マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート 作:スパークリング
さぁ、連休入ったし始めてイキますよ~イキますよ~イクイク……ヌッ!
あたしがあんなバカな事件を起こしてから一週間程が経った、ある日のことだった。
「帆奈よ、私と一緒に料理教室に行こう」
少し豪華な朝ご飯を食べながら神浜最強の魔法少女、星奈百恵ことセーナがそんな誘いをしてくれたのは。
あたしがセーナの家に来たのは、セーナに監視されるため。
一週間前に起こした事件で9月まで監視生活を強いられることになったあたしは、この神浜最強の目が光るところで軟禁されることが決定した。
正直さぁ、もっと厳しい生活が待っていると思っていたんだよ。だってあたしはさぁ……自分でも結構ヤバいなぁって思うことを普通にやっていたんだしさ。
セーナは味方でいてくれるって言ってくれたけどさ、形だけでもあたしに対して厳しく接するかなって思っていたんだよ。体裁とかもあるだろうしね。
若干冷たい牢屋のようなイメージを想像していたんだ。もっとこう……この部屋から出るの禁止みたいなさ。
でも……待っていたのは、ただただ温かい家だった。
あたしが来て初めに出された夜ご飯はとにかく豪華だった。
まるで久しぶりに家に来た孫を歓迎するおばあちゃんのような、そんなレベルの料理が机の上に並べられているのを見て、驚きのあまり顎が外れそうになったよ。
しかも豪華なくせに量はそこそこだったから、その美味しさも相まって普通に食べきることができてしまった。
正直ここまで美味しいご飯を食べたのは人生で初めてだった。
今までずっと、給食やらコンビニ弁当やら栄養食みたいなやつばかりだったからさ。
ほら、あたし魔法少女じゃん? だから栄養バランスが悪い食生活送っていても全然問題なかったんだわ。
でも……セーナの料理は口にしたら最後だった。
もうあたしは以前までの食生活では満足できなくなってしまった。胃袋をがっちりと掴まされてしまった。
そんな風に間接的にだけどさ、逃げられないように拘束されていると考えるとさぁ……ゾックゾクしちゃうよね。
「それって……ウォールナッツのこと? セーナがよく行ってる」
「うむ、そうじゃ」
悪意が一切感じられない笑顔でセーナは肯定した。
神浜最強が料理の上でも最強になれた所以の場所が、ウォールナッツ。北養区にある洋食の名店だ。
そして……あたしが襲った魔法少女が切り盛りしているレストランでもあった。
「昨日まなか先生から連絡があっての。折角じゃし、お主も連れていこうと思ったのじゃよ。一緒にまなか先生に謝りに行こう。他の迷惑をかけた魔法少女たちにもじゃ」
ああ、やっぱりね。
セーナは基本的に意味のないことをしない。こいつが動くときは何かしら意味があるときだけ。ただの思い付きで、あたしを連れ回すことなんてしないと思ってはいた。
あの時は死ぬことしか考えていなかったから、後先のことなんて全く考えない行動ばっかやっていたからねぇ。
常盤ななかや静海このはたち以外に、あたしが迷惑かけたやつなんて両手の指じゃ足りないほどいるだろうさ。
でも、セーナはそんなあたしを受け入れてくれて……そして、やり直すチャンスまで作ってくれようとしていた。
それを認識して……あたしは夢から覚めていくような気がした。
今日までの一週間……あたしは瀬奈の時と同じか、それ以上のことをセーナに求めていた気がする。
あまりにも温かくて、安心できるこの家に生活していて、セーナに甘えっぱなしだった。
家事全般はセーナがやってくれた。水名女学園に復学するための勉強もセーナが見てくれた。ことあるごとに褒めてくれて、甘やかしてくれた。あたしはそれに漬かりそうになっていた。まだ時々見る悪夢が怖くて一緒に寝てもらうこともあったし、もっとあたしを見てほしくてお風呂にまで押し掛けたこともあった。
それくらいあたしは……セーナに依存しそうになっていた。
でも……今のセーナの言葉を聞いて、あたしはまた、心を改めようと思えた。
セーナはきっと、あたしがもう二度と同じ過ちを犯さないように気を遣ってくれているんだと思う。だからこそ、このタイミングであたしが迷惑をかけた魔法少女に謝りに行こうと提案してくれたんだ。
思えばセーナは、傭兵として常に仕事をしていた時に、魔法少女が自分に頼らなくても生きていけるように指導をしていた。そしてそれが、あたしにも向いたってことだね。
もっと広い世界を見せてやる、そう言ってくれているとあたしは感じた。
「わかったよ。行くよ」
セーナの言わんとしていることが分かったあたしは二つ返事をした。
元から逆らう気はなかったけど……なんていうのかな、セーナの言うことをなにも考えないでなんでも聞いていた昨日までのあたしとは違うって思った。
「うむ! それじゃあ、時間になったら行こうかの!」
朗らかに笑うセーナだったけど……なんでかなぁ。
一瞬だったとはいえ、どうしてそんな、なにかを諦めているような顔をするの? セーナ……。
「いらっしゃいませ……と、お待ちしていました、百恵さん! 更紗帆奈さんも!」
11時過ぎ、あたしたちはウォールナッツに来ていた。
料理教室は11時半からだったからまだ少し余裕があるけど、いつもこの時間に到着するように調整して家を出ているのは、ストーキングしている時から変わらない。
ここの料理人であり、セーナの料理の師匠である胡桃まなかが扉を開けてすぐに出迎えてくれるあたり、彼女もセーナのルーティンを把握しているみたいだった。
胡桃まなかはあたしを見ても特に反応を示さない。
自らを襲った相手なのに警戒する素振りも見せない。
むしろ……温かく迎えてくれた。。
「あのさ……」
「?」
あたしはずっと、誰かに頼らないとなにもできなかった。
瀬奈がいないと碌に魔女退治もできなかったし、セーナがいないと今日まで生きようと思うことだってできなかった。固有魔法ですら、誰かがいないとなにも魔法を使えない。あたしはそんなやつだったんだ。
でも。
「あの時は悪かったよ。あたしがバカだった」
心を改めるって決めたんだ。
もう今までのこの世界から目を背けて、世界の裏側でひっそりと生きようとしていたあたしとは決別するって。
だから……言った。自分から。
ちょっとセーナが驚いている。
多分自然にあたしが謝れるような流れを作ろうとしてくれていたんだと思う。セーナはそういう人だから。
でも、それじゃあダメだって思えるようになったんだあたしは。
「まぁ、寝ていただけですし、もういいですよ。そんなことよりも料理するのは初めてですか?」
結構勇気出したんだけど、あっさり許された挙句流された。
襲われたのは他でもない自分だっていうのに「そんなこと」って……。
「い、いやいや。あんたを大した理由もなしに襲ったんだよ? そんな簡単に許せるのかよ」
「ええ、まぁ。まなかは正直、自覚していませんでしたしね。もし罪悪感を抱いているのでしたら、今後もウォールナッツを贔屓にしてください。それだけで充分ですよ」
……言っている感じからして嘘を言っているように見えないし、セーナに強制されているようにも思えない。本心からそう思っているって伝わってきた。
「そんなことよりもですよ。まなかの質問に答えてください。料理、するのは初めてですか?」
「え、あ、ああ、まぁ……」
「それは勿体ないです! 料理はとっても楽しいんですから! 今日の料理教室、参加していってくださいね!」
「え、あ、うん」
「それでは準備がありますので、また後程! 百恵さんにも失礼しますね!」
そのままのテンションで厨房に行く胡桃まなかを笑顔で「またの~」と軽く手を振っていたセーナの隣で、あたしは生返事をしつつ見送った。
なんかその……物凄く拍子抜けしてしまった。
常盤ななかと同じようにあたしを殺す気で睨みつけてくるか、怯えて拒否するように接せられるか、どちらにしても険悪かつ微妙な雰囲気になると思っていたのに。
「さぁ、私たちも行くぞ。まなか先生も言っておったが、料理は本当に楽しいのじゃからのう。お主にもぜひ身に着けてほしいのじゃ」
あたしの手を引くセーナ。
多分、胡桃まなかに謝罪するだけじゃなくて、監視生活が終わった後、あたしが食に困らないようにする打算も入れて連れてきてくれたんだろうけど、セーナが料理好きなのは百も承知だったから、それも本心なんだろうな。
セーナは本当に楽しそうに料理をする。
朝早くから色々仕込んで少し凝った朝食を作るし、夕方からはあたしに毎回どんなものを食べたいか訊いてから手を付ける。ちゃっかり料理する前に作るものを一通り調べてから取り掛かるあたり、料理に対する情熱がすさまじい。
でもセーナ曰く、それは趣味の一環で料理人になるつもりはないらしい。
正直言って勿体ないなって思った。これだけの腕があるなら充分やっていけるだろうに。
だから気になって踏み込もうと思ったけど、一瞬セーナが遠い目になったからやめたんだっけ。
「こんにちは、百恵先生。それに……更紗さんも」
別室の調理室で料理教室が始まるのを待ちつつそこまで思い返していた時、静海このはがやってきた。
「こんにちはなのじゃ。久しいのう」
「ふふっ、一週間ぶりじゃないですか。そんなに間は空いてないですよ」
「そうかの?」
そのままふたりは和やかに話し始めた。
どうやら静海このはは、他のふたりにも魔法少女の真実を話したみたい。大事な家族で仲間のふたりに隠し事はしたくないからってさ。
普通は墓まで持っていくようなショッキングな真実だったと思うけど、あたしが起こした事件のせいで一皮も二皮も剥けたらしくって、ひとりで抱え込まないで正直に話そうとすぐに思ったみたいだった。
思えば、こいつはだいぶ変わったなって思う。
ずっと前までは自分たち三人以外の誰も信じていなかった静海このはがさ、こうして人と触れ合うようになって、自分の仲間を完全に信じて魔法少女のヤベー秘密を暴露するなんてさ。
あたしが付け狙っていた頃からは予想もつかなかった展開だよ。
まぁ、こいつが変わるきっかけになったのは三栗あやめの影響が大きいんだけどさ、陰から支えていたのはやっぱりセーナなんだよね。
あたしが罠を仕掛けた現場に夏目かこと深月フェリシア、そして常盤ななかを呼んだのはセーナだったし、遊佐葉月と十咎ももこの仲介人になったのもセーナだった。
友達ができた三栗あやめも、元から柔軟な思考の持ち主だった遊佐葉月も、魔法少女の真実を知って少し動揺したみたいだったけど、割とすぐに受け入れたっぽい。
今まで通りに過ごしていれば特に問題はないからっていうのもあったけど、なによりも静海このはが自分たちにもその秘密を話してくれたことが嬉しかったみたいだった。
「そうか……お主はいい親友を持ったのう」
「ええ。自慢の仲間ですよ、本当に」
そこまで話した後、あたしに静海このはが視線を向ける。
そこにはうっすらと柔らかい笑みが浮かんでいた。
「まなか先生に謝りにきたみたいね。でも……せっかくなんだし、楽しんでいきなさい。ここの料理教室、本当にわかりやすいのよ」
あたしのことを完全に許していないと言っていたはずなのに、あたしを気遣う言葉をかけてくれる静海このは。
こいつがあたしにこんな顔を向けてくるなんて、一週間前には夢にも思わなかった。
「……そうさせてもらうよ」
静海このはから目を逸らしながら返事をした。
そこからは普通に料理教室が始まった。
前半はセーナは胡桃まなかの手伝いで他の参加者に指導していたっけ。
「……まぁ、こんなもんか」
料理教室も終盤に差し掛かって、あたしの料理が完成した。
右隣で作っていたセーナとは比べ物にならないほど劣っているだろうけど、初めて料理をした身にしちゃあ、上出来なんじゃないかな。
ここの料理教室は評判通りのクオリティだった。
使っている食材や道具は特別凝ったものじゃないし料理のお題もメジャーなものなのに、普通に作るよりも簡単で、わかりやすく、味も一段上。
確かにここに通い詰めていれば、セーナまではいかずともアマチュアの料理上手程度にはなれるだろうね。
「あなた……やるわね。初めてでここまでできるなんて……。あなたには料理の才能があるわ……!」
「いや、あんたが才能なさ過ぎただけだよ……」
左隣で作っていた、爆笑間違いなしの料理下手だった静海このはも手馴れたもので、本当にあんな凄い料理を作っていたのかと思える程上達していた。
聞けば、最初はセーナから付きっきりで指導を受けて悪い癖を矯正された後、胡桃まなかの後押しもあってそこからぐんぐんと腕を上げていったらしい。
「ぐ……葉月にも同じことを言われたわ」
「驚かれたんじゃねーの? 急に料理できるようになったときはさ」
「……偽物なんじゃないかって疑われたわ」
「ぶっ」
そいつはひでーや! 料理ができる静海このはは静海このはじゃないってか!
というか料理教室に行くって言っていただろうにその反応ってことは、改善されないって確信してたってことじゃねーか!
「容赦ないねぇ、あんたの仲間は」
「本当にね。小さい頃からずっと一緒だったけど、失礼な話よ……」
その後、気が付けば料理教室が終わるまで、あたしは静海このはとずっと話をしていた。
途中でセーナと胡桃まなかが合流して四人で少し喋って、今日は解散になった。
不思議な気分だった。
自分からあんまり仲がいい……というかほぼ敵対していた人に話しかけたことなんて今までなかったし、最後にはあたしの勘違いじゃなければそれなりに自然と喋れていたような気がする。
胡桃まなかは最初っからだったけど、静海このはも料理を通して、あたしを受け入れてくれていた。この冷たい世界であたしを受け入れてくれた人間は瀬奈とセーナだけだったのに……。
それを自覚して、なんとなく胸の中が温かくなった。
「さぁ、次は水徳商店街に行こう!」
セーナはまだあたしを連れ回すつもりらしい。
水徳商店街ってことは……一気にふたりだね。
「うん。わかったよ」
即答した。逃げないって決めたんだから。しっかりけじめを付けに行こう。
優しい笑顔を浮かべたセーナの手を少し握って、あたしたちは水徳商店街に向かった。
「いらっしゃいませ! あら、百恵さん!」
「こんにちはなのじゃ」
「はい! ということはそっちの子が?」
まず初めに訪れたのはフラワーショップ『ブロッサム』。
ここでバイトをしている魔法少女、春名このみ。
彼女もセーナ……というより、常盤ななかの所の夏目かこの協力者で、噂の火消しをしていた魔法少女だった。
「あたしが更紗帆奈だよ。その、悪かったよ。あたしの身勝手で眠らせちゃってさ」
すぐに素性を明かして謝った。あたしが絶対にやらないといけないことはこれだからね。
さっきの胡桃まなかが特別だっただけで、あたしの知る限り普通の女の子で普通の魔法少女である春名このみにはさすがに警戒されるだろうと思ったから、話しかけやすいうちに謝った。
……んだけど。
「ううん、いいのいいの! かこちゃんから軽くだけど聞いているし、正直襲われたことすら気付かなかったしね! ただちょっと何日も寝てたことにはびっくりしちゃったかな」
……またもやあっさりと許してくれて流されてしまった。
どうやらあの夏目かこが説明してくれたらしい。敵だったはずなのにお人好しなやつだ。
まぁ、夏目かこの本屋を燃やすきっかけを作ったのは、あたしじゃないんだけどねぇ。
実際、常盤ななかが率いていたチームであたしが関わっていたのって、常盤ななかだけなんだよねぇ。
志伸あきらは付き合っていただけだし、
「ちょっと待っててね。えーっと……はい! これ!」
そして少し店内に走っていったと思ったら、色とりどりの花が植えられている鉢植えが入ったビニール袋を持って戻ってきた。
赤にピンク、青と白い花が咲いているけど、全部同じ花みたいだ。
「これはエゾギクって言ってね。アスターって言った方がわかりやすいかな?」
「いや……どっちも初めて聞くけど……」
「ふふっ、そっかぁ。ちょうど夏の今、綺麗な花が咲くんだよ。だから持って帰って飾ってあげてね! お部屋に少しお花を添えるだけで全然違うんだから!」
なにが「だから」なのかがよくわからないんだけど……そういえばこんな子だった。
遊佐葉月にも花を渡していたみたいだし、自分が関わった魔法少女にそっと花を添えることがこの春名このみっていう魔法少女なんだろうな。
そしてそれは……理不尽な迷惑をかけたあたしも例外じゃなかった。
「……ありがとう。なるべく長く咲かせてみせるよ」
「うんうん、そうしてあげて! これからも『ブロッサム』を贔屓にしてね!」
胡桃まなかといい春名このみといい、商魂逞しい。そして……優しくて温かい魔法少女だった。
道理でセーナとプライベートでも仲良くなれるわけだ。
エゾギクが植えられた鉢植えを受け取って、あたしたちは『ブロッサム』を後にした。
そして次に向かうのは……商店街の奥の方にあるスペース。エミリーのお悩み相談所だった。
「おっ、ヒャックエ先輩じゃん! おひさ~! んでんで! そっちの子があきらっちたちが言ってたさらはん?」
「さらはん?」
それってあたしのこと?
「更紗帆奈だから『さらはん』! うん、呼びやすい!」
「ははは……。エミリーちゃんはこういう子なんだよ」
アシスタントをしている志伸あきらが苦笑している。
こいつとも敵同士だった気がするんだけど……全然あたしを警戒していないみたいだ。
木崎衣美里に至ってはさっきまで会ったふたり以上に、今回の事件を気にしていないことがわかる。
「いや、まぁ、それはいいや。……悪かったよ。あたしの我儘に巻き込んじまってさ。そっちのあんたもな」
「え? 別にいいんじゃね? あーしはなーんにも気が付かなかったし、そういうこともあるっしょ」
やっぱりなんにも気にしてなかったみたいだった。
「そういうこともあるっしょ」って……ねーだろ普通。
「ボクは君になにかされたわけじゃないし、他のみんなが良いって言うなら何も言わないよ」
志伸あきらも特にあたしに対して負の感情はないみたいだった。
あたしの感覚が狂ってんのか? 結構ヤバいことをやらかしているはずなんだけど……。
「こんにちはって、ああーっ!」
「どうしたの? って、あ!」
若干困惑していると、相談所にやってきたふたり組があたしに気が付いて声を上げていた。
確かこいつらは……竜城明日香と美凪ささらだっけ?
「あなたは更紗帆奈さん! ですよね!」
「……まぁそうだけど」
「つい先日、この神浜で大きな事件を起こした犯人の!」
「……そうだよ」
竜城明日香があたしに厳しい顔して詰め寄ってきた。
ああ、そうそう。こういうのだよ。やっぱりあたしの感覚は狂っていなかった。
こういう反応をされたりするのが普通なんだよ。
ましてや、木崎衣美里はこいつらの友達なんだ。さっきの胡桃まなかとも仲が良かったかな?
なんにせよ友達を理不尽に傷つけられて、怒らないやつなんかいない。
今まであたしを許してくれたやつらは、少し甘いところがあるとはいえみんな当事者だったから割り切ることができたんだろうけど……完全な第三者視点じゃあ、割り切れないのが当たり前。
正直言って、安心した。
このまま何事もなく、あっさり許されたりしたら逆にあたしがどうにかしちゃいそうだったから。こうして突っかかってきてくれて、素直に嬉しかった。
「あたしはあんたらの大切なやつを傷つけた。あたしの身勝手な我儘のせいでね。他にも色んなやつらを巻き込んでさ」
「……どうしてそんなことをしたの?」
「簡単に言っちゃえばさぁ……死にたかったんだよ」
「!」
「…………」
瀬奈が魔女になってから、あたしが望み続けていたのは誰かに殺されることだった。
瀬奈を魔女にさせずに済んだかもしれないのに、あたしの思い込みと堅い考えのせいでそれをふいにしてしまった自分に、罰を与えてほしかったんだ。
だからあたしは絶対に許されないようなことばかりしてきた。
碌でなしになれば、きっと誰かがあたしを裁いてくれる。そんなバカなことを考えちまった。
結局目論見が外れて今もこうして生き続けて、もう自分から死のうだなんて思わなくなっちゃったんだから身勝手にもほどがある。
「あたしは自分のために死のうとして……それで今は自分のために生きようとしている。虫のいい話だと思うよ。あたしだって、今こうして過ごせているのが信じられない」
セーナがあたしを受け入れてくれたとしても、常盤ななかや静海このはに殺されると思った。七海やちよから死ぬよりもつらい罰を与えられると思った。
でも、待っていたのは温かい場所だった。
神浜最強の監視っていう名目だけど、実際にはセーナに甘えっぱなしの楽園だった。
そのセーナはあたしが自立するための下準備までしてくれていて、それであたしは……瀬奈が魔女になって以来ずっと前向きになれなかった、この世界で生きていくことに希望を持てるようになった。
だからあたしは、今までのあたしと決別するために動こうって思ったんだ。
バッシングを受けても、それは自業自得。暴力を振られることだって、罵声を浴びることだって覚悟していたのに……みんなあっさり許しちゃうんだからさぁ。
「あたしはあんたらに、なにをされてもなにを言われても構わないよ。……でもさ、これだけは言わせてほしいんだ」
信じられないと思うけどさ……あたしの本心である、この言葉だけは、聞いてほしいんだ。
「本当に悪かった。あんたらの大事なやつ、傷付けるような真似しちゃってさ」
今日初めて、あたしは頭を下げて謝った。
今までも頭を下げて謝りたかったけど、そうする前にあっさりと許しちゃうもんだからできなかったんだよね。
当事者じゃないやつにやったところで大した誠意も感じられないと思うけどさぁ、これがあたしができる精一杯なんだよ。
あたしには人を幸せにする魔法なんて使えない。償えと言われても……肉体労働くらいしか提供できないから、こうして言葉にするしか手段がないんだ。
「ほら、明日香。もういいでしょ?」
あたしが頭を下げて十秒ほどしたとき、比較的落ち着いていた美凪ささらが竜城明日香に嗜めるような言葉をかける。
「……そのようですね。それならいいんです。もうこんなことしてはいけませんよ!」
そして竜城明日香はあたしの顔を上げつつそう叱咤してきた。
彼女たちの顔にはもうあたしに対する怒りはないように見えた。その代わりに……なんだか凄い、温かいものがそこにあった。
「分かってるよ」
なんとなく恥ずかしくなったあたしは、竜城明日香から顔を背けた。そのあと無言でセーナに頭を撫でられた。それも物凄く温かくて……余計に居心地が悪くなる。
なんだこれ。
機嫌が悪いわけじゃないのに、今すぐにでも逃げ出したい。
「失礼します。ああ、やっぱりここにいらっしゃいましたか」
そんなあたしにとって、このタイミングでこいつが来てくれたことは救いだった。
口ぶりからしてどこからかから情報を仕入れてやってきた、眼鏡をかけた魔法少女……常盤ななか。
こいつには今まで謝ってきたやつら以上の負い目があるけど……なんだろうな。不思議と好感が持てるんだよね。
「おいーっす、衣美里元気かー? って、百恵もいんじゃんか。ということはそっちが……」
そして遅れてきたのは……中央の相談役である大物魔法少女、都ひなのだった。
そうか。そういえば都ひなのは木崎衣美里と交流があったんだっけ?
訝し気な視線をあたしに向けてきた都ひなのだけど、すぐにセーナに絡まれて連行されていった。どうしたんだろう。
「……どうやら本当に心を入れ替えたみたいですね」
そしてしばらくあたしを見ていた常盤ななかがおもむろに口を開いた。
いつも通り澄ました笑みを浮かべて、なにか面白いものを見るような目をしてさ。
「さぁね。フリをしているかもしれないよ?」
「ふふっ、そうでないと断言できますよ。私の魔法が一切反応していませんから」
「……つまんねーやつ」
見透かされているような気がして面白くないあたしは憎まれ口を叩く。
すると常盤ななかはわざとらしそうに驚いて口に手をやっていた。
「まあ、他の人にはしおらしく謝っているって聞いていましたが、私にはそれですか。これは百恵さんに言いつける必要がありそうですね」
「ちょっ、それはやめてって!」
こんな冗談なんかでセーナに失望されたくないし、鉄拳制裁を受けるのも嫌だ!
あれ以来受けてないけど、ちょっとでも怒らせたら笑顔で拳骨が飛んできそうで怖いんだよ! あいつ滅茶苦茶優しいんだけどさ、怒ったときとガチで戦うときは本気で怖いんだからさ!
「なにをしておるのじゃ、全く」
丁度都ひなのと話をすませたらしいセーナがあきれた様子でこっちにきた。
様子からしてあたしたちのやり取りを見ていて、常盤ななかが言っていることが質の悪い冗談だってわかってくれているみたいだ。……ほっとした。
都ひなのはセーナになにを言われたのか、もうあたしに視線を向けることなく木崎衣美里と少し話して立ち去っていった。
常盤ななかもあたしの今の姿を見て満足したらしく、「またお会いしましょう」と言って帰っていった。
正直なところあんまり会いたくないけど、あたしとしては常盤ななかくらいの距離で接してくれるのが一番心地いいから複雑だった。
それから月日が過ぎて……。
8月の終わりが迫ってきたときには、あたしを取り巻く環境は大きく変化していた。
まずその……まなかにかのこ、それから……ええっと、れ、レミリアだっけ? まぁいいか。なんか脳内で「五百年も生きていませんわよ!」とツッコまれた気がするけど。
とにかくその、同じ水名女学園に通っている三人と、その……友達になれたんだ。
そのおかげもあって、今まで行く気にもなれなかった学校に行く気力が出た。
同じ学校に通う友達ができるだけで、こんなに違うんだね。なんというか……凄い安心感があるよ。
まなかの料理教室のおかげで他人に出せる程度の料理はできるようになったし、家事もセーナが全部教えてくれたから一通りできるようになった。
そして二ヶ月の月日を経て……あたしが起こした事件はみんなに忘れ去られつつあった。
あたしが迷惑をかけた魔法少女全員に謝罪し、その全員が受け入れたことを確認した神浜の重鎮たちが、事件の収拾に動いてくれたからだ。
セーナが各方面に連絡を入れて、東西中央の顔たちが噂を広め、調整屋とセーナに代わる傭兵の御園かりんがさらにそれを拡散する。
被害を受けた衣美里にこのみ、まなかたちも動いてくれたから、神浜の魔法少女たちを恐怖に落とし入れた事件は極めて平和的に解決されたとして収束し、次第に過去の出来事として埋もれていった。
「それでは……行ってくるからの」
そして今日は……あたしの監視が終わる予定の日でもあった。
今日セーナたちが調整屋で話し合って決めるらしいんだけど……今日に至るまでの神浜の重鎮たちの動きから見て、あたしのこの生活は終わるだろう。
「そっか……もう9月、か。……うん。行ってらっしゃい」
改めて、もうすぐ9月だということを認識したあたしはセーナを見送った。
帰ってくる間に、あたしはやれる限りのことをすることにした。
洗濯物を全て干して、部屋を掃除して……そして、あたしの私物を全て出して集めておいた。
きっとセーナは監視が終わったとしても、あたしが望むならここにいていいって言ってくれると思う。でも、それはきっとあたしにとって良くないことだから。
この日のためにあたしは独り立ちできるようにいろんなことを覚えた。
家事は勿論のこと、勉強もサボっていた今までの所を全部頭に叩き込んだ。
誰かに頼りっぱなしだったあたしも、もういない。
だってあたしは、もうひとりじゃないんだから。
あたしの周りにはたくさんの人がいて、そして受け入れてくれている。友達だっていっぱいできた。
だから今度こそ……今度こそ、そんな大切なものを守れるように、あたしは強く生きる。
もう知ることは全部知ったし……それにあたしにはセーナの魔法がある。
なんとなくだけど、セーナがあたしにこの魔法を使う制限を付けた理由がわかったよ。
確かにこの魔法は危険だ。
自分に暗示をかけてリミッターを外したことがあるから感覚でわかるんだよ。この魔法はそれを非常に緩やかに行う魔法だってね。しかも止める術がない。
日に日に強くなっていくけど……体が限界を迎えたら崩壊が始まるだろうね。
セーナはこれを知っていたから制限を付けてきたんだ。
それで……もう長くないことがわかっていたから、あたしを独立させられるように動いてくれたんだろうね。
もう瀬奈の時と同じ絶望を味合わせないように、セーナがいなくなっても頼れる先を作れるように、全部あたしを思ってこの監視の仕事を引き受けてくれたんだ。
そんなセーナの気持ちに、あたしは応えようと思う。
少しでもセーナを安心させて、あたしは自分の道を歩く。
それから少しして、帰ってきたセーナは会議の結果をあたしに教えてくれた。
満場一致で監視を終了することが決まり、あたしは自由の身になった。
「そっか……うん、わかった。荷物も纏めておいたし、あたしはもう行くよ」
「……用意が良いのう。確信しておったのかの?」
「まぁね。最近のみんなの動きを見てたら予想できたよ」
「そうか。……そうか」
あたしの前向きな姿勢に喜んでいる様子のセーナ……だけど。
やっぱり、どこか寂しそうだった。なんというか、セーナが小さく見えるんだ。
元から小さいんだけど、その人柄や秘めている力からずっと大きく見えた、神浜最強の魔法少女がとても弱々しく見えた。
でも、そんな表情を見せたのはほんの一瞬だけ。
すぐにいつもの笑顔に戻ったセーナは優しくあたしの頭を撫でる。
「胸を張って生きるのじゃよ。なぁに今のお主ならば大丈夫じゃ。自由に楽しい人生を過ごすとよい」
「今までありがとう。たまに来てもいい?」
寂しそうなセーナが少し心配って言う理由もあるけど、もうここはあたしにとって第二の実家のようなもの。このセーナの家だって、あたしが守っていきたいと思える大切な場所なんだ。
だからまたここに来たいし……ここでまた、セーナと笑い合いたいんだ。
「勿論じゃとも。なにかあったら私を頼るのじゃ。いつでも力になるからの」
あたしだって……セーナの力になってみせるさ。
あたしはそう心に決めて……ここを出発する。
セーナ、あんたは言ったよね。
なにがあっても、あんたはあたしの味方だってさ。
その言葉、あたしもそっくり返してやるよ。
「なぁ、セーナ」
「む? なんじゃ?」
「あたしもなにがあっても、あんたの味方だからさ……。だから……無理しないで、少しは頼ってくれよな」
それだけ言って、あたしはセーナに背を向けて家を出た。あたしはセーナほど堂々とした人じゃない。
あーったく、物凄い恥ずかしいこと言っちまったなぁ。顔が熱くてしょうがないや。
さて、束の間の平和を取り戻した神浜だけど……これってきっと、嵐の前の静けさってやつだと思う。
あたしが以前から見かけた怪しい連中の動きが活発になっているみたいだし、これから神浜は荒れるだろうね。
そして……今、あたしが一番大切にしているものも、近いうちに壊れてしまうのだろう。
でも、あたしはもう壊れない。
誓ったんだから。
どんなことがあっても……たとえ、セーナが早くに死んじまったとしても、この世界で生きていくってさ。
エゾギク
7月、8月に花を咲かせる。別名、アスター。
赤、ピンク、青、白、紫、黄、オレンジといった色とりどりの花を咲かせ、それぞれ花言葉が異なる。今回帆奈ちゃんが貰ったのは、赤、ピンク、青、白の4色。
赤のエゾギク……『変化を好む』
ピンクのエゾギク……『甘い夢』
青のエゾギク……『信頼』『あなたを信じているけど心配』
白のエゾギク……『私を信じてください』