』を維持しているみたまも百恵に救われた魔法少女のひとりで、忘れがちだけど東の魔法少女だ。

 

 神浜の完全中立が傾いた上での、東西魔法少女による全面戦争が起こりかねない。

 私の考えすぎで、どんなに低い可能性だったとしても、想定できてしまう以上看過することはできない。

 だから私は鶴乃に釘を刺した。

 

 そして……頭の片隅に追いやった推測が再び頭に過る。

 百恵が死ぬ、そんな嫌な推測を。

 

 結局私は百恵に確認をしなかった。

 鶴乃の言っていることは本当だとしても、たまたま調子が悪かっただけなのかもしれない。手加減しただけなのかもしれない。

 そうよ、そうに決まっている。

 自分に言い聞かせるように、そんな都合のいい思い込みで、私はこの推測をまた頭の片隅に追いやった。

 

 10月になって……百恵から『後継者』の採用試験をしてほしいという連絡が入った。

 これは私だけでなく、みたまに中央の都ひなの、東の和泉十七夜も巻き込んだ本格的な採用試験だった。

 

 百恵の『後継者』だもの。

 神浜で『傭兵』がブランドになっている今、新しい『傭兵』を認めるにはこれくらいしないと割に合わない。

 試験官として当然のメンバーだと納得した。

 

 私はそれに応じた。

 『後継者』という言葉は確かに気になったけど、今回は百恵が手塩にかけて育てた弟子の方に興味が行った。

 自分の懐に入れる人間を徹底して選んでいる百恵が、本当に楽しそうに、大切そうに話していた弟子が一体どんな魔法少女なのか。私はそれが気になった。

 

 百恵の『後継者』は御園かりんという魔法少女だった。

 中学一年生だけど魔法少女歴が二年とそこそこの経歴を持つ中堅の魔法少女。

 強そうには見えなかったけど、百恵が認めた実力者だ。

 すぐに先入観を捨てて観察することにした。

 

 軽く挨拶して百恵と話していると、都ひなの、和泉十七夜が到着してそれぞれ御園かりんに挨拶していた。

 彼女は若干戸惑いながらも挨拶を返していた。

 

「ここだけの話、あやつに傭兵採用試験の話をしたのはほんの数時間前なのじゃよ」

 

 こっそりと私と十七夜に聞こえる声で百恵がカミングアウト。

 なるほど、百恵も意地悪なことをする。

 

 でもこれで御園かりんという魔法少女が、相当肝が据わっている魔法少女だということが分かった。

 いきなり試験のことを説明されて、東西中央のリーダー格に挨拶されて、あそこまで動揺しない神浜の魔法少女は滅多にいない。

 大人しそうな顔をしていて中身はなかなかどうして、強く芯がしっかりしていて図太い。これなら百恵が太鼓判を押すのも納得できる。

 試験前だというのに、私は百恵の弟子である御園かりんの評価を上げていた。きっと十七夜もまた、彼女のことを買い始めているだろう。

 

 調整を終えたひなのとみたまが集まり、いよいよ試験が始まった。

 仕事は二件。無難な件数だ。

 

 彼女は積極的に依頼主の魔法少女に話しかけた。

 明らかに年上なのに臆することもなく、だからと言って下に見るわけでもなく、知り合いと世間話をするような感覚で喋っていた。すると依頼主はすぐに打ち解け、仲良くお話をしていた。

 

 これは百恵にはできない芸当だ。

 見た目はアレでも百恵は立派な年長者。多少なりとも委縮してしまう。でも御園かりんは違う。

 

 話の流れを掴む手口は弟子ということもあってか、ほとんど百恵と同じものだったけど、心を掴む時間は圧倒的に彼女の方が早い。

 百恵ならそこから悩みを聞いて受け止めるところまで行かないと心を掴めないのに、御園かりんは普通に話しているだけで打ち解けてしまう。必要以上に踏み込まなくても、勝手に相手から喋ってしまう。

 これが彼女の力というか、持ち味なのでしょう。おそらく天然物の。

 

 そして肝心の魔女戦だけど、これも見事という他なかった。

 百恵と違って圧倒的な力はないけれど、多彩で、しっかり自分の固有魔法を有効活用した本来の魔法少女の戦い方をしている。これも百恵にはできない芸当だ。

 

「ゆくぞ……これが我が全魔力の結晶なり! これが、ハロウィンが生んだ力なのだ!――トリックアンドトリート!」

 

 うん、まぁ、うん。

 思わずくすりと笑ってしまった。ひなのも苦笑いしているし、みたまも生暖かい笑顔を向けている。十七夜だけが真顔で真剣に見ていたのがシュールだった。

 多分凄くテンションが上がっていたのでしょうね。年頃の女の子だもの。

 

 でもこういう決め台詞があるのは評価すべき点だ。

 魔女を怖がっている魔法少女に、かっこいい自分の姿を見せることで奮起させることができる。

 御園かりんがまだ中学一年生という点もいい。自分より年下の魔法少女が頑張っているのだ。「それなら自分も」と覚悟を決める子もきっと出てくる。

 

 いとも簡単に魔女を退治することによって、意外と魔女は大したことがないという意識を刷り込ませていく百恵のやり方とは全くの逆。

 強大な魔女に自分の魔法を駆使して立ち向かう彼女は、アニメや漫画で見る正義の魔法少女の姿を体現した、まさに正統派の魔法少女としてのやり方だった。衣装や武器も魔法少女らしくて好ましい。

 

「ズバリ言うわ……合格よ。ハロウィンが生んだ魔法少女さん?」

 

 認めましょう。

 彼女は……御園かりんは百恵の後継者として相応しい力を持った、魅力的な魔法少女であると。

 そしてそれを認めたのは他の四人も同じだった。

 特に百恵は本当に嬉しそうだった。

 

「かりんよ、お主は私の誇りじゃよ」

 

 最高の褒め言葉が百恵の口から出た。おそらくこれ以上はない、最上級の褒め言葉だ。

 そんな破壊力抜群の一撃を喰らった御園かりんがまともでいられるはずがない。いろいろな想いがあったのでしょう。泣き崩れて百恵に抱き着く彼女。

 でも。

 

「せ、先生、ありがとうなの……。わたし、もっともっと頑張って、いっぱい人を、魔法少女を助けるの!」

 

 しっかりと言い切った。自分がやるべきことを、そして百恵に対する感謝の言葉を、はっきり言葉にした。それを聞いた百恵はなお一層嬉しそうに彼女の頭を撫でていた。

 まったく……こっちまで泣きそうになるからやめてもらえないかしら。

 

「冷やかしてやるなよ」

 

 おっと声に出てしまっていたみたいね。ひなのに咎められてしまう。

 こうして……御園かりんの採用試験は、満場一致の合格という形で幕を下ろした。

 誰より一番喜んでいた百恵はその一方でとても安心したような、穏やかな表情をしていたことを私は見逃さなかった。

 

 それから数ヶ月が経ち……私と百恵が大学生になった時、百恵の『傭兵』としての仕事に変化が起こっていた。

 徐々に顧客を増やしていく御園かりんとは裏腹に、百恵の仕事がだんだんと減っていったのだ。

 

 理由は百恵が客にしていた魔法少女たちが独り立ちをしていったから、そして、御園かりんの人気が百恵を上回ったからだった。

 やっぱり年上よりも年下の子を雇う方が精神的に楽だからでしょう。

 新規の客のほとんどが御園かりんの方に流れた。

 

「良いことじゃ。かりんが人気者になることは先生としてとても誇らしい。私は幸せ者じゃよ」

 

 少し寂しそうながらも、百恵は温かく彼女を見ていた。

 

 でも……私は少し悔しかった。

 今まで頑張ってきたのは他でもない百恵だ。その百恵の仕事がなくなっていくのは複雑だった。

 

 決して勘違いしてほしくないけれど、私は御園かりんに対して憤りを覚えているわけではない。むしろ好ましく思っている。これは本心。

 彼女は自分の仕事をしっかりこなしているし、こうして人気が出たのは彼女の頑張りが実った結果なのだから。

 でもそれはそれ。それとこれとは話は別なのよ。

 

「百恵は……寂しくないの?」

 

 私は百恵にストレートに訊いた。

 今のこの状況が寂しくないのかと。自分を必要に思っている人が少なくなって悲しくないのかと。

 

「私か? まぁ、少しだけな。じゃがの、たとえ少なくなったとしても私を必要とする人間がいるのであれば、手を貸すのみじゃ。私のやることはなーんにも変わらぬよ」

「……そう」

 

 なんとなく想像した通りの答えが返ってきた。

 やっぱり百恵は何も変わっていない。その強さも意志も何も変わらない。静かながらも確かにそこにある強い『力』。それだけは変わらない。そう感じて私は安心した。

 でも、それは仮初のものだった。

 

 5月に入った。5月5日が百恵の誕生日。

 

「あなたの誕生日はわかりやすいわね」

「ぐぬぅ……」

 

 このやり取りは毎年恒例だった。

 5月5日は端午の節句……つまり『こどもの日』。

 なんというか、本当に悪いけれど百恵にはぴったりの誕生日だった。

 

 この日は調整屋で百恵の誕生日を祝った。

 面子は主役の百恵、私、みたま、ひなの、十七夜、そしてかりんの六人。この頃にはもう私とかりんは友人になっていたし、会話も普通にしていた。

 大学生ふたり、高校生三人の中、ひとりだけ中学生という年齢的に明らかに浮いていたかりんだったけど、平然と溶け込んでいるあたりやっぱり肝が据わっている。

 

 この日は楽しく過ごせた。

 みんなで騒いで、笑って、途中サプライズで出てきたみたまのケーキ(!?)を物凄い顔をしながら完食した百恵が目を回して気絶していたけど、本当に楽しかった。

 

 ……でもこの日を境に、百恵の体に異変が起きる。

 

「百恵……あなた、その……体は、大丈夫なの? 髪が……」

 

 ほんの三日前までは綺麗な濡羽色だった百恵の髪。

 しっぽヘアーに纏めているけど、解けば長く艶やかな黒い髪だった。それは本人も自慢していたことだし、私も素敵だと思っていたことだった。

 

 なのに。

 

 三日ぶりに出会った百恵の髪の毛に……大量の白髪が混じっていた。

 残っている黒い髪の毛も艶が引いてしまっていて、まるで老婆の髪のようにくすんでしまっている。

 

「ああ、この髪か? みたまのケーキを食べたからかの、なーんてな。なに、これは遺伝のようなものじゃよ。折角じゃし、染めてみようかのう」

 

 冗談を混じえて呑気に言っているけど、どう考えても遺伝で済ませられるようなことじゃない。明らかな異常だった。

 しかも異常が起きているのは髪だけじゃない。彼女の纏う『力』にも現れている。

 

 ついこの前までは静かながらも漲り、増え続ける力の波動のようなものを感じ取ることができたのに、今の百恵にはそれがない。静かすぎるのよ。

 なんというか、そう……覇気がない。

 

「そう……その、いえ、やっぱりいいわ」

 

 怖くて私はこれ以上聞けなかった。

 

 突然起こった親友の身体の異変。

 老朽化してしまったかのような髪の毛に、停滞している彼女の力。

 

 なんでもないようにカラカラといつも通りに笑っていたけど、明らかに百恵の身に何かが起こっている。

 でも百恵は教えてくれない。頼ってくれない。

 それが何よりも悲しかった。

 

 百恵の異変は姿だけでなく、行動にも現れ始めた。

 

 仕事がない日は決まって家に帰って勉強するようなくらいに真面目で、友達は多いはずなのに付き合いが浅かった百恵が、放課後はほかの魔法少女たちと触れ合うようになったのだ。

 

 水徳商店街の一角にある、知る人ぞ知る相談所。

 一般の人達も利用しているけど、大体集まるのは魔法少女。相談室を開いている子も魔法少女で、数多くの魔法少女たちの悩みを解決してきたやり手らしい。

 

 利用したことのない私がなぜ知っているのかというと、過去に鶴乃から聞いたからだ。

 最強にこだわって迷走していた鶴乃も、その相談所の先生の言葉や人脈がきっかけで立ち直ることができたらしい。

 

 百恵はそこに通うようになった。

 そこに居座って勉強しながら、色んな魔法少女たちと仲良くなって、悩みを聞いて、普通におしゃべりをしている。

 大学生になり、そして仕事が少なくなって時間ができたからこそ、今までできなかったことができて楽しいと百恵は語っていた。

 これだけなら別によかった。……でも。

 

「やちよ、百恵の様子がおかしいぞ」

 

 ひなのから連絡が入った。

 化学の実験イベントを開いている彼女のアシスタントが相談所の先生らしく、百恵のことはそこから伝わったらしい。

 話を聞いてなんとなく気になったひなのが相談所に向かうと、案の定そこには百恵がいた。

 

「あの白くなった髪にも驚いたが……妙にそわそわしているというか、どこか焦っているような、急いでいるような様子だった」

 

 普段の百恵を知らないと絶対に気が付かないくらいの微かな変化だったけど、しっかりと感じ取ることができたらしい。

 

 なんでも隅で勉強している百恵は相談所に人が来るたびにそこに顔を向け、雑談している時も意外と積極的に喋りかけているとのこと。……確かにこれはおかしい。

 

 仕事の時はともかく、普段の百恵は基本的に聞き手だ。

 自分から喋るときは何かしらの意図があるときだけ。それこそ落ち込んでいた私に接してくれた頃のような時くらいしか、自分から話しかけたりはしない子だ。

 

 そんな百恵が自分から喋りかけに行くということは何か意味があるということになる。

 でも話を聞く限りだとなんでもない雑談らしい。とても百恵から話を振りに行くようなことじゃない。

 そこから何かの情報を得ようとしているのならやり方が強引すぎる。確かに、焦っている、急いでいると感じてもおかしくない。

 

 それだけじゃない、とひなのは続けた。

 

「なんて言えばいいんだろうな……。一番しっくりくる表現だと、久々に会いに来た孫との別れを惜しむおばあちゃんのような感じだった。妙に人との繋がりを求めているというか……寂しそうというか……」

 

 ……全然「少しだけ」じゃ、ないじゃない。

 思いっきり、百恵は人とのかかわりに飢えている。

 

 多分大学という環境も彼女にとってあまりよくなかったのかもしれない。

 高校の時と比べて自由ではあるけれど、そこまで深く人と関わることはできない。

 サークルなんかに入れば話は別だろうけど、百恵には『傭兵』という仕事の都合上そんな余裕がない。

 

 ふと、私はひとつの結論に至った。

 百恵の身に起きている数々の異変の正体。それが一体何なのかを。

 

 突然増え始めた白髪、止まってしまった力の成長、そしてとにかく人とのかかわりを求める行動。

 これらの行動がすべて該当することといえば、ひとつだけしか心当たりがない。

 

「っ」

 

 いてもたってもいられなくなった私は急いである場所に向かった。

 

 そこには百恵の全てを知る者がいる。

 神浜で唯一、ほぼすべての魔法少女たちと関わりがあり、願いを知り、過去を知る者が。

 そしてその人物は、百恵が『お主』を使わず常に名前で呼ぶ唯一の存在。

 

 悔しいけれど、百恵の全てを知り、理解しているであろう神浜のもうひとつの完全中立……廃墟と化した映画館『神浜ミレナ座』。

 

「……来るならそろそろじゃないかなって、思っていたわよぉ~?」

 

 『調整屋』の店主……八雲みたまが、いつになく真剣な表情で出迎えてくれた。

 

 すぐに『臨時休業』の看板を設置したみたまに催促されて店内の奥……待合室に行くと、そこにはふたりの人間がいた。

 

 ひとりは百恵の一番弟子であるかりん。

 もうひとりは……参京院教育学園の制服を着た眼鏡をかけた人物。雰囲気からして只者じゃないことがわかる。

 

「お初にお見えにかかります、西のリーダー七海やちよさん。私は常盤ななかと申します」

 

 礼儀正しく挨拶された。

 なんでも彼女……常盤ななかさんは百恵に去年の7月から今に至るまで現在進行で仕事の依頼をしている魔法少女で、月に数回百恵と会って情報交換しているらしい。

 しかし百恵の異常に今日直接出会って気が付き、事情を知っているであろうみたまの所に訪ねてきたのだとか。

 行動が早いあたり、彼女も百恵を慕って頼りにしていることが見て取れる。

 

「さて、みんなこんなに血相変えて私の所に来たってことは……モモちゃんのことでいいのよねぇ?」

 

 沈黙が待合室を支配する。

 それはみたまのその質問の答えが『是』であることを意味していた。

 

「ふぅ……モモちゃんはあんまり自分のことを深く喋らないからねぇ。心配させないように振舞っているけど、まぁ、付き合いが長くて、モモちゃんと触れ合う回数も多いみんなには誤魔化しきれないわよねぇ」

「……前置きは良いわ。それで、あなたは知っているのでしょう? 百恵の事情を」

「それを私たちに教えてくださるのですか?」

「みたまさん、お願いしますなの。先生が……もう、本当に見ていて心配なの……!」

 

 私たち三人は食い気味にみたまに詰め寄る。

 普段ならこんなことはしない。でもこれは緊急事態なのだ。

 

 もし私の結論が本当なら……こうしている時間も惜しい。

 一刻も早く、何かしらの手を打たないといけない。

 

「少し待っていてくれるかしら」

 

 有無を言わせずそれだけ告げて、みたまは待合室から出る。

 そして数分後、みたまが待合室に戻ってきた。……ひなのと十七夜を連れて。

 

 なるほど、確かにこのふたりにも伝えるべき案件ね。

 情報交換をしている都合上、百恵の異常はしっかりと十七夜にも伝わっている。

 

 ピリピリした雰囲気を出しているふたりが席に着き、みたまが立った。

 

「本当はわたしの口から言うべきことじゃないと思うけど……いいわ。あなたたち五人は信用できる。だから特別に教えてあげるわ。でも一切の他言は厳禁。もし言いふらしたりしたら……わたしを敵に回すと思いなさい」

 

 笑みを絶やさないみたまの目が一気に鋭くなる。それは殺気に近いものだった。

 もし約束を破るようなことをすれば、私たちの本体でもあるソウルジェムを滅茶苦茶にしてまともな生活ですら送ることができない体にされてしまうでしょう。

 でもそれでいい。それくらいじゃないと割に合わない。

 現にここにいる全員、みたまのその言葉を聞いても怯むことはなかった。

 

「最初に断っておくけど、わたしが教えるのはあくまで今、モモちゃんの身体に起きている異常についてだけ。少しだけ過去に触れることがあっても、それ以上は教えないわ」

 

 結構。それだけで充分。

 言い方はアレだけど、私は別に百恵の過去なんてどうでもいいのよ。重要なのは今の百恵。

 それ以上に大切なものなんてない。

 

「……結構。文句が出るようなら叩き出すつもりだったけど、その必要はないようで助かるわ。……ふぅ。それじゃあ、お話ししましょうか――モモちゃんの身に起きている異変について」

 

 私たちの、長い夜の会談が始まった。

 

 

 

 

 




次回、星奈百恵、魔法少女ストーリー。
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