述懐
あの時自分は死んだのだ。あの時に自分の人生は終わっていたはずだ。
青年は追懐する。もしも少女がいなければ、既にあの
だからこそ青年は、ずっと苦悩していた。ずっと、ずっと、ソードアート・オンラインをクリアしてからずっと。ただひたすらに苦悩していた。
どうして、と。
なんで、と。
彼女は皆の希望だった。彼女は皆の星だった。涙に呑まれず、絶望に抗い続けた皆の勇者だった。彼女がいなければどうにもならなかった場面が幾度も幾度もあった。彼女がいなければ、死者はもっと多かっただろう。
彼女は最後の最期まで輝き続けた。希望が砕け散ってはならない。星が墜ちてはならない。彼女は道半ばにして倒れることはなく、第七十五層の戦いまで共に駆け抜けた。ゲームクリアの瞬間まで、彼女は立ち続けていた。
それなのに。それなのにどうして絶望は彼女を包み込んだのか。どうして彼女の前に希望が現れなかったのだろうか。
この現実世界でキリトと出会い、アスナと出会い、他の攻略組の皆と出会った。そうして彼女の現実を改めて認識した。彼女の孤軍奮闘を知り、彼女の願いを想い、それでも彼女の本心だけは推し量れなかった。
――いや、違う。推し量れなかったのではない。想像して、それでもどうしてと頭の中でぐるぐる同じ疑問が回り続けていたのだ。
青年の心を嘲笑うかのように空は雲一つない快晴である。空から強く降り注ぐ暖かな日差しに目を細めて、青年は住宅地を歩いていた。知り合いの《SAO
教えてもらった住所まであと二十分ほどである。歩きながら青年は思考の渦に飲み込まれていった。あの時の少女の様子、あの時の少女の苦悩、あの時の少女の決断。いつの間にか青年の意識はあの時のアインクラッドに戻っていた。
第十層のフロアボス攻略戦の後、そして第二十五層のフロアボス攻略戦の時。少女が攻略組から離脱して、そして戻ってきた時。青年が少女について語るならば、おそらくはその瞬間が始まりになるだろう。