マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート   作:スパークリング

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なんで三つにする必要なんかあるんですか(正論)


Hundred Recollections(中篇)

「ボクはキュゥべえ。星奈ももえ、ボクと契約して魔法少女になってよ!」

「……お主は一体何を言っておるのじゃ?」

 

 妹は困惑した。

 自分の知識外の生物がいきなり現れて、言葉を発して、しかも魔法少女なるものにならないかと誘っているのじゃからの。

 

 とりあえず話を聞いてみることにした。

 なにも知らないまま首を縦に振るわけにはいかないが、もしかしたらその魔法少女とやらの力を使えば、ここから逃げ出すことができるのかもしれないのじゃから。

 

 その生物……キュゥべえの話を聞いているうちに、妹は魔法少女になる気になっていた。

 魔女という怪物がどれほどのものかは知らないけど、少なくとも弱くはないのじゃろう。そして魔法少女はその魔女と戦う存在。ならばそれなりに強い力を得るということ。

 その力があれば、鍵がかかっている扉も力尽くで破って姉を連れて逃げることができる。

 それならば迷うことはない。妹は魔法少女になろうとした。

 

「魔法少女になってくれるなら、なんでもひとつだけ願いを叶えてあげるよ」

 

 じゃが、この言葉を聞いて妹は冷や水を浴びせられた気分になった。

 

「なんでも願いを叶えるじゃと?」

「そうだよ、なんでもさ。ここから逃げることも、キミたち姉妹の仲を戻すことだってできるよ」

 

 その言葉で確定した。

 

「そうか。それなら断る。私は魔法少女にはならん」

 

 なんでも願いが叶う。

 その言葉を耳にした途端に、妹は魔法少女になることをやめた。

 そんなうまい話があってたまるかと憤りすら覚えた。

 自分たち姉妹の関係まで知っているみたいで気味が悪いし、魔法を使って仲直りするなんて考えただけでも鳥肌が立った。しかもどんな形で願いが叶うのかもわからない。

 仲直りしたいと願って、もし姉が自分の言うことを聞くだけのイエスマンになったらどうする? そんなことを妹は望んでいない。

 仮に自分の思うように仲直りができたとして、また仲が悪くなったらどうする? もう奇跡は起こせない。

 魔法なんてものを使って仲直りしたことが姉にバレたらどうする? 想像もしたくないわ。

 

 なんでも願いが叶うというキュゥべえの言葉があまりにも軽々しく、そして無責任に感じた妹は魔法少女になることを拒絶した。

 

「素晴らしい。素晴らしいよ、ももえ」

「!」

 

 部屋の扉が開いていて、そこで拍手をしている男がいた。

 男はキュゥべえを鷲掴みにする。

 

「まったく、勝手なことをされたら困るんだよ君ィ。ももえが賢かったから良かったけど、もし今契約しちゃったらどうするつもりだったんだい? うん?」

「それはボクの知ったことじゃないよ」

「そんなことを言ってもいいのかい? 私たちは互いに良い関係を築けているはずだよ。これからもそれを維持したいなら、君たちにも協力してもらわないと困るんだよ。わかってくれないかな?」

「……そうだね、わかったよ。ボクたちとしても、キミたちの活動には期待しているからね」

「そう言ってもらうと助かるよ」

 

 男はそう言ってキュゥべえを解放すると、キュゥべえはどこかに行ってしまった。

 

「なんなのじゃお主らは……何を企んでおる?」

「それは今の君が知ることじゃないよ。もう少しで面白いものが見られるから、その時になったら呼びに来よう。楽しみに待っていたまえよ。ああ、そうだ。ここを探検するのは楽しかったかね?」

「……それなりにの」

「そうかい。それなら良かったよ」

 

 それから妹は男の言うことを聞いておとなしく待つことにした。

 一応考えてはいたが、やっぱり監視カメラがどこかしらに仕掛けられていたらしく、男に自分の行動が筒抜けじゃった。

 それもどうにかしないとなぁと、脱走に向けてやるべきことを考えながら待つこと半日が経過して、ようやく男がやってきた。

 

 妹は男の指示に従って部屋を出て、階段を下った先にある部屋に向かう……が。

 少し近づいたところで立ち止まった。嫌な気がしたのじゃ。

 山の中で熊がいるところに近づいてしまった時と同じような、何か恐ろしいものがこの先の部屋にいるような、そんな気配を感じ取ったのじゃ。

 これ以上進んだら命に関わる。じゃから引き返せと本能が告げていた。

 

「さすがだ、素晴らしいね。だが大丈夫だよ」

 

 男はそんな妹を見て笑いながら、強引に背中を押して部屋の中に入る。

 

 扉を開けた先には、この世のものとは思えない景色が広がっていて、その中心には異形の存在が鎮座していた。

 

 それは置物のような生物じゃった。

 動いていないように見えるが、僅かではあるが動いている。その動きは機械的なものではなく、生き物のように複雑なものじゃったから、辛うじてアレが何かの生物であることが分かった。動いていなかったらきっと、だいぶ大きな彫刻じゃと思っていたことじゃろう。

 家の隅に置かれていても特段気にしないような、まるで量産品のような、ありふれたもの過ぎて逆に目に入らないような、そんな地味ながらも禍々しい気を放っている存在がいた。

 

「あれは……魔女?」

「正解だよ」

 

 こんな生物を妹は知らない。だけど、知らないからこそ分かった。

 あれがキュゥべえが言っていた、世の中に災いを齎す魔女という怪物なのじゃと。

 確かに直接何かされているわけではないのに気分が悪くなるというか、本能的に受け入れられないなにかを放っている。

 間違いなく、あれは良くない存在なのじゃろうということはひしひしと肌で感じた。

 

「つくも、おいで」

「! つくも?」

 

 一体いつからいたのか、自分たちの後ろに立っていた姉が男に呼ばれて前に出た。

 その顔は表情が抜けている。目の周りが真っ赤に腫れていることからきっとさっきまでずっと泣いていたのじゃろう。そして、この世の全てを諦めてしまっているような虚無にも等しい顔になっていた。

 妹にはその顔に心当たりがあった。

 目に力がなくて、感情が抜け落ちてしまったかのようなこの表情は、厨房にいたクズハと全く同じものじゃった。

 

「貴様……つくもになにをした?」

「私は本当のことを教えてあげただけさ」

「本当のことじゃと?」

「そうさ。まぁ、それはともかくだ。つくも、妹に君の力を見せてやるがいい。そして、アレを倒してこい。アレはもう用済みだ」

「……はい」

 

 男に促された姉が一瞬だけ閃光を放つと、浮世離れした姿に変身していた。

 ここに来るまでのおしゃれ重視の服はどこへやら。とても動きやすそうな黒い和服の戦闘着に黒い鎧を装着し、両拳には金色に輝く鉤爪が伸びている。

 

「まさか……契約したのか、魔法少女に」

「ああそうだ。つくもはしっかり願いを叶えて魔法少女になった。よく見ておくといい、君の姉の晴れ舞台をな。つくも、行け」

「……はい」

 

 低い姉の声が耳に入った途端、妹のすぐ隣に強い風が吹きすさぶ。

 隣を見るとそこには姉の姿はもうなく、巨大な魔女の周りに人影が縦横無尽に動き回っているのが見えた。

 悲鳴のような声にならない声はおそらく魔女の声じゃろう。魔女の体が光るたびに、それはこの趣味の悪い空間内に響き渡る。姉が攻撃しているのじゃ。魔女の体をあの鉤爪で引き裂いて。

 

「どうだいももえ。凄いだろう君の姉は。あの魔女は結構な大物のはずなのにまるで手も足も出ていない。如何せん攻撃力が足らないせいで時間はかかりそうだが、無事に処理してくれるだろうさ」

「……色々聞きたいことがある」

「ああ、いいよ。なんでも答えてあげるよ。どうせまだ時間がかかりそうだしね。なんだい、ももえ」

 

 妹は最初にこの質問をした。

 

「つくもは……何を願ったのじゃ?」

「はははっ! なるほど、最初の質問がそれか! よっぽど君は、あの愚かな姉のことを大切にしているみたいだね!」

「御託はいい、答えろ」

 

 キュゥべえはなんでも願いを叶えると言った。その言葉に嘘偽りはないように妹は思った。

 そして男の様子からして、キュゥべえを意図的に姉に会わせて契約させたみたいじゃった。

 ならば一体、姉は何を願って魔法少女になったのかが気になった。

 

「この世界には今でも戦争が起き続けていることは知っているね?」

「……ニュースで見る程度なら」

「それで充分だよ。私はね、その戦争をコントロールする仕事をしているのさ」

「なに?」

 

 そこから男は自分の仕事について語り始めた。

 

 戦争をしても得るものは少ないというのに、やたらと戦争をしたがる。そういう馬鹿な人間というのは一定以上いるということ。

 男はそういう人間たちを操って戦争を起こさせ、そして戦争を終わらす仕事をしているらしい。

 必要な時に必要な数の武器を、人が欲しければ人を、情報が欲しければその情報を、戦争をしている勢力たちに売り渡して均衡を保ち、ギリギリのところまで消耗させたのちに第三勢力を使って決定打を与える。可愛く言うなら喧嘩両成敗ってやつじゃな。

 

 男が言うに、戦争しないと気が済まないやつらには一度戦争をさせて痛い目に遭わせないとわからないらしい。

 そして、戦争を始めるにしても終わらすにしても必ず何かのきっかけを、絶妙なタイミングで戦争の起点となる双方に作らないと成立しないらしい。

 第二次世界大戦で例えるなら、世界恐慌を起こし、広島と長崎に原子爆弾を落とす。それくらいの規模の始まりと終わりを用意しなければ、戦争は始まらないし終わることもないらしいのじゃ。

 この男の一族は第一次世界大戦から世界の陰で暗躍し、様々な伝手を使って勢力を伸ばし、長い間戦争を管理し続けてきたと言う。

 

「……とりあえず、私たちの父親が碌でもないテロリストじゃというのは分かった。それで? それがつくもの願いとなんの関係があるのじゃ?」

「君も想像できているんじゃないのかね? まぁいい。私の口から言おう。つくもはね、戦争を終わらせたんだ! 魔法少女になるときの願いを使ってね!」

「っ!」

「効果は絶大だったよ。すぐに連絡が来た。民衆たちが革命を起こして現政府とテロリストもろとも鎮圧したそうだ。素晴らしいと思わないかね?」

「馬鹿を言うな! 小娘ひとりが願った程度で戦争が終わるようなら世の中苦労はせん! 願いが叶うとはいえ、いくらなんでもそんな無茶苦茶が通るはずがなかろう! 偶然に決まっとる!」

「ハハハハハッ! やっぱり君は実に頭がいい! そうさ、その通りだよ。普通ならこんな大それたことはできない。でもね、出来るんだよ。私なら、そして私の娘である君たちならね!」

 

 男が笑った途端、大きな音が聞こえてその方を妹は見る。

 奥の方にいた魔女はボロボロになって崩れ落ち、その中からゆらりと姉が起き上がった。すると、この摩訶不思議な空間が消えて行って、普通の窓のない空っぽな室内に変化した。魔女が滅びたことで結界が消えたのじゃ。

 魔女を倒した姉はその手にグリーフシードを持って妹たちの所に来た。

 

「いいタイミングだ。ふたりとも付いてきたまえ。面白いものを見せてあげよう」

 

 ふたりは男の後に付いて行った。

 そんな中、妹は少し疑問に思った。

 やろうと思えば姉なら男を無力化できるはずだ。

 あんなバケモノと戦えて、それでほとんど無傷で帰ってくるほど強くなった姉なら、この男を殺さないまでも気絶させて逃げることができるだろうにそれをしようとしない。自分なら間違いなく男を殺して姉を連れて逃げるのにと、妹は首を傾げた。

 

 とはいえ、男の言う面白いものというのにも興味がある。

 いったいこの男は自分たちに何を見せるのだろうか、妹はそっちに関心が行った。

 

 辿り着いたのは、先程の地下室からはそれほど離れていない部屋。

 じゃが他の部屋以上に厳重なセキュリティによって管理されているようで、男が持つカードをスキャンしなければ絶対に入れないようになっている。重大な秘密があることをそれだけで物語っていた。

 そしてその部屋の扉が開かれた。

 

 薄暗い室内には透明な液体によって満たされたカプセルのようなものがいくつも設置されている。

 なんじゃこれはと疑問符を浮かべながら辺りを見渡すと……いくつかのカプセルの中になにかが浮かんでいることに気が付いた。

 あまりにも小さかったから妹はカプセルに近づいて、その小さなものをよく見る。

 

「っ!」

 

 その小さなものがいったい何なのかを確認した妹は息を呑んだ。

 そして理解した。理解してしまった。

 これがいったいなんなのか。そして……自分たち姉妹が、どういう存在なのかを。

 

「酷いじゃないか、ももえ。妹たち(・・・)をそんなバケモノを見るような目で見るなんて」

 

 最悪の真実が、その男の口から出た。

 そう、このカプセルの中にいるのは……まだ創られて間もない小さな胎児たちじゃった。そして妹はこの男に『ハンドレッド』と呼ばれた。

 それが意味するのはつまり……。

 

「君たち姉妹はね、ここから生まれたんだよ。この少女工房(エキドナ)でね。

 そして君はね、記念すべき百体目の個体……ワンハンドレッドナンバーなんだよ。

 

 九十九番目のつくもでさえ、戦争を終わらせることができる力を秘めていたんだ。

 百番目の君なら……もしかしたら第三次世界大戦を引き起こすことだって可能かもしれない。

 いや、世界をひっくり返す程の大戦争だって起こせるかもしれない!

 

 それくらいの力と因果が君には秘められているんだよ、素晴らしいと思わないかな、ももえ!」

 

 興奮した様子の男の声は妹の耳に辛うじて届いておったが、妹は何もリアクションを返すことができなかった。

 こんな真実、知りたくなかった。いくらなんでもあんまりすぎた。

 

 この男の言うことが本当なら……自分たちはこの男の望む戦争を引き起こし、そして終わらせるためだけの……言ってしまえば生体兵器として生まれたことになる。

 

「なぁ……それなら、私たちの母親は、ばあちゃんとじいちゃんはなんだったのじゃ?」

「私が手配した君たちの育て役に決まっているだろう? 君は頭が良いんだ。それくらい聞くまでもないだろう。分かりきった質問をするんじゃないよ」

 

 どん底に叩き落された気分じゃった。

 

「この際だから全部教えてあげよう。君たち姉妹を離れ離れにしたのも、片方を都会に住まわせて、片方を田舎に住まわせたのも、全て私の指示だよ。

 

 不思議に思わなかったかい?

 つくもが毎回違うゲームを持ってくることに。流行の服を買い揃えることがどうしてできたのか。どこからそんな金が湧いて出てきたのか。

 全部私が金を出していたからだよ。

 

 一時期はつくもには虐待する環境を、ももえには温かい環境を作り上げたこともある。

 そうやって互いのコンプレックスを刺激させて、より強い感情と自我を持つように促したのさ」

 

 ……そうか。そうじゃったのか。妹は全て理解した。

 自分たち姉妹は最初からこの男の手の中で踊らされていた、ということに。

 

「しかし面倒なことにね。ももえ、君を育てていた老夫婦は私が君を迎えに来た日に、素直に君を渡そうとしてはくれなかったよ。どうもね、君を育てているうちに本気になってしまったみたいだったんだ」

「!」

 

 それを聞いた妹はほんの少しだけじゃが喜んだ。

 自分が感じていたあの温もりは、全部が全部偽物ではないとわかったから。途中からとはいえ本気で自分を愛してくれていたんだと感じたから。

 

「だからしょうがないから、頭を吹き飛ばすしかなかったよ。全く、困るよねえ。素直に報酬を受け取っておけばいいものを。無駄に仕事を増やした挙句、私の手を汚させるなんてさ。そうは思わないかい?」

 

 そして再び奈落の底に突き落とされた。

 ……そうか。じゃからつくもはあんな暗い顔しておったのか。目の前で、この男がばあちゃんとじいちゃんを殺したのを見たから……。

 

「だからねぇ、もう君たちにはここしか居場所はないんだよ。

 私を殺しても無駄さ。

 この秘密を知っている人間は私の他にも少なからずいるんだからねぇ。

 

 ももえ、君はまだ魔法少女にさせないよ。

 もっと素晴らしいタイミングで、君の力を最大限に発揮できるそのときが来るまでね。

 君の力があれば世界を思うがままに出来る。最後の戦争を引き起こして平和な世が訪れれば、もう私のような碌でなしもいらなくなるんだ。

 君もつくもも、決して悪いようにはしないと約束しよう。

 今回つくもが頑張ってくれたおかげで向こう三十年は悠々自適な生活ができる資金を手に入れられたんだ。だから決して不便はしないよ。

 これも世界のためだ。わかってくれるね?」

 

 もはや、妹には答える気力がなかった。

 ここまで残酷な真実を告げられた今、もう自分に出来ることは何もなかった。もうここしか、自分が自分でいられる場所はない。他に居場所なんかない。

 

 完全に心が折れた妹が首を縦に振ろうしたその時、男の首が吹き飛んだ。

 

「え」

 

 その一文字が、男の遺言になった。

 首がなくなった体はなにかを思い出したようにぶるぶると震え、噴水のように血飛沫を上げながらそのまま崩れ落ちた。

 呆気なく、非常に呆気なく、最悪の男はその命を刈り取られた。

 

「あは……は……」

「つく、も……」

 

 黄金の鉤爪を男の血で濡らした姉が小さく笑う。

 そんな姉の瞳を見た妹は背筋が凍り、そして正気に戻った。

 

 自分と同じ色じゃった、姉の青い瞳は沼の水のように濁り切って光が完全に消えていた。

 

「ねぇ。あんた、魔法少女になりなよ」

「なに?」

「私と同じように魔法少女になれって言ってんの。いるんでしょ、キュゥべえ」

「呼んだかい?」

 

 血だまりの上にキュゥべえがとことことやってくる。

 協力関係だったはずの男の死体がすぐ横に転がっているというのに数時間前と全く同じ様子で来る辺り、このキュゥべえはあの男と同じくらいに異常な存在じゃと妹は再度認識した。

 

「ほら、願ってよ。私を助けてくれるんでしょ? ここから逃がしてくれるんでしょ?」

「つくも、もうこいつは死んだ。私が魔法少女になる必要などないのじゃよ。じゃから私は魔法少女にはならん」

「どうして? なんでも願いが叶うんだよ? 私なんかよりも凄い願いが叶えられるんだよ?」

「そういう問題ではないのじゃ。それにな、私が今叶えたい願いはただひとつ。お主と一緒にこれからも生きていくこと。それだけじゃ。つくもがいれば、私はそれでいいのじゃ。幸せなのじゃよ」

 

 これは妹の本心じゃった。

 妹がずっと大切にしようとしているモノは他でもない、姉なのじゃから。

 魔法少女になっても、人殺しになっても、妹は姉のことが大好きじゃった。

 正直に言って、男の首を刎ねた姉は妹にとってヒーローじゃった。折れそうになっていた自分を助けてくれた英雄のように妹の目には見えたのじゃ。

 じゃが……。

 

「あんたは……あんたはいつもそうだよね」

「え?」

「そうやっていつも余裕ぶっていて、なんでもできてさ……本当にムカつくんだよ!」

 

 妹の気持ちは姉に届くことはなかった。

 無防備な妹の腹を、姉は蹴り飛ばした。魔法少女になったせいで、しかも九十九回分の因果を経た結果、強力な魔法少女に仕上がっている姉の蹴りを受けた妹の小さな体はボールのように飛ばされてカプセルに激突する。

 

「かっ……はっ。ゲホッ、ゲホッ」

 

 一気に空気を吐き出され、蹴られた腹を抑えながら妹は咳をする。

 今まで感じたこともないような痛みと衝撃で吐き気もするし、力が入らず立ち上がることすらできない。

 

 妹の頭の中はぐちゃぐちゃじゃった。

 なぜ姉が怒っているのかがわからなかった。なぜ自分を嫌っているのかもわからなかった。熱い、苦しい、痛い。理不尽じゃとも思った。じゃがそれ以上に……悲しかった。

 初めて大好きな姉に暴力を振られたのじゃから。

 

「私はずっと羨ましかったんだ。なんでもできて、なんでも持ってるあんたのことがさ。ずっとずっと、私はね、お母さんに虐待されてたんだよ。碌にご飯も作ってくれないから自分で用意したし、ゲームを買うだけで構ってもくれなかった。それなのに、あんたはおばあちゃんたちに優しくされてさ。そんなのずるいじゃん! なんであんたばっかり良い思いしているのよ!」

「……! ……ぁう!」

 

 妹はなんとか声を出そうとする。

 じゃが腹にダメージを受けたせいで声が出ない。口をパクパクさせるだけで、妹の本心は姉に伝わらない。

 

「それだけじゃない! あんたは私より、いっぱいいろんなものを持ってる! ゲームだってすぐに上手くなるし、勉強だって平気で私を抜いて……どんだけ努力しても、あんたはいつも私を簡単に超えていく! 気付かれていないと思ったの!? あんたがわざと問題を間違えて、理解していないふりをしているってこと! そうやって私を上から見て、笑っていたんでしょ!?」

 

 違う! 私は決してそんなことは思っていない! 私はただ……無理をしてほしくなかっただけなのじゃ!

 

「それなのに勉強してくれってアピッてきてさぁっ、また私を馬鹿にするつもりだったんでしょ!?」

 

 違う! 私はただ、一緒に勉強をしたかっただけなのじゃ! それでただ……頭を撫でて褒めてほしかった。本当にそれだけだったのじゃ!

 

「私も受け入れようと思ったわよ、あんたが私よりも優れているって! しょうがないって! でもさ、おかしすぎるでしょ!? なんで平気でこいつを殺そうと思えるのよ!? なんで一回見ただけで船の操縦の仕方がわかるのよ!? なんでここに連れてこられて探検しようなんて暢気でいられるのよ!?」

 

 それ、は……だってそうしないと、逃げられないから……。

 武器を持った大人から逃げるためには全部やるしかなかったから……! 全部ギリギリじゃった、余裕なんてなかった、他の選択肢すらもなかった! ただつくもを怖がらせないように、ちょっとでも安心できるように強く見せていただけなのじゃよ……!

 

「それに……それにさぁ……」

 

 ヒートアップしていた姉は顔を地面に落として、蚊が鳴くような声で妹に問いかけた。

 

「ねぇ、知ってる? 私の名前、漢字で書くとさ、『九十九』って書くんだよ」

 

 え?

 

「クズハさんって、いたでしょ? あの人も私たちと同じ境遇でさ、それで名前はね、漢字で書くと『九十八(くずは)』って書くんだよ」

 

 なにを言おうとしとるんじゃ?

 

「だけどね……あんたの名前を漢字で書くとね……百に恵まれるって書くんだってさッ!」

 

 ま、まさか……違う! 違うんじゃ、つくも!

 

「なんであんただけ、数字(・・)じゃなくて名前(・・)をもらっているのよ!? なんであんただけ、人間扱いされているのよ!? 百番目に生まれたから!? それまでに生まれた私たちは量産品にすぎないって言いたいの!? あんたもあんたでずっとずっと、全部知った今でも私のことをお姉ちゃんとか姉貴とかじゃなくて九十九(つくも)って呼んでさぁ! 百番だからって調子に乗ってんじゃないわよ!」

 

 違う……違う、違うのじゃ! 私は決してそんなつもりでお主の名前を呼んでいたわけではないのじゃ!

 だってお主は『つくも』じゃろう!? 『九十九』なんかじゃない!

 

 必死で妹は口を動かした。じゃが……それらは全部、言葉にならない。出来ない。

 じゃから決して、伝わることはない。

 

「許せない許せない! あんたよりも少しでも遅く生まれていたら私が百番(ももえ)だったのに……! 許せない許せない! あんたなんか……あんたなんか……!」

 

 殺  し  て  や  る

 

 それが決定打じゃった。

 

 なにかが割れるような音がしたかと思うと、姉の体からどす黒い何かが立ち上り……それはまるで虎のようなシルエットを有した怪物となって咆哮を上げる。

 その雄叫びは大好きじゃった姉の、悲しみに塗れた叫び声のようじゃった。

 

「なっ、なっ……くっ、そ……」

 

 その怪物の出現に今まで感じていた痛みは一瞬で消し飛び、脱兎のごとく妹は逃げ出した。火事場の馬鹿力を深刻なダメージを受けた腹にこれでもかと込めて、全速力で逃げた。

 階段を駆け上り、何回も角を曲がると……気が付けば、自分の部屋として用意されていた部屋まで戻ってきていた。

 

 とりあえずここまでくれば大丈夫と思った妹は鍵をかけると一気に力が抜けて倒れる。肉体的にも精神的にもダメージを受けた妹の体はボロボロじゃった。しかし、それでも冷静じゃった。

 

「キュゥべえ……いるか?」

「呼んだかい?」

 

 姉に呼ばれた時と全く同じように表れたキュゥべえを見て、妹は力なく笑った。

 

「なぁ、頼む。教えておくれ。魔法少女とは、いったいなんなのじゃ? なぜ……つくもは魔女になってしもうたんじゃ? お願いじゃから……どうか私に教えてくれんかの?」

 

 妹は、キュゥべえからすべての真実を聞いた。

 魔法少女たちが辿る残酷な未来も、キュゥべえたちの目的も、つくもが倒した魔女の正体がクズハの成れの果てじゃったことも、そして……つくもが、もう二度と元のつくもに戻ることがないということも、全部。

 

「そうか……のう、キュゥべえ」

「なんだい?」

「私が今、魔法少女になれば、このダメージは回復するのかの?」

「もちろんさ。すぐに癒えて自由に動くことができる。やろうと思えば、今後受ける痛みも全部遮断することだってできるよ」

「……それは結構じゃが、そうか。治るのか……」

 

 目を閉じた妹は、決意した。

 

「キュゥべえ。私はお主と契約しよう。魔法少女になるぞ」

「そうかい。それじゃあ星奈ももえ、キミは、この運命と引き換えにして何を願う?」

「力を……力を寄越せ。魔法少女としての最高の力を、今を生きるための力を寄越せ!」

「……おめでとう。キミの祈りはエントロピーを凌駕した」

 

 契約は成立した。

 百回という膨大な因果を纏った、最強の戦闘能力を誇る魔法少女が誕生したのじゃ。

 

 体が軽くなった。

 さっきまでの鈍い痛みがすべて消え、あり得ないくらいに体が動く。

 

「よし……行くか」

 

 白を基調として青と紫の模様が散りばめられた和服の戦闘着を青い帯で縛り、銀色の小さな鎧を装着した魔法少女の姿に変身した妹は拳を握りしめ……かつての姉が待つ場所に引き返した。

 地下に続く階段を下りる。すると、もう魔女の結界の中に入ってしまったのじゃ。あの部屋までまだ少し距離があるというのに。

 

 結界の中にはいろんなもので満ち溢れていた。

 美しい彫刻に絵画、写真、グラフィック、衣装、アクセサリー、インテリア、料理や建物までありとあらゆるものが飾られ、並べられている。

 じゃがのう、それらにはなにかがひとつだけ足りないのじゃ。どれも美しいはずなのにどこか物足りない。言葉にするのは難しいが、その何かが足りないせいでせっかくの美しさが却ってわざとらしく、とても陳腐なものに見えてしまう。

 大量に並べられているからこそ一見すると豪華じゃが、しっかりと見てしまうとそれらは烏合の衆のようで、見ていてとっても虚しい気分になる。

 

 姉は秀才じゃった。なにもかも人並み以上に優れておった。

 じゃがそんな姉の優秀さは天才である妹の前では霞んでしまう。比較対象が悪すぎたせいで、姉の魅力のなにもかもが、妹の隣に立てば凡庸なものへと成り下がる。

 姉が抱いていたコンプレックスが色濃く反映された結界であった。

 

「そうか……つくも、お主はずっと、こんな貧乏くじばかり引かされている気分じゃったのか」

 

 悲しく笑う妹はゆっくりと結界の中を歩く。

 姉が感じていた悲しさを、怒りを、あらゆる感情を受け止めるために、結界内にあるすべてのものを見て、感じて心に刻みつけていた。

 そして……結界の最深部。

 例のおぞましい部屋の扉を開く。

 

 そこにはほんの数分前に討伐されたクズハが変化した魔女以上の、全長十メートルはある巨大な虎の姿をした魔女がいた。

 じゃが悲しいかな。

 力強い虎は頭とガワだけで、胴体は別の四足生物のものじゃった。

 巨体じゃからこそ迫力はあるものの、もしこの姿のまま本来の虎と同じ大きさまで縮小されたら、どれだけ滑稽に見えることじゃろうか。

 

「もうよい。もう見栄を張ろうとしなくてもよいのじゃ。私と張り合おうとするな。なあ? お主(・・)よ」

 

 妹は姉の名前を呼ぶことをやめた。

 呼べば姉が悲しむから、苦しめてしまうから。

 

 妹を捉えた魔女はすかさず攻撃してきた。黄金に光る爪で妹を引き裂こうと振り下ろす。

 とても速いし、威力だって充分。並の魔法少女なら即死ものの攻撃じゃ。加えて(おびただ)しい濃度の穢れを振りまいているから、戦い慣れていない新米魔法少女ならば、満足に体を動かせずに一方的に蹂躙されてしまうじゃろう。

 間違いなく、この魔女は世界中にいる魔女たちの中でもトップクラスに強い魔女じゃった。

 

 じゃが……そんな魔女の妹は別格じゃった。

 二匹の竜の紋様が刻み込まれた大剣を片手で掲げるだけで、魔女の攻撃を受け止め完全に静止させる。

 

「すまないな。私はな、どこまでもお主が嫌いな私なのじゃ。許してくれなくて結構じゃ。恨んでくれて結構じゃ」

 

 受け止めていた金の爪を、妹は弾いた。

 それによってバランスを崩し、明確な隙と弱点の腹部を晒した魔女に向けて、妹は横に剣を一薙ぎ。

 

「なぁ、お主は私のことが嫌いなんじゃろうな。憎いんじゃろうな。じゃがのう」

 

 さらに返しに一太刀浴びせた。

 

「私はのう、そんな姿になった今でも、お主のことが大好きなのじゃよ」

 

 体の中心から、綺麗に四等分された魔女は斬られた箇所から塵になっていき、グリーフシードだけが妹の掌の上に落ちた。

 

「さようならじゃ、つくも」

 

 ソウルジェムを綺麗にして、そのグリーフシードを投げ捨てるとキュゥべえがそれを回収した。

 魔女の結界がなくなり、元の研究室に戻る。

 カプセルの中にいる、将来の自分の妹達。そんな彼女たちにも、妹は引導を渡す。

 

「私はこれからお主たちを殺す。じゃが殺したお主ら以上の数の魔法少女をこれから救うと誓おう。こんな残酷な運命を背負わされるのは私たちだけで充分じゃからな。……なにか文句はあると思う。じゃがのう、すまんが聞いてやれそうにない。生きている今も……死んだ後もな。私は死んだら、お主たちとは違う場所に行くのじゃろうからの」

 

 そう言って、妹は研究室を破壊した。

 全てのカプセルを壊し、機械も滅茶苦茶にして、もう二度と使えなくなるまで破壊し尽くした。

 

 男のパソコンと携帯電話、そして金庫の中に入っていた金に通帳、財布を持ち出した妹は研究所を出ると、今度は研究所自体を跡形もなく破壊して瓦礫の山に変えた。

 パソコンや携帯電話の情報を、金を積んで雇ったハッカーたちに解析させ、それをもとに妹はこのおぞましい計画を知りうる人物たちを調べ上げ、そいつらのいると思われる国に乗り込んでは組織ごと血祭りにあげた。

 

「これで私も立派な人殺しじゃな。あの男の娘だけあって、なんにも抵抗を感じなかったのう。つくもよ、お主も地獄で待っとれ。数年もしないうちに、私も向かうからの」

 

 最後のひとりの首を取り、建物を半壊にした妹は小さく笑った。

 

「さて、殺しは終わりじゃ。今度は救いに行こう。久々に、日本に帰るとするかの。星奈ももえの名はここでお別れじゃ。これからは星奈百恵(・・)と名乗ることにしよう」

 

 そうして妹は……もうよいか。

 私は日本に帰ってきたのじゃよ。

 

 それからは各地を転々として、道中で出会った魔法少女たちと協力したり強くなるように特訓したりしているうちに、魔法少女が大勢いるという新興都市のことを耳にしたのじゃ。

 その新興都市というのが神浜市じゃった。

 

 ここまでが私の過去じゃ。長くなってしまってすまんのう。

 じゃがの、もう少しだけお付き合いを願うのじゃ。

 

 次は……神浜に来てからの私の話をするとしよう。

 

 

 

 

 




今回の内容

星奈百恵 魔法少女ストーリー 第2話。Battle2ストーリー


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八雲みたま・七海やちよ・梓みふゆ・御園かりん・常盤ななか・更紗帆奈・遊佐葉月・静海このは・胡桃まなかの好感度が一定以上

星奈百恵 魔法少女ストーリー 第2話。Battle1ストーリークリア

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