SIDE:伊達航
「くっそー、また坊主どもを見失った!!」
人の波に飲まれた後、俺は人気が少なくなった後の廊下で悪態をついていた。
キョロキョロと辺りを見渡しても、さっきまで一緒にいたはずの『江戸川コナン』と名乗った坊主と灰原っつう小娘は何処にも見当たらない。
坊主どもの事も気がかりだが、それよりも先にやらなければならない事が俺にはあった。
(……紫のハンカチを持っているという
だが、さっき会場から客たちが出てきたという事は、目暮警部はこの事件を事故死だと考え、早々に客たちを解放してしまったという事になる。
(だがまだ間に合うはずだ……!何とか目暮警部を説得して、事件に関係しているであろうあの七人だけは何とかこのホテルに留めておかねぇと……!)
そう考えた俺は、杖をつきながら急ぎ足で会場へと向かい、出入り口のドアを開けようとして――それよりも先に、中から出てきた人物がドアを開けていた。
「うわっ!……何だ伊達刑事じゃないか。どうしたんだい、そんなに慌てて?」
「カエル先生……」
中から出てきたのはカエル先生だった。ドアを開けて出合い頭に俺と顔を突き合わせる形となって驚いていた。
もちろん、俺の方もだが。
「カエル先生、もしかして現場検証は……」
「ああ、たった今終わった所さ。僕も今しがた、警部から帰って良いと言われたんでね。このままお
そう言ったカエル先生は最後に「それじゃあね」と一言言い残すと、俺に会釈して脇を通り過ぎ、会場を去って行った。
俺はその背中を見送っていたが、直ぐに自身の目的を思い出して慌てて会場内へと戻る。
会場内では床に転がった議員の遺体を搬送する準備に取り掛かっている所であった。
「目暮警部!」
俺はその搬送準備をはたで見ている目暮警部に慌てて声をかけた。
声をかけられた警部は俺の方へと振り向く。
「伊達、今まで一体何処にいたんだ?」
無断でいなくなった俺に眉根をひそめながらそう聞いてくる警部に、俺は構わず口を開く。
「それよりも警部、折り入って話したい事が――」
俺がそこまで言った瞬間だった。唐突に警部の懐にある携帯がけたたましく鳴り出したのだ。
「ああ、ちょっと待ってくれ」と、警部が俺に一言そう言って静止させると携帯を取り出し電話に出た。
「……もしもし私だ……おお、工藤君か!?」
「……?」
目暮警部から発せられたその人物名に、俺は僅かに目を見開く。
(工藤?……もしかしてあの有名な高校生探偵の工藤新一か?)
工藤新一という高校生探偵の事は俺も知っていた。何せ目暮警部が難事件を解決するのに深い信頼を寄せている人物だからだ。
直に会った事は無いが、彼の活躍は俺の耳にも嫌というほど入って来る。
(だが、何でこのタイミングでそいつが警部に電話して来るんだ?)
そう不思議に思っている俺の目の前で、警部と工藤新一の会話が続けられる。
「どうしたのかね?……ああ……ああ……。何だって!?何故そんな事が……え?
「……!?」
唐突に出てきた「紫のハンカチ」という単語に俺の心臓がドクンと大きく脈打つ。
「し、しかし何でキミがそんな事を……?え、お、おい、工藤君!?」
呆然となる俺の前で二人の会話が唐突に終わる。どうやら一方的に電話を切られたらしい。
「う~む」と携帯電話を見下ろしながらそう唸った目暮警部は、周囲にいる俺たち刑事に向けて声を発した。
「……皆聞いてくれ。たった今、この事件に殺人の可能性が出てきた。よってこの案件を殺人事件として改めて捜査する!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ警部!」
俺は慌ててそれに待ったをかけた。だってそうだろう。いくら何でも急展開すぎる。
「これが殺人事件ってぇのは……まぁ、俺も内心そうなんじゃないかと思ってましたから反論はありません。ですが、何でそこに高校生探偵の工藤新一がいきなり出て来るんですか?おかしいでしょう!?」
「うむ……ワシもそうは思うのだが、彼がこの事件が殺人事件だと断定している以上、おいそれと無視は出来ん。……彼が言うにはこの会場で紫のハンカチを持っている客の中に犯人がいるという話だ」
目暮警部のその言葉に俺は大きく目を見開く。
(……な、何で工藤新一が紫のハンカチの事知ってんだ……!?俺ですらこのハンカチが事件に関係すると思ったのがついさっきだぞ……!?)
そう思った瞬間、不意に俺の脳裏にあの坊主と灰原の嬢ちゃんの姿が浮かんだ。
(まさか……あの坊主どもと工藤新一が裏で繋がってるってのか……?いやしかし、なんで……)
俺がそんな事を考えてい間に目暮警部は高木や他の刑事へ指示を飛ばしていた。
「高木。お前はさっき帰ったカエル先生を呼び戻してきてくれ。急げばまだ先生に追いつくはずだ」
「わ、分かりました!」
「他の者は、紫のハンカチを持った客を調べてその人たちに事情聴取を行う。ホテルから一歩も外には出すな!……またこの現場も一から調べ直す!遺体の搬送はその後だ!」
『ハッ!!』
目暮警部の言葉に一斉に呼応する刑事たち。俺はそこに口をはさんだ。
坊主どもや工藤新一など、分からないことがたくさん出てきたが、それらは今は後回しだ。今は
それが、刑事である俺の必要最低限の役目だ。
「目暮警部。……その紫のハンカチを所持している人物たちについては、もう面が割れています」
「何!?」
驚く警部を前に、俺は『例の七人』ついて話す。奇しくもその七人は今し方まで警部らと会話をしていた者たちだったため、それを知った警部は更に驚いていた。
「あの客たちがそのハンカチの所有者だというのかね?……しかし、何でキミがそれを知って……?」
「……これですよ」
そう言って俺は警部の前に紫のハンカチを差し出した。
「……この会場に参加していた
「……本当かね?」
警部はそう言いながら俺からハンカチを受け取り、まじまじとそれを見る。
「うむ……ただハンカチが落ちてきたってだけなら、事件の関係性としては薄いが……工藤君がこれに事件の手がかりがあると言った以上、そうも言ってられんか……よし!早速、その七人を呼んで個室で事情聴取をするとしよう」
「……それと警部。そのハンカチがここにあるという事は、その七人のうちの誰かは、
俺のその指摘に警部は強く頷く。
「ああ……。ひょっとしたら、その人物がこの事件の犯人……もしくは、事件に深く関わっている可能性があるな。……よし。なら、このハンカチを持っていない人物を特定しだい、その人物を重要参考人として定めるとしよう」
そう決断した目暮警部は早速、他の刑事たちに容疑者であるその七人を連れて来るよう指示を出し、それを受けて刑事たちも各々がそれぞれの役割を受けて動き始める。
すると、それと同時に会場の出入り口のドアが開かれた――。
「目暮警部。カエル先生をお連れしました!」
「全く……。いきなり呼び戻してくるなんて、何かあったのかい?」
高木に会場へと連れ戻されたカエル先生は、少し不機嫌そうにジト目で俺たちを睨みつけて立っていた――。
「なるほどね。……この事件に殺人の可能性が出て来たんで捜査をやり直す事になったと」
「その通りです。……それで、カエル先生にはもう一度、現場検証に立ち会ってもらいたくて呼び戻したしだいでして……。アナタの医者としての意見も再度お聞きしたい所ですし」
高木に連れて来られたカエル先生は、目暮警部からある程度の事情を聴きそう呟き、目暮警部もその通りであると頷きながらそう答える。
するとカエル先生は小さくため息をつきながら口を開く。
「……そうは言ってもねぇ目暮警部。僕の議員の検死結果はさっきと全く変わりはしないよ?……彼の死因はシャンデリアが頭上から落下して押し潰されたことによる圧死で間違いはないし、死因以外でも彼の体やその周囲からは別におかしな点は見受けられなかったしね」
「ええ、アナタの目に狂いが無い事は分かっております。……しかし、この事件が殺人ともなれば、もっと入念に捜査をする必要があるのですよ。初動捜査では気づかなかったことが、その後の調査で発見されるって事もよくある事ですから。……先生には、医師としての観点から死因以外の事で遺体に何か不審な点があるかどうかもう一度調べてほしいのです」
目暮警部のその言葉を黙って聞いていたカエル先生は、やがてため息と同時に警部の頼みを前に折れる。
「……分かったよ。まぁ流石に僕も、殺人事件の可能性がある以上、このまま帰るのは寝覚めが悪いしね。……警部たちが納得できるまで付き合うよ」
「恩に着ます」
そう言って目暮警部が頭を下げ、カエル先生は再び議員の遺体のある方へと視線を向けた。
「……しかし、いきなり何でまた殺人事件の可能性が急浮上したんだい?」
「実は少し前に、私の携帯に工藤君から電話がありましてな。……この事件は殺人の可能性があり、その犯人が紫のハンカチを持った人物の中にいると連絡してきたのです」
「……へ?」
カエル先生の問いかけに警部がそう答えた瞬間、先生は何故か文字通り目を点にしてポカンとした表情を浮かべた。
「それでカエル先生にも今一度再捜査にご協力願おうとここへ呼び戻しに――って、どうかなされましたか?」
「え?あー……いや。何でもない。何でもないよ?そうかぁ……新一君がねぇ」
首をかしげながらそう尋ねて来る目暮警部に、慌ててそう取り繕うカエル先生。なんかちょっと……いや、かなり怪しくないか?ぎこちない笑みを浮かべてるし、顔じゅうから汗がダラダラと流れてるし。
――正直、こんなカエル先生を見るのは初めてだ。
(もしかしてカエル先生……工藤新一について何か知ってんのか……?)
俺がそんな事を考えている間に、カエル先生は「それじゃあもう一度、遺体を確認させてもらうね?」と言って、遺体のある場所までそそくさと向かって行ってしまった――。
――目暮警部と高木、そしてその他の数人の刑事たちは、容疑者らしき七人の身柄確保とその事情聴取のために会場を後にし、会場内には俺と遺体を調べるカエル先生。そして現場を再調査する鑑識や残りの刑事たちが辺りをウロチョロと動き回っていた。
俺は議員の遺体を調べるカエル先生の背中に声をかける。
「先生、どうですか?何かわかりましたか?」
「……駄目だねぇ、やっぱり最初の結論と何も変わらないようだ」
ため息と同時に首を振り、カエル先生はそう呟く。
俺は「そうですか……」と、肩を落としながら先程から気になっていた事をカエル先生に尋ねてみた。
「そう言えばカエル先生。さっき警部が『工藤新一』の名前を出した時、えらく慌ててたみたいですけど……」
「え?……あ、ああ。何せ唐突に彼の名前が出て来たからね。突然の事に僕も驚いてしまったんだよね」
「あー、確かにあの高校生探偵の登場は唐突過ぎましたからね。……何故か事件の詳細や手がかりの事など、彼が知りえるはずの無い事も知ってましたし」
「……何をやってるんだ新一君」
「ん?先生、何か言いました?」
「いや、何も」
俺とカエル先生がそんなやり取りをしていると、ふいに俺たちに向けて声がかかった。
「……あの、すみません。もうそろそろ遺体を搬送しても……?」
声をかけてきたのは議員の遺体の搬送に来た救急隊員だった。
本来なら、もうとっくに遺体を搬送しているはずだったのだが、工藤新一が目暮警部に連絡してきたために再調査となり、搬送にも待ったがかけられそのまま待ちぼうけを食らう羽目になってしまったのだ。
そんな救急隊員の顔を見ながら、カエル先生は「う~ん……」と唸る。
「……確かにこれ以上調べてもこのご遺体からはもう何も出なさそうだし……僕は良いと思うんだけどね?」
カエル先生の言葉に俺も小さく頷く。
「そうですね……わかりました。なら、俺から目暮警部に一言断りを入れて置きます」
「そうですか。それでは今から遺体の搬送を行います」
俺の言葉に隊員は一言そう言って、他の救急隊員たちに
運ばれてきた担架が遺体のすぐ横に置かれ、隊員たちがうつ伏せに倒れた遺体を担架に乗せようとその四肢に手をかけているのをしり目に、俺は搬送の許可をもらうべく目暮警部に携帯で電話をかけようとボタンを押しかけ――。
「キミたち、ちょっと待ってくれないか」
――突然、カエル先生のそんな声が耳に入り、俺は手を止めて何事かと遺体の方へと視線を向けた。
そこには遺体の体を少し持ち上げたまま固まる救急隊員たちと、
「どうしたんすか、カエル先生?」
声をかけた俺に、カエル先生は遺体の下に隠れていた床を見つめながら口を開く。
「伊達刑事、僕とした事が一つ見落としをしていたようだ。灯台下暗し。……見て見たまえ」
そう言ってカエル先生は同じように床を見るように俺に促す。
言われるがまま俺は先生と一緒に遺体の下の床を覗き込んだ。
「っ!……こりゃあ……!」
議員の遺体の下の床はシャンデリアに押し潰されたために体からあふれ出た血が広がっていたが、それでも血が届いていない箇所がいくつかあった。
そしてその個所に、議員の体から出来た陰影で僅かにだが
「キミたち、少し遺体を動かしてもらえるかい?」
カエル先生の指示で救急隊員たちは遺体を少しずらす。すると床で僅かに光っていた部分が議員の体の影から部屋の明かりの下にさらされると、途端にその光が奇麗さっぱりに消えてしまった。
「消えた……!」
「恐らく、蛍光塗料だね。それが議員の下の床に塗られていたんだ」
驚く俺に対して、カエル先生が淡々とそう説明していく。
「……その蛍光塗料を犯人があらかじめこの位置に塗って置いて、吞口議員にも前もって『会場が暗くなったら蛍光塗料の光る位置に立て』と伝えてあったんじゃないのかねぇ?……何故議員が犯人のその指示に従ったのかは分からないけど」
カエル先生の説明を聞きながら、俺もまた思考の海の中に意識を潜らせていた。
(……被害者をこの位置に立たせた方法は今言ったカエル先生の推測で間違いねぇだろう。……だが、まだシャンデリアを落とした方法が分からねぇ。シャンデリアをタイミングよく落とすには何かしらの仕掛けがねぇと無理だが……それらしきモンは何処にも無かった。犯人は一体どうやって――)
そこまで考えた俺はハッとなる。
(待てよ?……確かシャンデリアが落ちる直前、『何か』が
俺の中で一つの推測がパズルのように次々と組みあがっていく。
そうして、一つの仮説が俺の中で完成されると、途端に俺はその場から急ぎ動き出していた。
「!……伊達刑事、どうしたんだい?」
背中にカエル先生がそう声をかけて来るも、俺はそれに構わずはやる気持ちを抑えながら近くで周囲を調べていた鑑識の一人の声をかけていた。
「突然で悪ぃがよ。
「わ、分かりました!」
俺の切羽詰まったような声に押されてか、その鑑識官は面食らいながらそう頷くとハンカチを取りに走り出した。
目暮警部たちが会場を後にする前、俺は鑑識官の一人に例の紫のハンカチを渡していたのだ。
彼らが調べ終えるまで待つつもりだったが、どうやらそうも言ってられんようだ。
まだ証拠物件を警視庁に送られる前だったらしく、直ぐに持ってこられるみたいで少しホッとする。
「持ってきました!」
「ありがとよ!」
鑑識官が持って来たビニールに包まれた紫のハンカチ。俺はそれを受け取りまじまじと見る。
すると、今まで気づかなかったがそこには小さな焦げ跡が一つついていた。
俺はビニールの封を開けるとその焦げ跡部分に鼻を近づけ、嗅いでみる。
(……やっぱり。微かにだが、
俺は鑑識に紫のハンカチを返すと、今度は議員に落とされたシャンデリアの所へと向かう。
シャンデリアは会場の隅に移動されており、その大きさからすぐに見つけることが出来た。
そのシャンデリアの前にやって来た俺は、しゃがんでそれを吊り下げていた鎖の部分を手に取る。もちろん手袋をちゃんとはめて。
(頼むからまだ
そう願いながら俺は鎖の端っこ――千切れた部分に掌を添えて、その部分に影を作ってみた。
すると本当に、本当に僅かだが鎖の切断面辺りがぼんやりと薄緑色に光を帯び始めた。
それを見た俺は勝ち誇ったかのようにニヤリと笑う。
(……やっぱり、思った通りだ!……しかし犯人も随分と
そう思いながら立ち上がった俺は、更に思考を重ねる。
(……だがこれで、あの七人の容疑者たちのうち――犯人の可能性がある奴を
俺は携帯を取り出すと、目暮警部へと電話をかけた。事情聴取中だと出てくれない恐れがあったが、直ぐに警部は出てくれた。
『もしもし、伊達か?何の用だね?』
「忙しい中すみません目暮警部。……例の七人の容疑者は見つかりましたか?」
『ああ。もう全員身柄を確保して、今は事情聴取の真っ最中だ』
「……単刀直入にお聞きします。その七人の中に例のハンカチを持っていない奴はいましたか?」
『…………ああ、その事なんだがね――』
俺の質問に何故か言いづらそうに口ごもる警部だったが、やがて事実だけを淡々と俺に語って見せた――。
『――あの七人全員に持ち物検査をしたが……
「なっ……!?」
目暮警部のその知らせに俺は絶句する。
パニックになりかけた頭を何とか落ち着かせ考える。
(……どういう事だ?俺の推理は間違っていたってのか?いや、そんなはずは……。!……ちょっと待て。
俺は更に目暮警部に質問を投げかける。
「警部。
『あー?……いや、これと言って
(どういうこった!?)
予想に反する目暮警部の言葉の連続に、俺は手に持つ携帯を握り潰したい衝動に駆られた。
俺の考えが正しけりゃあ、
そこでふと、俺の頭の中で一つの記憶が思い出される。
(……待てよ?まさか犯人の奴、会場の客たちが解放された時、直ぐにこのホテルのどっかに
容疑者全員が紫のハンカチを持っている事実――その理由が一つの仮説となって俺の中で再現された時。俺は再び動き出していた。
向かう先は――人ごみで坊主どもを見失った、あの受付だ。
会場を出た俺は、出入り口のすぐそばで後片付けをしている受付の女性にすぐさま声をかけた。
「ちょっと、いいか!?」
「?……ああ、先程の刑事さん。いかがしましたか?」
その女性はさっき名簿を見せてくれた人だった。俺はその人に歩み寄るとすぐに用件を伝える。
「悪いんだが、客たちに渡したっていう紫のハンカチ……
「ハンカチの在庫……でございますか?それならあの段ボールの箱の中に……」
小首をかしげながらも女性は俺の質問に答えながら、机の横にある大きめの段ボール箱へと視線を向けた。
「……重ねて悪いが、あの中にある紫のハンカチの枚数をちょっと確認してほしいんだ」
「?……かしこまりました」
俺の意図が分からないようで更に首をかしげながらも、女性は俺の言われた通りに紫のハンカチの在庫をチェックし始めた。すると――。
「……あれ?どうして……?」
「どうした?」
怪訝な表情で段ボール箱の中を見つめてそう呟く女性に俺は声をかけた。
それに女性はすぐに答える。
「それが……紫のハンカチの枚数が
(チックショウ!やっぱりか……!!)
女性のその言葉に俺は内心強く悪態をつく。
それを直接口に出したい気持ちを必死で抑えつつ、俺は更に女性に質問を重ねた。
「なぁ、その『さっきチェックした時』ってぇのは具体的にはいつだ?」
「確か……
そして、それと同時に俺の中で推測に過ぎなかった『仮説』が『事実』へと変わる――。
(犯人の奴……!客たちが一斉に会場から出てきたあの時――)
(――どさくさに紛れて
最近、仕事が忙しく少し遅くなりましたがどうにか最新話投稿です。
次回は早めに投稿できるよう頑張ります。