とある探偵世界の冥土帰し   作:綾辻真

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今回は以前、あとがきにて書いた『彼女』の過去話を書いていきます。


カルテ21:武田美沙【前編】

SIDE:カエル顔の医者(冥土帰し)

 

 

 

――あれは3年前の事である。

当時私は、仕事の出張で()()()を一人連れて鳥取へとやって来ていた。

そしてそこで仕事を終えた私たちは少し鳥取を観光した後、そろそろ帰ろうという事になり、雨の降る中、車を東都へと向けて発進させた。

その途中、近道を通ろうと絡繰峠(からくりとうげ)と呼ばれる山道を車で走っていた時の事だ。

運転している私に、助手席に座る同行者の看護師が声をかけてきた。

 

「いやぁ~、食った食った♪美味しかったですね先生、鳥取名物『牛骨ラーメン』に『かに汁』。もう大満足ですよ私♪」

「それは良かったね。……全く、珍しく僕について来たと思ったら、郷土料理が目当てだったのかい?」

「もちろん♪こんな時でないと日本各地の名物なんて食べられませんしね」

 

悪びれる事も無くそう言ってくる同行者の看護師――鳥羽初穂(とばはつほ)君に私はがっくりと肩を落とした――。

全くこの娘ときたら、普段は他の医師たちや患者たちの前では猫をかぶっているくせに、私や()()()()()()()()()()()()()の前でだけ途端に本性をさらけ出すのだ。

それでも仕事は建前上しっかりとやってくれる辺り、看護師としては素直に信頼できる。

しかしそれでも、まさか鳥取の名物を食べる目的で私について来るとは思いもしなかった。

大きくため息をつきながら私は鳥羽君に横目で口を開く。

 

「まぁ、病院の職員たちのためにお土産もたくさん買ってあげる気前の良さは認めてあげるよ?」

「私だってそこまで気が利かない女じゃないですよ。……というか、土産買わないとあの藤井の奴にまーた何か小言を言われかねないですしね」

 

フンと面白くなさそうに鼻を鳴らして初穂君はそっぽを向く。

どうにも同じ病院で一緒に働く、同じ看護師の藤井孝子(ふじいたかこ)君とは性格が水と油なのか何かと衝突しやすい。所謂、犬猿の仲なのだこの二人は。

後部座席にたくさん買い込んだお土産をチラリと一瞥した私はやれやれと視線を前方に戻し、肩をすくめた。その次の瞬間だった。

 

――道端から唐突に若い女性が飛び出してきて走って来る私の車に向けて両手をブンブンと振って見せたのだ。

 

「!」

 

それを見た私は直ぐにブレーキを踏む。幸い私の車と彼女の距離はまだ遠く離れていたため、私は余裕を持って車を停止させることが出来た。

完全に止まった私の車に女性が駆け寄って来る。

運転席に近づいて来たので私は直ぐに窓を開けた。

 

「どうかしたのかね?」

「すみませんいきなり飛び出してきて。……ですがお願いします、助けてください!すぐそこで土砂崩れがあって人が一人巻き添えに……!」

 

私の言葉に女性は半ば慌てた口調でそう返答し、それを聞いた私と鳥羽君は瞬時に顔を険しくさせた――。

 

 

 

 

 

 

その女性――武田美沙(たけだみさ)さんの案内で現場に駆け付けてみると、そこには大量の土砂に体が半分埋まって倒れている男性の姿があった。

そばにはカメラも落ちており、どうやら景色を撮影している最中に事故にあった様子だった。

 

「鳥羽君、直ぐに救急車を!」

「はい!」

 

私は直ぐに鳥羽君に指示を飛ばし、鳥羽君はすぐさま持っていた携帯で連絡する。

その間に私は男性に駆け寄り、土砂の山から彼を引きずり出した。

 

「キミ!大丈夫かい?しっかりするんだ!」

 

そう叫びながら男性の顔を覗き込み、()()()()()()()()

彼は明らかに日本人離れをした顔立ちをしていた。

金色の髪に日本人よりの色白な肌。彼はれっきとした外国人であった。

私はすぐさま彼の容体を確認する。見た所、擦り傷や打撲の他にも数か所骨折もしているようであった。

 

(とにかく、一刻も早く治療をしないと……!)

 

私がそう思ったと同時に、電話をしていた鳥羽君が(そばに美沙さんがいるため)丁寧な口調で声を上げた。

 

「先生、ダメです!今電話で救急隊員に確認を取ったのですが、最寄りの病院は今は満室で新しく患者を収容する事は出来ないそうです!」

「そうか……」

 

それを聞いて私は思案する。治療するだけなら直ぐにでも出来るから問題はない。しかし問題は治療後、彼を安静に寝かせられる場所が無ければ回復は困難になって来る。

さて、どうするべきか。と、私がそんな事を考えていると、ふいにそばで状況を見守っていた美沙さんから提案がかかった――。

 

「……あの、でしたら私の家に運ぶのはどうでしょう?私の家、この直ぐ近くなんです」

 

 

 

 

 

 

 

男性の応急処置を済ませて車の所に彼を運び込むと、後部座席に積んであったお土産や荷物を助手席と後部座席の下に押し込んで後部座席に男性と美沙さんを乗せる。

そして彼女の案内の元、その屋敷へと全速力で向かった――。

 

――目的の屋敷は直ぐに見えてきた。

日本家屋のひなびた大きな屋敷で、そばに納屋や蔵のような建物も建っているのが小さく見える。

そのすぐ手前には複数の車が止められるほどの広い空き地が広がっており、私はその空き地に車を停車させた。

事情を説明させるためにまず住人である美沙さんを先に屋敷へと向かわせた私は、後部座席から男性を降ろすと彼をおんぶし、医療道具一式を鳥羽君に持たせると私たちも屋敷へと向かって走り出した。

 

だがその途中、ふいに私の後ろを走っていた鳥羽君が急に立ち止まった。

 

「?」

 

私も男性を担いだまま反射的に立ち止まって鳥羽君の方へと振り返る。

すると鳥羽君は、何故か怖い顔を浮かべながら屋敷を睨みつけていたのだ。

 

「どうしたんだね?早くしないか!」

「え、あ、すみません」

 

彼女が屋敷を見て何を思ったのかは知らないが、今はそれどころではない。私は鳥羽君に向けて一言一喝すると、途端に彼女はハッとなり、慌てて動き始める。

それを見た私もすぐに屋敷に向けて再び走り出した――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:三人称視点。(鳥羽初穂)

 

 

 

(なぁ~んか(くさ)いねぇ、この屋敷……)

 

先を走るカエル先生と背負われる男の背中越しに屋敷を睨みつけながら、鳥羽は心の中でそう毒ついた。

屋敷を一目見た時から、彼女は何故かこの屋敷が気に入らなかった。

 

――それはこの屋敷全体が纏う空気。

 

まるで()()を迎え入れるかのように屋敷全体のねっとりとしたその空気が自分を取り込もうとしているような気がしてならなかったのだ。

そう思うと全身が総毛立ち鳥肌も浮かんだ。気持ち悪い。反吐が出る。

 

(こう言うのを『同族嫌悪(どうぞくけんお)』って言うのかねぇ……ああ嫌だ嫌だ、気に入らないったらありゃあしないよ)

 

屋敷が近づくにつれ、鳥羽の目つきも鋭くなっていく――。

 

(よぉく知っている臭いだからこそ、逆に肌に合わないって事もあるもんなんだねぇ――)

 

 

 

 

 

 

(――私と同じ、()()()()()()()()ってのはさぁ……!)




今回も短めですがここで一区切りとさせていただき、と同時に、今年最後の投稿とさせていただきます。

来年も早めに投稿できるよう頑張ります。
読者の皆々様、今年もあとわずかですが良いお年を。
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