「くそ、誰か止めろよ、相手は新入りだぞ」
「そうはいっても、学院に多大な支援をしてくれるシュウザ―家の次期当主であり、あの若さで第四階梯へ至った天才だぞ。気軽に言える立場じゃないんだ」
ある日の会議室、ここ最近の出来事となったとある新任教授が起こす騒ぎをどうするか、学院の講師は議論していた。
「静かに!今は誰を彼の
話しが逸れ始めた頃、学長が最初の議題にして最大の問題を講師陣に突きつけた。
「嫌だ!私は一度手伝ったから今回は抜けるぞ」
「おいまて、
まさに会議は踊る、されど進まず。
今回も延々と決まらないかと思ったその矢先。
「学長・・・彼に頼むのはどうですか?例の首席に」
「アイツに?だが彼は生徒だぞ」
「彼の出自は学長も知ってるかと。
下品な笑みで学長、マキシム=ティラーノに貴族主義で凝り固まった講師が提案する
「ふむ・・・それはいい提案だ、彼は金が手に入り、私たちは平穏を得る。まさにwin-winだな」
「いつもはうっとおしいと思ってましたが、今回は彼の下賤な身分を利用できそうですな」
周りの講師も自分たちが助かるならという判断でこの二人の意見に賛成した。
「ここかな」
オダは学院長から直々の依頼により、とある教授の実験の助手を依頼された。
依頼した時のあの学長の顔はやや嫌悪感を感じたが、莫大な依頼料を見せられ、孤児院のガキどものためと思い、渋々引き受けた。
「失礼します」
「ん?誰かね君は」
「学長からあなたの助手をしろと依頼されたオダです」
「ほう今回は学生が助手か、よく来てくれた。これで実験が進む」
そういいオダに握手を求めたのは、今学院中の話題の中心となっている人、オーウェン=シュウザ―教授。
オダとは見たところ僅か2,3歳しか離れていないようにも関わらず、すでに第四階梯へと至った若き天才であり、このままいくと近い将来第五階梯に進むのも時間の問題といわれている男である。
「それで今回はどんな実験なんですか?」
「そうだそうだ、君にはこれを飲んでもらう」
そういうとオーウェンは戸棚から出した薬をオダに手渡した
「これは何ですか?」
「なんとこの薬を飲むと周りの人間に対して言うことをすべて聞かせることが出来るのだ。普段いじめられっ子の気弱い少年少女でもこれさえ飲めばいじめっ子に対して命令できる、まさに虐げられた者にとって夢のような薬なのだよ!」
オーウェンの力説を軽く聞き逃し、オダは質問した。
「その間、相手は命令されていることを覚えているんですか?」
「もちろん覚えていないに決まっているだろう。その後仕返しされたら元も子もないしな」
「・・・あなたは天才魔術師と聞いていましたがそうではなさそうですね」
「なに!貴様、聞き捨てならないぞ」
オダは怒るオーウェンを無視し、さらに続ける
「俺なら薬の効果中も覚えさせますよ。仕返しが怖いから覚えさせない?逆ですよ教授。命令中のことも覚えさせるんですよ。薬の効果が切れた後も羞恥心で苦しませて精神的に追い詰める。あなたならそんな薬が作れるでしょ?」
オダの提案を聞いたオーウェンの目は輝いていた
「な・・・なんていうことだ、このオーウェンがそんな些細なことに気づけなかったとは。このオーウェンの手がかかればすぐにでも改良できよう、少し待っておれ」
そう言うとオーウェンは研究室の奥に籠り、薬の改良作業を始めた。
「先生、少しよろしいですか」
「どうした・・・ちっ!貴様か。首席かどうか知らんが私に声をかけてくるな」
オダが話しかけたのは先ほどの会議で学院長に今回の話を持ち掛けた教授である。
貴族主義に固まった教授はもちろんオダのことを見下していた。
「いえ、ぜひお聞きしたいことがあるんですよ。あなたが隠していることは何ですか?」
「何?そんなことなぜ貴様に・・・”給付金を着服している”!!!」
教授は墓場まで持っていくであろう情報をあっさりとオダに吐いてしまった
「なるほど~道理で最近羽振りがいいと思っていたらそんなことしていたんですか。他はないんですか」
「”今年の新入生の女子生徒に手を出した”んんん!!!」
その後、すらすらと黒い情報が駄々漏れた教授は息をしておらず、オダは次のターゲットを探すため、その場を立ち去った。
その後、オタは今まで自分の出自で嫌がらせをしてきた講師陣、生徒にその魔の手を使い、彼らの弱みをすべて握った。
この結果、オダに対して学院側は何も手が出せず、唯一出来たこととしてセリカ=アルフォネア教授以来二人目となる、オーウェンの助手を引き受けさせないことだけが決まった。
しかし研究は手伝えなくとも、年も近い二人はすっかり意気投合し、共に茶を飲む関係となったことで、オダが放課後オーウェンの研究室へと足を運ぶ姿がよく目撃された。
それを見た被害者たちは戦々恐々とするのだが、助手をしないという約束は守っているようなので、この件に関しては一切誰も触れなかった
少し話を脱線するがオダが卒業した直後、マキシム以下不正を行った講師陣はすべて学院を辞めた。この裏には教導省にこの話をオダが伝えたという話があるような、ないような・・・
真実は全て闇の中である。
卒業当日
「久しぶりですね、教授。しかしまさか引きこもりのあなたが式に出席とはどういう風の吹き回しですか?」
「君、さすがの私でも友が旅立つその日を祝わないはずがないだろう」
そう言うとオーウェンはオダに手渡した。
「何ですかこれは?」
「これはデザインがまだ決まっていない試作機なのだが、このバックルはなんと変身することが・・・」
「気持ちだけで結構です」
オダはすぐさま断った
「何?力作だと思ったのだが・・・ならばこれはどうだ?」
オーウェンは小箱を手渡し、オダがそれを開くと・・・
「これは・・・銃ですか?」
「そうだ、私が発明した魔銃”ジムノペディ”。見た目は大口径の
オーウェンは弾丸を手に持ちさらに続けた。
「これは君の固有魔術で使う魔晶石を弾丸に加工したもの、魔弾だ。これを
オダはオーウェンの思わぬ贈り物に息を呑んだ。
「いいんですか教授?こんないいものを頂いて?」
「なに、私からしたら些細な贈り物だよ。未来ある若者に、そして友の将来に栄光あれ」
「未来ある若者ってそんなに年はあなたと変わらないでしょ」
「そんなことは言うな。そうだ!この魔銃に付属した魔道具も作成したのだ、ぜひ使ってほしい」
「変な機能は持っていないでしょうね」
「まずこれは身分違いの恋に落ちた男性が意中の令嬢の元に行くための・・・」
「却下です!!」
その後、日が暮れるまで会話は盛り上がり、そして、まるで今日が今生の別れのように、名残惜しそうにオダは去っていった。
「変!身ーっ!。クソ!全然変わらないじゃねえか!」
あの日から数年後、オーウェンは相変わらず学院のお騒がせ者として知られていた。
今日もいつものような目が死んでいる助手が来ると思っていたのだが、まるであの時の彼のような人物が教え子を連れて研究室にやって来た。
だからだろうか、急に彼のことを、友のことを思い出したのは。
短い間だったが、オーウェンにとって初めてといっても過言ではない友といえる男だった。
その後、彼とは会うことが叶わず、当の本人も世間に疎いため、あれ以降彼の音沙汰は一切聞こえてこなかった。
あの日彼に渡そうとしていたバックルもとうとう完成し(機能面はあの時にもほとんど完成していたのだが・・・)、本来なら彼に最初に着けてほしかったバックルは、現在助手である男性教師が身に着けていた。
「へん、しぃぃぃん!!!」
「そうだ、その調子だ!・・・あと今思い出したんだが、変身する呪文は"変・身!”ではなく”瞬・転!”だったわ。すまんなグレン先生」
「ぶん殴るぞ!テメェ!!!」
今日もオーウェンの研究室は賑やか?である。