マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート   作:スパークリング

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Side.静海このは ウワサの神浜最強

「この人たちに自分が何者か、教えてあげましょう」

 

 フェントホープの地下へと続く階段で待ち受けていたのは私たちのコピーだった。

 

「腑抜けたわね、あなた」

 

 バカにしているような……いえ、違うわね。見損なったような目をした私のコピーがやってきた。

 

 腑抜けた、か。確かにそうね。

 

 一年前まで、私は葉月とあやめ以外を信じることができなかった。

 信じたかった大人……副院長先生に裏切られて、それでも『つつじの家』を守るために三人で魔法少女になって、各地を転々として、三人だけで力を合わせて生きて行こうと固く心に決めていた一年前の私。

 そんな周囲がみんな敵のように感じて殺気立っていた頃の私がきっと、今の私を見たらそう言っていたことでしょう。牙が抜けたと、弱くなったと、丸くなったと。

 でも……。

 

「それって、悪いことなのかしら?」

「なんですって?」

「だから、腑抜けて何が悪いのかを聞いているのよ」

 

 確かに私はあの頃の私よりも弱くなった。

 周囲を警戒することがほとんどなくなったから、私のことを知っている魔法少女の子たちも増えたし、隙だらけに見えると思う。

 三人で生きることばかり考えていたから、実力行使をしてでも狩場を奪ったりして強さを見せつけていたこともあったけど、今はそんなことはしていない。

 自分の住んでいる地区以外の狩りの禁止と、早い者勝ちという神浜のルールに従っているし、これからも破る気はない。余裕があるときは積極的に譲ってしまうことだってあるくらいよ。

 だから私は弱くなった。

 

 でも同時に強くもなった。

 

 だって見つけることができたんだもの。

 葉月とあやめ以外にも信じられる人たちを、『つつじの家』以外の私たちが安心して暮らすことができる場所を。

 だから私は力が抜けて、少し腑抜けた。けどそれは決して悪い意味じゃない。

 

 私の中のヒエラルキーの頂点が葉月とあやめなのは変わらない。

 だけどそのふたり以外はすべて底辺だった、とても小さなピラミッドはもうない。いろんな人と関わったことで、高く、高く積みあがっている。

 

 そして今、私の中で葉月とあやめに次ぐ大切な人が酷い目に遭っている。

 

 一年前までの強くも弱かった私から、弱くも強くなった今の私に変えてくれた恩人のひとり……星奈百恵先生をなにがなんでも助け出す。

 そして、私たちの居場所を破壊しようとしている『マギウス』の計画を食い止める。

 

 だから私は、腑抜けていたとしても強いのよ。

 

「本当にあなたにとっての居場所はここなの? 本当にその人は信用できるの?」

 

 ええ、そうよ。

 

「即答なんて、本当に弱くなったわね。少しは疑うことをしないの?」

 

 いちいち物事を疑ってかかるような、そんな臆病者はもういないわ。

 

「また、裏切られるかもしれないのよ?」

 

 そうね。でも構わないわ。

 たとえいつか裏切られたとしても、私は今この瞬間を大切にしたいから。

 それにこんな(ことわざ)を知っているかしら? 来年の事を言えば鬼が笑うそうよ?

 鬼を笑わせるくらいなら、今を目いっぱい楽しんで私たちが笑っていた方が幸せだと思わない?

 

「それならどうしてこの戦いに参加したの? 『マギウス』が勝っても、他の人達が『マギウス』を止めたとしてもあなたたちとっては得だったはずよ。関わらないで神浜から出て傍観していれば、葉月もあやめも危険な目に遭わせず済んだんじゃないかしら? 各地を転々とするのは慣れっこだったはずでしょう?」

 

 言ったでしょう?

 もうこの神浜は、そして神浜に住んでいる人たちは、私にとってとても大切なものなのよ。

 

 コピーのあなたなら分かるでしょう?

 私、大切なもののためなら割となんでもしちゃう性格なのよ。

 だから私は百恵先生を助けるし、ワルプルギスの夜だって倒してやる。逃げ出すくらいなら、この街で心中した方がずっといい。

 

「……馬鹿じゃないの? 死ぬつもり?」

 

 そちらこそ馬鹿じゃないの?

 死ぬ気なんて毛頭ないわ。だからこうして戦っているんじゃない。生き延びた時に後悔しないように、百恵先生を助けようとしているんじゃない。

 

「本当に百恵先生を助けられると思っているの? 彼女は神浜最強よ?」

 

 出来る出来ないの話じゃないのよ。助けるの。

 

「……そう。そこまで言うのなら……そこまで強くなったのなら、もう私は消えた方がいいわね。さようなら、今の私」

「ええ。さようなら、一年前までの私」

 

 でも決して、あなたのことは嫌いじゃなかったわ。

 

「……ふふっ」

 

 薄く笑って、私のコピーは消滅していった。……ふう。

 戦うことはなかったけれど、本当に一年前までの私なら口にしていたようなことを全部言われて色々と疲れたわ。

 

 本当……あんなに臆病で、小さな世界だけしか見ていなかったのね。

 知ってはいたけどこうして突き付けられたら精神に来るわ。でも、きちんと受け止めないといけなかったことだし、その機会をくれたことに関しては『マギウス』に感謝しないといけないわね。

 

「はぁ……面倒くさかった」

「葉月も終わったのかしら?」

「うん、終わったよ……。コピーとはいえもうひとりのアタシとの言葉遊びなんてやるもんじゃないね」

 

 ……それは面倒くさかったでしょうね。

 私のコピーはある意味直球だったからやりやすかったわ。だって今私が思っていることを偽りなく話せばいいだけだったもの。

 

 周りを見渡せば、他にも終わった人たちがいるみたい。というかほとんど終わっているわね。

 まだいないのは更紗さんだけ。

 

「あーったく、我ながら面倒くさいやつだったなぁ~」

 

 噂をすればなんとやら。いつも通りの飄々とした様子で更紗さんが戻ってきた。

 多分あの様子じゃ、過去の自分と言い争っていたんでしょうね。バキバキと肩を鳴らしている辺り少し戦闘もしたのかもしれない。

 

「全員いるわね。じゃあ下りましょう。この深淵に……」

 

 全員の無事を確認したところで、私たちはさらに階段を下っていく。

 それにしても本当に酷い瘴気と邪気……。『マギウス』たちが本当にこの瘴気の下で待っているのだとしたら、その感性を疑わざるを得ない。……いえ、疑うまでもないか。

 計画のために何人もの命を奪おうとして、ワルプルギスの夜を神浜に呼ぼうとしているような人たちですもの。

 

 そしてやがて階段を下りきると……さっきまで階段に立ち込めていたものとは比べ物にならない濃度の瘴気が充満している空間に出た。

 地下聖堂って梓さんは言っていたけど、どちらかといえば植物園みたいね。でもなんか、棺とそれに添えられている花々みたいで気味が悪い。

 

 そしてこの広間の奥の壁には、巨大な鳥のような姿をした怪物が拘束されていた。

 

 あれが……エンブリオ・イブ?

 『マギウス』の計画のカギとなる半魔女? どこからどう見ても魔女じゃないの。しかもとても醜悪で、哀れな……。

 

「……どうやら私の推測は当たってしまっていたようです」

 

 隣に立つななかさんが険しい顔で魔女を見る。

 ええ、本当にそうね。

 

 あんなものを利用した計画がまともなものであるはずがない。どう考えても、人として絶対にやっちゃいけない禁忌に触れる計画だったのでしょう。

 だから今の今まで、私たちが強行突入して来るまでこの魔女を隠していた。

 

「ようやく来たみたいなんですケド。本当、待たせてくれるヨネ」

 

 その魔女がいる方から声が聞こえた。

 よくよく見ると、魔女の真下にあるドームの中でテーブルを囲っている三つの人影があった。

 

「アリナ先輩!」

 

 御園さんが叫んだ。左側の席に待ちくたびれた様子で頬杖をついている緑色の髪の毛の魔法少女に向かって。

 

「オールソー……まぁ来るヨネ、フールガール」

「……本当に、アリナ先輩なの?」

「目が腐っているワケ? アリナはどこからどう見てもアリナなんですケド」

 

 あの人が……アリナ・グレイ。

 他のふたりから百恵先生を守り続けていた『マギウス』。

 

 確かにあれじゃあ、本当に百恵先生の味方をしていたのかどうかが判別しにくい。かなり厄介な性格の魔法少女だと初対面ながらそう思えた。

 

「思ったよりも遅れての到着になったね」

「ねー。みふゆもいるんだからもっと早く来ると思ったのに。まぁそんなのいいや! わたくしたちの聖堂にようこそー。みんなでイブを眺めながらお茶でもいかがかにゃー?」

 

 全く以ってふざけた提案をしてくる。

 アリナ・グレイを除くふたりは環さんの知り合いらしいけど……こんな穢れが充満している空間で涼しい顔してお茶やお菓子を口にできるあたり、私の想像以上のとんでもない感性をした子たちのようね。

 

「半魔女から魔女=孵化! 魔法少女が魔女になるときに発生させる相転移エネルギーをね、わたくしたちはずっと欲しかったんだよ。それが手に入れば、神浜の奇跡が世界に広がるから!」

 

 無邪気そのものの笑顔で説明してくれる『マギウス』のひとり、里見灯花。

 

 こんな邪悪なモノのために……神浜にワルプルギスの夜を呼んだというの?

 犠牲になる人たちのことをまるで電池のように適当な扱いをしているあたり、随分と傲慢で自分勝手な性格をしている。しかも当人に悪意がないのがより質が悪い。

 

 当然のように、私たちはこのイブとやらを使った計画に真っ向から異議を唱えた。

 仮に救われるのだとしても、こんな邪悪なモノの上に成り立つような奇跡なんて願い下げだし、なにより無関係の人達を大勢巻き込んでまで救われたいとは思えない。

 後で絶対に後悔することが目に見える。何人もの人間の命を無駄に背負ってこれからも生きていくなんて真っ平御免よ。

 

 結局のところ、あのイブとやらを消せば『マギウス』の計画はおじゃんになる。

 あの三人がそれなりに強い魔法少女だとしても、こっちは12人で精鋭揃い。数でも質でもはるかに勝っている。負け筋はない……はずなのに。

 なにかしら? あの余裕の笑みは。

 

「くふふっ。でもねー、いくらそっちが頑張っても勝ち目なんてぜーんぜんないよ。魔力的にも体力的にも、そして環境的にもねー」

 

 どういう意味かはさっぱり分からない。

 まぁでもとりあえずこれ、やっちゃっていいわよね?

 

「全員『マギウス』に構わず、イブに向かいなさい! 『マギウス』には攻撃が飛んできたときだけ相手するように!」

 

 やちよさんから指令が来た。もう暴れても大丈夫なようね。

 今まで葉月とまなか先生に任せっぱなしだった分、思いっきりやらせてもらうわよ!

 

 私たちは一斉にイブの元に駆け出す。

 巨大で禍々しい気を発しているけど張り付けられている以上身動きは取れない。だったらただのサンドバッグだ。適当に攻撃を当てて行けば簡単に消滅する!

 

「え? え? なんで普通に動けるの!?」

「なんでって……それこそなんでかしら?」

「だって、この空間は穢れが充満しているんだよー!? 体が慣れてないあなたたちじゃあ、今までの戦闘で負った疲労も併せて動けなくなるはず……!」

 

 ああ、なるほど。

 つまりこの空間は、イブの瘴気を今まで浴びてこなかった私たちにとっては最悪のフィールド。『マギウス』の土俵だったってことね。

 

「確かに気持ちが悪いけど……ばっちり動けるわよ? それに私たち、全然疲れてないし」

 

 まともに戦っていなかったしね。

 羽根たちは葉月とまなか先生のコンビネーションで簡単に撃退したし、葉月たちも特に強い大魔法を使ったわけでもないから大して疲れてもいない。梓さんのおかげでここまでまっすぐ来られたから無駄な体力だって使っていない。

 多分私たちがもっと体力を消耗した状態でここにくると思っていたんでしょうけど、それは残念ね。

 

「これは困った……まさか、全然力を消耗していなかったなんてね」

「うーん……さすがにわたくしたちじゃあ、厳しいかなぁ。じゃあ、しょうがないね。奥の手を使っちゃおう!」

 

 ガコンッ……。

 『マギウス』たちの後ろにある、イブの真下にある扉が開いた。

 

「なっ……この魔力は……!」

 

 やちよさんが顔色を変える。……なに? いったい何に気が付いたって言うの?……って!

 

 今さっき開いた扉から、火炎が私たち目掛けてまっすぐに放たれる!

 いきなりすぎて驚きはしたけどなんとか反応できた私は緊急回避して火炎を避け、さらに後ろに下がって距離を取る。

 あれが……里見灯花が言っていた奥の手?

 

 迂闊に接近することができず、私たちは開かれた扉を警戒して伺っていると……そこから小さな人影が出てきた。

 

 その人はまるで血のように濃い赤色の生地に黒い蓮の花弁が散りばめられた和服の戦闘着を着ていた。

 真っ白だった髪の毛は燃えるような朱色に染まり、銀色に輝く風車状のソウルジェムは黒味を帯びた蓮の花みたいに変形し、真っ赤な鱗で覆われている両腕に持っているのは、使い手以上の大きさを誇る大剣。

 

 そんな……嘘でしょう……!

 

「百恵先生……!」

 

 それは、変わり果てた私の恩人。

 希望の星である神浜最強の魔法少女である星奈百恵先生が、絶望という形で私たちの前に立ち塞がった。

 

 俯いていた顔が私たちを捉える。

 優しい青色だったはずの瞳は虚ろな紫色に変色していて、顔から表情が抜け落ちて生気がない。様子がおかしいとか、そんな次元の話じゃない。明らかに何かされている!

 

「くっふふ。凄いでしょー?」

「全く骨が折れたよ。一度消して改めて出したせいで余計に疲れてしまった。でもその分、いい調整ができたと思っているよ」

 

 あんなことを言っているということはやっぱり……!

 

「これが……ウワサとの融合……!」

「ピンポーン! はなまるだよー。そう! 最強さんにはねむの作ったウワサの依り代にしてもらっているんだよー」

「初めて出したときはイブを見たせいで暴れ始めてしまってね。本当に神浜最強はどこまでもじゃじゃ馬で扱いが難しい。だからある程度僕たちの言うことを聞いてもらうようにしてから、ウワサも再調整した上で神浜最強と融合させたんだよ」

 

 ふざけたことを……!

 何が言うことを聞いてもらうよ。無理矢理百恵先生を洗脳して取り憑かせて、利用しているだけでしょうに……!

 

 今すぐに百恵先生の頭を馴れ馴れしく撫でている里見灯花を引き剝がしてやりたい。でも近づくことができない!

 

 百恵先生は弱体化しているらしいけど、それでもとんでもない戦闘能力を持った魔法少女。そんな彼女が向こうの駒になってしまっている以上、迂闊に動けない。下手に動いた瞬間負けが確定してしまう!

 それに加えて今はウワサと一体化している状態。さっきの火炎のようなウワサ特有の攻撃魔法まで使ってくるとするなら、手の内が見えないこの状況で攻撃を仕掛けるのは非常に危険。

 

 もう少しでイブを倒して『マギウス』の計画を潰せそうだったのに、百恵先生の登場によってそれは遠いものになってしまった。こっちは12人もいるのに、百恵先生がいるだけで戦場が膠着してしまっている。『マギウス』の奥の手はこちらの行動を制限するには充分すぎるものだった。

 

「いいよいいよー、効果は抜群だね! せっかくだし最強さん! もうイブを外に出したいからフェントホープを破壊しちゃってくれるー? イブが解き放たれれば、たくさんの魔法少女が救われてハッピーだよねー!」

「……よかろう」

 

 『マギウス』たちの前に出た百恵先生は武器を片手で振り上げる。

 一振りで天井に亀裂ができ、二振りで亀裂が全体に広がり……ってマズい!

 

「全員! 階段のところまで戻りなさい! 崩壊するわ!」

 

 やちよさんに言われるまでもなく、私たちはすぐに反応して階段のところまで引き返した。

 全員が逃げたところで二葉さなさんが展開した盾を構えて、さらにそれをまなか先生の魔法で伝播させることによってドーム状に広がった。

 

 そしてそれと同じタイミングで、百恵先生が三振り目を放つ。天井全体が粉々に砕け、瓦礫が降り注ぐ。地下聖堂は崩壊した。

 

|!!0。*-(●(工)●)-*。0!!|

 

 建物が壊されたことに反応したウワサが具現化する。

 熊のぬいぐるみみたいな木の実をぶら下げた大木のウワサ。

 

 なによこのバカでかいウワサは……! こんなの、私たちが束になってかかっても倒しきるのにどれだけ時間がかかるか分かったもんじゃない! しかもぶら下がっている熊も独立型らしく、無限に湧き出て大軍を形成している!

 

 その大軍はフェントホープを破壊した百恵先生目掛けて襲い掛かる……けれど、百恵先生が軽く横に振った一振りだけで大群は全て両断されてしまった。

 ……え? 軽く50体はいた大軍勢をたったの一振りで全滅?

 

 そして縦に一振り。

 まっすぐに向かった剣圧がウワサを直撃すると、左右真っ二つに分かれて……そのまま朽ちて行った。

 

 噂には聞いていたけど、本当に一振りで使い魔を全滅させて、返しの一振りで大本のウワサを消し去ってしまうなんて……まさに神浜最強の魔法少女ね。

 冷汗が首を伝った。

 

「全く、相変わらず馬鹿げている威力ね……」

「久しぶりに見たけど、本当に鮮やかよねぇ」

「あれが百恵さんの力ですか。帆奈さんもできますか?」

「ふざけんな、できるわけねーじゃん」

 

 装甲貼視孔に張り付いて外の様子を見ていた他の四人が暢気なことを言っているけど……私たち、今からあの人と戦わないといけないのよね?

 コピーの私には何が何でも助けるって啖呵を切ったけど……ちょっと自信を無くすわ。まぁ、それでも助けるんだけど。

 

 さて、ウワサの本体が百恵先生によって倒されたことで、フェントホープの結界が一気に消えていき……私たちは元の北養区の森の中に戻ってきていた。

 二葉さんの盾が消えて、広がっていく光景は凄惨なものだった。

 

 厚い黒雲に覆われて雷鳴が轟いている空と、降りしきる雨。強風に靡かれて滅茶苦茶に倒されている木々……ワルプルギスの夜が神浜のすぐ傍まで接近してきている!

 

「おーい、みんなー!」

「大丈夫かー!?」

「お怪我はありませんか!?」

「あやめ! フェリシアさん! かこさん!」

 

 フェントホープの外で、洗脳された羽根たちと戦っていたはずの三人が来た。彼女たちに続いて十七夜さんを始めとしたほかの子たちも来る。

 無事に鎮圧できたみたいね。

 

 あやめやみんなが無事でほっと安心したのも束の間、結界がなくなった今でも囚われの身になっているイブが暴れ始めた。

 多分ワルプルギスの夜に反応している! そして……『マギウス』たちの思惑通り、捕食しようとしているのね……!

 ワルプルギスの夜だけじゃなくて、あんな魔女まで神浜に放たれたらどんな被害が出るがわかったもんじゃない! 『つつじの家』なんて睨みあっただけで吹き飛んじゃうわよ!

 

「うんうん、いいね!」

「結構強めに設計したはずの『女王グマのウワサ』を一撃で葬り去るなんて、さすがは神浜最強だよ。むふっ」

「イブも気が付いたみたいだよ! ワルプルギスの夜に! じゃあわたくしたちはイブをこれから開放するから、最強さんはみんなの相手をしていてねー!」

「……承知した」

 

 だけど私たちの前に、百恵先生が再び立ち塞がる。

 

「今すぐ、引け。そうすれば見逃してやろう」

 

 一方的で上から目線な要求だけど、『マギウス』に歯向かった私たちを庇おうとしてくれているのが伝わってくる。つまり……洗脳されていても、百恵先生はしっかりとここにいる。まだ手を伸ばせば届くところにいる!

 

「絶対に引きませんよ、百恵先生。必ず、必ず、あなたをその呪縛から解き放ちます!」

「同意です。私もこれ以上、百恵さんが『マギウス』の操り人形になっている姿など見たくありませんから」

「そういうことよ百恵。私たちは絶対に引かないわ。あなたからウワサを引き剥がして、イブを止める!」

「……そうか。残念じゃ」

 

 薄く笑って、百恵さんはその手に大剣を握りしめた。

 ……これは本気で、私たちを排除しに来ている。命懸けの戦いは日常茶飯事だけど、ここまで生命の危機を感じさせる戦いは初めてね。

 

「半分じゃ。半分は『マギウス』の元に行くとよい。さすがに18人は骨が折れるからの」

「……わかったわ」

 

 百恵先生の申し出をやちよさんが受けた。

 明らかに『マギウス』からの命令違反になる提案を百恵先生がしてきたということは、やっぱり百恵先生の自由意思は残っている。

 ウワサの影響が強く出ているみたいだけど、洗脳は完全にかけられていないようね。

 

 さて、後は誰が百恵先生の相手をするかだけど……。

 

「鶴乃、フェリシア。私が百恵の相手をするわ。だから……」

「わかったよ、やちよ! わたしじゃ百恵に勝てないからね!」

「だな。オレも百恵の相手をするとか無理だから頼んだぜ!」

「……ありがとう。いろはも『マギウス』の所に行っていいわ。二葉さんはみんなを守ってあげて」

「……わかりました! 絶対に灯花ちゃんとねむちゃんを止めます!」

「やちよさんも……絶対に無事に帰ってきてくださいね……!」

「勿論よ」

 

「私は残りましょう。他の皆さんはイブの元に向かってください」

「……悔しいけど妥当な判断ネ」

「ボクたちのチーム、みんな近接戦闘型だから百恵さんと相性最悪だからね……」

「ななかさん……よろしくお願いします」

「ええ。我々のチームの代表として、必ず百恵さんを助け出します。ですので『マギウス』はお願いします」

 

「ワタシは残ります。モエちゃんを巻き込んでしまった責任を取らないといけませんから」

「わたしも残るわぁ。モモちゃんを助けるためにここまで来たんですもの。かりんちゃんはどうする?」

「……わたしもここに残るの。先生を助けたあとで、アリナ先輩にはたくさんお話しするの」

 

「ここであたしが残んなかったらさ、何のための『上書き』の魔法だって話だよね。で、まなかはどうすんのさ? あのセーナ、あっきらかにやべーぞ?」

「……力量不足は承知ですが、残らせてください。まなかだって百恵さんを助けたくてここまで来たんですし、まなかの魔法は便利なはずですから」

「あっは! いいじゃん! そこまで根性があんなら残っても大丈夫っしょ。ある程度はあたしがフォローするからさ、好き勝手にやりたい放題しなよ!」

「……こんな時くらいですよ、帆奈さんが頼れる先輩だって思えるのは」

「言ってくれんじゃん! でも好きだよ、そのちょっと生意気なとこ! かわいくってさ! あっは!」

 

 ……決まりつつあるわね。

 それなら私たちは……。

 

「あやめ。あなたは向こうに行きなさい。葉月、私とあなたで百恵先生を止めるわよ」

「このはっ!?」

「えっ、なんであちしだけっ!? あちしだっておばあちゃんを助けたいよ!」

「もう七人が決まっちゃっているから、あとふたりしか残れないのよ」

「まぁ……確かに、今名乗り上げている人たちを押し退けることはできないよね。みんな百恵さんに並々ならない想いを抱いているし」

「だからあやめ、あなたは『マギウス』の相手をしてちょうだい。友達と一緒に、私たちを待っていて」

「……わかった! じゃああちしは向こうでまた、かことフェリシアと頑張るからこのはたちはおばあちゃんを助けてね! 絶対だよ!?」

「勿論よ。また一緒に、百恵先生の家に行きましょう」

「だね! みんなで行こう!」

 

 これで、決まった。

 ここに残る九人の魔法少女が。

 

「出遅れてしまったか。まぁいい。また自分が監督させてもらうとしよう」

「かこー! フェリシアー!」

「おう、あやめ! また一緒だな!」

「よろしくお願いしますね!」

「みんなまた一緒だね! ふんふん!」

「あっはは、そうですね。羽根を相手していたメンバーがみんなこっちに来ちゃっていますね」

「でもそのおかげで連携は取れているはずネ。私は合わせるヨ」

「助かる。環君には二葉君を付けよう。……『マギウス』が心配なのだろう? 好きにしたらいい」

「ありがとうございます、十七夜さん」

「うむ。では、行くか。七海、星奈をよろしく頼む」

「十七夜もいろはたちをお願いするわ」

「うむ」

 

 十七夜さん率いる九人の魔法少女が『マギウス』の元に向かう。

 そして完全に九人が通り過ぎてから、百恵先生が笑った。

 

「お主らが私と遊んでくれるのかの?」

「ええ、そうよ。きっと楽しめると思うわ」

「そうか……それでは期待させてもらおうかの」

 

 さぁ……始まる。

 最強の魔法少女、星奈百恵先生との決戦が。

 

 絶対に助けるのよ。

 この九人で。

 

 

 

 

 




今回のガバ回避&RTA集


・突入組が誰も疲弊していない
イブの穢れに満ちた空間では慣れていないと体調を崩しやすくなる状態異常を引き起こしますが、ここに至るまでかなり温い戦闘しかしてこなったため皆ピンピンしていました。

だから『マギウス』の長ったらしい説法はキャンセルだ。
というかキュゥべえの目的とか全部調整屋で説明済みなんだよなぁ。

・女王グマのウワサの討伐
ゲームではみふゆさんの限界突破によってようやく倒せるほどに強い女王グマのウワサですが、悲しいかな。ウワサの百恵ちゃんによって速攻で倒されました。
脳筋に勝てるわけないだろ!

・蓮の花
仏教では極楽浄土に咲く花とされる。
花言葉は……。

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