マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート   作:スパークリング

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ひとつに纏めようとしていたのにできなかった(絶望)。
すみません、長くなりそうです。



Hundred Recollections(前篇)

 そうじゃのう。

 まぁ、せっかく来てくれたんじゃし、本当に全部を見て、聞いて、感じてもらうとするかの。

 

 これはとある姉妹の物語じゃ。

 

 一歳しか離れていない普通の姉妹なのじゃがの、それぞれ別の場所で育てられておったんじゃよ。

 姉は都会に住む母親のもとで、妹は田舎に住む母方の祖父母のもとで育てられていたのじゃ。

 

 ああ、そうせかすでない。

 そうじゃな。

 もうこの時点で、普通の姉妹ではないよな……。

 じゃがのう、その姉妹にとってはそれが普通じゃったんじゃよ。

 

 話を戻すとしよう。

 その姉妹は定期的に会っていたのじゃ。

 それは決まって、母親が姉を連れて妹が住んでいる田舎に来て、姉を置いてどこかに出かけ、三日ほど経ってから姉を迎えに来て帰るの繰り返しじゃった。

 

「空気がおいしいし広いね、ももえ!」

 

 姉は都会では味わえない溢れる自然の中を、妹と一緒に体を動かして遊ぶのが好きじゃった。

 

「うにゃあ!? なんじゃその動きは! おかしいぞ、つくも! 仕返しじゃ!」

 

 妹は田舎では入手が難しい、姉が持ってきたゲームを姉と一緒に遊ぶのが好きじゃった。

 互いにの、普段の生活ではなかなかできない遊びをするのが楽しくて、そして、互いに誇れるものを持っていて、それを自慢して褒め合うことが楽しくてのう。

 姉は毎回違うゲームを持ってきたし、妹も姉を毎回違う場所に連れて行った。

 仲良しじゃったんじゃ。

 

 じゃがのう……その関係は少しずつ崩れ始めた。

 

 姉が小学一年生になったころ、外で遊んでいた時に、姉が腕を木の枝にぶつけて怪我をしたのじゃ。

 妹は慌てて駆け寄った。そして、怪我をしていると思った姉の腕を見ようとした。じゃがの、姉は頑なに腕を見せようとはしなかったのじゃ。

 

「大丈夫だって。ね? 大丈夫だから……」

 

 笑顔を作って姉は妹に言い聞かせた。

 痛そうに腕を抑えているからどう見ても大丈夫じゃないのに、姉は腕を見せてくれない。こんな風に拒絶されたのは妹にとって初めての経験じゃった。

 でも妹はすぐにそれを流した。

 

 妹にとっての姉の異変はそれだけじゃなかった。

 前までは一緒にお風呂に入っていたのに、それすらも拒否してきたのじゃ。

 小学生にもなって妹と入るのが恥ずかしいと、姉は拒絶した。

 

 妹はそれも不思議に思った。

 でも深くは聞かなかった。

 

 妹はとても聡明な子じゃった。

 じゃからのう、今までの生活の中でおかしな点がいくつもあることに気が付きはじめていたのじゃ。

 

 会ったことがない父親。

 

 母親と会うことはできても、父親に会ったことは一回もない。

 姉たちが帰った後に祖父母に訊いてみても、知らないと、会ったことがないと言う。

 

 自分に構ってくれたことが全くない母親。

 

 今まではずっと妹は姉とばかり遊んでいたから気が付かなかったが、時が経つにつれ母親が自分を全く相手にしていないことに気が付いた。自分から母親に話しかけることはあっても、母親から話しかけられることはほとんどなかったのじゃ。

 

 そしてなぜか離れ離れに暮らす姉。

 

 近所に住む兄弟がいる友達に、自分たちが変わっていると言われることがあった。

 妹はその時はなにが変わっていると言われたのかわからなかった。だって自分にとって、それが普通じゃったのじゃから。

 じゃが時を重ねるにつれ、だんだんとその意味が分かってきた。当然じゃよな。兄弟姉妹、離れ離れで暮らす家庭なんて滅多にないのじゃから。

 

 それでも妹は大して不幸に思ったことはなかった。

 大好きな姉と会えなくて寂しくはあっても、祖父母は優しくしてくれるし、他にもいっぱい友達がいる。

 母親が冷たかったとしても、その母親とまともに話したことがないせいで妹の中では『姉を連れてきてくれる人』程度の存在になり果ててしまっていた。

 じゃからの、母親に構ってもらえなくても妹は全然気にしなかったのじゃ。祖父母と友達と姉さえいてくれればそれで良かった。

 じゃから妹は今のこの関係が壊れるのが怖くて、姉に嫌われたくなくて、あえて踏み込まないで知らん顔をしていたのじゃ。

 

 さらに一年が経って、妹も小学生になった。

 そしてこの時から姉の妹に対する振る舞いに変化が訪れる。

 

 妹は急にゲームで姉に勝つことができなくなった。

 姉が上手すぎたせいで手も足も出なくなってしまったのじゃ。

 

 何度も何度も、妹は姉に負けた。じゃがそれでも、妹はやめようとしなかった。

 楽しかったのじゃ。大好きな姉が遊んでくれているのじゃから。

 負けて悔しく感じても、少し腹が立っても、それらは姉が自分に構ってくれる嬉しさの前には及ばない。

 妹にとって、姉と遊ぶ時間が楽しくて幸せなことじゃった。勝ち負けなんて二の次じゃった。

 

 じゃがのう、妹は負けず嫌いでもあった。じゃから楽しみながらも勝つ手段を模索していたんじゃ。

 姉に勝てるように考えて考えて、ようやく姉に一矢報いることができた時は飛び上がって喜んだ。それで姉に褒めてほしくて甘えた。

 褒められながら頭を撫でてもらうのが気持ちよくて、目を細めていた妹は、その時の姉がどんな表情をしていたのかをよく見てはいなかった。

 

 次に姉は、外で遊ぼうとすることがなくなった。

 少し前まではあんなに森の中をはしゃぎまわっていたのに、行きたくないと、そんなことよりもゲームをしようと渋りだしたのじゃ。

 

 妹は疑問符を浮かべながらも、すんなりと外で遊ぶのを諦めた。

 無理に付き合ってもらう必要はないし、姉と遊ぶのなら別に外である必要もなかった。

 新しく見つけた洞窟を姉と探索できないのは残念であったが、残念であるだけ。姉の気が向いた時にまた誘えばいいかと切り替えて、姉と一緒にまたゲームをして遊んだ。

 結局、姉と外で体を動かして遊ぶことは今後一切なかった。

 

 そんな日々が続いて夏休みに入った時、勉強をしようと姉が切り出した。夏休みの宿題を手伝うと言ってきたのじゃ。

 妹は勉強することを純粋に楽しんでおったし、姉に構ってもらえて嬉しかったから笑顔でふたつ返事をした。

 

 重ねて言うが、妹は聡明な子じゃった。

 それは勉強にも表れ、楽しんで進んで勉強をしていた妹はテストで悪い点を取ることもなければ、特別分からないと思うようなところもなかった。

 じゃから姉に「わからないところはある?」と聞かれても正直困ってしまった。だってほとんどなかったのじゃから。

 見る見るうちに宿題がなくなっていって、結局ほとんど姉に訊かずに終わらせてしまった。

 

 なんとなく悪い気がした妹は、まだ学校で習っていないところを姉に教えてもらうことにした。

 姉はそれをすぐに受けてくれて、いろんなことを妹に教えていった。

 妹は姉に勉強を教えてもらうのが楽しくて、知らなかったことを理解したときに褒めてくれるのが嬉しくて、どんどんのめり込んでしまうほど勉強することが好きになって……とうとう姉が勉強しているところまで追いついてしまった。

 

 姉もしっかり予習をするタイプのいわゆる優等生じゃったから、学校で習っている範囲よりも少しフライングして自習をしていた。じゃが妹は、この夏休みの間だけでそこまで知識を吸収してしまったのじゃ。

 

 もう自分が教えられるところがなくて、姉は焦った。それでも姉は、頑張って妹に教えようとした。

 休憩と称して妹を休ませている間になんとか教科書を読んで、つっかえながらもなんとか妹に正確に教えることができた。

 姉も姉で凄い人じゃったんじゃよ。ただそれ以上に、妹が凄すぎた。

 

 そんな姉を見て、今度は妹が焦った。

 悪いことをしてしまったと思った。夢中になってしまって、姉でさえも知らないところまで来てしまったばっかりに姉を困らせてしまったことに罪悪感を抱いた妹は、もう勉強はやめようと切り出した。

 宿題はしっかりと全部終わったし、お互いに予習……妹に至っては姉と同じ二年生の中盤までの勉強をしてしまった。充分だから一緒に遊ぼうと妹は姉を誘った。

 

 じゃがのう、姉は首を縦に振ってはくれなかった。

 教科書のページから目を離さぬまま、ちゃぶ台に齧りついて、勉強をすると頑なに譲らなかった。

 

「大丈夫だよ、ももえ。私、お姉ちゃんだもん。だから……大丈夫」

 

 どこか追い詰められている様子の姉を見て、温度の低い姉の言葉を聞いて、妹は初めて姉のことを怖いと思った。

 姉の「大丈夫」はどこか信用できなかった。

 前も腕を怪我しているのにそう言って譲らなかったし、今だって勉強が大変なのに譲ってくれない。もういいよと言っても聞いてくれない。

 

 何かに取り憑かれたように教科書に目を落とす姉を見て、だんだんと姉が自分の元から離れていくような感覚を抱き始めた妹は、なんとかしようと考えた。

 勉強をするのは好きじゃったが、それ以上に大好きな姉を苦しめるのは本望ではない。そこまでして勉強をしたいというわけではなかったのじゃ。

 

 その結果、導き出された答えは……演技をすることじゃった。

 

 本当は分かっているのに分からないふりをした。

 自分が進まなければ、姉も必死で勉強する必要はない。今やっているのだって本当なら一年後に自分が習う場所。躓いたとしてもなんらおかしくはない。

 ただ多少のバラツキは出そう。

 国語と算数でちょっとずつわからなくなるタイミングをずらして、漢字も難しい字は少し間違えて書いて、似ている字はテレコに書いて、複雑な計算のミスもちょいちょいして……。

 

 妹は自然に見えるようにわざと間違え始めた。わからないと言って質問するようになった。

 最初のうちはのう、良かったんじゃ。

 じゃがのう……しばらく経つと、姉は能面のような顔になった。それで、もう勉強しないと力なく立ち上がっていってしまった。妹は茫然とそんな姉を見るしかなかった。

 

 知らない人には自然に見えたであろう妹の演技。じゃが、姉は妹のことをよく知っていた。じゃから気が付いてしまったのじゃ。

 問題の間違え方がどこか作為的で、わからないと言うところは決まって姉が時間をかけて勉強をしていたところばかりだということにの。

 そう。妹はのう、一周回って嘘を吐くのが苦手な子じゃったのじゃ。自分では気が付いていないがのう。

 

 崩壊の足音が迫ってきた。

 

 ここから先、姉は妹と勉強しようとしなくなった。

 その代わりに、姉はゲームすることが圧倒的に多くなった。それもいくつも違うゲームを持ち込んで。

 

 それらは全て対戦系で、姉妹は熱中した。でもそのほとんどが姉が勝ち、妹が慣れてくるタイミングで、姉は違うゲームに変えてくる。でも妹は全く嫌な顔をしないで受け入れた。

 

 ……姉がわざと、有利なゲームを持ってきていることには気が付いてはいた。そしてその有利がなくなった途端に変えてくるのもの。じゃがそれでもいいと、構わないと妹は思っていたのじゃ。

 

 夏休み以降、明らかに自分に対する姉の態度が変わったことに気が付いていた。そしてその原因が自分にあることもわかっていた。

 じゃからのう、これは妹なりの償いでもあったのじゃ。それでまた元の姉に戻ってくれるのならいいと、大好きな姉と仲良くできるのならそれでいいと、妹はそんな姉を受け入れた。

 

 そして……二年が経過した。

 

 姉は相変わらず勉強を教えてくれない。

 理科や社会と三年生になって勉強する科目が増えたものの、それでも妹は勉強することは得意じゃった。

 じゃから姉に教えを請わずとも高得点は取れたし、特に躓くようなこともなかった。

 

 じゃがのう、それはそれじゃった。

 妹は姉に勉強を教えてもらいたかったのじゃ。姉に教えてもらう勉強が楽しくって好きじゃったのじゃ。

 じゃがそれでまた自分が姉を苦しませてしまうと思うと言い出すわけにはいかず、姉が提案してくれるのを待った。夏休みに入って、宿題がたくさんあるというさりげないアピールをしてみたが、姉は妹の勉強を見ることはなかった。

 

 それどころか、姉との距離はさらに広がっていく一方じゃった。

 姉が明らかに、妹を下に見るようになったのじゃ。

 

 妹の懐事情は寂しいものじゃった。

 といっても、妹は特にほしいものはなかったし、あったとしても田舎では入手することができない。祖父母の家にはパソコンなんてものはなかったからインターネットで購入することすらできなかったのじゃ。

 じゃからのう、妹は流行というものを知らなかったのじゃ。

 テレビでやっていても、いまいちピンと来ていなかった。ファッション誌なんてものも買わなかったからの。

 

 姉はそれを妹に見せてくるようになったのじゃ。

 久しぶりに会った姉が華やかな格好をしていることに妹は驚いた。綺麗だと思ったし、妹だって女の子じゃ。かわいくおしゃれな服への憧れは人並みにある。

 じゃから、小学生とはいえまさにイマドキな感じな服を着た姉は眩しく見えた。姉は容姿も優れていたし、センスも良かったから服だってばっちり着こなしていて、なおさら輝いて見えた。

 

「ちょっと高かったけどこのページのものは抑えられたのよ。都会じゃこういう服が流行っているんだ。ももえにも教えてあげる」

 

 ファッション誌を片手に笑顔で言う姉のこの言葉を聞いて、妹は悲しくなった。

 頭が良かったばっかりに、このセリフの裏側にある姉の心の声が聞こえてしまったのじゃ。

 

 田舎に住んでいるお前には無理だろうけど、自分にはできる。都会に住んでいるから、お金があるから、流行にも詳しいから。

 明らかに上から目線で自分を下に見ている言葉で翻訳された。

 輝いている姉から発せられる自分に対する黒い感情のこもった言葉を受けた妹は顔を青くした。

 

 ついに、この日が来てしまったのじゃと。

 薄々わかってはいたんじゃ。

 いつかこの日が来ると、もう自分と姉の関係が元に戻ることができないと、戻れないところまで来てしまったということを妹はわかっていた。

 でも認めたくなくて、なんとかして姉の気を引こうとした。

 言葉にも気を付けていたし、なるべく不快にさせないようにちょっと気が利くことをしてみたりと細かい配慮もしてきたんじゃ。聡明で臆病な妹にはそれができた。

 でも……それらが実ることはなかった。

 

 ちょっと前までならともかく、あんな見た目重視な格好をしていたらもう外で遊ぶことはできない。

 いつか姉と仲直りできたときに一緒に見たいと思っていた、山の中にあるちょっとした絶景スポットに連れて行くことは叶わない。

 笑顔を作っていても全然笑っていない姉のその目を見て、妹は全てを察したのじゃ。

 

 姉は自分のことを嫌いになったのじゃ、と。

 

「本当か!? 楽しみじゃのう! いっぱい教えてほしいのじゃ!」

 

 じゃがのう、妹は諦めなかった。

 顔を青くしたのは一瞬だけで、すぐにいつもの笑顔を作った。

 

 これは妹の最後の抵抗じゃった。

 姉の自分に対する感情に気が付いていないふりをしていれば、もしかしたら姉の方から歩み寄ってくれる日が来るんじゃないかと考えたのじゃ。その日が来るまで我慢すればいいと思ったのじゃ。

 それほどまでに、妹は姉のことが大好きじゃった。嫌いになることができなかったのじゃ。

 

「そ、そう? じゃあ教えてあげるね……」

 

 思っていた反応と違ったんじゃろうな。

 姉はあからさまに顔を引き攣らせた。

 

 じゃが姉も自分が言い出した手前、ちゃんと妹に流行やその傾向を教えたのじゃ。ちょいちょい嫌みを言ってはくるが、本当のことを話してくれていることは妹にはしっかりと伝わった。

 流行に疎いと言っても女の子なのじゃ。どんな格好が良くてどんな格好がダメなのかくらいは、田舎暮らしの妹にだって理解できる。

 そしてそれが、妹にとっての希望になったのじゃ。

 どんな形であれまだ姉は自分に構ってくれている、嫌いになられても見捨てられたわけじゃないと妹は思った。

 

 どうして姉が自分のことを嫌いになったのかはわからない。

 じゃがこうして姉に合わせていれば、いつか、きっと……。

 そんな思いを胸に妹は待ち続けた。

 

 そして……三年が経過した。

 妹は小学六年生に、姉は中学生になった。

 

 妹の切なる思いは成就されようとしていた。

 徐々に徐々にじゃが、姉と妹との距離が縮んできたのじゃ。

 まだぎこちないものではあったが、姉が妹に嫌みを言うことはほとんどなくなったし、昔のような優しい笑顔を見せてもくれた。

 ああ、もう少しで、もう少し耐えれば大好きな姉が戻ってきてくれると、妹は喜んだ。

 

 じゃがのう、現実はどこまでもその姉妹に厳しかった。

 

「君がももえだね」

 

 妹が小学校を卒業した日、家に続く一本道に知らない男がいた。

 その隣には姉が立っていて、男はその姉の背中に手を回している。

 姉の表情は暗く、俯かせて拳を強く握っていた。

 

「なんじゃお主は。何者じゃ?」

「はっはは、そうだね知るはずがないね。私は君たちの父親さ」

「なんじゃと?」

 

 笑いながら男は自分たちの父親であることを明かした。

 今まで一回も会ったことがなかった父親のいきなりすぎる訪問に、妹は呆ける。姉が否定しないあたり、この男が自分たちの父親であることは間違いないのじゃろう。

 じゃがなぜこのタイミングで自分の前に姿を現したのか、そしてなぜ姉があんな表情をしているのかが分からずに妹は父親を警戒する。

 

「ももえ。私は君を迎えに来たんだよ。もうここにいる必要はない。私と共に行こう」

「寝言は寝て言え」

 

 妹は吐き捨てた。

 あんな胡散臭い笑顔をしながら一体何を言っているんだと、妹は父親を拒絶する。

 

「冷たいなぁ、実の父親なのに」

「実の子を今まで放置する父親の方が、数倍冷たいと思うのじゃがの?」

「はっはっは! やっぱり君はいい! なにもしていないのにここまで育ってくれるとは、さすがは『ハンドレッド』だ!」

「……なに?」

 

 男の言葉の意味が分からずに妹は眉を顰めたが、妹のやることは変わらない。

 とにかく自分は男に付いて行く気はないということを伝えるのみ。最悪姉を連れて逃げてしまえばいい。

 何年も走り回ってきたここら一帯の山と森は妹の庭じゃった。隠れるところも知っておるし、体力だって自信がある。追いかけられてもうまく巻きながら少し離れたところにある交番まで行けばいい。

 

「ますます連れて行きたくなったよ。だから来い。私の所に戻ってこい」

「断る。行こう、つくも」

 

 姉を連れて家に帰ろうと歩き出した途端、姉の背中にあって隠れていた男の右手が明かされる。そこには黒光りする物体が握られていた。

 それはテレビドラマで見たことがある。

 持てばどんな人間であろうとも最強になれる武器……拳銃じゃった。

 

「なっ!? つくも!」

「動くなよ。動いたら撃つ。お姉ちゃんの命、惜しいだろう? だったらわかってくれるね、ももえ」

「っ。わかった」

 

 姉を人質に取られた妹はなにもできなくなってしまった。

 変に動くことができなくなった妹は男の言うことに従って、手錠をはめられて……運転席に女性が座っている車の中に乗り込んだ。

 

「君は本当にいい目をしているよ。隙を見て、私を殺すつもりだったんだろう? 君のポケットの中にある家の鍵を使ってね」

「……そうじゃよ」

「素直でよろしい。そして素晴らしい。私を殺すことは正解だよ。なにせ私は、殺されても仕方のないことをやっているような極悪人なんだからね」

 

 同じように手錠をはめた姉を助手席に乗せた男は、嫌な笑みを浮かべながら妹の隣に座って車を発進させた。

 

 妹はドライブの最中に男にいくつか質問した。

 自分たちをどうするのか、どうして拳銃を持っているのか、正体はなんなのか、『ハンドレッド』とはどういう意味なのか、大まかにいえばこの四つを聞いた。

 じゃが男は到着すればわかるの一点張り。なにを聞いてもダメじゃと判断した妹は黙って目的地に到着するのを待つことにした。

 

 車はやがて港に到着し、そこから男が所有しているクルーザーに乗り込んで海に出る。

 手錠をはめられて、ポケットの中を調べられて荷物を全部没収されて、小さな部屋に入れられた姉妹はようやくふたりきりになることができた。

 

「つくも、平気か?」

「…………」

「大丈夫じゃ、この船の操作方法はさっき見たから覚えた。じゃから脱出することはできる。隙を見て逃げよう」

「…………」

「つくも?」

 

 安心させようと思って話しかけた妹であったが、姉からは返事がない。それどころか、なにか怖いものを見るような目を向けてきた。

 妹はなぜそんな目を向けられているのか分からず困惑した。

 

 そんな微妙な雰囲気の中、クルーザーが止まる。

 到着したのはどこにあるかもわからない無人島じゃった。

 自然の中をしばらく歩くと、そこにあったのはコンクリートでできたなにかの施設。この男の根城のようじゃった。

 男は姉妹に目隠しをしてから姉妹を連れて建物に入る。そして十分ほど階段を下ったり上ったりあちこちを歩いたところで、目隠しを外した。

 

「さぁ、着いたよ。君たちが本来帰るべき場所だ。しばらくは自由にしていたまえ、悪いようにはしない」

 

 そう言って男が部屋に入ると、今まで運転手をしていたスーツ姿の女性が姉妹に向き合う。

 

「おふたりのお世話はこのクズハが承ります。つくも様、ももえ様、どうぞ」

 

 クズハと名乗った女性は姉妹をそれぞれ別の部屋に案内し、そして立ち去った。

 妹はすぐに部屋を調べる。なにか武器として使えそうなものはないか、いざというときに役に立ちそうなものはないかを探す。わかっていたことじゃったが、そんなものはない。

 仕方ないと思った妹は、この施設を調べることにした。逃げ道を確認するのが一番の理由じゃったが、できるものなら脱走してしまおうと画策したのじゃ。

 手錠も外された今、妹を縛るものは何もない。

 妹は姉のいる向かいの部屋に入った。

 

「つくも、行こう。久しぶりに探検でもしよう」

 

 不安にさせないように笑顔を作って妹は軽く誘う。じゃが、姉は首を横に振った。

 

「いいわよ別に。どうせ、逃げられないわ」

「そう言うでない。確かに今は無理じゃろうが、いつかは出られるチャンスが来る。その時のために、今のこの時間を有効に使おう。じゃから」

「無駄だって言ってるのよ!」

「つくも……」

 

 姉は妹が差し伸べた手を叩いて拒絶した。

 姉に怒鳴られるのは初めてじゃったから、妹は少しびっくりした。そして目尻に熱いものが込み上げてきた……が、妹はそれをこらえた。

 

「わかった。無理に誘ってすまんかったのう。……心配するな。絶対に逃げよう、一緒にの」

 

 妹はそう言って部屋を出た。

 きっと姉は怖がって心細くなっているだけじゃ。じゃから自分が頑張って逃げる方法を考えて、そして見つければ、きっと姉は安心してくれる。頑張ろうと心に決めて、妹はひとりで施設内を歩き回った。

 ほとんどの部屋には鍵がかかっていたし、突き当りにある扉も開かない。どこを探しても窓がないからどうすれば外に出られるかもわからない。

 妹は山や森で遭難しないように一定の場所まで行ったら元の場所まで戻るように動く癖がついていた。じゃから道に迷うことなく、少しずつ施設内を調べて行った。

 

「おや、ももえ様。どうされましたか?」

 

 やがて、厨房と思わしき場所まで来ると、そこには料理をしているクズハがいた。

 これはいい場所を見つけたと思った。

 ここには食料も刃物もある。脱出の際にはここで物資を調達すればいい。そんなことを考えながら、妹はクズハと話をすることにした。

 

「私たちの父親は何者なのじゃ?」

「お答えできません」

「ふむ。それなら私たちを連れてきた理由は?」

「お答えできません」

 

 ああ、これはダメじゃ。すぐに妹は察した。

 上手く行けばこの人を味方に落とし込めることができるかもしれないと考えておった妹じゃったが、今の事務的なやり取りで不可能であると判断した。なにせこの女性の目には光がなかったのじゃから。

 

 収穫はこの建物の構造と、厨房がある場所、そして自分たちが入って来た建物の入り口の場所を把握したくらいじゃった。

 目隠しをされて適当に歩かされたが、妹は自分がどの方向に何歩進んだのか、何回階段を上り下りしたのかを覚えていたから、そこから逆算してこの迷路のような施設の出口を突き止めた。

 じゃが鍵はかかっていたし、仮に外に出られたとしても天気が最悪なら脱出しても無事に帰れるかは怪しい。船の操縦の仕方は見て覚えることができても、どの方向に船を進めれば帰れるのかまではわからない。

 

「さて、どうしたものかの」

 

 ベッドに寝転んで思案していると……。

 

「やぁ、キミが星奈ももえだね」

「うにゃあっ!?」

 

 得体のしれない生物が枕元にいることに気が付いた妹は飛び上がって驚いた。

 気配もなく妹に近づいて無機質な赤い目を向けるその生き物はこう続けた。

 

「ボクはキュゥべえ。星奈ももえ、ボクと契約して魔法少女になってよ!」

 

 

 

 

 




今回の内容

星奈百恵 魔法少女ストーリー 第2話。Battle1ストーリー


開放条件:
八雲みたま・七海やちよ・梓みふゆ・御園かりん・常盤ななか・更紗帆奈・遊佐葉月・静海このは・胡桃まなかの好感度が一定以上

メインストーリー第7章『サウザンド・フェントホープ』をクリアまたはストーリーを全開放している
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