「あれからどうだ?獲物はかかったか?」
情報を流してからしばらくたったある日、アゼルは使用人に進捗状況を聞いた。
「はい、主様。あれ以降、例の男の消息が見つかりました。先日帝都に入ったそうです」
「ふむ・・・消息がわかっているのなら、もう追手を差し向けたのだろう?仕留めたのか?」
「それが・・・」
アゼルの質問に使用人は押し黙る。
「それがなんだ?言ってみろ」
「それが全滅した、とのことです」
使用人の思わぬ返答、そして結果にアゼルはしばらくの間茫然としたが、すぐに気を取り直し、その使用人を殴った。
「全滅した、だと!ふざけるな!イグナイト家に所属しておきながらなんという体たらくだ!」
「も、申し訳ございません、主様。ただ、戦闘映像は持ち帰れたそうです」
「当たり前だ!何の成果もなくのこのこと帰ってきたら私自ら貴様らを殺しているところだ!もういい、下がれ!」
「・・・失礼しました」
上手くいかない現状にアゼルの気が晴れない。
「ええい、平民の分際でここまでイグナイト家に歯向かうとは。捕まえたら生きていることを後悔させてやる」
アゼルが誰もいない室内で苛立っていると、先ほどとは違う使用人が部屋に入ってきた。
「あ、主様。お客様です」
「客?そんな予定は今日入れておらん。さっさと追い返せ!」
アゼルは使用人に伝えようとしたその瞬間、
「おいおい、せっかく元部下が元上司の機嫌を見に訪れてやってるんだ。そんな言い方はよしてほしいな」
「き、キサマは・・・"世界"!いまさら何をしに来た!」
使用人を押しのけ、登場したのはアゼルが特務分室室長時代、アゼルの命令を一切聞かない問題児、元帝国宮廷魔道士団特務分室執行官ナンバー21、"世界"のセリカ=アルフォネアであった。
「な~にただの世間話さ、私にとってはな。貴様はどうかは知らんが。何なら使用人がいる今ここで話そうか?」
「・・・この部屋には誰も入れるな、そして近づかせるなと伝えろ」
「は、はい」
使用人が去ってからセリカが話し始めた。
「さて、お前も忙しいと思うから単刀直入にいうぞ?オダを嵌めたな?」
そう言うとセリカから強烈な殺気と威圧感がアゼルを襲う。
「何のことかな?この件に関しては私も被害者なのだよ、"世界"。何と言ったって私の嫡子であるリディアをあの男が攫ったのだからな」
セリカの強烈な殺気と威圧感を受けたにも関わらず、淡々と質問に答えるアゼル。
その様子に少々あっけにとられたセリカだったが、すぐに我に返って追求した。
「アイツがそんなことをするわけがない!」
「だが実際に起きたのだよ。これを見たまえ」
セリカの前に映像が映し出された。
オダが魔術師を殺している映像である。
「嘘だろ・・・」
「本当だ。本来ならこれを公表したいところだが、なんせ奴は犯罪者といえ、あのアルザーノ魔術学院を首席で卒業しているからな。学院の看板を汚したくないからといって教導省の奴らからこの決定的な証拠を公表しないでくれと頼まれているからこれを世に出していないだけにすぎないのだよ。すでに政府は秘密裏に奴の討伐を決定した。近日中には警察から軍、宮廷魔導士団へと権限が移る」
アゼルの衝撃的な事実を告げられ固まるセリカ。
「"世界"よ。貴様があの男と親交が深いことはすでに調査済みだ。変な気を起こさないことだな。さて貴様が言った通り私は忙しい。お帰り頂こうか」
アゼルはもう話すことはないようで、茫然と立ちすくんでいるセリカを無視し、部屋を立ち去った。
翌日
「さて、一番の懸念材料であった"世界"を封じ込めることが出来た。これで奴は表立って動くことはできないだろう。裏で動くとしても常に監視しているから問題ないとはいえ・・・それよりもだ」
アゼルは報告書を読み、嘆いていた。
「全く使い物にならないな駒どもめ。昨晩も奴を取り逃がすどころか返り討ちに会うとは・・・これは一度解体しなければならないな」
イグナイト家お抱えの裏工作を携わる部隊がオダに返り討ちに会ったという報告書である。
「問題は・・・だ。私の信頼における部隊が減りつつあることだ。これ以上減っては今後の活動に支障がでかねん。他の奴らに先を越される前になんとか私の配下の部隊で奴を片付けなければ。しかし今の私の手元にある部隊に任せるとなると・・・特務分室はどうか?」
そう思いついたがすぐに却下した。
「いや、今の特務分室はまだあの混じり物が掌握できていない。そこにつけ込んでイグナイト家に疑念を持っている女王派が調査をしかねん。クソ、あの無能めが!一つの組織を掌握するのに一体いつまでかかるのだ!」
アゼルはそう怒鳴ったが無い袖は振れない。
信頼はあまり置けないが実力は折り紙付きの特務分室を使うか、それとも多少は危険だが自ら率いることで確実性をとるか。
その両者を天秤にかけ、悩みに悩んだ結果が・・・。
"イグナイト卿、陛下に一か月間の静養を求める"
自分を囮に、確実性を取るほうを選んだ。