マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート 作:スパークリング
今日この日ほど、モエちゃんの恐ろしさを再認識できた日はありませんでした。
モエちゃん……星奈百恵が恐ろしい人間だということは分かっていたつもりだったんです。
魔女を一撃で成敗するほどの圧倒的な戦闘能力、ワタシとやっちゃんのふたりを相手にして怯むどころか自分の意向を押し通してこようとする胆力、次々と人脈を作り上げて着実に味方を増やしていくカリスマ性。
その全てを兼ね備えた、まさに神浜最強の魔法少女であり、全ての魔法少女たちにとっての最後の希望とも呼べる存在。
そんな最強の魔法少女の勧誘に成功して……ワタシは少し浮かれていたのかもしれません。
「でかしたよみふゆ。あの星奈百恵を堕とすなんてね。むふっ」
その前日、モエちゃんの勧誘に成功したその日の夜。
ワタシは『マギウス』に報告をしました。
この日はアリナが来ていなかったので、灯花とねむのふたりだけ。報告を聞いたねむは満足そうに頷きます。
明日はモエちゃんの『マギウスの翼』のリーダー就任式です。
狙いとしてまず挙げられるのはモエちゃんが正式にワタシたちに手を貸してくれると大々的に公表することで羽根たちの士気を高めること。
羽根たちのおおよそ七割強がモエちゃんを慕う『保守派』の魔法少女たちですので、モエちゃんが仲間になることを知れば間違いなく活気が付きます。
一割程度のモエちゃんのことを噂で耳にするくらいにしか知らないような新参の魔法少女たちも、神浜の魔法少女全員が口を揃えて最強であると断言する魔法少女が自分たちの味方に付いたと言われれば元気が出るでしょう。
そして次に挙げられるのは、モエちゃんを組織に加入させることを拒絶している残りの一割弱の『過激派』の魔法少女たちに対する牽制です。
過激派は保守派の子たちと違って積極的に『マギウス』からの命令に従う傾向が強く、一般人に被害を与えることにほとんど抵抗がありません。
そしてその実態は、過去モエちゃんに盾突き制裁を受けて逆恨みしているか、モエちゃんの影響を受けて縄張りを侵食されたことに対して憤りを覚えている魔法少女たちです。
最近では「魔法少女は選ばれた存在だ」と掲げる魔法少女至上主義なんていうとんでもない思想を広めようとしてくる始末。
その考え方が新参の魔法少女たちを蝕んでいく一方、保守派の魔法少女たちからは強い非難の声が上がっています。
保守派の子たちは、「魔法少女になったのは自分の我儘であり自分が選んだ道だ」と考えていますので、魔法少女至上主義を掲げる過激派の子たちに対して何様のつもりだと嫌悪感を露わにしているんです。
正直ワタシもこの過激な主義に対して問題視していましたので、ここでモエちゃんがトップに立ってもらうことで過激派の子たちを抑制し、新しい子たちへの悪影響を消す、ということも狙っています。
ワタシたちが忠誠を誓ってまでモエちゃんに『マギウスの翼』のリーダーになってもらうことを頼み込んだ理由は、なにも『マギウス』に対して強く物言いできる人物が欲しかったからだけではありません。
保守派と過激派による内部分裂を防ぐと同時に、過激派に
「なんじゃ、魔法少女を救うと銘打っていながら組織内での問題が山積みではないか。わかった。明日の就任式とやらで一手打つとしようかの」
溜息を吐きながら頼もしくモエちゃんは返してくれました。
ちなみにモエちゃんは組織内での問題と一括りにしていますが、ここには『マギウス』の今後の方針についても含まれています。
モエちゃんは就任式の後に『マギウス』にも挨拶しに行くと言っていましたね。
有言実行、すぐに動いて手を打つあたりが流石です。
「明日はそのお披露目があるんでしょー? わたくしたちはいつもの場所で今後の話し合いをしているから、終わったら連れてきてよねー。アリナにも声をかけておくからさ。くふふっ」
「はぁ、わかりましたよ」
上機嫌な灯花がそう指示してきますが指示されるまでもなくモエちゃんが
明日ようやく肩にのしかかっていた問題の解決口が見えると、今夜はよく眠れそうだと思ってこの日はその場を後にしました。
この時、とんでもないミスを犯していたことに気付くことなく。
そして今日、ワタシは『マギウス』の拠点……『ホテルフェントホープ』に招待しました。
北養区にある山の中、あたり一面は草原が広がっていて、中心には大きな桜の木。
その下に等間隔で置かれた四つの椅子には誰も座っていません。
風もなく花も咲いていないはずに絶えず降り注ぐ花びらたちは、地面に落ちる直前に消えてしまうので決して積もることはない。
「待たせたのう」
そこに私服姿で現れたモエちゃん。
昨日は余裕がなかったのでしっかりとは見られませんでしたが、昔と比べるとなんというか、落ち着いて見えますね。
髪の毛が全部白髪になってしまっていることにはすぐに気が付きましたが、雰囲気がだいぶ違います。
昔は強大な力のオーラのようなものを静かに纏っていましたが、今はそれがすっかり消え去っていてなんというか、凄みがなくなっていました。牙が抜けてしまったかのようです。
「ここは実によい景色じゃ。心が落ち着くのう。季節のせいか花が咲いていないのは残念じゃが、立派な桜じゃな」
「ふふっ、この桜は春になっても花を咲かせないんですよ」
「む? そうなのか? 普通の桜ではないとは思っておったが、不思議じゃのう」
そんな話をしながら桜の元に近づくと……一瞬視界がぶれ、そして次に映り込んでくるのは広大な敷地面積を誇る巨大な洋風のホテル。
背後を振り返るとそこには大きなアーチ状の門があるだけで、先程まであった巨大な桜の木はありません。
「ここがワタシたちの拠点――ホテルフェントホープです」
「なるほど、先の桜の木は所謂ワープポイントというやつじゃな。面白いことを思いつくものよ。にしても
そんなモエちゃんの言葉にワタシは苦笑して返します。だってそれ、最終的に名付けたのは誰でもないワタシなのですから。
確かに魔法少女の救済を謳う『マギウス』にとっては皮肉でしかありませんが、今は残影でしかない希望にしがみ付くしかない『
ですが……そんなフェントホープに紛れもない希望が降り立ったのですから、きっと良い方向に向かうはずです。
そんな雑談を交え今後の段取りの説明をしつつ歩くこと数分、ワタシたちは議事堂に到着しました。そこにはワタシの呼びかけに応じてくれた何人もの羽根たちが集まっていました。
全員フードを被っているので顔は見えませんが……保守派と過激派、そして中立を問わずほぼ全員が集まってくれているようです。
「これは歓迎されているようで何よりじゃのう」
確実に狙っていたことでしょう。
少し大きめに発せられたモエちゃんの声が議事堂に響き渡り、ぱっと静まり返りました。
モエちゃんの声は良く通りますし、知っている人であれば今の声を聞いただけで誰の声なのかがすぐにわかるでしょう。
それほどまでに強い印象と影響力をモエちゃんは持っているんですから。
モエちゃんはゆっくりと議事堂の中心を歩いて壇上に向かっていきます。様々な視線も物ともせず、ただ穏やかで静かな笑顔を浮かべながら。
壇上の足元にはあらかじめ踏み台を用意してありますので、背が低いモエちゃんもしっかりと堂内を見渡せています。
「みふゆさん」
「こちらでございます」
みんなモエちゃんに釘付けになっている間に、ワタシは場所を作ってくれていた天音姉妹たちの元まで移動します。
そこは壇上を一番よく見ることができる場所で、隣には大きなカメラを持った令さんが親指を立てて陣取っていました。
「やりますねぇ、みふゆさん。本当にあの星奈百恵さんを引き入れるなんてさ。しっかりと記事にさせてもらいますよ」
ウィンクしながらカメラの調整に戻る令さんに「よろしくお願いしますね」と短く返しました。
彼女に任せておけばこの場にいない他の羽根たちにも新聞という形で伝わることになるでしょう。
「んっ、んんっ。――よし」
マイクの先をこつこつと叩いてチェックをしたモエちゃんが満足気に小さく頷いて議事堂全体を見渡しました。
始まりますか。久し振りに見る、生のモエちゃん劇場が。
「初めまして……という者は少ないかの? じゃがまぁ、一応簡単に自己紹介をしておこう。
私は星奈百恵という。こんななりじゃが19歳の大学生。来年には大人の仲間入りじゃな。
魔法少女歴は六年。四年ほどこの神浜で傭兵業をしておるよ。
この『マギウスの翼』の元代表である梓みふゆに依頼されたことにより、この私が『マギウスの翼』の新しい代表になった。
以後よろしくお願いするのじゃ」
ああ、長い間見ていませんでしたがモエちゃんらしいスタートです。
最初はこんな感じで物凄くフレンドリーな形から入るんですよね。緊張を解すためにわざと。声色すら気を遣って柔らかくして。
「さて……現状の『マギウスの翼』が抱えている問題については話を聞いておる。
まずはお主たちの上司である『マギウス』からの過激な仕事についてじゃな。それに関してはこの後に『マギウス』に挨拶しに行くから、そこで交渉するとしよう。
なーに、安心せい。部下が動かないと困るのは上司じゃ。私が代表になったからにはお主たちに辛い仕事はさせないと誓おう。――ただし」
そこからモエちゃんは声色を変え、そして笑顔を消して真剣な顔つきに変わりました。
「上の命令に意見するからには、上が想定している以上の成果を上げなければならん。そうでなければ組織というものは成り立たないからの。
精神的に辛い仕事は取り下げるように尽力するが、おそらく今後は活動が活発化し忙しくなっていくであろう。
よって、私はお主らの時間をいただく。
お主らの時間を全て管理させてもらうぞ」
講堂内がざわめき始めました。
モエちゃんに対して非難の声が上がり、困惑してそわそわし始めています。前者が過激派で後者が保守派でしょうか。
ですがどちらも共通して、今のモエちゃんの発言をこう認識したのでしょう。
――ワタシたちの自由を全て奪われてしまう、と。
……ですがこれをモエちゃんが口にしても仕方のないことです。
そもそも『マギウス』たちがあんな過激なやり方を追求したのは、現状ですと目的である魔法少女の解放までに時間がかかりすぎるから。
だから効率の良いエネルギーの回収方法を模索し、その結果としてあのような方針を示してきたわけで、冷静に考えれば組織のトップとして当然のことをしているだけ。それを下っ端であるワタシたちが反対することは本来あってはいけないことです。
ですからモエちゃんは厳しく言っているのでしょう。
だったら違う方法で上が納得する成果を上げるしかないと。
『マギウス』たちがエネルギー回収の手段として『効率』を取った。ですがワタシたちはそのやり方を望んでいない。
だから手段を変えてモエちゃんは『時間』を取ることにした。
『マギウス』が効率よく回収しようとしているエネルギーと同等かそれ以上の量を、今以上に働いて短期間で補填するという意味でモエちゃんはあのような発言をしたのでしょう。
「おそらく大半が学生であろうお主たちの自由な時間を奪ってしまうことの残酷さは重々承知しておる。
友達と遊びたいであろう、
勉強して将来を見たいであろう、
はたまた恋愛を楽しみたいであろう。
学生時代にしか出来ぬ無茶な青春というものを満喫したいのであろうな」
目を瞑りながら言葉を紡いていくモエちゃんは「じゃがのう」とさらに声のトーンを落とし、そして目を開きました。
そこには一切の笑顔がない。年相応……年長者に相応しく引き締まった、凛とした青い瞳を鋭く光らせていました。
「それ以上に……救われたいのじゃろう、お主らは?
やがて魔女になるという、絶対に逃れることのできない魔法少女の運命から」
その言葉に、ざわめきが止みました。それは紛れもない事実だったから。
友達と遊ぶのも、将来に夢をはせるのも、恋愛をするにしても、それは自分が生きていることが前提の話。
ワタシたちが『マギウス』に協力しているのは自分の命が惜しいから。
「ならば甘えるでない。
お主らは既に、一般人には到底起こすことのできない奇跡を起こしてしまっておるのじゃ。
その奇跡の代償が魔女と戦い、
そして魔女となって呪いを振りまくことなのじゃよ」
事実だけを静かに語られ、その全てがワタシたちの胸に突き刺さります。
そんなの聞いていなかった。騙された。そんな言葉がつい口に出そうになりますが、「甘えるでない」という先程のモエちゃんの言葉がそれを許してくれませんでした。
「話を聞いてない? 嘘を吐かれた? 騙された?
甘えたことを考えるでない!
擁護するわけではないが、キュゥべえは嘘を吐いていなければ騙してもおらんよ。
事実、契約は果たされお主らの願いは確かに現実のものになったはずじゃ。
ただ――全てを話さずほんの一部しか話さなかっただけでな。
もしもお主らがもっと慎重になり、根掘り葉掘り問い詰めていたのであれば
ただ聞かれなかったから話をしなかった、
やつらにとってはそれだけのことじゃよ」
ただただ事実だけをワタシたちに突き付けていくモエちゃん。
「碌に契約書に目を通さず、事前に確認もせず、誰にも相談せず、あっさりと甘い言葉を鵜呑みにし、後になって騒ぎ立てて後悔しているような間抜け。
契約の対価をもらっておきながら、履行を拒否しようとしている無責任な連中。
それが今のお主らじゃ。違うか?」
そして遂に、絶対に認めたくなくて目を逸らし続けていた現実を容赦なく、まるで深淵の底から出したような暗く低い声で告げられました。
その表情は今まで見た中で最も冷たく、比較的付き合いの長いワタシですら見たことがないようなものでした。……そうです。
ワタシたちはキュゥべえに願いを叶えてもらっていながら、キュゥべえからの要求を拒絶しようとしているんです。実に都合が良いことしか考えていない人間です。
魔女化の事実を知りながら今も懸命に戦い続けている魔法少女だっているんです。
モエちゃんだってそのひとりでした。かつてのチームメイトだったももこも、そしてやっちゃんも。
「ふぅ。……まぁ、厳しい叱責はこれくらいにしておこうかの。
今までの言葉はただの一般論のひとつでありすべてが私の本心ではない、とだけ言っておこうか。
何不自由なく育った普通の子供であるお主らが、なんでも願いを叶えてくれるなんて言う存在に出会って、心動かないわけがないからのう。
それを考慮するのであれば、キュゥべえが悪いというのは
すっかりお通夜ムードになっていますとモエちゃんはそんなことを言ってカラカラと笑います。
相変わらずずるい人です。あそこまで言っておいてそんな慰めの言葉を口にしますか。
今のこの心理状態であなたに堕ちない人なんていませんよ。
ですがワタシは騙されませんよ。
モエちゃんは全てが本心ではないと言っていましたが、裏を返せばどこかは本心なわけで、おそらくですがほとんど全てが本心なのではないでしょうか。途中にあったワタシたちへの罵倒を除いて。
「じゃがこれで分かったであろう?
お主たちは既に願いを成就させているのじゃ。たとえそれが自分の思い描いていたものと違っていたとしてもな。
そしてその代償から逃れたいと本気で思っているのであれば、遊んでいる暇などなかろうて?」
さっきまでの冷たい雰囲気はどこへやら。
いつも通りの明るい口調に戻ったモエちゃんは小さく笑いながら問いかけてきます。それに反論するような声は保守派からは勿論過激派からも出ません。……当たり前ですね。
あそこまで言われてしまって「遊びたい」なんて反論するような命知らずの恥知らずはさすがにいないでしょう。
「分かってくれたようでなによりじゃ。これからは忙しくなるぞ。
さすがに休みなしで働けなんて言う気は毛頭ないし、無理な仕事をさせるつもりもない。
時間をもらうと言っても雁字搦めにするつもりもないから肩の力を抜くとよいぞ。
編成についてはこれから調整して近いうちに公表するから少し待っていてほしいかのう」
そしてにっこり笑ってそう締めくくりました。
内容はまともでも言っていることが結構苛烈だったモエちゃんの方針はすっかりと羽根たちに受け入れられてしまいました。
おそらく『マギウス』たちもしっかりとこういう風に説明していれば、モエちゃんがいなくても纏め上げることができたのでしょうね。
「私が掲げる方針に関しては以上じゃ。
じゃがまぁ、これで終わるのも味気ないし、もう少しだけ話して終わりにするとしよう。
そう時間はかけぬよ。五分もかからんからもう少しだけ付き合ってほしい。無論、強制はしない。
この後なにか用事があるという者は退出しても構わぬよ」
パンっと手を叩くモエちゃんですが……誰ひとりとして席を立つ者はいません。……それはそうでしょう。
新しいリーダーの言葉だから以前の問題です。
なんといいますか、モエちゃんの言葉には人を惹きつける力があるんです。
ですから不思議とモエちゃんの言葉は最後まで聞きたくなってしまうんですよ。
黙ってモエちゃんの言葉を待つワタシたち。
それを見たモエちゃんは「結構」と少し嬉しそうに笑います。
そしてふぅと一息つくと、悲し気に目を伏せてゆっくりと語りかけてきます。
「お主たちは自分たちの運命を知って絶望したであろう。
どうしてもっと詳しく話を聞かなかったのか、誰かに相談しなかったのか。
この現実から逃げ出したい、そう思ってしまう弱い自分が許せなくて、自分の弱さを突き付けられて、辛かったであろう、悲しかったであろう、悔しかったであろうな」
それは、さっきまでのただただ事実と現実を突き付けてきた厳しい発言から一転した、ワタシたちの心に寄り添う優しい言葉でした。声色もふわりとしていて、温もりを感じます。
きっと保守派の子たちがモエちゃんを慕う理由は、この状態のモエちゃんに助けられてきたからでしょう。
ワタシは近くで何度も聞いてきたので慣れていたはずなのですが……思えばワタシ自身に向けられたことがなかったので新鮮で、そして身を委ねたくなってしまうような安心感に包まれていきます。
「じゃがのう、それでも、それでもじゃ。
お主らはどのような理由や目的であれたったひとつの願いを叶えるために終わらない戦いに挑む覚悟をした。
魔女と戦ってほしい、そんなキュゥべえからの頼みを聞いて、一般人を魔女の脅威から守るために戦う、そんな強い覚悟を確かに決めたはずなのじゃよ、お主らは。
魔女になるなんて知らされていなかったとしても、お主らは危険を承知で、命懸けであることを承知で魔法少女になることを選んだ。
それはとても勇敢で素晴らしいことじゃと、
誇らしいことじゃと私は思うのじゃよ」
この場にいる魔法少女のほとんどが、そんなに自分に自信のない子たち。
力はあっても自分たちのやっていることに迷いがあるような子たちばかり。
そんな子たちにとって……自分たちが信じる
「じゃから……お主らは嫌だったのであろう?
『マギウス』たちが提唱する一般人を巻き込み、不幸にする、そんなやり方を。
自分たちのエゴを通すためだと自覚しているからこそ余計にの」
そしてまさに今、自分たちが悩んでいるところにメスを入れてきました。
「じゃがそれでも助かりたい、そう思うのであれば迷うな。
一般人を巻き込む方法でしか救いがないのなら、それに縋り、貫くしか生きる術がないのじゃ。
非人道的? 好きに言わせておけ。
自分の命以上に大切なものなどこの世のどこにもない。
他にやり方があるのかもしれない?
偽善者の言葉に惑わされるな、そんなやり方があるなら苦労はせん。
長く魔法少女をやっている私とて知らなかったことを緻密な計算の下で企画し現実のものにしようとしている『マギウス』を差し置いてどの口が叩くと笑い飛ばせ。
仕事で失敗したとしても責任は私が取ろう。嫌なことがあったら私のせいにしても一向に構わんし、恨んでくれて結構じゃ。
じゃが自分のやるべきことだけは
これはモエちゃんの言葉であり……『マギウスの翼』のトップとしての言葉。
今の『マギウスの翼』が必要としているものを引き出そうとする、とても『力』のある、そんな言葉。
「これでももし、割り切ることができぬのであれば巻き込んでしまった人たちをお主たちの手で助け出すのじゃ。
今もそのウワサとやらが人々を不幸にしているのであろう?
ならばこんなところで燻っている場合ではあるまい?
そうであろう?」
その言葉で……明らかに皆さんの目付きが変わったことが伝わりました。
隣に座る天音姉妹も観鳥令さんも今までの不安そうな表情が消え、自分たちがすべきことをなにがなんでも実行する、そんな強い覚悟が決まったような顔になっていました。
そしてワタシも……改めて、モエちゃんに羽根たちを任せられると確信し、これからはモエちゃんの副官として動くことを決意しました。
「ああ、そうじゃ。ひとつ言っておこう。『マギウスの翼』に勧誘するときに、私の名前を出すことは固く禁じさせてもらうぞ。勧誘された者の意思を私の名で捻じ曲げることは許さん。もし発覚した場合は契約違反とみなし、私は降りる。これは絶対の掟じゃ」
モエちゃんを盾にして脅迫まがいに勧誘することを許さないと思い出したように釘を刺してきますが、おそらくこれが破られることはないと考えます。モエちゃんが就任して喜んでいるであろう保守派はモエちゃんの言うことをしっかりと聞くでしょうし、邪魔に思っている過激派もさすがにモエちゃんを敵に回すような命知らずな真似はしないでしょうから。
「こりゃあ、新聞が外部に出回らないように相当気を使わないといけないねぇ」
小さな声で「参った参った」と言う令さんですが、その声はとても楽し気です。
ワタシを信じてモエちゃんを連れてくることに賛同してくれていましたけど、その実組織が無事に機能するかを心配していましたからね。
「先も言ったがこれから私は『マギウス』と話をつけてくる。
そしてその後具体的な活動について精査し決まり次第連絡するとしよう。
それまでの間、お主らも自分のやるべきことを模索してほしい。
要望は可能な限り応えようと思うし、意見があれば必ず耳を傾けると約束しよう。
お主たちの働きを期待しておるぞ。
……以上で私の話は終わりじゃ。
付き合ってくれたこと感謝するのじゃ」
モエちゃんが締めくくって軽く頭を下げると、講堂から大きな拍手が沸き上がります。
……さすがモエちゃん劇場です。がっちりと羽根たちの心を鷲掴みにしました。
それに加えて遠回しに過激派に対する牽制もしていたこともお見事です。
あれだけ的確に事実を突きつける発言をしていれば、魔法少女至上主義なんて絶対に認めないと断言しているようなものですし、新参の魔法少女たちもそんな思い上がった考えを抱くことはなくなることでしょう。
自分をトップとして認めさせ、方針も決まり、過激派を牽制し、羽根全体の志気を上げる。
その全てにおいて完璧に近い演説でした。
「行くぞ
壇上からワタシを見つけていたのでしょう。
一直線にワタシの元に来たモエちゃんがいつもと変わらない穏やかな表情で促してきました。
初めてモエちゃんに名前で呼ばれましたが……これも狙ってやっていますね。
調整屋の八雲みたまという例外はありますが、モエちゃんが他人を滅多なことじゃない限り名前で呼ばないことは割と有名です。
そんなモエちゃんがワタシを名前で呼んだ。これを聞いた周囲がどう認知するのか、簡単に想像できます。
モエちゃんが前のトップであるワタシと組んで本気で『マギウスの翼』を引っ張っていくと改めて認識させる、それが目的でしょう。
地味ですが繰り返して自分たちの味方になったと思わせて士気を高めようとしています。
こういう細かいことを積み重ねていってモエちゃんは、今の広い人脈と厚い人望を勝ち得ていったんですね。
「わかりました。ついてきてください」
そんな人垂らしの権化に魅了されている人間のひとりであるワタシはモエちゃんを『マギウス』の元に案内し始めます。
……ここで気が付くべきだったんです。
『マギウス』たちが果たして、どんな場所でモエちゃんを待っているのかを。
「……なんじゃこの酷い瘴気は」
「この先に、『マギウス』とこの計画に重要なものがあるんですよ」
「ほう」
ここを初めて訪れる人たちと変わらない反応をするモエちゃんを見て、やっぱりこの瘴気に対して不快感を抱くんだなと、そこについてはワタシたちと変わらないんだなと、先程の演説が見事に成功して浮かれていたワタシはそんな能天気なことを考えながら案内を続けます。
階段を下るとそこには広大な地下聖堂が広がっていて、人工的な光が照らしています。
その中心には円卓の小さなテーブルがあって囲っているのは三人の『マギウス』。
左からアリナ、灯花、そしてねむの順番に座っていて、そして背後の壁にはここに充満している瘴気の元である、今神浜全土に展開している自動浄化システムを全世界に広めるための半魔女――エンブリオ・イブがその巨体を張り付けられていました。
「ほう……」
このとき、ワタシは気が付くことができませんでした。
イブを見たモエちゃんの表情が消えて、一瞬とはいえ能面のようなものになっていたことなんて。
「くふふっ。初めましてかにゃー? あなたが最強さん?」
それには『マギウス』たちも気が付かなかったのでしょう。
中央に座っていた灯花がいつもと変わらない態度でモエちゃんに問いかけます。
…………。
『マギウス』と『マギウスの翼』という上下関係が確かにあるとはいえ、人間としても魔法少女としても圧倒的な先輩かつ今や神浜でワタシよりも格段に高い地位にいるモエちゃんに対してこの態度。
しかもまだ入り口にいて碌に近づいてもいないのに呼び止め、先に名乗らせようとするなんて……!
ここでモエちゃんの不興を買ったらどうなるのか……本当にわかって言っているのでしょうか。
「こ、こら、灯花――」
「よいよい。こんな子供の無礼程度で怒りはせんよ」
あんまりすぎる態度を見せた灯花を叱ろうと声を上げますが、極めて穏やかな声でモエちゃんによって制されてしまいました。
モエちゃんが気にしていないのならいいかと引き下がりましたが、さっきのモエちゃんのセリフを思い返して背筋が凍り付きました。
「こんな子供の無礼程度」と遠回しにですが灯花のことを『躾けのなっていない子供』と罵倒したからです。いつものモエちゃんなら「こんなこと」みたいに濁すのに……。
ほんの僅かな小さな違いですが、長い付き合いのあるワタシですからわかるんです。わかってしまうんです。
モエちゃんが今、間違いなく不機嫌になっている、と。
「初めましてじゃのう。今日付けで『マギウスの翼』の頭になった星奈百恵じゃ」
ですがモエちゃんは本当に普段と変わらない笑顔を浮かべたまま自己紹介をしています。
……これもおかしいです。
いつもなら自分の見た目と年齢のギャップを強調して雰囲気を和ませつつ、良い印象を植え付けようとするはずなのにそれがありませんでした。
『マギウス』の前に畏まっているだけだと思い込みたいですが、今まさに『マギウス』に意見しようとしているモエちゃんが彼女たちに膝を折るだなんてとても思えません。
嫌な予感がして背中に冷たい汗が伝いますが、モエちゃんのことを知らない『マギウス』の三人は各々簡単に自己紹介していました。
「さて、挨拶も済んだし、今日はいろいろとお主らと話をしたくてのう」
「くふふっ、いいよー。なんでも答えてあげる。で、用件はなにかにゃー?」
「それはありがたい。では早速なんじゃがのう――
モエちゃんがイブを指さします。
「彼女って、イブのこと?」
「ほう。彼女はイブという名じゃったか。そうじゃ。私はの、そのイブとやらがどうしても気になって気になって仕方がないのじゃよ」
「ふーん。まぁ、無理もないかもねー。こんな酷い穢れを垂れ流しているんだし。さすがの最強さんもこの穢れにはびっくりしたでしょ?」
「はっはっは、まあのう。数多くの魔女をこれまで見てきたが、
「いいよー」
そこから灯花がイブについて説明を始めました。
不完全な状態で変異した半魔女であること、イブには感情エネルギーを回収して宇宙に送り届ける能力があること、それが今神浜市を覆っているから神浜で魔女になることはなくドッペルとして処理されること、そしてそんなイブを完全な魔女にすることで神浜だけでなく全世界にこのシステムを広げること。
別に知られても問題ないと思ったからでしょうか。
それらをすべて余すことなくモエちゃんに説明していました。
「なるほどのう。……のう、ひとつ聞きたいのじゃがの。それを彼女は望んでおるのかのう?」
「彼女? 誰それ~?」
「彼女は彼女じゃよ。そのイブとやらは、それを望んでおるのかと訊いておるのじゃ」
……あ。こ、これは――いけませんっ!
今になってワタシはとんでもない失態を犯していたことに気が付きました。
モエちゃんにとって、イブは最大級の地雷だったことに!
数多くの魔法少女たちを助け、今もワタシたちを救うために奔走しようとしているモエちゃんにとって半魔女であるイブですら守る対象だったのでしょう。
現にモエちゃんはイブに対して一回も『魔女』と呼んでいません。『彼女』とまるで人間扱いするように呼んでいます。
「さーね。だってわたくしたちが見つけた時にはもうこんな状態だったし、意思疎通なんてできないんだから知るわけがないでしょー? でも自分が犠牲になるだけで世界中の魔法少女が救われるんだし、本望なんじゃないかにゃー? 魔女になって呪いを振りまくどころか、みーんな幸せにすることができるんだからとってもハッピーだよね!」
「とっ、灯花そこまで――」
嫌な予感しかしないワタシは勝手なことを言い始める灯花を止めようとします、が。
「――餓鬼が、あまり
「は?」
地獄の底の底から出たような声が隣から聞こえたかと思うと……灯花の座る椅子の上に器用に移動し、変身しているモエちゃんが、得物である巨大な両刃剣の中央にある
首を通した状態で両刃剣を出したらしくこれでは灯花は一切の身動きが取れず、モエちゃんが少しでも腕を引けば首が吹き飛んでしまうその構図は、まるで処刑台のそれでした。
そんなモエちゃんの顔からは表情がすべて消えていて、急な展開にポカンとしている灯花を見下すその青い瞳に籠っていたのは、軽蔑と激しい怒りの感情だけ。
モエちゃんがこんな顔をするなんて……。
「……ひっ」
「っ! いきなり何をしているのかな君はっ……」
そんなことを考えて現実逃避をしていますと、自分の身になにが起こっているのかを理解した灯花が悲鳴を上げ、ねむが焦ったように変身しました。アリナだけは変わらず、ただ興味深そうにモエちゃんを見つめています。
彼女たちがあんな反応をするということはやっぱりそうなのですね。
全く。全く反応することができませんでした。
モエちゃんが動いたところも、変身したところも、武器を出したところも、なにも見えませんでした。気が付いたらモエちゃんが灯花の首を刎ねようとしていた。そんな風にしか見えなかったんです。
これは灯花たちだけじゃなくワタシですら、モエちゃんの戦闘能力を甘く見ていたみたいです。
モエちゃんが常に力をセーブしながら戦っていることは知っていましたが、本気を出すと知覚することすらできないような速さで移動できるなんて……。
モエちゃんを敵に回すと自分が殺されたのかも分からずに絶命してしまうような、そんな気がします。
昔と違って落ち着いて見えたとしても『神浜最強』のふたつ名は伊達ではなかったということです。
「安心せい、命を取る気は毛頭ないからの。ただのう? 自分たちの身勝手で人様の体を都合良く利用するのはいかがなものかと、少し抗議をしたかっただけなのじゃよ」
本当に殺す気はなかったのでしょう。
武器をしまって変身を解き、椅子の上から『マギウス』たちの真正面に来るように降り立ったモエちゃんにまたいつもの笑顔が戻っていましたが、もはやそれは死神の笑みにしか見えません。
稀代の天才とはいえまだ11歳の小学生である灯花とねむも今の恐怖体験にはかなり堪えたらしく、すっかり委縮してしまっています。
「許せよ。私も彼女を犠牲にする計画にこれから加担する身じゃ。仕事じゃからのう。じゃから、今このタイミングでないとしっかり抗議することができなかったのじゃよ」
「もう! だからあれはもう魔法少女じゃないって言ってるじゃない!」
「ほう、まだ躾が足りぬかの?」
「っ! ふーんだ!」
いくら灯花でもあんな怖い思いは二度と味わいたくないのでしょう。恐怖に怯えながらツンッとそっぽを向いてしまいました。
ねむももうモエちゃんが暴れることはないと判断したのか、それとも戦いになったら絶対に勝てないと悟ったのか、変身を解いて席に着きました。
それから遂に交渉が始まりました。
ここに来た本来の目的である『マギウスの翼』の今後の方針について。
正直この交渉はかなり面倒なものになる……と思ったのですが。
「――というわけじゃ。よって、申し訳ないがそちらの意向を通すことはできん。ただしそちらが望む感情エネルギーとやらの補填についてはしっかり用意すると約束しよう。よいかの?」
「そ、そう。じゃあ好きにすればいいんじゃないかにゃー? できるものならねっ!」
「良い返事をもらえて何よりじゃ」
完全にモエちゃんに怖気ついてしまったらしい灯花があっさりと承諾してしまったことで解決してしまいました。
これではもはや交渉ではなく一方的な要求です。
話が終わり帰ろうとしたモエちゃんはアリナに捉まり、話があるとどこかに連れていかれてしまいました。
思えばアリナの様子が少しおかしかったですね。ずっとモエちゃんを食い入るように見ていました。先程連れていくときもどこか楽しそうに見えましたし、意外にもアリナはモエちゃんのことを悪く思っていない気がします。
問題なのは……灯花とねむのふたりです。
都合のいい駒程度しかモエちゃんを見ていなかったようですが、今回の件で間違いなく見る目が変わることでしょう。
あんなに恐ろしい目に遭ったのもそうですし、なにより自分たちに従っているはずの下位組織である『マギウスの翼』のトップが食らいついてきたわけですから面白くないでしょう。
「ちょっとみふゆ! あれ、どういうことなの!?」
「いや……すみません。ワタシの失態です。場所をしっかりと考えておくべきでした」
「ちがーう、そこじゃなーい! あの星奈百恵! わたくしたちに剣を向けるなんてどうかしてるんじゃないの!?」
「…………」
これはどう答えればいいのでしょうか。
正直に言ってワタシはモエちゃんと灯花、ふたりとも悪いところがあると思っていますので、どう答えたらいいのかがわかりません。
明らかに非人道的で自分本位なことを言ってモエちゃんの逆鱗に触れた灯花も悪いですし、仮にも上司である灯花に対して剣を向けたモエちゃんも『マギウスの翼』のトップとしてやってはいけないことをしているのですから。
そう考えると……ちょっと不思議に思えます。
あんなに周りの空気を読んで自分の感情までもコントロールしてきたはずのモエちゃんが、激情に駆られて感情のままに行動するなんて……それほどイブに纏わる『マギウス』の態度が許せなかったということなのでしょうか。
だんまりしているワタシを見てさらに腹が立ったのか、「もう行っていいよ!」と最初の機嫌のよさはどこへやらな灯花。
さすがにこれ以上ご機嫌を斜めにするのは良くないのでワタシはすぐにこの地下聖堂から地上に戻りました。
「これは……また新しい火種ができてしまいましたか」
一難去ってまた一難。
『マギウスの翼』だけでなく『マギウス』にも大きな影響を与えた
果たして彼女は薬になるのか、はたまた毒になるのか。
今になってとんでもない劇物を取り込んでしまったことに、ワタシは再び頭を悩ませました。