元魔術師の付き添い人になりました   作:つりーはうす

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9話

二人はフェジテへと向かった。

どこにイグナイト卿の目が光っているかわからないので交通機関を利用することはまず不可能。

大通りももちろん不可能となると、険しい道しか残っていない。

それよりも現在いる帝都から遠く離れた北西部の辺境から帝国南部のヨークシャ地方に位置するフェジテまで一体何日かかるのだろうか。

もちろん歩いて移動するとなるととても日数がかかるため、人気が少ない時間帯に魔術を使って距離を稼ごうと考えたが、身体強化系の魔術とは相性の悪いオダがそれを使用することでリディアに怪我をさせてしまう恐れがあるため、結局徒歩で移動となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リディアさん、大丈夫ですか?」

「大丈夫、と言いたいところだけど、少し疲れたかな」

あれから約1週間、2人は途中で遭遇した追手を追い払い、何とか北西部のリリタニア地方を抜け、南部のヨークシャ地方まで着くことが出来た。

ここまで来たら1週間もかからずフェジテに着くだろう

 

 

 

本来なら1週間でここまで着けるはずがない。

ではなぜこんな短時間でここまで来れたかというと、なんとリディアがオダを背負い、距離を稼いだからだ。

これまでの戦闘描写から誤解を生んでいるかもしれないが、彼は元々国境警備隊員、軍人ではない。

追手を撃退できているのも、異能、固有魔術、魔銃による僅かな優位性(アドバンテージ)があるからだ。

 

 

 

話を戻すが、特殊部隊員でも軍人でもない彼がこのような強行軍を遂げる体力があるわけなく、本来なら途中で歩みが遅れるはずなのだが、彼の横にいるのは軍の中でも精鋭と謳われる特務分室に所属していたリディア。

魔術能力は失ったが、軍で鍛えられた身体能力を持っている彼女はオダの様子を見て、彼を担いで距離を稼ぐことを申し出たのだ。

リディアからしては彼のことを思い申し出たのだが、当の本人にとっては男の沽券に関わることなので丁重に断ったのだが、体力が落ちている時に追手が来たら対処できなくなるなどの理由で押し切られ、オダを背負い、物凄い疾さで悪路を駆け抜けた。

貴族の淑女に成人の男性が背負われるという前代未聞の出来事として、オダの胸に新たな黒歴史として今回のことが刻まれることとなる。

 

 

 

「少し町に買い出しへと行ってきます。何か欲しい物はありませんか?」

「ん~下着」

「俺に社会的に死んで来いと?」

「冗談よ冗談。でも服は欲しいかな。汗かいたままだと嫌だし。あと出来れば香水も欲しいかも」

「わかりました」

やはり元軍人とはいえ、リディアもやっぱり女の子のようで、汗を気にするのだろう。

頼まれた物を買いに町に行く。

 

 

 

魔術で変装したオダは買い出しも終わり、戻ろうとしたその時、町中はやけに賑わっていた。

いつもなら通り過ぎるのだが、なぜか腹の虫が収まらず一度見に行くと・・・

 

 

 

「号外!号外!あのイグナイト侯爵の娘、リディア=イグナイトが誘拐されたぞ!!」

オダは配っている号外をひったくり、その場から離れて読んだ。

 

 

 

・リディア=イグナイトは療養のため修道院へと出発するも、修道院から未だ着いていないと連絡

・その連絡を受け数人の魔導士が修道院近辺に捜索に行くも行方不明に、その後死体として発見

・当局はリディア=イグナイトに付き添っていた宮廷魔導士オダという人物が誘拐したと判断

・動機は不明のため現在彼の近辺を捜査中、すると前日に彼が育った孤児院の院長と接触していたことが判明。

・当局は孤児院へ調査に向かうも火事により院長を含む約13名全員の死亡を確認。オダによる口封じの可能性あり

 

 

 

号外を読み終えると、急に喉が痛くなった。

そして呼吸も出来なくなり、誰かの叫び声が聞こえた。

オダは街中で誰かが騒いでいるのだろうと思ったが違った。

あまりに激しく自分の喉が痛むので漸く気づいたのだ。

その正体が叫び、泣き、この現実を受け止めきれないオダ自身のことに。

 

 

 

「イグナイト家には黒い噂をよく聞くからな」

頭の片隅にあった記憶が甦る。

あの時彼の先輩が放った言葉だ。

政敵を潰すためなら、成果を残すためなら、自分の障害を排除するためどんな手でも使う。

オダはあの時感じなかったイグナイト家の理不尽さ、傲慢さに大事なものを失ってから初めて気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いな~オダ君。なにかあったのかな」

オダが町に買い物に行ってからかなりの時間が経った。

いつもなら帰ってきている時間帯である。

何かあったんじゃないか、そうリディアは思い立ち上がるが自分の置かれている状況を思い出した。

 

 

 

「 そうだ、私魔術が使えないんだった・・・」

オダに会った最初の日、後悔はしていないのか?と聞かれすぐにしていないと答えたリディア。

それは今になっても変わらない。

あの子を、前は助けることができなかった妹を助けることが今回は出来た。

だから後悔なんかしていない、はずだったのだが・・・

 

 

 

リディアはここ数日の彼の姿を見て申し訳なく思った。

あの場に彼を巻き込まなければ、彼は他の人と同じ平和な日常を送れたはずなのに、今やまるで逃亡犯のような生活だ。

私だけならいい、だけど彼を巻き込んでいることにリディアは心が痛くなってきた。

 

 

 

そう一人で思い込んでいると足音が聞こえる。

周りにはオダが結界を張っており、彼しかここに立ち入ることは出来ない。

オダが帰ってきたようだ。

 

 

「お帰り、オダ君。遅かった・・・どうしたの? 」

オダの様子を見てただ事ではないと感じたリディア。

オダの手に何か持っているそれをリディアは取り、読み始めた。

 

 

 

「・・・嘘」

そこに書いていた内容は一見すると嘘とは言えないが、二人の立場ではないことが書かれていた。

オダが追撃者を倒したことが、こんな風に書かれるとは。

それよりも一番下に書いていることだ。

少しだけだがリディアも彼の実家の孤児院の話を聞いた。

その時のオダの表情はいつもと違って柔らかくなっており、それを失った今、彼がどんな心境かわからないリディアではない。

するとオダの口が開き出した。

 

 

 

「リディアさん、本当に申し訳ない。ここからは君一人で行ってくれないか?教授宛に紹介状を書いているから匿ってもらえるはずだ」

オダはお金と手紙をリディアに渡し、立ち去ろうとした。

 

 

 

「ちょっと待って、オダ君」

私は彼の手を引っ張る。

 

 

 

「オダ君が今考えていることはわかる。仇を討つ、そうでしょ?でも行かないで、これは罠よ。きっとあの父上のことだからこの情報を流したら、絶対君が帝都に来ると分かって流したに決まっている。今までの比にならないくらいの戦力で貴方を迎え討とうしているのよ」

「・・・」

リディアの説得を無視し、オダは行こうとする。

 

 

 

「オダ君。私もあなたと同じ気持ちを知ってるわ。大切な人、守りたい人が失われた気持ちを私も知っている。私も妹を失ったから、あなたの気持ちがすごくわかる。だからおかしな言い方を今からすることに許してほしいんだけど」

リディアはひと呼吸おき、さらに続けた。

 

 

 

「何かに頼って。この後に起こる、何か良いことに期待して。その何かは今はわからないけどきっとある筈よ。私も妹を失って、何もかも失ったと思った時、これから起きる何かに期待して歩んできたの。何か生きる理由がみつかるかもって。だから」

リディアはオダを後ろから優しく抱きしめ、静かに言った。

 

 

 

「お願い。行っちゃダメ」

 

 

 

しばらくの沈黙の後、オダの口が開いた

「俺にはあそこしかないんだ。アイツらがいないとダメなんだ。そのためにいままで走ってきた。でもそれももう今日で終わりだ、終わりなんだ。今の望みは唯一つ、一つだけだ」

そう言い、オダはリディアを優しく振り解き、歩き出す。

 

 

 

「オダ君!」

リディアが叫んだがオダは振り返らなかった。

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