2年前、俺こと
それもただの事故じゃない。雑誌の懸賞で貰った仮面ヤイバーのサイン色紙を見せに友達の家に向かう途中、後ろからバイクに乗った何者かが走ってきて、ひろしの持つサイン色紙をひったくって行ったのだ。
それを追いかけたひろしが車道に飛び出してしまい、トラックに……。
知らせを聞いて病院に駆けつけてきた俺が見たのは、見るも痛々しいひろしの姿であった。
担当医も懸命に治療を行ったがそれもかなわず、持って数日だと言われ、俺はその場に膝から崩れ落ちてしまった――。
絶望の中、俺は何とかひろしを助けてくれるよう必死になって担当医に縋りつき懇願した。
(頼む!いくらでも金は払う!必要とあらば何だってする!だからどうか、どうかひろしを……!!)
俺の祈りが通じたのか、担当医は沈痛に歪めていた顔を上げ、意を決したかのように俺に声をかけた。
「……本田さん。実はこの米花町には世界でも指折りの名医だと言われている医者が別の病院に勤務しているのです。私は実際に彼の治療を見たわけではありませんが、その人は噂ではどんな病気も怪我もたちどころに治してしまうという話です。その人ならもしかしたら……」
「ほ、本当ですか!?なら、お願いします。ぜひその人を呼んでください!」
俺の了承を受け、担当医はすぐさまその名医を呼んできてくれた。
初めて会った第一印象は「カエルみたいな顔の医者だなぁ」だったが、話してみると物腰は柔らかく誰とでもすぐ打ち解けられそうな穏やかな医者だった。
そのカエル顔の医者はひろしの容態をあらかた確認すると直ぐに「
手術室の扉が閉まる直前、俺はカエル医者に向けて声を上げた。
「先生、お願いします!ひろしを、ひろしを助けてやってください!」
それに答えてカエル医者も振り向きざまに手術用マスクで覆われた顔で俺に笑いかける。
「心配ない。必ず助けるよ」
そう言い残し手術室の扉が静かにしまった――。
それから三日後――。
「兄ちゃん!」
病院の庭で元気に走り回るひろしの姿があった。
……信じられない。ほんの三日前まで手の施しようがない、持ってあと数日だと担当医からも見放されていたひろしが、手術を経てたった三日で立って歩けるほどにまで回復したのだ。
これには担当医だった医者も唖然としていた。
そんな彼と俺の背後でその奇跡を起こしたカエル顔の医者が何事でもないかのように声をかけてきた。
「術後は良好。後数日であの子は退院できるね。おめでとう」
その言葉に俺は心の底から安堵したのは言うまでもない。
……ただ、それで全ての問題が解決したというわけではなかった。
元気になったひろしだが、それでも時折ふとしたことで暗い顔を見せる時があった。
俺には何でもないよと言い張って笑顔を向けて来るひろしだが……俺にはその理由がすでに分かっていた。
恐らくまだひろしの中で、あの奪われた仮面ヤイバーの色紙のことが尾を引いているのだろう。
沈痛な想いをひた隠しにするひろし、そのひろしと喋るカエル顔の医者を見て、俺は決心する。
――この人は全力でひろしの命を救ってくれた。なら今度は、俺がひろしを助けてやる番だ……!!
その後、俺はいくつもある仮面ヤイバーのファンクラブに入って、ひろしから色紙を奪った犯人を見つけ出すため、情報を集め続けた。
そうして長い年月の末、ようやくその容疑者を特定することに成功する――。
――それは『ひろし君へ』と書かれた仮面ヤイバーの色紙。
三島本人は兄から譲り受けたと言っていたが……調べてみた結果、奴に『ひろし』なんて兄はいなかった……!
その事実を知った時、俺の中で三島への憎悪が沸々と湧き上がるのを感じた。
(お前か?お前なんだな……?俺の大事な弟を事故に巻き込みやがったのは……!!)
許せない。あんな奴のせいでひろしが死の淵をさ迷ったかと思うと今すぐ殺してやりたい衝動にかられた。
だがその瞬間、俺の脳裏にふいにひろしの顔が浮かび上がる。
悲しそうな顔を浮かべるそのひろしの顔を見て、俺の殺意は瞬く間に静まっていった。
(……ああ、そうか。そうだよな、ひろし。分かってる、分かってるさ。お前を悲しませる真似なんてしねぇよ。あんな男に手をかけても、お前は喜びはしねぇもんな……)
――それから俺は、三島を警察へとつきだしてやった。
最初こそ無罪を主張していた三島だったが、奴に兄がいない事と、サイン色紙にひろしの指紋がしっかりと残っていたことが決め手となり、観念した。
しかも三島は、仮面ヤイバーのグッズ欲しさに同じような窃盗を何度かやっていたらしく、その事実が発覚し、余罪が積み重なったことにより、塀の中で生活する事がほぼ確定的になったらしい。
自業自得だと思いながら、俺は警察から返してもらった仮面ヤイバーのサイン色紙を手に、俺はひろしの元へと帰って行った。
俺の持っているサイン色紙を見た途端、ひろしの顔がパッと輝いた。
それを見た俺は胸を張ってひろしに言う。
「ほら、ひろし。時間がかかっちまったが、俺が悪い奴からお前の宝物、取り返してきてやったぞ。もちろん、その悪い奴ももう捕まって二度と悪さしねぇように
俺から色紙を大事そうに受け取ったひろしは、それを聞いて満面の笑みを俺に向けて声を上げた――。
「ありがとう、兄ちゃん!……兄ちゃんは僕の仮面ヤイバーだ!!」
――その言葉で、俺は全てが報われたような気がした。
軽いキャラ説明。
・本田修
アニメオリジナル回、『仮面ヤイバー殺人事件』の犯人。
しかし、この作品ではひろしは冥土帰しによって命を救われているので殺人を犯す事は無くなりました。
・三島勝二
アニメでは被害者でしたが、この作品では本田に悪事を暴かれ、現在は牢の中で服役中。
・本田ひろし
冥土帰しによって命を救われ、今は退院して兄の修と平穏な生活を送っている。