とある探偵世界の冥土帰し   作:綾辻真

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毎回のお気に入り登録、及び感想ありがとうございます。

シンフォニー号の事件の後日談なので極端に短いです。
それでも良ければどうぞ!


後日談:『シンフォニー号殺人事件』のその後

SIDE:江戸川コナン

 

 

――今回起こった『シンフォニー号』での事件後の話をかいつまんで話そうと思う。

 

事件解決後。運よく漁師の船に助けられて生還した服部をいつの間にかポケットに入れられてたという幼なじみのお守りについて俺と蘭とでからかってやると、ようやく海の地平線から太陽がゆっくりと顔を出した――。

 

それからしばらくして、船が小笠原に着いた後は当然の如く鯨井さんは殺人容疑で待ち構えていた警察に逮捕された。

そして、バーテンダーの姿をした叶さんもまた、警察に連行される事になった。

叶さんに関しては20年前より以前の犯罪は既に時効が成立しているため罪に問う事は出来ないが、船に乗るために本物のバーテンダーを閉じ込め、荷物を盗んだ事実がある。

拉致監禁、及び窃盗の罪でそれなりの罰が下るだろう。

連行される直前、叶さんは磯貝さんと二言三言会話を交わすと、そのままパトカーに乗り込んでいった。

その時の二人の顔はまるで憑き物が落ちたように穏やかであった。

そして叶さんが連行された後、磯貝さんは言っていた――。

 

「……また離れ離れになったのは寂しいけれど、それでも恐らくは数年程度の別れになるだけ。20年も生死不明のまま待ち続けたあの頃に比べれば遥かにマシよ」

 

と、前向きな姿勢で笑顔を浮かべた。

事実、警察の取り調べで船の事件だけでなく20年前以前の事件の内容も含めた質問にも、叶さんは素直に答えているという。

反省の色があるとして減刑される可能性が高いと目暮警部たちから聞かされた。

また事件後、勾留(こうりゅう)中の叶さんの元にカエル先生がやって来たらしい。

どうやら船上で言っていた叶さんの顔の治療の続きを行うために色々と根回しをして面会にこぎつけたのだという。

カエル先生との再会は出所後になると思っていたらしい叶さんは、先生がやって来たことに大いに驚いたのだと。

そして、カエル先生の行動力に半ば呆れながら叶さんは留置所のとある一室にて、警官たちが見つめる中カエル先生の治療を受けて行った。

 

 

 

――そして、20年前に奪われた例の四億円に関してなのだが、事件後警察の捜査でとある貸金庫に眠っているのを発見されるも、ここでもう一波乱起こった。

 

 

 

叶さんによって命を救われた蟹江さんだったが、亀田さんが死に鯨井さんが逮捕されたのを知るとその四億円を独占できると踏んで、意気揚々と押収した四億円を渡すよう言って来たのだが、20年前に彼らに襲撃された銀行側が話を聞きつけ、四億円をこちらに返還するよう要求してきたのだ。

 

もう時効が切れた金だから所有権はこちらにあると主張する蟹江さんに対して、元はこちらから奪われたお金だというのがすでに明らかになっているため、こちらに返すのが筋だという銀行側の主張とで張り合いとなり、ついには裁判にまで発展する事となった――。

 

どちらも一歩も引かず、事態は長引くかと思われたが、それも直ぐに終幕を迎える――。

 

銀行側に20年前の事件と船での事件が知られると同時に、マスコミにもその話が流れたため、唯一逃げ延びて大手を振って暮らしている蟹江さんの所に連日連夜、マスコミが押しかけ始めたのだ。

その結果、世間に蟹江さんの正体が20年前の事件の犯人一味の一人だという事が知れ渡り、瞬く間に蟹江さんは世間からのバッシングを受け肩身の狭い生活を強いられることになり、耐えきれなくなった蟹江さんは苦労して手に入れた四億円の所有権を泣く泣く手放し、早々に海外へと逃げて行った。

 

 

 

 

 

――かくして、盗まれた四億円も元の持ち主たちの元へと帰る事となり、無事この一件は完膚なきまでに終了する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:三人称視点。(鮫崎島治)

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

日本家屋の自宅の縁側に座りながら、鮫崎は大きく息を吐いて脱力する。

警察の事情聴取を受けて疲れたというのもあったが、それ以上に20年前の事件の決着がつけられたことに安堵したのが大きかった。

 

(……これで、警察官としての俺の心残りは全て晴れた。ようやく心置きなく老後を楽しめるってわけか……)

 

少し前に娘夫婦(むすめふうふ)にも20年前の事件が解決したことを伝えた。二人とも大いに喜んでおり、今夜はその記念パーティーを開こうと張り切っていた。

鮫崎はそんな二人を見てようやく全てが終わったのだと実感した。

 

(娘らの喜ぶ顔も見れたし、孫の顔も見れた。……もういつ死んでも悔いはねぇなぁ)

 

そう思いながら鮫崎はズボンのポケットに手を突っ込み、そこに入っていた手袋を取り出し、見つめた。

いつも持ち歩き、あの船でも使った手袋。定年を迎えても警察官としての自分がなかなか消えず染みついていた。その残滓が今この手の中にあった。

 

「…………」

 

定年を迎えた後、何度も何度も手放そうと思っていた手袋。しかし、未だに手放せず今もこうして持ち歩いている。……まぁ、そのおかげであの船の事件の際にも役立ったわけだが。

 

(……考えてみりゃあこの手袋だけじゃねぇ。……俺があの船で叶の影を追いかけたのも、娘が被害にあったっていう理由だけじゃなかった。刑事じゃなくなり、逮捕権も無くなっても、それでも時効目前まで叶を追いかけたのはひとえに……俺の中の警察官としての執念、信念が諦める事を許さなかったからだ)

 

そしてその一端は今も生きている。

定年退職後、鮫崎は今現在、定年再雇用を受けて()()()()の事務員として働いている。

警察とは全く関係ない職場を選び、そこに働きに行くことも出来たのにだ。

 

そこで鮫崎ははたと気づく。

 

(そう、か……。俺は警察官であることをおいそれと捨てたくなかったんだな)

 

警察官であることに誇りを持ち、自分の中に独自の正義を掲げて駆け抜けたこの人生。それを定年退職()()()であっさりと終らせたくは無かったのだ。

 

(そうか……そうか……!なら、俺が()()()()()()()()()……!)

 

意を決した鮫崎は縁側からすっくと立ちあがると、そのまま隣の和室に向かい、そこにあった固定電話の受話器を取って電話をかけ始めた。

かける連絡先は、今も警視庁の上層部で働いている古い友人だ。

実は少し前から、彼から()()()()()で声をかけられており、鮫崎はその返答を出し渋っていたのだが、()()()()()()決意が固まった今、迷いなく友人へと電話をかけたのだった。

 

娘たちを説得するのは、後にしよう。退職してから少しブランクが空きすぎているのが不安な所だが、今はこの決意が消えない内に友人に答えておきたい。

 

(もう一花咲かせるのも、悪くはねぇ……!)

 

受話器を耳に当てて電話の向こうで友人が出るのを待ちながら、鮫崎はフッと口元を緩ませた――。




軽いキャラ説明。



・叶才三

単行本23巻に収録。アニメでは174話として2時間スペシャルで放送された『二十年目の殺意 シンフォニー号連続殺人事件』の回想にて登場。
原作では既に故人であるが、この作品では冥土帰しの手によって存命している。
蟹江に撃たれて海に落ちた後、冥土帰しに助けられ、そこから紆余曲折を経て20年後に裏切った仲間たちが乗る船へと乗船する事となる。

事件後、本来乗船するはずだった本物のバーテンダーを拉致監禁した罪で警察に逮捕された。





・鯨井定雄

こちらは原作通りの犯人。しかし蟹江を殺しそこなったため原作よりは罪が軽くなるのは確実である。





・亀田照吉

こちらは原作と何も変わらず、原作通りに鯨井に殺されてしまった。以上。





・蟹江是久

こちらは原作通りに鯨井に殺されることは無く、殺される前に叶によって助け出され生存する。
事件後に四億円を独占しようとするも、世間からバッシングに耐え兼ね、所得権を放棄して外国へと逃げて行った。





・鮫崎島治

定年退職した元警視であるが、事件後にとある決意を固め、警視庁上層部で働く旧友ととあるコンタクトを取る。





・磯貝渚

叶の娘。叶の生存と再会に大いに喜んだ。今は叶が刑期を終えて帰って来るのをただひたすらに待ち続けている。






・鮫崎美海

島治の娘。原作では回想にしか出ず、20年前の事件の際に死亡しているが、この作品では冥土帰しによって存命している。
現在は20年前から交際している(原作本来では船に乗るはずだった)銀行員の海老名稔(えびなみのる)と結婚し、子供もできて幸せな家庭を築いている。

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