マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート   作:スパークリング

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Side.七海やちよ 力の化身

 魔法少女になって三年が経ち、ベテランと呼ばれる領域に足を踏み入れた夏休みのある日のこと。

 私――七海やちよの耳にある噂が入ってきた。

 

 ――縄張りを持たず、

 ――誰ともチームを組まず、

 ――東西関係なく神浜各地に現れ、

 ――苦戦する魔法少女を見つけては手助けをし、

 ――なにも見返りを要求せずに立ち去る。

 

 そんな魔法少女の噂を。

 

 現在神浜で西側、東側、そして中央の三つのエリアに分かれている。

 ベテランとして西の魔法少女たちの顔になりつつある私は、相方の魔法少女梓みふゆとともに東と中央の魔法少女たちと協定を作り、神浜の魔法少女たちによるいざこざを解決する立場になりつつあった。

 最近ではなりたてながらもかなりの実力と人望を併せ持つカリスマ、和泉十七夜が頭角を現し、東の魔法少女を束ね始め、中央区では相談役として窓口を開いている都ひなのが水面下で私たちとコンタクトを取り始めたので、神浜の東西そして中央の魔法少女同士の争いは次第に沈静化していった。

 

 そんな時期に入ってきたみふゆが仕入れてきたこの噂は、魔法少女たちの間で大いに盛り上がった。

 

 始めは私やみふゆ、和泉十七夜、都ひなのの誰かだと思われていたらしい。

 ベテラン勢がそういった活動をすることで東西の諍いを消し、融和を図ろうとした――なんて情報が魔法少女たちのネットワークを通じて大盛り上がりしているらしい。

 

 ……冗談じゃなかった。

 

 もちろん私は違う。みふゆもだ。おそらく和泉十七夜も違うでしょう。

 私たちの共通しているのは互いのテリトリーから出ずに統括すること。相手側の陣地に入って魔女狩りなんてそんな争いの種になるようなことはしない。

 都ひなのも違うと断言できる。

 なにせこの噂をみふゆに伝えたのが彼女だからだ。相当お疲れの様子で抗議の連絡を入れてきたらしい。

 

 それではいったい誰がそんな真似をしているのかという話になる。

 

 今のところ問題は起こっていないけど、将来なにが起こるかはわからない。

 もしこのまま放置しておくとせっかく纏まっていた西と東、中央の魔法少女たちが無断で相手側のテリトリーに侵入して魔女を狩ってしまう可能性がある。そんなことが起こったら大問題だ。

 

 魔法少女は縄張り意識が強い。当然だ。

 ある程度のグリーフシードを確保できなければ魔女と戦うことが困難になる魔法少女にとって、魔女は敵であり自らの生命線でもあるのだから、そんな貴重な存在を横取りされてしまっては堪ったものではない。文字通りの死活問題なのだ。満足に魔女と戦うことができずに戦死してしまうリスクが高まる。

 

 それに勝手に相手の縄張りに侵入したということは、自分の縄張りに勝手に侵入されても文句を言うことはできない。先に破ったのは自分だからだ。

 自分の縄張りを乗っ取られて狩場から追い出されても誰も助けてはくれない。そうなってしまったらもうお終いだ。

 故に暗黙の了解として、魔法少女の縄張りは絶対であり無断で侵入するのは御法度なのだ。例え無償で助けたとしてもそれは変わらない。

 

 縄張りとしても大問題に発展しかねないが、それ以上に問題になるかもしれないのが、その魔法少女の正体だ。

 

 流浪の魔法少女で、ふらっと偶然神浜に立ち寄っただけならまだいい。本人を見つけ出して公式に発言してもらえればそれで丸く収まる。

 

 だけど同じ神浜の魔法少女ならばそうはいかない。

 渦中の人物が善意で人助けをしているのか、はたまたなにかを企んでいるのか、それすらも分からない状態なのだ。

 もし悪意を以って行動を起こしているのだとしたら……神浜で魔法少女同士の戦争が起こる。

 

「……すぐに噂の魔法少女を突き止める必要があるわね」

「ええ……それが一番ですね。やっちゃん」

 

 私とみふゆは行動を開始した。

 

 やることは夜のパトロールの強化。

 幸い私たちは西側のまとめ役である都合上、西のエリア全域での活動が容認されている。

 だから、二手に分かれて魔女退治をしながら噂の魔法少女についての情報を集めることにした。

 

 

 

 

 

 一週間が経って日曜日のみかづき荘にて。

 ある程度の情報は仕入れることはできたものの、渦中の魔法少女と出会うことはなかった。

 

・かなり小柄である。

・一薙ぎで使い魔を殲滅し、二振りで魔女を屠る大剣を武器にしている。

・かなり特徴的な口調で喋る。

・穏やかでお人好しな性格らしく、求めるなら次の魔女戦でも同行してくれる。

・グリーフシードは絶対に取らない。

 

 他にも天使やら魔法少女の妖精やら意味不明なものもあったけれど、情報を整理するに大きく取り上げるならこの五つだった。

 少なくとも悪人ではなさそうでほっとする。

 

 グリーフシードに執着せずに人助けを優先し、縄張り意識が低い……ここから導かれる結論は――。

 

「ねぇ、みふゆ。噂の魔法少女なんだけど……新入りの可能性がないかしら?」

「やっぱり……やっちゃんもそう思います?」

 

 新しい魔法少女はルールに疎い。

 だからこうした掟破りなことができるし、グリーフシードの大切さがわからないからあっさり他人に譲ってしまう。

 ……だけど。

 

「でもそれにしても手際が良すぎる気がしますね……」

 

 そう。目撃した魔法少女たちが口を揃える恐ろしい戦闘能力。

 

 魔女がなにかをする余裕を与えず、先手必勝と言わんばかりのスピードで瞬殺する。

 素早さと攻撃力の高さを併せ持つ魔法少女特有の戦法だけど、この戦い方を実践するには一定の魔女との戦闘経験を積んでいる上に、一切の無駄な動きを省かなければいけない。

 近づいて斬るのシンプルな戦法だけど、実際にやるとなると意外と難しい上級者向けの戦術なのだ。

 

 そしてそれを実践したとしても……たった二回の攻撃で魔女を沈めてしまうのは、明らかに異常。とても初心者にできる芸当ではない。みふゆの言う通り、手際が良すぎるのだ。

 

 行動は新入りのそれなのに、実力はベテランクラス……。渦中の魔法少女はかなりチグハグしている存在だった。

 そして、そんな魔法少女は私が知りうるどの魔法少女にも該当しない。

 

 結局一週間で得られた情報では、どんな魔法少女かを少なからず知ることはできても正体を突き止めることはできなかった。

 探そうにも目的の人物はどこに出現するかわからない。東や中央に出るようなら手は出せない。偶然出会う、くらいしか現実的な手は残されていない。

 軽く途方に暮れていたその時だった。みかづき荘のベルが鳴ったのは。

 

 魔法少女歴の長い私の家であるみかづき荘は西側の魔法少女のほとんどが知っている。

 だからたまに悩みを抱いた魔法少女が直接会いに来て相談を持ち掛けてくることがある。今日もその類だろう。

 簡単に返事をして、玄関に向かった。

 

 扉の向こうに立っていたのは……小学生くらいの女の子だった。

 一本のアホ毛と左肩に乗る黒い後ろ髪を束ねたしっぽヘアー、青い瞳が特徴的なかわいらしく将来有望な女の子。

 

 意外な人物に動揺したけど、その左手中指に魔法少女の証である指輪があるのを確認して、この子が魔法少女であるということはわかった。

 小学生から魔法少女って……キュゥべえも人間を選ばないわね。

 きっと上辺だけの希望に魅入られて魔法少女になってしまったのでしょう。

 それで途方に暮れて、どこかの伝手を使ってここに来た、そういうことでしょうね。可哀想に。

 

「あなた、お名前は? お姉さんに教えてくれるかしら? 大丈夫、お姉さんがきっと、あなたの悩みを解決してあげるから」

 

 腰を下げて目線を合わせ、できるだけ安心させられるような穏やかな表情を作って話しかけた。すると彼女はぷるぷると肩を震わせる。

 ……いろいろ溜まっていたものがあるのでしょうね。

 もしかしたら魔女と初めて戦ったのかもしれない。怖かったことでしょう。

 

 そんな彼女の頭に手をのせ、優しく撫でる。……すると。

 

「七海やちよ……」

 

 私の名前を呼んできた。

 

「うん。私が七海やちよ。一応西の魔法少女のリーダーみたいなことをしているの」

「……七海やちよ15歳、魔法少女歴三年の中学三年生……」

「? ええ、そうよ」

 

 なんでそんなことを言い始めたのか、わからずに首を捻る。

 すると――

 

 

 

「私は魔法少女歴二年じゃし、お主と同じ来年高校生じゃ! 子供扱いするでないわ、失敬な!」

 

 

 

 ――私の時間が、止まった。

 

 

 

 

 

 

 

「こほん、先程は怒鳴ってすまなかったの。

 私は星奈百恵という。こう見えてもお主らと同い年(・・・)の中学三年生じゃよ」

「えっ」

 

 リビングにて、玄関から戻ってこない私を心配してきたみふゆによって再起動した私は、とりあえず幼女、もとい星奈さんを家に招き入れた。

 同い年を強調する自己紹介にみふゆが素で驚いている。だって……ねぇ?

 とてもそうは見えないもの……。

 

「して、お主らであろう? 私のことを探している西のベテランというのは」

「……ちょっと待ってくれるかしら。落ち着かせてちょうだい」

 

 そしてあっさり私たちの悩みの種だった渦中の魔法少女だったことをカミングアウト。あまりの情報量の多さに処理できず注いだ麦茶を飲む。

 丁度よい喉ごしと冷たさでなんとか冷静になれた私たちは星奈さんから詳しい話を聞くことにした。

 

 星奈さんは十日前(丁度騒ぎが起こり始めた日)に神浜に引っ越してきて、狩場を探すために神浜中を転々としていたらしい。

 そこで出会った魔法少女にテリトリーに無断で足を踏み入れてしまったことにお詫びの気持ちで共闘し、その戦闘で入手したグリーフシードを渡していたとのこと。

 だけどそれまで退治した魔女のグリーフシードはこっそり懐に入れているあたりちゃっかりしている。

 

 衝撃的な見た目と圧倒的な実力、そして偽りのない親切心で、出会う前までに魔女を倒したかもしれないという考えに至らせないようにする。伊達に二年も魔法少女をやってはいない。

 見た目に見合わない狡猾な処世術を身に着けていた。

 

「魔法少女はの、世渡り上手なやつほど長生きするものじゃよ」

 

 呆れている私を見て、星奈さんはカラカラと笑っていた。とてもいい性格をしている。

 だけどとりあえず事情は理解した。

 

 彼女は悪意を以って神浜中を移動していたわけではなく、ただテリトリーを探していただけだった。

 助太刀していたのもテリトリーに侵入したお詫びであり、結果的に魔法少女を助ける活動をしてしまっていたにすぎないこと。

 

 引っ越してきたばかりの彼女が神浜の東西中央の魔法少女の関係を知っているはずもなく、本人にとっては普通だと思っていたことが神浜に混乱を齎していたことを噂を通じて知って、私に謝りに来てくれたらしい。

 

「すまなかったの。知らなかったとはいえ、私はお主たちに迷惑をかけてしもうた」

 

 立っていたアホ毛が萎れてしまっている。

 ……まぁ、本人に非が全くないわけではないけどこうして謝りに来てくれたわけだし、大問題に発展する前に解決できてよかったので、大目に見るとしましょう。

 

「かたじけない。それで、折り入って相談があるのじゃが……はて、おかしいのう? 私は一応、連絡先を出会った子たち全員と交換していたのじゃがの。

 中にはまた一緒に狩りをしてくれって頼んでくれた子もいるのじゃがの?」

 

 薄く笑いながら彼女は言う。

 ……なるほど、道理で情報が少なすぎたわけだわ。

 

 おそらく私たちに星奈さんのことを話してくれた子たちは、最低限の情報しか渡してくれなかったのでしょう。

 西のベテランといっても具体的なフォローは最低限にとどめていた私たちよりも、テリトリーを探している実力者の星奈さんの方が頼りになるし……利用しやすい。

 

 またお願いすれば一緒に魔女退治をしてくれるだろうから楽をできる。自分のテリトリーで魔女退治をしているのだから、グリーフシードを自分に融通してくれる。

 そんな打算があったからこそ、星奈さんを隠して得をしようとした。

 

 しかし……星奈さんの様子からしてそんな浅はかな考えは見抜かれていた。

 そして星奈さんからしたら彼女たちの魂胆はともかく内容だけなら決して悪い話ではなく、逆に利用しようとしていたのだろう。

 

 テリトリーに困っているのは本当だったからわざわざ呼んでくれるのは都合がいいし、獲得したグリーフシードを全て渡す道理もない。「助けを呼んでおいて見返りはないのか?」と訊いてしまえば一発だ。

 

 呼ばれた間はサボって、別れた後にこっそり魔女退治をしてしまう手も使える。

 「帰る途中で偶然見つけたから」「先にテリトリーに招き入れたのはそちらだ」「別れはしたけどまっすぐ帰るとは言っていない」、言い訳なんていくらでも思いつく。

 

 そしてそれを利用して神浜各地でコネを作れば、星奈さんは自分のテリトリーがなくとも安定した魔女退治ができる。

 見かけはwin-winでもよくよく考えると圧倒的に星奈さんが得をしている。

 

 ……おそらく彼女は、そこまでのことを考えてこの十日間活動していたのでしょう。

 魔法少女は世渡り上手な方が生き残りやすい、か。確かにそうね。

 

「はぁ……理解したわ。あなたもなかなかやるわね」

「まさか、そんな手を使ってテリトリーを確保しようとするなんて」

 

 みふゆも同じ結論を導けたらしい。

 さっきまでのかわいい子供を見る目はもうない。あるのは……得体のしれないものを見る畏怖の感情が込められた目だった。

 

「はて、なんのことかの? 私はちょいと(ここ)を使っただけじゃし、もうお主らが考えておるような(こす)い手を使う気もないぞ」

 

 最初はその手を使って神浜で活動しようとした。しかし事情が変わった、ということでしょう。

 神浜の東西中央の問題、そしてその地域ごとの顔や統括、相談役がいると知った以上、新参者である自分が好き勝手するのは得策ではないと判断した。

 

 もしこのまま活動を続けていたら神浜は大混乱に陥り……最悪の場合は神浜の魔法少女全ての信用を失う可能性がある。だからこうして謝りに来た、というわけだ。

 叩き上げの腕だけで勝負するよりも、街のリーダーと懇意にした方が絶対に得をする。そう判断したのでしょう。

 

「それで……その折入っている相談というのはなんなのかしら?」

 

 彼女がここに来た本来の目的は最初からこれ(・・)だったというわけだ。

 少し目を吊り上げて私は警戒すると、星奈さんはにこにこ笑ったままゆったりと構える。

 

「そんなに怖い顔して身構えずとも良い。少しはリラックスせんかい」

「それができるとでも?」

「思わぬのう」

 

 「困った困った」とこちらが出した麦茶を口に含んで一拍開けた彼女は、世間話をするような感覚で口を開く。

 

「まぁ、そんなに警戒することはない。極めて単純な話じゃよ。して、相談事というのはの――」

「――あなたのテリトリー、についてかしら?」

「……ほう?」

 

 彼女の台詞を遮ると、朗らかだった彼女の笑顔が消える。

 その代わり、面白そうなものを見るような笑顔に変わった。……アタリのようね。

 

 今までの会話の内容や仕込んでいた手口からして、彼女の行動は一貫していた。

 自分の魔女の狩場を確保する。ただこれだけの為に行動している。

 そして今、本気で困っていることなのでしょう。

 

 ようやく……ようやく立場が逆転した。問題を解く側から問題を出す側になった。

 まだ手札はあるのでしょうが、交渉事に於いて立場をはっきりさせ、会話の手綱を握ることはなによりも先に成し遂げなければならない。

 そして今、それを突き付けた。

 おまえは頼む側で、こちらは聞いてやる側だと。

 そして彼女は認めた。

 

「話が早くて助かるの。お主の言う通りじゃ」

 

 この神浜は広大な土地だけど、それに比例するように魔法少女の数も多い。街を適当に歩くだけでも魔法少女があちこちにいる。

 わざわざ転々と距離を開けて西から東に移動していたのは、過疎化した土地がないかを探すため。でもご生憎様、そんな土地は神浜にはない。

 

「正直に言って神浜で活動すると、他の魔法少女と遭遇することが多い。そしてそれはトラブルの素になる。私もそんな面倒事を起こす気はないのじゃ」

「そうね。だからこうして私を頼りにしたんでしょう?」

「そうじゃ。新西区に越してきて西の魔法少女になった私が頼れるのは現状お主だけじゃからの」

「……もう自分がしたいことは決まっているのでしょう? 答えを言いなさい」

 

 彼女は頭の回転が速い。おそらくすでに結論は出ていて、出すタイミングを伺っているのでしょう。だからすぐに口に出すように促す。今この私が上にいる状況で聞き出す。

 さぁ……どうするのかしら?

 

「……まず、自分で言うのもなんじゃがの、私は強い魔法少女じゃ」

「知っているわ」

「即答かの? お主の前では力を見せたことはないと思うのじゃがの?」

「あなたの情報をくれた魔法少女たちの反応を見れば一目瞭然よ」

 

 多分、先程星奈さんを利用しようと考えている魔法少女は全体の一握りほどでしょう。

 天使やら妖精やら言う子もいるほどだ。彼女を本気で慕う魔法少女の方が多いように私は感じた。

 

 だから間違いなく、彼女は強い。世渡りが上手いだけでは魔法少女は務まらない。

 二年も魔法少女を続けるということは相当な腕の持ち主である証拠だ。

 ……おそらく、私やみふゆと同等かそれ以上の力を持っていると見て間違いはないでしょう。

 

「西のリーダー殿に実力を買ってもらえるのは嬉しいのう。ああ、そんなに焦るでない。ちゃんと話すとも。今のは偽りのない素直な喜びじゃよ」

 

 一々リアクションをしてくるあたりがやりづらい。

 けどまだ私が手綱を握っている。

 

「この神浜の魔法少女たちの配置は完璧じゃ。神浜全土に最低人数いることで一般人を魔女の被害から守っておる。同時に安定した狩場があることで、そこに住む魔法少女たちも活動しやすい。まさに一石二鳥、という言葉が相応しいのう」

「なにが言いたいのかしら?」

「要するにの、そこに私の付け入る隙はないということじゃよ。意図してこうなったのか、はたまた偶然の産物かどうかは知らぬが、結果的に神浜での魔法少女同士の縄張り争いが起こりにくくなっておる」

 

 ……ということは、テリトリーに関して諦めつつあるということかしら?

 

 でもそうなると彼女の悩みは何も解決されていない。

 魔法少女は魔女を狩らなければ満足に魔法が使えないのだから。このままでは魔法少女の責務を果たせず、碌に力を引き出せずに魔女に殺されてしまう可能性がある。

 

「そこでじゃ、やり方を当初のものに戻そうと思うのじゃよ。各地を渡り歩いて他の魔法少女にくっついてそこのテリトリーから魔女を融通してもらう方法にの」

「そんな寄生虫のようなやり方を私たちが許すとでも――」

「――思わぬのう。言ったであろう、狡い手は使わぬと。じゃからしっかりとした大義名分を掲げることにした」

「大義名分?」

「うむ。ここに来る前に共闘した魔法少女のほとんどが、また一緒に戦ってほしいと私に頼ってきた。そう話をしたの?」

「……ええ」

「じゃからの。そういった魔法少女たちの声があるとするのならば――大義名分が作れる。そうは思わぬかの?」

「!」

 

 それは……! まさか!

 

「そこでじゃ、折り入って相談したいことがある(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 にっこりと、朗らかな表情に戻った彼女はついに本題を口にした。

 

 

 

「私は『傭兵』として、この神浜で活動することにする。今日はその許可をいただきに参ったのじゃ」

 

 

 

 『傭兵』……神浜以外の大都市で聞いたことがある魔法少女の一種の生き様だ。

 

 魔法少女を完全にビジネスのシステムとして捉え、金品やグリーフシードを対価に魔女を狩る魔法少女。

 テリトリーに縛られず、あらかじめ了承を得てから狩りを始めるためテリトリー内を活動する魔法少女とのトラブルになることもない。テリトリーに困っている魔法少女たちが行きつくひとつの終着点が『傭兵』だ。

 

 ただし、誰でも簡単に『傭兵』になれるわけではない。雇うに相応しい実力と、高い信頼が必要となる。

 お金やグリーフシード、そして命まで絡んでいる以上、半端者を雇うことなど誰もしないし、この仕事は評判が命なのだ。

 失敗は許されないし、依頼主を魔女に殺されるなんて真似は一回でもできない。

 

 彼女が『傭兵』になるに至って、実力に関しては言うことなくクリアしている。

 この十日間で東西中央様々な魔法少女と関わり、助け、連絡先を交換していることでコネもすでに出来上がっていることでしょう。そこから派生していけば……より多くの信頼を獲得することができる。

 

 よってなにも問題なく、彼女は『傭兵』として神浜で活動することはできる。

 ……でも彼女はそれだけでは満足しないらしい。

 

 私たちは争いの種になることに関しては干渉するけど、それ以外の魔法少女の活動に関しては一切口出しをしない。

 だから『傭兵』をやるだけなら私たちに謝った後に「傭兵として活動することにする」と言えばお終いなのだ。

 

 許可なんて必要ない(・・・・)

 

 でも彼女はわざわざこうして許可を求めてきた。

 なぜか。理由はひとつしかない。

 

 彼女の相談事……という名の要求を噛み砕くなら――

 

 

 

 ――西のリーダー格(私とみふゆ)のネームバリューをよこせ。

 

 

 

 ということだ。

 

 西のリーダー格が容認した傭兵。その肩書が欲しいのでしょう。それさえあれば少なくとも西側での彼女の生活は安泰だ。

 しかも東や中央でも知り合いがいるみたいだし、西で名が轟けば自然と中央、東と活動範囲を広めることができる。

 結果、誰とも争うことなく、極めて平和的にこの神浜全土が彼女のテリトリーになる。

 

 ……冗談じゃない。

 

「無理な相談ね。そもそも私は今日、あなたと初めて会ったのよ?」

「同意です。あなたが相当のやり手なのは認めますが、名前を貸すわけにはいきません」

「まぁそうなるのう」

 

 私たちの強い拒絶にあっけらかんと納得する彼女に、私たちは唖然とする。

 

 私たちが拒否することも織り込み済みだったっていうこと? じゃあどうしてこんな要求をしてきたの?

 疑問符を頭の中に浮かべていると「ところでのう」と話題を変えてきた。

 

「お主らはこの神浜に何人の魔法少女がいると思う?」

 

 なんだこの質問は。

 当然のように「知らない」と答えた。

 神浜に存在する魔法少女の具体的な人数なんてわかるわけがない。

 

「では、この神浜に存在する魔法少女は、お主らが把握している魔法少女の人数より多いと思うかの?」

 

 その質問に対しては「イエス」と答えた。当たり前だ。

 私が知らない魔法少女の方が多いに決まっている。

 

「まぁそうじゃの。当たり前のことを訊いて済まぬな。

 ……これまた話は変わるがのう、私が北養区でテリトリーを探していた時の話じゃ。

 

 偶然魔女の結界を見つけての、そこで苦戦しているひとりの魔法少女がおったのじゃ。

 弓という遠距離武器を持っているのになぜか魔女に必要以上に接近する。攻撃力重視でないことは傍目でもわかるのに、たったの一発しか放っていないのに通用していないと愕然とする。そしてあろうことか、魔女に背を向けて逃げ出す。

 そんな、突っ込みどころ満載の危なっかしい戦い方をする魔法少女じゃ。

 

 これはいかんと思った私はすぐに使い魔を一掃して魔女を倒した。

 結界が消えて緊張から放たれてへたり込んだ彼女のソウルジェムは案の定、もう真っ黒に濁り切っておった。到底戦うことなんてできないような状態まで追い詰められておったよ。

 

 幸いにも倒した魔女からはグリーフシードが出た。

 どんな状態であれ譲ろうと思っていたから、そのグリーフシードで浄化して事なきを得たが、もし私が通りかかっていなければ間違いなく戦死していた、そんな弱い弱い魔法少女。

 

 話を聞いてみるとのう。

 彼女は三ヶ月前に魔法少女になり願いを叶えたが、いざ魔女に挑むと恐怖のあまり動けなかったらしい。

 魔女の猛攻を潜り抜けてなんとか逃げ切った彼女は魔女が怖くて戦えず、誰にも相談できずに不安を隠して日常生活を送っていた。

 

 じゃがのう、そんな生活をしているだけでもソウルジェムに穢れが貯まっていく。それはお主らも知っておろう?

 そしてそれを浄化するには当然グリーフシードがなければならない。じゃがそのグリーフシードを手に入れるには魔女を倒さなければならない。

 

 ソウルジェムは濁れば濁るほど体に悪影響を及ぼす。

 強い倦怠感や脱力感、そして溜まっていくストレスに、彼女は焦った。

 

 そして……その日、魔法少女になって三ヶ月にして二回目の魔女との戦いを挑むことにした。

 結果は話した通りじゃよ。

 

 禄に経験も積まず、度胸もなく、万全の状態でもなかった彼女はあっさりと魔女に背中を見せた。

 これではまた逃げ切ったとしても、全く意味がないというのにのう。

 

 七海やちよ、そして梓みふゆよ。

 お主らは強い魔法少女じゃ。それは誇ってもよい。

 

 じゃがのう……世の中にはそれはそれは弱い魔法少女もおる。

 頭では理解していようが、実際に会ったことはあるまい?

 

 ――なにせ彼女たちは相談に来ることすら、出来ぬのじゃからの」

 

 星奈さんが紡ぐ言葉の数々に私たちは黙り込むしかなかった。

 全く以ってその通りだったのだから。

 

 なぜかそれほどまでに弱い魔法少女に私たちは出会ったことがないのか。

 答えは、弱い魔法少女はもともと度胸のない内気な性格な少女が大半だからだ。

 

 彼女たちは誰にも相談することができず、自分の中で全て抱え込んで……そしてひとり静かに朽ちていく。

 だから数多くの魔法少女と会ったことのある私でもそこまで弱い魔法少女と会ったことはなかったのだ。

 

「……その話を聞かせてなにが言いたいのかしら? あなたはその弱い魔法少女を盾にして、交渉を迫るつもり?」

「その通りじゃ。これが私の切り札じゃからの。さて――改めてお願いするぞ、西のリーダー殿。私の『傭兵』としての活動を認め、許可をしてほしい」

「ぐっ……!」

 

 やられた……!

 

 ここで拒否することは簡単。

 だけど……それは、私がこの街に住む弱い魔法少女を切り捨てると言い放つことと同義。

 彼女が盾にしてきた大義名分はあまりにも大きく、そして強烈な切り札だった。

 

 ……どうする? どう返せばいい?

 隣に座るみふゆに目を向けるも、もはや人質と言ってもいい彼女の大義名分の前にやられてしまったらしい。目線が泳いでしまっていた。

 

 彼女の要求を断ることはできない。だけど、そのまま受け入れることもできない。

 こっちは西のリーダーなのだ。プライド云々でなく、このまま新参者の魔法少女にいいようにされてしまっては西の魔法少女たちの面目は丸潰れになる。そうなってしまってはせっかく足並みが揃っていた今の神浜の均衡が崩れかねない。

 どうすれば……。

 

「――誓おう。私はこの神浜の弱い魔法少女たちの味方になってみせよう」

 

 頭をフル回転させて打開策を模索していた私の耳に強い誓いの言葉が入ってきた。

 ハッとして前を見ると……そこには私に難題を持ち掛けてきた策略家の彼女はいなかった。

 

 自分の力に対する絶対の自信に満ち溢れ、それに酔うことなく、溺れることもなく、振るうこともせず、ただ静かに私たちに見せつける……『力』の化身がそこにいた。

 

「どんな時でもすぐに駆けつけてみせよう。

 最強の武器になってみせよう、希望になってみせよう、星になってみせよう!

 傭兵故に多少の見返りは求めるが、グリーフシードは融通してみせよう!」

 

 繰り出される力強く心に響く誓いの言葉の数々。

 これは間違いなく、嘘ではない。本気で言っていると感じられる。

 

 …………。

 

 ……傭兵として彼女が活動するなら、どんな形であろうと名が売れる。

 そしてそれは評判という形となって私たちの耳に届くでしょう。

 

 評判が悪ければ傭兵業は廃業し、彼女はまたテリトリーを探して彷徨うことになる。しかも今度は私たちを後ろ盾に使うことができない。

 神浜の……少なくとも西の魔法少女の敵になるし、残る中央と東の魔法少女たちも良い感情は持たないでしょう。

 

 だけど評判が良好ならば……彼女は今まで救われることのなかった弱い魔法少女たちに手を伸ばす唯一の存在になる。

 そんな存在を私たちが事前に認めたとすると、間違いなく私たちの影響力が西に根付く。

 足並みが揃っている魔法少女たちをさらに纏め上げ、いつか実現させるべき目標――東西融和の足掛かりにもなる。

 

 わかっている。

 これはwin-winに見せかけた彼女の処世術だ。

 この話で一番得をするのは他でもない彼女なのだ。

 ……でも。

 

 それでも惹かれてしまう。

 

「私はこれより、中立の存在になってみせよう。

 誰ともチームを組まず、差別もせず、西も東も中央も関係なく分け隔てなく平等に接すると宣言し、実現してみせよう」

 

 その小さい体、幼い声で発せられたとは思えないほどの強い『力』を、私は感じた。

 なぜだろうか、胸の中の震えが止まらない。

 

 …………。

 

「……詳しく話を聞きましょうか。あなたの言う多少の見返りはなに?」

 

 気が付くと私は、彼女にそう問いかけていた。これでは半ば容認しているようなもの。

 でも彼女の話は聞くべきだと、判断した。

 

 彼女はただただ柔らかく笑う。

 

「現金じゃの、それが一番わかりやすい。そうじゃの……3000円でグリーフシードひとつじゃ」

 

 3000円のグリーフシード……。

 はっきり言いましょう。安い。

 

 私なら迷わず買う。あの辛い魔女との命を懸けた戦いをして、そして手に入るかわからないものが3000円なら、買う。

 

「もちろん、グリーフシードが出るまで魔女は狩り続ける。料金は変わらず3000円じゃ。ただし、魔女との戦いには同行させる」

「? なぜですか?」

「私の魔女と戦う姿を見せるためじゃ。多少は恐怖を克服できるじゃろう」

「……なるほど、自立を促すのですね」

「うむ」

 

 そうでないと意味があるまいと彼女は続けた。やることのスケールが大きすぎる。

 傭兵として魔女を狩り、そして依頼主の自立を促す。

 

 欲を張りすぎだ。

 いつかきっと、いや絶対に破綻するでしょう。……でもなぜだろうか。

 彼女ならやりきってしまう感じがした。

 

「……その戦いに同行させた魔法少女の安全は保証できるのかしら?」

 

 そう無意識に感じてしまう私の最後の抵抗で、意地悪な質問をする。

 普通の人なら「確かに」などの肯定の言葉や「多少の危険はあるが」などの前置きの言葉が出てくるでしょう。

 

 でもきっと彼女なら――

 

 

 

「当たり前であろう? 私は強いのじゃ」

 

 

 

 ――やっぱり、ね。

 私の期待通り、強い『力』のある言葉を笑顔で返してくる。

 

 ……はぁ。

 

「……参ったわ。私の負けよ」

 

 両手を上げて降参した。

 結局、主導権なんていつでも奪い返せるように仕組んであったということか。

 きっと最初から落としどころはここだったのでしょう。そしてまんまと私は誘導されてしまったのだ。

 

 彼女の話に耳を傾けてしまった時点で……いえ、それ以前に彼女にテリトリーをどうするのかを訊いてしまった時点で私の敗北が決定していた。

 

 もし私が普段縄張りにしている地域を使っていいと前以て提案していればこうはならなかったでしょう。だけどそんなものは結果論でしかない。

 それほどまでの彼女が持ってきた解決方法がぶっ飛んでしまっていたのだから。

 

「……あなた、本当に私と同い年なの?」

「失敬な! 私は正真正銘の15歳じゃ! 今はまだこんなんじゃが、来年こそピッチピチでボンキュッボンでグラマーでセクシーなJKになるのじゃよ!」

「ぶっ」

 

 みふゆが噴き出していた。

 なによそのピッチピチでボンキュッボンでグラマーでセクシーなJKって……。

 頑張って流行の言葉を覚えようとしたけど全部死語だった時のおばあちゃんみたいよあなた。あと……その四つはどれも無理でしょう。悲しいことに。

 

 今の彼女は先程までの溢れる力の化身ではない。そして策略家の彼女でもない。

 このみかづき荘に訪れた当初の、とても同い年とは思えない見た目をした子供扱いされるとぷんすか怒る、お人好しな性格の彼女だった。

 

 それからはとんとん拍子に話が進んでいき……三日後。

 私とみふゆは彼女……星奈百恵を、傭兵魔法少女として活動することを正式に認めた。

 

 結果は大成功。

 有言実行。彼女はこの夏休みの間に各地で結果を残し、実績を積んだ。

 たったひとりとはいえ、弱かった魔法少女を自立させることにも成功していた。

 

 そしてその名は中央区に届き……都ひなのの立会いの下、パスを取得した彼女は現在では西と中央ふたつを掛け持ちしている。

 東からの依頼は、彼女の知り合いからの伝手で度々届いているようだけど、正式には決まっていない。けれど……これは時間の問題でしょう。

 

 西に住んでいながら東に対する差別意識がなく、基本的に温厚で面倒見の良いお人好しな性格、そして一部の間で大ウケのその容姿(本人は納得していない)の彼女は人気者になりつつある。ここまで辿り着くために私とみふゆに見せた、老獪で狡猾な恐ろしい顔など誰も知る由もない。

 彼女は狙い通り、神浜の魔法少女としての己の立ち位置を獲得したのだった。

 

 そして夏休みが明け……神浜市立大附属学校中等部にて。

 

 

 

「初めましてなのじゃ。私は星奈百恵とい……ってなんでざわついておるのじゃあ!

 そこのお主よ、聞えておるぞ! 飛び級ではないわ、失敬な! 同い年じゃ!

 それからそこのお主ぃ! ペドと言うなせめてロリと言えぃ!!」

 

 

 

 表と裏のギャップの差が恐ろしい神浜最強の傭兵が、私のいるこのクラスにやってきた。

 

 クラスメイト達に囲まれ、なにかと理由を付けられては頭を撫でられてぷんすか怒る彼女はもはやマスコットか珍獣扱いだった。とても来年、彼女が目指すセクシーなJKとやらにはなれそうにない。

 そんな彼女を放課後、屋上に呼び出す。

 

「新西区に引っ越してきた以上、ここに通うことになると予想してはいたけど……まさか同じクラスになるなんてね」

「そうじゃのう。それに関しては私もびっくりじゃ」

 

 この学校のおすすめスポットだとか、学食の人気メニューの話だとか、どの先生の評判がいいかとか。なんでもない会話から始まった。

 そして……やがて話題は私と彼女が初めて会った日のものに変わる。

 

「あなた……私を見極めようとしていたでしょう?」

「当たり前であろう?」

 

 即答だった。……やっぱりそうよね。

 今日一日クラスメイト達と触れ合う彼女は怒っていながらも本当に楽しそうだったし、質問にはすべて愛想よく答えていた。少し声が小さい子の声もしっかり耳に入れて返事をしていた。

 

 本来はこれが彼女の素なのでしょう。

 それなのにあんな牙を隠し持っているのだから末恐ろしい。

 

 そんな彼女があの日、私とみふゆを挑発するように接してきたのは、私たちが西のリーダーとして相応しいかを見極めるため。

 ほんの少しの言葉の使い方や言い回しで自分の真意や目的に気が付くか、そしてその後どのような対応をするのかを見ていたのでしょう。

 

「私はこう見えて負けず嫌いなのじゃよ。私よりも優秀でない人間をリーダーとして崇め奉る趣味はないのじゃ」

「……もし私たちがあなたのお眼鏡に適っていなかったら?」

「そうじゃの。わざと持ち上げて人形にするか、その席を譲ってもらうかのどちらかはしていたかの」

「成り替わるのは確定していたのね」

「無能はなにをやらせても無能じゃ。そして害悪でしかない。そんな輩にこの街の顔など務まるはずがなかろう。それならばいっそ、排除した方がこの街の為になるというものじゃ」

 

 とはいってもこの街の魔法少女たちからの評判や統治の仕方を見て、問題ないとは思っていたがの。と続けた。

 

「だったらなんであんなに挑発したのよ」

「いやぁ、張り合いのある連中だったから楽しくての。ついつい張り切ってしもうたのじゃ。すまんのう」

「……笑い事じゃないわよ」

 

 そっちのお遊びに付き合わされた私たちがどれだけ胃が痛くなったことか……。

 「すまんすまん、悪かったのう」と悪びれた様子もなくカラカラ笑う彼女は本当に憎めない性格をしている。

 でもそんな彼女だからこそ、今の神浜は良い方向に進んでいけている。

 中立を維持し、誰の相談にも応じるのも、打算があるとはいえ性分でもあるのでしょう。それはとてもいいことだと思う。

 ……だけど。

 

 敢えてスルーしたけれど……先程見せた彼女の真顔。

 間違いなく、そこになにかがある。気を許してくれている証明なのでしょう。

 一瞬とはいえ、彼女の闇が見えたような気がした。

 

「ねぇ、百恵」

「む、なんじゃ?」

 

 あなたは強い。

 自分ひとりの力だけでどんなことでも解決できるのでしょう。

 世渡り上手なあなたは誰かの元に近づくことがあっても、その輪の中に入ることはきっとないのでしょう。

 

 でも私は……誰でもいいから、私にでもいいから、もっと他人に頼ってほしいなと感じてしまう。

 

 魔法少女として頼る相手がみふゆしかいなかった私にとって……あなたが来てくれたことで大きな荷物が肩から降りて、とても身軽になれた気がするのよ。

 

 でもあなたは基本的に誰にも頼らない。

 

 いつも会う度に平気そうな顔で笑っているけど……傭兵としての仕事に加え、魔法少女としての自分の職務、さらに生活まで自分ひとりで回してしまうあなたが、周りに人がいっぱいいるけど、どこか距離を取っているあなたが私は心配で仕方がない。

 だから――

 

「私とチームを組まない?」

 

 断られるとわかっていても、私は言い続けよう。

 もっと頼ってほしい。私は応えられるから。

 そんな私の本心を隠したこのセリフを。

 

 

 

 

 

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