あの事件から数日後、オダと先輩は上官に呼ばれた。
「まさか二階級特進の上で俺はレザリア方面へ、オダ君は中央に異動とはな」
「俺たちなんかしましたっけ?」
「まあ明らか先日の件だろう。しかもオダ君は明日にも帝都司令部へ出頭とは、ただ事じゃないな」
オダと先輩は先日の件に関しての評価ということで昇進、異動が決まり、午後の業務は休んで荷造りをするよう上官に言われた。
「はあ、きな臭いな」
「どうしたんですか、先輩?確かに先輩はレザリア方面へ異動という一見すると左遷ですが、将来の国境警備隊のエリート街道まっしぐらじゃないですか」
国境警備隊にとって階級が昇進してからのレザリア国境方面への異動というものは、キャリアコースの一環である。
現在の幹部も昇進してからレザリア国境方面へと配属されている。
彼の将来は約束されたも同然なのだがどうも顔が浮かない。
「いつも通りだったらよかったんだが、今回はイグナイト家が関わっていそうなんだよな」
「そんなに怖いんですか、イグナイト家は?」
市井出身のオダからしたら特に何の違和感も持たないが、仮にも貴族階級の端っこである男爵家出身。
しかも継承権のない妾の子である先輩だとしても、貴族社会のなにかを感じたらしい。
「俺ん家は貴族階級で言ったら弱小中の弱小なんだけど、親父が運よくイグナイト家の派閥に入っているからな。だからよく悪い噂が聞こえてくるんだよ。なんでも政敵を蹴落とすためにはどんな手段も問わないとか、実績を得るためには味方さえも生贄にするとか、な」
「あ、あの二人もそんなに手を汚しているんですか?」
「まああの二人はまだ当主じゃないからな。当主から命令されて行動に移すことはあるかもしれないけど、まだ命令する立場にはなっていないだろう。一見すると普通の女の子に見えるけど彼女らも当主になると、イグナイト家のためならどんな手段でも実行するんだろうな」
先輩が言ってからか、オダも不安を感じ始めた。
「先輩。俺、貴族の連中が嫌というのも理由の一つで辺境で働こうと決めたんです。だから、俺の中央勤務と先輩のレザリア方面への異動、交換しませんか?」
「残念だなオダ君。俺も貴族の連中は嫌いだ。この機会に貴族の連中とお友達になってきたらどうだ?」
帝国国民なら誰もが憧れる、陛下が御座る帝都オルランドでの勤務。
その憧れはこの二人にはどうやらないらしい。
二人はいつものように言い争いながら帰路に就いた。
「じゃあなオダ君、今度会うときは君をこき使う立場になっておくよ」
「その言葉、そっくりそのまま熨斗をつけてお返ししますよ」
その晩、帝都へと向かう夜行列車に乗るオダを先輩が見送りに来てくれた。
「まあなんだ。改まっていうと恥ずかしいんだが・・・。この1年はとても楽しかったよ。まあオダ君ならどこにいっても活躍できるだろう。帝都にいっても元気でな」
「先輩・・・」
いつもならお茶らけている先輩が真面目に話すので、オダの涙腺が少し緩んできた。
「ではオダ君さらばだ。また会おう」
「はい、先輩もお元気で」
翌日、帝都オルランドに着いてから休む間もなく、オダはアルザーノ帝国国境警備隊司令部へ出頭した。
「オダ一等警備士。君には帝国宮廷魔導士団へと転属してもらうことになっている」
「・・・は?」
帝都に着いてすぐ呼ばれたと思ったらまさかの国境警備隊をクビ宣告である。
「ちょ、ちょっと待ってください。俺・・・いえ、私の所属は国境警備隊、つまり法務省管轄下です。法務省の他の組織への異動ならまだわかりますが、宮廷魔導士団といえば国軍省直属。つまり完璧に管轄外じゃないですか!」
国境警備隊ということからよく国軍省の管轄下と間違われることが多いが、国境警備隊は警察などと同じく治安維持のための組織であるため、警察と同じく法務省の管轄下にある。
オダは抗議すると長官が話を止めた。
「オダ一等警備士。君は我が国の省庁における縄張りについてよく理解していないらしい。だから君に教授してあげよう。我が国の軍、警察といった国防・治安維持に関わる活動はすべて現女王府国軍大臣兼国軍省統合参謀本部長アゼル=ル=イグナイト卿が生家、イグナイト家の強い影響下にある。国境警備隊は準軍事組織、つまりイグナイト家の影響下にあるのだよ。これでわかったかい?君が国境警備隊から宮廷魔導士団へと転属されてもおかしくない理由が」
オダは事の大きさにあっけにとられたが、すぐに反論した。
「しかし私は軍人ではありませんし、軍の訓練にも参加したことのない素人です。そんな私が軍の中でも精鋭の宮廷魔導士団に配属なんて無理かと」
「謙遜はいいよ、オダ一等警備士。君は昨年の
クソ、あの時の黒歴史を覚えているなんて。
オダは昨年行った
「あれは全員新人であり、アルザーノ魔術学院首席である私に魔術戦に関してアドバンテージがあったからです。褒められるものではありません」
「知っているかい、オダ一等警備士。宮廷魔導士団の新人の多くは他から配属された魔術戦の猛者達だ。君はその猛者を圧倒したんだ。実力は証明されてる」
まさかそんな裏があったとは。
どうりで動きが他の新人と比べていいはずだ・・・じゃなくて!
「しかし1年のハンデがあります。実戦で戦うとなると・・・」
「なぜ実戦配備と勘違いしているんだい、君は?」
「え?」
どうやらお互いに齟齬があったらしい。
長官はオダを見て辞令を読み上げた。
「"オダ一等警備士。宮廷魔導士団への異動を命じ、本日から宮廷魔導士団特務分室
長官はオダに辞令を手渡すと、もう用はないようで、部屋に呆然と立っているオダを残して立ち去った。
国境警備隊の階級は海上保安庁を参考にしました。
興味のある方は見に行ってください。