マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート   作:スパークリング

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Side.七海やちよ 絶望

 百恵が行方を晦まして二ヶ月が経った。

 そしてこの二ヶ月で、私――七海やちよの取り巻く環境がガラリと変わった。

 

 今現在私は、人々の記憶から欠落してしまった、けれど確かにそこにいたはずの妹さんを探しに神浜にやってきた魔法少女、環いろはを助手に添えて、現在神浜で怪奇現象を起こしている元凶のウワサを調査している。

 

 成り行きで鶴乃も首を突っ込んできちゃって、今はこの三人でチーム……のようなものを組んでいる。

 ええ、そう。チームのようなもの。断じてチームじゃないわ。

 

 ももこのチームメイトに襲い掛かった『絶交ルールのうわさ』から始まり、質の悪い偽物を作り出す『口寄せ神社のうわさ』を撃破したのも束の間。

 神浜で活動するため私の家であるみかづき荘に越してきた環さんがなにかに巻き込まれていることが発覚した。

 

 まるでなにかのカウントダウンのように彼女の身の回りに数字が書かれた紙が落ちてくる。現象からして魔女の仕業じゃない。ということは……ウワサが絡んでいる可能性がある。

 

 だけど、私が纏めておいた『神浜うわさファイル』の中に該当するようなウワサはない。

 ということは……最近生まれたばかりの新しいウワサだということだった。

 

 心当たりがないかを聞いてみると、環さんは『フクロウ印の給水屋さん』とやらからもらった一杯の美味しい水を飲んだ直後から紙が落ちてくるようになったらしい。……もうこれは九割九分確定ね。

 明らかにその水が環さんを襲っている怪奇現象を起こしている。

 

 環さんと私、二手に分かれてその給水屋について調べることにした。なにかわかったらお互いに連絡を取り合うように約束して調査に乗り出す。

 

 環さんが水を飲んだ場所……参京区を調べていると、異形の存在と遭遇した。

 

 一見使い魔に見えるけど、結界を持っていない。

 そしてなによりおかしいのは、私には歪な存在に見えるのに、なにやら親しげに話している様子の子たちは普通に友達のように会話をしているところだった。

 そして、その異形はなにかの噂を広めようとしている。

 

 なにかは推察できないけれど、噂の内容を確認しようと少し近づこうとしたところで。

 

「全く、さっきから同じことばっかり喋くりやがって……アンタ、一体なにもんだ?」

 

 私よりも先に……赤い髪の毛の女の子が話しかけた。

 すると、その異形はまるで最初からそこにいなかったかのように消えてしまった。

 

 あと少しで噂を聞き出せたかもしれないと思うと悔しいけど、それとは別に手掛かりになりそうなものを見つけた。

 あの子も私と同じで、アレを別の存在に見えていた。だから思い切って話しかけた。自分が魔法少女だということも一緒に。

 

 案の定、赤髪の少女……佐倉杏子さんは魔法少女だった。

 そして奇しくも、その佐倉さんも環さんと同じ水を飲んだらしい。そして定期的に数字が書かれた紙が落ちてくるということも同じだった。

 

 事情を話して協力を持ち込もうとしたのだけれど……価値観の違いからそれは実現できなかった。でも収穫があったのは間違いない。

 

 環さんに起きている怪奇現象は給水屋からもらった水を飲んだからで確定。

 そして噂を広めている得体の知れないなにかがいることも分かった。

 

 ひとまず環さんと情報共有するために鶴乃の店である万々歳に集合することにした。

 カウンター席で待つこと数分、環さんは……ひとりの少女を連れてやってきた。

 

「お、こいつやちよじゃん! すげー有名なヤツ!」

 

 その子を見て思わずジト目になってしまった。

 

「環さん……」

「は、はい!」

「すぐにこの子と解約しなさい!」

「そんな突然!?」

 

 面食らう環さんに、いったい自分が連れている人物が誰なのかを説明した。

 

 深月フェリシア。

 本人は強い傭兵として有名だと思っているらしいけどとんでもない。針が振り切れて測定不能なぐらいの悪い傭兵として有名な魔法少女だ。

 

 魔女を見れば目の色を変えてブレーキなしに暴走する。

 強さは折り紙付きだけど、その暴走で味方を苦境に追いやることもある危険人物。

 おまけに報酬次第じゃ寝返ることも多々あり。

 みたまが憤慨しながらお尋ね者の張り紙を調整屋に張り出していたことが記憶に新しいわ。

 

 このはたちの事件の時は助かったけどそれはそれ。

 『傭兵』としての彼女の評価は私から言わせてもらえれば最悪だ。今すぐ『傭兵』を名乗るのをやめてほしいと思っているほどに。

 

 で、その悪名高い傭兵は、どうやらご飯を作ってもらうことを条件に雇われているらしい。

 安い報酬くらいしかいいところがないとは聞いていたけどここまでとは……。

 

 だけど一度決めると頑固になる環さんが、自分がずっと見ているからと反発する。そして深月フェリシアは調子に乗って私のことを「偏屈ババア」呼ばわりしてくる。

 こいつ……!

 

「やちよはババアじゃないよ! ギリ未成年だよ!」

 

 そしてフォローになっていないおバカな鶴乃が乱入してきた。後で覚えていなさいよ。

 私から興味が鶴乃に移った深月フェリシアが鶴乃に突っかかる。

 

「はぁ? 誰だよオマエ……」

「最強の魔法少女、由比鶴乃とはわたしのことだー!」

「はっ、なに言ってんだ。最強はアイツに決まってんだろうが、この自称最強」

「ぐ、ぐぬっ……」

 

 鼻で笑われた鶴乃が悔しそうに表情を歪ませた。

 

「まぁ……そうね。確かに最強の魔法少女はあなたじゃないわよ鶴乃」

「ひ、ひどい!……けど、うん。そうだよね……調子に乗ったよ」

 

 ギリ未成年とか声高々に言ってのけた鶴乃にささやかな復讐を遂げた私は少し気分が良くなった。

 全く……まぁ、この深月フェリシアは環さんに責任をもって面倒を見させるとしましょう。

 強力な魔法少女なのは違いないし。

 

「あの……ちょっと気になったんだけどいいですか?」

「なに?」

「その……最強の魔法少女って、なんですか?」

 

 ああ……そうか。

 環さんは神浜の魔法少女じゃなかったわね。だから知らないのも当然か。

 

「ああ? オマエ知らねーのかよ、神浜の魔法少女のクセに」

「う、うん。私、最近神浜に来たばかりだから……」

「そーなのか? じゃあ教えてやるよ。神浜最強の魔法少女はオレと同じ『傭兵』の――」

「星奈百恵よ」

 

 深月フェリシアのセリフを遮って私が名前を言ってやった。

 割り込まれた深月フェリシアは不機嫌そうに「先に言うなよ!」とか言っているけど知ったことじゃないわ。というかこの子に百恵を紹介されるのはなんだか腹が立つし。

 それになにが「オレと同じ」よ。全然違うわ。

 

「星奈、百恵さんですか?」

「ええ。この子と違って、神浜の魔法少女全員が認める『傭兵』よ」

「どういう意味だー!」

「意味通りよ。あなたと百恵じゃ月と(すっぽん)もいいところじゃない。似ているところは大きな武器で戦うところくらいでしょ」

「なにをー!」

 

 ぎゃあぎゃあ五月蠅い深月フェリシアと言い合っている間に、にこにこ顔の鶴乃が環さんに説明していた。

 鶴乃も百恵のことを師匠と仰ぐほど尊敬していたし、嬉々として百恵のことを環さんに話していた。

 

「そ、そんな凄い魔法少女なの?」

「うん! わたしも色々教えてもらったし、鍛えてもらったこともあるんだよ!」

「おっ、それならオレもあるぞ! キッツいんだよなぁアレ!」

 

 ふたりはそのまま自分たちが受けた百恵の戦闘訓練についての話をし始めた。そこに環さんも参加して色々と話を聞いている。

 

 深月フェリシアって百恵の指導を受けたことがあるのね、知らなかったわ。

 それでなんであんな……ああ、そうか。

 

 かりんと違って百恵は『傭兵』としての教育じゃなくて、戦闘技術の教育だけを施したのね。

 本人の気質を変えることは難しいと踏んだからかどうかは知らないけど、暴走がエスカレートする前に魔女を倒させるために多分みっちりと。

 道理で異常に強いわけよ……。

 

「そーいえば最近は見てねーな。オマエ知ってるか?」

「ううん。でも言われてみればしばらくの間百恵ししょーと会ってないなぁ。やちよは知らないの?」

「……ええ」

 

 短く返した。本当にどこに行っちゃったのか……。

 

 それからは噂を広めている使い魔みたいなものに遭遇したこと。そしてそれを見つけたらすぐに連絡をするようにだけ伝えてお開きになった。

 

 数時間が過ぎて、引き続きウワサについて鶴乃と調査をしていると環さんから連絡が入った。

 私が遭遇した使い魔のようなものを見つけたらしい。

 

 すぐにそこに到着すると路地裏で、環さんと深月フェリシアが怪しげなローブを身にまとった集団に囲まれていた。

 そのローブの集団はなにやら私たちに言いたいことがあるらしく「ちょうどいい」と言葉を漏らした。

 

「何がちょうどいいの!……はっ! もしかして何かわたしたちに言いたいことが!?」

「その通り……」

「っていうことは……あの変なヤツに手を出すなってこと!?」

「その通り……」

「それで話し合いをしたいっていうこと!?」

「すべて言われてしまった……」

「鶴乃ちゃんすごい……」

「えっへん」

 

 頭の回転が速い鶴乃が見事に向こうの言いたいことを当ててしまった。

 まぁでも、普通に考えてそれしか私たちに接近する理由はないわよね。

 さてどんな提案をしてくるのやら。

 

 と、そんな期待を少ししてみたけどすぐに落胆した。

 話し合いと向こうは言いつつもそれはただの一方的な要求だったのだから。

 

 これ以上ウワサに手を出すな。

 ただそれだけのシンプルな要求だけど、理由が全く見えない上に姿を隠してこそこそ暗躍しているやつらの頼みを素直に聞くバカがどこにいると思っているのやら。

 

 あんまり知らないと思うけど、実は狡猾で計算高い性格をしている百恵と知恵比べをしたこともあるのよ。舐めないでほしいわ。

 

 どういう理由があって人に危害を与えるようなウワサを守っているのかは知らないけど、そこに正当性なんてあるわけがない。こんな危険なことをしている連中がいると知った以上は野放しに出来ない。

 

 何か手を……と、そこで……そうだ。良いことを思いついた。

 

 私は深月フェリシアに囁く。

 追加の報酬を用意するから私たちを裏切ったふりをして敵の本拠地を暴け、と。

 もはや自分がなにかまずいものに巻き込まれていると理解している彼女は素直に従ってくれた。

 

 そして念のために鶴乃に深月フェリシアの後をつけるようにも指示する。

 本当に裏切られたら意味がないし、なによりあの子を私はまだ完全に信用してない。保険は必要だった。

 

 すぐに向こう側に寝返ったふりしてローブのやつらの所に残った深月フェリシア、そしてそんな彼女を監視する鶴乃を置いて、私と環さんはその場を離れる。

 移動している最中環さんは悲しそうにしていたけど、事情を話したら……怒られてしまった。

 みんなに伝える余裕なんてなかったのは事実だけど、環さんのリアクションを楽しんでしまったのもまた事実。素直に謝った。

 

 それから二時間が経過した。

 

 紙に書かれている数字は『2』。

 つまり残り二時間で何かが起こるということ。タイムリミットは迫ってきている。

 それでも深月フェリシアから連絡がこない。

 ……これはもしかしたら裏切った可能性が出てきたわね。

 

 案の定深月フェリシアをつけていた鶴乃が戻ってきた。

 途中で撒かれてしまったらしい。……確定ね。

 

 よほど向こうの提案する報酬が良かったのか、深月フェリシアは私たちを裏切った。そう考えて間違いなさそうだった。

 

 環さんは相手に捕まったのかもしれないと擁護するけど、どうだか。

 曲がりなりにも百恵の戦闘訓練を受けている彼女が易々と捕まるとは考えられない。

 

 まぁ、彼女が裏切ったかどうかの話はさて置きましょう。こっちにはもう時間がないのだから。

 

 私たちは深月フェリシアを見失った場所まで鶴乃に案内してもらうことにした。妙に変な道ばかり歩いていて心配なのだけど……方向はこっちで正しいという。

 どうやら鶴乃は屋根伝いで追いかけていたみたいで直線距離でしかわからないらしい。なんとも鶴乃らしいというかなんというか。

 

 そして深月フェリシアを見失ったという場所に到着すると、そこには渦中の人物である深月フェリシアがいた。

 そして演技は止めにして戻っておいでという環さんを拒絶した。

 ……やっぱり裏切ったのね。

 

 所詮はプライドもなにもない、百恵が築き上げた『神浜の傭兵』というブランドを汚すような報酬第一の典型的な傭兵だったということね。

 一緒に行動すれば見直す点もあるとは思っていたけれど、どうやら思い過ごしだったようだ。

 

 だけど、そんな私とは対照的に環さんと鶴乃は深月フェリシアが裏切った原因は、自分の今の状況がわかっていないからだと指摘する。

 まぁ……確かに行き当たりばったりで先のことなんて何も考えていなさそうではあるわよね。

 

「フェリシアちゃん! もう二時間もない間に、本当に不幸になっちゃうよ!? それでもいいの?」

「またそれかよー。今更不幸になろーがオレには何ともないからな。父ちゃんと母ちゃんが死ぬ以上の不幸があってたまるかよ」

 

 ……それは初耳ね。彼女、ご両親を亡くしていたなんて。

 なるほど、今日のご飯とかやっすい報酬とは思っていたけど、そういう事情があったのね。

 天涯孤独の身だから生きるために稼げる仕事をしようとしていたわけか。

 

 なんとなく、本当になんとなくだけど、そこは百恵と似ている気がした。

 

 思えば百恵はどうやって生活費を工面していたんだろう。

 結構いいマンションに住んでいたし、ちょっとした贅沢をする余裕もあるように見受けられた。でもそれは、とても傭兵稼業だけの稼ぎで維持できるような生活じゃあない。

 天涯孤独の身って言っていたからご両親と縁を切ったのか、それともすでにこの世にはいないのか。考えれば考えるほど謎ね。

 

 もしかして私って、実はあんまり百恵のことを知らないんじゃ……。

 

 ずっと明るく気高く、そしてなんでもないような顔で振舞われていたから気が付かなかったけど、神浜に来るまでの百恵の過去や家族について私はなにも知らない。

 唯一知っていることがあるとするなら、百恵が前の環境を良く思っていなかったことくらいだ。

 

 そんなことを考えているうちに、環さんが深月フェリシアを改心させることに成功していた。

 ……正直言って凄いなって思った。

 

 もし環さんが居なかったら、深月フェリシアが裏切った途端に私は彼女と敵対していた。

 いや、それ以前に彼女と手を組むこともなかった。

 その結果、このウワサによる異変も全く進展することはなかったと思う。

 

 ああ、そうか。

 私が環さんと組んで不思議と違和感がないのは、環さんのこういうところが百恵と似ているからか。

 環さんも百恵も常に相手を気遣って理解できるところまで理解しようとする性格だ。自分の話から入って自然と相手の心を開かせる説得の仕方もどこか似ている。

 まぁ、多分環さんは素だからかわいいものね。

 百恵は狙ってやっている節があるから恐ろしい。

 

 そんな環さんの説得で今度こそこっち側についてくれたフェリシア(・・・・・)の案内の下、私たちは参京院教育学園に到着した。

 ここは確か、ななかが通っている学校だったわね。

 

 どうやらこの学校の校庭を越えた先にある地下水路があの怪しい集団の拠点になっているらしい。

 今日は休日だから人気(ひとけ)もない。侵入することは容易かった。

 

 そして……あった。

 この扉の向こう側が地下水路ね。

 耳を(つんざ)くような音を立てて錆びた金属の扉を開くと……キーッキーッ!

 

「わひゃっ、コ、コウモリ!? キャッ!! こないで!」

「ちょ、おい、コウモリぐらいで騒ぐなよな!」

「わあぁぁぁっ! 顔にぶつかった! ばっちい!」

「落ち着きなさい鶴乃! あなたの店と同じようなもんよ!」

「ひ、ひどいよやちよ!」

「キャアーッ!」

「環さん落ち着いて!」

 

 物凄く騒いでしまった。

 

「そこにいるのは、だれだ……」

 

 そして当然のように見つかってしまった。

 

 どうも彼女たちは『マギウス』という組織の目的を果たすために構成された『マギウスの翼』という下位組織。その中でもこうして黒いローブを着て素性を隠している彼女たちは末端の黒羽根と呼ばれているらしい。

 

 そしてその目的は『魔法少女を救う』こと。

 

 彼女たちが従う『マギウス』という組織はこの神浜市で魔法少女を呪縛から解放することを目論んでいて、彼女たち『マギウスの翼』はその手助けをしているらしい。

 

 魔法少女の解放?

 それはつまり……魔法少女が辿る運命から逃れようとしているということ?

 でもそれがどうして、ウワサを守ることで成立するのか全くわからない。

 

 もう少し詳しく聞こうと思ったとそのとき、横槍が入った。

 

「なに、チンタラしてんだよ!」

 

 私たちの後方から赤髪の魔法少女……佐倉杏子さんが黒羽根たちに攻撃を仕掛けた。

 どうやら彼女も自分の身に起きていることに危機感を抱き、途中で私たちを見かけてからずっと尾行してきたらしい。

 

 佐倉さんの乱入により話し合いは終わり、遂に戦闘に発展した。

 ただ彼女たち黒羽根はそこまで強い魔法少女ではなく、物の数分で鎮圧できてしまった。佐倉さん……やるわね。

 ずっとひとりで戦い続けてきた人の戦い方をしているけど、手を組むと決まればしっかりとこちらと連携を取るように動いてくれるから物凄く戦いやすかった。

 

「あなたほどの魔法少女なら分かるはずだ……七海やちよ。魔法少女を解放するとは、どういうことなのか。それに縋る気持ちも……」

「えぇ、理解はできるわ……。ただ、他人を巻き込むようなウワサを利用してまで、私は救われたいと思わない」

「……はっ。やっぱり、あなたは傲慢だ。あの人と違って真の意味で、私たちのような弱い魔法少女を見ていない」

 

 ……あの人?

 それって一体……。

 

「いつまで、そいつと話してるつもりだい? チンタラしてたら先に行っちまうぞ!?」

「やちよさん、早く行きましょう」

「! えぇ」

 

 聞きたいことはあったけど今は環さんたちにかけられた呪いを解く方が先決。

 

 私たちは地下水路を駆け抜ける。

 そして少しすると、奥が開けている空間に出た。

 

 そこには……先程の黒羽根たちとは打って変わる白いローブを着込んでいるふたり組がいた。

 

「マギウスの翼、白羽根の天音月夜にございます」

「マギウスの翼、白羽根の天音月咲だよ。どうぞ、ウチらの奏でる音色に」

「酔いしれてくださいませ」

 

 ふたり組……白羽根の天音月夜と天音月咲は、非常に面倒くさい敵だった。

 

 まず武器が笛というのがいただけない。

 この音が反響するような空間では彼女たちの武器はかなり有効に働いてしまう。

 数の上ではこちらが圧倒的に有利なはずなのに、相性の問題で全然奥に進めない。どこから攻撃が飛んでくるかがわからないから下手に動けない。

 

 どうすればと考えていると、五月蠅い鶴乃の声がこの広間に響き渡る。……声?

 ああそうか。鶴乃は頭が良い。その手があったわね。

 

 周りが五月蠅ければその音が彼女たちの攻撃である笛の音を打ち消してしまう。

 鶴乃はそれに気づいて騒ぎ立てているのね。現に、あの天音姉妹の攻撃が弱まった。

 

 これで真っ向勝負。

 二対二で数は互角、そして向こうは双子だから普通のチームよりは連携が取れていると思う。だけど、動きからしてまだ魔法少女として若すぎる。だから負ける気がしない。

 

 丁度環さんも気が付いたようだし……騒ぎ立てている三人の喉が潰れない内に終わりにしましょうか。この下らない戦いを。

 

 私が前に、そして環さんがバックについてそれぞれ攻撃を仕掛ける。

 笛は攻撃する際に必ず口元に持って行かないといけないからどうしても隙ができるし、攻撃が来るタイミングも予測しやすい弱点を持っている。どう考えても中距離を得意とする武器だ。

 だから、しっかりと前衛と後衛で役割分担できている私たちとの相性は最悪。

 これで形勢が逆転した。

 

 双子のソウルジェムはもう真っ黒。

 魔力が付きかけている。勝敗は決した。と、思いきや。

 

 彼女たちからバケモノが飛び出した。

 あれは……そうか。以前環さんが出した、ソウルジェムが濁り切った先に出てくるバケモノ。

 魔女になるはずの魔法少女の運命を真っ向から否定する、不吉な怪物。

 

 佐倉さんは口寄せ神社の件で遭遇した市外の魔法少女、巴マミと知り合いだったらしく、この現象のことを知っていた。

 だけど巴マミとは違って、至って冷静に物事を見ている。環さんとも打ち解けているみたいだし、完全に私たちの味方になってくれたとみて間違いない。

 

 そしてそのバケモノを、天音姉妹は『解放の証』だと胸を張った。

 

「これは感情の映し、私たち自身を解き放ったもの」

「それ故に我々は、これをドッペルと呼ぶんだよ」

「その、解き放った自分が『解放の証』ですって……?」

「あなたには分かるでしょ?」

「七海やちよさんなら分かると思いますけど?」

 

 またこいつらも……。

 なにが「私なら分かる」よ。

 

 確かに言いたいことは分かるわ。

 本来は魔女になるはずの濁り切ったソウルジェムが、そのドッペルとやらが出たら綺麗に浄化されている。まさに魔法少女の運命から逃れられた超常現象と見て間違いない。

 

 だけど認めない。

 こんな人を不幸にするようなやり方をしてでも、私は救われたいとは思わない。

 

 だって私は知っているから。

 この理不尽な運命を知ってなお、懸命に戦う魔法少女たちがいることを。

 その子たちを……百恵を、軽く見るようなこのやり方を私は絶対に認めない。

 

 残り時間は30分を切った。タイムリミットは着実に迫ってきている。

 敵の増援もあるからもう形振り構っていられない。

 

 ガチで倒しにかかるわ。

 

 私はそれぞれ指示を出した。

 天音姉妹は私と鶴乃で対応。環さんは黒羽根を牽制し、それをフェリシアが無力化。佐倉さんは……って、あのふたり!

 声を出して指示を出している私に注目が行っている隙に抜け駆けして奥に行こうとしている!

 ……いや、でもこれはチャンスね!

 

「よそ見だなんて、なめられたね月夜ちゃん!」

「まって月咲ちゃん! あのふたり……ウワサの方に向かってる!」

 

 ……今ね。

 

「相手もよそ見だなんて、こちらも舐められたものね」

「そうだね、やちよししょー!」

「しまった!」

 

 特訓の時に百恵が見たらきっと怒るような見え見えの隙を晒す双子。やっぱり魔法少女としての経験が足りていない。

 

 戦いに関してみっちり百恵に仕込まれた私と鶴乃がそれを見逃すはずがなく、私は姉の方の足を容赦なく槍で貫き、妹の方は鶴乃が炎を飛ばして一時的な酸欠を起こさせた。

 

 これでおそらくここでの最高戦力は戦闘不能。後のやつらは私と鶴乃でどうにかなる!

 このまま環さんとフェリシア、佐倉さんを奥に行かせてウワサを――ッ!

 

「なっ……これは……この魔力は……」

 

 知っている魔力を感知して、私の思考が停止した。

 

 その魔力を宿す者はこちらに近づいてきている。

 私たちが来た方……この地下水路の入り口に続く道から足音が聞こえる。

 こつん、こつんと、その足音はこちらに近づくにつれ大きく広間に響く。

 

「……ふっ、私たちの勝利です。私と月咲ちゃんはあくまで時間稼ぎ。役目は終わりました」

 

 足を抑えつつも天音月夜は皮肉に笑う。もう勝利を確信したような顔だった。

 ということはやっぱり……!

 

「派手にやっているのう、全く」

 

 ……ああ。

 この若干幼さを残しながらも、耳に入りやすい通る声。古風な口調。小さな人影、そしてこの魔力の性質……。

 

「え、う、嘘……」

「マジかよ……」

 

 さっきの声の主が誰なのかわかった……というよりもわかってしまったと表現した方が正しい鶴乃とフェリシアの声。

 それは今までの元気な声とは程遠い、絶対に勝つことができない存在と対峙した時のような絶望感が聞いていて感じられる。

 

 きっとふたりは察してしまったのでしょう。

 この声の主が私たちの味方ではないと。

 そんな希望的観測ができないほど、本能が警鐘を鳴らしているんでしょう。今すぐにこの場から離れろ、と。

 

「こんな分かりにくいところをわざわざ確保したというのに、それでも突き止められてしまうとはのう。教え子たちの成長を喜ぶべきか、はたまたこちらの不手際を悲しむべきか」

 

 でも全員そこから動けない。動くことができない。

 なぜなら、その声に確かな『力』があったから。

 一瞬でも背中を見せた途端容赦なく飛び掛かってくるような、まるで猛獣を()の当たりにしたときのような緊張感に、体が硬直して動けない。それに加えて、まさかの人物の登場に驚きを隠せない。

 

 小さな人影がようやくはっきりわかる場所までやってきた。

 

 青と紫の模様が散りばめられた白い和服の戦闘着。

 地下水路に吹く風によって靡く青い帯。

 くるくると回転する銀色の風車のような小物。

 尻尾ヘアーに纏めた老人のように艶のない白髪……もう、間違いない。

 

 どうして……? どうしてなのよ……!

 

「久しいのう。して、こんなところに何用じゃ?――やちよ(・・・)

 

 二ヶ月ぶりに再会した私の親友が穏やかな笑顔で、そして極めて優しい口調で問いかけながらその姿を現した。

 だけど……その目は全然笑っていなかった。

 

 希望の象徴だったはずの神浜最強の魔法少女、星奈百恵が、私たちを絶望と恐怖のどん底に叩きつけた。

 

 

 

 

 

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