マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート   作:スパークリング

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Side.七海やちよ 神浜最強

 神浜市南凪(みなぎ)区の海浜公園。

 沿岸部にある大きな公園は津波によってそのほとんどが浸水し、そこから離れたところにある建物も古いものから吹き飛ばされ、残骸が他の建物やモノを巻き込んでさらに被害が広がっていく。

 

 ――アハハハハハハッ……!

 

 魔法少女である私の耳にはしっかりと聞こえた、この大災害を引き起こしている元凶の声。この世の全てを嘲るような、それでいてなにかを嘆いているかのように嗤い続けるソイツは巨大な人形だった。

 機械仕掛けのおもちゃのように足元が歯車になっているサカサマの状態で神浜に上陸しようとしている負の塊……それが伝説の魔女『ワルプルギスの夜』だった。

 

 私たち神浜の魔法少女たちはこの海浜公園でワルプルギスとの防衛戦を繰り広げていた。

 まだ本体が上陸していないにも関わらずにこの被害。完全に上陸してしまったら聞いていた伝説の通り、神浜の全てを滅ぼしてしまうでしょう。そんなことは絶対にさせない。

 全く以って遺憾なのだけれど、ワルプルギスを呼び寄せたのは私たち神浜の魔法少女。だから絶対に私たちがこの状況をなんとかしないといけない。これ以上被害を増やすわけにはいかない。なんとしてでも上陸する前に撃退、或いは討伐する。

 

「やちよさん……あの歯車……!」

「うん……あの歯車が本体みたいだよ」

 

 志伸あきらさんと葉月さんのおかげでワルプルギスの弱点も分かった。まさかあの歯車が本体だったとはね。

 

「今までは本当に申し訳ございませんでした!」

「ウチらもしっかり働くからね!」

「ええ……迷惑をかけた分、きっちり埋め合わせをさせてもらうわよ!」

 

 しかも幸いなことにヘリポートの決戦は既に終わっていて、洗脳が解けた天音姉妹と巴マミさん、羽根たちも防衛戦に参加してくれている。

 チームプレーを重視して羽根たちを動かしていた百恵のおかげで、羽根たちはすぐに白羽根ひとりをリーダーとしたチームをそれぞれ組んでワルプルギスの使い魔たちの掃討に動き始め、腕利きの魔法少女たちがワルプルギスだけに集中できるために動いてくれている……のだけれど。

 

「おっかしいなぁ……あたし結構攻撃には自信があったんだけどなぁ……!」

「嘘でしょう……ティロ・フィナーレが全然効いていないなんて!」

 

 百恵の魔法を使って大幅に強化されている帆奈と、高火力な大魔法が自慢の巴マミさんの攻撃がまるで効いていない。私を含め、他の魔法少女たちもそれぞれ最も強い攻撃を浴びせているのにもかかわらずビクともしていない。というか攻撃がそもそもワルプルギスに届いてすらいない。見えない障壁か何かに阻まれてしまって言葉通り傷ひとつ付けることができないでいる。

 みんなそれぞれの大魔法を発動し続けていたせいで消耗が激しい。中には弱ったところを狙ってきた使い魔たちにやられて倒れてしまっている子までいる。

 

「やちよさん、大丈夫ですか」

「ええ、ありがとう、いろは」

 

 私はなんとかいろはの回復魔法のおかげでまだ戦えてはいるけど、いろはもいろはで消耗しているから大魔法を発動できるのもあと一回が限度。でもいまだにワルプルギスを攻略する手がない。

 いったい、どうすれば……そう思っていた時だった。

 

「待たせてすまなかったのう。助太刀に参ったぞ」

 

 私の目の前に希望が降り立ってきたのは。

 

「百恵さん!」

「百恵! やっと来てくれたのね……!」

「うむ、もう大丈夫じゃ。……奴さんはまだ完全には上陸してはおらんようじゃのう」

 

 相手はある伝説の大魔女であるというのに、百恵はそいつを見ても特に動じることはなかった。その小さな背中は見た目以上に大きく感じ、華奢なはずなのに不思議な安心感があった。

 

「やちよ、今すぐすべての魔法少女を呼び戻せ」

「え?」

「前に出ている者を全員戻すのじゃ。――代わりに私が、ひとりで前に出よう」

 

 その安心感を吹き飛ばすとんでもない提案をしてきた。

 

「そんな……あなたひとりでワルプルギスの夜に挑むって言うの!?」

 

 いくらなんでもそれは危険すぎる。

 ウワサとの融合で全盛期以上の力を取り戻しているとはいえ、ワルプルギスだけじゃなく無数の使い魔も暴れまわっているあの魔境にたったひとりで飛び込むのは無謀だ。腕利きの魔法少女たちが複数人でかかってギリギリで食い止めているというのに。

 

「そうじゃ。これは自惚れとかじゃなくてな、本当に今の私は絶好調なのじゃよ。じゃから前線は私に任せてほしい」

「でも……!」

「それに、な。巻き込んでしまうかもしれんからの」

「巻き込む?」

「うむ。今回ばかりは久しぶりに全力(・・)でかからねばならん相手じゃからのう。周りを気にしている余裕がなさそうなのじゃ」

「!」

 

 百恵の全力。

 今の今まで全ての戦いで手を抜いていた百恵がそのリミッターを外すと言っている。手加減していても弱体化していてもなお圧倒的な力を誇っていた百恵の全力。……確かにそれじゃあ、百恵の周りで群がっていても百恵の邪魔にしかなさそうね。

 だけどそれでもリスクが高すぎる。百恵は絶対強者であっても絶対無敵じゃない。全力を出したとしてもワルプルギスに勝てる保証はどこにもない。もしここで百恵を失うことになったとしたら。そう考えるだけでもう絶望しかない。

 

「なーに、安心せい。できんことは言わん。必ずや、突破口を開いてチャンスを作る。そしてお主たちがとどめを刺すのじゃ」

「百恵……」

「私を信じろ」

 

 ウワサとの融合が影響したのか、八重歯になった歯を見せてにっと百恵が笑う。それは今まで頻繁に見せていたなにかに諦めたような笑顔とは程遠い、やる気満々で勝気なものだった。

 

「私は……信じます!」

 

 それに充てられたのか、私よりも先にいろはが答えた。百恵とまともに会話した数も少ないはずのいろはが。

 

「百恵さんが凄い人だってことは、いろんな人から聞いています。やちよさんも鶴乃ちゃんもフェリシアちゃんも、百恵さんと関わりがあんまりないさなちゃんも、それ以外の凄い魔法少女たちもみんな口を揃えて言うんです。百恵さんは最強の魔法少女だって!」

「ふむ……」

「ですから私は信じます! こんなにみんなから信頼されている百恵さんなら、必ずチャンスを作ってくれるって!」

 

 ……まったく。本当にいろはは凄い子ね。私が言おうとしたセリフを全部言われてしまったわ。

 

「今すぐ、全ての魔法少女をここに集めるわ。後方支援は任せてちょうだい」

「……ありがとうな、やちよ」

「これくらいなんてことないわ」

 

 これからワルプルギスに単身で突っ込むあなたに比べたら、ね。

 私はすぐにみふゆや十七夜、ななかにこのはといったリーダー格の魔法少女たちに念話を送り、そこからすべての魔法少女に対して戦闘を中止して撤退し集合するように伝達する。すると全員すぐに私の指示に従って周りで戦っていた魔法少女たちを集め、海浜公園に降り立った。

 

「ふぅ、やはり百恵さんが来たんですね」

「待っていました、百恵先生」

「モモちゃん、あそこに行く前に調整するわよぉ。そこに横になって楽になって頂戴♪」

 

 神浜の最高戦力というのは存在するだけであらゆる戦場を覆す。それはたとえ、ワルプルギスの夜との決戦の場であっても変わらない。百恵が来た以上このままの戦闘を続行するよりも一回退却して、百恵を軸にして戦略を練り直す方が得策だもの。数多くの修羅場を乗り越えて、立場が違えど必死にこの神浜を守り続けていた私の仲間たちだから、私が退却の指示を出しただけで百恵が来たことを察して素直に従ってくれたんでしょう。

 そして最終チェックが終わったかりんと、見回り中ずっとかりんを結界で守り続けていたアリナ・グレイが戻ってきて、白羽根黒羽根を含めたすべての神浜の魔法少女たちが集結した。

 

 作戦はとてもシンプル。

 神浜最強の魔法少女、星奈百恵がワルプルギスを守るバリアを破壊して突破口を作り、残った私たちがワルプルギスの本体を一斉攻撃する。

 味方を強化させられる魔法を使える魔法少女たちは全員百恵に対して魔法を使い、ワルプルギスの動きを制限できる魔法少女たちが百恵のフォローを、それ以外の子たちは私といろはに魔力を提供してもらう。幸いにもエネルギーの回収にはいろはの妹さんのういさんが、エネルギーの変換には里見さんといううってつけの魔法少女がいる。

 

「でもそれって……星奈さんが一番危険なんじゃ……」

 

 巴さんが言う通り、この作戦の成功は百恵にすべて委ねられている。そして一番負担が多いのもまた、百恵だ。

 

「巴さんの話は尤もですが、かといって我々が付き添うわけにもいきません」

「そうね……正直に言って、足手纏いにしかならなさそうだわ」

「付き添いの自分たちの身を案じさせてしまうくらいなら、ついて行かない方が星奈にとっても楽だろう」

「でも本当にひとりで大丈夫なの?」

「神浜の最高戦力をこんな無茶な作戦で失う方が痛いんじゃ……?」

 

 神浜のベテラン魔法少女たちが賛成して、百恵の力を知らない見滝原の魔法少女や新参の魔法少女たちが消極的になっているわね。まぁ想像した通りだし、私が出る必要はないでしょう。ねえ、百恵?

 

「いいや、作戦の変更はない。この方法でワルプルギスを倒す」

 

 みたまの最終調整が終わった百恵が良く通る声で言い放った。自然と全員百恵を注目するような形になる。

 

「え、え? あれが……星奈百恵さん? 神浜最強の?」

「えっと……」

「……んまぁ、そんなリアクションになるわな」

 

 美樹さんと巴さんは知らなかったらしく困惑し、佐倉さんが苦笑していた。

 

「さて、手短に話そうか。心配かけてすまなかったのう、じゃがもう大丈夫じゃ。みんなのおかげで私はこうして戦場に立てておる。じゃからのう、恩返しをしたいのじゃ。この事態を招いてしまった原因は私にあるからのう。私の蒔いた種じゃ、私が摘み取るのが筋じゃと思う。……じゃがのう、私ひとりじゃあ無理じゃ。私ひとりではワルプルギスの夜は倒せん。みんなの協力が必要不可欠なのじゃ。じゃから……どうか、私を信じて、力を貸してはくれぬかの?」

 

 頭を下げる百恵を見てざわついた。あまり他人を頼ろうとせずにひとりで背負い込みがちだった百恵が今、私たちを頼ってきているのだから。正直、凄い成長だと思うわ。プライドが高いあの百恵が、こうしてみんなに頭を下げて助けを求めるなんて。

 

「あの……星奈百恵さん」

「なにかの?」

「その、本当にできるんでしょうか。本当に、この作戦でワルプルギスの夜を倒せるんでしょうか?」

 

 ……これは驚いたわね。

 見滝原組の中で一番おとなしそうだと思っていた暁美さんが、百恵のところまで来てそんな質問をするなんて。しかもどこか雰囲気が違う。言い方はおかしいけど他の誰よりも真剣で、本気でこの作戦が成功するのかどうかを問いただしている気がする。少しでも納得しなければ自分ひとりでもワルプルギスに突っ込んでいってしまいそうな……少し前までの百恵と同じような危うさを感じる。

 百恵もそれを感じ取ったのか、暁美さんの目を離さずに数秒見つめ合った後……にかっと笑った。

 

「当たり前であろう? 私は強いのじゃ」

 

 その言葉は、私と初めて会った時のものと全く同じ言葉だった。

 短く単純ながらも力強く、自信に溢れたこのセリフ。他の人が言ったならバカバカしいと、自惚れているんじゃないかと一蹴出来たでしょう。でも百恵は違う。

 誰がどう見ても分かる確かな実績と経験からくる説得力がこの言葉を強くする。そして不思議と安心してしまう。百恵に任せれば上手く行くと、そう思わせられて自然と受け入れてしまう最強の答えだった。

 

「……わかりました、信じます。……必ず、必ずワルプルギスの夜を倒しましょう」

「うむ! 私に任せるがよい!」

 

 そんな答えが返ってきて面食らった暁美さんは瞳を大きく揺らすも、すぐに結論が出たらしく百恵を信じる道を選んでくれた。

 暁美ほむらさん、なんだか不思議な子だった。でも面白くて強い子ね。百恵に対してあんなにストレートに真っ向から意見を言える子もなかなかいないわよ。

 

 百恵と暁美さんとのこのやり取りのおかげで作戦に対する異論はなくなった。神浜にいる全ての魔法少女たちが今、ひとつになった。

 

「百恵……信じるわよ! 必ず大魔法を完成させる! だから……頼んだわよ、百恵!」

「私もじゃよ、やちよ。必ず突破口を開く。じゃから……倒すぞ、ワルプルギスの夜を」

 

 こつんと軽くフィストバンプをして私は後ろに、百恵は前に進む。

 

「さて……まさか、こいつの本来の姿を見せる日が来るとはの」

 

 武器である巨大な剣を出して軽く撫でると……黒銀色と白銀色の龍たちがそれぞれ鈍く光り、割れた剣先から二つに分かれてそれぞれ百恵の両手に収まる大双剣に変化した。……百恵の本当の武器って双剣だったのね。武器すらも手加減していたとか……本当に参っちゃうわ。でもこれが本当に百恵の奥の手なのでしょう。

 

「む?」

 

 さらに百恵の背中から炎の翼が生えていき、腰を縛っている帯がひとりでにうねうねと動いて炎に包まれた。神浜最強のウワサの力だった。百恵の様子からしてウワサが自らの意思で勝手に操作しているようだった。

 

「そうか、お主も手伝ってくれるのじゃな。じゃあ……行くか」

 

 柔らかく微笑んだ百恵が少し跳躍すると炎の翼が羽搏いて熱風と共に百恵は空へ飛び立ち、手当たり次第に使い魔たちを両断していく。

 豪快な衝撃波で使い魔たちを一掃していた大剣とは違い、軽やかな身のこなしとスピードで直接敵を斬り裂いていく双剣を操る百恵は向かうところ敵なしの無双状態だった。両手が塞がっているから防御に適してはいないものの使い魔たちは百恵のスピードについていけていないし、背後を狙おうにも神浜最強のウワサが操る炎の帯によって撃墜される。ワルプルギスも百恵の異常さに気が付いて攻撃しているみたいだけど、百恵には当たることなく代わりに自分の使い魔たちを消滅させるだけ。空での戦いは完全に百恵が掌握していた。

 

 一方、地上で戦う私たちも決して穏やかじゃない。

 私といろはは最後の大魔法を発動させるための準備に追われているし、戦闘可能な魔法少女たちは私たちの護衛を、拘束魔法の使い手たちはワルプルギスの対応を、力を強める魔法の使い手たちはそれだけに集中していて、里見さんもういさんもエネルギーを集めて変換するので手一杯。このどれかが瓦解しただけでこの作戦は失敗する。

 ワルプルギスは百恵を狙っている上に数多くの拘束魔法のせいで若干動きが鈍くなっているけど、無数に飛び交う使い魔たちはそうもいかない。一匹の使い魔のせいで私たちの作戦が水泡に帰す可能性がある以上、こちらも油断することができない極限状態の中にいる。

 

「あーっ、もう面倒くさ! 鬱陶しいんだヨネ! さっきから!」

 

 その戦場の中でひときわ面倒くさそうな声を上げる魔法少女がいた。みんなが戦っている中我関せず、どこから取り出したかわからない椅子に座って空を見上げながら何かを描き続けていた緑髪の魔法少女、アリナ・グレイだった。

 アメリカンポリスみたいな衣装から一転して聖女のような姿になったアリナがバチンと指を鳴らすと、彼女の中心から発生した結界が徐々に膨らんでいって使い魔たちを消滅させていく。やがて大きな緑色の結界が海浜公園全体を包み込み、殺伐としていた地上は平和そのものになった。使い魔たちはこの結界を破るのはおろか、触れた瞬間に結界に魔力を吸収されて消滅してしまうので近づくことすらできないでいる。

 

「じゃ、さっさと終わりにしてヨネ」

「もう! アリナったらそんなことができるなら最初からやってよ!」

「は? なんでベリービジーなアリナがこんな雑魚の相手をしないといけないワケ?」

「絵を描いているだけでしょー!? もう! 本当にいざというときにしか動かないんだから!」

 

 ……この里見さんのお小言には私も同意するわ。

 まあでもおかげでこっちはサポートに全力を費やせる。戦闘組もエネルギーを提供してくれるようになったから回収効率も良くなる。後は私たちが大魔法を完成させるだけ。

 

 大魔法のベースとなるのはいろはの魔法だ。私よりも一点集中な上に武器がクロスボウなおかげで飛距離もある。上空にいるワルプルギスにも届く。威力が心許ないのが難点だけれど、それを補うために私たちがいる。

 

「これで全部! 回収終わったよ!」

「うん! これをわたくしが変換して……完了! お姉さま、受け取って!」

「ありがとう、うい! 灯花ちゃん!」

 

 里見さんが変換しきったエネルギーが私といろはの体を包み……そしてそれを私が纏め上げる! ワルプルギスとの戦いの中で分かった私の本当の魔法……『引き継ぐ魔法』で!

 神浜にいるすべての魔法少女からういさんへ、里見さんへと引き継ぎ、そして私たちのところまで来たみんなの魔力! そしてそれに……かつての戦友たちであるかなえとメルの力もすべて込める! 百恵に負けていられない。こっちも全力全開、本気の中の本気の一撃をこしらえてやったわよ……! そしてそれを、今度はいろはに引き継いでもらう!

 右腕を伸ばして構えるいろはのクロスボウに巨大な矢が出来上がっていき……形が整うとこれまで以上の輝きと共に暖かな温度と色を解き放ち始めた! 完成した。絶望を振りまく魔女の象徴であるワルプルギスを滅ぼすことができる銀の弾丸(シルバーバレット)を!

 

(百恵! 行けるわ!)

(! 承知した! では……終わりにしようぞッ!)

(ええ……終わりにしましょうッ!)

 

 この悪夢を!

 

 ワルプルギスの攻撃を避けながら使い魔ばかりを斬り裂いていた百恵は合図を受けると真正面からワルプルギスに相対した。その手に持つ二つの剣は赤く輝いている。

 

「お主は結界を持たない魔女じゃったの。悲しいことじゃ。魔女にとっての結界は自分の傷を癒すことができる唯一の場所じゃというのにお主にはそれがない。じゃからお主は世界中を回っているのじゃろうな、自分の傷を癒せる場所を見つけるために。……じゃがのう、残念じゃがそんな楽園はこの世のどこにもないのじゃ。……終わりにしよう。この無力で苦しい永遠に続くループから解き放ってやる」

 

 赤く発光している双剣を再びくっつけていつもの大剣の姿に戻すと、刃のない中心部分から爆発的な赤いエネルギーが沸き上がっていき、それは大剣そのものを包み込んだ。

 

「最初で最後、私の全力にして最強の奥義をその身で受けてみよッ! 双蓮双龍波(そうれんそうりゅうは)ァッ!」

 

 真横に一薙ぎ、流れるように上段に持っていきながらの縦に一振り。それは私たちのよく知る百恵の必殺技だった。どんな魔女であっても四等分にしてきた基本にして最強の技。それは……ワルプルギスに対しても絶大な効力を齎した。

 なにかが壊れたような大きな音が響いたと同時に、ワルプルギスの本体に縦に伸びる真っ赤な衝撃波が直撃する。最初の一薙ぎでワルプルギスのバリアを破って、次の一太刀でワルプルギス本体にダメージを与えたのね……!

 でもそこはやっぱり伝説の魔女。百恵の奥義をもってしても決定打にはなりえない。だからこそ、私たちがいる。神浜の魔法少女の底力を思い知りなさい!

 

「環さん! 七海さん! 今です!」

 

 私たちのそれぞれの肩に手を置いた暁美さんが『時間停止』の魔法を発動した。これでこの停止した世界で動けるのは暁美さんと私、そしていろはの三人だけ。神浜最強の魔法少女である百恵も、最悪の魔女であるワルプルギスの夜ですら、この魔法の前では無力。

 

「行くわよいろは!」

「はい、行きます! ストラーダ……フトゥーロッ!」

 

 七色に輝く一本の矢がまっすぐにワルプルギスの真上に向かい弾けると、そこからはまるでシャワーのように色とりどりの光の雨が降り注ぎ、ワルプルギスの体を包み込んでいく。

 百恵の二段攻撃によってバリアを破壊され、深刻なダメージを受け、そして隙だらけになったところで放たれたシルバーバレットを受けたワルプルギスは光があたった箇所から崩壊が始まり……終わったころにはその姿が綺麗さっぱり消失した。

 

 いくつもの文明を破壊しつくしてきた最悪最凶の魔女、ワルプルギスの夜が滅んだ。それを祝福するかのように厚い雲の間から日が差し、雲が晴れ、綺麗な青空が神浜を照らす。今までの攻撃の余波のせいか、神浜中に散らばっていた使い魔たちも消え去り、さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返っている。

 

「……終わったのう」

 

 そしていつの間にか、隣に立っていた私の親友が穏やかに笑う。それと同時に、別の喧騒が海浜公園内に響き渡った。現実への理解が追い付いたのでしょう。みんなそれぞれ喜びを分かち合っている。

 

「ええ、終わったわ。……でも、まだ続くわよ」

「……そうじゃなぁ」

 

 全ての戦いは終わった。けれど、これは新たな日常への始まりでもある。

 これからも休むことがない激動の日々を送ることでしょう。今回の事件の事後処理もしないといけないし、私たち魔法少女が抱える問題を解決する術も模索しないといけない。新しい困難がきっと待ち構えていることでしょう。

 でもきっと大丈夫。

 

「まぁ、大丈夫じゃろうて」

「ええ……そうね」

 

 綺麗な青空の下ではしゃぎまわっている神浜の魔法少女たちを見て、百恵は愛おしそうに笑う。

 今回の事件で、百恵が抱えている闇を知った。そしてどれだけ私たちを想ってくれていたのかも知った。きっと……いや、間違いなく百恵は今までのように振舞うことはできなくなるでしょう。でも、逆に今までできなかったことができるようになったでしょう。だって百恵は過去のしがらみから抜けて、老化という呪いからも解き放たれて完全復活を果たしたのだから。そしてそんな神浜最強の魔法少女である彼女も大丈夫と言ったのよ。だから大丈夫に決まっている。

 

 ……さて。

 

「ねぇ、百恵」

「む? なんじゃ?」

 

 ふふっ、この百恵のリアクションもあの時と変わらないわね。癖で意図せずやっているのか、はたまた狙ってやっているのかはわからないけど……この後の返事は、あの時と同じままかしら?

 ずっと断られ続けちゃっているけど、もう状況が随分と変化しているし、そろそろ色よい返事を期待してもいいんじゃないかしら?

 

「私とチームを組まない?」

 

 その提案に百恵は目をぱちくりとさせて……薄く笑った。

 

 私たちはずっと一緒に歩み続けていくでしょう。

 私たちが愛したこの神浜で。

 

 

 

 

 




……はい、というわけでですね。

以上を持ちまして『マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート』は完結いたしました。
プロットはすでに出来上がっていたにもかかわらずキャラが勝手に動き回るせいで修正修正を繰り返してしかも仕事が忙しくて筆が乗らずに完走まで一年半もかけてしまいましたが、無事に書ききることができて良かったです。

後日、本作を作成した経緯や星奈百恵というキャラクターをどのようにデザインしたのか、本編で語られなかった裏話やカットした没ネタなんかを纏めたものを掲載します。
皆さんからの本作に対する質問にもお答えしていこうと思いますので、もしよろしければ感想かメッセージで送ってきてください。

はい、ということで今回はこれまで!
ここまでのご愛読と応援、本当にありがとうございました! 厚く、御礼申し上げます!
次回作、または番外編でお会いしましょう!
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