マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート 作:スパークリング
今年も宜しくお願いします。
……というわけですんませんでした!
頑張って完走させますんで、もう少しお付き合いくださいオナシャス!
「よし……行くか」
赤い光に包まれて変化が終わった先生は、初めてわたしが出会った時と同じ気迫のようなものを纏っていたの。
髪が真っ白になってから抜け落ちてしまったかのように感じられなくなってしまった、覇気にも等しい先生の力強い気迫。
決して自分の力を見せびらかしているわけじゃなくて、ほんのりと力そのものが先生を包み込んでいるような、近くにいるわたしをも温かくしてくれるような、そんな安心できる先生の力の波動。
最初の、わたしたちと戦っていた時とは違う、先生自身がウワサを受け入れる形で実現した二回目のウワサとの融合で先生はそれを取り戻した。
今年の5月からずっとずっと模索していた先生の老化を食い止める方法。
それは皮肉なことに、先生を苦しめて利用しようとしていた『マギウス』が生み出したウワサによって実現した。
過去のしがらみと自身の老化から解き放たれて、ウワサとの二回目の融合とみたまさんによる最終調整によって全盛期以上の力を取り戻した先生とわたしたちは混沌とした神浜を駆け抜けていた。
『マギウス』が育てていたエンブリオ・イブが生み出した使い魔、さらに神浜に接近している最大最悪の魔女のワルプルギスの夜の使い魔があちこちで暴れまわっていて道中何回も戦闘になった。
「埒が明かないわね……」
「ですね。ここは散開しましょう」
「じゃのう」
10人で固まって移動する必要がなくなった今、イブと戦っているいろはさんに応援に向かうメンバーと使い魔たちを殲滅するメンバーに分かれた。
そしていろはさんの応援に向かうのは、わたし、先生、やちよさん、みたまさん、そして葉月さんの5人。
向かってくる使い魔たちを、先頭に走る先生が残さず駆逐しながら一際強い穢れが撒き散らされている方へ駆けること30分。
かえでちゃんと、かえでちゃんに変身したレナちゃんの拘束魔法によって雁字搦めにされているイブのもとに辿り着いた。
イブに挑んでいたのはいろはちゃんを筆頭としたチームみかづき荘のみんな、ももこさんのチームに、あきらさんとかこさん、そしてあやめちゃんの10人。
回復役のいろはさんとかこさん、さらに盾役のさなさんとあやめちゃんがいるから目立った傷はないみたいだけど、みんな困った様子でイブに攻撃しようとしていない。
……よかったの。
イブはアレでもまだ出来損ないの半魔女。
だからイブの元になっている魔法少女を魔女にさせずに助け出すことができるから、変に攻撃していないみたいで安心したの。
多分様子からして、みんなもそれに気が付いて攻撃ができなくなっちゃったのかもしれない。
「心配かけた。応援に参ったぞ」
「……うぇっ!? 百恵さん!? なんですかその姿!?」
「細かい話は後じゃ。それよりも状況は?」
先生の姿に仰天したももこさんだけど、すぐに切り替えて状況を説明してくれた。
あのイブの正体が、いろはさんが探し続けていた実の妹さんである環ういさんだということを。
だから攻撃することができなくて、だからといって何もしないわけにもいかないから、ああやって縛り付けて動きを封じていたらしいの。
「みたま」
「わかってるわぁ、モモちゃん」
「私も行くわ。百恵、よろしくね」
先生の意図をすぐに察したみたまさんとやちよさんがいろはさんの元に向かった。
「うむ。あきら、少し良いかの?」
「え……あれ? 今ボクを名前で……」
「それに関しては後回しじゃ。迷惑かけてすまんかったのう」
「あ、はい。それは大丈夫です。百恵さんが無事で何よりですよ。それで、なんですか?」
「ずばり聞こうか。イブの弱点、わかるかの?」
「は、はい。イブの中心……あの大きな宝石が急所みたいなんです!」
中心にある大きな宝石……ということは、あの真っ赤な宝石のことなの。
確かにあそこだけ、他の装飾と違って際立って大きく見えるし、不気味に輝いているように見えるの。
「葉月、どうじゃ?」
「みたいだね。あの宝石からわずかだけど魔法少女の姿も見えたし、間違いないよ百恵さん。あそこに誰かいる!」
弱点がわかるあきらさんと、万物をスキャニングできる葉月さんのダブルチェックを経てこれで確定したの。
あそこにイブを形成している元の魔法少女……環ういさんがいるの!
「そうか。わかった」
拳を握ってイブの元に向かおうとする先生。
「星奈百恵ーっ!」
に向かって火の粉のように拡散されたエネルギー波が上空から放たれた。
この攻撃は……!
上を見るとそこにはパラソルを広げて降りてくる小さい影……『マギウス』の里見灯花に柊ねむ!
今までは高みの見物をしていたのかもしれないけど、神浜最強の戦闘能力を誇る先生だけは看過できなくて出てきたみたいなの!
このふたりが来たということは……。
「いた! アリナ先輩!」
ちょうど先生たちの戦いの邪魔にならないところにいたの。
わたしの大切なもうひとりの先輩……アリナ・グレイ先輩が。
すぐにアリナ先輩のところまで飛んで、その前で降り立つ。
『マギウス』の中で唯一先生を庇うような行動をしていたアリナ先輩。本当なら味方だって思いたいし、信じたい。
でも、こうしてほかの『マギウス』たちと手を組んで先生にウワサを憑依させるのを黙認したり、神浜にワルプルギスの夜を呼ぶ手伝いをしているから無条件に信じるわけにもいかない。
とりあえず先生の邪魔をさせないように立ち塞がるけど……相変わらずアリナ先輩からはわたしたちに対する敵意を感じない。
「フールガール。邪魔なワケ。ゴーアウェイ、どいて」
「聞きたいことは山ほどあるの。答えてくれるまでどかないの」
「面倒くさ……。じゃあ、少しずれてくれる? これじゃあよく見えないんですケド」
戦う気は一切ないらしいアリナ先輩は本当に面倒そうな顔をしながらそんなことを言う。
その視線の先にいたのは……他でもない。
「おっとお主らか。今まで随分と……いや、現在進行で世話になっているかのう? 素敵なプレゼントをありがとうなのじゃ」
「んもー! どうなってるのこれー!」
軽やかにさっきの攻撃を避けて、不敵に笑っている星奈百恵先生だったの。
まるで初めて触ったおもちゃを眺めている子供のような、なんというか、純粋な緑の瞳で先生を見つめている。
「アリナ先輩、どうして先生を見ているの?」
「…………」
「アリナ先輩はなにをやりたかったの? 先生の味方をしてくれていたんじゃなかったの?」
「…………」
「答えてほしいの……アリナ先輩!」
「シャラァップッ! ギャアギャアギャアギャアうるさいんだヨネ、フールガール!」
「ひっ!?」
今までダンマリだったし、全くこっちに視線を向けないまま怒鳴ったからびっくりしたの。
「黙って見ていればいいんですケド。これから素敵な光景が見られるんだカラ。……アハッ」
見ていろって……先生を?
言われて先生たちがいる方を見ると、先生と『マギウス』のふたりによる戦闘が始まっていた。
「さて、仕置きはあとじゃ。今は彼女の命の方が優先じゃからな」
武器の大剣を片手に、にやりと笑う先生。
「くっ……ウワサよっ!」
先手必勝と言わんばかりの勢いで柊ねむの持つ本から、今まで彼女が創造したであろう大量のウワサたちが一斉に先生に襲い掛かる。
どのウワサも大きくて、力強くて、きっと面倒な能力を持っているんだと思う。
でもそんなウワサたちも先生の良く手を阻む壁になりえない。
「よっと」
軽く片手で両刃剣を大きく横に凪いで発生した剣圧による衝撃波を受け、ウワサたちは先生の元まで来ることすら叶わずに真っ二つにされて消滅していく。
「ビッグクランチからのー……」
だけどウワサの軍勢を倒したのも束の間。
「ビッグバーンッ!」
さっきとは比べ物にならないほどの熱量を伴った火炎波を里見灯花が放った。
最初から柊ねむのウワサたちは陽動だったみたいで、これが本命だったらしいの。
持ち前のエネルギーを変換する能力を使って周りにあるエネルギーを可能な限り集めたんだと思う。発射まで十秒近く溜めていたし、相当な一撃に仕上がっていると見て間違いないの。
けれども、そんな恐ろしい攻撃を前にしても先生は動じない。
「フッ」
軽く息を吹きかけられた火炎波は、先生に直撃する寸前に90度直角に上に向かって進路を変え、上空を飛び回っていたワルプルギスの夜の使い魔たちを焼いた。
「なんなのかな、その出鱈目な力は……!」
「わ、わたくしの最大出力を息を吹きかけるだけで無力化できるとかどういう理論しているのー!?」
それぞれ自慢の攻撃を軽くいなされてしまった『マギウス』たちは信じられないものを見たかのような、驚愕に溢れた表情で、一歩も動くことなく涼しい顔をして佇んでいる先生を見る。
「……すごい」
明らかに手を抜いていて全然本気じゃないのに、決して弱くない『マギウス』のふたりを圧倒しているの。
でも……そういえばこの人はずっとこんな感じだったなって懐かしくもなる。
能力を無視した純粋な戦闘だけならこの人に勝てる魔法少女なんて神浜……どころか世界中のどこにも存在しないのかもしれない。
一度その強さを目の当たりにしたら逆らう気すら失い、神浜有数の魔法少女たちが集まったとしてもたったひとりで戦況を覆させて黙らせてしまうほどの、絶対強者。
だからこそ、先生のことをみんなはこう呼ぶの。
『神浜最強』と。
「アハッ。ビューティフル。美しい……」
「アリナ先輩?」
そんな先生を見ていたアリナ先輩は……笑っていたの。それはもう、うっとりしたような……まるで最高の芸術品を手掛けた時のように。
「アナタもそう思わない、フールガール?」
「美しいって、先生がなの?」
「それ以外に何があるっていうワケ?」
アリナ先輩の美しいの基準はよくわからないけど……少なくとも、アリナ先輩には今のあの先生が美しく見えるらしいの。
戦い方についてなのか、単純に容姿についてなのか……はたまた生き様についてなのか。それともわたしが見えてない部分なのかどうかはわからない。
……だけど。
「うん。……先生は格好良いの。どんな時も」
最初に出会った時も、わたしが傭兵になった時も、弱体化が始まった時も、ウワサに乗っ取られていた時も……そして今、こうして完全復活した時も、ずっとずっとわたしにとって先生は格好良い存在だった。
強くて、頼りになって、優しくて、ひとりで抱え込んで走りがちだからぶつかっちゃうこともあるけど、それでもまっすぐな先生がわたしは大好きなの。
「ふぅん。まぁ、フールガールも少しは見る目が良くなったヨネ」
「?」
「でも、まだあの美しさには先がある。最後の仕上げが残っているワケ」
仕上げ?
「仕上げって……なんなの?」
「仕上げは仕上げなワケ。手がけた作品をコンプリートさせるには……最終チェックをしないといけないんだヨネ」
最終チェック……手掛けた作品。
「……まさか」
今までのアリナ先輩が手掛けてきた作品たちが頭に浮かんで……背筋が凍った。
アリナ先輩は芸術家として二回ブレイクしている。
一回目はごく普通の、絵画としての芸術品。
卓越した技術と感性をこれでもかと詰め込んだ、極めて王道の作品で。
でも……二回目は違う。
これまでの作風と一変した、生と死をテーマにした……狂気にも近いアリナ先輩ならではの発想を全面的に押し出した『死者蘇生』シリーズとも呼ばれる極めて異質な作品。
『死者蘇生』シリーズと先生……似ているの。
アリナ先輩が目指している……芸術のあり方そのものに!
じゃあアリナ先輩が先生を匿いながらも『神浜最強のウワサ』を憑依させることは黙認して、それなのに『神浜最強のウワサ』の情報を意図的に流していた本当の理由は……!
「さて、もう茶番は終わったみたいなワケ」
アリナ先輩の指さす先には……誰かを大事そうに抱きかかえているいろはさん、武器を片手にイブに引導を渡そうとしている先生、そしてそれを止めようとしない『マギウス』がいたの。
ということは、無事に妹さんであるういさんを助けられて……『マギウス』たちは元の記憶を取り戻したみたいなの。
あとは……抜け殻となったイブを消滅させれば、ワルプルギスの夜を残すのみ。
「そろそろ……コンプリートさせてもいいヨネ?」
アリナ史上最高の作品を。
アリナ先輩が話したと思った時には……すでにわたしの隣じゃなくて、
「はいはい、ストップストップ」
イブにとどめを刺そうとしている先生たちの前に移動していた。
……全然反応できなかった。
急いでわたしもみんながいるところに向かう。
「む、アリナか。すまんがそこをどいてくれんかの?」
「アハッ。それはムリな相談なワケ……。本当にサイコーだヨネ。百恵、アナタはアリナのシンキングした通りの……ベストアートに仕上がってくれたワケ!」
……やっぱり!
アリナ先輩が先生を守り続けてきたのは、先生を作品に仕立て上げていたから!
『神浜最強のウワサ』の情報を『万本桜のウワサ』経由でわたしたちに流したのも、それをヒントにわたしたちに先生を助け出させるため!
今思い出したけど、『万本桜のウワサ』はアリナ先輩のことを『神浜最強のウワサ』のもうひとりの生みの親って言っていたの。つまり……最初から先生をウワサの呪縛から抜け出せるように、そして再度融合した際の相性が最高になるようにわざと抜け道を作っておいたんだ。
すべては……『完全復活した星奈百恵』というアリナ先輩の作品を作り出すために……!
ここまで全部、アリナ先輩の手の内だったってことなの!?
「そうか……。アリナよ、私も、やちよたちも……他の『マギウス』たちですら、お主の思うがままに動いていたということか」
「アハッ。そういうことなワケ。でもまだ総仕上げが終わっていないんだヨネ」
「総仕上げとな?」
「アリナのベストアート、それがどんなものなのか……アリナ自身がテストしないと気が済まないんだヨネ!」
そう言って背後で蠢いているイブに向き合ったアリナ先輩の……姿が変わった。
外国の警察官のような魔法少女衣装から一転して……聖夜の夜に広場に現れた、聖女のような真っ白な衣装に。
「ほら、イブ……エターナルにアリナのペイントブラシにしてアゲル。魂を失って冷え切ったアナタを抱きしめて!」
かつての先生と同じように両手を広げてイブを受け止めるアリナ先輩。だけど、先生とは違って協力というよりもイブを従属させ……すべてを奪うかのように、強引に自分の体と融合させていく……!
あ、あの姿は……!
「なっ!? あ、アレは……クリスマス・デス・カリブー!?」
「知っているの? かりん」
「うん。今年ちょっと話題になっていたから……でもアリナ先輩だったの!?」
「その呼び方はやめてほしいんですケド……アンサーはイエスだヨネ」
完全に融合が終わって……頭から色とりどりの塗料を被って、まるで血のように流すアリナ先輩が口角を吊り上げた。
なんて禍々しくて……恐ろしい魔力なの。
ウワサに加えて出来損ないとはいえ魔女までその身に宿したアリナ先輩は、間違いなく、さっきまで拘束されていたイブ以上……もしかしたらワルプルギスの夜にすら匹敵するほどの悍ましいなにかに変貌していた。
「まったく……困ったもんじゃのう。まさか、ここにきてお主と戦うことになるとは思わんかったぞ、アリナ」
「アハッ、一皮も二皮も剥けて……ますます美しくなったヨネ、百恵!……ギャラリーは手出し無用なワケ」
「なんですって?」
「これはアリナと百恵の戦いなワケ。ちょっかいかけて来ようものなら……このあたり一帯をさらに滅茶苦茶になるようにするカラ」
「な……っ!」
「嫌だったら手出ししなければいいだけだヨネ? ワルプルギスの夜の相手でもなんでもやっていればいいよ。アリナは百恵にしか興味はないカラ」
アリナ先輩はブレなかった。
本当に先生の事しか興味がなかったんだ。
『魔法少女の解放』も、ワルプルギスの夜も、神浜すらもどうでも良くて、自分が作り上げたものにしか興味を示さないのは……本当にアリナ先輩らしい。
「……だそうじゃ。お主たちは行け。私はこやつと少し遊んでから行くとしよう」
「百恵……わかったわ」
瞳が揺れていたやちよさんだけど、アリナ先輩の誘いに完全に乗った先生を見てもう無理だと判断したみたいなの。
折れたやちよさんはみかづき荘のみんなと救出した環ういさん、さらに『マギウス』のふたりを連れて、ワルプルギスの夜から神浜を守るための防衛戦に向かった。
ももこさんのチームのみんなも、葉月さんたちも先生に一言二言話して防衛戦に向かっていく。
残ったのはわたしと、先生とアリナ先輩だけ。
「かりん、お主も……」
「ううん、わたしは見届けるの。手出しはしないし……させないから!」
こちらに向かってきていた使い魔を鎌で両断して、わたしは叫んだ。
ここにもワルプルギスの夜とイブの使い魔がわんさかいる。だったらわたしは、この使い魔たちの相手をするの。
絶対にふたりの戦いに割り込ませない。邪魔なんてさせない。
そして……この戦いに決着が付いたらわたしが連れて行くの。
先生をワルプルギスの夜のところまで、一直線に。
「そうか……感謝するぞ」
「ふん、良い心構えなワケ……」
片や薄く笑って、片や生意気なものを見るように鼻を鳴らす。
けれど……なんでかな。
どっちにも、根底には優しい何かがあるように感じられた。
「さぁ、百恵! アリナのベストアートの力……アリナに見せてほしいワケ!」
「よかろう。ただし、きっとビックリするぞ? 腰を抜かしてギックリ腰にならんように注意するんじゃな、アリナ。痛いし……クセになるからの?」
背後で……ふたりのわたしの大切な先輩がぶつかり合った。