とある探偵世界の冥土帰し   作:綾辻真

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毎回の誤字報告、及び感想ありがとうございます。


カルテ22:枡山憲三(ピスコ)【2】

SIDE:黒の組織

 

 

 

車を隅々まで調べ上げ、他に異常が無い事を確認したジンとウォッカは、改めて車に乗り込み目的地である杯戸シティホテルへと向かっていた。

 

「……でも、アニキ。シェリーの奴は(あの女)、本当に来るんですかい?」

 

助手席に座るウォッカが運転するジンにそう問いかける。

それにジンは確信をもって答えた。

 

「ああ……奴はそういう女だ。必ず止めに来る。俺たちに、出迎えられるとも知らずにな」

 

そう言いながらジンは新たな煙草を咥え、車に備え付けられているシガーライターを手に取ると、煙草に火をつけた。

そんなジンを見ながらウォッカが更に質問を重ねる。

 

「万一、来なかったら?」

 

煙草の煙を吸いながら、ジンはその質問にニヤリと笑って答えた。

 

「……奴が米花町近辺に潜んでいるのは分かった。()()の目星がつけば、狩るのは造作もねぇ。――」

 

 

 

 

 

「――裏切り者は、匂いを消せねぇからな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:江戸川コナン

 

 

 

「……本当なのかい?『奴ら』の仲間がこの会場に紛れ込んで、あの政治家の彼を暗殺しようとしてるって」

「ああ、間違いねぇよ」

 

そう問いかけて来るカエル先生に、俺はきっぱりと断言する。

こちらは確実に奴らの後を追ってここまで辿り着いたんだ、奴らが吞口議員を殺そうとしているのはまず間違いない。

すると今度は灰原が少し申し訳なさそうな顔でカエル先生に問いかけてきた。

 

「でも、本当に良かったのカエル先生?こんな事に巻き込んでしまって」

「ああ、構わないよ。流石に人命がかかってると聞いたら、医者として無視するわけにはいかないからね」

 

迷いなくそう答えるカエル先生。流石だ。

そして再び、カエル先生は俺に問いかけてくる。

 

「……だが、僕たち三人――いや、車に待機させてるという博士(ひろし)の四人だけじゃあ、流石に彼を守るのは心もとないと思うが……」

「大丈夫。その点に関してもちゃんと手は打ってるから♪」

 

少し不安げに言うカエル先生に、俺はニカリと笑ってそう答えた。

それとほぼ同時に、タイミングよく会場内に()()()()()が現れる。

 

「――ちょっと、失礼しますよ?」

「え、()()()()!?」

 

会場の入り口から数人の刑事たちを連れて現れた目暮警部を見て、灰原が思わず声を上げた。

そばにいるカエル先生も灰原同様、驚いて目を丸くしている。

目暮警部たちは、レポーターに囲まれている吞口議員に歩み寄ると、彼を囲うレポーターたちを引き離し、代わりに彼を『守る様に』取り囲んでしまった。

それを見た俺はニヤリと笑いながら灰原とカエル先生に伝える。

 

「さっきトイレから声を変えて電話で呼んだんだ。『あの政治家の命を狙ってる奴が、この会場にいる』ってな」

「ほぅ、やるね新一君。これなら組織の奴らも、おいそれと手は出せなくなるね」

 

感心の声を上げるカエル先生を横目に俺は周囲を警戒する。

 

(さぁ、どうする?ピスコさんよ。……ターゲットが警察の監視下にあるこの状況で、殺人は不可能だぜ?……強引に事を起こそうとすれば、その前にこの麻酔銃で眠らせてやる……!)

 

ハンカチで汗をぬぐう吞口議員とそれを取り囲む目暮警部たちを見ながら、俺は静かに時計型麻酔銃を構えた。

すると、入り口の方からカツカツと、杖をつきながらゆっくりと会場に入って来る男が目に留まった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は、どうやら目暮警部の部下らしく警部と二、三会話をした後、他の刑事たち同様に吞口議員を守る様に立った。

 

「おや?彼も来たのか……」

「あら?あの人って確か……」

 

するとその杖の男を目にした瞬間、カエル先生と灰原が二者二様の反応を見せたのを俺は見逃さなかった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:伊達航

 

 

 

――警視庁に匿名でのタレコミがあった。

内容は、今、杯戸シティホテルで《酒巻監督を偲ぶ会》とやらに参加しているという吞口議員が、何者かに命を狙われているという情報だった。

現在、収賄疑惑で警察にマークされている吞口議員は、明日にでも逮捕状が出る手はずになっていると聞いたが、まさかそれよりも先に命を狙われるとはな。

余程、あの政治家に喋ってほしくない事のある後ろ暗い連中がいると見ていいだろう。

タレ込んできた匿名の人間ってのも気にはなるが……今はまあいい。

何にせよ、何処の誰があの議員を殺そうとしているのかは知らねぇが、俺らは刑事としてこの議員の命を守ると同時に、暗殺を計画した犯人をとっ捕まえるだけだ。

まぁ、こうもターゲットの周囲を固めてたんじゃあ、流石に手も足も出ねぇだろうが……。

 

(だが……なぁんか、きな(くせ)ぇんだよなぁ)

 

周りは完璧に固めてある。だというのに俺の中から一向に不安の種は消えなかった。

狙撃や毒殺などの奇襲をされればヤバいんだろうが、あいにくとここは窓の無い屋内だから狙撃はまず不可能。毒殺もあの議員が手を付ける料理や飲み物は俺たち刑事が逐一目を光らせているためそれも無理だ。

玉砕覚悟の特攻でもかまさない限り、この守りを崩すのは不可能に近い。

それなのに俺の心中は未だに黒い雲のようなモヤモヤが渦巻き続けている。

 

――何か起こるのか?そう思った時、その予感は的中する事になる。

 

唐突に会場に設置された壇上に一人の男がマイクを片手に上がって来た。

それと同時に男の背後の暗幕が左右に分かれ、その奥からスクリーンが現れる。

眼鏡をかけたこの会の司会者らしきその男は、マイクを口に付けながら会場内の客たち全員に向けて声を発した。

 

「それでは皆さん。ここで、酒巻監督が生前ひた隠しにしておられた秘蔵フィルムを()()()()()ご覧に入れましょう!」

「何ッ!?」

 

司会者の男が言ったその言葉に俺は思わず声を上げた――。

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:江戸川コナン

 

 

 

 

「スライド!?」

 

壇上の司会者の言葉に、俺は耳を疑う。

すると同時に会場に吊るされているシャンデリアの明かりが一斉に消え、会場内は暗闇と化した。

 

「まずくないかい?これ……」

 

険しい顔でそう響くカエル先生を前に俺は「クソッ!」と苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。

そんな俺たちや目暮警部たちの心境をよそに、周りの客たちは皆、酒巻監督の秘蔵フィルムに集中しているようだった。

 

「ちょっと、あの政治家いなくなってるわよ!」

「何ッ!?」

 

灰原の声に俺も振り返る。見ると確かに、目暮警部たちが囲んでいたはずの吞口議員がいつの間にか姿を消していた。

それに気づいた目暮警部たちも皆散り散りとなって議員を探し出す。

 

(くそっ、何処だ?何処に行きやがった!?)

 

俺は灰原とカエル先生を連れ、薄暗い会場内を人ごみをかき分けながら吞口議員を必死に探し続ける――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:伊達航

 

 

 

会場内が暗くなると同時に、吞口議員が俺たちの包囲網から唐突に姿を消した。

蜘蛛の子を散らすようにあちこちを探し回る俺たち。

だが、この暗さと人ごみで議員がどこにいるのか分かりゃあしなかった。

不安と焦りだけが、捜索中に自分の中でどんどんと積もっていく。

焦りは禁物だ。それは良く分かってはいたが、それでも背中を押されるかのように気ばかりが体より先に前へ前へと突き進んでいく。

あちこちを探し回っている途中で、俺は目暮警部と高木と合流する。

 

「どうだ?」

「いえ、見つかりません」

「こっちもまだ……」

 

警部に問われ、高木と俺は順にそう答える。

 

「もっとよく探せ!」

「「はい!」」

 

警部のその言葉を合図に、俺たちはまた散り散りとなって暗闇の中を探し回る。

その間も司会者や他の客たちは秘蔵のフィルムとやらを見て盛り上がっていた。

どうやら亡くなった酒巻という巨匠は、『虹色のハンカチ』という映画を製作して有名になったようだが……今はそんな事どうでもいい。

 

(クソッ!一体何処行きやがった……!?)

 

俺が内心、悪態をついた時だ。

 

 

 

 

 

――パシャッ……!

 

 

 

 

 

(!……何だ!?)

 

突然人ごみの向こうから、まばゆい光が一瞬指した――。

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:江戸川コナン

 

 

 

(!……()()()()()?)

 

人ごみの向こうから一瞬見えた光に俺の脚が止まる。

 

「ああ!いくら貴重な一枚だと言っても、フラッシュをたいたら写りませんよぉ?」

 

壇上の司会者にもその光が見えていたらしく、おどけながらそう言うと、途端に会場内が笑いの渦に包まれた。

その瞬間――。

 

 

 

――ヒュゥン……!

 

 

 

(何だ?何だ今の音!?)

 

()()()高速で飛んでいくような風切り音。そして――。

 

(――上か!?)

 

そう思って顔を上にあげた瞬間――。

 

 

 

 

 

 

 

――ガシャアァァァァァン!!!!

 

 

 

 

 

 

「何ッ!?」

「何なの、今の音!?」

「一体何が……!?」

 

()()()()()()()が砕け散るような音が会場全体に轟き渡り、俺と灰原、カエル先生は動揺しながら声を上げる。

それに続くかのように会場の客たちもようやく異常事態に気づいたのか、動揺し騒ぎはじめ、それらが会場全体に伝播していった。

 

「早く明かりを付けろ!!」

 

会場のどこかで目暮警部の鶴の一声が響き渡る。

そんな中でも俺は、吞口議員を必死になって探し続けた。すると――。

 

 

 

 

――パサリ……。

 

 

 

 

「……?」

 

――()()()俺の頭にかぶさった。

布地の何からしいそれを手に取って暗闇の中でじっと目を凝らして見てみる。

 

「……ハンカチ?」

 

手に持った布地のそれがハンカチだと俺が認識した瞬間、会場の明かりが一斉にパッとついた。そして――。

 

 

「-----------------ッッッ!!!!」

 

――声にならない甲高い悲鳴が、会場全体に響き渡った。

 

 

 

――会場にいる全員が一斉に会場中心へと目を向ける。

――そこには、落ちてきた大きなシャンデリアに押しつぶされて息絶えた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――吞口議員の遺体が転がっていた。




短めですがアニメ的にも区切りが良いので、ここで投稿とさせていただきます。

次回の投稿は、少し時間がかかりそうですので気長にお待ちくださいませ。

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