したがって長続きするかは分かりませんが、よろしくお願いいたします。
ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……。
心電図から発する規則的な機械音が部屋の中を静かに響き渡る――。
とある手術室そこには台に乗せられた患者を中心に、複数の医師や看護師たちがその者の治療に全力を注いでいた。
その内の一人――執刀医らしき医者の手が今、静かに止まり、手に持つピンセットをそばにある小さな台の上にカタリと置いた。
「縫合完了。……手術は終了だね」
執刀医のその医者の言葉と共に、手術室に充満していた緊迫の糸が一気にほぐれた。
その途端、周りにいた医師や看護師らから賞賛の拍手が彼に浴びせられる。
「いやぁ~今回もお見事でした
医師の一人がそう声を上げるのにも構わず、執刀医の医師は手術用のゴム手袋を脱ぎながら何とでもないかのように次の指示を周りの者たちに飛ばす。
「患者を
『はい!』
その場にいる全員の了承の声を背に受け、執刀医だった医師は疲労の溜まった身体を引きずるようにして手術室を後にした――。
手術室を後にし、手術用のマスクとキャップを外した私は、洗面台で手を洗いながら何の前触れもなくふと、自身の人生を振り返ってみた。
――何を隠そう、『私』は転生者だ。
前世でもそれなりに腕の立つ医者だった私は、医療を極めるべく来る日も来る日も医学書と患者相手に医学の研鑽を積んでいった。
そうしてそれなりに満足のいく腕となった私は、やがて天寿を全うし前世の世を去った――。
――だが、どういうわけか前世の世界とよく似た、
(……そうして第二の人生を生きる事半世紀以上……。
手を洗い終え、洗面台に設置された鏡に映るシワの深い自分の顔を撫でながらそうしみじみと思う。
前世でもそうだったが、今の私もこの年で独身の身だ。生まれ変わったことに気づいた時、前世の知識と経験もそのまま今の肉体に受け継がれているのを知り、前世の延長だとばかりに再び医療を極める道を歩みだしたのだ。
そのかいあって、今では世界でも五本の指に入るほどの凄腕の名医として世界中から注目の的となっていた。
その上、
多忙ながらも充実した日々を送れていた。
(しかし……)
ふいに鏡に映る自分の顔をジッと見つめる。
今じゃ側頭部と後頭部以外に髪は生えておらず、頭頂部に至ってはもはや壊滅的となったシワの深い初老の男の顔がそこにあった。
今世の実年齢よりもやや老けてはいるものの、どこにでもいそうなごく普通の一般人の顔のはずであったが、あえてその顔の特徴を一言で言い表すとするのであれば――。
――それは、
(……若かりし頃は気づく事も無かったけど、この顔……やっぱりどう見ても
前世でまだ学生だった頃、とあるラノベ小説に没頭し読みふけっていた時期があった。
それは『とある魔術の
とても人気の高い小説でありその物語を軸に何本かのスピンオフ作品が作られるほどであった。
そして冥土帰しは、その小説に登場する凄腕の医者であり、その腕前は『神の摂理すら捻じ曲げる』と言われるほどに規格外で、切断された腕を奇麗につなぎ合わせて治したのを始め、どんな怪我も病気も彼の手にかかれば必ず治してしまっていた。
(まぁ、原作の彼ほどではないにせよ私も今じゃ
前世からの研鑽の賜物か、転生者である彼も過去に何度か神業とも呼べる奇跡的な治療を成功させていた。
それこそその内の一つ、自分が執刀する手術に立ち会った
(今はもう収まってるけど、あの頃は世界中から我先にと治療の依頼がひっきりなしに来て大変だった……)
一時も休むことも無く世界各地を飛び回っていたころを思い出しやれやれと肩をすくめる。
もう二度とあんな厄介な目には遭いたくないと……そう思ったのがいけなかったのだろうか。
唐突にポケットに突っ込んでいたマナーモードの携帯が大きく震えた。
何事かと携帯を取り出し、開いて液晶に浮かんだ名前を見て僅かに目を見開く。
――そこには『
その名を見た私は躊躇いなく電話に出る。
「もしもし僕だけど……久しぶりだね博士。元気だったかい?」
『おぉ、久しぶりじゃのうそっちも元気にしとったか?』
携帯越しに気さくな声が耳に届く。
阿笠博士。今世の私の学生時代の学友で今もなお交流のある友人の一人だ。発明家で毎回毎回珍妙な発明品ばかりを作っている。
「去年の年末の忘年会以来かね?……で、今日はどうしたんだい?」
『あぁ、うん……実は、なんじゃがなぁ……』
博士の先程までの気さくな口調が一変して深刻そうな重いモノになった。
携帯越しに何か言いづらそうに口をもごもごとしているのが伝わってくる。
怪訝な顔で耳を傾けていると、ようやく博士が口を開いた。
『……悪いんじゃが今日、この後時間は空いとるかの?』
「ああ、空いてるが……一体どうしたんだい?」
『実はのぅ……ぜひキミに診てほしい人がいるんじゃ』
「診てほしい人?」
博士の言葉に怪訝に寄せていた眉根がさらに深まる。
他の医者にではなくわざわざ私を指名してきたという事は、それ程までに重傷、あるいは難病を抱えた者なのだろうか?
「それで、その人はどんな人なんだい?」
『……新一じゃよ』
「新一君!?」
博士が口にした名前に私は思わず声を上げた。
新一――
私も彼が難事件を解決する様を何度かテレビや新聞で見た事があった。もちろん面識もある。
そんな彼が今、危機的状況にでもあるというのだろうか。
「彼に一体何が?……新一君は今大丈夫なのかい?」
『ああ、容態については何の問題も無い。むしろピンピンしておるから安心してくれ』
ピンピンしてる?元気だというなら何故私に依頼を?
どういう事なのかいまいち理解が出来ず首をかしげていると、博士の方から意を決したかのように
『じ、実はのぅ……今、新一――』
『――身体が縮んでしまっとるんじゃ』
「………………………………………。はぁ?」
思わずそんな声が漏れた。博士の奴、一体何を言ってるんだ?
半ば思考が停止している自分に気づいていないのか、携帯越しに博士はまくし立てる。
『今新一の奴、何か変な薬を飲まされたとかで身体が小さくなってしまってのぅ。見た目小学生くらいの子供になってしまっとるんじゃ。……なぁ頼む。新一を元の姿に戻すのに協力してくれんじゃろうか?』
「…………」
懇願する博士の声を聴きながら、私は全く別の事を考えていた。
(……博士の奴、研究のし過ぎで疲れてるのかね?)
軽くキャラ説明。
・冥土帰し(転生者)
冥土帰しの姿で『名探偵コナン』の世界で暮らしている転生者。
医療の腕前は転生特典ではなく、前世から今世まで一から培ってきたたたき上げ。
その腕は原作の冥土帰しと比べても引けを取らないモノとなっている。
本物である原作の冥土帰しに対して、彼の医者としての腕とその信念には強い敬意を表しており、その為か転生者である自分自身もそれに
誰かと会話している時、一人称は『僕』になるが、一人でいる時や考え込む時は前世からの一人称で『私』となる。
原作の冥土帰し同様、この作品でもこの転生者の本名は伏せられており、他者から呼ばれる時は基本、『先生』か『カエル先生』で通す予定。
・阿笠博士
冥土帰しの学生時代からの旧友。後は原作基準。以上(適当)。