マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート   作:スパークリング

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こんなん書いてたら頭おかしなるで。


Side.アリナ・グレイ ベストアート

 そこに、アリナが求め続けた究極の『美』があった。

 

 アリナが魔法少女になったきっかけである、とあるジャッジの置手紙。

 15歳でアリナの才能が輝きを失う。世界を変える気が無ければ作るのをやめろ。

 

 表彰されても何も感じることなく、ただただクリエイトし続けてきたアリナにとってはもはや死刑宣告にも等しいものだったことを今でも鮮明に覚えている。それくらいこの出来事のインパクトは大きかった。

 

 それからはなにを描いても全然エキサイトしない、センセーショナルじゃなくて、アリナをサティスファクトさせることはない。手紙通り、本当にアリナの才能が枯れていくような、そんな焦燥に駆られた。

 

 それでついに至ったのは、屋上から飛び降りることだった。

 

 作ることができなくなったアリナなんてアリナじゃない。枯れ果ててしまって、なにも作れなくなったアリナに価値はない。だったら……いっそ盛大に果ててしまおう。そしてそれがアリナのラストアートにする。

 評価なんてどうでもいい。なんて言われても……それがアリナに出来る唯一かつ最大のアート。だったらそれを生涯最後の作品にしてしまおうと思った。美術館に飾られていたアリナのこれまでの作品を全部ブレイクして、そしてアリナ自身もブレイクする。

 

 ……なぁんてことをあの頃のアリナは考えていた。

 実際に飛び降りて、生死を彷徨うまでは。

 

 飛び降りる前にキュゥべえと契約して魔法少女になった。魔法少女になってしまえば、肉体が死んでいても関係ない。魔力が尽きない限りいくらでも再生する。さすがに屋上から飛び降りたから大分時間がかかったケド……アリナは生き返った。

 

 それでようやく気付いたんだヨネ。『アリナの美』に。……その代償に、フールガールが大泣きしたせいでうるさかったケド、まぁ悪くはなかった。

 

 しかも魔法少女になったことで、アリナの世界がガラリと変わった。

 魔女。それはアリナを刺激するには充分すぎるスパイシーな生命体だった。今まで、こんなデザインの生命体が見えていなかったのかと後悔した。そして魔法少女になったことでそれに触れられるようになって歓喜した。

 

 おまけに魔女との戦いはまさに生きるか死ぬかの瀬戸際。どんなにウィークな魔女でも気を抜けば命を持っていかれる。その緊張感がアリナに生きている実感を湧かせて、ますますアリナのアートの輝きが増した。

 

 すべてが楽しくて、充実していたある時の事だった。アリナの耳にビリーブできないインフォメーションが飛び込んできたのは。

 

「は? あのフールガールが?」

 

 あんまりのインパクトに開いた口が塞がらなかった。

 コレクションしていたけど逃げ出した魔女がハントされた現場で、偶然耳にした魔法少女同士の会話のなかに、アリナに付き纏ってくるフールガール……御園かりんの名前があった。しかも決してバッドなことじゃなくて、魔法少女として大活躍をしている、そんな話を。

 詳しく話を聞いてみることにした。そして聞いてみて……またもアリナの世界が変わった。

 

 神浜の魔法少女の希望の星である、公式の職業である『傭兵』の二代目としてセレクトされて、仕事に追われる日々を過ごしているのだと。まだ魔法少女になって日が経っていないアリナはここでようやく、神浜の魔法少女の勢力図や重要人物について知ることとなった。

 

 思えば、フールガールのアートはある日を境に変わった。

 確か……去年の6月の半ばくらいだったと記憶しているケド、まるで子供が書いたような単純で面白みのない、二番煎じのようだったフールガールのアートは、その日から一転した。

 

 改めて描いてきたフールガールのコミックは良く言えば王道、悪く言うなら定番なストーリーだったから最初は大して期待はしていなかった。……だけど、落胆するようなものでもなかった。絵は相変わらず下手くそだったせいで見るに堪えなかったケド。

 

 フールガールはそれを連載し始めた。

 主人公は変わらず、展開もほとんど同じ。……なのにどうしてだろうか。妙に引っ掛かる。自然に読み終えてしまうから問題ないはずなのに、なにかがおかしい。

 

 そして、その引っ掛かりの正体に気が付いたのはひと月が経った頃だった。

 ほんの一コマの描写を見て電流が走ったかのような感覚がしたアリナは、急いでフールガールが今まで描き続けていたものを全てチェックして、フールガールが言っていたことを繋いでいって……アリナは初めて、他人のアートに痺れた。

 一々見せてくるからこそ気が付くことができた。鬱陶しくて煩わしいケド、それ以外に断る理由がなかったから仕方なく全部見てきたからこそ理解した。

 

 フールガールのストーリーの主人公が少しずつ、本当に微々たるものだけど着実に、成長していっているということに。

 

 主人公が成長していく様を描くストーリーなんて掃いて捨てるほどある。

 物語が始まってから一気に年月が経っていたり、主人公がハイスペックすぎて一回で全部が出来たりするような、そんな大味なストーリーが最近の主流になりつつある。

 しかしながらなかなかどうして、フールガールの作品は繊細なものだった。

 

 不器用で弱虫な主人公が、細かいけど一話終わるごとにしっかりと成長している。

 絵が下手過ぎて表現しきれていないのがもどかしいケド、セリフやフールガールのレクチャーのおかげでどこがどう変わったのか、どうしてこういう風に振舞えるのか、服装や髪形の変化まで全てにおいて極めて自然で違和感が生まれていない。そのくせ根底に関わる軸だけはブレないから一貫している。

 ショートストーリーなのもいい。一話完結型のストーリーだからしっかりと読めば読むほど、主人公や他の登場人物たちの変化を楽しむことができるし、読んでいても苦痛に感じない。思えば、フールガールが描いたコミックを自然に読み終えてしまうこと自体がすでにアリエナイことだった。

 

 フールガールにこんなストラクチャーとコンテンツを纏め上げる技術はなかったし才能もなかった。じゃあなんで、こんな繊細なストーリーを描けたのか。納得できるアンサーが思い浮かばなくて不思議だったケド、今になってようやく分かった。

 

 アンサーは、このストーリー自体がノンフィクション、あるいは半フィクションだったから、だ。

 つまり本当に起こった出来事が元になっていて、主人公はフールガールが体験したことになぞって動いている。だからリアルだしストーリーが破綻することもない。

 

 前まで描いてきたものは全部、フールガールの空想だった。自分の理想ばっかりだったからこそ稚拙で面白くなかった。

 けど、これはフールガールが実際に体験して、今もなお走り続けている現実だけを描いている。実体験を新鮮な状態で描いているからこそ、面白い(・・・)物が作れていたんだ。そう、今のアリナのように。

 

 そうか。全て理解した。

 それならフールガールが神浜を代表する強力な魔法少女のひとりだと言われても腑に落ちる。今まで読んだフールガールのコミックの主人公と全く同じ人生を歩んで、そしてその先を走り続けているのなら確かにここまで評価されるほど強くなっていてアタリマエ。

 

 ということは……フールガールの描いたコミックに登場するキャラクター達にはモデルがいる。つまり、フールガールを変えるきっかけになった人物もきっちり登場している。

 

 そいつはおそらく……悩んでいた主人公に最初に手を差し伸べた人物。

 頻度は低いケド、登場するときはフールガールがまぁ、あれでも一番力を入れて描いている『師匠』と呼ばれる存在。それに該当する人物は……ただひとり。

 

 神浜最強の魔法少女、星奈百恵。

 こいつがフールガールの世界を変えて導いたんだ。

 

 会ってみたい。

 フールガールがここまで変われるきっかけになった人物にアリナは興味を持った。んま、それから間もないうちに『マギウス』が結成したせいで会うに会えなくなったんですケド。

 

 星奈百恵という人物を知れば知るほど、『マギウス』との相性はベリーバッドだったし、魔女をリアリングしていることに気が付かれたら面倒くさすぎる。そんなリスクを冒す必要なんてないし、会うだけなら『魔法少女の解放』が終わってからでも構わない。

 だからフールガールに魔法少女のことは隠していたし、調整屋にも気を遣ってフールガールとも星奈百恵とも遭遇しないようにしてもらっていた。

 

「そーだ! いいことを思いついた! その神浜最強をこっちに引き込んじゃえばいいんだよ!」

 

 バッドアイディアすぎることを灯花が言い出したときは本当に頭が痛くなったヨネ。しかもそれにねむまで賛同するんだから質が悪い。

 アリナでさえ、自重して会わないようにしていた星奈百恵を仲間にしろとかナンセンス。みふゆの言う通り、アリナたちの障害になるのは火を見るよりも明らか。

 

 だから普通にスルーしたケド、まさか本当にみふゆが星奈百恵を連れてくるとは思わなかったヨネ。しかも双方合意の上でなんて。

 どんな交渉をすれば引き入れることができたのかを聞いてみたかったケド、嬉しい誤算だったのもまた事実。星奈百恵が来ることをひそかに楽しみにしていて……そして実際に会って、アリナは痺れた。

 

 彼女はなにもかもが矛盾していた。

 成人直前のはずなのに一部分を除いて小学生のような見た目をしていて、幼い顔付きながらも纏う雰囲気はとってもアダルティ。穏やかな笑顔を向けているケド、その奥には激しい怒りをふつふつと滾らせている。

 

 そしてなによりも……彼女からは強烈な『死』の気配を感じ取れた。

 

 『死者蘇生』シリーズを手掛けて、そして自殺未遂をして生死を彷徨ったからこそアリナにはフィーリングすることができた。

 おそらくもう、彼女に先はない。明確な『死』がもうすぐ傍まで迫ってきている。いや、もしかしたら、もう生きるためのリソースを全て使い果たしてしまっているのかもしれない。今をギリギリ生きるので精一杯な状態に陥っている。そう思える程に星奈百恵という魔法少女は、とっても虚ろなもののように見えた。

 

「餓鬼が、あまり巫山戯(ふざけ)たことを抜かすなよ」

 

 あまりのインパクトに言葉を失って彼女のことをガン見していたせいであんまり会話が耳に入って来ていなかったケド、灯花が星奈百恵の逆鱗に触れたことだけは分かった。

 反応させることすら許さずに灯花の背後を取って首に剣を通した星奈百恵を見て、また痺れた。

 

 こんな死に体の身のどこにこんな強大なパワーがあるのか。

 

 どこまでもアンバランス、それでいてまっすぐな魔法少女、星奈百恵。

 磁石の両端がN極になってしまっているかのような、全て「アリエナイ」という言葉でしか表現できないような彼女を見て……今までの野望の全てがどうでもよくなった。

 

 アリナのアートワークそのものを永遠の『生』の象徴にすることも、そのついでに実現する『魔法少女の解放』も、魔女をリアリングすることも……なんなら現在進行でクリエイトしている他のアートすらもどうでもいい。

 

 アリナのアートのテーマである『生と死』の極致と言ってもいい『死せる生』というアンチノミー。それを体現したかのような存在が、アリナの目の前にいる。そしてそんな存在があるのならば……その逆の『生ける死』だって実現することができる。アリナのベストアートの素材として、星奈百恵以上に素晴らしい逸材はないと魂が震えた。

 

 そして理解した。あのフールガールがあそこまで成長したカラクリが。

 こんなインパクトのある劇物を近くで見てなにも影響を受けないはずがない。どんな凡人だってこの異常な存在を目の当たりにすれば、なにかしら変わることができると確信できる。何もフィーリングしないやつはただのバカだ。

 

「ねぇアナタ……アリナのアートのモデルになってほしいワケ」

 

 だからアリナは……星奈百恵を手中に収めることに決めた。

 幸い灯花もねむも星奈百恵を嫌っているし、星奈百恵もまたふたりに対して良い感情を持っていない。だからアリナが掠めとる。

 最初声をかけた時は警戒していたけどアリナがただ絵を描いているだけだから拍子抜けしたのか、次第に楽になり始めた。

 

 ああ、それにしてもなかなか絵になるヨネ。

 素材が良いと椅子に座っているだけなのに顔の表情や手の位置、足の角度を少し変えたりするだけでいろんなものをエクスプレッションすることができる。

 それに星奈百恵自身のボディもいい。死んでしまったかつてのみふゆのパーフェクトボディとは違う美しさがある。

 

「のう、お主。そろそろおしゃべりしてもいいかの?」

 

 十分くらい経って今まで黙ってモデルに徹してきた星奈百恵が口を開く。

 

「なに?」

「お主のことを知りたいのじゃ。お主は他の『マギウス』たちよりかは話が出来そうじゃからのう」

 

 さぁ、食い付いてきた。アリナの狙い通り、アリナを味方に引き入れようと動き始めた。

 星奈百恵だって『マギウスの翼』のリーダーになった以上、アリナ達『マギウス』とのコネクションはなんとしてでも欲しかったはず。だけど結果はソーバッド。灯花とねむを味方にすることはできなかった。だからもう、残っているのはアリナしかいない。

 いいよ、乗ってアゲル。

 

 そこからはまぁ、軽い自己紹介やら他愛のない世間話やらが続いた。

 星奈百恵はアリナのことを知っていたらしくて、アリナが手掛けてきた作品のことまでさわりだけとはいえ覚えていたみたいだった。まぁ、悪い気はしないヨネ。

 

 そして30分が経って……もう少しで最初の一作品目が完成しようかというタイミングで仕事の話に切り替わった。

 

「それでの、すまんが魔女の捕獲作戦に関しては私に一任してはくれぬか?」

 

 そういえばアリナが誘う前に仕事について交渉していたっけ。灯花たちは完全に腰が引けていたから全部素通りしていたケド。

 

「フーン。まぁ、いいケド。アナタの腕なら魔女を狩らずに無効化することだってできそうだし」

 

 まぁぶっちゃけ、魔女をリアリングすることなんてどうでもよくなったんですケド。ただまぁ、ながら作業で魔女をリアリングできるならそれはそれで構わないし、アリナがなにもしなくても仕事しているように見せられる。

 

「うむ。それから、この仕事は秘密裏に行う。羽根たちの中にはこのやり方に疑問視している者もいるからのう」

「アリナからはもう言わないし、他のふたりにもこの件に関しては口出しさせないカラ、アナタの好きにすればいいワケ。バット、仕事はちゃんとこなしてもらうカラ」

「問題ない。感謝するぞ」

 

 これで、アリナは……ベストアートの原石である百恵を引き入れることに成功した。

 それからは毎日が楽しかったヨネ。

 

 日が経つごとに百恵から『死』の匂いが強くなっていって、全く同じコンポジションでも少しずつ変わっていく様を描いていくのはゾクゾクした。

 

「そんな同じ絵ばっかり描いて何が楽しいの?」

 

 なんて灯花が訊いてきたときは本気でムカついたヨネ。この芸術の素晴らしさに気付かないとか本当にセンスがないんですケド。

 

「ふむ……なるほどな。お主、気付いておったのか」

 

 んま、別にいいんですケド。ちゃんとわかってほしいひとには伝わったし。

 二枚の絵を比較した百恵は、諦めたように笑った。

 

「アハッ、そうだヨネ!」

「よくもまぁ、こんな細かいところに気が付けるものじゃ。そして描けるものじゃの。じゃが……そうか。では知っとるのじゃな」

 

 そう言って、百恵は隠していた……皴塗れの左腕をアリナに見せてくれた。……アハッ。やっぱりそうだったんだァ……。

 百恵が少しずつ細くなっていって、一回りずつ小さくなっていっているように見えている感覚は勘違いでもなんでもない。

 どういうカラクリがあるのかはアリナの知ったことじゃないケド、百恵の老いるスピードは常人の比じゃないほどに早い。

 つまり今までアリナが感じていた百恵の『死』の気配はファーストコンタクトした時の直感通り、戦死や病死の予感からくるものじゃなくて……老衰からくるものだということ。19歳という若さ、それ以上に幼く見える容姿からはイメージできない死因。あぁ……どこまでもアリナをエキサイトさせてくれるよねェ……。

 

 百恵の身になにが起こっているのか理解したアリナは、次のステージに移ることに決めた。

 このままでは百恵は老衰で死ぬ。余命は持って半年……ノー。魔法少女として戦う度に体調がブレイクすることも考えるなら一ヶ月もない、か。それはつまらない。

 

 まだ百恵は完成していない。

 アリナのゴールは『生ける死』。ここから百恵を復活させなければ完成しない。燃え尽きた灰の中からポッと炎が燃え上がらなければ、フェニックスのように死んだあとに息を吹き返さなければ、百恵はただのガラクタで終わってしまう。アリナのベストアートになりえない。

 

 だからアリナは、他の『マギウス』の力を利用することにした。

 灯花もねむも百恵の扱いに手を焼いていたし、隙あれば扱いやすい駒にするために色々と画策し続けていることは、あのふたりの隣にずっといたからわかる。

 

 でも百恵は神浜最強の魔法少女。馬鹿正直に真正面からバトルを仕掛けても九十九パーセント負ける。僅かな可能性にチャレンジするようなことをあのふたりは選びやしない。より確実で、勝算があって、なおかつスピーディーな解決法を選ぶに決まっている。

 ならば弱っているところを狙えばいい。でも、それはアリナが許さない。『マギウス』の権限やアリナ自身の魔法を使ってでも百恵を守る。

 バトルで倒す選択肢と百恵を暗殺する選択肢はこれで消えた。

 

 大人数で百恵を囲って無理矢理屈服させようにも『マギウスの翼』は既に百恵の手に堕ちている。サブリーダーにみふゆも付いているし、一部のおバカな羽根以外は百恵に従順。多数決で百恵を支配するのは不可能だし、かといって百恵を堂々と殺してしまえば羽根たちが一斉に反旗を翻す。

 

 それならもうブレインウォッシング……洗脳するしか方法はない。

 心身ともに弱らせた後にウワサを憑依させて手駒にする。現にこの方法で、巴マミという切り札級の戦力を獲得することに成功している。人っていうのは非常にシンプルな生き物で、一度成功すると次にも成功した時と同じ方法を取る習性がある。味を占める、っていうやつ。案の定、それは天才のふたりにも当てはまって……アリナがシンキングした通り百恵専用のウワサをクリエイトしはじめた。

 

 それと同時に必要以上に百恵の体に負担をかけないようにするために、魔女狩りをアリナが打ち切った。

 アリエナイ数の魔女をテイクしてくれたからペットにしていた魔女もアリナが想定していた以上にリアリングした。だから大切にコレクションしていたんだけど……まさか、たったひとりの魔法少女にブレイクされるなんて思いもしなかったヨネ。あんのキンパツめ……。

 

 ま、そんなバッドイベントもあったけどアリナのメインプランは順調に進んでいたワケ。

 

「アリナ! いつまでも絵ばっかり描いてないでわたくしたちの手伝いをしてよね!」

「アリナはアリナの仕事をしているはずですケド」

「もー! 本当に最低限の事しかしていないじゃない! それにそんなに作品を作りたいならねむの手伝いでもしなさいよ!」

 

 そのセリフを待っていたワケ。

 ねむが百恵専用のウワサを作るのに四苦八苦しているのはしっかり耳にしている。ま、とーぜんだヨネ。

 精神的に揺さぶった後にウワサを憑依させた巴マミの時と違って百恵には隙がない。つまり、生半可なウワサ程度では百恵を支配することなんてできない。より百恵と相性が良くて、憑依させた後の百恵を都合よく操れるようなウワサを御所望だった。そんなピンポイント過ぎるウワサなんて、百恵のことを理解している人物が協力しないと到底クリエイトできない。だからアリナの協力が必要不可欠だったってワケ。

 

 そして、完成したのが『神浜最強のウワサ』。

 ねむは由比鶴乃専用のウワサである『キレートビッグフェリスのウワサ』をクリエイトするのに忙しかったから、ほぼアリナが自由にデザイン出来て、最後引き渡すときに欠陥部分を隠して、あたかもアンチ百恵に特化させたように説明したらすぐに採用が決まった。計画がとん挫しまくって、余裕がなくなっていたふたりの目を欺くのはベリーイージーだったヨネ。

 

 このウワサの情報を『万年桜のウワサ』に伝えれば仕込みは完了。

 あとは百恵を助けに来たやつらに任せて、百恵を救い出させ……百恵が自分の意思で『神浜最強のウワサ』を取り込めば……アハッ。

 

 この狭くて細い可能性と確率を越えた先に、『復活した星奈百恵』という『生ける死』が誕生する!

 

 失敗するとは微塵も思っていない。

 だってごまんといる百恵を慕う魔法少女ならなにがなんでも百恵を助け出すだろうし、百恵自身だって、ああ見えて実は『生』にしがみ付こうとしているんだカラ……。

 

 捨て身な行動や過激な発言は死に場所を求めているから。

 じゃあ、なんで死に場所を求めるのか。……誰かに殺されたいと願っているから。

 じゃあ、なんで誰かに殺されたいと願うのか。……自分で命を絶つことができないから。

 じゃあ、なんで自分で命を絶つことができないのか。……本当は生きたいと願っているからだ。

 

 でも百恵にはもう時間がない。寿命は既に目の前に迫っていて、それは叶わない。だから『生』を諦めざるを得なかった。だから無理をしてでも『魔法少女の解放』に拘って……そして前に倒れて死のうとした。美しいと思わない?

 

 でもよかったね、百恵。

 その美しい強さが、そしてその美しい弱さが自分の命を繋ぐ最後の希望になったんだから。

 

 結果は……大成功だった。

 案の定、百恵は完全体となって復活した。

 もう『死』の気配なんてない。圧倒的なまでの『生』。ウワサが剥がれた瞬間にそれでおしまい。けれどもウワサが剥がれなければ……おそらくウワサが朽ちるまで生き続ける。

 これこそまさしく『生ける死』。

 寿命はとっくに来ていて死んでいるにも拘らず、『生』にしがみ付いて命を繋いでいる極限状態の体現。それが今の百恵。

 

 でも、まだ足りない。

 

 ベースはアリナが作りはしたけどそれを積み上げたのは百恵と、七海やちよをはじめとする百恵を助け出した何人かのベテラン級の魔法少女たち。それじゃあ、アリナのアートとは呼べない。

 だから最後はアリナが仕上げる。

 百恵をアリナのベストアートとして相応しい、サイッコーの作品に昇華させる!

 

「さぁ、百恵! アリナのベストアートの力……アリナに見せてほしいワケ!」

「よかろう。ただし、きっとビックリするぞ? 腰を抜かしてギックリ腰にならんように注意するんじゃな、アリナ。痛いし……クセになるからの?」

 

 ……アハッ。

 

 

 

 

 

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