精神の少女   作:恋塚 灰羅

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第二章 第二十五層
述懐


 あの時自分は死んだのだ。あの時に自分の人生は終わっていたはずだ。

 青年は追懐する。もしも少女がいなければ、既にあの殺人機械(ナーヴギア)の餌食になっていたはずだ。青年はこうして現実に帰れたからこそ、あの機械が本物だったと知っている。彼女がいなかったとしたら、あの残虐なコボルドの王にひねりつぶされていたに違いない。あの日あの瞬間に、青年は終わりを迎えていたのかもしれない。

 だからこそ青年は、ずっと苦悩していた。ずっと、ずっと、ソードアート・オンラインをクリアしてからずっと。ただひたすらに苦悩していた。

 どうして、と。

 なんで、と。

 彼女は皆の希望だった。彼女は皆の星だった。涙に呑まれず、絶望に抗い続けた皆の勇者だった。彼女がいなければどうにもならなかった場面が幾度も幾度もあった。彼女がいなければ、死者はもっと多かっただろう。

 彼女は最後の最期まで輝き続けた。希望が砕け散ってはならない。星が墜ちてはならない。彼女は道半ばにして倒れることはなく、第七十五層の戦いまで共に駆け抜けた。ゲームクリアの瞬間まで、彼女は立ち続けていた。

 それなのに。それなのにどうして絶望は彼女を包み込んだのか。どうして彼女の前に希望が現れなかったのだろうか。

 この現実世界でキリトと出会い、アスナと出会い、他の攻略組の皆と出会った。そうして彼女の現実を改めて認識した。彼女の孤軍奮闘を知り、彼女の願いを想い、それでも彼女の本心だけは推し量れなかった。

 ――いや、違う。推し量れなかったのではない。想像して、それでもどうしてと頭の中でぐるぐる同じ疑問が回り続けていたのだ。

 

 青年の心を嘲笑うかのように空は雲一つない快晴である。空から強く降り注ぐ暖かな日差しに目を細めて、青年は住宅地を歩いていた。知り合いの《SAO生還者(サバイバー)》たちで少女に会いに行くということになって、今日がその日だった。予め彼女の家族には訪問の旨を伝えていて、こころよく了承してもらえた。

 教えてもらった住所まであと二十分ほどである。歩きながら青年は思考の渦に飲み込まれていった。あの時の少女の様子、あの時の少女の苦悩、あの時の少女の決断。いつの間にか青年の意識はあの時のアインクラッドに戻っていた。

 第十層のフロアボス攻略戦の後、そして第二十五層のフロアボス攻略戦の時。少女が攻略組から離脱して、そして戻ってきた時。青年が少女について語るならば、おそらくはその瞬間が始まりになるだろう。

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