「交渉決裂、ということかね?」
威力を最高出力で放った弾丸はアゼルを貫通することはなかった。
これにはオダも少し驚いた顔をし、それをみたアゼルは呆れた目をしていた。
「すこし買いかぶりすぎたようだな。やはり所詮は平民、下賤の者か。貴様、何を驚いている?まさか何の対策も取っていないと?」
そう言い終えると部屋全体が猛火に包まれる。
「貴様に冥途の土産を持たせてやる。これが紅焔公とよばれる由来となったイグナイト家伝来の魔術、
イグナイト家が近距離魔術戦の大家と云わしめる代名詞となった魔術である。
予め指定した領域内における炎熱系魔術の起動をすべて省略できるようにするという規格外の代物。
だがその領域を構築するのにはものすごい手間と時間がかかるのだが、予め室内一体にアゼルはすでに領域を構築していたためその問題は解決した。
オダは逃げる間もなく炎の海に包み込まれた。
少し時間が経ち、アゼルは”第七園”を停止させる。
その威力は凄まじく、室内は瓦礫の山と化した。
オダがいた場所には跡形もないことを確認すると、"第七園"の領域を解除し始める。
「ふんリディアの居場所はつかめなかったが、禁呪を見た二人はこれで消せた。あとはリディアを・・・」
一発の銃声が部屋に響く
言い終える前に乾いた一発の銃声が聞こえ、アゼルは自分の胸に弾丸が撃ち込まれたことを遅まきながら気づく。
「き、貴様なぜ生きている」
「貴方の敗因は平民、下賤の者と人を見下しているところだ。外にいた魔術師の方が反応はよかったぞ」
消し炭として消えていたはずのオダが現れたのを見てアゼルは驚愕した。
「
「なに?」
オダの言葉にアゼルが反応する。
確かに多対一ではオダのまるで先を見ているかのような動きには驚かされたが特に脅威にとは感じなかった。
そして彼の持つ
では何だ。コイツは何を隠している。
アゼルの疑問にオダが答える。
「ではイグナイト卿。冥途の土産を持たせてあげます。俺には異能を持っています。その能力を数十秒先の未来を視ることができる。これで辻褄が合いませんか?」
オダの告白にアゼルは黙り、そしてすぐに激高した。
「貴様は平民の分際でも飽き足らず汚らわしい異能者だと!!!」
「異能者差別主義でしたか、貴方は。これからの時代には合わない人間ですね。」
オダの異能、未来視、確かにこれですべて辻褄がある。
狙撃もまったく効果がなく、待ち伏せも看破され、近距離魔術戦に至っては魔術の軌道と相手の反応がわかっているかのような回避反応と応戦能力。
すべて異能によるものと聞かれたアゼルは腑に落ちる。
「イグナイト卿が"第七園"、でしたか?それを発動したのを先読みしました。銃を発砲した後、すぐに魔術で幻影の俺を生み出し、本体はこの部屋に入った時に開けっ放しにしていた扉から出ていたんですよ。申し訳ありません、なんせ下賤の者ですので扉を閉める習慣がないので。その後はイグナイト卿が現在体験されていると思いますのでくわしくは述べませんが。もしあなたが油断せずにこの家全体を等しく高出力で燃やし尽くしたらどうなったかはわかりませんでしたが、あなたは目の前の幻影に集中して攻撃した。そのおかげで俺は何とか生き残ることができたんですよ。どうですか?冥途の土産になりましたかね?ではお土産も渡したことですし。さようなら、イグナイト卿」
アゼルを始末しようとしたその瞬間。
あたり一面が業火に包まれる映像が視えた
一体なぜ?
オダはあと数秒後に訪れる未来を避けるために急いでこの室内から脱出した。
その数秒後、あたりは一面火に包まれた。
僅かに残っていた"第七園"の領域を利用した攻撃である。
不完全な領域ながら"第七園"を発動させるとはさすが紅焔公であろう。
(クソ、始末出来なかった。いったん引くか?)
そう考えていると火の中からアゼルが現れる。
「この私を散々コケにするとは・・・生きて帰れるとは思うなよ?」
そう言うと手に持っていた"赤い鍵"を自分の胸に差し込むと、空間が圧迫されるような、禍々しい魔力がアゼルを呑み込み、暫くするとその場に炎の魔人が現れた。
"炎魔帝将"ヴィーア=ドォル。
お伽話として有名な「メルガリウスの魔法使い」に出てくる魔王の配下"魔星将"の一柱。
そんな物語の存在がオダの目の前に降臨した。
「この虫けらめ、貴様だけは私の全身全霊をかけて殺そう」
先程までとはまったく違う圧倒的な威圧感と異次元の灼熱が辺り一帯の空間を充たす。
来る・・・そう思っていると。
「まあどうせ貴様は死ぬのだ。その前に貴様に感謝しよう」
「感謝だと?一体どういう風の吹き回しだ?」
「貴様に使わされたのは癪だがこの力、なんという素晴らしさだ。機が熟すまで”炎魔帝将”ヴィーア=ドォルに転生するのを待っていたのだが、そんなものはもうどうでも良い。この身になってからというもの外宇宙の力と知識が我が魂に刻まれるこの感覚・・・。貴様のおかげだ、こんなにも早くこの力を使えるようになるとは。ふふふ、ははははは・・・っ」
アゼルの話していることが全く理解できないオダだったが、動かないことを良しとし、アゼルめがけて弾丸を放つ。
だがアゼルは相変わらず動かず、そのまま弾丸がアゼルに着弾しようとしたその瞬間。
弾丸は蒸発した
「ふん、今の私は"炎魔帝将"ヴィーア=ドォル。無知の貴様に分かりやすくいうと今の私は炎そのもの。貴様ら矮小な人間が使う武器も魔術も、どんな攻撃も通用せん。さて、死ぬ覚悟はできたか、人間?次はこちらの番だ」
アゼルがそう言い放つと、灼熱の炎がオダの下へと迫ってきた。
あれからどのくらいの時間が経ったのだろうか
アゼルからの攻撃は異能の力でなんとか躱すことが出来るが、唯それだけである。
こちらからの攻撃の手段が一向に見つからない。
魔銃で威力を高めた攻性魔術も実弾も全くといっていいほどアゼルにダメージを与えていない。
魔力、体力共にオダは枯渇しかけているのにアゼルは汗一つもかいていない。彼の言うことを信じると人間ではなくなっているらしいのでそんな概念があるのかもわからないが。
「人間にしてはよくやるではないか。だがそろそろ私も飽きてきた。次で終わらそうとしよう」
そう言うと今までで一番の火力を解き放つアゼル。
まるで今まで出し惜しみしていたのか、いや、オダをいたぶるために死なない程度で戦っていたようだ。
もはや打つ手なし・・・いやあるかもしれない。
オダは
(まさかこの弾丸を使う日が来るとは)
しかし、この弾丸を作成するにあたって共に実験をしてきて分かったことは、効力が発揮する距離はゼロ距離でないといけないこと。
つまり今の状況だと死ぬ確率が大なのだが。
「ふん、覚悟などとうに決まっている」
オダはアゼルを見、ある魔術を起動させる。
「
「まだあらがうか、人間!」
オダは魔術を起動させアゼルへと近づく。
アゼルもこれで終わらすつもりか魔力を高める。
アゼルまで約10メトラ
未来を視ても、炎による広範囲攻撃を仕掛けられ、避けることは不可能。
なら出来ること、それは前に進む、ただそれだけ。
オダは身体操作で一気にアゼルまでの距離を稼いでいるその瞬間。
炎がオダへと襲ってきた。
今までの炎がまるで温かったかのように感じられるほどの熱量。
事前に何重も対抗呪文を施したが、この炎のまえには歯が立たず、一瞬で解けてしまう。
それでも少しは距離を詰める時間が稼げた。
オダは常人ではもう気を失っているほどの火傷を負っているにも関わらず、前へ進む。
孤児院でもう会えない子供たち、魔術学院で世話を焼いた
たったの20年の思い出が一気に流れ始めてきた。
これが走馬灯か、そう思いながらオダは前へ進むと最後にはこの1ヶ月共に過ごした
後悔を上げるとしたらあの人を振り切って去ったことか。
そう思っていると、誰かから後ろを押されたような気がした。
するとどういうことか、おそらく辿り着けないであろうアゼルが目の前にいた。
まさか死なずに辿り着くとは考えてもいなかったらしく、アゼルも戸惑っている。
オダは最後の力を振り絞り、魔銃"ジムノペディ"をアゼルの胸元に押し付ける。
「まさか、まだ生きて・・・」
「くたばれっ・・・"
胸元に押し付けられた銃口から一発の弾丸が放たれた。