アルザーノ帝国魔術学院学生食堂。
午前の授業も終わり、多くの学生でごった返しているこの場に男女二人の講師とその教え子三人の女生徒がテーブルを囲んで昼食を取っていた。
「グレン君、毎日カレーばかり食べてて飽きないの?好きな物ばかり食べずに他のも食べたら?」
「そうですよ、先生。セラ先生の言う通りちゃんとバランスよく食べないと!」
「白犬、白猫煩い!お前らは俺のオカンか!!!」
「白犬じゃありませ~ん。私にはセラという名前があるんです。ねえシスティーナちゃん」
「そうですよ、人を動物の名前で呼ぶなんて!いい加減ー」
「あ~聞こえない、聞こえない」
最近の食堂のお馴染みのやり取りと化したそれを温かい目で見る金髪の少女と一心不乱に苺タルトを食している無表情の少女。
このやり取りを眺めていた金髪の女子生徒がふと尋ねる。
「でも先生、毎日カレーを食べていますよね。何か思い入れでもあるんですか?」
「まあ理由があるっちゃああるけど・・・」
「何々、グレン君?教えてほしいな~」
「あ~白犬、寄るな、うっとおしい!」
グレンはセラを追い払い、話始める。
「あれは俺が魔術学院に入学して2年目のことだなー」
落ちこぼれと烙印を押されたグレンの面倒をよく見てくれた、もう会えないとある一人の先輩のことを思い出し、昼食の時間に過去の記憶が蘇る。
「クソッ!」
アルザーノ帝国魔術学院2年次生のとある少年が悪態をつきながら学院内を歩いていた。
理由はその少年が持っている"変化の停滞・停止"という
魔術学院にも関わらず魔術に適性のないことと彼の経歴、史上最年少で魔術学院に入学したことも相まってか同年代のいないその少年は、学院で燻っている学生の不満の捌け口としてのスケープゴートに最適であった。
やれそんな魔術師に向かない
そして今日も。
「おい、グレン!魔術戦しようぜ」
「・・・なんでお前らなんかに付き合わなくちゃならないんだ」
魔術戦という名のリンチが始まろうとしていた。
「おいおい、そんなこと言うなよ。俺たちは魔術に不出来なお前のことを思ってしているんだぞ?」
「じゃあ結構だ。お前らなんかに教えてもらうことなんかねえよ」
「・・・イキがんじゃねえぞ、この劣等生が」
大陸最高峰の魔術師から直接学んでいるグレンの言っていることは正しいのだがそんなことを彼らが知る由はない。
グレンの挑発に乗り魔術を唱え始める生徒たち。
それに応戦してグレンもタレットカードを取り出し、魔術を起動しようとしたその時。
「おいお前たち、何をしている!」
まさに魔術戦が始まろうとしたその時にある学生の声がその場に響き渡る。
「あんたは・・・オダか!」
「オダさんだ、この馬鹿者が。上級生に対してなんて口を聞いている」
現れた学生はオダ。
アルザーノ魔術学院4年次生にして首席学生である。
孤児院出身の平民が魔術学院に入学するのも異例なのだが、さらに2年次生以降は常に学院の首席を走る秀才。
これに嫉んで一部の学生からはよく決闘を申し込まれるのだが全戦全勝。
さらにはとある事件(幕間1参照)が起きてからは講師陣もオダに対して強く出ることが出来ず、学院内では誰も逆らうことのできない男である。
「で、お前たち。寄ってたかってそこの学生をリンチしようとしていたが?」
「ち、違いますよオダさん。俺たちはこの劣等生に教えてやろうと・・・」
「ほう多対一でか。ずいぶんと用心しているんだな」
オダに睨まれ凄む学生たち。
耐えきれず一人が逃げ出すと二人、三人と蜘蛛の子を散らすように去っていく。
後に残ったのはオダとグレンの二人のみであった。
「で、大丈夫かい。グレン君?」
「・・・なんで学院の首席様が劣等生の俺のことを知っているんですか?」
「そりゃ君は有名だからね。魔術学院を史上最年少で入学した神童が実は魔術が不出来な落ちこぼれ君としてね」
「失礼します」
「ちょっと待とうか」
この場から立ち去ろうとしたグレンを止めるオダ。
「なんですか、オダさん」
「いや、軽い発言だった。君を傷つけたようだね。謝罪といってはなんだが飯を食いに行かないか?」
「いや、なんでまた」
「君の
「!!!」
驚くグレン。
「・・・どこで知ったんですか?」
「何、この前の君の魔術戦をみたところ、相手の魔術が中々発動しなかったからね。そこから推測して君の
「いやー」
「よし、じゃあ行こう!実はお気に入りの咖喱屋さんを見つけてね」
「話を聞けー!!!」
無理やりグレンの手を取り連れ出すオダ。
グレンにとってこの出会いがこの1年間オダと長い付き合いとなり、さらには今後大きな影響を与えるなどとは、その時は一切思ってもいなかった。