元魔術師の付き添い人になりました   作:つりーはうす

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12話

"イグナイト卿、休養"

この報道が発表されるといなや、すぐにこの情報は帝都を駆け巡った。

娘であるリディア=イグナイトが未だ見つからず、その精神的疲労により登城して政務を執り行うことが難しい、という理由で陛下に静養を申請したところ認められたとのことだ。

この一か月間は静養しつつ、帝都郊外の別荘にて政務を執り行う、という情報も流れた。

 

 

 

この一報を聞き帝都の多くの人々がイグナイト卿の回復を願うと共に、その原因のオダという魔術師に対しては極悪非道の犯罪者という評価(レッテル)が張られた

 

 

 

その当のオダはというと・・・。

「なるほど・・・帝都郊外にいるのか」

オルランドの外延部、貧民街に潜っていた。

貧民街の住民にはオダの変身魔術を看破できるような才能の持ち主はおらず、オダは特に何の不自由もなく潜伏活動を送っていた。

 

 

 

「おそらく・・・いや十中八九俺を誘っているな。さすがにここ最近返り討ちにしすぎたことに焦ってか、とうとう本人自らのお出ましか」

オダは罠や敵戦力を考えず、ただようやく標的(アゼル)自らが動いたことにしか興味を示していなかった。

 

 

 

「さて・・・武器を補充して奴を迎えにいくか・・・」

オダは貧民街へと溶け込み、そのまま姿は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、奴はいつ動く?」

帝都郊外の別荘に移動したアゼルは書斎に籠ってオダの今後の行動を考えていた

オダは絶対に来る、問題はいつに来るかだけだがそれさえも小さな障害にしかならない。

魔術戦においては拠点防御側が圧倒的に有利。

事実、この別荘の周りにはすでに様々な結界、魔術罠(マジック・トラップ)が無象無像引き締め、さらにイグナイト卿子飼いの猛者たちが手をこまねいて待っている。

この別荘は精鋭の宮廷魔導士団が大隊規模で攻めてきても落ちない自信がある、いや落ちないと確信している。

 

 

 

「まあ奴程度の男がこの邸宅に入れるとは思えんが念のためだ」

そう呟くと、アゼルの手元には赤い鍵が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまん、グレン。どうやら今回は私の手に負えないらしい」

「そんな・・・クソ!このまま先輩を見殺しにするってのかよ!!!」

セリカが自宅へと戻り、グレンにアゼルとの会談の内容を伝えると、話しを聞き終えたグレンは今にも家から飛び出そうという勢いで部屋を出る。

 

 

 

「おいグレン、どこに行く」

「どこにって、先輩の元に決まってるだろ!このままじゃ先輩は殺される。身近な人さえ救えずに何が正義の魔法使いになる、だ」

そう言うグレンをセリカが止める。

 

 

 

「まてグレン。受け入れたくないかもしれないが、オダは数人の魔術師を殺した、殺人者だ。なぜそのような経緯に至ったかは分からないがこれは紛れもない事実なんだよ」

「うるせーよ!!あの先輩が、あの先輩がそんなことをするわけない!何かの間違いだ!」

そう言うグレンの目には薄っすらと涙が浮かんでいる。

グレンの気持ちをよく理解しているセリカが居た堪れなくなったその時。

 

 

 

鈴の音が部屋に届いた。

 

 

 

どうやらこんな夜だが呼び鈴がなったらしい。

場違いかもしれないがこの空気を換えてくれたことに息を吐くセリカだった。

「誰だこんな時間に?グレンちょっと見てきてくれ」

「・・・わかったよ」

 

 

 

グレンは扉を開ける前に、こんな夜遅くに尋ねた馬鹿に対し怒鳴ろうと決めた。

「はいはい、こんな夜遅くに誰ですか?訪問販売なら・・・」

「お願いします、助けてください!!!」

 

 

 

グレンが怒鳴る前に目の前にいた人が助けを求めてきた。

「助けてって、あんた誰ですか?」

「私は・・・リディア、リディア=イグナイト。オダ君の紹介で来ました。お願いします。このままじゃオダ君が死んじゃう!」

訪れた人はまさに今世間を賑わしているリディア=イグナイトその本人。

そのことにグレンは驚いたが、それよりもオダが死ぬという言葉が刺さる。

 

 

 

「どういうことですか!先輩が死ぬって」

グレンはリディアに問い詰めようとした瞬間。

「玄関じゃなくて部屋で聞こうな、グレン?」

部屋にいたセリカが騒ぎを聞きつけ現れた。

 

 

 

「やはりイグナイト卿の策謀が・・・」

リディアからの話を一通り聞き、セリカは一人呟いた。

 

 

 

「セリカ、本人がこう言っているんだ。やっぱり先輩がそんなことをするわけがないんだよ!」

一方のグレンはというと、リディアから真実を伝えられ、先ほどとは打って変わって、表情が晴れやかだった。

自分が敬愛する先輩が無実だと知り、居ても立っても居られないようだ。

 

 

 

「こうなったらさっさと黒幕を潰そうぜ」

「・・・確かに一理あるな、あいつの元にリディア嬢をこちらが保護したことと、事の真実を盾にしたら上手くいくかもしれん。リディア嬢もいいか?」

「ええ、大丈夫です」

「よし、後は私に任せておけ!帝都まですぐに・・・」

急にセリカが黙り込む。

 

 

 

「おい、どうしたんだ、セリカ?さっさと行く準備を・・・」

「どうやらお客さんのようだ。歓迎しない方のな」

セリカがこのように言ったため、グレンも遠目の魔術を発動し、周囲を確認する。

すると数十人の影がこの家を囲むように取り囲んでいた。

 

 

 

「チッ、ただでさえ時間がもったいないのに、雑魚の分際で私に楯突くとは・・・。おいグレン、お前はリディア嬢の近くにいろ。絶対に危害を加えさせるなよ」

「わ、わかった」

こうしてフェジテの夜に戦いの火蓋が落とされた。

 


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