とある探偵世界の冥土帰し   作:綾辻真

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カルテ20:叶才三【事件編・2】

SIDE:江戸川コナン

 

 

 

「そいつの部屋は何処だ!?」

「ひゃ、101号室です」

 

鮫崎さんの鬼気迫る迫力に押されて、ウェイターはそれに怯えながら答える。

その傍らでおっちゃんが「はて?」と顎に手を当てた。

 

「叶才三ぅ?この名前どっかで……」

 

おっちゃんのその呟きに鮫崎さんが怒鳴り散らす。

 

「馬鹿野郎、忘れたのか!!……昔ワシと一緒にお前が追っていた――『四億円強殺()()事件』の主犯!――」

 

 

 

 

「――……影の計画師、叶才三だッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後すぐ、鮫崎さんとおっちゃんは乗務員にマスターキーを持って来させ、101号室へと急ぎ向かう。

俺もおっちゃんたちのその後を追って行った。

乗務員のマスターキーで客室のドアを開けた鮫崎さんとおっちゃんはその部屋に飛び込む。

しかし、部屋はもぬけの殻で()()()()()()()()()()()()()()

部屋を隅々まで見ていた鮫崎さんは、マスターキーを持って来た乗務員に尋ねる。

 

「本当にこの部屋なんだろうな?」

「はい、それは間違いありません。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「くそっ……ワシは下を探す。毛利、お前は上を頼む!」

 

そう言い残し、鮫崎さんは客室を飛び出して行った。

後に残された俺、おっちゃん、乗務員の三人も客室を出る。するとおっちゃんは隣の102号室にいるという例の探偵を怪しみ始めた。

 

「なぁんかくせぇなぁ……?」

 

そう呟いたおっちゃんは乗務員と一緒にドアをノックし始める。

しかし中からの反応がなく、仕方なくおっちゃんは乗務員にこの部屋も開けてもらうよう、そう言いだした時だった。

 

「じゃかぁしぃッ!!ええ加減にせぇよこらぁぁッ!!」

 

突然その怒鳴り声と共に客室のドアが勢いよく開き、それにおっちゃんと乗務員が吹っ飛ばされる。

そして――中から出てきたのは、俺たちがよぉく見知っている奴だった。っつーか、何でお前がここにいんだ?――服部(はっとり)

 

 

 

 

 

 

 

――服部平次(はっとりへいじ)。大阪出身の俺と同じ高校生探偵だ。

以前起こった『外交官殺人事件』で出会って以来、何度か一緒に事件を解決した仲である。

 

(だが、そんなこいつが何でこの船に……?)

 

不思議に思って首をかしげている俺の前で、服部とおっちゃんが会話を交わす。

 

「影の計画師……?ああ、そう言うたらガキの頃、親父に聞いた事あるなぁ。昔そんな男がおったって」

「ああ……。本名は叶才三。20年前に起きた『4億円強盗殺人()()事件』……その強殺未遂事件の主犯だよ。――」

 

船外の風に当たりながら、おっちゃんは叶才三について詳しく教えてくれた。

 

――叶才三。そいつの建てる計画は綿密で隙が無く、修羅の如き手際の良さで警察を煙に巻く……人呼んで『影の計画師』。そのヤマ毎に仲間を変える一匹狼で、犯行中誰も傷つけないのが奴の特徴だったらしい。

 

「……しかし、20年前のその事件でついに一人やっちまったんだ。それ以来……ぱったりと姿を見せなくなった」

「けど強盗殺人『未遂』っちゅうことは……生きとったんやろ?その人」

 

おっちゃんの言葉に怪訝な顔を浮かべながら服部がそう尋ね、おっちゃんはそれに頷く。

 

「ああ……。防犯ベルに驚いた才三の仲間の一人が銃を乱射しちまって、運悪くその流れ弾にな……。しかも撃たれたのが、鮫崎美海(さめざきよしみ)さんって銀行員でな……」

「え?『鮫崎』って……」

 

俺の呟きにおっちゃんは再び頷く。

 

「ああ、そうだ……。()()()()()()()()()()

「!?」

 

驚く俺を前におっちゃんの話が続く。

 

「……本来なら美海さんの受けた傷は()()()()()()()()()()()()()()()()んだが、それでも何とか一命をとりとめて助かったんだ。……だが助かったとはいえ、大事な娘に瀕死の重傷を負わせた叶やその仲間たちの事を許せなかった鮫崎警視は、叶失踪後もひたすらに奴らを追いかけ続けていたよ」

 

まさか、20年前のその事件に鮫崎さんの娘さんが巻き込まれていたのにも驚いたが、その鮫崎さんが何の因果かこの船に乗り合わせていた事にも驚いた。

 

(偶然、なのか……?それに、その鮫崎美海さんが助かった経緯についても、何か引っかかる……)

 

俺がそんな事を考えていると、服部が腕を組みながら口を開いた。

 

「ふぅん……その事件の主犯が俺の隣の部屋になぁ……」

「ああ、入ったらもぬけの殻で……今その鮫崎さんが探してるよ」

「……けど変やなぁ、確かソイツ死んだんとちゃうか?銃痕と血ぃが付いた上着がどっかの浜に打ち上げられたって、親父言うとったで?」

 

服部が首をかしげてそう言った直後、俺たちの方にやってくる人物がそれに答えた。

 

「……いや、奴は死んじゃいねぇ。あの上着は警察を振り切るための罠だ。奴があんな所で簡単にくたばるようなタマじゃねぇぜあんちゃん」

「鮫崎警視……」

「へぇ……この人がな……」

 

おっちゃんが鮫崎さんの名を呼び、先程鮫崎さんの素性を聞かされていた服部はそう呟く。

その後、鮫崎警視の口から20年前の事件の時効が明日で成立する事を俺たちは知る事となる。

残念ながら、指名手配を受けた叶の時効は既に切れているらしいが、民法第一六二条【所有権の所得時効】の期限はまだ切れていない。

つまり、叶の仲間たちの時効はまだ成立していないのだ。

 

しかし、その時効も間もなく成立する。

 

事件が起こったのは20年前の丁度明日。つまり今日の午前0時を持って、奴らは晴れて自由の身になるのだ。

 

 

 

――そして、そのタイムリミットが来るのは……今からおよそ2時間後であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後すぐ、蘭が俺たちを探しにやって来たので、叶を探すおっちゃんと鮫崎さんと別れた俺と服部は、蘭と一緒に夕食を食べたレストランへと戻っていた。

そこで服部は遅めの夕食を食べながら、自分が何故この船に乗ったのかその詳細を話し始めた。

――どうも一週間前に服部宛に妙な依頼の手紙が来たらしく、相談したいためこの船に乗って小笠原まで来てほしいという内容だったらしい。

しかも、その手紙が入っていた封筒の中には依頼料として10万円、それも全て旧紙幣のものも一緒に入っていたのだとか。

更に驚くことに、手紙に書かれていたその依頼主の名前がこのツアーを企画した『古川大』だという。まあ服部本人はその事は知らなかったようだが。

 

そんな話を聞きながら俺はチラリと周囲を見渡した。そこにはおっちゃんと鮫崎さん、そして亀田さん以外の乗客全員がその場にいた。

 

ライターが付かなかったのか鯨井さんは同じ乗客の蟹江(かにえ)さんから紙マッチを借りて煙草に火をつけている。

その蟹江さんは紙マッチを渡す時、何故かどこかの鍵を見せつけるように一緒に持っていた。

そう言えば、亀田さんと会った時もあの鍵をちらつかせていたような気がする。

 

不思議に思いながら、俺は今度はカエル先生に目を向けていた。

こちらはウェイターに頼んだコーヒーを飲みながら持参してきたらしいカエルマークの描かれたブックカバーをかけた本(恐らく医学書の類)を静かに読みふけっている。

 

……正直、今回の船旅で個人的に一番気になっているのはカエル先生がこのツアーに参加した目的だ。

本人は休暇だと言っていたが、本当にそうなのだろうか?それに、叶才三の名を耳にした時の、他の乗客と同じように見せたあの驚きよう……。ただ事じゃないように思える。

 

などと考えていると、磯貝さんが俺たちの元にやって来て、一緒にレストルームでポーカーでもしないかと提案してきた。

それからすぐ、俺たちだけじゃなく、その場にいる全員が参加する事になり、俺たちは全員でレストルームに向かう事となった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃーん、フルハウス♪」

「あっちゃー、なんやぁまーたねえちゃんの勝ちかいな」

「相変わらず賭け事に強いねぇ、蘭君」

 

蘭の勝ち誇った声と同時に服部が落胆し、カエル先生もため息と共に声を漏らす。

レストルームに到着した俺たちは交代制でポーカーを順に楽しんでいた。

今、対戦しているのは、俺、蘭、服部、カエル先生、そして蟹江さんの五人だ。

磯貝さんと鯨井さんはレストルームに設置されたバーでお酒を飲みながら俺たちのゲームを遠巻きに見つめている。

 

「はぁーい、あと一回したらビリの人は鯨井さんと交代ね♪」

 

()()そう言うとトランプを集めて切り始める。

俺はそれを見ながらチラリとバーカウンターにいる磯貝さんへと目を向けた。

このレストルームに来てから、彼女は何故かポーカーの方に集中せず、ずっとこちらに背を向けてお酒を飲んでいた。このゲームの提案者である彼女が、だ。

 

(……というか、手元にある酒ですら味わってないような気がする……。いや……というかあれは、カウンターの中――バーテンダーをジッと見ている?)

 

磯貝さんは何故かバーテンダーの方へと視線を固定していた。

その視線を受けているバーテンダーの方は、職業柄ゆえかその視線を受けても微動だにせず、黙々と手元のグラスを拭いていた。

怪訝な顔で二人を見ていると、蘭がトランプを配り終え、次の対戦が始まり、俺の意識もそっちへと戻って行った――。

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:カエル顔の医者(冥土帰し)

 

 

 

 

(……しまったねぇ、腕時計を客室に忘れて来てしまった)

 

今何時なのかを確認するために腕時計を見ようとし、私はその時になって腕時計を忘れてきたことに気づいた。

それならば携帯の時間表示を、と思ったが、こちらも充電しているため同じく客室であった。

仕方なく隣で一緒にポーカーをしている蟹江さんに時間を尋ねる。

 

「あの、今何時か分かりますか?」

「ふむ……0時5分前だ」

 

蟹江さんは()()()腕時計を見ながらそう言い、私は一言お礼を言うとゲームへと意識を戻した。

しかし直ぐに負けてしまい(またもや蘭君の一人勝ち)、私は鯨井さんと代わる事に。

 

「鯨井さん、僕がビリになったので次、交代です」

「あーはいはい、お手柔らかにお嬢さん」

 

私の声に鯨井さんが反応して立ち上がり、僕と彼は席を交代する。

バーカウンターに座った私は、先程からバーテンダーをジッと見ている磯貝さんに話しかけた。

 

「……どうかしましたか?先程からこのバーテンダーばかりを見ているようですが……お知り合いで?」

「……へ?ああ、いえ、全然……初めて見る人です。……見る、人のはずなのですが……何故かどこかで会った事があるような気がして……」

「ふむ?」

 

彼女のその返答に私は首をかしげながら、今度はバーテンダーの方へと視線を向けて問いかける。

 

「貴方はどうですかな?」

「いえ、私の方も全然。……誰かと見間違えているのでは?」

 

苦笑を浮かべてそう答えるバーテンダーを僕も目を細めてジッと見つめた。

何故だろうか?私も初めて見る顔なのに、何故か彼とはどこかで会った事があるような感覚に陥った。

人の顔を一度見たら決して忘れない私が、だ。

だが、これ以上彼を見るのは不躾だと思い、私はもやもやとした気分を押し殺して視線を落とすと、手元のメニュー表からカクテルを一つ注文した。

 

それから1分もしないうちに、レストルームに毛利君が疲れ切った様子でやって来る。

毛利君に気づいた蘭君は直ぐに彼に声をかけた。

 

「あ、お父さん。見つかった?」

「どこにもいねぇよ……」

 

そう言ってソファーにぐったりと座る毛利君。

すると今度は、新一君たちから服部君と呼ばれている高校生探偵の少年が毛利君に問いかける。

 

「元警視のおっさんはどないしたんや?」

「……時間ギリギリまで探すそうだ」

 

そう短く返した毛利君は、バーテンダーに水を一杯注文する。

それからすぐ、蟹江さんが退室したのを皮切りに、磯貝さんも「()()()()()()()」と言って席を立つ。私も客室に置いてきた携帯と腕時計を回収しに一度戻る事にした。

すると鯨井さんが磯貝さんに声をかける。

 

「ああ、それじゃあトランプはケースに直して、後で部屋に届けますよ」

「そうしていただけるかしら?」

 

それだけ言うと磯貝さんはバーテンダーに料金を払いそのまま退室していく、私もバーテンダーに料金を払うと彼女の後を追うようにその場を後にする。

去り際に、鯨井さんもトイレに行くために席を立つのが見えたが、特に気にする事も無かったので私はそのまま客室へと向かった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

――客室に置き忘れた腕時計と携帯を回収した私はレストルームへと戻っていた。

戻る最中、時計を確認すると、すでに日付が変わっており何分か進んだ後だった。

レストルームに着くと、そこにはバーカウンターで酒を交わしあってワイワイと騒ぐ毛利君と鮫崎さんの姿があった。

鯨井さんも先に戻って来ており、蘭君たちと楽しくポーカーの続きをしていた。

 

(……やはり、間に合わなかったか。ま、仕方ないね……)

 

毛利君と鮫崎さんの様子から遂に見つけられなかったことを察した私は、彼らにかける言葉を考えながらバーカウンターへと歩み寄っていく。しかし、その次の瞬間だった――。

 

 

 

――ドォン……!

 

 

 

『!?』

 

大きく太い破裂音がその場に唐突に響き渡った――。

 

「何?今の音!?」

「船外!……上のデッキの方だ!」

 

蘭君と毛利君が続けざまにそう声を上げ、鮫崎さんが席を立ちあがる。

 

「毛利、時間を!」

「れ、0時8分っす!」

 

鮫崎さんのその言葉に、毛利君が時間を確認すると蘭君をその場に残し、私を含むその場にいたほとんどの者が音のした方へと駆け出していた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:江戸川コナン

 

 

――全員で上のデッキに駆けつけると驚くべき光景が目の前に飛び込んできた。

デッキに掲げられていた船の旗が炎に包まれており、そこに置かれていたベンチの背もたれ――その裏側にナイフで刺し止められた旧一万円札があったのだ。その一万円札には荒っぽい字で何かが書かれている。

 

「ちょっと、何今の。花火のような音がしたけど……」

 

音を聞きつけてレストルームを退室していた磯貝さんもその場に駆けつけて来る。

その声を聴きながら、俺、服部、おっちゃん、鮫崎さんの四人は、息を呑んでそのベンチに近づいていく。

すると、鮫崎さんがその場にいた乗務員の一人にビニール袋を取ってくるよう頼むと、ポケットから手袋を取り出しはめる。そして、ベンチに刺さったナイフと一万円札を丁寧な手つきでベンチから引き抜いた。

 

「何て書いてあるんすか?」

 

鮫崎さんの後ろからおっちゃんがそう尋ね、鮫崎さんは一万円に書かれた文字を声に出して読み始める。

 

 

 

 

 

 

『海神ポセイドンに生を受けて、我が影蘇りたり』

 

 

 

 

 

「あ゛あぁぁっ……!?」

 

鮫崎さんがそれを口にした瞬間、その場に絞り出すような声が響き渡る。

振り返るとそこにはダラダラと脂汗をかきながら驚愕に目を見開く鯨井さんの姿があった。

 

「く、鯨井さん?」

 

慌てて声をかけて来るおっちゃんに気づいていないのか、鯨井さんはフラフラとした足取りでそばにあったデッキの手すりへと近づいていく。

 

「……い、生きていたんだ……!や、やっぱり……奴は……!奴はッ……!――」

 

そう呟きながら手すりに触れると、鯨井さんはバッと俺たちの方へと振り返り、ひときわ大きな声をその場に轟かせていた――。

 

 

 

「――生きていたんだぁぁぁーーーーッ!!!!」

 

――ドオォォォオォォォォーーーーン!!!!

 

 

 

そして……同時に船尾から、彼の叫びに負けないほどの爆発が、轟音と共に立ち上っていた――。




今回も軽いキャラ説明はありません。
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