マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート 作:スパークリング
速さを犠牲にするRTA走者の屑。
彼女との出会いは、先生との出会いに次いで衝撃的なものだった。
「八雲、グリーフシード調達の件だが……さすがに厳しくなってきた」
わたしこと八雲みたまが魔法少女になって数ヶ月が経とうとしていたそんなある日の夕方、新西区郊外にあるわたしが拠点にしている廃墟になった映画館『神浜ミレナ座』で苦しい顔をした親友から告げられた。それは、いつの日にか、それも近いうちに言われるだろうなと薄々感じていた言葉だった。
先生と仰いでいる人から調整の技術を授かって味方の魔法少女を強化する術を手に入れたわたしだったけど、先生と違ってわたしには魔女相手に戦う術がなかった。あるにはあったけれど、圧倒的に手札が少なすぎたし使い勝手もそう良くはない。本当に戦いには向いていない魔法少女の典型例、それがわたしだった。
そんなわたしを助けてくれていたのが親友、和泉十七夜だった。
十七夜はわたしの調整の力を受ける代わりにグリーフシードを融通してくれていた。学業は勿論のこと、東の魔法少女のまとめ役として色んな魔法少女から相談を受け、家事をし、バイトをして、魔法少女としての本業もこなす。いつも忙しい立場だった。だから……遅かれ早かれ、ふたり分のグリーフシードを確保し続けることが困難になることは想像できていた。
わたしも腕を上げて、調整だけでなく魔法少女のための便利アイテムの開発を進め、いよいよ独り立ちをしようと思っていた、そんな矢先の告白だった。
「そう……でも、仕方ないわぁ。わたしは大丈夫よ。調整屋さんとしてデビューしようとしていたところだったし、平気よ」
半分は強がりだった。
調整の腕には絶対の自信があるし、作ったアイテムだって十七夜の太鼓判をもらえるほどのクオリティにまで昇華することができた。店として提供するサービスに問題はない。この廃墟を拠点にするつもりだし、家財道具も一通り揃えたから場所も問題ない。
でも……問題は信用だった。
いきなり「あなたを強くできるからソウルジェムを貸して? 代わりにグリーフシードをもらうけどね」なんて言う人が出てきたら誰であろうが絶対に警戒する。ソウルジェムがないと魔法少女に変身できないし、グリーフシードは魔法少女の生命線。そのふたつを一気に寄越せなんて言われて「はいどうぞ」と手渡す人間はまずいない。だからもう少し顔を広くしてある程度の信用を得てからから開店させたかったのだけど……こうなっては仕方ない。
これ以上十七夜に迷惑はかけられないし、地道に信用を勝ち取ろうと腹を括ろうとしたとき、十七夜は続けて言った。
「待て、話はまだ終わっていない。安心してくれ。新しい伝手を見つけてある」
新しい伝手? わたしにグリーフシードを渡してくれる人の? そんな都合の良い人がいるのかを口に出そうとしたとき、閉まっていた廃墟の扉が開かれる音がした。
「来たようだな。時間は……丁度か、相変わらず律儀なやつだ」
どこか安心したように笑いながらスマホを見ている十七夜。いつも相談事を持ち掛けられ、色んな魔法少女を心配している十七夜のこんな安心しきった表情は珍しかった。
小さな足音がこっちに向かってきている。まっすぐに、ぶれずに。ここにわたしたちがいることがわかっているかのように。そして……。
「来てやったぞ。久しいのうお主」
古風な口調の穏やかな表情で笑う女の子がやってきた。
ぴょんと飛び出た一本のアホ毛に左肩に乗せた黒髪のしっぽヘアー、青みのかかった瞳を持つ女の子。
……でも、その……すごく小さい。
身長的にはやや小柄な十七夜よりも彼女は小さかった。145センチ……もないのかもしれないくらいに小さい。……え? 小学生?
彼女はしばらく十七夜と言葉を交わしていた。連絡は仕事以外にも寄越せとか、どうせ仕事絡みだろうとかそんな小言を言った後、そのクリクリとした瞳を私に向け、人懐っこい笑顔を花咲かせると……
「して、此奴の言う私の客とやらは……お主で間違いないのかの?」
「かっ……かっわいいっ!」
「うにゃーっ!?」
こてんと首を傾げた彼女を見たわたしは自分の欲望に勝てず、初対面であるのにもかかわらず彼女を抱きしめてしまった。んもう、最高にかわいい! なんなのこの子!
こんなに小さいのにおばあちゃんみたいな話し方をするギャップといい、愛らしい仕草や表情といい、かわいい女の子が大好きなわたしにとってはまさに天使のような子だった。……ん? 意外と胸があるわね? 最近の小学……いえ、中学生は発育が良いのねぇ。
「離せ! 離すのじゃ!」
わたしの腕の中でジタバタもがく彼女を無視して堪能していると、嘆息した親友の声が耳に届いた。
「八雲。言っておくが、彼女はお前よりも年上だ」
「えっ」
え? 年上? ワタシヨリモトシウエ?
唖然として力が抜けたわたしの腕からすり抜けるように逃れた幼女はパンパンと制服を正す。冷静になって彼女を見て遅れて気付いたけど、着ている制服は神浜市立大附属学校のものだった。
「仕切りなおすぞ。八雲、彼女は星奈百恵。お前の新しい武器だ。そして星奈、彼女が八雲みたま。お前の新しい客だ」
咳払いをした後に要点を絞ったシンプルすぎる十七夜の紹介に彼女は溜息を吐き、改めてわたしに自己紹介をしてきた。
「星奈百恵、なのじゃ! こんななりでも高校三年生、つまりお主の先輩ということになるのう? もちろん魔法少女としてもじゃ! じゃからもっと敬ってもよいのじゃぞ? いや敬うがよい!」
そしてふんすと地味に大きい胸を張りながらどや顔で先輩アピールをしてきた。
…………。
「……ねぇ、十七夜。その……大丈夫なの?」
「無視された上に残念そうに見られとる!?」
急に不安になったわたしの反応にショックを受けたらしく、肩を落としてしょんぼりしていた。アホ毛も元気なく萎れてしまっている。
見た目もそうなのだけど、言動や仕草のせいで背伸びしている子供のようにしか見えない。先輩としての威厳がまるで感じられず、頼りになるとは思えなかった。むしろこっちが手助けしてあげたくなっちゃうくらいよ。
「まぁ、最初はそうなるだろうな。だがその意識はすぐに改められるだろう――こいつの魔女退治を見ればな」
十七夜は落ち込んでいる彼女の機嫌を直すと、わたしたちはそのまま夜の神浜に繰り出した。
新興都市神浜。
数ヶ月前までは減少傾向だった魔女も今では異常なまでに増え、東と西の確執があるものの、それでも縄張り争いがほとんど起こらないくらい魔女で溢れている、魔法少女の間では割と有名な魔境都市だ。
魔法少女であるわたしたちにとってはもはや日課である夜のパトロール。ほとんど十七夜と一緒に回っていたからか、他の魔法少女を加えた三人でパトロールするのは新鮮な気持ちだった。その人が鼻歌を歌っていてまるで緊張感がなかったからかしらね。
歩くことしばらくして、ふらふらとした足取りでどこかに向かう人々を見つけた。目は明後日の方向に向いていて、「ああすれば、こうすれば」と呟きながら廃墟のビルの階段を上っていく。……明らかに魔女の口付けを受けていた。
彼らを追うことでわたしたちは魔女の結界を突き止めた。階段を上った先に辿り着く屋上に出る錆びた鉄製の扉。それを開けた先にまたひとつ扉があった。ただし、周りには鍵を持った指のような形の使い魔が無数に存在する。そして、扉までの距離が長い。……魔法少女になって日が浅いとはいえこれはわかる。
口付けされた人の人数は見かけただけでも二十を優に超えていたし、この大量の使い魔に広い空間の結界。ここから導かれる結論は。
「ほう……かなりの力を付けた魔女のようだな」
十七夜が言う通り、ここの魔女が強い部類に入る大物ということだった。
こんな風に十七夜が強いと判断した魔女は、わたしが調整したとしても時間をかけなければいけないレベル。そして十七夜以下の実力の魔法少女ならば……チームで相手をしないと勝つのは絶望的なレベル。だけど。
さっきまで暢気に鼻歌を歌っていた彼女が一歩、なにも躊躇うこともなく足を踏み出した。なぜだろうか。小さい彼女の背中が異様に大きく見える気がした。
「八雲、自分たちは見学だ。お前の調整なしのこいつの実力をよく見ておくといい。星奈、お前の力を見せられる絶好の相手だ。全力でやってくれ」
「元からそのつもりじゃとも、抜かりはせんよ。どんな時でも油断大敵じゃ」
にっこり笑った彼女は白い光に包まれると……魔法少女に変身していた。
白をベースとした紫や青などの寒色系の色彩の模様が所々に散りまかれた和服の戦闘着。銀色の小さな鎧が胸をぐるりと回り、左肩にかかるしっぽヘアーを銀の風車の小物が付いた簪が纏めている。
そしてその手に持つのは……先がふたつに分かれている大剣。
魔法少女に変身したことで漏れ出た魔力に使い魔が反応し、突進してきたり鍵を投げてきたりするけど、彼女は特に慌てもしなかった。
「さて……ゆくぞ」
そのまま大剣を手の上で回し……向かってきた使い魔たちへ横一線に薙ぐ。
風を切る音を耳にした時には目の前に迫ってきていた使い魔のおおよそ半分が両断され、投げてきた鍵が吹き飛ばされている。
仕留めそこなった使い魔たちを確認した彼女はようやくその場から動き、次々と使い魔たちを両断していく。
「魔力を込めていない剣圧だけでこれか……。久々に見るが、凄まじい力だ」
油断大敵と言っているけど全力で戦っているわけでもない。けれどそれでもこの破壊力を誇る彼女の攻撃。魔力を上乗せして放ったならどんな威力になるのか、考えたくもない。
「何者なの、彼女」
「……この街には西と東に溝がある。それは八雲も痛いほど理解していると思う」
それはもう……。わたしが魔法少女になったのもこの確執のせいだし、本当に今思い出してもやり場のない怒りが沸いてくるほど、下らない東西事情だった。
「星奈は唯一、西でも東でも魔女狩りを許されている特別な魔法少女だ。理由は……彼女がどこにも属していない傭兵だからだ」
「傭兵?」
「ああ、傭兵だ。……世の中にはまともに戦うことができない魔法少女がいる。だがそれは大きく分けてふたつのタイプに分別される。ひとつは単純に、能力が戦いに向いていないタイプだ」
主に強化魔法や治癒魔法、または搦手などの戦闘以外の能力が特化しているサポートタイプ……わたしのことだ。でもそれだけなら実はこの神浜じゃそこまで問題がない。
神浜は魔女が多いうえに一体一体が強い傾向にあるからチームを組んで互いに助け合うことができれば、たとえ戦闘に向いていなかったとしても重宝される。だからわたしは十七夜に迷惑はかけていたと思うけど、足を引っ張っていたとは思っていなかったし、十七夜もわたしのことを悪くは思っていないと確信できる。
「だが、問題なのはふたつ目だ。……魔女と戦うことが怖くて戦うことができないタイプ」
魔法少女はたったひとつの願いに全てをかけ、死と隣り合わせの日々を送る。そういう職業だ。
でも『なんでも願いが叶う』『君には素質がある』という甘言に誘われて、それに気が付かずに契約してしまう子もいる。魔女の恐ろしさを知らずに目先の夢の為だけに契約してしまった子は……よほど強い心を持たない限りは戦うことなんてできない。死ぬかもしれないという恐怖で動けなくなってしまう。そういうタイプの魔法少女は……言い方は悪いけど救いようがない。
魔女と戦うことを引き換えに願いが叶う。それが魔法少女の契約なのだから、願いが叶った以上は魔女と戦わなければならない。これは魔法少女の鉄則だ。願いを叶えてもらってはいおしまい、そんな都合のいい話はない。
魔法少女とは現金なもので戦いの中で背中を任せられる、またはなにかメリットがあるなら手を取り合えるけど、任せられないしメリットもないなら手を差し伸べない。だから、戦うことを恐れる弱い魔法少女は誰にも見向きもされないし、自分から助けてと声を出すこともできない。
「やつはそういった弱い魔法少女たちの希望の星だ。料金は取るが、グリーフシードを融通してくれる。グリーフシードが出なかった場合は出るまで魔女を狩り続けてくれる。だから星奈は東西両方の土地で魔法少女としての活動が認められている。より多くの魔法少女たちの助けになるように。そして星奈自身のためのグリーフシードを集めやすくするためにな。魔法少女歴五年。神浜では西の統括である七海やちよに次ぐ大ベテラン。どこの組織にも属さず、差別せず、垣根も作らない完全中立の傭兵、それが星奈百恵という魔法少女だ。……自分が尊敬する、数少ない存在でもある」
十七夜が締めくくったまさにその時、小さいながらも大きな傭兵は最後の使い魔を消滅させた。
戦闘開始して数分と経たずにここら一帯を支配していた五十を超える使い魔たちを全滅。チームを組んだ魔法少女でもこの短時間で同じことはできないでしょう。恐るべき実力の持ち主だった。
あっけらかんとした様子の彼女は使い魔が落とした鍵を使って結界の最深部に続く扉を開く。そこにいたのは片足を縛り付けられた無数のバルーンで構成された魔女。
ふわふわと漂っている魔女はわたしも見たことがあるタイプだったけど、大きさが比じゃない。バルーンの数や体長を考慮しても二倍……もしくは三倍くらいの強さに膨れ上がった大魔女だ。
そのあまりにも禍々しい魔力と力強さに顔が引きつる。十七夜も汗を一滴頬に伝わせているあたり目の前の存在がいかに強大なものなのかを物語っている。
「こんなになるまで放置されておったとは、寂しかったであろう? じゃが安心せい。今楽にしてやるからの」
魔女を憐れむように、しかしどこか優しく語り掛けた彼女は駆け出す。魔女も複数のバルーンを使って迎撃するけど小柄で素早い傭兵はすいすいとすり抜け、どうしようもない時は大剣で両断しながら魔女の足元まで辿り着くと――魔女目掛けて一気に大剣を振り上げた。
剣圧による衝撃波だけで遠方の使い魔を一掃した彼女の一振りを、至近距離からまともに受けた魔女がどうなるか。結果は目の前にあった。左右で綺麗に真っ二つになった魔女。さらにそこに追い打ちをかけるかのように、振り上げられた右腕を横に一閃。見事に魔女の上半身と下半身を両断した。四等分にされた魔女はそのまま塵となって消えていく。
「許してくれるな。呪うなら私だけでよい」
塵の中から出現したグリーフシードを彼女が手に取ると結界が消え、景色が元の廃ビルに戻る。
……強い。あれだけの魔女を十分もかけずに一方的に倒すなんて。しかもわたしが調整する前でこの力。もしわたしが調整したら……彼女はどこまで強くなれるのだろう。
変身を解除した彼女はパタパタと小動物のごとくこっちに駆け寄ってきてわたしを見る。そしてなにかを期待しているかのようにアホ毛がみょんみょん動いていた。さっきまで容赦ない戦闘をしていた人とは思えないほどかわいらしい。
「どうじゃ? 凄かったじゃろう? 敬う気になれたかの?」
……その問いの答えは、わたしにはひとつしか思い浮かばない。
「御見それ致しました。その……バカにしてごめんなさい」
「わっはっは。苦しゅうない、面を上げい! わかれば良いのじゃよわかれば!」
うんうんと首を縦に振って上機嫌になっていた。……わかっていたことだけど確定した。
この人は先輩扱いか、わかる形で敬う気持ちさえ見せれば機嫌がよくなる。子供扱いするのは絶対のNG。あと多分本心から尊敬されているかどうかも見抜ける。上辺だけの言葉では彼女は見破ってしまうでしょう。
「してどうじゃ? 私はお主の武器にふさわしいかの?」
「……料金プランはどうなっているのかしら?」
「グリーフシードひとつにつき三千円。これが基本料金じゃの」
三千円でグリーフシード……高いように見えてかなり安い。命がけで入手する必要があって、しかも絶対に魔女が落としてくれるとは限らないものだもの。冷静に考えるなら万単位にはなる。
「じゃが十七夜から話を聞いておる。お主は素晴らしい術を持っておるのだろう?」
「調整、のことかしら?」
「うむ、その調整とやらじゃ。それで手を打とうではないか。私がお主にグリーフシードを提供する代わりに、お主は私を調整し強化する。ギブ&テイクは成立しておるし、問題はあるまい」
「……あなたと会ったのは今日が初めてよ? 大事なソウルジェムを初対面の人に任せられる?」
「なんじゃ、お主は私のソウルジェムに変な細工でもするのかの? そんなことをするようなやつには見えんのじゃがの?」
「いや……しないけど」
「それでは問題あるまい! せっかくじゃ。その調整とやらをやってみてくれるかの?」
あっさりとわたしを信用して待機状態である指輪を渡してきた。……とりあえずいつも十七夜にやっている方法で調整するとしましょう。
でもこんなところで調整するわけにもいかないので、場所を移すことに。始まりの場所……神浜ミレナ座に戻る。同じ廃墟でもここには調整屋をする上での必要なものが揃っている。部屋の真ん中にある寝台に横になってもらってリラックスしてもらう。
指輪から透き通った銀色のソウルジェムに変えてもらって手を触れ……あ、そうだ。
「注意事項があるわぁ。調整する際、わたしはソウルジェムを通してその人の過去を見えちゃうの。願い事の内容もね」
「……あいわかった。じゃが少し覚悟しておくことを推奨しておくぞ?」
最後の了承を得た。それじゃあ、やりますか。最強の魔法少女の調整を。
「いつもありがとうなのじゃ。ほれみたま、グリーフシードじゃ」
朗らかな笑顔で彼女はグリーフシードを差し出した。
あれから数ヶ月。調整屋さんは無事オープンし高い評判を得ている。
彼女は……モモちゃんは依頼通り、わたしの武器になってくれた。魔女を倒すための剣は勿論のこと、調整屋の広告塔としてもその『力』は絶大だった。
傭兵としての依頼を受ける際、モモちゃんはいつもわたしを同行させてくれた。そして客である他の魔法少女の前で調整を行うことで安全性と効力を保証する。大ベテランの魔法少女であるモモちゃんの発言力は凄まじく、すぐに魔法少女のネットワークを通じて調整屋であるわたしの存在を広めてくれた。
そしてもうひとつ、モモちゃんは調整屋を……わたしを売り込む出来事を起こしてくれた。
もともとモモちゃんは依頼者である弱い魔法少女たちに戦闘に関する手ほどきをしていた。といっても彼女は特別、武器や能力の使い方を教えていない。使い魔の効率的な捌き方、攻撃を仕掛けるときのポイント、敵の動きの見極め方……などなどの基本的な魔女との戦い方についてだけを徹底して教えていた。そしてそれを実践で叩き込もうとしていた。
結構なスパルタ方式で渋る子も多かったけど、「魔女が怖いなら私とスパーリングするかの?」と聞かれると迷わず魔女と戦うことを選んでいた。……確かにモモちゃんと戦うくらいなら魔女と戦った方がはるかにマシね。
どこかで自分に自信を持てていない、かつ魔女の恐怖に耐えられないこと。それが自分の意志で戦えない弱い魔法少女たちの共通点だった。だからこそモモちゃんは傭兵として活動をしていた。
単に魔法少女を助けるだけならグリーフシードを直接渡して現金を受け取るだけでいい。しかし彼女がわざわざ傭兵として現地調達していたのは、客である魔法少女に自分が戦っている姿を見せて少しでも魔女に対する恐怖を克服させ、自立させるためだった。
料金が三千円と絶妙に高い金額だったのは、『自由に使えるお金を増やすため』という名目で独り立ちを目指せるように促すためだと教えてくれた。年頃の女の子ですもの。価値的に三千円のグリーフシードが安いのは承知でも、渡されるお小遣いで考えるなら厳しいものだったに違いない。
だけど、それだけじゃダメだった。自立できた魔法少女は片手で数えるほどしかいなかった。魔女の恐怖に克服できたとしても碌に魔法を使って戦ったことのない彼女たちは経験が圧倒的に不足していたし、なにより魔力をうまくコントロールできず効率の悪い戦い方をしてしまう魔法少女が多かった。そこにわたしが現れた。
わたしはソウルジェムの調整をすることで魔力の循環を良くし、魔法少女の地力を底上げすることができる。わたしの調整を終えた後の彼女たちは明らかに体の動きが良くなって、漲る力が身体に染み渡っていく感覚を味わう。そこで思うのだ。「今のわたしなら戦えるかもしれない」と。彼女たちが自分に自信を持つきっかけはそれで充分だった。
そして……モモちゃんは最後の一押しの言葉をかける。
「しっかり見ていてやるからの。じゃから思い切りやってくるがよい」
これでもう彼女たちに迷いはなくなった。見事に自分の力だけで……自分ひとりの力だけで、恐れていた魔女を倒した。それでどれだけ自信が付いただろうか。自分に希望を持てただろうか。
晴れやかな表情でわたしたちに礼を言った彼女たちは、もうモモちゃんを雇うことはなくなった。でも、調整は継続させるためわたしの店には定期的に顔を出してくれている。
こうして、調整屋さんは大繁盛している。今ではモモちゃんの仕事の窓口にもなっていて、わたしを通じてモモちゃんを雇えるように手も回して、紹介・仲介料ということでモモちゃんから千円を受け取っている。いらないって断るんだけど「いいからいいから」と笑顔でごり押しされては断り切れない。本当、おばあちゃんみたい。だから……。
「お代はいらないわよ~」
モモちゃんの調整に代金は取らないし、必要ならアイテムだって無料で支給する。
最初は申し訳なさそうで意地でもグリーフシードを渡そうとしてきた彼女だけどわたしの意思を尊重してくれてか、結局折れてくれた。といっても調整するたびに渡そうとしてくるんだけどね。やっぱりおばあちゃんみたい。
「そうか……。じゃが困ったらすぐに私を頼るのじゃぞ?」
苦笑いしながら取り出したグリーフシードをしまいつつ、そして次の仕事を引き受けたモモちゃんはひらひらと手を振りながら調整屋から出ていった。
「もう……本当、おばあちゃんみたいなんだから……」
カウンターに寄りかかりながら今日何度目かになるつっこみを口に出す。
ありがとう、モモちゃん。でも、困ったときはお互い様よ。もしそれで、わたしの掲げる中立が傾いても構わない。わたしだって……モモちゃんのおかげで、こうして自立することができたんだから。
「いらっしゃ~い♪ 調整屋さんへ、ようこそ~♪」
今日も調整屋には、たくさんの魔法少女が訪れる。