マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート   作:スパークリング

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Side.遊佐葉月 神浜最強と最古参

 アタシたちは誰かに嵌められている。

 

 神浜の児童養護施設『つつじの家』の存続を三人の願いで確固たるものにして、そこからは各地を転々と移動しながら活動してきたアタシたちは、神浜で魔女が増加しているという情報を手に入れ、拠点を神浜に戻した。

 

 魔法少女としての判断として、間違いはなかった。

 魔女が多い方が必需品であるグリーフシードの確保に困ることがなくなるし、近隣に住む魔法少女との衝突も少なくなる。

 一石二鳥、将来的に見ても決して間違っていない判断だったはずなんだ。

 

 でも……いざ、神浜に戻ってみると、そこはアタシたちにとって厳しい環境だったということに気が付かされた。

 

 神浜魔法少女昏倒事件。

 

 神浜に越してきてアタシの仲間の三栗あやめにようやくできた同学年の友達……夏目かこちゃんと深月フェリシアちゃんが仕入れてきた事件。

 

 縄張りのためなのか、なにかほかの理由があるのかはわからないけど、神浜の魔法少女が何者かによって襲われ、魔法で昏倒させられるという事件が起こった。

 そして、その犯人として疑われているのが……アタシたちだった。

 

「なんでさ! そんなわけないよ!」

 

 真っ先にあやめが反論した。

 まぁ、本当にやっていないからそうなんだけど、今アタシたちが何を言ったところで信じてくれる人は少ない。

 でも、アタシたちを公園に呼んだかこちゃんとフェリシアちゃんはその数少ない人たちだった。

 アタシたちがやってないと何の疑いもなく信じてくれて、内心凄く嬉しかったのは秘密だよ。

 

 しかもそれは、かこちゃんのバックにいる常盤ななかという油断も隙も無い魔法少女もアタシたちを信じてくれているらしく、誰かがアタシたちを陥れようとしていると考え、独自で調査をしてくれているみたいだった。

 フェリシアちゃんは昔彼女と衝突が会ったらしく全然信じていないみたいだけど、かこちゃんの様子からして彼女は味方と見て間違いなさそうだ。

 

 そしてアタシも、誰かに嵌められていると考えていた。

 この際犯人のことは語弊があるかもしれないけど、とりあえずどうでもいい。問題なのは今、アタシたちにかけられている疑いをどうやって晴らすかだ。

 やったことを証明することは簡単でも、やっていないことを証明することは難しい。

 闇雲にやっていませんよアピールをしても逆効果。

 

 そしてこの噂がさらに広がったら、非常に面倒臭いことになる。

 最悪、昏倒した魔法少女の友達とかが報復に来る可能性だってあるんだからね。

 撃退に失敗して傷つけるわけにもいかないし、だからと言って大人しく受け入れることもできない。

 さって、どうしたものか……。

 

 あとこれは別の問題だけど、この話はアタシのもうひとりの仲間……静海このはにも話さないといけない。

 そしてこのはは、つつじの家の一件からアタシとあやめ以外を一切信用していない。

 

 そんなこのはにこの話をしたら……最悪、神浜から出ようと言いかねない。それはダメ。

 だってあやめがようやく、自分の力で作った友達がふたりもいるんだよ?

 

 かこちゃんもフェリシアちゃんもとってもいい子だし、常盤ななかさんのように、こうしてアタシたちに救いの手を差し伸べてくれる存在だって神浜にはいる。

 

 そして仮に今、この状況で神浜から出ていったとしても、アタシたちにはずっとこの噂が纏わりつくことになる。

 新しい場所に移っても、そこにこの噂が流れちゃったらまた引っ越さないといけない。それじゃあ神浜を出た意味がない。

 それに今出て行ったら、本当にアタシたちが犯人のように見えてしまうではないか。

 だからこそ、アタシたちの無実をなんとしてでも証明する必要がある。

 

 さて、それを踏まえた上で、どうしたもんかな……。

 

「でもきっと大丈夫です! ななかさん、神浜最強の魔法少女に協力要請を出すって言っていましたから!」

「え?」

 

 色んな課題に頭を悩ませていたアタシは、絶対に聞き逃してはいけないフレーズがかこちゃんの口から飛び出したことに反応し、素で声をあげてしまった。

 ……神浜最強の魔法少女?

 

「それって……百恵のことか? かこ」

「はい!」

「そっか! よかったなあやめ! 百恵が動くなら間違いないぞ!」

「え? え?」

 

 さっきまでとは一転して明るくなったかこちゃんとフェリシアちゃんにあやめが混乱している。そしてアタシも混乱している。

 

「ちょっと待ってどういうことかな?」

 

 アタシはふたりからその最強の魔法少女について聞き出すことにした。

 

 『傭兵』星奈百恵。

 フェリシアちゃんと同じ『傭兵』だけど……神浜で『傭兵』と言ったら真っ先に思い浮かべるのがこの星奈百恵さんらしい。

 フェリシアちゃんの傭兵が『自称』なら、彼女の傭兵は『公称』。

 誰もが認めた、確固たる地位を築き上げている大物魔法少女。

 

 『完全中立』『神浜最強』『大傭兵』『小さき大星』『スピードスター』『七海やちよの切り札』……数々の肩書きを持ち、剣圧だけで使い魔を屠り、たったの一撃で魔女を滅ぼすほどの戦闘能力を誇るという、まさに最強の魔法少女だった。

 

 中でもアタシが着目したのは、彼女が『完全中立』だということ。

 星奈百恵さんは神浜の魔法少女全員の味方であると宣言していて、そして偏りをなくすためにどこのチームにも属すことなく、東西中央差別することなく、助けを求めるなら誰でも平等に力になってくれるということだった。

 

「百恵さんは去年から、私のチームの支援をしてくれていました。ななかさんも慕って頼りにしていて、時々出す仕事の依頼も完璧にこなしてくれるんですよ」

「オレもあいつに戦い方を教えてもらっていてな! たまに飯を食わせてもらってんだ!」

 

 そしてその大物は奇しくもこのふたりと良い関係を持っているらしい。

 そしてかこちゃんのチームのリーダーである常盤ななかさんの言葉を信じるなら、その大物がアタシたちのために動き出した……ということになる。

 

 光が見えたような気がした。

 

 このふたりの言っていることが全部真実なら、この星奈百恵さんはアタシたちの味方になってくれる。

 『完全中立』で依頼通りに仕事をこなしてくれるのなら、渦中の人であるアタシたちにでも手を差し伸べてくれるはず。

 そして、星奈百恵さんは大きな影響力を持つ魔法少女。

 彼女さえ味方に引き込んでしまえば、間違いなくアタシたちの無実を証明することができる。

 

「いいことを聞けたよ。ありがとうね、かこちゃん。フェリシアちゃんもね」

「はい! きっと大丈夫ですから!」

「あやめ! そんなつまんねー噂、百恵なら簡単に吹き飛ばしてくれるからな! 安心しろよ!」

 

 悩みが多少とはいえ軽減されたアタシは家に帰って、常盤ななかさんからの情報としてこのはにも話した。まるっきり嘘でもないしね。

 

「……そうなの」

 

 このはの反応は、アタシが思っていたよりも冷静だった。

 若干の違和感はあったけど、嬉しい誤算だった。このはなら今すぐ神浜から出ようと言い出してもおかしくなかったから。

 

 とりあえず様子見をするということで話が決まったその日の夜。

 河川敷で魔女退治を終えたアタシたちに、ふたりの人物が接触してきた。

 

 すらっとしたモデル体型な青い魔法少女と、多分あやめよりも背の低い白髪の女の子。

 女の子の方は変身していなかったけど……間違いなく魔法少女だろうね。あやめよりも年下だろうに……。

 でもその胸から下げているものを見るに、最近の子は発育がいいなぁって思う。

 

「私は七海やちよ」

 

 モデル体型の人が自己紹介した。予想外の大物だった。

 まさか西の魔法少女のリーダーが直々に訪ねてくるなんてね。まぁ西の魔法少女が主に被害に遭っている以上、動かざるを得なかったんだろうね。

 それでアタシたちのところまでわざわざ来てくれたってことだ。

 

 でもなんでかなぁ、敵意を全く感じない。

 嬉しいことなんだけど、ちょっと不気味だね。

 

「私は星奈百恵という」

「……え?」

 

 女の子が言い放った言葉に、今日二回目の素の返事をしてしまった。

 

 この子が、星奈百恵さん? 神浜最強の?

 うっそー……。でも、隣に立つ七海やちよさんは全く表情を変えていないし、冗談というわけでもなさそうだった。ということは本当に彼女が……。

 

 となるとするならなるほど、七海やちよさんは切り札を引き連れてやってきたってことだ。

 随分アタシたちを高く見積もってくれているみたいだね。

 

「……神浜でも最古参って言われているのと……神浜最強って言われている魔法少女……?」

「そう、それ!……ですよね?」

 

 なんともアレなこのはの言い方に冷や汗を流しつつ、アタシは極めて明るく振舞って場を和ませようとする。

 

「なっははは! うむ! 私は確かに『神浜最強』なんて周りから呼ばれておるのう?」

「……そうね、私も長い間、やっているわ……。でも、最古参って言われるとちょっと……ねぇ? 何だか凄く年を重ねているようなイメージというか……」

 

 カラカラ笑う星奈百恵さんとは対照的に、七海やちよさんは凹んでいた。うん、それに関しては謝るよ……。

 

 そのあとあやめが歳はいくつなのかをストレートに聞いて、七海やちよさんがいくつに見えるかを聞き返すやり取りがあった。

 悩んでいるあやめだったけど……多分雰囲気からしてこのはよりも年上だと思うから高校三年生? もしかしたら大学生なのかも?

 

「あやめ……当てるのは後にしなさい。でも、多分私よりも年上よ」

 

 このはも同意見みたいだった。

 

「……あら、それってどういう根拠で……」

「では私は? 私はいくつに見えるかのう?」

「…………」

「……えぇー?」

 

 このはが固まった。……割と真剣に考えているんだと思う。

 そしてあやめも多分七海やちよさんの時と違うベクトルで悩んでいる。

 ……正直アタシも予想がつかなかった。

 

 見た目から安直に考えるなら、間違いなくあやめよりも年下に見える。ということは小学生。あやめと同い年としても中学一年生。

 でも、どちらでもないとアタシは思った。纏う雰囲気が静かすぎる。とても子供が放つ雰囲気じゃない。

 

 それにかこちゃんが話していた感じからして明らかにかこちゃんよりも年上だし、多分あの常盤ななかさんよりも年上だと思う。

 魔法少女としての強さや実績から推測すると見た目以上に年を重ねていると考えて間違いない。

 

 となると彼女も高校生……このはよりも年上、下手をしたら七海やちよさんよりも年上かもしれない。

 トランジスタグラマーってやつかな? だったらあの胸にも説明がつく。

 

「うーん……多分、小学生だよ! あちしの一個下! 12歳!」

「…………」

 

 あ、星奈百恵さんの纏う空気が凍り付いている。

 年下扱いされて怒っているけど、あまりにも純粋無垢に答えられたから怒るに怒れないんだろうな……。

 七海やちよさんがぷるぷる震えている。

 

「いえ、あやめよりも年上よ……。そして多分私よりも……」

「!」

 

 お? このはの予想はあやめの逆だね。

 そしてちょっとだけだけど、星奈百恵さんが期待しているような目をしている。

 これはアタシもいい線行っているかもしれない。

 

「ずばり……29歳ね」

 

 ビッシィ……。

 再び星奈百恵さんの纏う雰囲気が凍り付いた。

 

 うわちゃー……これはこのは、やりすぎちゃったね。

 七海やちよさんは顔を俯かせて口に手をやっている。

 

「見た目はどう見ても小学生以下だけど、私は騙されないわ。その白髪、多分色素が落ちたものね。つまり相当歳を行っていると見たわ。その幼い見た目から察するに……だらけきって髪の毛のケアを怠った三十路手前の独身女性。それで間違いないわね」

「っ!~~っ!」

「ぶっふ……うっふふ……」

 

 天然このはの自信満々な分析という名の凄まじい罵倒の嵐が星奈百恵さんを襲う。酷い言われ様だった。

 

 七海やちよさんは耐えきれず噴き出してダウン。星奈百恵さんは一度ひっこめた青筋をまた浮かび上がらせている。

 

 こ、これは完全にやっちゃってる……!

 

 どうにかしようと口を開く前に……星奈百恵さんの雷が落ちた。

 

「私はこの七海やちよと同い年の19歳! 大学一年生じゃ! 誰が小学生じゃ、誰が三十路手前じゃ、失敬な! それから髪の毛のケアは怠ってないわい、こういう体質なのじゃ!」

「えっ」

 

 純真なあやめの素直な感嘆詞が口からポロリと出た。

 

 結局、口に出していないけど、アタシの予想が一番近かったわけだ。上下に10歳近いズレた年齢を言われた星奈百恵さんが哀れすぎる。

 にしてもあの見た目で大学一年生かぁ……色んな意味で凄い魅力的な人だね。

 

 ぷんすか怒っている星奈百恵さんは、今も隣で肩を震わせて笑っている七海やちよさんの背中を軽く殴りつけていた。なのにドゴッという音と、「かっは……」と空気が抜けたような声がする。

 七海やちよさんは海老反りで崩れ落ちていた。

 

 さすが神浜最強。

 たった一発の軽いパンチで西のリーダーをノックアウトするとはね……。

 

「もうよい。用件をすませよう。ほれお主よ、しゃきっとせんか」

「ごっほごほ……あなたの暴力は手加減していても洒落にならないのよ……」

「知るか」

 

 プイっとそっぽを向ける星奈百恵さん。なんだろう、凄く微笑ましい。

 始めの剣呑な雰囲気はどこに行っちゃったのか、緊張感がないまま、西のリーダーが私たちに用件を伝えてきた。

 

 用件はやっぱり、例の魔法少女昏倒事件の調査だった。

 七海やちよさんの仲間の魔法少女……十咎ももこっていう魔法少女もその被害に遭ったらしくて、その人とチームを組んでいた仲間の魔法少女が激昂してアタシたちが犯人なんじゃないかって言いだしたから、真相究明のために動いたらしい。

 星奈百恵さんもまた、常盤ななかさんからの依頼を受けて調査に乗り出した矢先に七海やちよさんからも連絡を受け、合流してアタシたちを探していたとのこと。

 

「……ハッキリ言っておくけど、私たちはやっていないわ」

「でしょうね」

 

 呆気なく、七海やちよさんはこのはの言うことを信じていた。

 その顔に含みはない。

 最初から分かっていましたと言わんばかりの自然な表情だった。

 

 なんでも七海やちよさんには魔法少女が放つ魔力のパターンを記憶し判別できる能力があるらしい。

 そして、その十咎ももこさんが襲われた現場に一緒にいて、犯人の顔は見ていないものの、魔力パターンは覚えていた。それがアタシたちの誰とも合致しなかったから、アタシたちが犯人でないと断定できた、ということだった。

 なるほど、そりゃあ敵意を感じないわけだ。

 会った瞬間にアタシたちが犯人じゃないと確信していたんだから。

 

 星奈百恵さんが変身していなかったのも、きっとアタシたちを疑っていないっていうアピールだったんだろうね。

 

「ごめんなさいね、突然に」

「あー、いえいえ! 自分たちもこれで疑われないで済みますし……ねぇ? このは、あやめ」

「う、うん!……よかった……」

「……まあ、そうね。ところで、彼女はどこに連絡しているのかしら?」

 

 そういえば七海やちよさんが話している間、星奈百恵さんはスマフォで誰かに連絡を入れていた。しかも複数人に。

 数えていたけどもうこれで六件目だ。

 

「む? ああ、私の知り合いの魔法少女たちじゃよ。

 まずは常盤ななかじゃな。仕事の結果を報告していたんじゃよ。お主たちが犯人じゃないってのう?

 それから八雲みたま、都ひなの、和泉十七夜、私の弟子、あとは十咎ももこにもの」

 

 あとひとり私の知り合いに連絡をするつもりじゃよと、笑顔で言ってくれるけどちょっと待ってほしい。

 星奈百恵さんの弟子と常盤ななかはいい。問題は他の四人。

 

 調整屋で神浜のもうひとつの完全中立である八雲みたまに、中央の相談役の都ひなのに、東のカリスマの和泉十七夜だって?

 みんながみんな、神浜でとてつもない影響力を誇る魔法少女ばかりだよ……。しかも十咎ももこさんに至っては被害者だ。

 このはもポカンと口を開いていた。

 

「質の悪い噂は力尽くでも消さないといかんからのう? なーに、私とやちよのふたりが調べて問題なしと判断したんじゃ。信じないやつなぞこの神浜にはおらぬよ。加えてここまで手を回してしまえば、もう大丈夫じゃろうて」

 

 にっこりと笑顔を向けてくれる星奈百恵さんだけど……なんだろう。アタシと同じような匂いを嗅ぎ取ってしまった。

 

 最初から構えていたつもりだったけど、それでも侮っていたらしい。

 この人、多分七海やちよさんや常盤ななかさんよりも手強い。戦闘能力だけじゃなくて頭も相当回る人だ。伊達にあの只者じゃない常盤ななかさんに慕われ、七海やちよさんに切り札として頼られているわけじゃないってことだ。

 

 多分だけど最初の年齢当ての下りも、アタシたちから余計な警戒心を消すために仕組んだこと。あのまま本題に入るよりも全員力が抜けていたし、自然と彼女たちの話を聞く気にもなれた。

 

 改めて恐ろしい人だと思った。

 この人の前で嘘を吐いても様々な手段を使って暴いてくるだろうし、誤魔化しても結局吐き出さされてしまうだろうね。

 何度も言うけど本当に恐ろしい人だ。絶対に敵に回したくないと思える程に。

 

 でも、そんな星奈百恵さんは、アタシたちの味方だった。

 

 『完全中立』を謳って長いキャリアと信頼を勝ち取っている彼女の影響力は、東西中央のまとめ役たちにも効果がある。弟子の子も最近人気になった新しい『傭兵』らしくって、仕事中にアタシたちが犯人じゃないって伝えてくれるらしい。

 これでアタシたちの無実は、この神浜の有名人全員のお墨付きをいただいたことによって瞬く間に神浜中に広がることになった。

 

「そういうことよ。じゃあ、私はこれで」

「私も失礼するぞ。あ、これは私の連絡先じゃ。困ったことがあったら連絡してくるがよい。あと、下の名前で呼んでよいからの」

 

 アタシたちの潔白が証明されると、ふたりはこの場から去っていった。

 連絡先を星奈百恵さんが渡してきてくれた時に七海やちよさんが驚いて……少し悲しそうな顔をしていたけど、それはよくわからなかった。

 

「……とりあえず、疑惑は解消……って感じかな?」

 

 多分もう、大丈夫。平静を装っているけど、アタシは内心ほっとしていた。

 

 確かにかこちゃんやフェリシアちゃんの言う通りだった。

 星奈百恵さんを味方にできたのは相当大きい。こればっかりは常盤ななかさんに感謝してもしきれない。

 

 まだ見ていないからわからないけど、噂通りの凄まじい戦闘能力に加えて、この神浜での影響力、そして培ってできた沢山のコネクション。

 どれをとっても一級品な星奈百恵さんが、西のリーダーの七海やちよさんと結託してアタシたちの無実を神浜に広げるために手を回してくれた。

 これはアタシたちにはどうやってもできないことだった。

 

「だね! つーか当然だよ! あちしたち犯人じゃないもん! 疑われるのがおかしいんだよ! そうでしょ、このは!」

「……そうよ……あやめの言う通り……私たちの、周りがおかしいの」

 

 たぶんアタシは気が抜けてしまったんだと思う。

 このはのこの言葉の意味を深く考えなかったのだから。

 

 

 

 

 

「昨日の七海やちよと星奈百恵の件で、決定的に思ったことがあって……。それをふたりに相談したいの」

 

 翌日、改まった様子のこのはがアタシたちを呼び止めた。

 決定的に? なにか嫌な予感がした。そしてアタシのこういう時の勘はよく当たる。

 頼むからこの時だけは外してほしい、そう心の中で願う。

 

「神浜市を出ましょう」

 

 でも、ダメだった。

 

 アタシは必死で反論した。七海やちよさんと星奈百恵さんがアタシたちの無実を証明してくれたじゃないかと。

 でもこのははそれを鵜呑みにできないと言った。

 彼女たちからまた騒動が広がりそうな気がするから、この街を出て一からやり直そうと言った。

 

 確かにそれは一理ある。

 でも彼女たちがこの神浜の重鎮である以上、騒動を引き付けてしまうのは当然だと思うし、アタシたちの目の前で、そのトップたちに連絡して手を回してくれたんだ。

 いくらなんでも用心深すぎるんじゃないか……アタシはそう思った。

 

「葉月……あなたはどう思う?」

「アタシは……アタシは、出ない方がいいと思うよ」

 

 だからアタシは最後まで反論することにした。

 一番の理由はやっぱりあやめだ。あやめから友達を取り上げたくない。

 だから、アタシはなんとしてでも神浜に残るように進言する。

 

「この街の影響力が強い人たちがアタシたちの潔白を証明してくれたんだよ? だったらアタシたちも堂々としていようよ。それが一番、アタシたちが犯人じゃないって印象付けることができるんじゃないかな」

「どうだか……あの星奈百恵が犯人の可能性もあるのよ?」

 

 このははどこまでも、アタシとあやめ以外を信用しようとしていなかった。

 

 確かにその可能性は否定できないし、そうだった場合が一番恐ろしい。

 

 でもアタシは……星奈百恵さんが犯人である可能性は極めて低いと思っている。

 星奈百恵さんは影響力の強い魔法少女。アタシたちが気に入らないなら、そんな手の込んだことをせずに直接非難すればいい。彼女にはそれだけの力がある。こんな回りくどい手段を取る必要なんてない。

 でも、このははほとんど聞く耳を持っていなかった。

 

 だからアタシは反論の切り口を変えた。

 他人がダメならアタシたちのことを盾にすることにした。

 

 この噂が広がった時に考えたことをこのはに伝える。

 もしこのまま神浜を出ても噂はいつまでも付き纏ってくると、それが発覚したらまた引っ越すのかと、反論した。

 これには流石のこのはも黙り込んだ。

 そして……もう少し様子を見ると落ち着いてくれた。

 

 このはをなんとか説得し、この神浜から出ようだなんて思わないようにするためにも、一刻も早く犯人を捕まえる必要がある。

 疑惑を晴らすだけじゃダメだ。アタシとあやめが大丈夫だと思ってもこのはがそれを許さない。

 だからアタシが取った行動っていうのは……。

 

「もしもし、星奈じゃが?」

「あ、どうも。昨日はありがとうございました、遊佐葉月です」

 

 まずは、星奈百恵さんに頼ることだった。

 現状、少ないアタシの手札の中で最も強力なカードであり切り札は、やっぱりこの星奈百恵さんだった。

 

「おお、お主か。どうしたのじゃ?」

「あ、はい。実は星奈さんに……」

「これこれ、言ったであろう? 名前で呼んでもよいとな」

 

 いきなり調子を崩された。でもこれはいい意味で、だ。

 七海やちよさんの言葉を信じてアタシたちが犯人じゃないと思っているからこそ、柔らかく対応してくれているんだと思う。

 

 多分これ、計算してやっているんだろうなぁ。アタシが普段やる手段とそっくりなんだもん。

 でもありがたいことには変わりないし、乗らせてもらおう。

 

「わかりました、百恵さん」

「うむ、それで良い!」

「それでですね百恵さん……その、お願いしたいことがありまして」

「ふむ、なんじゃ? 言うてみい?」

「十咎ももこさんとコンタクトを取りたいんです。協力していただけませんか?」

 

 アタシの目的は星奈百恵さん……いや、百恵さんを通じて被害者である十咎ももこさんと会うことだった。

 十咎ももこさんが通っている学校は知っている。かこちゃんから聞いたからね。

 最初は下駄箱に手紙を仕込もうか考えたんだけど……それをしても素直に来てくれるとは限らない。それなら百恵さん経由で十咎ももこさんに接触した方が確実だし手っ取り早い。

 百恵さんが十咎ももこさんの連絡先を知っているのは昨日の件で知っているしね。

 

「ふむ……なるほどの。わかった。ただしその席に私も同席する。それが条件じゃ」

 

 多分それは建前。

 昨日の今日で、まだ充分にアタシたちが事件の犯人じゃないっていう噂を流しきれていないから、それを知らない魔法少女からアタシを守るための口実なんだと思う。

 

 ふたつ返事をして時間と場所を伝えると、すぐに対応すると言って電話を切った。

 

「ふぅ……うまく、協力を取り付けられたらいいな」

 

 第一段階をクリアして、アタシはほっと一息。でもなにも解決していない。

 ようやく、スタートラインに立ったところだった。

 

「待っててね……このは、あやめ。アタシ頑張るから!」

 

 そう意気込んで、アタシは明日に備えた。

 

 

 

 

 




長すぎたので2つに分けます(ガバ)。すまぬ……すまぬ……。
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