幼稚な文体ですが、お気軽に見て行ってもらえたら嬉しいです。
「はぁ~っ、疲れたぁ……」
毛利探偵事務所の一室。
思えばトロピカルランドで黒ずくめの男たちに体を小さくされたのに引き続き、今度は社長令嬢の誘拐事件にも巻き込まれて心身共に休める時がほとんどなかった。
ようやく一息つけるものの、明日から小学生生活になると思うと気が滅入る。
「……クソッ、俺本当は高校生なのに」
寝転がり、なんとなく天井をぼんやりと見上げる。
「あ~どうやったら元の工藤新一に戻れんだぁ?やっぱあの黒ずくめの奴らを見つけるっきゃねぇのか?」
でもアイツらが今どこにいるのかすら見当がつかない。
しかも迂闊に探りを入れてもし感づかれたりなんかしたら、最悪
(あークソッ、せめて俺を縮めたあの薬を手に入れることが出来れば……ん?……薬?)
そこまで考えた俺はハッとなって身体を勢いよく起こす。
(あーそうだ、そうだそうだ、そうだった!ちっくしょう、何で今まで気がつかなかったんだ!?……いるじゃねぇか、俺の周りに!常日頃から『生きてるなら必ず治す』って豪語している人が……!!)
あの人に掛け合えば俺の体の事も何とかしてくれるかもしれない!
興奮高々に笑みを浮かべた俺は早速、事務所の固定電話で阿笠
もう今日は日が落ちてだいぶ経つというのに、博士は直ぐに応対してくれた。
「もしもし、新一か?どうしたんじゃこんな夜遅くに。明日は小学校に行くんじゃろ?」
既に就寝していたのか博士はあくびを噛み殺しながらそう響く。だが俺はそれに構わず要件を博士に告げた。
「博士、直ぐに『カエル先生』に連絡を取れるか?」
今俺の手元に携帯電話は無い。それは少し前まで
カエル先生は日本で……いや、世界でもトップクラスの医療の腕を持つ凄腕の医者だ。
あの人なら俺の体内に残っているであろう毒薬の残留物から成分を解析して解毒薬を作ってくれるかもしれない。
そうすりゃ、行きたくもねぇ小学校に通わずに済む!
はやる気持ちを抑えながら博士との電話を切ると、十分もしないうちに博士から折り返しの電話があった。
何でも今から検査の準備をするからすぐ来てくれとの事。
その知らせに俺は大きくガッツポーズを作る。
(よっしゃー!流石カエル先生!俺の気持ちを汲み取って直ぐに準備してくれるなんて、話が早くて助かる!)
早速、まだ起きていた蘭に博士の家に忘れ物をしたと嘘をついて、蘭が止めるのも聞かずに探偵事務所を飛び出すと、途中まで車で迎えに来てくれていた博士と合流し、俺は意気揚々とカエル先生がいる『
病院に着くころには、俺はもう自分の身体が元に戻ると何の疑いもなくそう確信していた。
高校生名探偵、工藤新一。今ここに復活だぁーっと――。
――そう自分に都合よく勝手に考え込んでいた俺は、とんでもない馬鹿だった。
「単刀直入に言おう。
病院の診察室で死刑宣告にも似たカエル先生の鋭い言葉が胸の内をえぐり、患者衣を纏った俺はそのまま膝から崩れ落ちて両手を床につけていた。
そんな俺の様子を気にする様子も無く、淡々と今の状況を説明していく。
「血液検査、尿検査、MRI……。いろいろと試してみたが、キミの身体からその毒薬とやらの成分を検出することもその痕跡を見つけ出す事も出来なかった。恐らく、もうすでに体内分解が済んでるんじゃないかねぇ?」
「……じゃ、じゃあ、解毒薬を作るのは……?」
「無理だね」
俺の問いかけにカエル先生がバッサリとそう言い切り、俺は再び床に顔を落としていた。
そんな俺をカエル先生は手に持った俺のカルテと交互に見やりながら観察者の目で興味深げに唸る。
「僕としても初めてのケースだねこんな事象は。レントゲンを見ても肉体は十歳未満、小学校低学年のそれだ。十七歳の少年がその薬だかを飲んだだけで瞬く間にこうなっただの、流石の僕でも未だに半信半疑だね。……いっそ全くの別人の子供が新一君の名をかたってるって言われた方がはるかに納得がいくよ」
「……俺が頭のおかしい子供に見えてんのかよ、カエル先生」
項垂れながら上目遣いにギロリと睨んでやると、カエル先生は苦笑しながらホールドアップサインを出す。
「冗談だよ。君の遺伝子配列図も見たが工藤新一君のそれと全く一緒であることも確認している。明らかに同一人物だよ。信じられないことにね」
「ったりめーだ」
不貞腐れながらプイッとそっぽを向くと今度はそばで見守っていた博士が口を開いた。
「……じゃったらやはり、新一を元に戻すには……」
「うん」
カエル先生は真剣な表情で一つ頷くと、座っていた椅子からゆっくりと立ち上がり言った。
「その毒薬のデータ、もしくはサンプルをどうにかして手に入れなければならないね。それらを解析すれば、おのずと解毒薬を作る道筋がつかめるはずだよ。ただ……」
そこまで言うとカエル先生はゆっくりとした歩調で俺たちから離れ背を向けると、虚空を睨みつけながら続けて口を開いた。
「……その毒薬を持っていた黒ずくめの男たちは、話で聞く限り明らかに只者じゃないね。肉体を瞬く間に幼児化させるなんてとんでもない薬を持っているんだ。その男たちの背後には確実に強大な組織――いや、強大な闇が蠢いているね」
重く、不安を掻き立てるカエル先生の声が部屋に響き、俺と博士は無意識に生唾を飲み込む――。
「下手すればその闇には政界などの強大な権力まで絡んでいる可能性がある。迂闊に飛び込めば間違いなく消されるだろう。……新一君、それでもキミはその黒ずくめの男たちを追うつもりかね?」
「バーロー、ったりめーだ!こんな体にされて黙ってられるわけねぇだろ!」
カエル先生の真剣な目が俺を捉えそう言われた俺は瞬時に先生に噛みつく。
しかし、カエル先生の言葉は止まらない。
「しかし彼らに対し、キミは現時点ではあまりにも味方が少ない。そんなキミが彼らに挑むのは明らかに自殺行為だ」
「じゃあ泣き寝入りしてジッとしてろって言うのか?冗談じゃねぇ!!俺は必ず元の体に戻って見せる!死にもしねぇし、奴らを捕まえて、薬も手に入れて見せる!そして――」
「――そして、言うんだ。
そう、俺が言い切った後、部屋は重い沈黙に満たされる。
部屋に掛けられた壁掛け時計だけがカッチカッチと小さな音を刻んでいた。
やがてため息と共に口をひらいたのはカエル先生だった。
「……こうなってしまっては何を言っても無駄なようだね」
「悪ぃな、カエル先生。俺だって分かってんだよ。奴らが只者じゃない事くらい。下手に追いかけて行ったら今度こそ命を取られかねないことくらい……。でも、このまま何もしないでいるなんてこと、俺には絶対できねぇ。俺にはまだ……工藤新一としてやらなきゃならねぇことが、あるんだからな」
俺がそう言うとカエル先生は小さく微笑んで見せる。
「なら、もう止めはしないよ。キミがその気なら、全力で彼らを追いかけ、そして追い詰めていくと良い。もしキミが無茶をして死にかけたとしても、地を這ってでも僕の所に来るんだ。その時は僕が全力で必ず治してやる。死ぬつもりが無いとキミ自身が言ったんだ、それくらいできて当然だろ?」
「言ってくれるなぁ」
無茶ぶりを言うカエル先生に向けて俺は苦笑を浮かべる。
だが、直ぐに思う所があり、カエル先生に問いかけた。
「でも、良いのかよ?下手すりゃ先生も奴らに狙われることに……」
そこまで言った俺に、カエル先生は「何を今更?」とばかりな顔を浮かべた。
「今更何を言ってるんだい?もう既にキミは僕の患者なんだ。僕は最後の最後まで自分の患者を見捨てるつもりなんて無い。キミが元の体に戻りたいというのであれば、僕はそれに全力を持って応え、協力し、必ずキミを元の高校生、工藤新一に戻してみせる。その道のりが例え地獄だったとしてもね」
「カエル先生……」
「もちろん。ワシも全力で協力するぞ!」
「博士……」
目の前に立つ二人の頼もしい協力者を前に、俺は自分の目頭が熱くなるのを感じた。……やべ、泣きそう。
そっぽを向いて目頭をもんでいると、カエル先生は俺に顔を近づけまるで教師のような口調で諭すように口を開いた。
「……さて、そんな今のキミが元の体に戻るための第一歩として、一番初めにやるべきことは何だかわかるかい?」
「……?」
首をかしげる俺に向けて、カエル先生はにっこりと笑い――。
「これから始まる小学校生活に慣れていくこと、だね♪」
「…………。はっ、ははぁーっ……」
――そうきっぱりと言い切られ、俺は空笑いを浮かべるしかなかった。
――そうして迎えた、翌日。
「転校してきた江戸川コナンです!よろしく!」
母校の教室に再び足を踏み入れた俺は、半ばヤケクソ気味に自己紹介をしていた――。
軽くキャラ説明。
・江戸川コナン(工藤新一)
ご存じ、原作の主人公。
冥土帰しとは阿笠博士同様に幼い時からの知り合いであるが、実家と隣同士である博士とは違い、医者で仕事が忙しいのも相まって年に数回しか会った事が無い。
それ故、阿笠博士と比べると面識は薄い方だが、医者としての彼の腕に深い信頼を寄せている。