とある探偵世界の冥土帰し   作:綾辻真

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一万字を越えましたので、ここでいったん区切って投稿します。


カルテ20:叶才三【事件編・3】

SIDE:江戸川コナン

 

 

 

「くそ……黒焦げか」

 

シンフォニー号の船尾。黒くボロボロとなった、かつては非常用の梯子が入れてあった箱を前に鮫崎さんがそう呟いた。

船尾での爆発を確認した俺たちはレストルームで待っていた蘭と合流して全員で船尾へと走った。

そして火の手が上がる船尾には、俺と服部が真っ先に到着したのだが、なんと燃え上がる箱の中には梯子ではなく()()()()()()()()()

すぐさま駆けつけてきた乗務員たちが消火作業にあたり、何とか被害は最小限で防がれるも、中にいた人間は見事なまでに真っ黒に煤けた焼死体となってしまっていた。

 

「これじゃあ死亡推定時刻もこの仏が誰なのかもわからねぇなぁ」

「ええ、もしかしたらこの死体は、船内から姿を消した叶才三ってことも考えられますなぁ」

 

鮫崎さんとおっちゃんがそんな会話をしていた時だ。

 

「いや……恐らくその人――()()()()()()()()()()()()()()()()じゃないかな?」

『!?』

 

おっちゃんたちの後ろでジッと遺体を見ていたカエル先生がポツリとそう言い、皆の視線が一斉にカエル先生へと向いた。

驚いた顔でおっちゃんがカエル先生に尋ねる。

 

「か、カエル先生。どうしてそんな事が分かるんで?」

「いや、だってその服……ほとんど燃えてしまっているけど蟹江さんが身に着けていたものじゃないかね?腕時計の方も、僕がレストルームで彼に時間を尋ねた時に付けていた物とよく似ているしね」

 

カエル先生のその指摘におっちゃんと鮫崎さんはジッと焼死体を見つめる。

 

「た、確かにセーターもジーンズも蟹江さんが着ていた物ですな」

 

おっちゃんがそう響き、今度は鮫崎さんがカエル先生に目を向ける。

 

「ですが先生。……ならこの遺体は蟹江って可能性もあるんじゃ?」

「体格だよ」

 

鮫崎さんの言葉にそうカエル先生が即答し、言葉を続ける。

 

「顔は既に判別不能なまでに焼け焦げてしまっているが、頬や腹の脂肪の多さから見てやせ型の蟹江さんではなく今この場にいないもう一人の乗客である亀田さんの方に体格が酷似している。……まあ、その叶才三という人も亀田さんの体格ともしも似通っているのなら、この遺体がその人という説も捨てきれはしないがね?……まぁどの道、歯形やDNAを調べれば誰だか一発で分かるけど……あいにく今の僕にはそういった検査道具は持ち合わせていないんだよね」

「へぇ……貴方もしかして検死官とかやってる人?」

「いや、ただのしがない医者だよ?」

 

カエル先生の話に興味を示したのか、磯貝さんがそう尋ね、カエル先生はそう答え返した。

 

「ならカエル先生。お手数ですが、分かる範囲でよろしいですのでこのまま検死をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、構わないよ」

 

おっちゃんからの提案にカエル先生はそう言って頷くと、ポケットから手術用のマスクと手袋を取り出し、それを身に付けながら遺体へと歩み寄った。

皆が固唾をのんで見守る中、カエル先生は遺体を調べながらそれを説明し始める。

 

「……先の続きだけど。この人が亀田さん、あるいは叶才三であったと仮定して……この人に蟹江さんの衣服を着せたと断定付ける理由は他にもあるんだ。……一つは、この遺体の腕に付けた腕時計。僕が蟹江さんに時間を尋ねた時、蟹江さんは右腕に腕時計をしていた。しかし、この遺体は左腕に腕時計をしている。この遺体が蟹江さん本人なら、こんな事はまずあり得ない。……そして、二つ目はこの遺体のポーズ」

「あら?その面白いポーズがどうかしまして?」

 

磯貝さんが面白半分にカエル先生にそう尋ね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()を見ながらカエル先生はそれに素直に答え始めた。

 

「ああ、これは熱硬直(ねつこうちょく)だよ。焼けた死体というのはね、骨格筋が温熱の作用で熱凝固して収縮し、熱硬直を起こすんだよ。……手足を曲げる筋肉は伸ばす筋肉より筋量が多くてね、それ故に関節はみんな半分曲がってしまって、丁度ボクサーのファイティングポーズみたいな格好になってしまうんだよ。……まあつまり、焼けた死体って言うのは勝手にこうなってしまうわけだね」

「へぇ、なるほどね」

 

カエル先生の説明に磯貝さんがそう相づちを打つ。

そこへおっちゃんがカエル先生へ声をかけた。

 

「なら、カエル先生。それなら別にこの死体も不自然では無いんじゃ?」

「普通ならそうかもだけれど、この遺体は少し違うんだよ。見たまえ」

 

そう言ってカエル先生は遺体の手足に向けて順番に指をさす。

 

「両肘が顔の前に来てて、膝が完全に折り曲がっているだろ?……これは遺体を箱に入れた時に、体を下にずらして両手を上に上げさせてた証拠だよ。……()()()()、死後硬直を起こしていたとしても、前もってこの姿勢にしておけば服が着せ替えやすいからねぇ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ先生。殺した後って事は、じゃあこの遺体は焼かれて殺されたわけじゃねぇと?」

 

鮫崎さんがやや戸惑いながらそう尋ね、カエル先生は強く頷いた。

 

「ああ、間違いないよ。頭部……右こめかみ部分を見てほしい。弾の痕があるだろ?」

 

カエル先生にそう促され、おっちゃんと鮫崎さんは遺体を覗き込む。そこにはカエル先生の言う通り、頭部に小さな穴が開いていた。

 

「……ああ、確かに」

「……じゃあこの仏さん、銃で撃たれて殺された後にこの箱に詰められ、服を着替えさせられてから燃やされたって訳か」

 

おっちゃんと鮫崎さんが続けざまにそうポツリと呟き、カエル先生は再び頷いて見せる。

 

「そういう事だね……。あと僕がこの遺体で分かる事は、顔についているその妙な物体……」

「妙な物体……?」

 

カエル先生の言葉に怪訝な顔でおっちゃんが遺体の顔を見つめる。

そこには焼け焦げてはいるが、確かに何かの物質が遺体の顔にくっついていた。

それを見たおっちゃんと鮫崎さんがハッとする。

 

「お、おい、これってまさか……!」

「焼けて変形してしまってるけど……シリコンだね、これは。よく整形手術の隆鼻術(りゅうびじゅつ)に使われてるやつだよ」

 

驚愕にそう響く鮫崎さんに、カエル先生は落ち着いた口調でそう答える。

そこへおっちゃんも声を上げた。

 

「――ってことはこの遺体、顔を変えてたってことですか!?」

「そうなるね。……残念ながら僕でも遺体がこの状態じゃあ死亡推定時刻は割り出せないから、僕がこの遺体で分かるのはここまでだね」

 

肩をすくめてそう締めくくるカエル先生に、俺の隣で別の非常用梯子の箱の上に座っていた服部が感嘆の声を上げる。

 

「へぇ~、やるやないかあの先生。……おい工藤、前々からお前の話でよく聞かされとったけど確かに大した洞察力持ってるやないか、あのお医者はん」

「ははっ……あんなのはまだ序の口だよ」

 

俺にしか聞こえない声でカエル先生を賞賛する服部に俺は空笑いを浮かべる。

こいつは知らない。カエル先生の医者としてのスペックがこんなもんで収まるほど小さくは無い事を。

 

「おまけに初めてレストランで見た時から思っとったけど、ほんまカエルにそっくりやで!おもろ!」

「ったく、おめーは」

 

一言多いのも相変わらずか。クックと忍び笑いを浮かべる良き好敵手(ライバル)に俺は呆れ顔を浮かべずにはいられなかった。

そんな俺と服部の前で、カエル先生とおっちゃんたちの会話は続いていた。

 

「僕の方も一つ聞きたいんだがね。さっきここから上がった火の手……その出火元はもう突き止めてるのかい?」

「ええ。遺体の足元に缶が転がっているんですが、あの爆発は恐らくその中に入れられたガソリンに引火したものと考えられます」

 

おっちゃんの説明にカエル先生は「ふむ……」と顎に手を当てて唸ってみせる。

確かに遺体の足元には大きく裂けた缶が転がっていた。

そこへ鮫崎さんも口をはさんでくる。

 

「見ての通り缶が裂けるほどの爆発だったんで、()()()()()()()()()()()()()()()()吹っ飛んでたみたいですからな」

「ビニールシート?」

 

その言葉が気になったのか、服部はおうむ返しにそう聞き返し、おっちゃんがそれに答えた。

 

「ああ……。叶を探しに警視殿とここに来た時、被せてあったんだよ……。今、お前が座っているそれと同じように」

 

おっちゃんはそう言って服部が座っている箱を指さした。

服部が立ち上がり、さっきまで座っていたその箱をまじまじと見る。

『非常用ハシゴ』と大きく書かれたビニールシートに包まれた長方形の箱。そのビニールシートを固定するために外側は太い縄で縛られていた。

 

「……そんで?そん時、ちゃんと箱の中は調べたんやろな?」

「いや見た通り、シートは外から縛ってあったから、中に隠れている奴はいないと思ってな……。くそ、こんな事ならあの時、ちゃんと箱の中を確認しておくべきだったぜ」

 

そう、おっちゃんは悔しそうに悪態をついた。

 

 

 

 

――その後、おっちゃんと鮫崎さんが遺体から距離を置きながら何やら二人して(何故か服部の方を見ながら)会話をし始め、遺体の方も事務員たちがシートを被せていき、俺たちは遠目からそれを眺めていた。

ふいに服部の方から声がかけられる。

 

「なぁ、あの遺体が顔変えとったっちゅうことは……」

「ああ……もしかしたら、逃走していた例の『四億円事件』の犯人たち……その中の一人かもしれねぇな。……あの遺体が本当に亀田さんだとしたら、船の中で意気投合していた蟹江さんもその仲間の可能性が高い。……お互い整形した仲間同士が久しぶりに会ったって感じだったし……」

「となると残りの仲間は……さっきから人ごみのいっちゃん後ろで脂汗流しとる……あの鯨井っちゅうおっさんかもしれへんなぁ」

「そうだな……」

 

明らかに挙動不審な鯨井さんを人ごみを隔てて見据え、そう言う服部に俺も強く頷き言葉を続ける。

 

「……あの人、蟹江さんにマッチを貰ってた時、妙な態度だったし」

「それにや……気になんのは、上のデッキであのおっさんがわめいとった、『奴は生きていたんだ』っちゅうあの言葉……。あらもうどう見たかてあの一万円札見てビビったんやで」

 

服部のその言葉に俺もあの一万円札を脳裏に浮かべる。

 

「……あの一万円札に書かれた文字は……『海神ポセイドンに生を受けて、我が影蘇りたり』……」

「……『影』、っちゅうのは影の計画師、叶才三……。『蘇る』っちゅうのはいっぺんどっかで殺されたっちゅうこっちゃな」

「ああ。殺したのは恐らく……あの事件で叶才三が率いていた仲間……。そして、死んだはずの叶才三を名乗る老人が現れた……」

 

俺がそうぽつりと呟くと、服部は難しい顔をしながら考え込み始めた。

 

「けど、わからんなぁ。船から姿を消してしもたその爺さんの正体もやけど……なぁんでわざわざ時効が明ける日ぃにその仲間の三人が船の上で会わなあかんのや?変な新聞広告まで出してやで?」

「それに……その広告を出した『古川大』って人物も気にかかる……。三人の仲間の誰かの本名なのか……それとも――」

 

そこまで俺が言った時、おっちゃんが俺たちの所にやって来るのが見えた。

そして、やって来たおっちゃんは俺たちの前に立つなり開口一番に声を上げる。

 

「おい、お前ら。俺と警視殿は今から蟹江を探しに行く。……あの遺体が蟹江の服を着せられた亀田なら、あいつを殺したのが蟹江である可能性が高いからな。……お前たちは乗客全員をレストランに集めておいてくれ」

 

そこまで言ったおっちゃんは今度は俺たちにしか聞こえないほど小さな声でその続きを口にする。

 

「……後で警視殿が鯨井さんを尋問するらしい。上のデッキでのあの取り乱しようは、どう見ても怪しかったからな」

「せやろな。たぶん叩いたら埃がぎょーさん出て来るやろうしな。わかった、まかせとき」

 

服部が気軽に了承し、それを見たおっちゃんは鮫崎さんと一緒に現場を後にしていった。

二人の姿が見えなくなった直後、服部が俺に耳打ちしてくる。

 

「どや?おっちゃんらが戻ってくる前に、先に俺らであの鯨井のおっさん問い詰めてみよか?」

 

そんな提案が服部から来たが、俺はニヤリと笑って静かに首を振った。

 

「いや、それはおっちゃんらに任せて、俺らは()()()()()()()()()の話を聞きに行こうぜ?」

「もう片方……?」

 

不思議そうな顔でオウム返しに聞き返してくる服部に、俺はその人物の名を口にした。

 

()()()()()()()。……恐らくあの人、何か重要な手掛かりを握っている可能性があるぜ。それも俺らの知らない、想像を絶する何かを」

「な、なんやて?何でそんな事が分かるんや?」

 

やや戸惑いながら、服部がそう聞いてきたので俺はそれを説明し始める。

 

「……あの鮫崎さんの娘――美海さんの話、覚えてるよな?」

「ああ、おっちゃんが言うとった20年前に撃たれた銀行員で、何とか助かったっていう……」

「その美海さんを助けたの……恐らくカエル先生だ」

「な、なんやて!?」

 

驚く服部を前に、俺は更に言葉を続ける。

 

「……ここに乗船して直ぐ、カエル先生と鮫崎さんが話してたんだよ――

 

 

 

『……ああ!()()()()刑事さんじゃないですか。()()()()()()()()()()()()()()()()?』

『……!やっぱり()()()()先生でしたか!……いや、その節は()()()()()()()()()()()

 

 

 

――ってな」

「――!それがあの事件の怪我の事を言うとるんやったら……20年前の事件にあの先生も間接的に関わってたっちゅうことかいな。……ん?まてよ、ちゅうことは……!」

 

何かに気づいたらしい服部がハッとした顔を浮かべ、俺はそれを見てよく頷いた。

 

「……ああ。どういう因果か、この船には20年前の事件の犯人たちだけじゃなく、それに関わったカエル先生や鮫崎さんまで乗り込んでるって訳だ。これはどう見たって偶然じゃねぇ。……恐らく彼らが集められたのはこのツアーの企画者である『古川大』という人物……。こいつに秘密があるのは間違いねぇぜ?」

 

ニヤリと笑いながらそう言う俺を前に、服部の目が輝きだす。

 

「ほぅ~、おもろいやないか。興味出てきたであの先生が抱えとるもんに!」

「ああ!皆をレストランに連れてったらカエル先生だけ連れだして聞いてみようぜ?」

「鬼が出るか蛇が出るか……。今から楽しみやで」

 

クックと笑う服部と一緒に俺たちはそんな会話をしながら、蘭や他の乗客たちと共にレストランへと向かって行った――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:カエル顔の医者(冥土帰し)

 

 

 

 

「ほな、改めて自己紹介といこか!大阪で高校生探偵やってる服部平次っちゅうもんですわ!以後よろしゅうに♪」

「これはまた、ご丁寧に」

 

レストランのそばのトイレの中――ニカリと笑いながら挨拶をする服部君に、私は苦笑しながらそう応える。

あの焼死体の検死の後、毛利君と鮫崎さん以外の私を含む乗客をレストランに集められた直後、私だけ服部君とコナン君(新一君)にトイレに呼び出され今に至る。

私と服部君の自己紹介が終わるとすぐ、コナン君が本題を切り出してきた。

 

「……それでカエル先生。そろそろ話してくれよ。先生がこの船に乗り込んだ本当の目的ってのを」

「……ああ、やっぱりバレてたんだね?」

 

苦笑しながらそう言う私に、コナン君はフンと鼻を鳴らす。

 

「ったりめーだ。仕事人間のカエル先生が何の理由もなく休暇を取ること自体、あり得ねぇからな」

「……仕事人間なのは認めるけど、僕って休暇を取ると何か理由がないとおかしいと思われるレベルなのかい?」

「……じゃあ逆に聞くけど、理由もなく旅行に行った事なんて今まであんのかよ?」

 

ジト目でそう問いかける私にコナン君もジト目でそう問い返してくる。痛い所を突いてきたね。

数秒の沈黙後、折れたのは私の方だった。一つため息をつくと、コナン君と服部君に向けて口を開き、コナン君のその問いかけには答えず、やや強引に話を進める。

 

「……まぁ正直な所、僕の方もキミたちに話しておこうかと迷っていた所だから、丁度いい機会だね」

「やっぱ20年前、叶の仲間に撃たれた鮫崎さんの娘さん――美海さんを助けたのは先生だったんだな?」

「……驚いたね、もうそこまで突き止めてるのかい?ああ、そうだよ」

 

コナン君の質問に私は素直に頷く。そこへ服部君が口をはさんできた。

 

「ほな、やっぱり先生も20年前の事件に関わってたんやな……。するってぇと、この船に乗り込んだのも20年前のあの事件に関係があると思うてのことなんか?」

「あー……うん、まあそうだね。キミたちの想像通り、僕がこの船に乗り込んだのは例の新聞の広告欄に載った『古川大』を見たからなんだよ。あの名前と乗船条件が古い一万円札だったのが合わさってすぐにピンと来たんだ。もしかしたらあの事件――と言うか、()()()()何らかの関係があるんじゃないかってね」

「なんやて?そりゃどういうこっちゃ?」

 

首をかしげてそう尋ねる服部君に、私はおもむろに懐から小さな手帳とペンを取り出すと、そこに文字を書き始め、書いたそのページを手帳から破り取り、彼らに見せる。

そこには()()()で『古川大』の名前が大きく書かれていた。

ジッと紙を見つめるコナン君と服部に、私は静かに口を開く。

 

「いいかい?古川大と言うこの名前……これをこうすると――」

 

そう言って私が手に持ったメモ紙を()()()()瞬間――。

 

「「!!」」

 

――唐突に『古川大』の秘密を理解したのか、コナン君と服部君の目が大きく見開かれた。

そんな二人に向かって私は言葉を続ける。

 

「――まぁ、そういう事だよ。……実はこの事に気づいたのが、()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだが、僕はキミたちと違って探偵じゃないから正直確信が持てなかった。……でも、この船に鮫崎さんが乗り込んできたのを見るに、恐らく――」

「――ちょ、ちょっと待てよカエル先生」

 

そこへコナン君が慌てて私の言葉に待ったをかけた。その言葉の中に聞き逃す事の出来ない部分があったからだ。

 

「『あの事件が起こってしばらくしてから』……?まさかカエル先生、20年前にも『古川大』の名前をどこかで見た事あんのかよ!?」

 

そう問い詰める彼に私は静かに頷き口を開く。

 

「うん、そうだよ。……そして、()()()()()()()()()()()こそが、僕がこの船に乗り込んだ最大の理由だったんだよ――」

 

そう言って私は、コナン君と服部君に、私の知る20年前に起こった――その全てを彼らに話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:江戸川コナン

 

 

 

 

 

「なん、やて……!?」

 

カエル先生の知っている事の全てを聞かされ、俺の隣に立つ服部はやや放心状態のままそう響いた。

無理もない、カエル先生の口から出た事実は俺ですら想像していなかったものなのだから。だが、()()()()()()()――。

 

「まさか、()()()()()()()()()……!?」

「まだ分からない。それを確かめるために、僕はこの船に乗ったんだ」

 

俺の問いかけにカエル先生は静かに首を振ってそう呟いた。

そして、「これで僕が知っている事は全部だよ」とカエル先生がそう言ったのを合図に、俺と服部は顔を見合わせる。

 

「こらまた……藪突いたら蛇が出よったで」

「ああ……こりゃ一度、本腰挙げて船内中を調べてみるっきゃねぇな」

 

服部のその言葉に俺も頷きそう返す。

ぶっちゃけ、俺も服部も今の今までこの事件は叶才三の名を(かた)る乗客の中の誰かが起こしたものだと考えていたが……先程カエル先生から聞いた話で()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……とにかく一度、レストランの方に戻ろうぜ?もうおっちゃんたちが戻ってるかもしれねぇし」

「そうやな」

「うむ」

 

俺の言葉に服部とカエル先生が同時に頷き、同時にトイレの出入り口へと向かう。

 

「おととと……」

 

その途中、服部がトイレのごみ箱に足を引っかけてしまい、ごみ箱が盛大に倒れる。

ゴミ箱の蓋が外れ、中からクシャクシャに丸めた紙が転がり落ちてきた。

 

「……?」

 

慌ててゴミ箱を元に戻そうとした服部がその紙くずを手に取った瞬間、眉根を寄せる。

そして、おもむろにその丸まった紙を広げ始めた。

 

「……おい服部。何やってんだよ?」

「……工藤、見てみぃ。おもろいモン見つけたで」

 

俺がそうたしなめると、紙を広げてそこに書いてある文字を呼んだ服部がニンマリと笑い、俺にその紙を見せてきた。怪訝な顔で俺もその紙の文字を覗き込むようにして読み、驚く。

 

「これは……!」

「おーい、キミたち。一体、何してるんだい?」

 

俺が声を上げたのと、先にトイレから出てレストランの出入り口の前で待っていたカエル先生の声がこちらにかかるのがほぼ同時だった。

服部は慌てて紙くずをポケットの中にねじ込むとカエル先生の後を追い、俺もまた彼らの後を駆け足で追って行った――。


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