マギレコRTA ワルプルギス撃破ルート脳筋傭兵チャート   作:スパークリング

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Side.七海やちよ 魔法少女の真実

 今日は、私の人生最悪の日だ。

 

 昨日、中央の都ひなのからある要請を受けた。

 大東区から流れてきた魔女を倒してほしい。そんな要請を。

 

 その魔女は今日に至るまで東の魔法少女たちは勿論のこと、中央の魔法少女たちも対応した。

 比較的新しいチームから中堅クラスのチームまで、数多くの魔法少女たちがその魔女に挑んだ。だけど誰ひとり、どのチームもその魔女を倒しきることができなかった。

 それが意味しているのは、この魔女が相当の力を蓄えた大魔女だということだった。

 

 数ある神浜の魔法少女のチームを撃退してきたその魔女は大東区から工匠区、中央区、そして水名区と神浜を横断し、遂に最果ての新西区まで流れついてしまった。

 だから西の統括である私のチームに緊急要請が来た、ということである。

 

 この新西区で狩らなかった場合、魔女は神浜を出てしまう。

 そうなってしまってはその魔女によってさまざまな人が呪われる可能性が高く、しかも私たちが手を出すことができなくなる。

 

 神浜で生まれ出た魔女は神浜の魔法少女が倒す。

 私を含め縄張り意識の強い魔法少女たちにとって、これは矜持であり意地でもあった。

 

 だからこそ、私たちが動く。

 西のまとめ役であり最後の砦でもある私が率いるチームが、その大魔女を倒す必要があった。

 

 そして今朝、そんな重要案件に頭を悩ませつつ、みかづき荘の帳簿とにらめっこをしていた。

 ももこと鶴乃はうるさいわ、みふゆは役に立たないわでいつまでたっても家計簿が進まずに頭を抱えていると……。

 

「七海先輩! 今日のボクは冴えてるですよ!」

 

 またやかましいの(安名メル)が来た。

 しかも禁止していた占いまでやっているし……。

 

 メルの占いは占った結果の未来になるように誘導する能力を持っている。

 今回は偶然ラッキーデイを引き当てたようだけれど……心臓に悪いからやめてほしいというのが本音だった。

 

 でもメルは魔法少女になる理由になるほどの占い好きだったし、禁止と言ったのはむやみやたらに占いまくってとんでもないことにならないようにするためであり、たまにやる程度なら仕方ないと思っていた。むしろ今日まで我慢できたのだから、褒めてあげるべきでしょう。

 まぁ、どんな未来になるかは見させないけどね。

 

 とはいえ、東から流れてきた大魔女の討伐、レシートやらなんやらと照らし合わせても計算が合わない家計簿、そして禁止していたメルの占いと、立て続けに良くない出来事が重なったことで今の私は少し憂鬱だった。

 

 家を出て学校に向かうもその足取りは重い。

 帰ったらすぐに大魔女を討伐して、また家計簿とにらめっこする作業に戻らなければならない。

 せめてどちらかでもなんとかできたら……ふと頭にそんなことを浮かべてしまうほど、今の私の機嫌は優れていなかった。

 

 家計簿は私以外にできないから、魔女の討伐は誰か代わりにやってくれないだろうか。でもさすがに他のチームのみんなだけを向かわせるわけにもいかないし……。

 

 誰か、頼りになる強力な魔法少女がいないだろうかと考えていると……。

 

「おはようなのじゃ!……む。どうしたのじゃお主よ、難しい顔をして」

 

 挨拶されてようやく、適任者がいることに気が付いた。

 

 そうだ。彼女がいた。

 私の親友であり切り札でもある神浜最強の傭兵、星奈百恵が。

 こんなに身近にいる神浜最強の存在に今の今まで気が付かないほど、私は疲れていたらしい。

 

 百恵に任せておけば大丈夫だと断言できる。

 いくら力を付けた大魔女であろうと、魔法少女歴五年と私に次ぐ長い時を生きた魔法少女としての経験と、持ち前のその破壊力でこれまで何十……いや、何百という魔女を屠ってきた彼女ならば、単騎で勝利することができるでしょう。

 

「おはよう、百恵」

「うむ、おはようなのじゃ」

「ねぇ、あなた放課後用事あるかしら?」

 

 挨拶をしてすぐに、食い気味に私は百恵に今日の予定を聞いた。

 ……だけど。

 

「すまぬが……今日は無理じゃ。そろそろ本格的に勉強しなくてはならなくての」

 

 申し訳なさそうな顔で百恵は断ってきた。……そう、よね。

 

 こうなるのは覚悟していたことだった。百恵だって、多忙な身だもの。

 傭兵として多くの魔法少女たちを助け、グリーフシードをストックするために魔女を狩り、それでいて大学に行くための勉強もする。

 奇しくもそのルーティンは私と同じだった。だから、わかる。

 

「そう……わかったわ。いえ、なんでもないのよ」

 

 笑顔を作って私は百恵に返事をした。

 ……大丈夫。

 

 だって、メルの占いの結果は『今日はラッキーデイ』。

 メルの占いの力は本物だもの。だからきっと大丈夫。

 

 私は自分を奮い立たせた。

 

 

 

 

 

 迎えた放課後、私たちチームみかづき荘は、東から流れてきた魔女の討伐に向かった。

 でも鶴乃は途中で用事があるのを思い出して慌て始めた。

 話を聞くとどうしても外せない用事らしく帰らせた。そんな用事を普通に忘れてしまう辺りがなんとも鶴乃らしかった。

 

 鶴乃を帰らせて暫くして……河川敷で、その魔女を見つけた。

 

 その魔女は神浜では見慣れた魔女……砂場の魔女だった。

 全ての距離の攻撃に優れた、万能型の魔女だ。

 そして……今回はそれの上位個体。相当の数の人間を犠牲にして手に入れたであろう、その魔力は重く、禍々しく、魔女の全長も通常の二倍はあるでしょう。かなりの大物だった。

 

 東、中央と魔法少女たちと戦い続けてここまで来ただけあって、魔女も消耗しているみたいだけど、まだまだ余力があるのでしょう。

 周りで群がっている大量の使い魔たちを見ればわかる。

 

「ここは、私が囮になるわ」

 

 もしかしたらいつも二振りで魔女を沈めていた百恵でさえ、それ以上斬りこまないと勝てないかもしれないほどまで成長した魔女。そして消耗したメルを見て、正攻法では絶対に勝てないと私は見切りをつけた。

 スピードとテクニックに自信がある私が注意を引き付けている間に、幻覚で相手を惑わすみふゆが隙を作り、私とももこが大技を繰り出して魔女を倒す作戦に切り替える。

 

 みふゆが心配してくるけど大丈夫。経験年数だけなら私は最強の傭兵である百恵以上なのだ。

 何回もこのタイプの魔女と戦っているから、攻撃パターンもしっかり抑えている。引き付けるだけならば私ひとりで充分、自信を持って言えた。

 でも、それは私の驕りだった。

 

「!? しまった!」

 

 いつも通りの安全圏に着地しようとしたところで……狙っていたかのように使い魔たちが襲い掛かってきた。

 そうだった。この魔女は伊達に東から西にやってきたわけではなかった。

 これだけ成長できたということは……この魔女もまた、多くの戦闘経験を積んできたということ。魔女だって生物なのだ。学習能力がないはずがない……。

 

 使い魔たちの奇襲に面食らいながらもなんとか流しきることはできた……けど。

 気が付いた時にはもう遅かった。

 目の前には巨大な魔女の拳が迫ってきていたのだから。

 

「七海先輩!!」

 

 しかしその拳が私に直撃しようとしていた刹那、背中に小さな衝撃を感じると私の身体は前に投げ出されていた。

 そして振り返るとそこには……安心したような表情を浮かべるメルが、魔女の一撃を食らっていた。

 

「――メル!!!」

 

 頭の中が真っ白になった。メルが……メルが魔女の拳の下敷きに!

 すぐに助け出そうと体を動かそうとするもあまりのショックからか、情けなくも腰を抜かしてしまっているらしく動けない。

 

 すぐに異変に気が付いたみふゆとももこの一撃を受け、怯んだ魔女は分が悪いと判断したのか、言葉にならない悲鳴を上げつつ逃げていった。

 

 結界は消え、元の河川敷に戻る。

 行動し始めたのは夕方だったはずなのに、もう辺りはすっかり真っ暗闇に包まれている。

 

「……メル? メル!」

 

 ようやく体を動かせるようになった私はメルの元に向かう。

 力なく倒れているメルの身体は傷だらけで……

 

「メル……あなた……ソウルジェムが……」

 

 ソウルジェムがどす黒く濁り切ってしまっていた。

 ソウルジェムが魔法少女の魂そのものであることは、以前の仲間である雪野かなえの一件ですでに判明している。

 そのソウルジェムがこんなに濁り切るということは……もう満足に体を動かすこともできないし、回復することすらままならない。

 そして、そんな状態のソウルジェムを浄化するアイテムであるグリーフシードは、今現在誰の手の中にもなかった。

 今からでも魔女を探して狩ってこようと私の手を、メルは掴んだ。

 

「メル、離して……。すぐにグリーフシードを……」

「ううん……。もうだめボク分かるから……」

 

 どんどんね、冷えてく……感じが……す……るです。

 力なく、途切れ途切れにしゃべる彼女を見て……私も確信してしまった。

 メルの目はもう焦点が合っていない。辛うじて私は見えているのでしょうけど、もう死期が近づいてきている。そう思ってしまった。

 なにが……!

 

「なにがラッキーデイよ……。最悪じゃない……」

 

 もし鶴乃がいて五人体制だったら、もし百恵に予定が入っていなくてフリーだったら、もしグリーフシードのストックがあったら。

 今更ながらそんな、あったかもしれない未来の可能性を思い浮かべてしまって、悔しくて、私はそんな言葉を零す。

 でも……。

 

「…………ぃです………………です」

 

 メルは幸せそうな、満面の笑顔で何かを呟く。

 

「なに言ってるの……!」

「ぐっ、ううぅ!!

「メル!」

 

 それからは……私は、私たちはただ見ていることしかできなかった。

 呆然と、なにもできず、ただただ見ているだけ。

 そして……すべてが終わった。

 

「な、んだよこれ……」

 

 ももこのその言葉は、私と……多分みふゆも真っ先に出したかった言葉だったでしょう。

 だって……。

 

「どうして……」

 

 だってメルから……魔女が生まれてしまったのだから。

 

 

 

 

 

 結局、メルから生まれた魔女と戦う気力も余力も残っていなかった私たちは撤退し、みかづき荘に戻った。

 

「……このマグカップも、持ち主を失ってしまったわね……。くっ……メル……」

 

 突然の親友の死。

 私にとっては二回目でも、やっぱりすんなりと受け入れることはできなかった。

 どうして……メルが……。

 

「ダメだアタシ……信じられない……」

 

 なにかに耐え切れなくなったのか、今までずっと口を閉ざしていたももこが感情的に叫ぶ。

 

「だってあれが本当ならさ……。アタシらが倒してたのって魔法少女ってことだろ!?」

 

 それは今日……メルの死に続いて受け入れがたい真実だった。

 

「ももこさん! みなまで言わないでください!」

 

 考えたくもなかったことを言葉に出されて、みふゆも叫ぶ。

 私も叫びたい。けれど……そんなことをしてもなにも解決しない。

 だから我慢することにした。我慢しようとした

 

「だってみふゆさん! 願いを叶えた結果――アタシらは人殺しになるんだろ?」

 

 そのももこの言葉が耳に入った瞬間、口よりも手が先に動いてしまっていた。

 乾いた音と同時に右手に嫌な感触が伝わると、私に横顔を見せるももこがいた。その左頬は私の平手打ちを受けて少し赤くなっている。

 

 仲間に暴力なんて絶対に振るわないと心に誓っている私だけど、今の発言は許容できるものではなかった。

 だってそれは、今日まで精一杯生きて、共に戦ってきた大切な仲間であるメルへの侮辱に値するものだったからだ。

 

 平手打ちされて少し冷静になったらしいももこは謝罪してくれたけど、なにも解決していない。

 もしこれが事実なら……私たちも遠かれ遅かれ魔女になってしまう。

 

「あの人は……一昨日やちよさんが連れてきたあの人は、このことを知っているのか?」

 

 ももこがふと、そんな質問をしてきた。

 あの人というのは……。

 

「百恵……」

 

 私とみふゆに次ぐ大ベテラン、星奈百恵。

 ……確かに、彼女なら知っている可能性がある。

 

 魔法少女が魔女になる。

 そんなキュゥべえが私たちに隠していた魔法少女の真実を。その全てを……。

 

「明日、百恵を連れてくるわ。知っているなら……詳しく聞かないといけないし、知っていないなら彼女に話すべきことだから」

「……そうですね。でも鶴乃さんには」

「秘密にすべきよ。鶴乃に……余計な心配をしてほしくないもの」

「……そうだな。このことはアタシらの中に留めておいた方がいい。あまりにもショックが大きすぎる」

 

 その日はそう纏まったところでお開きとなった。

 

 

 

 

 

 そして、翌日。

 

「……おはよう、百恵」

「おはようなのじゃ……ってどうしたお主よ!?」

 

 いつも通りに挨拶をしたつもりだったけど、私の顔を見た百恵は仰天した。

 そしてすぐに真剣な顔になる。

 

「どうした? いったいなにがあった?」

「……放課後、みかづき荘に来てくれるかしら? お願いだから」

「……あい、わかった。今はなにも聞かんし、話しかけもせん。放課後ゆっくり、聞かせてもらうからの」

 

 昨日と違って異常事態だと察してくれたらしい百恵は二つ返事をして、それからはそっとしておいていてくれた。

 その気遣いが今の私にとってはなによりもありがたく、そしてつらかった。

 

「うっ……うぅ……」

 

 机に突っ伏して、私は涙を流す。

 隣にいる親友は気付いていないのか、それとも気付いていて放っておいてくれているのか。

 先程の言葉通り、百恵は放課後になるまで私に話しかけてくることはなかった。

 

 

 

 

 

「邪魔をするぞ。……って、これはまぁ、悲惨じゃのう」

 

 放課後。みかづき荘に来た百恵は顔を顰める。

 

 学校からすぐに戻ってここに来たらしい浮かない顔をしたももこと、昨日のショックから立ち直れず学校を休んだみふゆ、そして朝から負のオーラをまき散らしている私。

 一昨日訪れた時の賑やかなみかづき荘とは思えず、まるで別の場所に来たと錯覚しているでしょうね。

 ……私も正直、昨日の騒がしい朝みたいな日常が一日経つだけでこんな風に変わってしまうなんて、思ってもみなかったもの。

 

「して……他のふたりはどうした?」

「鶴乃は来ないわ。あの子には聞かせられない話をするのだもの」

「ふむ、そうか。それでは……安名メル、とやらになにがあった?」

 

 聡い彼女のことだ。

 おそらく本題はそこにある(ここにいないメンバーだ)ということは、今のみかづき荘……いえ、今朝の私の様子を見た時からすぐにわかったのでしょう。

 そして私が鶴乃のことだけを答えたのを見て、残ったメルの身になにかが起こったのだと確信した。相変わらず、理解が早い。

 

「百恵、魔法少女の秘密……って知ってる?」

「……なるほど」

 

 それを聞いた百恵は「それは残念であったな」と目を閉じた。

 ……やっぱり。

 

「……やっぱり知っていたのね」

「伊達に五年も魔法少女をやっとらんからの」

 

 ……私とみふゆは六年、もう少しで七年やっているはずなのだけど、ね。

 

「どこから話せばよい?」

「あなたの知っていること、その全てを教えてちょうだい」

「……よかろう」

 

 みかづき荘のソファに百恵は座り、語った。

 

「まずは私が魔法少女になった経緯を手短に話そうかの」

 

 

 

 

 

 今から五年前のこと、百恵は神浜から少し離れた土地に暮らしていた。

 詳しくは教えてくれなかったけど、百恵は特殊な環境で生活していたらしい。

 百恵はその場所を忌み嫌っており、なんとかして脱却を図ろうとしていた。

 

 そんなときだった。

 

「やぁ、キミは星奈百恵だね」

 

 キュゥべえが現れたのは。

 

 当時13歳。

 小学校から上がりたてとはいえ頭の回転が早かった百恵はキュゥべえの言葉を一切信用していなかった。

 『どんな願い事も叶える』というフレーズが大嫌いだったらしく、そんな都合のいい話があるかと聞く耳を持たなかった。

 

「じゃがのう、そう言ってはいられないような事件が起こってしまったのじゃよ」

 

 百恵を取り巻く環境が、彼女の我慢の限界を超えたらしい。

 とうとう彼女は最後の手段として――キュゥべえの話に乗ることにした。

 

「その時に根掘り葉掘り聞いたのじゃよ」

 

 キュゥべえは嘘を吐かない。しかし、本当のことを全て話すわけでもない。

 

 その性質を、執拗に契約を迫ってくるキュゥべえの様子から見抜いていた百恵は魔法少女になるうえでのメリット、デメリット、行きつく先、キュゥべえの目的に至るまで全て、余すことなく聞き出した。

 すると目論見通り、あっさりとその答えを返してきたらしい。

 

「ここからは心して聞くのじゃ。さもなくば死ぬと思え。心弱き者に、この話は聞かせられぬ。最終通告じゃ。興味本位で聞いている者がいるのならば、今すぐこの場から立ち去るがよい」

 

 ……。…………。

 誰ひとりとして、静かなリビングから去る者はいなかった。

 

 もう私たちは知らなければよかった現実の一片を見せられている。

 だから……百恵を招き入れ、彼女が真実を知っていることを確認した時から、諦めにも近い覚悟は決まっていた。

 

「……結構。では、本題に入ろう」

 

 魔法少女に変身するためのソウルジェム。

 それは、その名の通り自分の魂そのものが結晶化した宝石。

 即ち、自分自身の命そのものであることを言い放った。

 

 私とみふゆはともかく、そのことすら初耳だったももこは愕然としている。

 百恵は指輪を銀色に輝くソウルジェムへと変える。

 

「はっきり言ってしまおう。私たちはもはや、魔法少女という名前の石ころじゃ。これが砕け散った時、私たちは事切れる。

 

 そしてこれが肉体から百メートル以上離れた場合、肉体は機能を停止する。

 つまり、うっかり待機状態の指輪を紛失させたり、誰かに盗まれてしまうともうおしまいじゃ。魂は生きているのに、肉体はすでに死んでいるのじゃからな」

 

 ……まだ序章だというのに残酷すぎる真実を突き付けてくる。

 

「そして、これの輝きは私たちの魂の輝きじゃ。

 魔法を使う、日常生活で体を動かす。単純なエネルギーの消費量を表すメーターならまだかわいいものよ。

 

 これの恐ろしいところは感情さえも、この輝きに影響を及ぼすことじゃ。

 ほら、思い浮かぶ出来事はないか?

 例えば嫌な目に遭った時にふとソウルジェムを見たら、綺麗だったはずなのに少し濁っていたりしていた、なんてことが」

 

 ……ある。

 六年も魔法少女を続けていれば必然と、自分にとってマイナスの出来事とも遭遇する。

 そんなときに魔法少女に変身して魔女と戦いソウルジェムを見ると、そこまで魔法を使っていないのにやけに濁っていると感じたことは何回もあった。

 

「人間の感情は恐ろしいものじゃ。特に私たち、思春期の者たちにとってはの。

 少しのことで感情的になり、少しのことで落ち込む。それに反応してこれの輝きはどんどんと失っていき、次々と体に悪影響を及ぼす。

 

 強い倦怠感、脱力感、無気力感、ストレスの増加、ヒステリックな行動、一時的な偏執症などが主な症状かの?」

 

 全部心当たりがある症状だった。

 今までの経験がすべて、百恵の言葉によって関連性が裏付けられていく。

 

「そして……完全にソウルジェムが濁りきった時。それは即ち、その魔法少女としての魂が尽きた時じゃ。

 

 単純に生命力が消えるか、完全に心が折れ絶望に染まった時――ソウルジェムはグリーフシードに変わり、魔法少女は魔女に成長する。

 

 これが、お主らが知りたがっていた、魔法少女の真実じゃ」

 

 手に置いていたソウルジェムを指輪に戻し、目を瞑って話を締めくくった。

 

「そう……そうなのね」

 

 ……百恵の最終通告にあった「死ぬと思え」の意味をこれでもかと理解する。

 この残酷すぎる真実を聞いて絶望してしまえば……それでおしまい(魔女になるの)だから。

 

「……アンタはさ、平気なのかよ」

 

 いつも以上の低い声で、ももこは百恵を睨みつけていた。

 

「平気とは?」

「アンタはさ、確かに凄い人なんだろうさ。他の魔法少女たちを助けて、そして頼られる人なんだろうさ。でも……結局、アンタは魔法少女だったモノで商売をしているんだろ?」

 

 精神的に不安定になっているからか、いつもは絶対に言わないはずのとんでもない暴言をももこは口走ってしまっていた。圧倒的に格上の大先輩に向かってだ。

 

 叱ろうと口を動かそうとする――前に百恵が「耳が痛くてしょうがないのう」と優しく、それでいて悲しく笑った。

 

「お主の言う通りじゃ、十咎ももこよ。私は、私たち傭兵は元私たちの同僚(魔法少女)の命を金に換えておる。じゃがのう所詮、魔女は魔女じゃ。もはやそれは人間であるどころか、魔法少女ですらない。世の中に災いを齎すバケモノじゃ」

「だからって……そんな簡単に割り切って納得できるわけが――!?」

 

 ももこの言葉が遮られた。

 ゆっくりソファから立ち上がり近づいてきた百恵に、抱き着かれたからだ。

 

 身長差ゆえに座っているももこよりも背の低い百恵だけど、背伸びをしてただただ優しくももこを抱きしめ、その小さな手で頭を撫でていた。

 

「そう、自分を追い込むでない」

「なにを……」

「よい。強がらないでよいのじゃ。悲しい出来事が起きて、知りたくもなかった真実を知って、自分が手をかけてきたものたちの正体を知って、つらかったであろう?」

「……っ」

 

 ももこの肩が震える。……そうか。

 思えば昨日ももこが気にしていたことは、自分たち魔法少女の魔女化についてじゃない。自分たちが倒した魔女が元魔法少女だったことについてだった。

 そして、今のももこの八つ当たりはその罪悪感の裏返しだったのでしょう。

 

「優しい子じゃのうお主は。自分の訪れる運命よりも、自分が手をかけた存在を真っ先に思いやることができる、とってもとっても優しくて強い子じゃ。良い子をチームに入れたのう」

 

 私に笑いかけながら、百恵は懐から取り出したグリーフシードをももこの右手に翳した。

 ももこの指輪……ソウルジェムから黒い靄が立ち上り、それはグリーフシードに吸い込まれていく。

 

「あ……」

「全くこんなになるまで自分を追い込みおって。

 安心せい。お主はなにも悪いことをしとらんよ。

 

 魔法少女が魔女を狩る。それは当たり前のことであり、世の中の役に立つ素晴らしい行いなのじゃ。

 正体がどうとか、そんな下らんことを気にする必要はない。そしてそれをすぐに納得する必要もない。

 ゆっくりでよい。ゆっくり受け入れるのじゃ。

 少なくとも、私はお主の味方じゃからの」

 

 その言葉で、ももこは崩れ落ちた。

 小さくも大きな百恵に抱き着いて泣きじゃくれる。

 

「ごめん……ごめんなさい、百恵さん……」

「よいよい。私はなーんにも気にしてはおらんよ。よく、頑張った。頑張って正気を保てたの。お主は偉いのう」

「ぐっ……ううっ……」

 

 ……多分、今一番欲しかった赦しの言葉だったのでしょう。

 ずっと溜め込んできた罪悪感を流すように、ももこは百恵に抱き着いて泣いていた。

 普段は抱き着かれると逃れようとする百恵だけど、今回は気にした様子もなくそれを受け入れている。

 

「あの……ひとついいですか、モエちゃん」

「ん? なんじゃ?」

「魔法少女って……弱体化したりとかはするんですか?」

 

 みふゆがそんな質問を百恵にした。正直、よくわからない質問だった。

 そして百恵もまた、すぐに戻ったとはいえ一瞬だけ、真顔になっていたのを私は見逃さなかった。

 

「……魔法少女の弱体化? それは聞いたことがないのう?」

「本当ですか? その……モエちゃんは、ここ最近自分の力が衰えたと感じたことはありませんか?」

「私の力が? うんにゃ、そんなことはないのう? むしろ漲っておるぞ。私の願いのせいかもしれぬがの?」

「……そうですか」

 

 それだけ聞いて、みふゆはまた暗い顔に戻ってしまった。

 ……なに? 今のはなんの意味のある質問だったの?

 

「みふゆ……」

「やっちゃん……すみません。今日はこれで帰らせてもらいます」

「え……」

「モエちゃん、知っていること話していただいてありがとうございました。それじゃあ、失礼します」

「う、うむ。気を付けて帰るのじゃぞ?」

 

 足早に、みふゆはみかづき荘から出ていく。

 ももこもひとしきり泣いた後、気持ちの整理を付けるために帰っていった。

 

 残るは私と百恵だけ。

 ……。…………。

 

「百恵」

「なんじゃ?」

「私ね……チームを解散させたいと思うの」

「……とりあえず、理由を聞こうか」

「……私は、ももことみふゆの気持ちを、考えを理解してあげられなかった」

 

 近くにいたはずなのに、私はももこの苦しみを理解してあげられなかった。さっきのみふゆの質問の意図も察せてあげられていない。

 チームのリーダーとして、私はふたりの求めていることができないでいた。

 それに……

 

「……それは建前であろう? 人の気持ちを全て理解することなんでできん。私は論理的に紐解いてたまたま彼女の真意を当てたにすぎぬよ。じゃから本当の理由を話してはくれぬかの?」

 

 相変わらず、百恵は聡い。すぐに本音と建前を見抜いてきた。でも……。

 

「ごめんなさい……それは言えないわ」

 

 だって……口に出したら、もう後戻りできないじゃない。

 昨日のメルの犠牲は……誰でもない私のせい。

 

 私を庇って、メルは魔女になった。

 そして、かなえも私たちを……私を助けるために魔女に特攻して命を落とした。

 このふたつの出来事が偶然でなく、私の願いが原因だとしたら?

 もしそれが真実だったら……!

 

やちよ(・・・)っ!」

「……は」

 

 珍しく『お主』ではなく名前で呼んできた百恵の声に我に返った。

 いつの間にか取り出していた、ふたつ目のグリーフシードを私の指輪に当てている。

 

「無理に聞こうとしてすまなかった。もう聞かんし、お主のチームじゃ。リーダーのお主の好きにするといい」

「百恵……」

「じゃがの、これだけは覚えておれ。私は常に中立じゃ。八方美人と呼ばれてしまうかもじゃが、私は私の知る神浜の魔法少女全員の味方じゃ。勿論、お主もの。じゃから……どうしても耐えられなくなったら、私を呼べ。よいな?」

 

 それだけ言って百恵はみかづき荘から出ていった。

 ……まったく。

 

「ずるいのよ、あなたは……」

 

 弱いところばっかり攻めてきて……それでいて最後は優しく包み込んでくるんだから。

 

 でも、少しは気持ちが軽くなった気がする。

 チームを解散させたとしても百恵だけは、私の切り札である百恵だけは、そばにいてくれる。

 そう思えるようになったのだから。

 

 数日後、私たちは遊園地に出かけた。

 つい先日メルが死んだことを伝えた鶴乃も連れて、四人でしばしの現実逃避にも等しい時間を過ごして……。

 

 私たちのチームは、解散した。

 

 

 

 

 

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