マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート   作:スパークリング

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明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

というわけで大晦日に続いてシナリオサイドにイクゾォー!デッデッデデデデ!(カーン)


Side.梓みふゆ 希望の星

 モエちゃんから魔法少女の真実を教えてもらったあの日から、ワタシの毎日は灰色一色に染まりました。

 

 かけがえのない仲間を失った。

 ただそれだけでも充分ショックな出来事だったのにもかかわらず、その後に知ることになった恐ろしい魔法少女の秘密。

 

 ワタシたち魔法少女は、ソウルジェムが濁り切ると魔女になる。

 人間であるどころか、魔法少女としてすら碌な最期を迎えることができない、残酷な真実。それを知った上で、六年間も魔法少女として戦い続けてきたモエちゃんは、本当に強い人間だと思います。

 ただワタシはモエちゃんなんかとは比べ物にならないほど弱かった、それだけのことでした。

 そしてそれは、魔法少女としての能力にも影響を与えていたのかもしれません。

 

 ある日を境に、ワタシは自分の思うような出力の魔法を放つことができなくなっていきました。

 ほんの数ヶ月前までは当たり前のように使えた魔法の威力が下がっていたり、便利だった小手先の魔法が使い魔に通用しなくなったりと、明らかな異変が起きていたんです。

 

 そのことについてもモエちゃんに聞きました。魔法少女は弱体化するんじゃないかと。

 キュゥべえから聞き出せるだけの情報を聞き出したと言っていたモエちゃんなら、このことを知っているんじゃないかって聞いてみたんです。ですが……。

 

「……魔法少女の弱体化? それは聞いたことがないのう?」

 

 返ってきたのは……ワタシが望んでいたものではありませんでした。

 キュゥべえから事情を聞いているはずのモエちゃんが、魔法少女の弱体化を知らない。

 そしてワタシと同い年で魔法少女歴も近いやっちゃんとモエちゃんには、弱体化の兆候が見られない。

 そこから導かれる結論はつまり……っ!

 

「本当ですか? その……モエちゃんは、ここ最近自分の力が衰えたと感じたことはありませんか?」

 

 認めたくなかった。認められるわけがなかった。

 ワタシだけがどんどん弱くなっていることなんて、それだけは認めたくなかった。

 だから……ワタシはモエちゃんにもう少し踏み込んで聞いてみたんです。

 

「私の力が? うんにゃ、そんなことはないのう? むしろ漲っておるぞ。私の願いのせいかもしれぬがの?」

「……そうですか」

 

 ですが、やっぱりモエちゃんは強いままでした。

 きょとんとした顔で、強くなっていく一方で決して弱くなっていないと言い切ったんです。

 隣に座っていたやっちゃんを見てみましたが、やっちゃんもワタシの質問の意図がわからないらしく、訝し気にワタシを見ていました。

 

 ということは、今現在弱体化が始まっているのはワタシだけ……。

 やっちゃんとモエちゃんはどんどん強くなっていっているのにワタシだけ弱いまま……!

 

 そこまで考えた時、ワタシはみかづき荘から出ていました。

 もうそこにいることができませんでした。

 

 魔法少女の全ての真実を知っただけでも相当だったのに……弱体化に関しては運命でもなんでもなく、ワタシだけに降りかかっている現実だったなんて……!

 

 このままだとワタシは、早かれ遅かれひとりでまともに魔女と戦うことができなくなって……魔女との戦いに負けて死ぬか、グリーフシードが尽きて魔女になるか、そのどちらかの結末を迎えることになる。

 

「……いやっ!」

 

 そんな……そんなバカな話があってたまるものですか!

 

 そもそもワタシが魔法少女になった大本の理由は、普通の女の子になりたかったから。

 でも魔法少女になってしまったら、もう普通の女の子であることは叶わなくなる。

 だからワタシは自由になりたい、そう願いました。

 

 決して家族のことが嫌いだったわけじゃないんです。

 ただ……梓の人間としての生活はあまりにも自由がなさすぎて、他の同年齢のワタシよりも自由に生活をしている女の子たちが羨ましかった。ただそれだけだったんです。

 

 でも、ずっとずっと、両親が敷いてくれたレールの上を走ることしかできなかったワタシは、結局どう自由にすればいいのかわかりませんでした。

 急に自由になったところで、地図のない道なき道を歩く勇気がワタシにはありませんでした。

 

 だったら……せめて夢の中だけでも自由に生きてみたい、そうキュゥべえに伝えて契約したんです。その結果が……これです。

 

 知らなければよかった。

 弱体化について聞かなければよかった。

 いっそのことモエちゃんが最初に忠告してくれた通り、すぐに帰っていればよかった!

 

 こんな真実を知ってしまった以上……ワタシはもう夢の中ですら自由にできない。

 だって行き着く先がわかってしまったんですから。

 

 結局ワタシは、親が敷いたレールから抜け出すことができても、魔法少女の運命からは抜け出すことができなくなってしまった。自由なんて、夢のまた夢でした。

 

 そして……ワタシが弱くなっていく一方で、力を付けていくやっちゃんやモエちゃんを恨みそうになる自分がなにより嫌でした。

 ふたりはなにも悪くなく、ただの八つ当たりだってわかっているからこそ、そんな自分が嫌で嫌で仕方なかったんです。

 

 やっちゃんがチームを解散してくれたことは、ワタシにとって救いでした。

 これでやっちゃんやモエちゃんと距離を置ける。距離を置いて、少し時間をかければ考え方を変えられるかもしれない。こんな嫌なことを考えてしまう自分を変えられるかもしれない。

 そんな切なる願いを込めて……ワタシはみんの元から離れました。

 ですが……。

 

 半年経っても、一年が経っても、ワタシは結局変わることができませんでした。

 そしてその負の感情は次第にソウルジェムを蝕んでいきました。

 

 ああ、モエちゃんの言う通りです。

 ソウルジェムはワタシたち魔法少女の感情の影響を受ける。それが悪いものであればあるほど穢れが溜まっていく、と。

 

 ああ、もうワタシも終わりなんですね。

 

 ワタシのソウルジェムは……真っ黒に濁り切ってしまっていました。

 あれからずっと、碌に魔女と戦わず、灰色になってしまった世界の中で魔法少女になった自分自身を呪い続けていた反動が来てしまったみたいです。

 

 ワタシもきっとメルさんのように……そう思ったのも束の間。

 濁り切ったソウルジェムから……得体のしれないものが飛び出してきました。

 

 ソレは、ワタシの上半身を覆うかのように顕現しました。

 真っ白な鳥の羽が両腕に纏わりつくかの如く現れて肥大化していき、ありとあらゆる布が、乱雑に並べられたカーテンのようにワタシの背後を包み込む。

 ワタシの頭には鳥の籠が被せられ、そこからまるで髪の毛のように黒と青のまだら模様を描く巨大なかつらがカーテン状の色とりどりの布を包み、変化が終わって巨大になった両腕がそこから生える角のように伸びる。

 

 これが……魔女? いや、違う……!

 魔女になったのに、ここまで意識があるのはおかしい……! そう思った途端、ワタシの中から出てきたものは光となって消えて……ワタシは元の姿に戻っていました。

 

 多少の脱力感はありますが……どうしてでしょうか、ずっとずっと感じていた倦怠感や憂鬱感が軽減されています。

 ふと、自分のソウルジェムを見てみると……そこには穢れのない、ピカピカに光る綺麗な紫色のソウルジェムがありました。

 

「これは、一体……」

「くふっ、魔女になると思ったー?」

 

 自分が思い描いていたことと全く違う出来事が起きて、困惑しながら呟くと、背後から面白そうなものを見た子供のような声が聞こえて振り返ります。

 

 そこにいたのは聖リリアンナ学園の制服を着た、長い赤毛の女の子。

 聖リリアンナ学園ということは、ワタシの実家以上のかなりのお嬢様。しかも小学生です。……ですが。

 

 なんでしょうか、彼女が放つあの不気味なオーラは。

 

 あどけない表情や喋り方はふざけた子供のそれなのですが……目がちっとも笑っていません。

 まるで自分以外の人間を道具としてしか見ていないような、完全に人を見下しているかのような、傲慢かつ圧倒的強者の表情をしています。同じ強者であるモエちゃんとは真逆です。

 あんな表情をただの小学生ができるものなのでしょうか。

 

「あなたは……?」

「わたくしは里見(さとみ)灯花(とうか)。今のはドッペルって言ってね。魔女化を回避するためのものだよ」

 

 ワタシの質問に簡単に答えると、すぐに別の話題を切り出してきました。腹の探り合いはなしですか、いよいよもってモエちゃんとは逆ですね。

 モエちゃんはゆっくりと本題に向かっていくのにこの里見灯花さんとやらは直球すぎます。

 

 面倒なことを嫌ったのか、はたまたそういう駆け引きが苦手なのか……まぁいいです。そんなことよりも、です。

 今この里見さんはありえないことを口走っていました。

 それについて問い詰めないといけません。

 

「回避って、そんなバカな話……。ワタシはこの目で見たんです。仲間が魔女になるところを」

「だから、そうならないようにドッペルになるようにしたんだよ」

 

 軽く。実に軽く、なんでもないように、あっけらかんと答えました。

 魔女化を回避する方法を作り上げた、ですって?

 

「したって……あなたが……?」

「そう、わたくしが!」

 

 えっへんと笑顔で胸を張って答える彼女。

 とても信じられませんが、現に魔女になるはずだったワタシは魔女になっていませんし、そのドッペルとやらも出して、ソウルジェムが浄化されています。

 ですから、嘘を言っているわけではないことはわかります。

 

 ……本当に? 本当にこんなことが……。魔法少女が魔女にならなくて済むのでしょうか。

 ワタシは……この運命から逃げきることができるのでしょうか。

 

「ねぇ、ベテランのお姉さん」

 

 僅かに希望を抱いているワタシに、里見さんが甘ったるい口調で囁いてきました。

 

「わたくしと一緒に、魔法少女を解放しようよ。

 そうすれば、お姉さんも苦しまなくて済むよ!

 呪縛? いいね、その言葉!

 そうだよ。

 魔女にならないし、

 戦わなくたって済むよ」

 

 実に、実に都合のいい言葉ばかりが羅列していました。

 ずっと前のワタシならば、きっと根掘り葉掘り聞いてから判断していたことでしょう。だってあまりにも都合が良すぎるからです。

 このドッペルを使った魔法少女救済の裏には、絶対になにかがある。

 ですが……。

 

「……本当に、救われるんですか?」

「勿論だよ! さっきだって、魔女にならないで済んだでしょ? とっても素敵なシステムなんだからさ、一緒に全世界に広げて行こー! そうすれば全ての魔法少女を救えるんだから!」

「ワタシは……普通の女の子になれるんでしょうか?」

「なれるよー? だって魔女にならないんだもん! どう生きるのかは個人の自由だし、わたくしの計画が無事に達成できた暁には好きにしてもらっていいんじゃないかにゃー?」

 

 自信満々に力強い言葉で即答する里見さん。それだけはあの神浜最強の存在と全く同じだったんです。

 彼女には人を惹き付けるカリスマがあって、そしてそれに見合う絶大な力がある。

 だから……ワタシは惹かれました。

 

「わかりました。ワタシも、協力します」

 

 この辛い運命から逃れられるのなら、ワタシは堕ちることを選びましょう。

 絶対になにかがあると知りつつも、深く聞かずに、ワタシは里見灯花さんの話に乗ることにしました。

 

 ワタシが協力すると決めた組織は『マギウス』。

 里見灯花さん、(ひいらぎ)ねむさん、そしてアリナ・グレイさんの三人の天才たちをトップに据えた組織です。

 

 三人にはそれぞれ目的があって、その目的を達成するための過程として、このドッペルを使った自動浄化システムを全世界に広めようとしているらしいのです。

 自分たちはやりたいことを実現させられるし、他の魔法少女たちは魔女にならずに済むのだからwin-winだよね、というのが彼女たちの主張なのですが……なんといいますか。どこか釈然としないのはどうしてでしょう。モエちゃんも同じようなやり方で世渡りしていましたのに。

 

 まぁいいでしょう。

 トップたちの考えはどうあれ、このシステムは素晴らしいものですので、これを神浜だけでなく全世界に広めることは素晴らしいことだと思うのでワタシも賛成です。

 

 しばらくの間は魔女化の真実を知った同胞たちを集める活動に勤しみました。

 トップである『マギウス』の三人をサポートする組織である『マギウスの翼』を設立して、天音月夜と天音月咲の天音姉妹を筆頭としたそこそこの力を持つ白羽根と、そこまで強くない魔法少女たちが集まった黒羽根が、実働部隊として神浜各地で動いてくれています。

 

「うんうん、人員は集まってきたねー」

「流石は西のナンバーツーだよ、みふゆ」

 

 そして……9月に入ろうとしたとき、ワタシは定例会を開いた『マギウス』に呼び出されました。

 『マギウスの翼』について話があるとのことです。

 

 強かれ弱かれ協力者は多いにこしたことはなく、順調に組織として成長を遂げていった『マギウスの翼』。

 今となっては東の魔法少女の大半が、そして西の中堅以下の魔法少女の半数近くが加入しています。

 

「でもさー、なーんか最近、士気が下がってきている感じがするんだよにゃー?」

 

 一転して不満げな顔で灯花が言います。

 ……まぁ、それもそうでしょうね。

 

 トップの一角であるねむの作り出したウワサを守り、そして、他の魔法少女たちを勧誘するのが『マギウスの翼』の仕事です。

 

 ウワサは自動浄化システムを広げる上で必要な、半魔女であるエンブリオ・イブを成長させるための養分である人間の感情エネルギーを獲得するための魔女ではない怪。

 最初こそ、害を持たないウワサばかりだったので良かったのですが……効率を求めるあまり過激な内容のウワサを作るようになり、挙句の果てに魔女を育ててそのままイブの餌にしてしまおうという意見が出てから、『マギウスの翼』内で問題視するような声が出始めています。

 

 ワタシもそのうちのひとりですが……全ての魔法少女を助けるためという建前を作って、ウワサの被害者たちが命にかかわるような危険が迫る前に助けるように指示を出していたので、今のところ犠牲者は出ていません。

 

 羽根たちが無事なのは、ほとんどがモエちゃんの手解きを受けている魔法少女だったから。

 モエちゃんの魔女との戦い方による指導はウワサでも活かせたので、なんとか一般人を救い出すことができているんです。

 そして、そのモエちゃんによって救われた魔法少女のほとんどが『マギウス』たちのやり方を問題視している傾向にあります。

 

 彼女たちに話を聞いてみると、真の意味で助けてくれたモエちゃんと違って、命令ばかりで基本的に自分たち下っ端の前に姿を見せず、なおかつ一般人を巻き込む方法を取る『マギウス』たちが信用できないとのこと。

 それでも『マギウスの翼』に属しているのは、自分の命が惜しいという魔女化に対する恐怖心と、関わってしまった手前投げだすことができないという使命感、そして……『マギウス』と自分たちとの間にワタシがいるかららしいのです。

 

 ですので……灯花の言う最近の翼内での士気の低下は当然のことでした。ワタシですら、『マギウス』に対する疑念があるんです。

 そんなワタシを信じてついてきてくれて、なおかつ本当の希望であるモエちゃんの影響を大きく受けている羽根たちが、今の『マギウス』のやり方に疑問を抱くのは至極当然だったのです。

 

 ワタシはそのことをしっかりと説明しました。

 ことあるごとに、今のやり方を正すべきだと、なるべく穏便に済ませることはできないのかと交渉しましたが……我の強い『マギウス』たちにはすべて却下されてしまい、結局溝は深まるまま。

 現場でウワサを守っている魔法少女たちの中には、自分がやっていることの罪悪感に圧し潰されてしまいそうな子も出始めてしまっている始末。

 それも全部含めて、ワタシはこの場で意見をしました。

 

「ふーん、そうなんだ。じゃあ、士気を上げるホーホーを考えないといけないなぁ。面倒くさいなぁ」

「……今までのやり方を是正する気はないんですね」

「みふゆ、悪いけど僕たちのやり方は変わらないよ。だからやり方を変えずに、みんなの士気を上げることを考えなくちゃいけないんだ」

 

 ……やはり、ワタシたち現場の意見は聞き届けていただけませんか。

 効率は確かにいいんです。

 ワタシが入った当初よりもエネルギーの回収効率も高まり、イブも成長しているんです。

 それは喜ばしいのですが……最近はそれを求めるあまり、羽根たちのことを全く考えてくれなくなってしまっています。

 

 非常に論理的で機械的。

 それの悪いところがモロに出てしまっているのが今の『マギウス』です。

 

「そーだ! いいことを思いついた!」

「……なにか閃いたんですか?」

 

 正直、碌でもないことを思いついたのだろうなぁと思いつつ灯花の提案を聞くことにしました。

 この後、碌でもないを通り越した、とんでもない提案が出てくるとも知らずに。

 

「その神浜最強をこっちに引き込んじゃえばいいんだよ!」

「……はい?」

「…………」

 

 軽い感じで簡単そうな口ぶりで難題が飛び出してきました。

 今まで黙ってお茶を飲んでいたアリナは、その言葉を聞いてぴたりと止まり、灯花を睨んでいます。どこか見下しているような緑色の眼差しを向けていますが、そんなことはどうでもいいんです。

 今、灯花はなんと言いましたか?

 

 神浜最強……という言葉に該当する魔法少女はただひとり。モエちゃんこと星奈百恵です。

 そのモエちゃんを、勧誘しろ……と?

 

「なるほど。現状士気が低下している傾向にある魔法少女の大半が、星奈百恵に恩のある魔法少女ばかりだからね。それなら星奈百恵を勧誘してしまえば済む、ということか。名案だよ、灯花」

「くっふふ、そーでしょー?」

 

 そんなわけないでしょう!

 

「モエちゃんがこちらに来ると、本気で考えているんですか? モエちゃんに『マギウス』のことを知られるのがどれほど恐ろしいことか、わかって言っているんですか?」

 

 どの組織にも属さないし、肩入れすることもない。

 それは四年前からモエちゃんがずっと守ってきた鉄則です。

 

 それを貫き通しているモエちゃんが……こんな、非人道的な行いに片足どころか堂々と踏み込んでしまっている現状の『マギウス』に加担するなんて到底思えません。

 灯花たちが依頼を出したとしても断られてしまうどころか、即座に神浜の敵認定された挙句粛清されかねません。

 だからワタシたちは、敢えてモエちゃんに手を出さないようにしていたんです。

 

 いくら灯花たちが便利で強力な魔法を使えると言っても、モエちゃんの強さは次元が違うんです。

 加えてモエちゃんは日に日に強くなっていっています。

 最後に会ったのは魔法少女の真実を教えてくれた時ですが、今はそれ以上の力を持っているに違いありません。

 町に蔓延っている大魔女以上に成長したイブですら、赤子の手を捻るがごとく倒してしまうことでしょう。そうなってしまえば、お終いです。

 

「確かにわたくしたちがお願いしても聞いてくれないだろうねー。でもちゃーんとみふゆたちが説明してくれるなら、聞く耳くらいは持ってくれるんじゃないかにゃー?」

「! それは……」

 

 灯花が言っていることを要約するなら……モエちゃんと交流の深いワタシと、モエちゃんに恩を感じている羽根たちを盾にしてモエちゃんを引きずり込め。

 そういうことなのでしょう。

 

 いくら完全中立を謳っているとしても、それは神浜の魔法少女を救うため。

 それなら『マギウス』は神浜どころか全世界の魔法少女を救済しようとしているのだから、やろうとしていることは同じだと。

 さらにワタシや羽根にそれを説明させることで、モエちゃんをその気にさせることができるんじゃないかと、そう言っているんでしょう。

 

「確かに、そうすればモエちゃんを勧誘できるかもしれません。ですが!」

 

 モエちゃんが真に『マギウス』がやっていることの実態を知ったらどう動くか。

 かつてのモエちゃんは、西のまとめ役だったワタシとやっちゃんを挑発して、リーダーの器があるかないかを見極めていました。

 そして害になると判断したなら排除して自らがトップに立とうと考えてしまうような苛烈な一面もあるんです。

 

「それはあくまでも傭兵になる前の話でしょー? わたくしたちは傭兵として雇うんだよ? 傭兵が主人に逆らうなんてありえないんじゃないかにゃー?」

「確かにモエちゃんは頼まれた依頼をきっちりとこなしますが……!」

 

 どこまでもモエちゃんを軽んじた発言に少しイラっと来ます。

 ここに他の羽根たちを連れてこなくて正解でした。連れてきたら内部分裂が起こっていたでしょう。『マギウス』と『マギウスの翼』による全面戦争とか笑えません。

 

「なら大丈夫だよ。それでもダメなら『記憶キュレーターのウワサ』を使って洗脳しちゃえばいいんじゃない?」

「それは絶対にダメです! そんなことしたら一発で『マギウスの翼』が瓦解します!」

「じゃあ正攻法で説得するしかないねー。んじゃ、そういうことで、あとはお願いねー」

「ちょっと、灯花!?」

 

 結局、その日の定例会はそれでお開きになりました。

 ワタシに課せられた任務は、モエちゃんこと星奈百恵を『マギウスの翼』に引き込むこと。

 それを他の羽根たちがいる前で発表しました。

 

「ええっ、あの星奈百恵さんを勧誘するの!?」

「そ、それは無理なのでは……」

「観鳥さんもそれはさすがに厳しいんじゃないかなーって思うんだけどな」

 

 白羽根の筆頭である天音姉妹、そして情報収集が得意な観鳥(みどり)(りょう)さんが真っ先にそれは厳しいと主張。

 それに続くように、多くの羽根たちが、味方に出来たら心強いけど来てくれる未来が見えないと主張します。

 

 一方で、モエちゃんがこちらに来ることを反発する子たちも出てきました。

 この子たちはモエちゃんにあまりいい感情を持っていない子たちですね。少数ですが、モエちゃんのことを嫌う魔法少女は存在します。

 縄張り意識が強く、モエちゃんの活動を良しとしない西の中堅魔法少女の一部である彼女たちは、モエちゃんが組織に与える影響があまりにも大きすぎると反論。

 

 ですがもう決定事項であり、『マギウス』からの直々の命令だということを伝えると……すぐに黙り込んでしまいます。

 フード越しに顔を歪めている子たちが多いですね。自分たちが受けている扱いをモエちゃんにも受けさせようとしている『マギウス』が許せないけど、助かるためには従うしかない。そう考えているんでしょう。

 

「ですが……どうすれば、星奈百恵さんをこちらに引き込めるのでしょう? あの方は完全中立でございましょう?」

「一応、抜け道はあるんです。モエちゃんが活動するのは、この神浜の魔法少女を救うため。ですので、それを盾にすれば……届く可能性があります」

「え、それってつまり……ウチらを盾にしろって言っているの!?」

「……はい」

 

 情けないことに。

 ですがそれが一番モエちゃんを動かすことができるカード……というか、完全に最後の切り札です。ワタシたちにはそれしか、手札がありません。

 

「明日、早速ワタシはモエちゃんに会いに行こうと思います。多分、調整屋の近くで待っていれば会えるはずです」

 

 モエちゃんが調整屋に行く時間は決まっています。

 ですので、それを狙って動けばほぼ間違いなくモエちゃんと接触できます。

 

「みふゆさんは、本当に星奈百恵さんに縋ろうと思っているのかい? 『マギウス』の三人の言いなりになっているんじゃなくてさ」

 

 令さんがワタシを訝し気に見てきます。

 

 この子は『マギウス』を一切信用していません。

 ただ解放されることを目的に属していますので、ここでワタシが『マギウス』の言いなりになってしまうことが面白くないのだと思います。ワタシだって、言いなりになるつもりなんてなかったんですよ。

 ですが……ワタシは少し『マギウス』に関わりすぎました。

 灯花の実家に援助してもらっている身ですので、あまり強く出ることができません。

 だからこそ。

 

「はい。ワタシは自分の意志で、モエちゃんを勧誘しようと思っています」

「その心は?」

「モエちゃんの力なら……今のこの現状を変えられると信じているからです」

 

 モエちゃんはワタシと違ってなんの縛りもありません。

 加えて、頭が回る人格者でもあります。

 

 モエちゃんがこちらに来てくれれば、性格上モエちゃんは物怖じすることなく、『マギウス』に直談判しに行くことでしょう。ワタシたちを助けるために。

 そうなれば、さすがの『マギウス』も耳を傾けざるを得ません。

 モエちゃんに喧嘩を売るのは本末転倒ですし、いくらなんでもモエちゃんに勝てるなんてことは考えていないでしょうから。

 

「それはつまり……星奈百恵さんにすべてを託す、そういうことでございましょうか?」

「はい」

 

 結局、他人任せにしてしまうのはワタシが弱いから。ですが、背に腹は代えられません。

 今この状況を打破し、より良い方向に進むためにはモエちゃんは必要不可欠。最終的な戦力としても周りに齎す影響力も、モエちゃんに頼るのが最適です。

 

「どう思ってもらっても構いません。ですが、ワタシはもう覚悟を決めました。この身を、心をモエちゃんに差し出してでも、モエちゃんをここに呼びます」

「……もし失敗したら?」

「そんなことは考えていません。どんな手を使ってでも、モエちゃんを手に入れます」

「……っ」

 

 多分ワタシは、酷い顔をしていると思います。自分でも凄いことを言っている自覚がありますから。

 ですがもう、後戻りはできないんです。

 他人任せな、弱い上司と思われようが知ったことではありません。

 プライドなんかよりも、ワタシは自分の命の方が惜しいんです。

 

「それなら……ウチらも連れて行ってください」

「ひとりで行くよりも、私たちもいた方が成功できると思います」

 

 そう言って、天音姉妹がひざを折る。

 それに続くように令さんが、そして……九割ほどの羽根たちが膝を折っていました。みんな私についてきてくれる、ということでしょう。

 そうじゃない子たちは……多分モエちゃんが嫌いな子たちですね。

 

「観鳥さんは明日、別用があるから行けないけどさ、何人か声をかけておくよ。あの神浜最強が手を貸してくれるってさ」

「令さん」

「だから……絶対に連れてきてくださいよ」

「……任せてください」

 

 ワタシの弱さを知って、そして覚悟を知った上でもついてきてくれるなら、成功あるのみです。

 必ずや、モエちゃんを手に入れる。

 ワタシはそう心に決めました。

 

 

 

 

 

 次の日。

 夕方の調整屋付近の路地裏で身を潜めていますと……出てきました。

 なぜか髪の毛が真っ白になっていますが、あの背格好に、青みのかかった瞳、そしてアホ毛に尻尾ヘアーは間違いなくモエちゃんです。

 

「……お久しぶりです、モエちゃん」

「む?……おお、みふゆではないか! 久しいのう、息災じゃったかの?」

 

 にっこりとした笑顔を向けてくるモエちゃん。

 

「まぁ、はい、それはなんとか。その……ついてきてもらっていいですか? あまり他の人に聞いてほしくない話をしたくて」

「ふむ、良かろう」

「ありがとうございます」

 

 なんとなくワタシの気を汲んでくれたらしいモエちゃんは素直に従ってくれました。

 あとはモエちゃんをみんなが待つ場所に連れて行くだけです。

 着くまでの間、モエちゃんに『マギウス』と『マギウスの翼』についての説明をしておきましょう。

 

「モエちゃん。ワタシは今、『マギウスの翼』という組織にいます」

「『マギウスの翼』?」

「はい。魔法少女の運命である魔女化を防ぐための組織です」

「ほう……それは素晴らしい組織じゃのう」

 

 にっこり笑っていますが……先程ワタシと再会した時とは全く違います。

 目が全然笑っていません。明らかに怪しんでいることがわかります。

 

「今のこの神浜で、魔女になる魔法少女は現れることはありません」

「なぜ、そう言い切れるのじゃ?」

「この神浜には、すでに自動浄化システムの結界が張られています。ですので、たとえ限界までソウルジェムが濁り切ったとしても、魔女にならず、代わりに別の形で浄化されるようになったんです」

「ほう。して、その別の形とは?」

「ワタシたちはドッペルと呼んでいます。ドッペルは穢れによって顕現した力です。一時的ですがそれを使えば絶大な力を発揮できますし、その後はソウルジェムが綺麗になるんですよ」

「ほう……それは素晴らしいシステムなのじゃな」

 

 ……システムの効力については疑っていないみたいですね。

 どうやらワタシの話し方から、本当のことだと確信しているみたいです。すぐにそう判断できる頭の回転の早さも変わっていません。

 

「着きました」

「……これは随分と、歓迎されたものじゃのう」

 

 目の前にいる白と黒のフードを被った集団を見ても、余裕そうに笑うモエちゃん。

 多分一斉にかかってこられたとしても迎撃できる自信があるのでしょう。

 

「この方が……星奈百恵さん!?」

「神浜最強の!?」

 

 そして、前の方にいた天音姉妹がモエちゃんを見て驚いていました。

 そういえばこのふたり、モエちゃんのことは知っていたみたいですけど、実際に会ったことはなかったらしいですね。

 確かに、モエちゃんを初めて見た人はそういうリアクションになってしまうでしょう。

 

「あなたは……! あの時は本当にありがとうございました!」

 

 後ろに控えていた黒羽根のひとりがフードを外して、モエちゃんに頭を下げていました。

 確か彼女は七瀬ゆきかさんでしたか。

 どうやら彼女もモエちゃんに助けられた魔法少女だったらしいですね。

 

「む? おお、お主か。一年ほど前だったかの? 一気に三連戦もしたからよく覚えておったよ。すまんのう、あの時は急いでいたものじゃから碌に挨拶もできなかったの」

「いえ! 本当に助かりました! あのときはグリーフシードも譲っていただいて……ありがとうございました!」

「うむ、よいよい。お主が元気でいてくれただけで、充分私も嬉しいからのう」

 

 頭を下げたゆきかさんを、モエちゃんは優しく撫でていました。

 相変わらず、人を堕とすのが上手い人です。ですがこういうところが……モエちゃんの良いところなんですよね。

 ですからワタシは……ワタシたちは、そんなモエちゃんの力が欲しいんです。

 

「モエちゃん、ワタシたちはあなたに仕事を依頼したいのです」

「仕事の依頼、か。一応聞いておこうかの。なんの仕事じゃ?」

「ワタシたちの仲間になってほしいんです。この自動浄化システムを全世界に広げる手助けをしてほしいんです」

 

 直球でワタシは仕事をモエちゃんにぶつけました。

 ですが、モエちゃんは溜息をひとつ吐いて首を横に振ります。

 

「お主は知っておるじゃろう? 私がどの組織にも属すことはないと。申し訳ないが、その依頼に応えることはできん。……今日のことはすべて忘れるとしようかの」

 

 そう言って踵を返そうとします。

 こうなることは百も承知でした。ここから……ここからが本番なんです。

 

 今のモエちゃんの断り方はあくまで事務的なもの。それなら感情で訴えるのみ。

 モエちゃんは『マギウス』たちと違って合理主義者ではありません。ですので、ワタシたちの覚悟を見せることさえできれば……ワタシたちの叫びを聞いてくれれば、チャンスはあります。

 

「……モエちゃんならそう返してくると思いました。ですがここで諦めるわけにはいきません。覚悟を決めて、ワタシたちは来たんです」

「……覚悟、とな?」

 

 帰ろうとして、背を向けていたモエちゃんの動きが止まりました。

 やっぱり、非情にはなり切れなかったみたいですね、モエちゃん。

 

「はい、覚悟です。ワタシたちは自分たちが救われるためなら……この魔法少女の運命から解放されるためなら、なんだってする覚悟があります」

「ほう、なんだって、か」

「はい。なんだって、です」

 

 ワタシが返すと……モエちゃんはこちらを振り返りました。

 

「それならば、お主らは私になにを差し出す? こちらも商売じゃ、慈善事業ではない。傭兵に仕事を依頼するということは、それに見合う報酬を差し出さなければならん。ましてや、お主らの依頼は明らかに私の完全中立を揺るがす程のものじゃ。生半可な報酬では、私は動かぬぞ」

「それは承知していますよ」

 

 多分モエちゃんが断った理由のひとつは、ワタシたちがモエちゃんに報酬を支払えないと思ったから。

 モエちゃんは公平性を保つために通常業務以外の仕事の依頼に対しては、必ずそれに見合う報酬を要求する。そして、ワタシたちの依頼は掟破りのもの。

 これ以上もないほどのものを差し出さなければ、釣り合わないような、そんな依頼でした。

 

「ほう? ならば聞こうか。この依頼を受けるとして、お主たちは私になにを差し出す?」

 

 来ました。

 この問いかけが来たということは……受けてくれる可能性があるということです。

 

 そして、言い回しや言葉を慎重に選ばないといけません。

 モエちゃんは細かいところまで吟味しますので、少しでも間違えてしまえば、今度こそ見切りを付けられてしまいます。

 もしかしたら、このまま『マギウス』の元まで乗り込んで粛清してしまうかもしれません。

 

 これはモエちゃんから与えられたラストチャンス……絶対にものにします。

 大丈夫です。昨日のうちに言うべきことは全て考えてあります。

 

 ワタシは膝を折って、モエちゃんと目を合わせます。

 小学生並みの身長のモエちゃんですが、膝を折ってしまえば必然とこちらの方が低くなります。

 モエちゃんに下に見られるように背を少し丸めて、そして報酬を言います。

 

「ワタシたちの全てを……ワタシたちの忠誠をモエちゃんに捧げます。それが報酬です。ですから……どうか。どうか、ワタシたちに力を貸してください……!」

「…………」

 

 瞬間、ワタシの後ろで控えていた天音姉妹が、ゆきかさんが、そして全ての白羽根、黒羽根たちが一斉に跪いて(こうべ)を垂らします。

 それを見たモエちゃんは……瞑目しました。

 

「ワタシたちにはモエちゃんが必要不可欠なんです! ワタシたちはこんなことで死にたくありません、魔女になりたくありません! 自分勝手なのは承知の上です! でも、それでも助かりたいんです! ですからどうか、どうか……弱いワタシたちを助けてください……!」

 

 ワタシたちがモエちゃんに差し出せるのは、この身とこの心だけ。

 助かるのなら、神浜最強にすべてを捧げても構わない。それくらい、ワタシたちにとってモエちゃんが必要なんです。

 ワタシはそれを声いっぱいにして訴えました。

 これでダメなら……文字通り、身を削ってでも、モエちゃんをこちらに引き込みます。

 失うとしても命よりは軽いものです。

 

 30秒くらい経ったのでしょうか。

 しばらくして目を閉じて、動きを止めていたモエちゃんはゆっくりと目を開いていきます。

 

「私はの、もう少ししたら引退する身だったのじゃ。自慢の弟子が頑張ってくれているからの。ゆっくりと過ごすつもりだったのじゃ。……じゃが、引退する前に少しだけ、一肌脱がせてもらうとするかの」

 

 そして……変身したモエちゃんは、その巨大な剣を左腕一本で担ぎ、ワタシに右手を伸ばしつつ、ふわっとした笑顔を見せてくれました。

 ……ああ。

 

「あい、わかった。お主らの覚悟、しかと受け取った。私に任せるのじゃ。私がお主らを……助けてみせるからのう」

「……はい。よろしくお願いします」

 

 ワタシはその手を握りました。

 凄く小さくて細い手でしたけど……それ以上に温かくて、大きく、安心感を与えてくれる、その手を、掴むことができたんです。

 

 ワタシたちは……大きな希望を手に入れました。

 中立を維持してきた、神浜最強の切り札……全ての魔法少女の希望の星、『大傭兵』星奈百恵が『マギウスの翼』の事実上のトップとして、君臨することになったのです。

 

 これで……ワタシたちは救われる。

 

 この場で神浜最強に忠誠を誓ったワタシたちは揃って、『マギウスの翼』を設立して以降、初めて希望の光を見たような気がしました。

 

 

 

 

 

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