「父上、姉の捜索に特務分室も参加することをお許しください」
「ならん」
リディアが特務分室室長の座を退いてから、彼女の異母妹、イヴ=イグナイトは後を埋めるため百騎長に昇進、そして姉の特務分室室長の座とナンバーである"魔術師"を引き継いだ。
いくら代々イグナイト家が特務分室室長の座を受け継いでいるとはいえ14歳の、しかも先日の自分のミスが原因で姉を失ったイヴは、その後を継ぐことに葛藤したが、父であるアゼルに命令された以上、断るという選択肢はなかった。
「ですが父上!」
「私に命令しようというのか?予備の分際で?思い上がるのもいい気になるなよ、汚らわしい平民との混じり物が!」
アゼルに厳しい口調で言われ二の句が続かず、体が硬直したイブを無視し、アゼルはさらに続けた。
「キサマが今為すべきこと、それはあの無能がいなくなった特務分室を掌握することだ!この空白期間にあの不適合者の女王派の"隠者"が特務分室を掌握できるとは思わんが、万が一牛耳られたら後々面倒だからな。わかったらさっさと行け!」
「・・・はい、父上。失礼します」
イヴが部屋から退出した後、アゼルは近日中にこれから起こるであろうことを思い馳せた。
「さて、餌はまいた・・・これで獲物は食いつくはずだ。あの無能が今どこにいるか吐かせてから消してやる!」
絶対におかしい、何かがあるはず。
アゼルの部屋から出たイヴは悩み続けた。
あの事件の後、私と姉を治療してくれたあの人がそんなことをするわけがない。
でも自分だけで何が出来るの?
イヴは悩み、考え、なにかを思いつこうとしたその瞬間、
「痛っっっ!!!」
イヴの脳内に鋭い痛みが走った。
何を考えようとしたのか思い出せず、忘れてしまったイヴは、イグナイト家に認められるため、父親から認められるため、まずは特務分室の掌握という課された任務をこなすこととした。
フェジテ郊外の静寂な地域の一角に立派な屋敷がある。
いつもならそこで暮らしている二人の笑い声が聞こえているのだが、今日はいつもとは異なっていた
「あの人がこんなことをするわけがないだろ!!!」
同じく号外を握りしめ、少年から青年へと変わり始める年頃の、アルザーノ魔術学院の制服を着た男子学生が怒鳴った。
「落ち着け、グレン。お前が怒鳴っても何も変わらんぞ」
「・・・すまん、セリカ」
この屋敷の主にしてグレンを育てた女性、セリカ=アルフォネアがグレンを諫める。
「でもセリカ、俺にはあの先輩がこんなことをするとは思えないんだよ!」
「それは私も同感だ。グレン」
自分の愛するグレンは魔術適性が低い、いわゆる3流魔術師である。
史上最年少で入学したというやっかみもあってか、同級生や講師からよくいじめられていた。
本当ならセリカ自身が介入してやりたかったが、グレンのためになるとは思えず、悔しながら黙って見ていた。
そのグレンを庇ったのは平民にしてアルザーノ魔術学院首席であったオダである。
短い期間であったがグレンを庇い、良き理解者で、頼りになる先輩であった。
その伝手でセリカとも交流があり、彼の人となりを知っているこの二人にとって号外の情報はにわかには信じられなかった。
「イグナイト家・・・か。少し探る必要があるかな」
セリカは号外を見て、今回の事件にイグナイト家が関わっているのではないかと疑念を持つ。
しょうがない、グレンのために少し動くこととしよう。
「おい、グレン。明日から私は少しの間いなくなるから、家のことは頼んだぞ」
「ふ、断る!!!」
「・・・」
反抗期だろうか、それとも思春期特有の物なのだろうか、最近のグレンの性格が変わっていく様を見て、成長を感じるセリカであった。
「ねえ先輩。最近賑わしているあの誘拐犯、先輩の前の同僚らしいですけど、どんな奴だったんですか?」
レザリア方面国境、ここに配属されてからの話題は常にそれだった。
この前まで一緒に仕事をしていた頼もしい後輩、オダがあのイグナイト家の嫡子を誘拐、追手を全滅させた極悪非道の犯罪者という噂が流れ始めてから毎回俺にこの手の質問が投げかけられる。
今日は俺と新しく入ってきた新人の二人で国境付近を哨戒中なのだが、今回もまた同じパターンのようだ。
「君。他の人にも言っているけど、彼はそんなことをする奴じゃないことは俺が一番知っている。そんな
「へいへい」
全くこんなセリフを吐くなんて、仕事をさぼることが大好きな俺を一番知っている彼がさっきの光景を見ると驚くだろうな。
そう思っていると、
「え」
どこから撃たれたのか、胸部から血が流れ始めた。
俺は同行している新人を謎の襲撃者から庇うため彼を見ると、
彼は俺に指を向けていた
「なん・・・のつもりだい、君?」
「申し訳ありませんが、あなたには死んでもらいます。あの時現場にいたあなたの不運を呪ってください」
彼は言い終わるとさらに2発、3発と俺に魔術を撃ってきた。
あの時?・・・はあ、だから貴族は嫌いだ。
彼はこれから大丈夫なのだろうか?
彼のことを心配し、意識はそこで途切れた。