次回の展開がまだちゃんと定まってはいないので、投稿が少し遅れるかもしれません。
SIDE:伊達航
『伊達か?すまないが先程、工藤君から連絡があってな。黒い服を着た見るからに怪しい男たちを見たら、直ぐに確保してほしいとの事だ。……理由は分からん。だが、工藤君の事だからこの事件に深く関係している事だけは確かだ』
目暮警部からそんな連絡を貰ってすぐ、俺はさっきの黒ずくめの男たちを探してロビーを闇雲に探し回っていた。
しかしどこを探しても奴らの姿は視界の端にすら映らなかった。どうやら既にこのロビーにはいないようだ。
(クソッ、クソッ!あの坊主どもと言い、さっきの黒ずくめの二人と言い、今日は重要参考人を取り逃してばっかじゃねぇか!)
内心、悪態をつきながら俺はその場で地団駄を踏んだ。
……何かが、何かが起こっている。この事件の裏で得体の知れない何かが。
警察に届けられた殺人予告の匿名の電話。そして突然現れた高校生探偵の登場。そしてあの坊主と黒ずくめの男たち。
それらがこの事件がただの殺人事件では無い事を如実に表していた。
――そして、この得体の知れなさは
それは少し前に起こった四菱銀行の10億円の強奪とその犯人グループの者たちが次々と殺されたあの事件だ。
あの時の犯人グループの一人だとされている広田雅美だけは未だに行方が分かっていない。
事件自体も、未だに多くの謎が残されており、その得体の知れなさが今回の議員暗殺事件と酷似している様に思えてならなかった。
事件の背後に
(クッソ……一体、何が起こってやが――!)
ふと、俺の視界に
それは俺が探していた目的の人物だった。
だがそれは眼鏡の坊主でもさっきの黒ずくめの男たちでもない。
俺が本来、このホテルのロビーにやって来た目的の人物――。
――あの暗闇の会場内で、フラッシュをたいて写真を撮ったと思しき
SIDE:三人称視点(黒の組織)
灰原が監禁されている酒蔵の扉が勢い良く開かれ、そこから黒ずくめの男たち――ジンとウォッカが現れた。
酒瓶にはまだ多くの酒が残っており、横倒しとなった瞬間に瓶からこぼれた分が机の下で水たまりを作っていた。
ジンの背後から歩み出たウォッカは、取り出したサプレッサー付きの拳銃を構えながら酒蔵をウロチョロと動き回り、誰もいない事を確認する。
「……居ませんぜ、ピスコの奴」
拳銃をしまいながらウォッカは同じく部屋を見回っているジンにそう声をかけた。
「30分後に落ち合う段取りが、音沙汰無ぇし。……発信機を頼りに来てみりゃあ、パソコンはあるものの奴の姿は何処にも無ぇ」
続けてそう言ったウォッカは、「一体、何処に消えちまったんだか」と付け加えて机の上に倒れていた白乾児の酒瓶を手に取り、軽く振って見せる。
チャプチャプと中の酒が揺れて音を出すのを耳にしながら、ウォッカは部屋を見渡した。
「大体何なんですかい?この酒蔵」
そう呟くウォッカにジンはそれに答えて見せる。
「……恐らくピスコが、念のために確保しておいた部屋だ。……会場での殺しが失敗した場合、何処かで
ウォッカにそう言った直後、ジンが何かに反応して背後へと振り返る。そこには暖炉があるだけで何もなかった。
だがそれでも、ジンは何かを見透かすように目を細めてその暖炉を凝視する。
そんなジンの様子に気づいていないウォッカは、ため息をつきながらジンへと声をかけた。
「とにかく早くずらかった方が良さそうですぜ?アニキ」
「……フッ、そうだな」
SIDE:灰原哀
「ハア……ハア……ハア……!」
『おい、奴ら行っちまったか?』
暗闇の中、荒く乱れた呼吸を整えている私に、通信機越しに工藤君がそう問いかけてきた。
私はそれに「ええ」と短く答えて見せる。
白乾児の成分作用によって一時的に元の姿に戻った私は、先程まで来ていた子供服と、『アポトキシン4869』のデータを落としたMOをつなぎの中に入れて、真上に伸びる煙突の中を四肢で体を支えながら、こうしてえっちらおっちらと登り続けていたのだ。
何とか
根っからの研究者で年中研究室に籠りっきりだったのもあって元々運動不足だったのに加えて、風邪と元の姿に戻った反動による体調不良も合わさって体にかかる負担がかなり最悪だった。
正直に言って、今すぐ意識を手放して楽になりたい。
だがそれを気力で何とか繋ぎ止めながら、ゆっくりとしたペースで煙突を登っていく。
普段ならそれほど長くないと感じるであろう煙突の出口が、今は果てしなく遠くに見える。
「フフッ……まるで、井戸から這い上がるコーデリアね。……気が遠くなりそうよ」
『
「……分かったわ」
そう答えた私は出口に向けて煙突を上へとゆっくりと進んで行った。
そうして、ある程度進んだ所で私は事件の現状が気になり、工藤君に通信機で尋ねてみた。
「所で……分かったの?……ピスコが、誰なのか……」
『……いや、まだだ。情報が足りねぇんだ』
工藤君がそう答えた直後、通信機越しに阿笠博士の声が割り込んできた。
『おっ!……見ろ新一、ネットに出とる明日の新聞の朝刊を!』
『?……それならさっき見たけど別に――』
『いや、見るのは
『――え?』
どうやら、阿笠博士が何かを掴んだらしい。そこまで聞こえた直後、工藤君との通信が唐突に切れる事となった――。
SIDE:伊達航
「警察だ。……あんただな?吞口議員が亡くなる直前、写真を撮ってたカメラマンってぇのは?」
同じ社名を入れた腕章をつけた数名の報道陣。その中の両手にカメラを抱えて持っている男に俺は声をかけていた。
眼鏡の坊主や黒ずくめ共の行方も気になっていたが、目の前の手がかりをみすみす見逃すわけにはいかない。
唐突に現れた俺にカメラマンは目を見開くも、俺は構わず単刀直入に問いかけた。
「吞口議員が亡くなる時、あんたがそこで何を撮ってたのか聞きてぇんだ」
「な、何って……俺はただ
「とある有名人の男女?」
オウム返しにそう尋ねる俺にカメラマンは直ぐに頷く。
「ええ……。その二人も、このホテルで開かれる『酒巻監督を偲ぶ会』に参加するって聞いて、もしかしたら尻尾を掴めるんじゃないかと思ってやって来たらドンピシャだったわけで……。まぁ、その直後にあの議員が死ぬことになるとは思いもしませんでしたが」
カメラマンの話を聞きながら、俺は「ふむ……」と唸る。そしてふと、カメラマンがその時撮ったという写真が気になり、俺はカメラマンにさらに尋ねてみた。
「なぁ、その時撮ったっていう写真、まだ持ってるか?良けりゃあ、俺にも見せてほしいんだが……」
俺のその要望にカメラマンは最初こそ「ええ……」という顔を浮かべて渋ってはいたが、横からカメラマンの仲間らしき新聞記者が口を挟んできた。
「いいんじゃないか?とっくに会社にはデータ送ってるし、ネットの新聞の朝刊にも既に載ってんだしさ」
「……それもそっか。じゃあ刑事さん、ちょっと待ってくださいね。今、用意しますんで」
「おお、助かる!」
新聞記者に説得され、カメラマンはそう言って頷くと直ぐに肩から下げているカバンからノートパソコンを取り出し、それを開いてカタカタとキーボードをたたき始めた。
俺はカメラマンに感謝を述べた後、ジッとカメラマンの手元を見て今か今かと待ち構える。
そしてそれからすぐにカメラマンは目的の写真をパソコンの画面に映し出すと、俺に見えるようにパソコンの角度を変えた。
「ほら、開きましたよ。これです」
「どれどれ……」
カメラマンに促されて俺は画面をのぞき込む。すると――。
(!?……こ、こいつは……!?)
――そこには、予想だにしていなかった文字通りの
SIDE:江戸川コナン
「……会場にいたカメラマンが、シャンデリアが落ちる直前に撮ったそうじゃ。……これ、例の七人の中の二人じゃろ?」
阿笠博士の話を耳にしながら、俺はパソコンに映る朝刊の写真を凝視していた。
後ろでもカエル先生と明美さんが俺の背後から覗き込むようにして画面を見ている。
そこにはあの会場の暗闇の中――
そしてその二人とは――音楽プロデューサーの樽見直哉さんと女流作家の南条実果さんだった。
暗闇の中――お互いを抱きしめあい、見つめ合う姿はそうとうに深い仲だという事がうかがい知れる。
俺はその写真をしばしの間ジッと見つめる。すると――。
「……!!」
――その写真の中に、
(こいつは……!いや、待てよ?だとしたら……あの紫のハンカチについていた
俺はポケットからハンカチに包まれた例のシャンデリアの鎖の破片を急ぎ取り出すと、その切断面に掌で影を作って覆ってみる。――すると、その切断面の付近が僅かに薄緑色に光りだした。
(!……間違いない。これは恐らく、カエル先生が見つけた議員の遺体の下にあったものと同じ、
それを見て俺は思わずほくそ笑む。
(なるほど……そういう事か……!)
これで、全ての謎が解けた。ピスコの正体も。奴がどうやって吞口議員を殺害したのかも。そして――。
――それをやったという申し開きもできねぇ、
SIDE:伊達航
この写真のおかげで
「もしもし、警部!実は犯人の事について分かったことが――え?」
だが、俺の言葉が
「――何ですって!?
SIDE:江戸川コナン
「どうして解放してしまったんです!?その前にこちらに連絡するように言ったはずですよ!?」
『す、すまない工藤君!本人が「ここに留めておく理由がないのなら、さっさと失礼させてもらう」と言って聞かなくて、半ば無理矢理に……!』
半ば叫ぶようにしてそう言う俺に、警部はその迫力に押されて委縮気味にそう答え返した。
犯人が分かり、すぐさま変声機で声を変えて目暮警部に連絡した俺に待っていたのは、「つい今し方、犯人を解放してしまった」という警部からの信じがたい知らせであった。
頭を抱えたくなる衝動に駆られるも、俺はすぐさま警部に次の指示を飛ばす。
「とにかく直ぐにでもホテルの出入り口を固めて犯人を逃さないようにしてください!解放したばかりなら、まだホテル内にいるはずですから!他の刑事たちにも直ぐに犯人の情報を回してください!」
そう叫んで一方的に目暮警部との電話を切ると俺は「くそっ!!」と悪態を一つ付き、通信機を放り出して助手席のドアを開け、雪の降る車の外へと飛び出した。もはや一刻の猶予も無い。
「お、おい、どうしたんじゃ新一!?」
「工藤君!?」
突然車外に飛び出した俺に驚きながら、博士と明美さんが俺に声をかけて来る。
カエル先生は声こそ挙げなかったが、やはり俺が突然外に出た事で目を丸くしていた。
「博士!通信機で灰原に『直ぐに迎えに行くから、大人しくそこで待ってろ』って伝えといてくれ!灰原は俺が必ず連れて帰って来るから!!」
「あ、ちょっ……!」
そう一方的にそれだけ言い残すと、俺は明美さんが止めるのも聞かずに全速力でホテルへと駆け出していた――。
SIDE:灰原哀
煙突の出口についている雨よけの笠を外し、私は這うようにして煙突の外へと出ていた。
そこは杯戸シティホテルの屋上のようであった。
今もなお降る雪が辺り一面を薄っすらと白に染めている。
「……で、出たわよ」
四つん這いになってその場で蹲りながら、私は通信機で工藤君にそう伝える。
しかし、返ってきた声は工藤君のものでは無かった。
『よくやった哀君。……そこが何処だか分かるか?』
阿笠博士が通信機でそう問いかけて来たので、私はそれに答えた。
「……何処かの屋上みたい。……それより、工藤君はいないの?」
『ああ。さっきまで目暮警部と電話で話しておったが……慌ててホテルに入って行ったよ』
「『慌てて』?」
博士のその説明に、私は何処か引っかかりを覚えた。
彼が血相を変えてホテルに向かったという事は、何か予想外なトラブルが起こったとみて間違いないだろう。……大丈夫なのだろうか?
そんな私の不安を汲み取ったのか、阿笠博士が落ち着いた口調で口を開いた。
『まぁ、安心せい。ピスコの正体は分かった。「直ぐに迎えに行くから、大人しくそこで待ってろ」と、キミに伝言を残して行きおったから……』
博士のその言葉に私はホッと胸をなでおろした。
ピスコの正体が分かり、彼が私をここまで迎えに来てくれるというのなら、お言葉に甘えるとしよう。
とりあえず、組織の手から逃れられたとみて問題はなさそうだし……私ももうフラフラで一歩も動けそうにないしね。
「フフッ……大丈夫。どうせ……動きたくても、体がだるくて……動けないから……」
博士にそう答えると、私は壁に手をついてのろのろと起き上がる。
そして、何とか両足で踏ん張って立つと、荒くなった呼吸を整えようとゆっくりと息を吸い――。
――パシュッ……!!
――ガスが抜けるような気の抜けた音が耳に届いたかと思うと、背中側の右肩口に強く殴られたような衝撃が走った。
「!!?」
その肩口から『何か』の飛沫が飛び散り、白く降り積もった雪の
――それが私の肩口を
――そこには、『奴ら』がいた。
――いつの間に現れたのか、さっきまで閉まっていたはずの屋上の出入り口のドアが大きく開かれ、その手前には見知った
――そして、その内の片方……長髪に冷徹な瞳を携えた男が、サプレッサー付きの拳銃をこちらに向けて、笑みを深くしながら私に向けて囁くように口を開いた。
「会いたかったぜ?……シェリー……!!」
(じ……ジン……!!)
二度と会いたくも無かった
・補足説明。
犯人解放の知らせは、本編では伊達→コナンの順番になっておりますが、時系列的にはコナン→伊達の順になっております。
コナンが目暮警部に解放した犯人を捕まえるよう他の刑事たちにも伝えてほしいと頼み、それを受けた目暮警部が、後から電話をかけて来た伊達に犯人を解放したという事を伝えたという流れです。