マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート 作:スパークリング
添削及び加筆の修正がすべて完了しましたので再開します。
電波塔で二葉さなさんを救出し、神浜セントラルタワーでのアリナ・グレイ率いる『マギウスの翼』との直接対決から三日が経過した。
今日この日はみっちりと講義を入れてしまっている曜日。
だから一週間の中で一番帰りが遅くなる日だった。
おまけになんと今日、たまたま通りかかった前にちょっと行ったことのあるお肉屋さんで売られているコロッケがさらに値引きしているのが発覚し、それをいくつか買ったためにさらに遅くなった。
だって揚げたてを用意するって親切してくれたんだもの。
「ただいま」
あと少しで日が沈む、というか既に沈みかけている時間になって私はみかづき荘に帰宅した。
玄関にちょこんと置かれている靴は環さんのものだけ。フェリシアと二葉さんはまだ帰ってきていないみたい。
でもいつもならすぐに玄関まで来てくれる環さんが少ししても来ない。
「環さん帰ってるの?」
なんとなく違和感を抱いた私は小さく言ってリビングに入る。
そこには――。
「お帰りなさい、やっちゃん」
「お邪魔しとるぞ」
まさかのふたりがいた。
梓みふゆと星奈百恵という、私と同い年の大物魔法少女かつ敵対している『マギウスの翼』のツートップを前に警戒している様子の環さんが遅れて「おかえりなさい」と困り顔で迎えてくれた。
こうしてまともに顔を合わせたのは『ミザリーウォーターのうわさ』以降ね。二葉さんの時は暴走したアリナを連れ戻すために来ただけだったし。
それにしてもまさかこのみかづき荘で私を待っていたなんて、大胆というかなんというか……。
「……あなたたち、何の用?」
「あら、大の親友たちに向かってそんな言い方ないじゃないですか。用件はすぐに終わりますよ。だから警戒しないでください」
「ちょっと待て。お主、連絡のひとつも入れておらんかったのかの?」
「ええ、なにか?」
「……まぁ、よい」
余裕そうに笑うみふゆとやれやれ顔の百恵。
この様子からして、みふゆが百恵を誘ってここに来たんだなってことがすぐにわかった。
もし百恵が提案したのなら事前に私に連絡のひとつは寄越すでしょう。でもみふゆならアポなしでいきなりやってきかねない。この大胆というか大雑把なところが実にみふゆらしかった。
だから……みふゆや百恵が、完全に自分の意志で『マギウスの翼』に加担していることが改めて思い知らされて胸の中のもやもやが込み上げてくる。
「で、その要件はなに?」
「急かさないでください」
「要件は? 『マギウスの翼』を抜けることにしたの?」
この苛立ちをぶつけるように私は即座に問いただす。
今の質問にイエスと答えてくれたら一気に心が軽くなるけど、多分そうはならないんだろうなと思うと余計に腹が立ってくる。
案の定、答えはノーだった。
しかもあろうことか、私を勧誘しに来たのだと言う。……本当に何を言っているのやら。
そんな答えがわかり切ったことを聞くためにわざわざ切り札の百恵まで引き連れてやってくるなんて。
当然のように突っ撥ねた。
確かに私たち魔法少女の未来は決して明るいものじゃない。でもだからと言って周りを不幸にしてまで明るい未来を掴みたいとは思わない。自分の願いを叶えておいて周りを不幸にするなんて、そんな身勝手はない。
だから私は『マギウスの翼』を否定する。
たとえそこにみふゆや百恵がいたとしても……死にかかっている百恵がそれに縋っているとしても、私の考えは変わらない。もう決めているのよ。
私が勧誘を断って間もなく、ちょっと怒った様子の鶴乃がやってきて、みふゆと百恵を見るなり笑顔でふたりに飛び込んでいった。
多分分かっているんだと思う。
ふたりがここに来たのは『マギウスの翼』を抜けてきたわけじゃないことくらい。鶴乃はバカだけど馬鹿じゃないんだから。
でもそれでも信じてみたかったんだと思う。
さらにそこにフェリシアと二葉さんまでやってきた。
こんなタイミングで全員揃うなんて……ももこじゃないけどタイミングが悪いわね。
「あらあら、ごめんなさい。騒がしくさせてしまいましたね。これ以上混乱させるのも申し訳ないですし、ワタシたちはこれで失礼します。気が変わったら、いつでも『マギウスの翼』に来てくださいね」
鶴乃を優しく引き剥がしたみふゆはそう立ち上がる。……が。
「おっと、私はまだ帰らぬぞ。もう少しだけお邪魔させてもらおうかの」
「え?」
お茶を啜っている百恵はソファに座ったまま。
これにはみふゆも驚いていた。
「お主は先に帰っておれ。なに大丈夫じゃよ」
「あ、はい。わかりました。じゃあ先に帰っていますね。あ、やっちゃんは少し来てください。ふたりで話したいことがあります」
「……わかったわ」
とりあえず百恵は置いておくことにしましょう。少なくともこんなところで暴れたりするような子じゃないから。
問題なのはこのみふゆね。一体私になにを話したいのやら。
みかづき荘から出て少し離れた人通りがない場所で、私はみふゆに尋ねた。
「それで、なにかしら? ふたりで話したいことって」
「警告です……」
「警告?」
なにが言いたいのかが全く分からずオウム返しをすると、みふゆは至って真面目な表情で続けた。
「キッチンに立って驚きました。まさかいろはさんたちのマグカップを揃えているなんて。忘れたわけじゃないですよね? 仲間を作れば……」
「仲間じゃないわ。私たちは協力関係よ」
皆まで言わせずにバッサリと斬り捨てた。
でもそれをみふゆは「詭弁だ」と吐き捨てる。口先だけだと、元に戻ったと断言した。
そんなこと……!
「やっちゃんは優しいから見て見ぬ振りができない。自分で設けたハードルを自分で下げています。正直に言います。ワタシの前にいるのは以前のやっちゃんです」
「……警告は聞いたわ」
これ以上みふゆの戯言に付き合うつもりはない。
私が以前の私に戻っている? ハードルを自分で下げているですって? バカバカしい……。
正直、もうしばらく顔を見たくないからお引き取り願いたいのだけど、こちらもみふゆに対して聞きたいことがある。
だから今度はこちらから切り出すことにした。
「……私からもひとつ、良いかしら?」
「なんですかやっちゃん」
「みふゆ、あなた……百恵のことをどこまで知っているの?」
「え……」
「答えて」
正直、もう答えは分かった。
きょとんとした表情のみふゆを見て、察しがついた。
「それはどういう……」
「ああ、もういいわ。よくわかったから」
みふゆとは長い付き合いだ。だからわかった。
この反応をしたということは、私の質問の意図を全然理解していない証拠だ。
つまり……百恵が抱えている爆弾について、なにも知らないということだった。
「いい、みふゆ。これだけは言っておくわ。あまり百恵に無理をさせないで。百恵に頼りっきりになるのは今すぐやめなさい」
「……どういう意味かは分かりませんが、今のモエちゃんは『マギウスの翼』のリーダーで、ワタシはその補佐官です。モエちゃんばっかりに無理なことを押し付けてはいませんよ?」
ああ、本当に理解していないのね……。
「私からも警告しておくわ。……神浜最強を過信しない方がいいわよ」
「だからそれはどういう意味なんですか!?」
「警告はしたわ。百恵をよろしく頼んだわよ」
もう話すことはない。
本当なら百恵の体に起こっている事情を話すべきなんでしょうけど、今のみふゆは信用できない。
変に話を広められて百恵に恨みを持つ魔法少女たちの耳に入ったらそれこそ取り返しのつかないことになる。
百恵は今、私たちの手の届かないところにいるのだからすぐには助けられない。
だからみふゆには警告という形でそれとなく百恵に異変が起こっていることを伝えることにした。これならみふゆも注意深く百恵を見るように努めてくれるはず。
……念のためにさらに釘を刺しておきましょうか。
「もしも百恵を危険な目に遭わすようなことをしたら……覚悟しておきなさい」
警告の狙いと同時に私の本心からの言葉を振り返らずにはっきりと言ってやった。
なんだかみふゆが騒いでいるけど聞えなかったふりをする。
もう本当に話すことはなにもないし、まだみかづき荘には百恵がいる。
一体どんな理由でみかづき荘まで来たのか、その真意を確かめる必要がある。だから無駄な時間を割いていられない。
みふゆと別れてみかづき荘に戻る。
リビングに入ると完全に
「やちよさん、大丈夫ですか?」
「ええ……平気よ」
「平気ってやちよ、なんだか怖いよ?」
鶴乃に怖いと言われてしまった。
いけないわね、どうやら自分でも気が付かないほど険しい顔をしていたみたい。
「みふゆに改めて『マギウスの翼』に誘われてね。あの子が本気だとわかって気分が悪いだけよ……。ごめんなさい、百恵を対応したら少し休むことにするわ。だから今日は早く寝るわね」
「う……うん」
「夕飯とかは気にしないでください。私たちでなんとかするので」
「ありがとう、環さん」
今日は私が当番だったけど、さっきのみふゆとのやりとりのせいで気分は最悪で食欲も出ない。
だから百恵がここへ来た理由を聞きだしたらすぐに寝よう……と思っていたのだけど。
「それについては私に任せてくれんかの?」
「……え?」
このタイミングで百恵が口を開いた。
今までのやり取りからして百恵の言う「それについて」が指すのは……まさか。
「まず突然の来訪、すまなかったの。まさか一報も入れていなかったとは思わなんだ」
「それはみふゆらしいから別にいいのだけど……」
「それはそれじゃ。なんの挨拶もなく来てしまって私なりに申し訳ないと思っておるのじゃ。じゃからお詫びの気持ちを込めて……ここは私に腕を振るわせてもらえないかの?」
「え……腕を振るうって?」
「もしかして!?」
「まさか作ってくれんのか!? 百恵の料理!」
「うむ!」
にっこり笑顔で肯定した。
……まさかこんな状況で百恵がみかづき荘で料理をするなんて誰が予想できたか。
がっちり胃袋を掴まれている鶴乃とフェリシアは小躍りして喜んでいる。
環さんと二葉さんはまさかの展開に追いつけずに放心している。……はぁ。
「もう、好きにしてちょうだい……」
みふゆといい百恵といい……本当に好き放題してくれるわ。
もう疲れてしまった私はソファに座りながら百恵に許可を出した。
「うむ、任せよ。すぐに用意するからの!」
自前のポーチからエプロンを取り出してキッチンに向かう百恵を見て、最初から料理する気満々で来たことがわかる。
百恵の狙いが全く分からないけど……まぁいいわ。決して悪い話じゃないもの。
「あの……大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。百恵は料理に関しては真摯だから。変なものを作ったりはしないわよ」
むしろ味わったことがない環さんや二葉さんはびっくりするんじゃないかしら?
「のう、やちよ」
「なに?」
「せっかくじゃし、これも使ってよいかの?」
それは……私が買ってきたコロッケね。
「ええ、使ってちょうだい。出来立てだから早く食べた方がいいわ」
「うむ、わかった。じゃあこれに合わせるとしようかの」
そんな暢気なことを言ってキッチンに戻っていった。
相変わらずオンとオフがしっかりしている子ね。そんなところは何も変わっていないいつもの百恵だ。
それなのにどうして『マギウスの翼』に加担しているのか……この際問い詰めてやりましょう。先日は色々あって聞きそびれちゃったし。
「うにゃー!? これ、お主ら! つまみ食いをするでない!」
「いいじゃんかよー」
「良いではないかー良いではないかー」
「あともう少しじゃから大人しく待っとらんか! ってそれに手を出すなぁああっ! 折檻じゃ!」
「あがっ!」
「いぎゃいっ!」
百恵がキッチンに向かってから10分近くが経過して、いい匂いがリビングにまで香ってきた頃。
早速百恵の料理の
百恵の鉄拳制裁を受けたのね。
「その……大丈夫、ですか?」
「全然大丈夫じゃないよー!」
「もんの凄くイテェ……。ったく、本当にケチだよなぁ。ちょっとくらい、いいじゃんかよー」
「いや、これはふたりが悪いような……」
「自業自得ね」
なんてやり取りして数分。
「
メンバーそれぞれのお盆を器用に持ってキッチンから百恵が現れた。
そこに載っていたのは全部で五つの食器。
綺麗に盛られた白米、季節の野菜を使ったお味噌汁、私が買ってきたコロッケと千切りにしたキャベツをはじめとした野菜にポテトサラダ、そしておそらく手作りのソース、そして小皿にちょこんと漬物が添えられている。
これといって特別な料理はない。
すべてがすべて家庭的なもので、誰でも簡単に作れるものばかりだ。コロッケに至ってはお店で買ったもの。
それなのに……
「え……なんですかこれ!?」
「凄い豪華……に見えます」
案の定、初めて百恵の料理を見たふたりはびっくりしていた。
どこにでもある定番の献立なのに品がある。とにかく盛り付けの仕方やお皿の配置が絶妙に上手いのよ。そのせいで第一印象がとてもよく見える。
料理は見た目から勝負、という言葉をそのまんま体現したかのような御前が配られた。
「やったー百恵の料理だー! いただきまーす! ~~! 美味しーい!」
「うめぇ! やっぱ百恵の料理は最高だぜ!」
目がキラキラ光っているふたりは早速がっつき始めた。
私もいただきますをして味噌汁を味わう。
……ふぅ。
熱すぎず温すぎない丁度いい温度。お味噌の濃さも素材の味を殺さない程度にとどまっているし、なによりもしつこくない。野菜も食感が残る程度までしか火が通ってないからしっかり味を楽しめる。
ずっと飲んでいたいと思える程のお味噌汁だった。
見た目は普通なのに内容は全然普通じゃない。ああ、これよ。これが百恵の料理だったわ。帆奈さんはよくこれに近いところまで腕を磨けたわね。
「ほら、お主らも食べたらどうじゃ?」
「あ、はい。いただきます」
「いただきます……」
百恵の料理が初めてなふたりは恐る恐るおかずを口の中に運ぶ。
「!!! 美味しいです!」
「はい! まるでいいお店で出されたみたいです!」
するとさっきまでの警戒心はどこへやら。
一口で撃沈したふたりはそのまま箸を進め、百恵特製のコロッケ定食をそれぞれのテンポで食べ進めていく。
またあなたは……相変わらず人の好感度を上げるのが上手ね。
「百恵ー! 味噌汁くれ!」
「わたしにもちょうだい!」
「おお、良い食べっぷりじゃのう。待っとれ」
早くも鶴乃とフェリシアがお代わりをせがんでいる。
……これは私も食べていかないとお代わりがなくなるわね。あともう一杯は飲みたいからさっさと食べるとしましょう。
そして30分後。
すっかりお腹が膨れて百恵に胃袋を掴まれた私たちがそこにいた。
全員が米粒一粒残さず完食し、心地いい気分に浸っている。
私や環さんが洗い物をしようとしたのだけれど、
「片付けを済ますまでが料理じゃ。じゃから私に任せてくれんか」
と百恵に断られてしまった。
思えば帆奈さんも自主的に後片付けをしていたかしら。
こういう自分の拘りに絶対なところは『傭兵』として働いている百恵らしい。
でも、それならどうして完全中立を破ってしまったのだろうか。
「御粗末様じゃったのう」
エプロンを片付けながら洗い物が終わった百恵が戻ってきた。
鶴乃とフェリシアが真っ先に「ご馳走様」を言うと、環さんと二葉さんがそれに続く。
最初の気まずかった空気は今はすっかり和らぎ、自然と百恵はみかづき荘に解け込んでいた。
「さて、それじゃあ帰る前にじゃ。少しだけお話をするとしようかの」
「……!」
と、このタイミングで本題を切り出してきた。
これは……ななかから聞いたことがあるわ。
美味しいものをご馳走して雰囲気を変えてから本題に入る百恵の交渉術のひとつ。
こっちがお腹いっぱいでいい気分になっているところを狙うことで相手に良い感情を持たせ、そこから自分の有利になるように話を進めるやり方だ。
……まずいわね。
さっきまでの緊張した雰囲気ならこの場にいる全員が構えることができた。でも今はすっかり
あまり百恵を知らず、警戒していた環さんや二葉さんまで若干とはいえ数分前よりも百恵に心を許してしまっているでしょう。
なるほど、だから料理をする気満々でこのみかづき荘に来たのね。自分の有利な場を作り上げるために。
やっぱり気が抜けない相手だわ。
「お主ら、『マギウスの翼』に入る気はないかの?」
そして直球ストレートに切り出してきた。
答えなんて分かりきっているだろうから多分これは本命じゃない。次がきっと本命のはず。
私たちはそれぞれ理由を告げて、百恵の勧誘を拒否した。当然ね。
あんな危険なウワサなんかを作って守って、しかもあのアリナ・グレイをトップにしている組織に誰が入るというのか。
「まぁ、そうじゃろうな。お主らならそう答えると思っておった。変なことを訊いてすまんのう」
「私からもいいかしら?」
「む? なんじゃ?」
「どうしてあなたは『マギウスの翼』に加担しているの?」
ジッと目線を合わせて問いかける。
誤魔化しは許さない、私が納得するような答えを出すまで帰らせないという意味も込めて、私もストレートに質問を投げかけた。
「いくら考えても分からないのよ。誇り高いあなたがどうして『マギウスの翼』のリーダーをやっているのか」
本当はいくつか見当は付いてはいる。けど、はぐらかせないようにするために敢えて言わない。逃げ道なんて作ってあげない。
「そうだよ百恵。百恵が『マギウスの翼』にいるなんて、そんなのおかしいよ!」
「おまえ自分は完全中立だって言っていたじゃねーか! なんでそれを無視してんだよ!」
さらにそこに鶴乃とフェリシアの追撃がくる。
きっとふたりも百恵の行動に違和感があったから口にしたんだろうけど、いい援護射撃よ。
さぁ、答えて百恵。
「ふぅ……まぁ良かろう。私が『マギウスの翼』に属している理由……それはの。もう、私には時間がないからなのじゃよ」
「時間がない」。
以前対峙したときに環さんに言った言葉がまた出てきた。
さりげなくだけど、あの時の環さんのやり取りが私の質問の答えだったということなの? それで、今それを正直に答えたということは……。
まさか。
「百恵、あなたまさか……!」
「……お主が知っておるのじゃ。どうせ隠し通せるものでもあるまい」
百恵は両腕に着けているアームカバーに手をやる。
ゆっくり、ゆっくりとそれを下にずらして……自らの、老いて、朽ちかけている両腕を曝け出した。
「……えっ!?」
環さんは絶句し、
「! なんだよこれ!」
フェリシアはそんな百恵の腕を掴み、
「そんな……どうしたの百恵!?」
鶴乃は両眼に涙を溜めて、
「ひ、ひどいです……」
二葉さんが口に手を当てた。
……まさか、百恵が自分から秘密を打ち明けるだなんて思いもしなかった。
環さんが治療しようと変身するも、百恵は自分の魔法の副作用のせいだから魔力の無駄だと拒否した。
「私に残された時間は少ない。じゃからの、なんとしてでも成し遂げる必要があるのじゃ。『魔法少女たちの解放』をの」
「……魔法少女が解放されたら、あなたは助かるの?」
百恵は首を横に振った。
「いや、無理じゃの。これは私の肉体に作用する魔法じゃ。仮に目的を果たせたとしても、私は助からないじゃろうな。あと一年も経たないうちにお迎えが来るであろう」
「だったらどうして……!」
それじゃあ、百恵が『マギウスの翼』に協力するメリットがなにもないじゃない!
『マギウスの翼』に協力すれば百恵が抱える問題が解決するならまだわかる。わかってあげられる。
だけどそれでもダメなら百恵にとって『マギウスの翼』に入る理由がなにもないことになる。
理由もないのに完全中立を破るなんて、それはいくらなんでもおかしい。そんなのは百恵らしくない。
「私はの、ひとりでも多くの魔法少女を助けたいと思っておる。じゃから『マギウスの翼』に協力しているのじゃよ」
「なんですって?」
「私を頼ってくれる子たちに光を見せてあげたいのじゃ。老い先短い私がほんの少し頑張って導けば、多くの魔法少女たちを助けることができる。魔法少女が抱える理不尽な運命から解放して、私の分だけ自由に生きてほしい。そう思ったのじゃよ」
諦めているような笑顔で百恵はそう言い切った。
それが百恵の本心だということは伝わった。今の言葉に嘘はない。それは分かる。
でもそうなると、新たな疑問が出てくる。
「どうして……あなたはそこまでして魔法少女の救済にこだわるの?」
思えば傭兵稼業を始めてから、百恵は他の魔法少女たちに手を差し伸べ続けていた。
最初は本人の性格と仕事がぴったり当てはまったからだと思っていたけど、今の話を聞いて見方が変わった。
どうも百恵は、魔法少女を助けることが最初から目的で『傭兵』として活動し始めたかのように見える。
あの時は自分のテリトリーがなくて困っていたからだと言っていたけど、実は最初から魔法少女たちを助けるために傭兵になることを決めていて、そこに誘導するための建前だったとしたら説明がつく。
いったい何が百恵をそんな風に動かしているのか、私はそれが知りたかった。
「……別にこだわってなどおらんよ。どうせ助からない身じゃ。じゃったらせめて、大きな花を咲かせて散ろうと思っただけじゃよ」
それは嘘よ。
回りくどい言い方をして真意を隠してはくるけど、百恵が嘘を言うことはほとんどない。というか意外なことに百恵は嘘を吐くのが苦手な子なのだ。
だからわかるのよ。今の言葉が本心じゃないことくらい。
もっと問い詰めようとした途端、百恵は立ち上がった。
「お主らにこれを見せたのは私の覚悟を見せたかったからじゃ。じゃから是非とも『マギウス』の講義が行われる場所……『記憶ミュージアム』に来てほしい。そこですべてを知るじゃろう。それを踏まえた上で、今一度自分の頭で考えてみてほしいじゃ。……それじゃあ、邪魔したの」
「待って、百恵!」
言いたいことは全部言い切ったという態度でリビングから立ち去る百恵に手を伸ばすもあっさりと躱され、慌てて追いかけるも廊下を曲がったところで完全に見失ってしまった。
全力で逃げるほど、この話題に触れられたくなかったってことなの?
「ねぇ、やちよ。その……百恵はどうしちゃったの?」
「そうだぜやちよ! オマエ知っていたのか!?」
「私たちに教えてください!」
「あのひと……その、どうなっちゃうんですか……?」
ああ、こうなるわよね。
鶴乃とフェリシアは百恵のことを現在進行形で慕っているし、環さんや二葉さんも今日の一件から百恵が根からの善人で優しい人間だということを知った。
そしてそんな百恵があんな姿になって、しかも今までの『マギウスの翼』の子たちと違って自分の身を削ってまでして他人の為に動いている人物だと知ってしまったら興味を持たないはずがない。
他言無用。絶対に他の人に言いふらさないことを条件に、私は百恵の身に起きている異変についてみんなに教えた。