今回は少し、ブラック・ジャック要素が出てきます。
SIDE:江戸川コナン
「雅美さん!!」
意識を失った雅美さんに俺は声を上げる。すると、一緒に見ていたカエル先生が素早く彼女の呼吸と脈を確認した。
「……心配ない。眠っているだけだよ?だが、危険な状況には変わりないから直ぐに治療が必要だがね?」
「なら、早く救急車で病院に――」
俺がそこまで言った瞬間、カエル先生はすかさず
「いや、それだと病院に着く前に彼女は確実に死ぬ。だから――」
「――今、ここで手術を行うよ?」
「――え?ここで!?」
俺はカエル先生の言っている事の意味が今一つ理解できなかった。
こんな古びた倉庫の中で死にかけの女性を手術で助けようというのか。
困惑する俺を置き去りに、カエル先生は次の行動に出ていた。
持ってきていたボストンバッグの片割れから素早く『何か』を取り出す――。
――見るとそれは、畳まれたビニールのような大きな袋とそれに管で繋がれた小型のボンベのようなモノだった。
カエル先生は畳まれたビニール袋を広げるとボンベのつまみを捻る。
すると、プシュー……という音と共に見る見るうちにビニール袋は風船のように膨らんでいった。
ビニール袋は俺とカエル先生の身長よりも大きくなり、あっという間に六畳一間くらいの部屋の大きさにまでになった。
唖然とする俺にカエル先生はボンベのつまみを解放させたまま声をかけて来る。
「新一君。彼女をこの中に入れるのを手伝ってくれ」
俺は促されるままにカエル先生と一緒に雅美さんを袋の中に担ぎこんだ。
入る時、袋の側面にマジックテープでくっ付けられた大人一人分の高さまである縦一文字の大きな切れ込みがあり、カエル先生はそこの切れ込みを開けると手早くボストンバッグ二つと雅美さんを運び込んだ。
そして、袋の中央にさらにボストンバッグから丸めてあった薄手のマットとシーツを取り出し、それを地面に敷くと雅美さんをその上にそっと寝かせる。
俺もそれを手伝いながら、カエル先生に尋ねた。
「カエル先生。この袋みたいなのは一体?」
「携帯型の
「ええっ!?」
その言葉に驚く俺を気にせず、カエル先生はさらに手早く着ていた茶色の上着を脱いで下のカッターシャツの両袖をまくると、これまたボストンバッグに入っていた
するとカエル先生はポカンと立ち尽くす俺に声をかける。
「すまないが、キミはいったん出ていてくれないかい?」
「あ、ああ、分かった」
俺は入った時同様にカエル先生に促され、袋型の無菌室から外に出る。
すると、俺が出たのを見計らってカエル先生は急ぎ、雅美さんの手術を開始した。
雅美さんの血まみれの衣服を刃物で裂き、掃き出しとなった肌に容赦なくメスを突き立てる。
俺は直視できず、無意識にその光景から目をそらした。
「?」
だが、目線をそらした先にふと気になるものを捕える。
それは雅美さんのそばに転がっていた拳銃だった。恐らく雅美さんの物だと思われるその銃が俺は何故か気になり、ひょいと拾って手に取ってみる。
そしてその拳銃の弾倉を抜いて
「カエル先生!!」
声に反応し、手術を行いながらカエル先生はチラリと目線だけを俺に向けてきた。
そして、俺の持つ拳銃を確認すると目線を明美さんに戻して口を開く。
「ああ、こっちでも既に
「ああ。でもこの銃の弾倉、
――つまりは、雅美さんを撃った相手は
それを聞きながら、カエル先生は手元を動かしながら肩をすくめた。
「……彼女、銃を撃ったことはあったのかもしれないが、
カエル先生のその言葉に俺は驚愕する。
「なんだって!?じゃあ、弾丸はまだ……!」
「ああ、二発とも彼女の体の中にしっかりと残ってるよ?」
「だ、大丈夫なのかよ……!?」
俺は不安げにカエル先生に声をかける。
基本、弾丸を受けた場合、体を貫通した場合より体内に残った場合の方が命の危険性が高いのだ。
だがカエル先生は涼しい顔でそれに答えた。
「大丈夫だよ。僕が彼女を助けると言ったんだ。弾が体内に残ってようが残ってまいが関係ない。その証拠に……ほれ――」
――カタリ。
「……え?」
「ほれ――」
――カタリ。
「ええっ!??」
驚愕に見開かれる俺の目の前で、カエル先生は雅美さんの体内から先端が潰れた弾丸を二発、続けざまにピンセットで取り出して見せたのだ。
カエル先生はそれを小さなステンレスのトレイの上に置くと、さっさと最後の治療に取り掛かる。
俺はその光景を見て思わず突っこまずにはいられなかった。
「ちょ、ちょっと待てよカエル先生!?弾丸をそんなスナック菓子を袋からつまむみたいにひょいひょいと……!」
「そうは言ってもねぇ?ぶっちゃけ僕にとってはこんなの朝飯前なんだよ。……何十年か前にはマシンガンでハチの巣になった『ヤ』のつく職業の男性の体内から十数発もの弾丸を摘出して命を救ったことだってあるしねぇ?」
「えぇ……」
もはや突っこむ気力すらわかない。
そうこうしているうちに、カエル先生は雅美さんの開腹した傷口を縫合し終えていた。
見ると雅美さんの呼吸も手術前と違って安定したものになっている。
「ふぅ……術式終了。後は彼女を病院に運んでからだね?」
袖口で汗をぬぐいながら術衣を脱ぐカエル先生を俺は呆気にとられたまま見つめていた。
阿笠博士と同じくらいに長い付き合いなのに、未だにこの人の規格外な医療技術には圧倒される。はっきり言って底が知れない。
そんな俺の気持ちなどお構いなしとでもいうように、雅美さんをシーツにくるむとパパッと医療器具や無菌室をボストンバッグの中に片付けて自分の車に運び込んでいく。
そして最後に、雅美さんをお姫様抱っこで担ぎ上げ、車に向かうその途中でカエル先生は俺に声をかけてきた。
「さぁ、新一君も早く……」
その言葉でハッと現実に引き戻された俺は、真剣な顔で今の現状を振り返ってみる。
雅美さんが一命をとりとめたとは言え、この倉庫にはまだ彼女の血だまりが残っている。これをこのままにしておいて良いのだろうか?
それに、彼女から託されたコインロッカーの鍵……。
俺は数秒考えた後にカエル先生に向けて口を開いた。
「先に行っててくれカエル先生。俺にはまだやる事がある。それを終わらせてから米花私立病院に向かうよ」
「そうか、分かった」
カエル先生はそう言って頷き、雅美さんを車に乗せると、車のエンジンをふかせて早々にこの場を後にしていった――。
そうして一人取り残された俺は、携帯を取り出し電話をかける。
かけた先はカエル先生と同年代の、もう一人の協力者の所だ。
「……あ、もしもし、阿笠博士?悪いんだけど急いで来てくれるか?場所は――」
――日がとっくに沈み、夜になってしばらく経った頃。俺は阿笠博士と共に米花私立病院に到着していた。
玄関先にはカエル先生が白衣を着て待っており、俺たちの姿を見て笑って挨拶してきた。
「いらっしゃい、遅かったね?」
「カエル先生、雅美さんは?」
俺の質問にカエル先生は直ぐに答えて見せる。
「問題ないよ。今は麻酔のせいで眠ってるけど、しばし安静も必要だから彼女と話がしたいのならあと数日は待ってくれるかい?」
「ああ、分かった」
頷いた俺を見たカエル先生は今度は博士へと視線を向ける。
「しかしまさか
「いやぁ……ははっ……」
博士がポリポリと頬を指で軽くかきながら、苦笑いを浮かべてそう呟く。
答えづらそうな博士に変わって俺がカエル先生に答えた。
「ちょっとした事後処理。倉庫に残った雅美さんの血痕が組織の奴らとは別の一般人にでも見つかれば厄介な事になると思って、博士呼んでそれを奇麗に拭き取ったんだよ。証拠も何も残さないように辺りを念入りに掃除までしてな。……その後、雅美さんから受け取ったコインロッカーの鍵を使って米花駅のコインロッカーの中に入っていた10億円を回収し、それを10億円が奪われた『四菱銀行、米花支店』に速達で送ってやったんだ。もちろん足が付かないようにしてな」
「やれやれ、天下の高校生探偵が証拠隠滅とはね?」
「しゃーねぇだろ?人命第一なんだから」
呆れた顔で呟くカエル先生に、俺は口をとがらせてそう言い返した。
そして次に俺は真剣な顔を浮かべると、キョロキョロと周りを見渡しながらカエル先生に問いかけた。
「カエル先生、先生の方もあの後大丈夫だったか?その……怪しい奴に見られてたとか」
「いいや、特には……。と言うか、僕は一介の医者だよ?どこぞのエージェントや特殊部隊員の類じゃないんだ。組織の目に気づけという方が無理があるだろ?」
「あ、はははー……確かに」
さらに呆れた顔を浮かべて呟くカエル先生のその返しに、俺も馬鹿な事を聞いたと空笑いを浮かべる。
そんな俺にカエル先生は呆れ顔から真剣な顔に表情を変え、口を開く。
「これは賭けだよ新一君。もし仮に、組織の者たちが僕たちの存在に気づき、ここを突き止められてしまっていたのなら……。そうなっては組織に対抗する手段を持たない僕たちにはもうどうしようもない、その時は
「そんな……!」
カエル先生のその言葉に俺は反射的に詰め寄ろうとするも、それよりも先にカエル先生が片手を挙げてそれを制し、続けて口を開く。
「――だが逆に、しばらく経っても組織が仕掛けて来ないようなら……。それは奴らがまだこの病院の場所だけでなく僕らの存在にも気づけていないという事。それなら僕らにはまだ勝機はある。……まぁ、どっちにしろ、僕らにはしばらく様子を見るという選択肢しかないわけだよ?」
「クッ……歯がゆいなぁ」
今は様子を見ていくしかないという現状に、俺は俯き唇をかみしめる。
そして、そんな俺を見てカエル先生は苦笑を浮かべた。
「仕方ないさ。それにもし後者なら、僕たちが助かるだけでなく彼女――雅美君の身もしばらく
カエル先生のその言葉に俺はハッとする。
――実はこの米花私立病院は普通の病院とは違い、少し
この病院の経営者兼医院長でもあるこのカエル先生は、患者を見捨てず生きているのなら必ず治す人である反面、
つまり、病気や怪我を治しに病院に来る人が一般人だろうが
それこそ、後ろ暗い闇を抱え込む政界の大物や『ヤ』のつく職業の人など一切ためらいもなく、だ――。
どんな人でも分け隔てなく受け容れると言えば聞こえが良いが、そういうのを続けていると必ず大なり小なり患者の身内内でのもめ事に巻き込まれる可能性が出て来る。
それ故、この米花私立病院ではそう言ったもめ事の火の粉から他の患者の身を守るため、他の病院よりもセキュリティー面が異常なほど強化されているのだ。特に、
「もし組織の奴らが雅美君の生存を確信し、彼女の居場所を探ろうとも、なかなかこの病院までは辿り着けないと思うよ?」
「は……はは……」
余程自信があるのか、自慢げにそういうカエル先生に俺は再び空笑いを浮かべるしかなかった――。
――それから数日は何事も無く日常が過ぎて行ったため、俺たちは組織がまだ感づいていないものと判断し、深く安堵する。
そして同時に、俺はカエル先生に心の底から感謝していた。
もし、埠頭に向かっていたあの時、カエル先生に出会っていなければ、俺は恐らく……いや、確実に雅美さんの命を救う事が出来なかっただろうから――。
――だがそんな俺をあざ笑うかのように、運命はまたもや厄介な相手を引き合わせて来る。
それも、雅美さんの身内という、
軽いキャラ説明。
・広田雅美(宮野明美)
この作品ではアニメオリジナル回として製作された『黒の組織10億円強奪事件』を基準としており、彼女はそこからの登場としている。
原作でもジンによって殺され、それが彼女の妹や恋人などの心に深い傷として残った。
今作では冥土帰しによって一命はとりとめられ、現在、米花私立病院に匿われている。
※補足説明。
冥土帰しがセキュリティー面でも非常に優秀であることは、原作のスピンオフ『
原作の冥土帰しは1万人ものクローン人間、『
次回は、雅美さん(明美さん)失踪後の各勢力の動きを書いていきます。