マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート   作:スパークリング

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Side.更紗帆奈 最凶と最強

「みぃーつけた。待っておったぞ、お主よ」

 

 声がした方を見上げれば、給水塔の上に小さな人影。

 

 月明かりに照らされた白い髪に銀色に輝く風車の小物。

 青と紫の模様が散りばめられた和服の戦闘着。

 身長に見合わないでかい胸を守るようにぐるりと回る小さな銀の鎧。

 風に吹かれて靡く青い帯。

 そして……その右腕一本で担いでいるのは、二匹の竜の紋様が描かれたあたしの身長以上に巨大な両刃剣。

 まるでいたずらに成功した子供のような笑顔を向けて、そいつは給水塔の上に佇んでいた。

 

 ……ああ、来た。来てくれた……!

 神浜最強の魔法少女……星奈百恵が!

 

「あはっ! 見つかっちゃったぁ」

 

 あたしが笑って呟くとそれに応えるように星奈百恵もまた、にかっと笑った。

 ……あたしの声が聞こえている! そういえばさっきしっかり喋ってた! ということはイヤホンはもうしてない!

 

 届くんだ。あたしの声が、こいつに届くんだ……! やっと……やっと……!

 やっば! あたし、ゾックゾクするのが止まらない!

 

「残念だったわね、更紗帆奈」

 

 そして正面から七海やちよが来た。

 はぁ~……あんた空気読めよなぁ。あたしは星奈百恵と遊びたいんだよ。引っ込んでろよ。

 

 ていうか……待っていたって言ってたかこいつ? てことはあたしがここに来ることがわかっていて、張っていたってことか?

 

「鬼事が得意なのはお主だけではないのじゃよ。かりん、降りてこい」

 

 給水塔から飛び降りてきた星奈百恵に応えるように、そらから鎌に乗った魔法少女……御園かりんが降り立った。

 

「なぁるほどねぇ。あたしは空から監視されてたってわけか……」

 

 だから先回りされてしまった。

 しかも……今まで戦ってきた他の二チームとは比べ物にならない、圧倒的な実力を誇るチームに!

 

 星奈百恵、七海やちよ、御園かりん……考えうる限り最悪の三人組だ。

 全員が単体で神浜トップクラスの実力者。ベストコンディションのあたしでもこの三人相手じゃ厳しいかなぁ。

 

 あたしが求めているのは星奈百恵ただひとり。他のふたりは正直どうでもいい。

 どうかして星奈百恵だけ隔離できないかなぁ。

 

「……やちよ、かりん。下がっておれ」

「先生?」

「百恵……あなた」

 

 って、お? 星奈百恵が出てきた……ということは!

 

「心配せんでよい。それに……どうやら奴さんは私を御所望のようじゃからの。直々に、サシで相手してやろう」

 

 そう、星奈百恵が笑った。……あっは!

 

「あっははははは! やっぱりあんた最高だよ星奈百恵! そうだよ! あたしが本当に狙っていたのは静海このはたちじゃない……あんたなんだよぉ!」

「そうじゃろうなぁ。お主が初めて姿を見せてからずっと、私に熱い視線を向けてくれていたからのう」

 

 興奮が抑えきれず、あたしは杖で星奈百恵に殴りかかる。

 そうだよ! あんたは神浜の魔法少女の希望の星なんだ! だからあたしの望みも叶えてくれるんだ!

 さぁ、殺し合いをしようよ、星奈百恵ぇ!

 

「っと! やるのう、お主よ!」

 

 楽しそうな声をあげてあいつは片手であたしの杖を掴み取りやがった。

 あの剣は消えている……仕舞いやがったんだ。へぇ……。

 

「素手で相手すんの~? 言っておくけどさぁ、あたし結構強いよ~?」

「そんなことはわかっておる。じゃがのう、私も負けないくらい強いのじゃ。おいたが過ぎる悪い子には一発ぶん殴って躾ける程度がちょうどいいのじゃよ!」

 

 にぃいっと笑う星奈百恵は、手ぶらになっている右手を握りしめて……思いっきり振りかぶってきやがった!

 すぐに距離を取ろうとするけど、馬鹿みたいな怪力を誇る星奈百恵の腕に掴まれている杖がビクともしない! だったら!

 

「放せ!」

「!」

 

 これで杖を掴む手が放された。もうあたしは自由だ。

 すぐに横に飛んで星奈百恵の拳を回避する。

 

 ブオンっと、鈍い空気を切る音があたしの耳に響き、わずかに耳元が切れる。

 直接当たったわけでもないのに体を傷つけるようなパンチなんて喰らっちゃあ少なくとも気絶は免れない。それはあたしが望むことじゃない!

 

「ほう、なるほど。やはり便利な魔法じゃのう、『暗示』とやらは。じゃがのう!」

 

 すぐに体勢を立て直した星奈百恵はあたしに接近、次々と必殺級の剛腕を繰り出してくる! リアル百烈拳ってやつ!? そんなところまで百に恵まれてんのかよ!

 というか……こいつやっぱり……!

 

「くっ……このっ……」

「ほら声を出しとる余裕はないぞ? 集中せんと痛い目に遭うからの?」

 

 あたしの『暗示』の力を封じてきていやがる!

 

 『暗示』の魔法は声に出さないと使えない!

 つまり……声を出させる余裕がないと意味がない!

 

 しかもあいつ……あたしのソウルジェムの位置も確認して、濁り具合まで見ていやがる! このまま消耗させて魔法が使えなくなるまで追い込むつもりだ!

 でもあたしが求めるのはこれじゃないんだ……!

 ボコボコにされて無様に死ぬのも悪くないけどさ……あたしが望むのは、おまえのあのでっかい剣に斬り裂かれることなんだよぉ!

 

「良い体捌きじゃのう。ずっと頑張ってひとりで魔女と戦い続けた者の動きじゃ。お主、近接タイプの魔法少女ではなかろう? どう見ても中距離・遠距離タイプの魔法少女なのにこの動きができるということは、相当頑張ったんじゃのう!」

 

 当たり前じゃん。

 あんたとの時間を少しでも長く楽しめるように、あたしは近接戦闘の練習したんだ。静海このはたちのコンビネーションだって捌ききるくらいには洗練されている自信がある。そんなあたしが手も足も出ないんだから、あんたがバケモノ過ぎるだけなんだよ。

 

 こっちは必死で躱して受け流し続けているってのに星奈百恵は笑顔を絶やさない。本当に楽しそうな……それで……。

 

 そこまで考えた瞬間、一気に冷えた。

 

「!? おおっ!」

 

 星奈百恵が驚きの声をあげる。そりゃあそうだろうさ。防戦一方だったあたしが、最強の星奈百恵の拳を杖で受け止めたんだから。

 勿論、こんなこと普段のあたしにはできない。力で負けて吹っ飛ばされるのがオチだろうさ。

 でも……今は違う。

 

 あたしはあたしに『暗示』をかけて体のリミッターを外したんだ。

 当然、こんなことをして無理して動けばあたしの体がもたない。だから本当に最後の手段だったし、できれば使いたくなかったんだけど……仕方ない。

 

 杖で拳を受け止めたあたしはすぐに星奈百恵と距離を取る。

 『暗示』の力は使えない。あたし自身に使っているからねぇ。

 

「お主よ……まさか、自分に『暗示』をかけているのではおるまいな?」

「あ~らら、気付いちゃった? そうだよ! 今あたしは限界を超えたんだ! これであたしはあんたとまともに戦える!」

 

 びっくりしちゃったのかなぁ? 力だけは自信があったみたいだからねぇ。

 多分初めてなんじゃないの? 自分が放った拳を受け止めたやつなんてさぁ。

 

 ほら、これであたしはあんたにとって脅威になったでしょ?

 後ろで見守っている七海やちよも御園かりんもめっちゃ驚いてんじゃん?

 つまり、あたしはあんたに並べるくらいの力を持ってるってことなんだよ。

 だから……。

 

「阿呆が! そんなことをしてはお主が死んでしまうのじゃ! 今すぐ魔法を解かんか!」

 

 だからそんな……あたしを心配するような顔をしないでおくれよ……!

 

「はあぁっ!? なにあたしの心配なんてしてくれちゃってんの!? バッカじゃないの!」

 

 飛び掛かったあたしを星奈百恵は軽く流す。

 

 そこからは今までと全く逆。

 あたしが星奈百恵に攻撃を仕掛けて、星奈百恵がそれを躱して相殺して受け流す。攻守が逆転した。今はあたしが攻めたてる時なんだ!

 

 ほら、早く武器を出しなよ!

 一発でも攻撃を喰らったらぶっ倒れちまうほど、あんたの防御力が極端に低いことは知ってんだよ!

 それにあたしは……あんたのソウルジェムを狙ってんだよ!?

 あたしと戦い続けてもいまだに輝きを失っていない、その綺麗な銀のソウルジェムをさ!

 

 知ってんだろあんたはさ! ソウルジェムが砕かれたら終わりだってさ!

 だからもし当たっちまったらあんたが死んじまうかもしれないんだぞ! だから……いい加減あたしに手加減するのはやめろよ!

 

「……そうか。お主は知っておるのじゃな」

「あっは! そうだよ! 知ってるんだよあたしは!」

「そうか……そうか……」

 

 それを聞いた星奈百恵はより一層悲しそうな目をあたしに向けてくる。だからなんでそういう目を向けてくるんだよ!

 違うだろうが! あたしはあんたの敵! 神浜を混乱させて、あんたの仲間を傷つけた許せない敵のはずじゃんか!

 なのになんでそんな……まっすぐな、温もりを感じさせる目をあたしを向けてくるんだよ……!

 

「てめぇ、いい加減……にっ……」

「いい加減にするのはお主……じゃ!」

「!」

 

 振り下ろしたあたしの黒い杖が宙を舞った。星奈百恵のカウンターパンチが炸裂したからだ。

 多分今までは手加減してくれていたんだろうね。だって……今喰らったパンチはさっきまでと比べ物にならない威力があったから。

 武器を使っていない時点で手加減しているのはわかっていたけどさぁ……まだ力をセーブしていたのかよ……!

 

 そしてその衝撃はこちらの体にまで及んだ。

 

 腕が痺れて動けない! 全身が震えあがっているような痛みがあたしの体を硬直させた! 声すら出ない!

 そんな……ソウルジェムのおかげで体への痛みは軽減されているはずなのに……そもそも『暗示』のせいで無茶な動きもできるようになっているはずなのに……それでも、動けなくなるくらいのダメージが!? 直接受けたわけじゃないのに!?

 

「歯を食いしばるのじゃ。私の拳骨はちと痛いぞ?」

 

 あたしの耳に……言葉の内容とは裏腹に穏やかで、どこか安心できるような声が届いた次の瞬間、あたしの脳天にありえない衝撃が走ると同時に、目の前で星が弾けた。

 

「あっ……がっ……」

 

 殴られた。頭を思いっきり。

 それだけしか、あたしは思考することができなかった。

 

 脳味噌がぐっちゃぐっちゃになりそうなほど頭が揺れる。

 やっば、めっちゃ痛い……首がもげそう……。でも、それだけだった。

 別に首が吹っ飛ぶわけでも頭が潰れるわけでもなければ、気絶することもない。思いっきり手加減されていることがわかる拳骨があたしに炸裂したんだ。

 

 魔力も尽きて……限界を迎えたあたしの変身が解け、その場に崩れ落ちた。

 変身を維持することができなくなった。あたしの目の前に……ほとんど真っ黒になったソウルジェムがころころと転がる。

 そんな……こんな終わりがあってたまるか……!

 

 あたしはソウルジェムに手を伸ばす。

 諦めて堪るか……! ようやく、ようやくここまで来たんだ……! もう少しで最高のフィナーレを迎えるんだ……!

 気合を入れて手を伸ばす。あと少しで届くというところで……。

 

「もうよい、休め」

 

 星奈百恵にひったくられた。そして惜しげもなく、着物の中から取り出したグリーフシードである程度浄化する。全部じゃない。

 本当に……あたしが魔法を使えず、そして魔女にならない程度まで調節して浄化していた。器用なことを……。

 

「かりん、これを。良いか? 絶対に粗末にしてはならぬぞ?」

「は、はいなの」

「うむ。あとグリーフシードをすぐに取り出せるように用意しておくのじゃ。今はまだ使わなくてよい」

「わかったの」

 

 今や星奈百恵に代わる神浜の傭兵である実力者の御園かりんが、大人しく従っていた。

 やっぱり……すげぇよ、あんたは。

 

 ああくそ、あたしだって一応頑張ったんだけどなぁ……それでも、こいつに全力を出させることすらできなかったのか。

 

「失礼、遅れました」

「全く、三百数えるの、地味に大変だったわよ……!」

 

 そして……常盤ななかと、ご丁寧に三百数えていたらしい静海このはが来た。

 ほかのやつらは……多分このふたりに託したんだろうね。それか常盤ななかが相手していた魔女との戦いを交代したのか……まぁ、どうでもいいか。

 

「あーあ。あたしの負けかぁ」

 

 こうなっちゃあ、お終いだね。

 ソウルジェムは取られているから自分で砕くこともできないし、魔女になろうにもすぐに浄化されちまう。……だったら!

 

 あたしは常盤ななかに目を移した。

 

「……なんでしょうか?」

「あっは! 常盤ななか、あたしはさぁ……あんたのこと、魔法少女になるずぅっと前から知ってんだぁ……!」

「!……ということは……」

 

 あはっ、やっぱり疑って……いや、これはもう確信してたねぇ?

 でも言ってあげるよ。犯人の口から直接聞きたいでしょ?

 真実ってやつをさぁ!

 

「ネットで見たんだ。『華道の天才美少女』とかなんとか書かれている記事! それ覚えててさ~……だからね! だからね! 魔女を操って何しよっかな~って考えてた時にピーンときたの!――あの澄ました可愛らしい女の子の人生……ぐちゃぐちゃにしたらどうなるかなーって!」

「…………」

 

 あははっ、どんどん常盤ななかの表情が険しくなっていってる!

 いいよいいよ。もっと怒って怒って!

 それでやったことなんてさぁ、ここにいる誰も咎めたりしないだろうからさぁ!

 

「どう? 驚いた? でもさぁ! こっちも驚いたよ! そんな適当な理由で選んだ子がさ、まさか……まさかだよ!? 魔法少女になってさ! 神浜最強の魔法少女とつるんでてさ! しかも魔法少女のヤベー秘密まで知ってんだもん! そりゃビビるでしょ? あっはー!」

 

 あたしが気付いてないと思ったぁ?

 あんたさぁ……あたしのソウルジェムを狙ってたっしょ? 他のやつらとは違って、ピンポイントに、あたしのソウルジェムを奪おうと行動していた。

 うんうん、それが一番あたしを止めるのに手っ取り早い行動だもんね! 賢い賢い!

 

「魔法少女の……秘密?」

「なんのことかしら? 説明してちょうだい」

「あん? そんなに知りたきゃ、あんたらの先生にでも聞けばいいさ」

 

 御園かりんと静海このはは知らなかったみたいだねぇ。まぁ、こんなやっばい秘密知っている魔法少女の方が少ないだろうから驚きはしないけどさぁ。

 でも今、あたしは常盤ななかと遊んでいるわけ。無粋なことしないでよ。

 

「やっぱいいわ……うん……面白い。ぐちゃぐちゃになるのってさ……! あっは! あっはははー!」

「……やめろ」

 

 低い……凄い低い常盤ななかの声があたしの耳にしっかり入った。

 

 ……いいよ! いい!

 本当なら星奈百恵が良かったけど……今のあんた、最っ高じゃん!

 来なよ……もっと挑発してやるからさぁ……!

 

「え? 何か言った? あたしじぇーんじぇん聞こえなーい。あっは!」

「……やめろって言ってんだよ……」

 

 ――そのムカつく笑い声をっ!

 

 ドスの効いた怒鳴り声を出した常盤ななかは……御園かりんの元に向かう! 腰に携える刀に手をやって!

 あっは! やっぱりいいなぁ、澄ましたやつが感情的になっている光景を見るのはさぁ!

 

 いいよ、常盤ななか! あたしのソウルジェム壊しなよ! それで全部お・わ・り!

 今のあんたに殺されるならあたしは満足さ!

 

「ななか、落ち着け! 落ち着くのじゃ!」

 

 でもすぐに反応した星奈百恵に、常盤ななかは羽交い絞めされていた。

 常盤ななかのその手には日本刀が抜き取られていて、御園かりんの目前まで迫っていたっていうのに……! 星奈百恵ぇ……!

 

「えっ!? えっ?」

「ななかさん? どうしてソウルジェムを狙って……」

「ななか、あなた本当に……」

 

 御園かりんが混乱して、静海このはが冷静に質問する。七海やちよは確信していた。

 

「……申し訳ありません。百恵さん、もう大丈夫です」

「……わかった。気持ちはわかるが抑えるのじゃ。お主に一線を越えさせはせん」

「……感謝します」

 

 ……あーあ、つまんねーの。

 結局常盤ななかもダメ、かぁ……。

 

「かりん、それにこのは。詳しい話は彼女の処遇を決めてからゆっくりしてあげるわ」

「うむ。今は此奴(こやつ)のことを優先しようではないか。……じゃがの。少し、私に任せてはもらえぬか?」

 

 星奈百恵があたしの元に立つ。

 やっぱり、あたしを楽にしてくれるのはあんたなのかな……。

 

「なに? あたしを真っ二つにでもする? あんたが斬り殺してきた魔女みたいにさ」

「そんなことするわけなかろう? 少し、話をせんか?」

「あたしと? いーよ。負けちゃったし、勝手に死ぬこともできないし、してあげるよ」

 

 って言ってるけどさ。本当は嬉しかったんだ。やっぱりこいつは……あたしを見てくれているんだってな。

 今日初めて会ったばっかりだってのに、こんな気が狂ったことをやってるってのに、まだこいつはあたしを見てくれている、ってさ。

 

「そうか。ありがとう」

 

 変身を解いて、少ししゃがんであたしと目線を合わせてきた。

 

 綺麗な目だった。

 その青みのかかった瞳にはあたしへの敵意なんて微塵もない。

 温かくて……受け入れてくれるような、そんな目だった。

 

 なんとなく直視できなくなったあたしは少し目を反らした。

 すると星奈百恵は、くつくつと笑う。

 

「照れ屋さんじゃのう。そんなお主にの、ひとつ聞きたいことがあるのじゃ」

「……なに?」

「お主は私になにか言いたいことがあるのであろう? じゃから、どうかそれを教えてくれぬかの?」

 

 ……そうかよ。こいつ……やっぱりあたしを……。

 ……いーよ、それじゃあ、教えてやるよ。あたしの全てをさぁ……。

 

「あんたはさ、いいよなぁ、星奈百恵……。才能にも、仲間にも恵まれていてさぁ」

「……そうじゃのう。私もの、自分が色んなものに恵まれていると思っておるよ」

 

 謙遜しないのかよ。

 まぁでも、そこで「そうかの?」って聞き返して来られるよりも数倍マシだね。

 

「それに比べてさぁ……あたしはなーんにもなかったんだよ。碌でもない両親に育てられて、暴力ふられて、それで勝手に死なれてさぁ。施設に預けられても独りぼっちでさ、学校でもいじめにあってさぁ……」

「うむ……」

「でもさぁ、あたしは自分が魔法少女になってさぁ、世界が変わったと思えたんだよ」

 

 今までとは違う、自分になれたと思った。

 ちょっとした怪我なんかすぐに癒えて、病気にもならない健康的な体。

 願いが叶った結果、少しはマシになったあたしの環境。

 そして……初めてできた、あたしのたったひとりの友達。

 

「大切にしようと思っていたんだ。あたしなりのやり方で、大切なもの……瀬奈と一緒に、ずっと生きて行こうって思っていたんだ。こんな冷たい世界から抜け出してさ、世界の裏側でひっそりと、さ……」

「うむ……」

 

 ああ、なんでかなぁ……。

 今でも鮮明に思い出すよ。

 

『わー! 響きが似てるね! 帆奈と瀬奈! よろしく! 帆奈ちゃんって呼んでいい?』

 

 瀬奈、あんたと初めて出会った、あの日のことをさぁ。

 

 ちょっと猪突猛進で、思い込みが激しいところはあったけどさ……。

 明るくて、優しくて、いつも全力で、頑張り屋でさぁ、こんなあたしと一緒にいても嫌な顔ひとつしなかった、あたしの唯一の友達。

 

 今でも頑なにあんたの下の名前を呼ぶ気はないけどさぁ、それはあんたのせいなんだよ?

 たったの漢字一文字とはいえ響きが似ている名前同士……あたしはそこに、確かな繋がりを感じたんだ。その繋がりを大事にしたくて……あたしは、『瀬奈』ってずっと呼んでいたんだよ。

 

 楽しかったなぁ……瀬奈と一緒にいたあの時間が。

 とっても短くて、儚い泡沫の夢だったけどさぁ……。

 甘くて、とっても幸せな、それこそいつまでも続けばいいなって思えるような、そんな時間だったんだ……。

 

「でもさぁ、守れなかった。唐突に、あたしの宝物は壊れちゃったんだ」

「……そうか。それでは瀬奈みことは……」

「そうだよ。瀬奈は魔法少女として戦って、ソウルジェムが濁り切って……魔女になっちまったんだよ……!」

 

 今でも鮮明に思い出すよ。

 あの日……瀬奈が断末魔を上げながら魔女になった、あの地獄の瞬間がさぁ!

 自分に暗示をかけても夢の中に出てくるんだ。

 この神浜大東団地の屋上で! 瀬奈が大好きだったこの場所で!

 瀬奈が魔女になるあの光景が! 何回も何回も!

 

「なぁ……どうして、どうしてなんだよぉ……」

 

 ちっくしょう。

 あたしらしく、気持ちよくフィナーレを迎えようと思っていたのに……本当に思い通りにさせてくれないし……なってくれないなぁ。

 だからあんたのことが嫌いなんだよ星奈百恵ぇ……。

 

 あたしは星奈百恵に縋りついて……無様に涙を流して顔をぐちゃぐちゃにしながら、ずっとずっと、言いたかったことを口にした。

 

「どうして瀬奈を……あたしを……助けてくれなかったんだよぉ……!」

 

 あんたは神浜最強なんだろ?

 必ず助けに来てくれるんだろ?

 どんなやつにだって手を差し伸べてくれるんだろ?

 あの堅苦しい和泉十七夜がそう言っていたじゃないか。

 なのにどうして助けに来てくれなかったんだよぉ!

 

 あんたのその出鱈目な力でさぁ!

 使い魔や魔女なんてすぐに倒してさぁ!

 他人に平気で譲るくらい、こんなあたしにも使ってくれるくらい有り余っているグリーフシードがあればさぁ!

 瀬奈は魔女にならずに済んだじゃないかよぉ!

 

 わかってんだよぉ! こんなのただのあたしの八つ当たりだってさぁ!

 でも……こうでもしないと本当に気が狂っちまいそうだったんだよぉ……。

 

 悪夢の中で瀬奈が言うんだよ。

 

『どうして……あのとき星奈百恵さんに助けを求めてくれなかったの?』

 

 ってさぁ!

 それで何回(うな)されて、飛び起きたことか……!

 

 ああ、そうだよ、そうなんだよ!

 そもそもの話、あたしが変に意地を張って拒否しないで、和泉十七夜の誘いに乗って星奈百恵を紹介してもらえていたら……瀬奈は助かったかもしれないんだ!

 

 もちろん瀬奈はそんなことを言うようなやつじゃない! 全部全部、あたしが生み出した妄想だ!

 でもさぁ……それでも、あたしのせいで瀬奈が死んじゃったって考えるとさぁ……瀬奈があたしのことを恨んでいるんじゃないかって、嫌いになっちゃったんじゃないかって思えちゃって……辛くて辛くて仕方ないんだよぉ……。

 

「だから……あたしはずっと、あんたに断罪されることを願っていたんだよぉ……」

 

 瀬奈が憧れた……漢字一文字って言っても確かにあたしと瀬奈と名前の響きが似ている、神浜最強の魔法少女、星奈百恵。

 あんただけが、あたしの罪を裁いてくれる。そうあたしは信じたんだ。

 

 だから……あたしは堕ちるところまで堕ちることにしたんだ。

 魔女を育てて襲わせて、無関係なやつを不幸にして……そんな、魔女みたいなことを繰り返して、そして大きな事件を引き起こせば……きっと星奈百恵があたしを裁いてくれる。

 綺麗に、鮮やかに、美しく、格好よく、魔女を倒すときみたいにさぁ、あの大きな正義の刃で……あたしを断罪してくれる。そう信じてここまでやってきたって言うのにさぁ……!

 

「なんでなんだよぉ!? なんであんたはあたしを殺してくれないんだ! なんでこんなあたしをまだ見てくれるんだよぉ!?

 あんた正義の味方なんだろ!? あたしは何人もの人間の人生を滅茶苦茶にしてきたんだよ!? あたしの我儘のためにさぁ!

 あんたを理不尽に嫌って、勝手に恨むような、そんな……魔女みたいなあたしを、今になってどうして助けようとしてくれるんだよぉ!」

 

 本当に意味が分からない!

 こんなどうしようもないやつ、さっさと斬り殺しちゃえばよかったのにさ! 常盤ななかにソウルジェムを壊させればよかったのにさ! そうした方が早かったはずなのにさ!

 今だって、あたしを無力化したんだからこんな話なんてしないでとっとと殺せばいいのにさ!

 なんでこいつは……!

 

「……そうか。そういうことであったか」

 

 ひとしきり声に出して訴え終わった時、今まで相槌を打つだけだった星奈百恵が口を開いた。……ようやく、かな。

 あたしの望み、叶えてくれるのかな……それとも、もっと無様な方法であたしを殺すのかな。

 まぁ、どうでもいいや。どうせあたしは……。

 

「ありがとう」

「……は?」

 

 なに言ってんのこいつ……。

 ありがとう、だって?

 

「どんな理由であれ、お主に恨まれることで、私がお主に生きる希望を与えられたのでならば、こんなに嬉しいことはない。私に頼ってくれて、ありがとうなのじゃ」

 

 ……意味が分からない。

 自分を恨んでくれてありがとうだって?

 なんだそれ。

 

 あたしが生きられるなら……自分が恨まれても構わないって、本気で言ってんのかこいつは……!

 

「な、なに言ってんだあん――」

「――よい。もう、よいのじゃ」

 

 そう言って……星奈百恵はあたしを抱きしめる。そして右手で頭を撫でてくれた。

 それは決して乱暴なものじゃなくて、ゆっくり、ゆっくりとした……とても温かくて、安心できるものだった。不思議と落ち着くことができた。

 静海このはたちが頭を撫でられて安心できるっていた意味が、少しだけわかったような気がした。

 

「すまなかったのう。私はお主の友達を助けることができなかった。自分でも許せぬと思っておるよ。

 まさか私という者がいながら、この神浜で魔女になってしまう者をふたりも出してしまうとはの。

 お主が恨むのも尤もじゃ。

 肝心な時に力になってあげられなくて……本当に、申し訳なかったのう……」

 

 なんであんたが謝ってんだよ……!

 あんたはなにも悪くないじゃないか。悪いのは全部あたしなんだよ。

 それなのになんで……なんであんたが、そんなに悲しそうな顔をするんだよ。

 なんで……あたしに優しくしてくれるんだよ。

 

 この世界はあたしに冷たかったはずでしょ?

 神様はあたしに二度も微笑むはずがないんだ。こんな都合のいい話があってたまるか。

 あたしを……許してくれる存在なんて、あたしの味方になってくれる存在なんて、どこにもいるはずがないんだ。どこにもいるはずが……ないのに……!

 

「二年も待たせてしもうて、すまなかったのう。でももう大丈夫じゃ。

 ちなみにじゃがのう? 私は正義の味方ではないぞ。私はの、この神浜の全ての魔法少女の味方じゃ。

 もちろん……お主とて、例外ではないぞ更紗帆奈よ。

 じゃから私はなにがあっても、どんな事情があったとしても、お主の味方じゃからの」

 

 今、あたしを優しく包んでくれている、この小さくて、変な喋り方をしていて、ずっと嫌いだったけど、あたしの唯一の希望だった、神浜最強の魔法少女、星奈百恵は……しっかりとした声でそれを言い放った。

 あたしの味方になるって……言ってくれたんだ。

 

「大丈夫じゃ。もう、大丈夫じゃからの。この二年間、よくひとりで頑張り続けたのう。偉かったのう。これからはもっと私に甘えるとよい。今まで頑張っていた分、肩の力を抜いて、楽になってよいのじゃよ」

「……ぐぅ……ううぅ……」

 

 気付けばあたしは……星奈百恵に抱き着いて泣いていた。

 とっても小さくて、華奢な体だったけど……とても大きく感じたんだ。

 温かかったし、優しかった。柔らかくって心地よかった。

 

「……そろそろ、いいかしらね?」

 

 物凄く気まずそうな声で、七海やちよが話しかけてきた。

 星奈百恵が首を縦に振るけど……それでもあたしを抱きしめたまま放さなかった。むしろ力が少し入ったように思える。

 本当に、あたしを守ろうとしてくれているんだ。逃げないように押さえつけているようには、不思議と感じなかった。

 

「……いーよ、もう」

 

 ある程度泣けたし……なんでだろうね、凄いスッキリしているんだ。

 こいつに斬り殺されることを願っていたのにさぁ……今はもう自分から死ぬ気は全くなかった。

 尤も、ここで誰かが死ねというなら受け入れるつもりだけどさ。

 

「……あらかたの事情は分かったわ。それを踏まえた上で更紗帆奈、あなたの処遇を決めるわ。――まずは、常盤ななか、そして静海このは。あなたたちの意見を聞きたいわ。きっとあなたたちが一番の被害者ですもの。私はそれを尊重するわ」

 

 ああ、そうだね。

 きっとあたしを一番に恨んでいるのはこのふたりだ。だったら……このふたりの言うことは聞かないとね。

 

 まず最初に常盤ななかが口を開いた。

 

「……正直今すぐにでもソウルジェムを叩き割ってやりたいところですが……いいでしょう。今回はこれで手打ちにします」

「……いいの? あたしはあんたの家、滅茶苦茶にしたんだよ?」

「私を足止めしていた魔女、あれが答えでしょうから」

 

 やっぱり気付いていたのか。

 あの魔女が常盤ななかの家を滅茶苦茶にするために放った魔女だって。

 

「私は目的を達成できましたが……違う目的を見つけました。更紗帆奈さん、あなたが二度と、こんな馬鹿な真似をしないように監視するという目的を」

「そんなまどろっこしい事しなくてもさ、ここで殺しちゃった方が簡単じゃん?」

「なぜ私があなたの命を背負わなくてはいけないのです? あなたは……まぁ、今までよりかはマシになるかもしれませんが、それでも厳しい現実で生きていただきます。死んで逃げるなんて、楽な道を選択させませんよ」

 

 いまだにあたしに対する殺意は消えてなかったけど……それでも、常盤ななかは猶予をくれた。

 あたしが次に、こんな馬鹿みたいな事件を起こさなければそれでいいと。

 

「今度は私ね。私も正直なところ、あなたを許す気はないわ。……でもね、感謝している私もいるのよ。おかげで視野が広がったし、いろんな人たちと仲良くできたから」

 

 静海このはは静海このはで、あたしに感謝しているとか言っている。

 

「それにね……あなたを見ていると、ほんの数週間前までの私を思い出すのよ。自分だけの小さな世界だけに引き籠って、その小さな世界を守ることだけに一生懸命になって、それを脅かす周りが許せなくて……。きっとあなたは、あったかもしれない未来の私なのよ。私だってあの時のまま、ここにいるみんなを信じないで、葉月やあやめが目の前で魔女になったら……壊れる自信があるわ」

 

 だからあたしがこんな暴挙に走った気持ちがわかる、そう静海このはは言った。

 

「そう……。それがあなたたちが決めたことなら、私から言うことはなにもないわ。ただし、神浜に混乱をもたらした罰は受けてもらうわよ」

 

 最後に口を開いたのは、七海やちよだった。

 七海やちよ自身はあたしに対する恨みは……十咎ももこが襲われたことかな?

 あたし色んな事やってきているし、死ぬつもりだったから何にも考えてなかったし、どこでどう恨み買っているのかわかんないんだよね。

 

「そうですね。まずは危険な『暗示』の魔法を捨ててもらいましょうか」

「……そうね。それがないだけでも危険性は減るわ」

「わかったよ」

 

 七海やちよに差し出された、あたしのソウルジェムに少し触って、あたしは『暗示』の魔法を解除した。

 瀬奈との唯一残った繋がりの魔法だったけど……それをこんな風に悪用しちゃった以上、もう使うわけにはいかない。

 ごめんね、瀬奈。一緒に研究してきた大切な魔法だったけど……お別れだよ。

 

「はい、もう捨てたよ。ついでに全ての『暗示』を解除したからさ、もう眠っている魔法少女、みんな起きてるんじゃないかな」

「……本当に捨てたかどうかは知らないけど、まぁいいわ。信じてあげる。次は、ななかが言っていた監視ね。もう大丈夫だと思うけど……一定期間、あなたには監視を付けるわ」

 

 まぁ、妥当だねぇ。あたしへの信頼なんてないも同然だろうし?

 それで、どんな形で監視に付けるのかな? 常盤ななかの家に弟子入りするとか? それともみかづき荘に軟禁されるとか?

 

「その監視の任務、私が引き受けよう」

 

 ……は?

 今もなお、あたしを抱きしめている星奈百恵が名乗りを上げた。

 

「私の家に住まわせよう。マンションじゃが部屋は空いておる。監視は9月までのおよそ二ヶ月間。大学は夏休みに入っておるから私は家にいるし、それだけ監視すれば問題なかろう」

「でも……あなた傭兵の仕事が……」

「それならお主が、ここで更紗帆奈の監視を仕事として私に依頼すればよかろう? 傭兵業はかりんひとりでも回せる。どうじゃ?」

 

 聞いているけど、曲げる気がさらさらないのを感じさせる言い方だった。

 柔軟な思考をしているけど、意外と強引な一面もあるんだね、星奈百恵って。

 でも……そういうところ、あたしは好きだよ。

 

「わ、わたしは大丈夫なの! 先生が仕事に集中できるように、頑張れるの!」

 

 そして真っ先に声を上げたのは御園かりんだった。

 真っ先に師匠の意見に賛成して、しかも安心できるように配慮する辺り、さすが弟子なんだなって思う。本気で星奈百恵を慕っていることが感じ取れた。

 

「……そうですか。百恵さんが言うのであれば、私は何も」

「私も文句はないわ」

「……はぁ。いいわ。好きにしなさい」

 

 そして三人が立て続けに折れた。星奈百恵の発言力の高さが実感できる。

 ……まぁ、わかるよ。

 

 こいつ歩いて接したやつらに恩を売るのが物凄くうまい。

 自然な感じで介入してきて、さらっとこなして好感度を上げているんだ。多分計算しているんだろうけど、それがこいつの素でもあるから憎めない。

 そうやって自分を慕う味方を増やして……今の地位を確立させたんだろうな。

 あたしだって嫌いだったはずなのに、真正面で向き合ってしまったが最後、もうこいつには頭が上がらない。不思議と反発する気が削がれてしまう。

 

「ほれ、ソウルジェムじゃ。これはお主のものじゃからの。返すぞ」

「……いいのかよ? あんたが持っていればいいじゃん?」

「言ったであろう? 私はお主の味方じゃとな。私はお主を信じておる。じゃからなーんにも問題はない。それに問題を起こすようなら、今日と同じ拳骨をお見舞いしてでも止めてやるからの」 

「うへぇ……」

 

 あれをもう一回喰らうのは御免だなぁ……。

 死にはしないけど滅茶苦茶気持ち悪くなるし、それ以上に凄い痛いし。

 ま、そんなことしないからいいんだけどさ。

 

「……わかったよ。大人しく、あんたに従ってやるよ」

 

 たださぁ……なんだかさ、このまま素直に従うって言うのもあたしらしくないよね?

 だから……。

 

「せっかくだし、あんたのその出鱈目な力。あたしも使うとするよ。あっは!」

 

 あたしの新しい固有魔法……あんたとお揃いにするよ! いいよね? そんなに厄介そうな魔法じゃないしさ。

 っていうかなにこの力!?

 体の内から漲ってくるような……。やっば! これが星奈百恵の力の源……酔っちゃいそうなくらい心地いい……。

 

「うにゃあっ!? お主よ、まさか私の魔法をコピーしたのか!?」

 

 あの星奈百恵が目を真ん丸にして驚いている!

 こいつ、こんな表情もできるのか! なんていうか、可愛いところもあんじゃん。おばあちゃんみたいに落ち着いていると思ったけどさ!

 

 七海やちよと常盤ななか、御園かりんの三人は驚いているけど……互いに顔を見合わせてなにか話をしている。

 多分念話だろうけど……なにを喋っているんだろうね。

 

「お主よ……はぁ、よい。じゃが私の魔法は、お主とそんなに相性がいいとは言えぬぞ?」

「いいんだよ。あたしが欲しいって思ったから、もらったんだから」

 

 たしかにこれ、魔法って言うより単純な身体強化っぽいね。しかも常時発動している成長型の。始めは漲っていた力がどんどん馴染んでいくのを感じる。

 

「ひとつ聞く。お主は今、いくつじゃ?」

「え? 15歳。一応、中学三年生だけど?」

「……そうか。ならば、その魔法を使うのはお主が高校生になるまでじゃ。それ以上は許さん。よいな?」

「え? まぁいいけど……」

 

 なんだ? 今の星奈百恵の真剣そうな顔。そんなに危険な魔法なの、この魔法……。

 まぁ、もうあたしはこいつに従うって決めたから、言う通りにするけどさ。

 

「ああ、そうだ」

 

 これからあたしは、こいつん家に厄介になるんだった。

 なら、一言挨拶しないとね。

 

「じゃーさ、お世話になるよ。……星奈」

 

 あたしと似ている名前、しかもそれが苗字……奇しくも瀬奈と特徴が同じだ。

 

「みょ、苗字を呼び捨てとは……十七夜を彷彿とさせるのう……」

「あ、それはなんかヤダ」

 

 よりにもよってあんな堅っ苦しいやつと一緒なのはちょっと勘弁だ。だったら……。

 

「セーナ……うん! あたし、あんたのことセーナって呼ぶよ!」

 

 『ほしな』を別の呼び方にすると『せいな』。だからセーナ!

 すっご! 伸ばし棒を入れただけで、瀬奈とほとんど一緒じゃん!

 

「まぁ、お主の好きに呼ぶとよい。それじゃあ、今日は帰るかの。帆奈」

「うん! 一緒に帰ってあげるよ、セーナ!」

 

 ああ、瀬奈。見つけたよ。

 あたしの新しい世界が……あたしの新しい居場所が。

 あたしが信じられるひとが、さ。

 

 まぁ、しばらくの間、あたしはセーナに連れまわされて、あたしが今まで迷惑をかけた関係各所に謝り倒したんだけどね。自業自得とはいえ……ちょっときつかったよね。

 でもおかげでスッキリできたよ。

 

 ありがとう、セーナ。……大好きだよ。

 

 

 

 

 




長かった(小並感)。

帆奈ちゃんだけで33000文字オーバーとかなんやこれ。でもすごく楽しかったです。

次回はRTAパートですよー。
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