とある探偵世界の冥土帰し   作:綾辻真

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毎回の誤字報告、及び感想ありがとうございます。

リアルが忙しく投稿に時間がかかってしまいました。申し訳ありません。

今回も視点がくるくると変わっていきます。


カルテ22:枡山憲三(ピスコ)【3】

SIDE:宮野明美

 

 

 

(あら、何かしら……?)

 

米花私立病院からバスに乗ってきて、杯戸シティホテル前へとやって来た私だったが、外からホテル内を覗くとホテルの従業員やカメラやマイクなどを持った報道陣らしき人々が忙しなく玄関ホールを行き来しているのが目に留まった。

その様子から、ホテル内でただ事ではない何かが起こったのが私からも見て取れたが、この中には目的の人物であるカエル先生がいるので、私は迷わず中に入ろうと一歩足を踏み出す――。

 

「あけっ――雅田君っ!!」

 

――すると唐突に背後から声をかけられ、私は反射的に振り向いた。

そこには肩で息をしながら血相を変えて立つ、阿笠博士の姿があった。

 

「え、阿笠博士?どうしてここに――」

「――説明は後じゃ!早くこっちに……!」

 

突然、阿笠博士が現れた事で動揺する私に構う事なく博士は私の手を取ると、車道を突っ切ってホテルの反対に停めてある博士の車と思しきビートルの所まで私を連れて行く。

そして、後部座席に私を押し込むと博士自身は運転席へと座り、大きく息を吐いていた。

顔じゅうから汗を流して脱力する博士を見ながら私は怪訝な顔で問いかけた。

 

「一体どうしたんですか?どうして博士がここに?」

「キミの方こそ、一体どうしてこのホテルに?」

「私は、カエル先生の忘れ物を届けにここまで」

「何?!あ奴もこのホテルに来ておるのか!?」

 

目を見開いて驚く博士。その様子から、どうやらカエル先生がこのホテルに来ている事は知らなかったようだ。

そんな博士を見ながら再び私は同じ質問を繰り返した――。

 

「博士、博士はどうしてこのホテルに?……()()()()()()、のですか……?」

 

――その言葉に、()()()()()を含ませて。

 

 

 

 

 

 

SIDE:伊達航

 

 

 

――場が騒然となった。

 

堕ちたシャンデリアとそれに押しつぶされた議員の遺体を中心に、黒服の群衆が遠巻きに輪を作る。

匿名のタレコミ通りに議員が死亡した事で俺たち警察も一瞬呆然となるも、そこは腐っても警察官。直ぐに現場保存を優先すべく目暮警部を筆頭に行動を開始する。

 

「皆さんお静かに。警視庁の目暮です!」

 

目暮警部がそう叫ぶと、黒服の群衆はそれに気づいて道を作るように左右へと別れていった。

 

「ほう?アンタらにしては、やけに来るのが早いですなぁ?」

「通報があったんですよ、今夜ここで殺人があると。……『誰かがこの吞口議員の命を狙っている』とね」

 

髭を生やした禿頭の男の問いかけに、目暮警部がそう答えると途端に周囲が騒然となる。

その間にも他の刑事たちが数名でシャンデリアをどかしにかかった。

シャンデリアが取り除かれ、その下から露になる血まみれに転がった吞口議員の姿。

高木と俺が吞口議員の息を確認しようと近づく――。

 

――すると、唐突に()()()()()()()俺たちに向けてかけられた。

 

「ちょっと、いいかね?僕に彼を診せてくれないかい?」

「え?か、カエル先生!?」

 

群衆をかき分けて現れた見慣れたカエル顔に、俺は驚きにそう声を漏らしていた。

高木と目暮警部も突然現れたカエル先生に目を丸くする。

 

「カエル先生、一体どうしてここに?」

「僕もこの《偲ぶ会》に参加していたんだよ目暮警部。酒巻監督は僕の友人でもあったからね。……それよりも今は――」

「あ、ああ、そうですな。ではお願いしても?」

 

目暮警部の問いかけにカエル先生が一つ頷くと、早速吞口議員の容体を確認する。

 

「……どうですかな?」

 

数秒立ってからカエル先生の後ろからそう尋ねる目暮警部に、カエル先生は無念そうな顔で小さく首を振った。

 

「……残念ながら、もはや手遅れだね。完全に即死だよ。……シャンデリアの丁度真下に立っていたんだね。頭頂部に直撃を食らって脳の大半がやられ、続いて衝撃で首の骨も折れてしまっている。そして立て続けに体の骨や内臓も潰される形になった……。今から治療したとしても、助かる見込みは無いね」

「そうですか……」

 

カエル先生の返答に目暮警部も残念そうに帽子のつばをいじる。

 

「……時に、カエル先生。いつも持ち歩いてるあの医療道具は今日は持っていないので?」

「生憎と今は駐車場に停めてある車のトランクの中だよ。こういった会場内に薬品やメスなどの刃物類を持ち込むのはご法度だし、僕自身もまさかここで事件に遭遇するとは思ってなかったからね。……まあ、仮に持ち込めていたとしても、この惨状じゃあ結果は変わらなかっただろうけどね」

 

高木の問いかけにもカエル先生は律義にそう答えて見せる。

それを聞いた高木は「そうですか……」と、目暮警部同様に残念そうな顔を浮かべた。

そんな高木の顔を見た俺は、「流石に少し失礼だろ?」とギロリと高木を睨む。

その眼光に気づいた高木はハッとなり、すぐさまカエル先生に謝り倒していた。

 

(コイツ、カエル先生なら医療道具さえあれば死体でも蘇らせられると勘違いしてるんじゃねぇか?)

 

やんわりとカエル先生に宥められている高木を見ながら、俺はそう呆れ半分に懐疑心の目を向けずにはいられなかった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:江戸川コナン

 

 

 

 

『――悪いけど、僕は医者として行かなければならない。キミたちから離れる事になるが、気を付けるんだよ?』

 

そう言って、カエル先生が俺たちから離れて目暮警部たちの元へ向かってすぐ、俺は辺りを警戒しながら内心で強く確信していた。

 

(犯人は奴だ。……俺の体を小さくしやがった黒ずくめの男たちの仲間――コードネーム『ピスコ』……!奴はまだこの会場内にいる……!)

 

俺は目暮警部たちの事情聴取を聞くべく、警部たちの声が届く範囲まで気づかれないように灰原を連れてゆっくりと近づいて行く――。

 

すると、そこで目暮警部たちと会話をしていたのは、奇しくも俺たちがこの会場に踏み込んだ際に、俺の目に留まった人たちであった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:伊達航

 

 

 

 

「ふむ、なるほど……。では、アナタ方ですな?シャンデリアが落ちた時、吞口議員の一番近くにおられたのは……」

 

吞口議員の遺体をカエル先生に任せた目暮警部は、事件の際に議員の一番近くにいたという二人の男女へと尋問をしていた。

 

一人はとある有名大学の教授だという、俵 芳治(たわら よしはる)

もう一人は、アメリカの人気女優、クリス・ヴィンヤード。

 

目暮警部は二人に対し「不審な人物を目撃していないか」と聞くも、二人ともそんな人物は見ていないと否定する。

まあ、それもそうかもしれない。一歩間違えれば自分たちも危うく議員と同じ末路を辿る所だったのだから、それどころでは無かっただろうし。

現に俵の背広は、落ちてきたシャンデリアがかすめて大きく破れていた。

 

するとそこへ、呼ばれてもいないのに口出ししてくる者たちが現れた。

 

「ただの事故」だと主張する音楽プロデューサーの樽見 直哉(たるみ なおや)と、匿名で通報してきた人物が怪しいと主張する、自動車メーカー会長の枡山 憲三(ますやま けんぞう)の二人だ。

 

枡山がその通報してきた人物について詳しく教えてほしいと言って来たが、目暮警部は「声を機械で変えていたので男女の区別もつかなかった」と答えると、今度はこの会場で司会を務めていた、アナウンサーの麦倉 直道(むぎくら なおみち)が、「通報はただの悪戯である」と言い始め、それに便乗するかのようにそばのテーブルでこの状況下で豪胆にも料理を食べている、プロ野球球団オーナーの三瓶 康夫(みへい やすお)が「通報の悪戯にたまたま事故が重なっただけ」と言って来た。

 

――しかし、俺はそれらの主張を内心でバッサリと否定する。

 

()()()()議員が死ぬという匿名の電話が警察に通報された直ぐ後に、()()()()シャンデリアの真下にいた議員が、()()()()そのタイミングでシャンデリアを吊るしていた鎖が古くなっていて切れてその下敷きなっただぁ?……どんだけ偶然の連鎖が続いてんだよ、笑わせんな)

 

――そう、コイツは間違いなく殺人だ。そして、それをやってのけた犯人はまだ、()()()()()()()()()()()()

 

(……これをやったのがあの匿名通報者なのかはさておき、事件が起きてからこの会場の出入り口は俺ら警察が固めてたんだ。そいつがまだこン中にいるのは間違いねぇ……!)

 

俺がそんな事を考えている時だった。

突然、料理を食べていた三瓶の顔が大きく歪むと、その口からペッと何かが床へと吐き出された。

どうやら何かの『異物』が料理の中に混ざっていたらしい。

怒りの形相で「シェフを呼んで来い!」と騒ぎだした三瓶をしり目に、俺は今奴が吐き出した『異物』が何なのか気になりチラリと床を見る。すると――。

 

 

 

 

――テーブルクロスの下から、床に落ちた『異物』をハンカチに包んで回収する、()()()()()()()が視界に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:江戸川コナン

 

 

 

三瓶さんが吐き出した物体をハンカチに包んで回収して、テーブルの影にいる灰原と合流した俺は、改めてその物体の正体を確認する。

 

(!これは……()()()()()()()()()()()!?……何であんな所に……?)

 

物体の正体が落下してきたシャンデリアの鎖の欠片だと知り、俺は思考を巡らせ始める。

しかし、次の瞬間。その思考が強制的に中断せざるを得ない事態になる。

 

「……オイ、坊主ども。何やってんだこんな所で?」

「!?」

 

俺たちに向けて声がかかり、慌てて顔を上げるとそこには目暮警部たちと一緒に来たあの杖の男が立っていた。

男は怪訝な目を向けながら俺たちを見つめて来る。しかし次の瞬間、男は何かに気づいたのか俺の横に立つ灰原へと口を開いていた。

 

「あん?そこの嬢ちゃん。確か……灰原って言ったか?なんたってこんな所に?」

「あ、えと……久しぶり、です」

 

男の言葉に、灰原はおずおずとそう答える。

俺は男に背を向けて小声で灰原に問いかけた。

 

「オイ、誰だよこの人?」

「……名前は伊達航。見た通り、目暮警部の部下である刑事よ」

「知り合い見てぇだけど、どっかで会った事あんのか?」

「あら、あの人の両耳から伸びているコード見ても分からない?……あれ、カエル先生と()()()()が共同合作した『脳機能補助デバイス』よ」

 

灰原にそう言われて俺はふと思い出す。

確かに一年前。博士がカエル先生と協力してそんな名前の医療機器を発明したと聞いた事があった。

脳の障害や病気を著しく回復してくれるとして、近々大量生産を整えて世界中に送り出す機器だと。

そして、その試験対象になってるのが、脳傷害抱えた現職の刑事だと……って、待て待て!?

 

「じゃあこの人がその機器の試験対象の刑事だってのか!?」

「そう言ってるんだけど?」

 

俺が小声でそう叫ぶと、灰原がジト目でそう答え返し、続けて口を開く。

 

「……この人、体やデバイスの調子を診てもらうために定期的に病院に来ててね、それで私とも顔見知りになっちゃってるってわけ」

 

通りでカエル先生だけじゃなく、灰原もこの人の事を知っているわけだ。

俺が一人納得していると、一人蚊帳の外に置かれたのが気に入らなかったのか、杖の男――伊達刑事が口をとがらせながら俺の後ろから声をかけて来る。

 

「何こそこそと喋ってんだお前ら?……嬢ちゃんはカエル先生の付き添いか何かなのか?」

「え、えっと……」

 

伊達刑事にそう問われた灰原がどう答えようか迷い始めた瞬間、直ぐ近くから女性の声が上がった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:伊達航

 

 

 

『異物』を回収した坊主と一緒にいた(何故か眼鏡をかけた)見知った茶髪の嬢ちゃんにここにいる理由を問いかけてる最中。別の女の声が耳に入り、そちらへと意識が向く。

見るとそこには、眼鏡をかけた短い黒髪の女が目暮警部に異議を申し立てていた。

 

「吞口議員は、頭上から落ちてきたシャンデリアに押し潰されて亡くなったんでしょう?……それが仮に殺人だというのなら、シャンデリアに仕掛けをしておいて会場が暗くなった時、彼をシャンデリアの真下に連れて行き仕掛けを作動するしかありませんわ。……でも、見た所そのシャンデリアにも、それが吊られていた天井にも、それらしき仕掛けは見当たりません。したがって殺人は不可能。……さぁ、分かったら早く私たちを解放してくださらない?」

 

女流作家だと聞くその女――南条 実果(なんじょう みか)にそう詰め寄られ、目暮警部は渋い顔を浮かべて唸る。

だからと言ってそうおいそれと開放するわけにはいかないが、彼女の言う事にも一理ある。

 

暗闇の中、ターゲットにシャンデリアを落とすなんて芸当、何かしらの仕掛けが無いとまず不可能だ。

だが、俺は確信している。あの議員を殺した犯人は間違いなくこの会場内にいて……それをやってのけたんだと。

 

それを知るためにはまず手掛かりが必要だ。だからこそ三瓶が吐き出し、坊主が拾ったあの『異物』を手に入れなければならない。

ちらっとだがその『異物』が何なのかは見えていた。どうやらあのシャンデリアを吊るしていた鎖の破片っぽかったが、何でそれが料理の中に紛れ込んでいたのかが引っかかる。

俺は坊主から破片を回収すべく再び視線を坊主たちの方へと戻す――。

 

「……ありゃっ!?」

 

――しかしその時には既に、そこにいたはずの坊主たちの姿は影も形も無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:江戸川コナン

 

 

 

伊達刑事の意識が南条さんと目暮警部の方へ向いている最中。突然、灰原が俺の手を取ると伊達刑事に気づかれないようにそそくさとその場を離れ始めたのだ。

ある程度、伊達刑事から離れたのを確認した灰原は、今度は早歩きで俺を引っ張りながら会場の出入り口へと向かう。

 

「お、おい!どこ行くんだよ!?」

「逃げるのよ」

 

慌てて問いかける俺に、灰原は端的にそう答える。

「えっ!?」と驚きに声を上げる俺に、灰原は続けて口を開く。

 

「このままここに留まって、無意味に時間を浪費するのは危険だわ。それに、また伊達刑事や目暮警部に見つかったら私たちがここにいる理由をどう説明する気?『カエル先生に連れられて来た』なんて言っても、《偲ぶ会》なんて湿っぽい会にカエル先生と血縁でもなんでもない小さな子供二人が来ている理由としては、苦しい言い訳にしかならないわ。……それに手掛かりは、さっきアナタが拾った鎖の破片ただ一つ。いくらアナタでも、あれだけじゃあ犯人を割り出す事なんて――」

 

そこまで言った灰原に俺はニヤリと笑って答える。

 

()()ならどうだ?」

「え?」

 

俺の言葉に反応して足を止める灰原。それを見た俺はポケットから『例の物』を取り出してそれを灰原の目の前で広げて見せた。

 

「落ちて来たんだよ。シャンデリアが落下した後、明かりが付く前に()()()()()()()()()()

「……それが何だって言うのよ?犯人の名前が書いてあるわけじゃあるまいし」

 

呆れた目を向けてそう言って来る灰原に、俺は()()()そのハンカチを見下ろしながら口を開く。

 

「ホラ、このハンカチの隅――『酒巻監督を偲ぶ会』って縫い付けてあるだろ?……恐らくこれの持ち主が、ここの受け付けてもらったハンカチだ。……それに、周りの奴らを見てみろよ?」

 

俺はそう言って周囲を見るよう灰原に促す。

 

「……ホラ。あのグラスを持った男性も、隣の太った女性も、その奥の髭を生やした老人も……みーんなこのハンカチを持っているけど、()()()()

「……どういう事?」

 

首をかしげる灰原に俺はニヤリと笑って答えた。

 

「恐らく、酒巻監督の代表作――『虹色のハンカチ』にかけて、来場した人たちに七色のハンカチを配ったんだ……。つまり、受付で調べればこの紫のハンカチを貰った人物をある程度特定できる」

「でも、それが本当にあの殺人に関係している物かどうかなんて……」

 

灰原のもっともな疑問に、俺は素直に肯定する。

 

「ああ。まだ何に使ったかも、犯人の物かさえも分からねぇが……。事件に関係している可能性は、ゼロじゃない。だろ?」

「…………」

 

沈黙する灰原に、俺は更に言葉を重ねる。

 

「まぁ、おめぇの言う通り、また伊達刑事に見つかったりしたら厄介だし、受付で調べるついでに一度会場を出て様子でも見てるとするか」

 

そう言っていったん会話を締めくくると、俺たちは会場の出入り口へと足を運ぶ。

そして、俺は自分の服についているフードを目深にかぶると、出入り口を見張っている二人の刑事に向けて声をかけた。

 

「ねぇ、刑事さ~ん。トイレ行きたいんだけど、ダメ?」

「ん?ああ、いいよ。ちょっと待ってね」

 

直ぐに了承した刑事の一人が背後にある出入り口の扉をゆっくりと開き、俺たちはそこから出ようとする。

しかし、それよりも先に扉の向こうからいくつもの閃光が俺たちに向けて瞬いた――。

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:伊達航

 

 

 

 

「くっそ……一体何処行ったんだ坊主ども」

 

忽然といなくなった二人の子供を探しに、俺は会場内をさ迷い歩く。

すると唐突に、会場の出入り口の方がにわかに騒ぎ出した。

何だ?と思い視線を向けると、そこには出入り口を固めている二人の刑事と、そこから今にもなだれ込みそうな勢いで刑事たちに詰め寄って来る報道陣たちの姿があった。

 

「ちょっと、何ですかアナタたち!?」

「吞口議員が亡くなったって本当ですか!?」

「事故死だと聞きましたが、どうなんですか!?」

 

そう言って騒ぐ刑事たちと報道陣たち。

そんな彼らのすぐそばに、目的の子供たちが二人いるのを俺は見逃さなかった――。

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:三人称視点(ピスコ)

 

 

 

――そして、伊達同様に会場出入り口の騒ぎに目を向け、そこにいた二人の子供たちに気づいた人物がもう一人いた。

 

――組織内で『ピスコ』というコードネームで呼ばれているその人物は、二人の子供のその片方……眼鏡をかけた短い赤みがかった茶髪の少女を見て目を大きく見開く。

 

――電話でジンに促され、組織のデータベースで『シェリー』の顔を検索したのがこの会場に足を踏み入れる直前だった。

 

――そのシェリーの顔と目の前の眼鏡の少女の顔……その二つが異様なほどに似通っていたのだ。

 

――普通なら他人の空似だと思い気にも留めなかっただろう。

 

――しかしふいにピスコの脳裏に、組織で働いていたとある科学者夫婦の顔がよぎった。

 

――()()()()()()()()()でもあるその二人とシェリーは、親子二代にわたって()()()()()()()()()()()()()()()

 

――『空想世界の産物』。何も知らない人間が聞けば「馬鹿げている」と鼻であしらうようなファンタジーの領域内に存在する薬。

 

 

 

 

 

 

――もしそれが、完成していたとしたら……?

 

 

――そう思った瞬間、ピスコの口元が自然と大きく吊り上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:江戸川コナン

 

 

 

報道陣の群衆をかき分けて何とか会場の外に出た俺と灰原は、すぐそばにあった受付に立つ女性に声をかけた。

 

「え?紫のハンカチを渡した人?」

 

そう聞き返してくる受付の女性に俺は強く頷く。

 

「うん!僕その色のハンカチ拾ったから、その人に返したいんだ。……あのハンカチ、後で何かに使うつもりだったんでしょ?」

「ええ。……会の終わりに色を決めて、その色のハンカチを持っている人にコメントを貰う予定になってたみたいだけど」

 

俺の問いかけに受付の女性はそう答え、俺は更に続けて口を開く。

 

「じゃあお名前教えてよ。持ってない人捜して渡すから」

 

そう言った次の瞬間だった。

 

「工藤君……!」

「ん?(……げっ!?)」

 

隣に立つ灰原が慌てて小声で俺を呼んできたので何事かと振り返ると、そこには先程巻いたはずの伊達刑事が仏頂面でこちらを見下ろしながら立っていた。

 

「見つけたぞ坊主ども。人が話してる最中に逃げ出すとはいい度胸じゃねぇか」

「あ、えっと……。ご、ごめんなさい」

 

少し不機嫌そうにそう言う伊達刑事に、俺は誤魔化し笑いを浮かべながら謝って見せる。

それを見た伊達刑事はため息を一つ零すと、俺たちと視線の高さを合わせるためにその場で静かにしゃがみ、口を開いた。

 

「……まあいい。それよりも坊主、見た所そこの嬢ちゃんの友達見てぇだな?名前何て言うんだ?」

「え、江戸川コナン……」

 

俺がそう名乗ると、伊達刑事は「江戸川コナン、ね……」と小さく呟くと、杖をついた反対側の手を俺の前に出してきた。

 

「悪いんだがな。お前がさっき拾ったモン、俺に渡しちゃくれねぇか?」

「へ?」

「ほら、お前がさっきテーブルクロスの下から拾ってった()()だよ。……しっかり見てたんだからな、俺」

 

伊達刑事のその言葉に俺の体がギクリと反応する。

 

(やっべぇ、シャンデリアの鎖の欠片回収するとこ見られてたのかよ!?)

「何のためにアレを持ってったのかは知らねぇが、アレも事件解決のための重要な手掛かりである可能性が高いんだ。……ほれ、さっさと出しな」

 

そう言って手を差し出しながら詰め寄る伊達刑事に、俺はどうやって乗り切ろうかと顔を引きつらせながら考える。

すると、タイミングが良いのか悪いのか。そこで俺たちに向けて声をかけて来る者がいた。

 

「分かったわよ坊や。今、会場内で()()()()()()を持っているのは、丁度この七人よ」

 

そう言って俺たちの異様な雰囲気に気づいていない様子の受付の女性は、「はい」と出席者名簿を開いて俺の方へと差し出してきた。

それを見た伊達刑事が怪訝な顔で俺に視線を向ける。

 

「紫のハンカチ?何の話だ?」

「え、えっと……会場で拾って、誰のか分からないから調べて届けてあげようと思って」

 

そう言いながら俺はポケットから例の紫のハンカチを取り出し、それを伊達刑事の前で広げて見せる。

それをジッと見つめながら伊達刑事が続けて質問を投げかけてきた。

 

「ふぅん……いつ拾ったんだ?」

「……明かりが消えた後。シャンデリアが落ちる音と明かりがつく間に頭上から……」

「……何?」

 

俺の言葉に、伊達刑事が途端に顔を険しくさせる。どうやらこの人も紫のハンカチが事件に関係するかもしれないと気づいたらしい。

 

「……悪いがその出席者名簿。俺にも見せてくれ」

「あ、はい」

 

そう言って警察手帳を受付の女性に見せた伊達刑事は、受付の女性から名簿を受け取ると中身を見始める。

しゃがんだ状態で見始めたため、俺も伊達刑事の脇から名簿の中身を覗き見ることが出来た――。

 

 

 

 

――その名簿に並んでいた名前は、奇しくもあの七人であった。

 

 

 

 

(なるほど……あの七人か。まだ確証は無いが……もしかしたらこの中に、『奴ら』の仲間の『ピスコ』が……!)

 

俺がそんな事を考えている間に、伊達刑事の方も名簿の確認が終わったらしく、受付の女性に出席名簿を返却する。

そして、俺の方へと向き直った伊達刑事は――。

 

「さてと……よっと!」

「え?……あぁっ!?」

 

――俺が持っていた紫のハンカチをひょいっと取り上げていた。しかもご丁寧に、いつの間にか両手に手袋までして。

 

「か、返してよ!」

「悪いな坊主。コイツも事件に関係している可能性が出てきたんでな。預からせてもらうぜ」

 

紫のハンカチをひらひらと揺らしながらニヤリと笑って伊達刑事はそう言った。

 

(クソッ……ん?)

 

悔し気に顔を歪める俺の目の前で紫のハンカチが揺れるも、そのハンカチにチラリと『何か』が()()()()()のを俺の目は見逃さなかった。

 

(……何だあれ。黒ずんだ……()()()……?)

 

まだよく調べてなかったのと、ハンカチが濃い紫色をしていたため今まで気がつかなかった。

ハンカチの表面――その一部に小さな焦げ跡が一つ付いていたのだ。

何だ?とよく見ようと目を凝らすも、それよりも先に伊達刑事がハンカチを引っ込めて有無を言わさない口調で声をかけてきた。

 

「さぁ、さっき言ったもう一つの方も渡しな。まだ持ってんだろ?」

(くっそぉ、やっぱそっちも回収するつもりかよ!鎖の欠片の方もまだちゃんと調べてねぇってのに……!)

 

これまで取り上げられたらもうお手上げだ。だがどうすることもできない。

ここまでか。と、俺がそう覚悟した。次の瞬間だった――。

 

「あん?何だ?」

 

突然、会場の出入り口が騒がしくなり、伊達刑事が顔を上げ、それにつられる形で俺と灰原も出入り口の方へと目を向ける。

すると、それと同時に出入り口の扉が大きく開かれ、そこから会場内にいた客たちが一斉に外へと溢れ出てきたのだ。

 

「おい、出て来るぞ!……すみません!事故があった時、そばにいましたか!?」

「知らん!そこをどいてくれ!!」

「事故の様子を詳しく教えてください!」

「そんな事は警察に聞いてよ!!」

 

客たちと報道陣たちの激しい問答を耳にしながら俺たちは大勢の人間たちの波に飲まれてしまっていた。

 

「うわっ!……まさか目暮警部。客たちを全員解放しちまったのか!?……うおぉぉぉっ!?」

 

いつの間にかそばにいたはずの伊達刑事も、人々の波に押し流されてその姿をかき消しており、悲鳴にも似た声が遠ざかっていくのが聞こえるだけだった。

それを聞きながら、俺は内心ほっとする。紫のハンカチは取り上げられてしまったが、何とかシャンデリアの鎖の欠片だけは死守することが出来た。

 

「灰原!いったん博士の車に戻るぞ――」

 

そう言いながら俺は隣にいるはずの灰原に向けて声をかけながら振り向き――瞬間、凍り付く。

 

 

――つい今し方までそばにいた灰原が忽然と消え失せていたのだ。

 

 

どうやら伊達刑事と同様、人の波に飲まれて俺からはぐれてしまったようだった。

 

「おい、灰原!何処だ、返事しろッ!!」

 

俺は行き交う黒服の群衆たちの中で、そう叫び続ける――。

 

 

 

 

 

 

――だが、その声に灰原が答える事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:三人称視点(灰原哀)

 

 

 

 

 

「おい、灰原!何処だ、返事しろッ!!」

 

人の波に押し流された灰原は慌ててコナンを探し、少し離れた所で血相を変えて自分を探す彼の姿を見つける。

 

「あ!ちょっ――」

 

コナンに声をかけようとした瞬間、灰原の体を突然何者かが後ろから腕を回して持ち上げた。

 

「――!?」

 

驚く灰原の口を、その何者かがハンカチで塞ぐ。

すると、灰原の意識が自分の意思に反して急激に失われていく。

その原因が、ハンカチに染み込ませたクロロホルムだと気づく前に、灰原の意識は暗闇の底へと落ちて行った――。

 

「灰原ぁーーーーーーッ!!!!」

 

必死に自分を探す、コナンの叫び声を耳にしながら――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE:江戸川コナン

 

 

 

 

(クソッ!灰原の奴、一体何処に……!!探すにしても、とにかく今は博士と合流しねぇと……!!)

 

そう思い立った俺は黒服の群衆の中から抜け出すと、すぐさま博士の待つビートルへと急ぎ向かった。

ホテルを出て、車が往来していないのを確認し車道を横断すると、そこに停めてあるビートルへとたどり着く。

そして助手席のドアを開くと運転席にいるであろう博士に向けて声を上げ――。

 

「博士、大変だ!灰原が――え?」

 

その声が途中で止まる。

運転席には確かに博士が待機していた。しかし、その後ろ――後部座席に博士以外の……俺からしても予想外な人物がそこに座っていたのだ。

 

「工藤君!志保が……志保がどうかしたの!?」

 

何故この人がここに?と、呆然と立ち尽くす俺にその人物――明美さんが血相を変えて俺にそう問いただしてきていた。




補足説明。

本編でも分かるように、この事件でコナンと伊達は初めて顔を合わせています。
それ以前の事件とかでは会った事はありません。
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