少し長くなりそうだったので、前編と後編に分ける事にしました。
視点がコロコロと変わります。
SIDE:江戸川コナン
(クソッ!雅美さん行っちゃだめだ……!)
今俺は、ついこの間起きたばかりの『10億円強奪事件』の最重要容疑者――
強奪事件に関与したと思われる雅美さんを含む強盗犯三人組の内、二人が昨夜何者かに殺され、その殺人現場の一つに彼女の物らしき口紅が落ちていた事から、警察は雅美さんを容疑者としてマークしていた。
だが俺は、現場に落ちていたというその口紅と、強奪犯が乗り捨てて行った車に残っていた覆面に違和感を覚え、雅美さんたち三人の他に別の人間が裏で糸を引いているのではないかと考えた。
その人物が他二人を殺し、その罪を雅美さんになすりつけようと偽装工作したのだと――。
俺は何か手掛かりが無いかと、先程雅美さんのマンションに忍び込み、そこで10億円を隠しているであろうコインロッカーのカギを見つけたのだが、直後、雅美さんに当身を食らわされ鍵を奪い返されてしまう。
(おそらく雅美さんは、強奪犯二人を殺した犯人の所に向かってるはず……!このままじゃ雅美さんも――うぐっ!?)
雅美さんを追跡している最中、唐突に首筋に痛みが走った。
先程、雅美さんに当身を食らわされた場所だ。
(くっそ……!まだ痛みやがる……!)
痛みに耐えかね、俺はスケートボードをいったん止めるとそばにあった電柱に身体を預け、痛みが引くまで首筋を手で抑える。
(こんな事してる場合じゃねぇっつーのによぉ……!)
俺は顔を歪めながら犯人追跡メガネで雅美さんの現在地を確認する。
彼女が車で出発する直前、俺は彼女の車に発信機を仕掛けていたのだ。
(この方向……埠頭か!確かあそこには古びた倉庫街があったな?彼女はそこで犯人と……?)
早く追いつかないと、と再びスケートボードを発進させようとしたその時――。
「どうしたんだいコナン君。こんな所で?」
「!」
聞き慣れた声に思わず振り返る。見るとそこには車が停車しており、開けられた運転席側の窓からひょっこりと見慣れたカエル顔がのぞいていた。
「カエル先生!」
「見た所、血相変えてるようだけど、何かあったのかいコナン君?」
一応、屋外。それも人目があるため「新一君」ではなく「コナン君」で呼んでくれるカエル先生に内心ちょっぴり感謝しながら、俺はカエル先生の車に駆け寄った。
「カエル先生こそ、どうしてここに?」
「僕の患者の一人が自宅療養していてね、その
「……悪ぃが詳しい話をしてる暇はねぇんだ。早く埠頭に向かわねぇと死人が出るかもしれねぇ……!」
俺がそう言った瞬間だった。カエル先生の顔が明らかに険しさを帯び、助手席側のドアを開けて俺に向けて声を上げた。
「乗りなさい。案内してほしい」
「え?」
突然の事に面食らう俺に、カエル先生は真剣な口調で言葉を続ける。
「人の命がかかってるんだろう?なら僕の力が必要になるかもしれない。……違うかい?」
「!」
カエル先生の言いたい事を直ぐに理解し、俺は強く頷くとカエル先生の車に乗り込み、一緒に埠頭へと向かった――。
SIDE:カエル顔の医者(冥土帰し)
道端でばったりと会った新一君を拾い、急ぎ埠頭へと車を飛ばす私は、その傍ら新一君から詳しい話を聞いていた。
「10億円強奪事件?それってこの間あったっていう?」
「ああ。その強奪犯の内、二人が何者かに殺されちまって、残ったもう一人、広田雅美さんの命も危ねぇんだ!恐らく今向かってる先に雅美さんと二人を殺した犯人がいるはず……!」
「まずいね。ひょっとしたら、鉄火場に飛び込む事になるかもしれないよ?」
「なら、なおさら行かない訳にはいかねぇよ!」
そうこうしているうちに、私たちの乗る車は埠頭の倉庫街へと入っていった。その直後――。
――パァン……!
一発の乾いた破裂音が辺りに響き渡った。
「今のは……!」
「銃声……!」
私と新一君の声が重なる。すると、再びパァンという乾いた破裂音が――。
「――っ!カエル先生急いでくれ!!」
「分かってるよ!」
私はさらにアクセルを踏み、車を加速させる。
やがて新一君の
新一君は慌てて私の車から飛び降りると一目散に倉庫の中へと入っていく。
私も車を降りると、直ぐに倉庫には向かわず車のトランクを開けて、中からいつも持ち歩いている医療道具の入ったボストンバッグと、もう一つ
すると、中には血だまりに沈む女性の姿とその女性に声をかける新一君の姿があった。
私も急ぎ、彼らの元へ駆け寄っていく。
近づくにつれ、新一君とその女性の会話が聞こえてきた――。
「組織……?」
「謎に包まれた大きな組織よ……。末端の私に分かるのは、組織のカラーがブラックって事だけ……」
「ブラック……?」
「そう……組織の奴らが好んで着るの……。
「「!!?」」
女性のその言葉を聞いた瞬間、新一君も私も驚愕を露にせずにはいられなかった――。
SIDE:広田雅美(宮野明美)
死に向かう時というのは、こんな感じなのだろうか……?
ジンによって腹部に空けられた弾丸の穴から、まるで砂が零れ落ちるように自分の生命が抜け落ちていくのが分かる。
心残りが無いと言えば、嘘になる。むしろ多すぎるくらいだ。
できればもう一度、妹と
しかし、もう私にそんな時間は残されていない。
せめて奪った10億円の在りかだけでも、工藤新一と名乗った目の前の少年に伝えないと……。
そう思い口を開きかけた時、私に向けて第三者の声がかけられた。
「もうそれ以上、喋らない方がいいよ?」
「……?」
見るといつの間にか私を挟んで少年の反対側に、カエルのような顔をした初老の男性が私の顔を覗き込んでいた。
――え?
目を見開く私に、そのカエル顔の男性は笑って口を開く。
「驚かせてしまったかね?いや、心配しなくていいよ。私はただのしがない医者だからね?」
男性が医者と名乗った瞬間、私の中で
――凄い人だよ彼は!ボクと同年代でありながらボクとは比べ物にならないほどの医療に優れた腕を持ってるんだ!
――いつか一度でもいいから、彼と仕事がしてみたいね!彼から学べる事がそれこそたくさんあるはずだよ!
そう……子供のようにはしゃぎながら、
――間違いない、この人は……
「うぐっ……!」
そこまで考えた私の体を今まで以上の激痛が走った。
それに気づいたカエル顔のお医者さんは真剣な顔つきになると口を開いた。
「大丈夫かい?今すぐキミを治すからね?」
「もう……無理、ですよ……。自分の事は……自分がよく分かってますから……」
息も絶え絶えにそういう私に、お医者さんは静かに首を振った。
「いいや。キミは助かるよ」
「……え?」
はっきりと。そうはっきりと断言するお医者さんに私は驚きを隠しきれずにいると、その人は続けて口を開いた。
「キミは今自分の口で喋っている。意識だってまだある。息もしている。心臓だって脈打っている。キミはまだ……生きてるんだ」
「…………」
「僕は目の前の相手がまだ生きてるのなら必ず治す。何があっても最後まで見捨てるつもりはない。僕が一言『助かる』と言えば、その人は必ず助かる。だから――」
「――安心して、僕に任せてほしい」
――ぁ。
柔和な笑顔を向けて来るお医者さん。何故だか分からない。分からないが……似てもいないその顔が、私の愛する恋人と重なって見えた――。
組織に潜入していたFBIの捜査官である彼……。彼の言葉が、姿勢が、いつも私には心強く映っていた。
――その瞬間、いつしか私の胸中は安堵に包まれていた。
ふいに私の腕にお医者さんが注射針を刺す。恐らく麻酔だろうと思った時には、私はその薬の影響で意識がぼんやりとし始めてきた。
だが、このまま意識を手放すわけにはいかない、私にはまだやる事が残っているのだ。
ポケットからコインロッカーの鍵を取り出すと、それを工藤新一と名乗った少年に手渡す。
「奴らが持って行ったのは偽物……本物はこっち……米花駅、東……の、コイン、ロッカー……」
――お願いね……小さな探偵さん……。
そう言い終える前に、私の意識は闇の中へと沈んでいった――。
軽いキャラ説明は今回は無し。
代わりに後編へとそれを持ちこす予定です。