マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート 作:スパークリング
上空でワルプルギスの夜の使い魔を薙ぎ払っているわたしの真下で、様々な高さと角度、距離から無数に放たれる七色の光線が、廃墟になりかけている参京区の闇を縦横無尽に駆け巡っていた。
「まったく……困ったものじゃのう」
「どうしたものかの」と苦笑いしながら、先生は光線を縫うように躱し続けていた。
なぜか肩には小さいキュゥべえが乗っかっていて、振り落とされないように肩紐の中に器用に入ってしがみ付いている。
先生とアリナ先輩の戦いが始まって既に十分が経過しようとしているけど……状況は硬直していたの。
先生は万能型の魔法少女。
武器を使えばなんでもあり、武器を使わなくても自慢の腕っ節があるし、魔力を使えば帯を自由自在に操ることができる。体格を活かした機動力の高さも相まってどんな状況、どんな相手にも対応できる最強の戦闘特化型魔法少女。そんな先生は、本気を出せばどんな魔女でも魔法少女でも十分もかけずに叩きのめせる力を持っていたの。
それなのに……。
「……チィ! これもダメか!」
「アハハ! どうしたの、百恵! アナタの本気がそんなものなワケがないヨネェッ!」
十分経った今でも、アリナ先輩に傷ひとつ付けられていないの……!
先生は得意の接近戦を仕掛けていたの。
アリナ先輩が幾重に放つ光線を全て躱しながら近づいてその剛腕を振るっていた。まともに受けたら気絶は覚悟しないといけないような一撃、繰り出す攻撃の全てが必殺級の先生の自慢の拳。
それをアリナ先輩は真正面から受けた。
だけど、アリナ先輩は微動だにしていないの。
よく見ると、先生の拳はアリナ先輩に届いていなかった。ミルフィーユ状に形成された結界が正確に先生の拳を受け止めて威力を殺しているの!
「……全く困ったもんじゃ。この私の拳を受け止めるとはの。はて、お主の防御力はそこまで高いものじゃったかの?」
「アリナの魔法くらい知っているはずだヨネ?」
結界生成。
それがアリナ先輩の固有魔法らしいの。
対象物を空間ごと覆って閉じ込めるのは勿論、単なるバリアを展開させることもできる応用も利く防御特化型の固有魔法。アリナ先輩はそれを先生の拳が来る場所だけに一点張りして、さらに重ねて展開することで先生の攻撃を相殺していたの……! 今も先生が拳を突き出したまま力を込め続けているけどビクともしていない!
「それにさァ……こんなにアリナに近づいて、いいのかなァ?」
そしてアリナ先輩が先生の肩を掴んだ瞬間――
「!? ぐっ……!」
なにかを感じ取って血相を変えた先生はアリナ先輩の手を振り切って距離を取った。
え? どうしたんだろう。あの先生があんなに焦って……。
「こいつは驚いた。アリナよ、お主、私の魔力を奪う……いや、吸い取りおったな?」
「アハッ! イグザクトリィ、ご明察! アリナのウワサの力でねぇ……」
アリナ先輩が身に纏っているウワサは、『毛皮神のウワサ』。
凍える相手を温める代わりにその命を吸い取るウワサ。その性質は先生の助けになっている『神浜最強のウワサ』と酷似していて、平たく言うなら相手の命を自らの命に変換するウワサ。
でも使い方がまるで逆なの。
先生はウワサと同化することで、固有魔法である『身体強化』……正しくは『成長加速』によって得られるエネルギーを糧に命の炎を燃やす、言うならエネルギーを生み出すことに特化させている。
対してアリナ先輩は、固有魔法の『結界生成』で閉じ込めた相手からエネルギーを奪うことに特化させているみたいなの。
だから相性は最悪。
生み出す側の先生には限界がある。長期戦に持ち込まれて損をするのは明らかに先生の方なの。
「ふむ、お主に触れられただけで私は力を失うのか。ならば拳骨で仕置きするのは悪手じゃのう。帯を使ってもダメそうじゃ。……致し方あるまいな」
そう言った先生は……右手に武器を出して握りしめた。
今までどんな魔女も真っ二つに両断してきた、刃の部分だけでも先生と同じくらいの長さと幅を誇る、二匹の龍の紋様が描かれたあの大剣を。
「私に武器を使わせた魔法少女はお主が初めてじゃ。誇るがよいぞ、アリナ」
「アッハハ! サイッコー! アナタの命が吸い尽くされるのと、アリナの体をふたつにするの……どっちが早いカナァッ!」
再び光線の乱れ撃ちが始まった。絶え間なく先生に七色の光線たちが向かっていく。
この光線は多分、先生の動きを制限するためなの。行く手を阻むものがなければ高速で移動できる先生の足を封じるための布石。イブと融合しているから余裕があるとはいえバカにならないほどのエネルギーを消費しているだろうけど、こうでもしないと簡単に首を捉えられてしまうから必要経費と割り切っての一手。先生を舐めていないからこそできる攻撃。
四方八方から濁流のように迫る七色の光線。その中心にいる先生は片手で剣を振るい、綺麗に一回転。すると剣圧による衝撃波が先生に向かう光線たちを薙ぎ払っていく。
そして光線を斬り裂いても衝撃波は威力が弱まることはなく、そのままアリナ先輩を襲った。
でも、アリナ先輩はそれを見ても笑うだけ。
特に何もすることなく衝撃波を受けるも、何事もなかったかのように佇むだけ。それだけでアリナ先輩を守っている結界がいかに強固なものなのかを物語っているの。
先生の攻めはまだ終わらない。
一回転させた勢いのままに上から縦に一振り。さらに振りかざして横に一振り。もはや伝説として語り継がれているどんな魔女も四等分にして滅ぼしてきた、先生自慢の二撃必殺の十文字斬り。本気の先生の攻撃だ。先生もアリナ先輩のことを舐めていない。武器を使って本気で応戦しているの。
「『女王グマのウワサ』を一撃で倒した攻撃! アッハハハ!」
そんな先生の本気を前にしてもアリナ先輩は楽しそうに笑った。するとアリナ先輩と一体化しているイブの翼が動いて、アリナ先輩を守るように覆う。先生の放った衝撃波はイブの翼を砕くも、その先のアリナ先輩には傷ひとつもつけられていなかった。
だけど、イブの方が先生の攻撃に耐えられなかったらしいの。
翼からどんどん亀裂が入って行って、ただでさえボロボロだったイブの体がさらに崩れ落ちていく。
「フーン潮時、か。じゃあもう、イブに用はないヨネ」
「もう良いのかの?」
「イブの魔力は全部アブソーブしたカラ? もう本当に抜け殻なんだヨネ。こんなのでも壁にはなるケド? 重くて邪魔だし、こっちの方が動きやすいし……もっと百恵を堪能できるヨネ?」
アリナ先輩の体がイブから離れて地に足を着いた。イブとの融合を解除したの。その証拠に切り離されたイブの体の崩壊が止まらない。
「モッキュ、モッキュ!」
「む、なんじゃお主」
「モッキュ! キュー!」
「……ふむ、なんだかよくわからぬが……」
突然騒ぎ出した小さなキュゥべえを先生が帯を使って持ち上げる。そしてそのまま振り上げて。
「ずっと鬱陶しかったから行ってくるがよい!」
「モッキューーーーっ!!」
イブに向かってぶん投げたの。大砲に飛ばされたような勢いのまままっすぐにイブに向かっていく小さなキュゥべえ。アリナ先輩は全く興味を示さずガン無視。
阻むものがなくイブの元、皹が入った赤い宝石に小さなキュゥべえが触れた瞬間、小さなキュゥべえと崩壊していたイブの体が光り、それは虹色の光となって神浜中に拡散していった。……えっと?
「どーでもいいんですケド、今なにが起こったワケ?」
「知らん」
「あっそ」
そしてこの話題はこれで切り上げられてしまった。
なんかとても大切なことが起こった気がするけど……まぁ、いいの。今はこのふたりの勝負の方が重要だから。
文字通り、それぞれ肩の荷が下りたところで第二ラウンドが始まった。
イブとの融合を解いたことで身軽になったアリナ先輩は戦い方を一変。積極的に先生に近づいて力を奪う戦い方に切り替わった。
手を触れられただけで魔力を吸収される都合上接近を許すわけにはいかない先生は遠距離・中距離からの衝撃波で対応している。けれど、それだとアリナ先輩を覆う結界を傷つけることができず、アリナ先輩の動きを封じ込めることができないでいる。
そしてとうとう目の前に迫ったアリナ先輩に、巨大な剣を縦一文字に振るった。でもそれがなんのその。アリナ先輩はいとも容易く振り下ろしてきた刃を真剣白刃取りした。
「お主、イブから吸い取ったエネルギーを全て防御に充てておるなっ!?」
「その通りだヨネ! 今のアリナは今までの何倍も強い硬度の結界をクリエイトできる! ハーフウェイな攻撃じゃァ、アリナに届くことはないんだヨネェ!」
そして剣を左手で支えたまま……右腕を先生に伸ばす。この手が触れた先から先生の力が吸収される! 武器から手を放して、先生は後ろに跳躍した。アリナ先輩の右手がさっきまで先生がいた場所の空気を切る。
そしてしばらくすると、取り残された先生の武器が先生の元に引き寄せられるようにして戻っていく。いつの間にか柄の所に先生の着物の帯が結ばれていて、それに引っ張り出された大剣は本来あるべき場所である先生の右手に帰ってきた。
「お主は私を困らせるのが得意じゃなあ。参った参った」
攻撃が全然通らず、根本的に相性が悪い先生はやれやれとした様子だった。……だけど、なんでだろう。そう言っている割には余裕があった。困ってはいるんだろうけど……。
「生半可な攻撃では届かぬ、か。それならこれはどうかの?」
そう言って先生はアリナ先輩に斬りかかる。当然黙って斬られるわけもなく、アリナ先輩は先生の刃を受け止めた。
「ふむ、ダメか」
納得した表情を浮かべた先生はすぐにアリナ先輩から距離を取った。……剣を握りしめたままで。
「ならばこれはどうじゃ?」
全く同じように何かを試すように斬りかかる先生。それでもアリナ先輩は余裕で受け止める。
「ふむ、それではこれは?」
今度は距離を取らず、アリナ先輩の手から剣を引き剥がしたのと同時に斬り込む。
すると今度は今まで先生の刃を受け止め続けてきたアリナ先輩の方に異変が起きた。ほんの一歩だけれど……剣を受け止めたときにアリナ先輩の体が後ろに動いた。一歩後退ったの。
「……! そんな……まさか……!」
「ふむふむ、そうか。それでは……」
驚愕に染まるアリナ先輩とは対照的に、先生は納得した様子で剣を引き上げて……。
「これくらいかの?」
振り下ろした大剣が、受け止めたアリナ先輩の体に大きな衝撃を与えた。
今までは余裕で受け止められていたはずの攻撃が受け止めきれなくなっていてアリナ先輩は驚愕している。辛うじて両手で受け止められているけど、片膝ついてもう潰れるギリギリなの。さっきみたいに左手で支えて右手を出すなんて余裕はないみたいなの。
「百恵、アナタこの状況で……!」
余裕が完全に消えたアリナ先輩は控えていたキューブから光線を一気に放つ。至近距離からの光線の波を受けた先生はすぐに上に跳躍して回避、そしてそのままアリナ先輩と距離を取る。
立ち上がったアリナ先輩はさっきの攻撃が重かったのか、若干足が震えながら立ち上がる。両手の平もぱっくりと斬られて血を流している。
「やっと攻撃が届いたのう。なるほど、これくらいか。これで安心して仕置きができるというものよ」
「やっぱり……アナタ、この期に及んでまだ手加減していたワケ!?」
……先生から感じていた余裕の正体がようやくわかったの。
先生は武器を使い始めてからもなお、全力を出して戦ってはいなかったんだ。
アリナ先輩を殺さないように、それでいて勝てるように調節しながらずっと戦っていた。だから劣勢の時も慌てていなかったし、アリナ先輩に攻撃が届かなくても困るだけだった。
そして今、調整が完了したんだ。丁度良くアリナ先輩を倒せる程度の力に。
「ふざけないでほしいワケ百恵! アリナは全力のアナタを見たいワケ!」
「ふざけてなどおらん。私が全力を出したらうっかり殺してしまうかもしれないじゃろうが」
「構わないから全力を出せって言ってんの。アンダースタン?」
「断る。殺す気でかかる必要がない」
「だから――」
「しつこいのう――」
「アリナを殺せと言っているのが、わからないワケッ!?」
「お主を殺さんと言っているのが、わからんのかアッ!?」
ふたりの先輩が叫んだ。それだけで、アリナ先輩の周りには無数のキューブが出現して、先生の周りにはウワサを身に宿したことで後天的に習得した炎の魔法によって構成された無数の魔力弾が生み出される。
規格外の魔力の持ち主たちが感情が昂ってしまったばっかりに、無意識のうちに魔法を発動させてしまっているらしいの。
「アナタはまだ完成してない! 最後の仕上げが残っているワケ!」
「それがお主の命を取ることじゃと言うのか!」
「そう! 最高の状態のアナタがアリナの血に濡れることでようやくアナタは完成する! これ以上もないアリナのベストアートに!」
「お主は一体何を言っておるのじゃ!? 嫌に決まっているであろうが!」
「拒否する権利なんてないんですケド! アナタはアリナのアート! クリエイターの言うことを聞くのはとーぜんだヨネ!」
「仮に私がお主のアートとして、芸術家を殺すアートがあるか大バカ者が!」
「アナタがなるんだよぉぉおおおっ!」
「おっ断りじゃぁぁあああっ!」
……わたしの真下がとっても賑やかなの。
ふたりが声を張り上げる度に緑色と赤色が交差し、小さな花火が廃墟と化した参京区のど真ん中で打ち上げられる。
でもメインの戦闘は、先生からエネルギーを奪いにかかるアリナ先輩と、それを躱しながらカウンターを仕掛ける先生の接近戦。光線と魔力弾の撃ち合いは本人たちもきっと意図してやっていないの。
「この期に及んでなんでアリナを殺そうとしないか理解に苦しむワケ! もう間もなくしたらこの神浜にワルプルギスの夜の本体が来るのを忘れたワケ!?」
「きっちり覚えておるわ! おかげさまで一刻の猶予もない!」
「だったら手っ取り早くアリナを殺せばいいヨネ!? アナタを最高のアートにできてアリナはハッピー、アリナを倒してアナタもハッピー。win-winだと思わないのかなァッ!?」
「……今、なんと言った?」
多分だけど今まで聞いてきた中で一番静かで、冷え切った先生の声がわたしの耳に入った。
「お主を殺して私がハッピーじゃと?」
そのアリナ先輩の言葉を反復させて……先生の火山が噴火した。
「ふざけるでないぞッ! 私はのう、自分の命の恩人を殺して幸せになる趣味なんぞ持ち合わせておらぬわ!」
「は?」
アリナ先輩がポカンとした顔をして攻撃する手を止めた。
隙だらけになっているけど先生は踏み込もうとしない。というより、この隙を突こうという考えに至っていなかった。
「なるほどな、やちよたちが怒るのも尤もじゃ。確かに許せんなぁ、自分を助けた者が勝手に死のうとするのは。しかもあろうことか、助けた本人の手にかけさせようとするとはの!」
「は? 何を言っているワケ?」
なにが先生の琴線に触れたのか、アリナ先輩はわからないみたいなの。
「アリナは別に、アナタのことを助けようとしたわけじゃないんですケド?」
「お主にその気が無かったかもしれなくてもなぁ、正真正銘、私はお主に助けられた、お主のおかげでここに立つことができておるのじゃ! 生き永らえておるのじゃ! これは紛れもない、事実なのじゃよッ!」
これは先生の言う通りなの。
確かにアリナ先輩はアリナ先輩の思惑があったのかもしれないの。アリナ先輩の欲望のためだけに動いて、結果的に先生は助かったのかもしれない。でも、それでも……。
先生の命を助けたのは……他でもない、アリナ先輩なの。
「お主が『神浜最強のウワサ』を作らなければ、お主が裏で手を回さなければ私はもう死んでいた。私はのう、お主に感謝しているのじゃよ。心の底からっ、表裏なくなぁっ! それなのになんじゃ! さっきから私を完成させるやらなんやら訳の分からぬことを!」
先生は乱暴に武器を地面に突き刺してアリナ先輩に近づくと、肩を掴んでしゃがませて強引に目線を合わせた。
「お主を殺す程度で私が完成すると本気で思っておるのか! 私はなぁ、言っちゃあなんじゃがちっとも全力を出しておらぬぞ! 出さずともお主を殺すことなど簡単にできるからじゃ。そんな私に殺される程度のお主が死んだ程度で、私が完成すると思ったか! 思い上がるなッ! ひとりで勝手に満足して死のうとするでないわッ! 勝ち逃げなんて狡い真似は許さぬぞ!」
その言葉は、まるで過去の自分に言い聞かせているみたいだったの。
ひとりで勝手に自分の運命を決めつけて、全てを諦めてしまって助けを呼ぶことをしなかった、ほんの少し前までの自分に叱りつけているみたいだったの。
先生が『マギウス』の中で唯一、名前を呼び合うほどにアリナ先輩に心を許すことができたのは、もしかしたら先生とアリナ先輩がどこか似た者同士だったからかもしれないの。
「そうなの!」
気付けば、私は地上に降りていて、アリナ先輩に頭を下げていた。
「アリナ先輩、先生を……星奈百恵先生を助けてくれてありがとうなの!」
「……フールガール」
「わたし、ずっと先生を助けたかった。自分の魔法に蝕まれていく先生を助けたくて、でも方法がわからなくて、ずっとどうすることもできなかった。だから、先生を助けてくれて、わたしすっごく嬉しかったの! アリナ先輩が先生を助けてくれたって頭で理解してからずっと、ずっと、本当はお礼を言いたくて……」
あの時は余計なことを考えて、変な疑念をアリナ先輩に抱いていたから言えなかった。でも、今なら言えるの。
さっきも言ったけど、どんな理由や目的があったとはいえ、アリナ先輩が先生を助けたことには変わらないんだから。わたしは本当に良い先輩たちに恵まれているなって、そう思っているんだから!
「私が全力を出さねばならん相手が……間もなくこの神浜に来る」
空を覆うワルプルギスの夜の使い魔たちをちらりと見た先生が、なんかわたしから目を背けているアリナ先輩に真剣な声色で話しかける。
「なぁ、アリナ。どうじゃ? 見たくないか? 全力で戦っている私を、その目に焼き付けたいと思わぬか?」
「…………」
「私はお主の作品なのじゃろう? まだまだ成長の余地があるぞ、将来有望じゃぞ、完成には程遠いぞ? 私が死に衰えていく様をずっと描き続けてくれるほどお主は私に夢中じゃったではないか。もう私に飽きてしまったのかの?」
「…………」
「もう、やめにしよう。これ以上私たちが争っても不毛じゃ。来い、アリナ。私は礼がしたいのじゃ。素晴らしい景色を見せると約束する」
「…………」
「死ぬな、生きろ。生きて私を描き続けておくれ。好きなのじゃ、お主の絵のモデルになるのは」
「……ハァ」
溜息を小さく吐いたアリナ先輩の姿が一瞬光ると、元の警察官のような魔法少女の姿に戻った。
「……しょうもないカットを一枚でも出したら許さないカラ」
「うむ、約束じゃ!」
……よかった。
「よかったのぉお……ふたりとも、もう戦わないよね?」
「うむ、仲直りじゃ! のう、恩人!」
「……暑苦しいから離れてほしいんですケド」
「照れ屋さんじゃのう!」
カラカラと笑う先生。だけど、笑っているのは先生だけじゃなかった。
――アハハハハハハッ……!
身の毛もよだつほどの
「……とうとう来よったか」
それを聞いて、先生はさっきとは別の笑みを浮かべた。
「かりん、私はちと疲れた。じゃから案内を任されてくれぬか?」
「アリナも疲れたカラ、ヨロシク」
こんな時でも、どっちの先輩も変わらないの。
「うん、しっかり掴まっていてほしいの」
だからわたしも、そんな先輩たちを送り届けるの。
決戦の地……ワルプルギスの夜が迫る戦場に。
一難去ってまた一難。
最後の戦いの火蓋が切られようとしていた。