マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート   作:スパークリング

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あー、やっとここまで来ました。
ここずっと書きたかったんですよね。

やっぱ物語サイドの方がRTAサイドより書きやすくていいですわ。




Side.七海やちよ 真実を知る者 待ち続ける者 立ち向かう者

 私は過去、二回地獄を見たことがある。

 

 一度目は二年前、チームメイトだった雪野かなえが私を庇って戦死してしまった時。

 二度目は一年前、同じくチームメイトだった安名メルが私の目の前で魔女になった時。

 

 そして今日、私の人生三度目の地獄を見た。

 

 ずっと長い間私の相棒を付き合ってくれて一番近くにいた梓みふゆ、そしてどんな時も丁度いい距離を保ってくれた星奈百恵。この親友二人が私の敵になってしまったから。

 そして……百恵に至っては既に体がボロボロになってしまっていて、もういつ死んでしまうか分からないところまで症状が悪化していることを知ったから。

 

 不幸中の幸いか、百恵の弱体化を知ったのは私と市外の魔法少女である佐倉杏子だけ。そして佐倉さんも決して口外しないと約束してくれた。

 今日初めて会ったばかりの短い付き合いだけど、少しひねくれているとはいえ本質は竹を割ったようなさっぱりした性格をしている彼女のことだ。よほどのことが起きない限りは心の内にしまっておいてくれるでしょう。

 

 鶴乃やフェリシアにはとてもじゃないけど教えられなかった。

 フェリシアはともかく、鶴乃はみふゆのこともある。これ以上心配をかけさせたくはなかった。

 

 ミザリーウォーターの事件を解決したけど私の心は鉛のように重い。

 どうしてこうなってしまったのか。

 誰よりも私はあの二人の近いところにいたはずなのに、どうして止めてあげられなかったのか。分かってあげられなかったのか。自分を責めだしたら止まらない。

 

 そして……私はやりようもない怒りをとある人物に抱いていた。

 八つ当たりでもあるのでしょうけど、それでもどうしても許せなかった。問いただしてやろうと思った。

 

 帰路についている途中、「用事が出来た」と環さんたちと別れた私はすぐにあの女狐がいる場所――調整屋に向かった。

 

「いらっしゃ~い♪ あらぁ、どうしたのやちよさん。そんなに怖い顔しちゃって」

 

 少し荒めに扉を開けて店内に入っても、調整屋の店主――八雲みたまは普段のお道化た態度を崩さない。

 この台詞、そしてこの表情……はっきりと覚えているわ。

 二ヶ月前に百恵が失踪した時と全く同じ対応じゃないのよ……!

 

「今日、百恵とみふゆに会ったわ」

「あら、よかったじゃない。元気にしてたかしら?」

「ふざけないでッ!」

 

 みたまの肩を掴んで壁に叩きつける。

 いつもの私らしくない直接的で、しかも暴力的な態度にみたまは特に驚いた様子はない。張り付けていたような笑顔を取り払って、表情を消して押さえつけている私を見据えていた。

 

「威力業務妨害は本当なら出禁ものよ?」

 

 いきなり掴みかかられたというのにその顔には余裕がある。どうやら私に暴力を振られることがわかっていたかのようだ。

 ……やっぱり、そうだったのね。

 

「知っていたのね……みふゆが、百恵が『マギウスの翼』に関わっているって」

「ええ知っていたわ」

 

 あっさりと認めた。

 

 私がずっと知りたかった親友二人の行方。

 百恵だけじゃなくてみふゆのことも知っていて黙っていたのか……。

 

「悪く思わないでちょうだいね。調整屋さんにも守秘義務があることくらいは知っているでしょう? 安易に顧客情報は明かせないの」

 

 ええ知っているわ。だからそれはいいの。

 本当は決して良くないけど、それはギリギリ許せるのよ。まだわかるから。でも……!

 

「百恵の体のこと……アレも知っていたの?」

 

 それを聞いたみたまの顔から余裕が消えた。

 目が吊り上がり、眉間にしわを寄せて睨みつけてくる。

 ということはやっぱり知っていたのね……百恵の体が今、どんな状態なのかを。

 

「モモちゃんとは定期的に会って、診察していたわ。だからもちろん知っているわよ。遂にモモちゃんの老化が本格的に肉体に対して牙を剥き始めたこともね」

「どうして教えてくれなかったの!?」

「じゃあ逆に、やちよさんはそれを知ったら誰かに教えるの?」

 

 相変わらずの鋭い指摘に私は押し黙った。

 実際私は鶴乃たちに秘密にしているし、佐倉さんにも口外しないように協力してもらっている。とはいえ……とはいえよ。

 

「私は事情を知っているじゃないの。一緒に百恵を助けようって約束した仲じゃない……」

「そうね。じゃあ訊くわ。モモちゃんの体について、十七夜たちに教えた?」

「そ、それは……」

「さらに訊くわ。教えていないなら、これから教える気はあるの? あるなら今ここで電話しなさい。かりんちゃんでもひなのでも、ななかちゃんでもいいわ。スマフォくらい、持ち歩いているでしょ? ないなら貸すわ」

 

 スマートフォンはもはや現代人の必需品。当然何時如何(いついか)なる時も持ち歩いているわ。

 でも……そこにどうしても手が伸びない。バッグを開けばすぐに取り出せるはずのそれを取る気になれない。

 

「教えられるわけ……ないじゃないの!」

 

 みたまを突き飛ばしながら吐き捨てた。

 今は六人で誓い合ったあの時よりも事態は深刻で、複雑になってしまっている。

 

 完全中立だった百恵がついに傾き、そこにはやり方はどうあれ『魔法少女の救済』を掲げる大きな組織がある。

 この『魔法少女の救済』というのが厄介だ。

 

 きっと本当なら、他のみんなも私と同じでこの『マギウスの翼』のやり方に反対するはずだ。

 向こう側に付いた百恵も「やり方に納得はしていない」と言っていたし、みふゆも罪悪感を抱いているような様子だった。

 

 でもそれしか……その方法でしか百恵を助けられないと思ってしまったらどうだろう。

 

 あれから半年経ってもいまだに百恵を助ける方法は見つかっていない。そんな中で少しでも百恵を助けることができる可能性が見つかったら? それに賭けようと思う人が出てきてもおかしくはない。現にみたまは『マギウスの翼』に傾いた。

 

 でもそれ以上に……言いたくない。

 

 もし……もしよ? もしあの百恵が『マギウスの翼』のトップになった理由が自分の命が惜しくなったからだとしたら?

 みたまにはひっそりと自ら命を絶つと言っていた百恵だけど、今はどうかわからない。

 

 百恵は肉体だけでなく精神的にも弱体化している。

 朽ちていく自分の体を見て、死ぬことが怖くなってしまったとしてもなにも不思議はない。私だって、自分の命は惜しいもの。

 追い詰められた人間はなにをしでかすかわからない。

 

 それを裏付けるように、百恵は「私にはもう時間がない」と言っていた。

 残り僅かな自分の命が尽きるまでに魔法少女を解放するという意味だと最初は思ったけどそうじゃなくて、もう自分の命が助かるにはこれしかないから邪魔をするなという意味だったら……。

 

 あの百恵が、力強くて大きかった百恵が、中立を破ってまで『マギウスの翼』が掲げる『魔法少女の救済』に縋りつくほど弱くなってしまったなんて、思いたくもないし信じたくない。胸の内にしまい込んで見て見ぬふりをしたい。内輪で解決して有耶無耶にしたい。

 だから言いたくない。

 

「モモちゃんの仕事がなくなった本当の理由を教えてあげるわ」

「……なんですって?」

 

 いつまで経ってもスマフォを取り出そうとしない私を見てもう答えを察したみたまが突然切り出した。

 百恵の仕事がなくなった、本当の理由?

 

「かりんの方に人気が行ったから……じゃないの?」

「半分はそうね。でもよく考えてみてちょうだい。いくらかりんちゃんの人気が伸びたとして、モモちゃんの顧客が一気に落ち込むと思う? 誰ひとりとしてモモちゃんに頼ろうとしなくなるなんてことが、本当に起こり得ると思う?」

 

 あり得ない。あり得るはずがない。

 百恵を慕う魔法少女は今でも神浜に大勢いる。そんな子たちが百恵からかりんにみんな揃って一斉に流れるなんておかしすぎる。百恵の人気はかりんの登場があったとしても揺るぎないものだったはずだ。

 

 じゃあどうして、百恵の仕事が急激になくなってしまったのか。

 思えば百恵の弱体化が発覚した時から、極端に百恵の仕事がなくなっていった。百恵が大学生になってからはもはや顧客ゼロだ。よくよく考えればそんなことあり得ない。

 

 それなら……まさか。

 百恵の仕事がなくなった本当の理由は……!

 

「モモちゃんの仕事がなくなった本当の理由はね。わたしが握り潰していたからよ」

 

 それを聞いた私の頭に一気に血が上った。

 解放したみたまをもう一度、さっきよりも強めに肩を掴んで壁にぶつける。

 

 あんなに百恵は寂しそうにしていたのを知っておきながらそんな真似をするなんて、それは百恵に対する裏切りにも等しい。

 

「なんでそんなことを……! そのせいで百恵は!」

 

 もし仕事をそのまま継続させてあげていたら百恵の精神はここまで弱体化せずに済んだかもしれない。少しでも老化の症状を緩和できたかもしれない!

 なのにどうしてそんな……百恵を追い詰めるようなことを……!

 

「……たしだって……」

「なに!?」

「わたしだってねぇ……好きでこんなことをしているわけ、ないじゃないのよッ!」

 

 今まで無抵抗だったみたまが私を突き飛ばした。感情に身を任せていた私はそれに抗うことができず、調整屋の床に叩きつけられる。

 

 逆切れされたと思って睨み返してやるけど、みたまの顔を見て力が抜けてしまった。

 険しい表情を終始浮かべていたみたまの顔が崩れ、目尻には涙を溜めていたのだから。

 

「今まで隠してきたこと、教えてあげるわ。モモちゃんは戦う度に老化が進んでいくのよ」

「……え?」

「聞こえなかったのかしら? じゃあもう一度だけ教えてあげるわ。モモちゃんはね、戦う度に肉体に負荷がかかって崩壊に近づいて行っているって言っているのよッ!」

 

 まさかの告白に私の頭が真っ白になった。

 

 戦う度に……百恵の老化が進む?

 百恵の体に負荷がかかって崩壊に近づいているですって!?

 

 信じられない……。

 だってそれが本当だったら、私は百恵を追い詰めていたことになる。

 

 白髪になって百恵の成長が止まった後も、私は百恵を頼ることをやめなかった。

 更紗帆奈が起こした事件の時も積極的に動いてもらったし、厄介な魔女の討伐依頼を出したことだって何度もある。

 それが、百恵の負担になっていたって言うの? 

 

 でも……そう考えると辻褄が合う。

 あの時は百恵と関わりがなかったベテラン魔法少女の佐倉さんがいたから、なんとか百恵の隙を突いて環さんたちをウワサの元に行かせることができて、戦略上の勝利を掴むことができた。

 佐倉さんという百恵が認知していない強力な魔法少女が居なければ、絶対に百恵に勝利することはできなかったでしょう。それくらい百恵の力は圧倒的なものだった。

 

 あんなに体を動かして、普段使わないような自分の魔力を目いっぱい使って、佐倉さんに縛り上げられて、そしてそれを力尽くで破って、余裕で対応していたかのように見えたけど、きっとかなり体を酷使して無理矢理動かしていたんだと思う。

 だから……その無理が祟ってしまった。

 その結果が、戦いが終わって間もないうちに血を吐き出して崩れた、弱ってしまった小さな百恵だ。

 

 あの力の正体が使うだけで百恵の体を蝕むような危険なものだったとしたら、全て合点がいく。

 そして百恵のソウルジェムを調整して、同時に体の調子も診ていたみたまはそれにいち早く気が付いて百恵の仕事をストップした。そうして間接的に百恵の体を守っていたのでしょう。

 だったらどうして……。

 

「なんで言ってくれなかったのよ!? 言ってくれたら私だって……!」

「言えるわけがないじゃない! このことをばらしちゃったら、もうモモちゃんは戦うことができなくなっちゃうじゃない!」

「……っ」

 

 それは否定できない。

 このことを知ってしまったら、私たちは徹底的に戦いから百恵を遠ざけていたでしょう。もしかしたら百恵の分のグリーフシードさえ、私たちが用意していたかもしれないほど過保護になっていたかもしれない。

 

 でも百恵は、それを決して望みはしなかったでしょう。

 百恵は誰かに必要とされなくなっていたことを寂しがっている節があった。みたまによって仕事を潰された挙句、私たちからも頼られなくなってしまったら……多分今以上に精神が不安定になっていた可能性が高い。

 

 だから……そう考えたみたまは真実を知りながらそれを私たちに伝えず、自分だけが制限をかけることで人知れず百恵の精神と肉体のバランスを調整してくれていたのだ。

 

「ずっとつらかったわ、モモちゃんを騙して仕事を取り上げ続けるのは! 毎日仕事がないことを伝える度に寂しそうに笑うモモちゃんを見るのは!……こんな役目を背負うのはわたしだけで充分よ」

 

 そう語るみたまの顔は陰になって見えなかった。

 でも彼女の足元にひとつ、ふたつと水滴が落ちて染みを作る。

 

「迷っているくせにいつまでも優等生であり続けようとするあなたにかける言葉なんてないわ。……今日はもう帰って」

 

 それだけ言って、みたまは奥に行ってしまった。

 その背中は悲し気だけど……大きく見えた。それはまるで……。

 

 結局私は調整屋を出た。

 これ以上みたまを問い詰める気になれず、それどころか彼女に対して罪悪感を抱くようになって元々悪かった居心地が輪にかけて悪くなったから。

 

 だからと言って真っすぐに帰る気も起きず宛もなく歩いていると……とある高層マンションが見えた。

 

 そこは百恵が部屋を借りているマンションだ。

 数回しか来たことがないとはいえ親友の家だし、何よりそこから見える夕焼けが綺麗だったからよく覚えている。

 オートロックも認証システムもないから防犯面が整っていない分、意外と家賃が安いと百恵が笑って言っていたあの頃が懐かしい。

 確か……六階の左奥から三番目の部屋がそうだったかしら。

 

 ふと見上げて記憶の中の百恵の部屋を眺めた。

 そして鳥肌が立った。

 

 その部屋の明かりが、点いている……!

 

 急いでマンションの中に駆け込んだ。エレベーターがあるけどそんなのを待っている時間が惜しい。

 階段を駆け上がってようやく六階に辿り着いたときにはへとへとだったけど、それでも目的の部屋に向かって走った。

 

 そしてその部屋まで辿り着いた。

 表札には『星奈』の二文字。

 その部屋は案の定電気が点いている。つまり誰かがいる!

 

 百恵が帰ってきている……そう思った私はインターホンを押した。

 するとすぐに部屋の奥から足音が聞こえてきた。ここまで音が届くほどだから走ってきている。

 そして……。

 

「セー……って」

「え?」

 

 百恵じゃない誰かが中からドアを開けた。

 

 その子は……かつて神浜に混沌を齎した魔法少女、更紗帆奈だった。

 二ヶ月の百恵の部屋での監禁生活を終えて、すっかり更生した彼女は9月に入ってすぐに百恵の家を出て復学したと聞いていたけど……。

 

「んだよあんたか。ぬか喜びして無駄に体力使っちゃったじゃん」

「どうしてあなたがここに?」

「……まぁ入んなよ。こんなところじゃなんだしさ」

 

 じろっと私を見た彼女は部屋に入るように促してきた。

 百恵の家なのに自分の家のように振舞う彼女に少し苛立ちを覚えたけど、私は素直に言うことを従った。

 

 久しぶりに入った百恵の部屋は掃除が行き届いていた。

 どこにも埃がないし、少し散らかっていてもそれは人間が生活しているからこそ出る汚さであって嫌悪感はない。

 テレビも点いているし、料理も作っていたんでしょう。いい匂いがする。

 彼女が随分とこの家に入り浸っているのが見て取れた。

 

「ほら、食べなよ」

 

 彼女は食卓の上に料理を並べ始める。

 まるで私が来ることがわかっていたかのように、しっかり二食分用意されていた。

 しかしそれは次の彼女の言葉によって否定される。

 

「本当はあんたのために作ったわけじゃないんだけどさ。勿体ねーしな」

「じゃあ……誰のために作ったの?」

「そんなの決まってんじゃん。セーナだよ」

 

 セーナ……つまり百恵のことね。

 

「つってもさぁ、空振りが続いちまってんだけどね。おかげで全部、次の日のあたしの昼飯さ。だから食ってくれよ、さすがに二日連続同じ飯は飽きちまう。かと言って残すのも勿体ねーだろ?」

「……じゃあいただくわ」

 

 今はちょうど7時半。サイクルから言って晩御飯の時間だ。

 今日はいろいろあって疲れたし、今更自分で何かを作る気にもなれなかったから渡りに船だ。

 

 テーブルの上に並べられた料理を見る。

 どれも家庭的で特別豪華なものでも珍しいものでもないけど、盛り付けがしっかりしていてどこが上品だ。量も多すぎず少なすぎずで上手く調整されている。

 

「……! この味」

 

 そして……この安心するような味付け。

 料理教室で学んできたことをベースに自分用にアレンジしてみたと言っていた、たまに家に来た時に食べさせてもらっていたあの味……百恵が作ってくれた料理と全く同じだった。

 

「まぁ、この家で毎日食べさせられていたんだ。おかげですっかり胃袋を掴まれちまってさ、だから覚えざるを得なかったんだわさ」

 

 箸を突きつつ、彼女……更紗さんは懐かしそうに語る。

 それからしばらくの間、無言の食事が続いた。だけどそれは決して気まずいものじゃない。

 私はただ、更紗さんが出してくれた御馳走を味わい、更紗さんも自分の作った料理で腹を膨らませている。

 招かれざる客だったとはいえ、そこまで嫌われていないみたいだった。

 更紗さんから私に対して否定的な感情は一切感じない。

 

 食事が終わったのはおおよそ20分後。

 残さず全部食べ切るも決して満腹ではなく、それでいて物足りなくもない。腹八分目というやつだ。ほぼ完全に百恵の料理を更紗さんは再現してみせた。

 

 洗い物を終えて戻ってきた更紗さんは私と向き合うようにして座る。

 

「んで、最初のあんたの質問なんだけどさ、それに答える前にさ、あたしから少し聞いてもいーい?」

「ええ……なにかしら」

「じゃあ質問だけどさ、あんた、セーナと会ったろ?」

 

 あまりにも直球で、そしていきなりすぎる質問に固まった。

 そんな私を見て更紗さんは「ああ、もういい」と頷く。

 

「あんたはもう少しやりにくそーなイメージだったんだけどさぁ、今日は随分お疲れのよーじゃん? 答えなんて聞くまでもなかったよ」

「……そんなに疲れているように見えたかしら?」

「ああ、それも物凄くな。だから放っとけなくてつい中に上げちまった」

「……ちなみにそうじゃなかったら?」

「追い返していたに決まってんだろ。あいつが失踪したってのにここに来もしない奴なんか、誰が上げるかってーんだ」

 

 それは尤もね。

 でもね、言い訳になっちゃうけど、百恵が姿を晦ませてからすぐに一度だけだけど来たのよ、本当に。

 

「でもそっか。あいつに会ったってーのにそんな浮かない顔をしているってことはさ……もう長くないんだろ?」

「あなた……知っていたの?」

「まぁね。とはいえあいつの口からは訊いてないよ。忘れているかもしれないけどさ、今あたしはセーナの魔法を使っているからねぇ。だからわかるんだ」

 

 そういえばそうだったわ。

 更紗さんは事件を起こして以降、暗示の魔法を捨てて百恵の魔法を習得したんだった。

 だから……更紗さんは気が付いた。

 

 百恵の魔法がいかに強力で危険なものであると。

 そして百恵の寿命が長くないってことも。

 

「ねぇ、聞いてくれるかしら。少し長くなっちゃうんだけど」

「……いーよ。暇だったし、聞いてやるよ」

「……ありがとう」

 

 私は全て更紗さんに打ち明けた。

 百恵が今、どこで何をしているのか、百恵の体にどんな異変が起こっているのか。そして、そんな百恵を助けようと心をひとつにしたはずの人と喧嘩してしまったことを、掻い摘んでだけど全部更紗さんに伝えた。

 私の話を聞いている間、更紗さんは相槌を打つだけで特に何も質問してこなかった。

 そして全部聞き終わった後に、ようやく口を開いた。

 

「そっか。セーナがねぇ」

「……驚かないのね」

「まぁ、なんとなくそーじゃねーかなーって思っていたからね。今更だよ」

 

 そう言ってお茶をすすっていた。

 

 更紗さんの顔には焦りがない。

 心配そうにしてはいるものの、極めて平静だ。自分を押さえつけて我慢しているわけじゃない。心の底から、その程度のことだと思っているように私には感じられた。

 

「あたしはね、ぶっちゃけセーナがどこで何をしていようがさ、どこでくたばりかけているのかとかさ、そんなこたぁどーでもいいんだよ」

「なんですって?」

 

 そしてあっけらかんと言い捨てたその言葉に私は目を吊り上げる。

 まるで百恵のことなんかどうでもいいと言っているようなものだったからだ。

 

「百恵は死にかけているのよ?」

「知ってるよ。今聞いたし、察していたしね」

「悲しいと思わないの?」

「思うよ。そんなの当たり前じゃん。でもさ、セーナはそれを望んでないんだろ? 強がって隠し通そうとしているんだろ? セーナは自分の身に起こった悲劇を誰かに悲しんでほしいなんざ思ってない。だからあたしは必要以上に悲しまないようにしてんだ。今はもう、残りの短い寿命を全うしてほしいな程度にしか思っていないよ」

 

 あまりにもあっさりとしすぎた更紗さんの言葉に思わず言葉を失う。

 

 更紗さんは……百恵をかなり慕っていたはずだ。

 こうして愛称で呼ぶほどに、百恵が更紗さんを受け入れた時はもう依存しているかのように、百恵のことが大好きだったはずだ。

 でも……更紗さんは本当に変わった。

 

「さってと、ここに来た時のあんたの質問に答えてやるよ。どうしてあたしがここにいるのか、だっけか? 決まってんだろ。セーナの居場所を守るためだよ」

 

 あの時の全てに絶望して濁っていた瞳とは一転して、その瞳には強いなにかが宿っていた。

 

「どんな奴らとつるんでいても、どんなことをしていても、どんな状態であってもさ、それでもセーナはセーナだろ?

 セーナがあたしの全てを受け入れてくれたようにさ、あたしもセーナの全てを受け入れようって決めてんだよ。

 今度はあたしが、セーナの全部を肯定するんだ」

 

 その瞳は……どこかみたまと似ていた。

 覚悟が決まっていて、どんなに辛くても自分を貫き通そうとする、そんな力強い光がある。それが私には眩しい。眩しすぎてたまらない。

 

「ここはあいつの家なんだから、いつか絶対に帰ってきてくれる。たとえ死んじまって骨だけになったとしてもな。

 そんなときに誰もいなくて、家の中が荒れまくってたら悲しいだろ?

 だからあたしはここであいつを待ってんだ」

 

 そして……みたまと同じように重なって見えた。

 あの小さな、神浜最強の横顔が更紗さんにも。

 

 思えば百恵も、自分の信じたことや決めたことには結構意地っ張りになっていたっけ。

 更紗さんを受け入れた時も必死で守ろうとしていたし、傭兵として輝いていた時も常に自分で決めたルールに厳粛だった。

 

「あんたがなにを迷ってんのかは知らないけどさ、今は自分が信じていることをまっすぐにやってみりゃあいいんじゃねーの?

 あたしだって、その喧嘩したやつだって、セーナだってさ、結局みんながみんな好き勝手にテメーが思ったことをやってんだ。

 だからあんたもちったぁ好き勝手にやれよ」

 

 そしてその言葉で、霧が晴れていくような気がした。……そうよ。

 

 百恵もみたまも、みんな意固地になって抱え込んでいるだけじゃないの。

 ふたりとも自分のやりたいことをやって目的を達成しようとしている。どんな理由を並べても結局それは個人の我儘でしかない。

 ……だったら、私だって我儘を言ってもいいじゃないの。

 

 いつまでも優等生でいたい? ええ、そうよその通りよみたま。私はずっとその優等生で居続けるわ。

 そしてその優等生なりのやり方で……百恵を助ける方法も見つけるし、こんなバカげたやり方で『魔法少女の解放』を目論む『マギウスの翼』を止めてみせようじゃない。

 

 今の百恵は暴走している。その暴走を……私が止める。

 敵として立ちはだかるなら私が立ち向かってやるわ。こんなやり方は間違っている、ってね。

 

 気分が軽くなって、私は口元が緩む。

 それを見た更紗さんが頬を掻いて頬を赤らめた。

 

「けっ、こんなのあたしの言うことじゃねーだろうがよ。あー恥ずかしい恥ずかしい。もう不貞寝しちまいたい気分だよ」

「ふふっ、そう。じゃあ私はもうお暇するわ。……ありがとうね」

「やめろよむず痒い。とっとと帰れってーんだ」

「はいはい」

 

 まるで百恵のように相談に乗って、私の心を癒してくれた更紗さんは私から目を背けて追い払うかのように手を振る。こういうところ、なかなかかわいいじゃないの。

 百恵が更紗さんのことをかわいがっていた気持ちがよくわかるわ。

 

「なぁやちよ(・・・)、次にここに来るときにはさ、セーナも一緒に連れて来いよな。きっとさっきまでのあんた以上に疲れていると思うから、さ」

 

 玄関で靴を履いてドアノブに手を伸ばしたとき、部屋の奥の方から小さいけど、でも確かに聞こえるような声が耳に入った。

 

「……ええ、約束するわ。――帆奈(・・)さん」

 

 私は振り返らないで彼女に応えて、部屋を出た。

 

 

 

 

 




やちよ、みたま、帆奈ちゃんは書きやすい。はっきりわかんだね。
勝手にキャラクターが動くので助かります。
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