マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート   作:スパークリング

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Side.遊佐葉月 つつじの家

 翌日の放課後。アタシは指定したファミレスにいた。

 

 もう少しで待ち合わせの時間になろうとしたその時、にこやかに笑う百恵さんがやってきた。律儀な人だ。

 そして後ろにはアタシとは違う薄めの金髪のポニーテールの子を連れている。

 その彼女がこの昏倒事件で実際に被害を受けた魔法少女……十咎ももこさんだね。

 

「ここです!」

「……遊佐葉月さん……?」

「はい、そうです! はじめまして!……十咎ももこさん。百恵さんもご協力ありがとうございます!」

 

 それからアタシは十咎ももこさんに、この事件の調査を手伝ってもらうように話を持ち掛けた。

 十咎ももこさんは自分の目で見極めるまでは、まだアタシたちが完全にシロだって思ってくれていないらしい。

 でもアタシも引くわけにはいかない。

 

「アタシらは犯人じゃない……。だからこういうお願いがあります……。アタシと一緒に犯人を捜してもらえませんか?」

 

 素直に、そしてストレートに用件を切り出す。

 きっとこれが一番効果的で、アタシができる一番の誠意の伝え方だから。

 

「……へぇ~……そりゃまた大胆というか……。……よし、信じた!」

「……へ?」

 

 これまた昨日の七海やちよさん同様、あっさりと信じてくれた。

 どうやら百恵さんもここに来るまでに説得してくれていたみたいで、今のアタシの態度で、信用するに値すると判断してくれたらしい。……本当に頭が上がらないなぁ、百恵さんには。

 こうやって信頼を勝ち取ってきたのか、この人は。

 見た目に見合わず狡猾な人だよ……。良い人だからいいんだけどさ。

 

「もう大丈夫なようじゃの。じゃあ私は失礼するぞ。私も私で、調べることがあるのでな」

 

 そして自分の役目が完全に終わったことを確認した百恵さんは、すぐに立ち去って行った。あとはアタシたちに任せてくれるらしい。

 これもありがたい。

 十咎ももこさん……ももこと打ち解けられて、ようやく素で力を抜いて話すことができる。

 

 そこからはとんとん拍子に話が進み、アタシたちは噂の出所を探すことにした。

 このアタシたちを陥れようとした犯人が、昏倒事件の犯人と同一人物か、かかわりの深い人物なのは間違いない。だからこの噂の出所さえ掴むことができれば、犯人を捕まえることができる。

 百恵さんも別のルートで事件を調査してくれているみたいだし、解決できるのも時間の問題だろう。

 

 待っててね……このは、あやめ。必ずアタシが、犯人を見つけてみせるから!

 そんな強い気持ちを持って、アタシはももこと一緒に情報収集を開始した。

 

 いろんな人たちに出会った。

 百恵さんの弟子の『傭兵』とも話をしたし、かこちゃんの知り合いの魔法少女数人にも話を聞いた。

 みんなアタシが渦中の魔法少女だって知って驚いていたけどそれだけだった。

 

「先生から聞いたの! 犯人扱いされてたって! わたしにも出来ることがあるなら協力したいから、なにかあったら調整屋に来てほしいの!」

 

「ああ、かこちゃんが言ってた。ごめんなさい、詳しいことはわからないの。その代わりに……はい! 百日紅(サルスベリ)の鉢植えです! もう少ししたら素敵なお花を咲かせるんですよ! あなたのお家に彩りを!」

 

「いらっしゃいませ。……ああ、あの噂の。百恵さんから聞いていますよ。大丈夫です。ここを利用してくれる魔法少女たちには、まなかからちゃんと説明していますから。それよりご注文はどうしましょう? オススメはオムライスですよ!」

 

「みゃーこ先輩にあきらっち、それからヒャックエ先輩から聞いているよー。でもヘーキっしょ! あの人達すっごい頼りになるし、あーしもちゃんと駄弁って広げてるからさ!……そうだ、いいこと思いついちった! なんならここで、あーしと一緒に駄弁っていようよ!」

 

 みんながみんな、温かかった。なんでだろうね。

 こっちは結構心穏やかじゃない気分で捜査に乗り出したっていうのに、不思議なことに晴れやかな気持ちになっていた。

 

 でも、捜査は難航した。

 

 あれから数日経っても、一向に噂の出所が掴めない。

 ある程度のところまではいけるのに、そこから先が全部有耶無耶になってしまっていて発信源に辿り着けない。

 百恵さんや七海やちよさんを筆頭にした大物魔法少女たちも動いてくれているけど、吉報はいまだに届くことはない。非常に悪質で巧妙な手口だ。

 

 一体なんで、アタシたちがそんな悪意の塊のような存在に目を付けられてしまったのか、まるで見当もつかない。

 やり場のない怒りが込み上げてくるけど、それを表に出すわけにはいかない。そんなことをしまっては犯人の思う壺だからね。

 冷静に、慎重に調べないと、どこからまたアタシたちに疑いが掛かるか分かったもんじゃない。

 

 なかなか進まない捜査と、アタシたちを嵌めた犯人に対する苛立ちをなんとか押さえつけているアタシだけど、それ以上にマズいのはこのはだ。

 

 このはの機嫌が日に日に悪くなっていくのが目に見えて分かる。

 百恵さんたちが神浜の魔法少女にアタシたちの無実を広げてくれたから、変につっかがってくる魔法少女はいないけど、それでも最初の時のももこのように鵜呑みにしていない魔法少女はいる。

 魔女退治をしている際に時たま遭遇する魔法少女から一瞬とはいえ変な目で見られることに、このははストレスを感じていた。

 

 僅かとはいえ確かに残っているアタシたちに対する疑惑の目、神浜の重鎮たちも動いているのに一向に進まない捜査、神浜に来てからたまに見るという幻覚……そして三人で過ごす時間が減った寂しさもあるんだと思う。

 

 前進も後退もしない、なんとも言えないやきもきした気持ちをこのはは抱いている。でも、もう少しだけ耐えてほしい。

 きっと……アタシがきっと、犯人を捕まえてみせるから。

 だからどうか、先走らないでね、このは。

 

「おっと……かえでから電話だ」

 

 学校帰りの放課後。

 ももこと一緒に捜査して、あともう少しで六時半になろうとしていたその時、ももこにチームメイトから連絡が入った。

 

「おーす、かえで? どうした?……は!? なんだって!?」

 

 ももこが慌てたように電話相手に問いただしている。物凄く、嫌な予感がした。

 「わかった、すぐに向かう!」と乱暴に電話を切るももこ。

 

「どうしたのー?」

「ごめん葉月! うちのチームメイトがこのはさんに突っかかった! すぐに止めに行こう!」

 

 ああ、やっぱりアタシのこういう勘は当たっちゃうんだなぁ……。

 

 七海やちよさんから聞いていた、ももこが襲われたときに激昂したももこのチームメイト……水波レナさん。

 この神浜で一番会いたくないと思っていた相手と、物凄く機嫌が悪いこのはがバッティングしてしまった。

 

 ももこは水波レナさんにアタシたちが無実だって言い聞かせていたみたいだけど……彼女もももこと同じで、自分の目で確かめないと気が済まないタイプだったみたい。

 加えてももこ曰く、素直になれずに結果的に()慳貪(けんどん)になる性格も相まって、まるでケンカを売るようにこのはに突っかかってしまった。……最悪だね。

 

 もうひとりのチームメイトである秋野かえでさんはすぐにマズいと判断してくれて、ももこに、そして七海やちよさんに連絡してくれている。不幸中の幸いだった。

 もしこの連絡がなかったら、取り返しのつかないところまで来てしまっていたかもしれないのだから。

 

 事件が起こっている水名神社に走りながら、アタシはかこちゃんに連絡……しようとしたとき、アタシの携帯に着信が入った。

 発信元は……『夏目かこ』! なんてベストタイミング!

 

「もしもし葉月さんですか!? 今、ななかさんと水名神社に向かっているんですけど!」

「本当!?」

 

 かこちゃんだけじゃなくて常盤ななかさんも!?

 どうして……というかどこでその情報を?

 

「失礼、代わりました。常盤ななかです。お久しぶりですね、遊佐葉月さん」

「常盤さん……」

「随分と切羽詰まっているご様子ですね。ですがご安心を。私たちは星奈百恵さんという方から連絡をいただきまして、水名神社に向かっています」

 

 そうか、常盤ななかさんの情報源は百恵さんだったね。

 七海やちよさん経由で百恵さんに連絡が行って、そこから常盤ななかさん、そしてかこちゃんに連絡が行ったってことだ。

 これには七海やちよさんに感謝だね。

 そしてすぐに動くことができる百恵さんと常盤ななかさんも凄い。

 

「感謝します! そのまま来てください、お願いします!」

 

 アタシらしくないけど用件を伝えずに、そのまま来てほしいとだけ頼んで連絡を切った。多分百恵さんから詳細は伝わっていると思うし、問題ないと思う。

 あとひとり……アタシはフェリシアちゃんに電話をかけた。

 

「おう、葉月か!? 大丈夫なのか!?」

 

 すぐに出てくれたけど、やっぱり様子がおかしい。もうこっちの情報が伝わっているみたいな反応だった。

 もしかして……。

 

「百恵から話は聞いてるぞ! オレも水名神社に向かってるから、着くまであやめを守ってくれよ! じゃあな!」

 

 一方的に電話を切られたけど……アタシの気分は軽くなっていた。

 

 夏目かこちゃんに深月フェリシアちゃん……あやめが自分で作ったふたりの友達。

 七海やちよさんに星奈百恵さん、常盤ななかさん……アタシたちを信じて無実を証明し、引き続き捜査をしてくれている三人の大物魔法少女。

 そしてアタシの隣で走る十咎ももこ……アタシの打算に付き合ってくれて、一緒に事件を追いかけてくれている、表裏のないサッパリとした性格の友達。

 その全員が今、アタシたち三人のために必死で動いてくれている。……ああ。

 

 このは、待っていて。

 お願いだからこれ以上先走ろうとしないで、もっと周りを見ようよ?

 こんなにたくさん、アタシたちを助けようとしてくれる人たちがいるんだよ。

 多分ここが……アタシたちの新しい、つつじの家なんだよ?

 

「いい目になったね、葉月」

「そうかな?……そうかもね」

 

 思い出したんだから! アタシたち以外にも信じることができる人たちがいっぱいいるって、改めて感じることができたんだから!

 アタシは前に進む! このはとあやめを連れて、温かい人達が大勢いるこの神浜で生きていくって決めたんだから!

 だからこんな……こんなくだらない茶番、とっとと終わらせる!

 

(……葉月!……来て! あちしだけじゃ……ヤバいよ……!)

 

 その時あやめから念話が届いた。

 声が震えているし……言葉も断片的。相当追い込まれているねこれは!

 

(なにがあったのあやめ! 状況は!?)

(このはが……このはが、あちし以外の神浜の全ての魔法少女を叩き潰すって……!)

(はっ!?)

 

 なんだって……。

 いくらアタシたち以外に心を開こうとしないこのはでも、客観的に物事を捉えられる冷静さはいつも持ち合わせていたはず。それは今、物凄く機嫌が悪い状態でも維持できていたし、それがあったからアタシの意見を聞いてくれて様子見することを許してくれた。

 そんなこのはが……自分たち以外の魔法少女を全て潰すだって!? めちゃくちゃにもほどがある!

 

 仮にアタシとあやめが賛同したとして、アタシたち三人でなにができる!?

 この神浜の魔法少女は他の地域の魔法少女と比べて数も質もなにもかもが違う!

 チームを組むのが普通だし、チームを組まずにたったひとりで魔女を相手する猛者だってわんさかいる。東西中央のリーダーはまさにそれだし、そのリーダーを押しのけて神浜最強の位置に君臨する百恵さんだっている。すぐに制圧されてお終いだ。そんなこと普段のこのはなら考えるまでもなく理解することができるに決まっている。

 なのにそんな無謀なことを……恐らく感情的になって実行しようとしているってことは……!

 

「どこまで……どこまで、アタシたちを弄べば気が済むんだああぁーッ!」

 

 怒りのあまり声を出す。走るスピードも上がる。

 隣で走っていたももこが驚いたような顔をしているけどこの際無視だ。今のアタシはこんな茶番を仕組んだ犯人に対しての怒りでいっぱいだった。……でも!

 

 落ち着け、落ち着くんだアタシ……!

 なんのために声に出した? 少しでも怒りや苛立ちを鎮めるためでしょ! このままのテンションでこのはと激突すれば仲間割れすら起きかねない。

 このはが正気じゃない今、アタシが一番冷静でないと!

 

 そうして走りながら自分に言い聞かせてなんとか落ち着いた時だった、水名神社に到着したのは。

 

「ちょっと待った!」

 

 このはの攻撃から水色の髪の子を守るように七海やちよさんが構えているところで、アタシは乱入することに成功した。

 すぐに周りを確認する。不審な人物はいない。そして倒れている人もいない。つまりまだ、このはは最悪の一線を超えていない!

 間に合ったんだ!

 

「来たわね……葉月……」

「このは……」

 

 なに安心したように笑っているのさ……。

 でもその笑みは、少し遅れてやってきたももこの姿を見て消えた。

 

 周りの反応からこの数日間、アタシが一体誰と行動していたのかが分かったみたいだね。

 そんなことはすぐに考えられるのにどうして……。

 

「……あやめから聞いたよ。他の魔法少女全員と戦うって……? そんな無謀なこと、アタシがさせないからさ……!」

 

 させてたまるか。

 ようやく、ようやく見つけた、アタシたちを受け入れてくれる場所を壊すなんて。

 あやめが友達を見つけたこの場所を壊すなんて。

 しかもよりにもよって、仲間のこのはに壊させるなんて!

 そんなことはアタシが絶対に許さない!

 

 このはの質問なんて無視だ。

 今のこのはにアタシがももこと一緒にいる理由を馬鹿正直に話しても無駄。一切の聞く耳を持ってくれないだろう。むしろアタシが勝手に外の人間とコンタクトを取っていたことに怒り、悲しむだけ。

 だったらアタシは、アタシの考えをこのはに真正面からぶつけるだけ!

 

「このはに伝えたいんだ。最近、アタシが思っていることを。……アタシら、もっと外と向き合うべきだよ!」

 

 言った。言ってやった。

 多分今のこのはにとって、裏切りにも等しい言葉を言った。もう後戻りはできない。いいんだ。誰が戻るもんか。前に進むんだよ、アタシたちは!

 深呼吸して言葉を繋げた。このはの言葉を論破する必要なんてない。

 今に至るまでの、アタシが過ごしてきたこの数日間の出来事を語るだけ。それだけでいい。

 

 神浜で捜査をしているうちに何人もの魔法少女と知り合った。

 みんながみんな、アタシたちを信じてくれているわけじゃないけど、アタシたちを信じて温かく歓迎してくれる魔法少女だって何人もいた。大物の魔法少女たちは確かに動いてくれていたし、積極的にアタシたちの無実を広げてくれている協力者だっていた。

 

 だから……もっと周りのみんなを信じよう。思い出そうよ。いたじゃんアタシたちには。

 院長先生が、つつじの家の他の仲間たちが。アタシたちは確かにみんなを信じていたじゃん? そのときの感情を思い出してほしい。

 ただそれだけなんだよ、このは!

 

「葉月やめて! やめてよ! どうして……そうしてそんなこと言うの……!」

 

 全部言い切った時、このはは……泣いていた。

 院長先生が亡くなった時以来かもしれない。このはが泣くなんて。

 

 そこからこのはは、自分が溜め込んでいたものを吐き出した。

 院長先生が亡くなって、つつじの家から出て、もう自分に残ったものはアタシとあやめだけだっていうことを。このはが大切にしているアタシたち三人の関係が理不尽に壊されるかもしれないことが怖くて仕方がないと。

 

 このは……そこまで、アタシたちを思ってくれていたんだ。そしてその思いが爆発して、こんなことを……。

 

 あまりにも悲しく、大きすぎるこのはの告白を受け、途端に神社が静かになった。誰も声を出せない。

 このはは肩で息をしているし、あやめはこのはの胸の内を知って戸惑っている。

 アタシがなにか言わないと。そう思った時だった。

 

「あやめー! どこにいんだぁーっ!」

「あやめさーん! 葉月さーん!」

 

 それは天からの救いの声だった。

 凄いタイミングで来てくれた。

 

「フェリシア! それにかこも!」

 

 あやめに出来たふたりの友達。

 そして、それに続くのは……百恵さんと常盤ななかさん。アタシたちを助けようと動いてくれている大物たち。

 

「星奈百恵に常盤ななかまで……! そ、それに……あやめ……そのふたりは……」

「あ……。このは……あ、あちしも、このはに黙ってたことがあるの……」

 

 そして……ついにあやめが言葉を紡いだ。

 

「……あちし……この街で、できたんだ。……多分……友達ってやつが……」

 

 言った。あのあやめが。

 アタシたちの後ろをついてくるばかりだったあやめが、誰かに促されたわけじゃなく、自分だけの意志で、友達を作ったと。前に進もうとしていると。そして、ここにいるかこちゃんとフェリシアちゃんこそが、その友達だと言い切った。

 

「アタシがこういう考え方をするようになったのはさ、あやめと、その友達が会っている光景を見たからなんだよ」

 

 そしてアタシがフォローを入れる。アタシだって、あやめに友達ができる前ならこのはに賛同して引っ越したかもしれない。アタシが変われたのはあやめのおかげなんだ。だからきっと、このはも……。

 

「私たち、まだ知り合ってから全然経ってないじゃない? でも、もっと時間をかければ、もう少しお互いが見えるかも……。そう思わない? ね、百恵? みんなも」

「うむ、その通りじゃ。困ったことがあったら私に頼ればよい。知り合いはたくさんおるからの」

「その前に私のチームに入る提案のお返事をいただきたいのですが?」

 

 七海やちよさんはアタシたちに「時間をあげる」と言ってくれた。

 百恵さんはアタシたちに「人脈を用意する」と言ってくれた。

 常盤ななかさんはアタシたちに「場所を作る」と言ってくれた。

 

「…………。そう……。あやめにふたりも友達が……」

 

 この三人にここまで言われて、そしてあやめに出来たふたりの友達を見て、このはの表情が穏やかなものになっていく。

 

「ご挨拶が遅れてごめんなさい。あやめさんの友達の夏目かこです」

「オレは深月フェリシア! あやめの友達だぞ!」

「……ふぅ……。ありがとう、かこさん、フェリシアさん……。これからも、あやめをよろしくね……」

 

 ……よかった。

 このはが……アタシとあやめ以外は信じられないと言っていたあのこのはが、外の世界を認めてくれた。

 

 一気に肩の荷が下りた気分になった。

 事件はまだ解決していないけど……一番大切なものだけは守り切ることができた。

 アタシだってこのはに負けないくらい、このはとあやめのことを大切に思っているんだから。

 

 

 

 

 

 騒動は収まりお開きになって、今残っているのはアタシとこのは、七海やちよさん、百恵さん、そして常盤ななかさんの五人。

 

 アタシはまず、ももこと一緒に昏倒事件の犯人がアタシたちだという噂を流した人物が誰なのかを探っていたことを話した。そこに至るまでの経緯は百恵さんがフォローしてくれた。

 そして結果を報告する。

 

 最初は順調に追うことができたけど、追っていくうちにどんどん噂自体が曖昧になっていき、そして途端にプツンって糸が切れちゃったこと。

 そこからアタシは、この噂は真犯人が仕掛けた目くらましの噂で、真犯人は魔女ではなく魔法少女だと結論付けた。魔女にはこんな器用なことはできないからだね。

 

 でもその手口は妙な作為を感じる手際だった。なにが目的かわからないけど魔法少女を襲い、その罪をアタシたちに擦り付けた。そしてそれが、アタシたちを追い込むことになった。

 

「色々とあって有耶無耶になりそうだったけど」

「……悪かったわ。私が取り乱したせいで……」

「過ぎたことは忘れましょ。とにかく問題なのは……」

 

 誰があやめを襲ったのか、だった。

 アタシとももこが到着する前……あやめから念話が送られてくるその直前に、あやめは何者かに襲われたらしい。このははそれを見て、ついに堪忍袋の緒が切れて取り乱してしまったみたい。

 

 七海やちよさんの証言だと、当時そこにいた全員があやめが襲われたときに一切動いていなかったらしい。そして勿論、このはがあやめを襲うはずがない。

 

「……となると、やはりそのあやめさんを襲ったのは、そこにいなかった誰か、ということになりますね?」

「なにも感じることができなかったのかの?」

「ええ、不甲斐ないけどね。今回も、私は尻尾を掴むことができなかったわ……」

 

 七海やちよさん……もういいや。

 やちよさんが悔しそうに唇を噛んだ。

 

「私の方も色々調べてみたのじゃがの。妙なことが分かったのじゃ」

 

 すると今度は百恵さんが口を開いた。

 アタシとは違う線で事件の調査をしていた百恵さん。一体何を調べていたのか、確かに気になった。

 

「この昏倒事件なのじゃがな……どれだけ探しても被害者の魔法少女がおらんのじゃよ」

「え?」

「それはどういう?」

「じゃからのう……襲われた魔法少女は昏倒して眠ったままという情報自体がデマである、ということが分かったのじゃよ」

 

 つまり百恵さんの言うことを要約すると……最初から、昏倒事件なんて起こっていなかった。そういうことだった。

 そ、それじゃあ……!

 

「では……この事件は最初から、あなたたち三人を陥れるためだけに何者かが仕組んだもの……ということになりますね」

 

 ななかさんの言う通りだった。

 でもそれならば、こんな回りくどくて変なところで巧妙な手口の説明がつく。

 

「そう……そういうことね。葉月には言っていたけど神浜に来てから、私は幻覚を時々見るようになったわ。あやめが襲われて、葉月に手遅れだって言われる……そんな幻覚を。あやめが襲われたときも、その幻覚を見たわ」

 

 そのこのはの証言で……確定した。

 

 この事件の犯人の標的はアタシたちだ。

 そしてその犯人はアタシたちを陥れるためだけにもかかわらず、無関係な人にも危害を加え、こんな大それた事件を起こすような、そんな危険な思考回路を持つ頭のネジが外れている人物。

 

「心当たりはある?」

「ないですよ」

「ええ。私にもないわ」

「百恵、あなたが会ってきた中で、そんな魔法少女はいる?」

「まさか。そんなヤバいやつ、出会った瞬間お主に報告しておるわい」

「常盤さんは?」

「私も心当たりはありません」

 

 結局、アタシたちが今掴んでいる情報だけで分かったことは、この事件の標的がアタシたちだった、ということだった。

 犯人の動機はおろか、正体すらわからない。

 

「……でも、きっと……!」

「そうね……正体を暴きましょう……!」

 

 アタシたちをここまで振り回して、弄んでくれた礼は絶対に返す。

 そう、アタシたちは誓った。

 

 

 

 

 

 あの夜から、このはは幻覚に襲われることがなくなったらしい。

 捜査は進展することなく、犯人も分からない。謎は深まるばかりだった。すべてはいまだに闇の中。

 ……でも、良いことだってあった。

 

 この一件のおかげで、アタシたちの世界が広がった。

 このはの視野が広くなったし、あやめも友達とよく一緒に遊んでいる。

 

 やちよさんに百恵さん、ななかさんという神浜の主要の魔法少女とのコネも作れたし、捜査の途中で仲良くなった魔法少女だっている。

 時々百恵さんの弟子の『傭兵』の子と鉢合わせることもあるし、花屋でアルバイトしている子からもらった鉢植えは、リビングで花を咲かせている。

 なんか料理に対して熱意を向けてしまったこのはは、クオリティの割にリーズナブルな北養区のレストランで開かれている料理教室に通おうとしている。

 そしてアタシも、買い物帰りに水徳商店街の相談所に立ち寄って、情報収集を兼ねているとはいえ、他の魔法少女の子たちとお喋りを楽しむようになった。

 

 みんながみんな、新しい明日に向かって歩き出した。

 

 院長先生。やっと……やっと見つかったよ。

 アタシたちの新しい……『つつじの家』が、さ。

 

 

 

 

 




長かった(小並感)。
アザレアイベントは思い入れがありすぎて書くことが多すぎんよ~。

百日紅。読みはサルスベリ。
初夏から秋まで長い間、赤、ピンク、白などの花を咲かせる花木。
花言葉は『雄弁』『愛嬌』『不用意』『潔白』『あなたを信じる』。

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