名称を直すに当たり、戦闘描写等も改めて書き直す必要が生まれてしまい、そのためにオーディナルスケールを視聴し読み込む作業が必要になるため、次話を提供するのに非常に時間がかかってしまうという事態が懸念されますので、このような形といたしました。どうかご容赦くださいませ。
この前文は、ともすれば作品の雰囲気を壊しかねないため、最低限の注意喚起を残して、後日削除いたします。
ディアベルは悩んでいた。目の前に立ちはだかる巨大な壁に悩まされていた。このまま突貫してしまえば死人が出てしまう。先の攻略戦の失敗があるため、この場面で死人を出すことは到底許容できなかった。
ここは第二十五層、いわゆるクォーターポイントである。フロアボスのいるボス部屋は意外とすぐに見つかったのだが、そのボスは非常に凶悪であった。どれほど凶悪かといえば、一度レイド部隊が半壊して敗走した程度と表現すれば分かるだろう。
攻略組の《アインクラッド解放隊》はその主力を大量に失い、ディアベル率いる《青龍連合》もまた、死人こそ少ないものの痛手を背負い、中にはトラウマをもった者までいた。
それほどまでの猛威、それほどまでの暴虐。正直に言えばディアベルも生きた気はしなかった。もしもヒースクリフがいなければどうにもならなかっただろう。彼が前衛で戦線を支え続けていたからこその生存である。
ヒースクリフは少し前にこの攻略組に参戦したプレイヤーである。ダメージディーラーとしても優秀な壁戦士で、モンスターの攻撃をものともしない防御力を持っている。彼が入ったおかげで二十層以降のフロアボス攻略が安定していたし、このクォーターポイントでも死人を最低限におさえられていた。メイン火力としてこれまで活躍していたキリトと、レイドを底で支え続けていた壁戦士の【----】がいない現在、彼がいなければどうなっていたか分からない。
そう、キリトもあの少女も今は攻略組から抜けていた。キリトはつい一週間ほど前に、少女は数か月も前に抜けていた。
キリトについては既に本人から話を聞いている。中層のギルドに加入するということらしい。戦力の減少は確かに痛いが、第一層のころからキリトと戦い続けていたディアベルにとっては、ついにあの一匹狼にも仲間ができたのかあという嬉しい気持ちもあった。童顔なだけかもしれないが、見た目が中学生か高校生くらいのキリトがこれまでしばらくの間ソロで戦っていたということが、ディアベルは少し気がかりだった。だから彼の離脱に際して強く引き留めはせずに、新しい生活をむしろ応援していた。
一方で少女の離脱はとても気がかりだった。彼女の戦力がどうこうという理由は確かに少しはあったかもしれないが、むしろそれ以上に彼女の様子が心配だった。
確か彼女がレイドから抜けると言ったのは、第十層のフロアボス攻略戦の後だっただろうか。
第十層はβテストで到達した最後の層で、その時代はまだフロアボスの姿を誰も目にしていなかった。フロアボスへ行くまでの道にカタナを扱う強力なモンスターがひしめいていて、そこの攻略に手間取っていたのだ。
新しいイベントやモンスターこそいたものの、第一層でカタナスキル持ちのモンスター、イルファング・ザ・コボルドロードと戦った経験もあってか予想以上にすんなりと突破することが出来た。天守閣を模した迷宮区の最上層になんとか辿り着くことが出来た。
そこで待ち構えていたフロアボスは鬼面の武者だった。おそらくは城主という設定なのだろうそのモンスターは非常に研ぎ澄まされたカタナスキルの使い手だった。通常攻撃にうまく変幻自在のスキルを組み込んだ戦い方は、それまでのボスのような力押しの戦略とは一線を画していた。あたかも生きたプレイヤーと戦っているような錯覚に陥るほどの巧みさであった。
攻略レイドはその時初めて撤退を余儀なくされた。HPゲージを一つしか削れないままに撤退を選んだ。このまま戦ったら全滅しうると思える苛烈さだった。幸いと言うべきかディアベルの判断は的確で、死人は誰もいなかった。
攻略レイドは一時解散してレベル上げに勤しんだ。それはシステム的なレベルは勿論だが、プレイヤースキルのレベルを向上させることが主だった。ディアベルたち《青龍連合》も道中のカタナを扱うモンスター《オロチ・エリートガード》と戦って鍛えた。スキルの硬直をスキルで解除するスキルキャンセルを鍛え、相手のスキルモーションを阻害することでスキルを不発させるスキルジャミングを最低限実用可能なレベルに鍛えた。
そうして迎えた第十層フロアボス攻略戦。それまでと同じように【----】ら率いる壁戦士部隊が鬼面武者の攻撃すべてを引き付け、ディアベルやキバオウが各々のギルドを率いてボスと対峙し、キリトやアスナといった高火力を持ったソロプレイヤーが、レイド部隊にできた穴を埋めつつ
準備は万端で士気も非常に高い。互いの連携に不備はなかった。だからそれは不幸な偶然でもあり、運命でもあったのだろう。
三本目のHPゲージを削っているときだった。スイッチタイミングをミスした壁戦士の一人が、鬼面武者のカタナに斬り裂かれた。一手一手で気を抜けないこのフロアボス戦で、彼は一瞬読み違えてしまったのだ。その一刀で
寸でのところで別のプレイヤーがカバーに入り、彼は九死に一生を得た。しかしカバーに入ったことで、また別のところに穴が出来てしまった。穴を埋めるべく動けば、新しく穴が出来てしまう。その新しい穴を埋めても別のところに穴ができる。一度出来たほころびは次第に大きなものとなってしまった。
そしてその綻びがプレイヤーに牙を剥いた。最後のHPゲージに到達した瞬間に鬼面武者が放った一撃は、きれいにレイドのほころびを貫いた。長剣使いのプレイヤーがカタナに両断され、驚愕の表情のまま無数の光の破片になって消え去った。
あまりにも一瞬の、それも呆気ない終わり方で、レイド部隊は一瞬硬直した。その硬直は再びほころびを作り出した。
それからは死闘だった。ディアベルも詳しくは思い出せない。ただ、しっかりとスイッチは機能していたことと、彼女が涙を浮かべて顔を歪ませながら自分の死を厭わない勢いで鬼面武者の攻撃を押さえ続けていたことだけは覚えている。
結果として、フロアボス攻略戦は撃破成功という結果で終わった。最終的な死者は三人だった。なんとか撃破したとはいえ、場はお通夜のような空気だった。死んだプレイヤーの仲間は涙を浮かべ、あるいは地面を叩くものもいれば慟哭する者もいた。他のプレイヤーも同じような様子だった。
その時彼女はどうしていただろうか。唇を噛みしめて、涙を浮かべて、こぶしを握り締めて――。それはもしかしたら別のプレイヤーだったのかもしれない。彼女だったのかもしれない。
しかし彼女の表情はまったき絶望ではなかった。その日の二日ほど後にレイド離脱を告げた時のような、真っ黒に絶望した瞳ではなかったのは確実である。
彼女の表情を絶望に塗り替えたのはいったい何だったのだろうか。ディアベルは彼女に尋ねられないまま、レイド脱退にうなずいた。第十層を攻略してから二日間で何があったのか。ディアベルにはまったく想像もつかなかった。
彼女が脱退してから数か月。第十層を思い出すような、あるいはそれ以上の凶悪なフロアボスにディアベルは頭を抱えていた。