SIDE:灰原哀
――灰原さん……起きて、灰原さん……。
誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。
視界がゆっくりと開かれていく。
「灰原さん……灰原さん……」
「……?」
そこにはこちらを心配そうに見つめる吉田さんの顔があった。
「どうしたの?今、授業中だよ?」
「え?」
そう言われ私は周囲を見渡す。帝丹小学校の教室の授業風景が広がっていた。
どうやら私は授業中に寝てしまっていたらしい。
ぼんやりとする意識の中、隣の席に座る吉田さんが再び声をかけてきた。
「もしかして風邪のせい?やっぱり、保健室で休んでた方が……」
「……夢?」
「……え?」
ポツリと呟いた私の言葉に、吉田さんは首をかしげる。
しかし、それに構わず私は小さくフッと笑みを漏らした。
(フッ……そうよ、そうよね。……街で偶然彼らに出くわすなんて、出来過ぎてるわ。……最近、こんな夢ばっかり……疲れてるのかな?私)
そう思いながら、一度瞑目した瞬間だった――。
『……灰原!』
「……え?」
唐突に私を呼ぶ声が小さく聞こえ、目を見開く。
すると吉田さんを含むそこにさっきまでいた人たちが忽然と姿を消し、ガランとした誰もいない教室が広がっていた。
何が起こっているのか分からず呆然とする私の耳に、また声が届く。
『……返事をしろ、灰原!』
(誰……?)
周りを見渡すものの誰もいない。それなのに声だけが頭の中まで響いてくる。
『おい、灰原!』
(誰なの?)
『灰原!!』
(誰なのよ!?)
頭を抱えてギュッと目を閉じた瞬間――。
『灰原ッ!!』
「――!?」
――フッと
――目の前には見知らぬ天井があった。
私はどうやら床に仰向けで寝ころんでいたらしい。
未だにぼんやりとする頭を抱えてのろのろと上半身を起こす。
何が起こっているのかはまだ分からないが、少なくとも今し方まで私に声をかけてきた人物が誰なのかは理解できていた。
「工藤君……?」
『灰原?灰原か!?』
私のかけている眼鏡から工藤君の声が聞こえてくる。
「どこ……?」
『ホテルの前の博士の車の中だ。眼鏡に仕込んであるマイクとスピーカーを通して、交信してるんだ』
そう呟いた私に工藤君はそう答えて来る。
眼鏡にマイクとスピーカー?そもそも何で私、眼鏡をかけて……?駄目だ、まだ意識が
「私……どうしたの?」
『そりゃあこっちのセリフだ!会場前の廊下で何があったんだ!?』
「会場前……?」
工藤君が言った『会場前』という単語で、ようやく私の記憶がはっきりとしてくる。
「……ああ。そう言えば私……あの時、人の波に飲まれて……アナタとはぐれて……そうしたら、誰かが後ろから――」
「――!!!!」
一気に――記憶が覚醒した。今日あった事全てを。
反射的にガバッと顔を上げ、周囲を確かめる。
そこは木製の床が広がる一室。白い暖炉が設置してあり、部屋の出入り口らしきドアを挟むようにして左右に大きな棚がそびえ立ち、その中には数えるのも馬鹿らしくなるほどの多種多様なお酒の数々が箱に詰め込まれ、置かれていた。
私のすぐそばには、木製の小さな机と椅子。そして
『――後ろから、何だって?』
眼鏡を通してそう聞いてくる工藤君に、私は酷く冷静な態度でそれに答える。
いや、これはもはや
「……誰かに薬を嗅がされて、何処かの酒蔵に監禁されてるみたいよ?」
『お、おい!誰かってまさか……!?』
慌てた口調でそう聞いてくる工藤君に私は
「……ええ。恐らく警察の監視下にあったあの会場で、殺人をやってのけた組織の一員……『ピスコ』」
『何だと!?……まさか、いるんじゃねぇだろうな?そいつがそばに……!』
更にそう聞いてくる工藤君の声を耳にしながら私は立ち上がると、部屋の出入り口のドアへと近づく。
そして、一応ドアのノブを回してみた。……やっぱり鍵はかかってるか。
嘆息しながら私は工藤君の問いかけに答える。
「いいえ……その誰かさんは、今はいないわ。部屋のドアには、しっかりと鍵がかけられてるけどね」
そこで私はいったん言葉を切ると、背後を振りかえって今一度現状を確認するように言葉を続ける。
「……残っているのは、荷物用カートに乗った段ボールと清掃員のつなぎと――」
『――つなぎ?』
オウム返しにそう聞く工藤君に、私はそのカートを見つめながら素直に答える。
「ええ。……きっと、私に薬を嗅がせた後、トイレにでも連れ込んで用意しておいたこのつなぎに着替え……私を段ボールに入れてここに運んだのね。……どうやら、あの議員を会場で殺しそびれた場合、トイレで殺害してここに運ぶつもりだったんじゃないかしら?」
『……まぁいい。とにかく、その酒蔵からの脱出方法を早く見つけて、何か手を打たねぇと……!』
そう言う工藤君に私は内心ため息を零す。
私は至極冷静な口調で彼に言い聞かせるようにして口を開いた。
「……いい工藤君?よぉく聞いてね。……私たちの体を幼児化した、アポトキシン4869の『アポ』とは『アポトーシス』――つまり、『プログラム細胞死』のこと。……そう、細胞は自らを殺す機構を持っていて、それを抑制するシグナルによって生存してるってわけ」
『おい、灰原……何言ってんだ?』
怪訝な声を上げる彼の言葉を無視して、私は説明を続ける。
「……ただ、この薬はアポトーシスを誘導するだけじゃなく、テロメアーゼ活性も持っていて細胞の増殖能力を高める――」
『――やめろ灰原!んな事、お前がそこから脱出したらいくらでも聞いてやっから――』
「――いいから、黙って聞きなさいよ!!」
私の説明を止めようと工藤君が声を荒げるが、それを更に被せるようにして私はピシャリと彼に怒鳴りつけた。
そして、一つため息を吐くと冷静さを取り戻して私は言葉を続ける。
「……もう、二度と……二度とアナタと言葉を交わす事なんて……
『何!?』
「分からないの?……彼らは、
通信機の向こうで工藤君が息を呑む音が聞こえる。
……ようやく分かってくれたようね。ここで殺されたとしても、上手く逃げられたとしても、私はもう二度とアナタたちに会えない状況に追い込まれてしまった事実を。
(こんな事になってしまうんだったら……せめてもう一度、お姉ちゃんに会いたかったな……)
私がそんな事をフッと脳裏に考えた。その次の瞬間だった――。
『……ねぇ、工藤君。志保の様子はどう?あの子は無事なの?』
「……へ?」
あまりにも突然の出来事に私は間の抜けた声と共に頭の中が真っ白になる。
そんな私の心境などお構いなしと言わんばかりに、通信機の向こうで工藤君とその声の主が会話を始めた。
『大丈夫だよ
『そう……よかった。全くあの子は心配ばっかりかけて……』
そんな会話を呆然と聞いていた私だったがすぐさまハッとなって食いつかんばかりに工藤君に声を荒げていた。
「ちょ、ちょっとどういう事!?何でお姉ちゃんがそこにいるの!??」
会いたいとは願ったが、それが通信機越しとは言え直ぐに叶うとはどんな喜劇だ。
私が問い詰めると工藤君はすんなりと答えて見せた。
『何でもカエル先生の忘れ物を届けにここに来たみたいだぜ?ホテルに入ろうとした所をたまたま博士が見つけて、それで慌てて車まで連れて来たって話だ』
「……ま、まさか今までのアナタとの会話。全部お姉ちゃんに?」
今までの会話で私が既に死を覚悟していると知ったら、間違いなくお姉ちゃんはなりふり構わず私を探し出すはず。そうなっては確実に組織の目に留まりかねない。
不安げに声を震わす私に、工藤君は私を宥めるかの様にお姉ちゃんに聞こえないくらいの小声で口を開いた。
『大丈夫だよ。イヤホン使ってっから博士にもお前の姉さんの耳にもお前の声は聞こえちゃいねぇ』
「そう……」
ホッと胸をなでおろす私に、工藤君は「感謝しろよ?」と付け加えて来る。通信機の向こうでニヤリと笑っているのが目に浮かぶようだ。
『……だからよ。お前も余計な事考えてねぇでそこから脱出する事だけを考えてな。……これ以上、お姉さんに危ない橋渡らせたくはねぇだろ?』
「……意地悪な人ね、アナタ」
工藤君の言葉に私は口をとがらせる。
しかしそれと同時に、先程まで死を覚悟してたのがほんの少し薄くなり、反比例するように姉に会いたいという意思がほんの少し強くなったのを自分の中で感じた。
最愛の姉の声を聴いたからだろうか?我が事ながら随分とまあ調子の良い神経をしている。
――だがそれでも、今のこの状況は私のそんなささやか望みすら許してはくれない。
「……でも、さっきも言ったけど状況は極めて最悪よ。組織が
そう言いながら私はチラリとそばにある机の上を見た。そこには黒いノートパソコンとそれにコードで繋がれた携帯電話があった。
それを確認した私は、その机に近づいていく。
「……だから、今のうちに私が覚えている薬の情報をアナタに教えといてあげるわ。そして、もしもの時は……お姉ちゃんの事、頼むわね」
続けて工藤君にそう言った私は、大人用サイズのその椅子によじ登るとノートパソコンの電源を起動した。すると――。
≪じゃじゃ~ん!『阿笠博士の大冒険2』~♪≫
『へ?……お、おい。何だ今の???』
今の音声が工藤君の耳にまで届いていたらしく、彼は面食らったような声を上げた。
「ああ。学校で円谷君に返してもらった博士のゲームよ」
そう答えながらゲームの電源を切った私は、続けて口を開く。
「たぶん、私のポケットに入ってたそのMOを調べてたのね。……パソコンに携帯電話が繋がってるって事は……」
カタカタとキーボードのボタンを押す。すると、画面に組織の一員だった頃の私の写真が浮かび上がった。
「……やっぱり。私の顔、検索してたんだわ」
『……なあ、お前もしかして今
そう尋ねてきた工藤君に私はため息交じりに答える。
「ええ。でもだからこそ、今できる事を急いでやる必要があるのよ。……彼らが長時間私を縛りもしないで、ほっておくわけもないしね」
私がそう言うと、工藤君は通信機の向こうで笑いながら口を開いた。
『いや……
「え?」
どういう事なのか?と目を丸くする私に、彼はすぐさま答えて見せた。
『お前が居なくなった後、急いで警部に電話したんだ。――』
『――「紫色のハンカチをもらった例の七人を、杯戸シティホテルから一歩も出すな」って……
「!」
驚く私に、彼は言葉を続ける。
『……お前が拘束されて無い事と、
そこで工藤君はいったん言葉を切ると、確信しきった口調で言葉を続けた。
『……いるんだよ。俺が睨んだ通り、あの七人の中に……暗殺を成し遂げてお前をそこに監禁した――』
『――ピスコって奴がな……!』
彼のその言葉に私は息を呑む。そして、それと同時に分かった事があった。
「……じゃあ、私が今いるこの部屋……ここってまだ、
『ああ、多分そうだ。奴が仲間に接触する前に、殺人の証拠を上げて、奴を警察に突き出す事が出来ればお前の身の安全は保障されたままってわけだ!』
力強くそう言い切る彼の言葉に、僅かに……本当に僅かにだが希望が見えてきた。
私の正体がまだピスコにしか知られておらず、ここがまだ杯戸シティホテルの中なら、まだどうにかできる可能性がある。
私は一度椅子から降りると、周囲を観察し始める。
通気口など、他に出られそうなところは無し、あるのは暖炉ぐらいか……。
キョロキョロと辺りを見渡していると再び工藤君から声がかかった。
『警部があの七人を留められるのは……せいぜい後一時間。……とりあえず、俺はホテルの従業員にあんまり使用されていない酒蔵の場所を聞いて、直ぐに助けに行ってやるよ。……女の子が閉じ込められてるって言えば――』
「――馬鹿ね。言ったでしょ?私に関わった人がどうなってしまうのか……。知らないわよ?私の逃亡を手助けした、その従業員が後でどうなっても」
『じゃあ何とか自力でそっから脱出する方法を見つけろよ!……俺はその間に、あの七人の中からピスコを割り出すから……!』
呆れた口調でそう答えた私に、少し声を荒げながら工藤君がそう返してきた。
「脱出する方法を見つけろなんて簡単に言うけど、この部屋に脱出口なんて無いわよ。……あるのは、古びた暖炉ぐらいね」
『その暖炉、登れねぇのかよ?』
工藤君にそう言われ、私は暖炉に近づいて中に入り、真上を見上げてみる。
そこから見える煙突の出口の大きさから、煙突の長さはそう長くはないと思えるけど……。
「……無理ね。上るには大きすぎるわ」
『ロープかなんかねぇのか?それで煙突を上るって手も……』
「さぁ?酒蔵にロープなんてあるのかしら?……
『こんな体?……そうだ、それだよ!その手があんじゃん!お前とカエル先生が作ってる
名案だと言わんばかりに工藤君がそう叫ぶが、私はそれに首を振って答える。
「残念だけど、今は持ってないのよ。試作品は全部、米花私立病院の研究室に保管してるわ。……こんな事になるんだったらいくつか持って来るべきだったわね」
『そうか……いや、待てよ。確かお前今日、風邪気味だって言ってたよな?』
彼の言葉に私は今日、学校で円谷君にゲームを返してもらった時に吉田さんと小嶋君と一緒に四人でそんな内容を含めた会話をしていたのを思い出す。
確かその時、工藤君は少し離れた位置にいたはずなのだが……耳ざとく聞いていたのか。
だが、それが一体何なのか?と思った次の瞬間、私はハッとなって棚に置かれたいくつものお酒へと視線を向ける。
「……そう言う事ね。
全てを理解した私に、通信機越しにでも工藤君がニヤリと笑うのが分かった。
『ああ、そう言うこった。それなら、
えらく気どった彼のその台詞に、私は苦笑を浮かべながら棚に置かれているお酒の数々から
(私の今の体の具合からして、さっきまで床に寝かされていたせいで学校にいた時よりも調子が悪化しているのが分かる。……そして見た所、世界中のお酒を詰め込んだかのようなこの
そう思いながら探索すると、意外と早く目的のお酒は見つかった。
箱からそのお酒を一瓶取り出した私は、貼られているラベルを確認する。
目的の物だと確認すると、私はニヤリと笑みを深め、通信機で工藤君に見つけたことを報告した――。
「――あったわよ工藤君。『
SIDE:宮野明美
志保との通信をいったん止めた工藤君は、容疑者であるというその七人の中から『ピスコ』を割り出すのに専念し始めた――。
組織の一員である『ピスコ』という人物に子供の姿の志保が捕まったと聞いた時は正直、気が遠のきかけたが志保がまだ無事な事と、今の所組織の中で幼児化した事実を知っているのがその『ピスコ』だけだと分かり、あの子を助けるチャンスがまだあるのだとホッと胸をなでおろした。
街で偶然、ジンのポルシェを見つけて、志保を連れて杯戸シティホテルまでやって来たと聞いた時は、志保を巻き込んだ工藤君に当初は怒りを覚えたが、直ぐに志保が自分の意志で工藤君に付いてホテルの中に行ったと博士から聞かされると怒りが霧散し、代わりに頭が痛くなるような錯覚に陥った。
聞けば志保は、『とある毒薬』を作ってしまった事に深い負い目を感じて工藤君に付いて行ったらしいが……はっきり言って、無茶が過ぎる。
毒薬の事も、ジンの車の事も……意味がない事ではあれど、どうして私に相談してくれなかったのかと、そう思わずにはいられなかった。
私は一度首を振ると、助手席に座る工藤君を見つめる。
――とにもかくにも、今は志保を助け出すのが先決。そのためには『ピスコ』の正体を暴く必要がある。そして、その唯一の頼みの綱は工藤君だけ。
ゴクリと唾を飲み込んだ私の視線の先で、工藤君はノートパソコンのテレビ機能を使って、今現在生中継されている杯戸シティホテルの事件のニュースを見ながら、メモ帳に何かを書き込んでいた。
『――以上が、事故直後の映像です。なお、事故現場の会場近くの個室では、未だ事情聴取を受けている方が数人いる模様ですが、その方たちの氏名は発表されておりません。……以上、現場からお送りしました』
テレビのリポーターからの報告が終わり、工藤君はメモ帳を睨みながら思案顔になる。
「……今の生中継の映像であの七人の事件直後のおおよその位置は分かったけど……これだけじゃなぁ」
メモ帳に描かれた簡易的な容疑者たちの立ち位置の図を見て、工藤君は唸るようにそう呟く。情報が足りていないようだ。
「……工藤君。現場でシャンデリアの鎖の欠片を拾ったのよね?それからは他に何か分からなかったの?」
私のその質問に、工藤君は力なく首を振る。
「残念だけど何も……さっき調べてみたけど、特に怪しいと思える点は何も無かったし……」
「そう……」
工藤君のその返答に、私も残念そうにそう呟いた時だ――。
――コンコン。
――突然、工藤君の座る助手席側のドアの窓ガラスを、何者かが外からノックして来た。
『!?』
まさか……組織の人間!?
一瞬、緊張状態になる車内。だが直ぐに私、工藤君、博士の三人は窓の外へと視線を向けた。すると――。
「やぁ」
――そこにはもはやおなじみとも言える……私にとっては命の恩人でもある、カエルの顔を持つ先生が手を小さく振りながら立っていた。
「なんだカエル先生か、脅かすなよ」
「脅かすつもりはなかったんだがね?」
窓を開けながら工藤君はカエル先生にそう文句を零し、それに苦笑を浮かべながら先生はそう返した。
黒服の上に厚手のダッフルコートとマフラーを纏ったカエル先生は、一言博士に断りを入れると、ビートルの後部座席へとそそくさと入って来た。
「うぅ~、寒い寒い。今日は一段と冷えるね……ってあれ?明美君どうしてキミがここに?」
私が後部座席に座っている事に今気づいたらしいカエル先生は、首をかしげながらそう問いかけてきた。
それを聞いて私は、ここに来た本来の目的を思い出す。
「そうでした。……先生、仕事用の携帯電話を病院に忘れて行ったでしょう?」
「おや。わざわざ届けに来てくれたのかい?すまないねぇ」
手提げカバンから
それにカエル先生は若干申し訳なさそうに受け取って見せた。
「……それにしてもカエル先生。今、警察から解放されたのか?事件が起きてからもう一時間は経つから、とっくに現場検証を終えてるもんだとばかり思ってたけど……」
「ム……」
「え……?」
何気なく工藤君がカエル先生にそう問いかける。すると何故かカエル先生は、工藤君をジト目で睨んできた。
予想外のカエル先生のその反応に、工藤君は一瞬面食らう。
それに構わずカエル先生はその表情のまま口を開いた。
「……その事については、僕はキミに一言モノ申したいね?……キミだろう、警部に
「そ、そうだけど?」
おずおずとそう答えた工藤君に、カエル先生はため息交じりに続けて口を開く。
「……その電話のおかげで事故だと思われていたこの事件に殺人の可能性が出てきたと気づいた目暮警部が、今一度現場検証をやり直すと言って来たんだよ。おかげで役目を終えていざ帰ろうとしていた僕も再び呼び戻されてね。医者の観点から色々と聞きたいと、まぁた現場検証に立ち会わされることに……」
「あ、あははははは……」
まさか、自分が行ったその電話で先生がホテルに足止めされるとは思ってもいなかったのだろう。
ジト目で睨み続けて来るカエル先生に、工藤君は誤魔化し笑いを浮かべるしかなかった。
そんな工藤君を見て諦めたように深くため息をついたカエル先生は、未だにぎこちない笑みを浮かべる工藤君に今度は真剣な口調で声を上げた――。
「……まぁいいさ。予想以上に時間を食ってしまったが、
「?」
首をかしげる工藤君にカエル先生は言葉を続けた――。
「……僕の方でも一つ分かった事があったんだ。
次回は時間を少し遡って、灰原が連れ去られた直後から伊達さんの視点で話を進めて行こうと思います。